2chエロパロ板の「井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ」の作品をまとめたサイトです。

【全年齢向け】※行間空き多め

例えば私がいなくなったとして
あの人の世界はなにかがかわるだろうか?


朝まだ暗いうちに目が覚めた
心臓の音がうるさく、額ににじんだ汗の頬をつたう感触がこの目覚めをより嫌な気分にさせる
よく覚えていないけれど、すごく嫌な夢をみた気がする
焦りに似た感覚が身体を駆け巡り、ひたすらに強く願う

あの人に会いたいと


「…あ?」
大きな手が私の髪に触れ、そのまましばらく撫でるように触っていたのに不意に耳に触れたので、思わず笑ってしまった
その声に反応して雄二が起きる

まだ夢うつつに半分閉じられている目が、私を見て不機嫌そうに更に細くなる

「…なんでお前が、……てかなんでお前が一緒に寝てんだよ!!」
状況を飲み込み、恋人が自分の隣にいるということにテンションがあがったのか雄二が一気に目覚めた
そうして青ざめて自分の服を確認する

別に雄二がどんな服装で寝ていようと私の雄二への気持ちに変わりはないのに

自分の服を確認してホッと一息ついた後、雄二の起床に合わせてベッドに起き上がった私の服も熱い眼差しで確認した雄二は長い吐息とともにこう言った

「んで、なんでおまえはこんな日も昇らない時間にここにいて一緒に寝てんだ?何時からいた?てかどうやって入った!!?」
「雄二に会いたかったから 雄二が寝ていたから一緒に寝ていた 20分ぐらい前から 昨日お義母さんが旅行に行く前に合い鍵をくれたからそれで玄関からはいった」
「…言いたいことは色々あるが、とりあえず合い鍵をわたせ…」
苦虫をかみつぶしたような顔で雄二が言う
「いや」
そういいながら、次の動きを予想して鍵を自分の胸元に滑り込ませる
こうなったらいつも雄二は手も足も出なくなる
だけど、今日はちょっと違った
「いい加減にしないと本当に手ぇ突っ込むぞ!!」
不機嫌に眉をよせたまま低い声で言い、雄二が私の肩を押した
予想外の展開に、私の身体は簡単にベッドに逆戻りする
「…雄二、今日は積極的」
寝転んだまま見上げる
「ちがう!!俺がお前にそんな気をおこすことはない!!」
覆いかぶさっていた体を起こしてそんなふうに言いきるから
「…さっきはあんなに触ってきたくせに…」
と髪を触っていたことを持ち出す
「なっ…何のことだよ!?お前のそんな手には乗らねぇぞ!!」
そう言いながらも、一気にうろたえる雄二
「嘘なんてつかない」
「い〜や、信用ならねぇな」
少しムッとして言うと、初期動揺から立ち直った雄二が薄笑いを浮かべながら断言する
「おおかたそんなこと言っておいて…」
「私は嘘なんて言っていない 雄二があんまり私に触るから思わず声が出てしまって雄二が起きた 嘘だったら婚約破棄でも何でも雄二の言うことを一つきいていい」
雄二の挑発を途中で遮り真っすぐに目を見ながら告げる
「…!!!!」
雄二はひたすら口をパクパクさせるだけで何も言わない
ただお互いを目で探り合う
一歩も引く気のない私を見て、雄二が怒りをかくしきれないまま静かに告げた
「とりあえず部屋を出ろ、翔子 それからしばらくは俺の部屋に入るな」


「雄二〜、今日も来るんでしょ?」
「お〜、わりぃな」


あの日から1週間
翔子は最初こそいつものように部屋に来ようとしたが、1年の頃のように翔子が何をしようと相手にしない態度に切り替えたら察したのか、少し離れた

本気で対応した時にはきちんと状況を理解してくれる判断能力の高さは正直助かる
こんな状況で以前のようにくっつかれたりした日にはどうすればいいのかまったくわからねぇ

とりあえず今は考えないようにしながら、翔子を排除した日常をおくっていた

「あの…明久くん」
「なぁに、姫路さん?」
姫路が明久に話しかけながら、一瞬俺の方を見た気がした
「今日、坂本くんと遊ぶんですか?あの、後でメールをしてもいいですか?」
あぁ、そういうことか
しっかし、メールごときであそこまで真っ赤になってる姫路を前にして何で明久は気がつかねぇかな
そんな俺の思いに気づくわけなく、バカな明久はあっけらかんとこたえた
「雄二とゲームしてるだけだから、メールいつでもいいよ」
「あの、いえ、お二人のゲームを邪魔をする程のことではないので…」
まぁ、このバカ相手に理解しろって方が無理か
姫路ももう少しこのバカの扱い方がわかってもいいだろうに
姫路の場合は翔子と違って騙し討ちとかはしないから… いや、翔子は今関係ない
「う〜ん、じゃぁ、雄二が帰ったら僕からメールするね」
何だか激しく俺が邪魔な扱いの言葉を明久が返す
悪かったな、邪魔で
だけど、俺も正直自分の部屋になるべくいたくないから、姫路にゃ悪いがここは譲れねぇ
「はい!!私の方はいつでも大丈夫ですので、明久くんがご都合のいいときにお願いします!!」
お〜ぉ、あの姫路の嬉しそうな顔
容姿端麗、頭脳明晰、性格も素直で控えめ、本当明久には勿体ない以外の何物でもないな
そこまで考えた時、浮かび上がったよく似た誰かを、無理矢理考えないようにした


「今だ、羽ばたけモップ、僕らの右ストレート!!」
「ぬぐいされ、雑巾ハリケーン!!!」
雄二が今週はほとんど毎日遊びに来ている
幸い姉さんは出張中だからこうして堂々とゲーム三昧の日々を送っているわけだけど…
「ねー、雄二」
雑巾の山の上で右の拳を突き上げ勝ちどきをあげる煙突掃除夫を操りながら雄二に問う
「あぁ?」
雑巾の山裾に埋もれ何とか脱出しようともがいている美化委員長から目を話さずに雄二がこたえた
「最近霧島さん来ないね」
雄二の動きが止まった
「隙あり!!!」
ここぞとばかりに追い討ちをかける煙突掃除夫
動かなくなる美化委員長



清々しく勝敗が決まった後、雄二が画面を向いたまま吐き捨てた
「刷り込みだったって気がついたんじゃねぇの?」
「何の刷り込み?よくわかんないけど珍しいね、喧嘩」
「そんなんじゃねぇよ」
「じゃあ、霧島さんの目がさめたとか?」
だいたい、霧島さんみたいな可愛い女の子がなんで雄二みたいな奴に?という疑問は誰もが持って当たり前の感情だ
決して、くれぐれも僕の激しく燃え上がる嫉妬心だけではないと思う
そりゃぁ雄二は腕力もあるし、召喚戦争の時とかには頼りになる
特に人の裏をかく事や弱味を握る事においてはずば抜けた才能があるけれど
「…もしや雄二、霧島さんの弱味に漬け込んで何か…」
「うるせぇな!!翔子はどうでもいいだろ!!」
遮るように怒鳴られて、珍しく本気で雄二が苛立ったのがわかった
何だろう、そんなに怒らせることを僕は言っただろうか?
「…いや待てよ、雄二がやたらと高圧的なのはいつものことだし、煙突掃除夫に何かしらのトラウマがあって負けたことのイラつきを…」
「…明久、考え事が駄々漏れしてるぞ 俺に煙突掃除の知り合いはいない 悪かったな 最近寝不足でイライラしてるみたいだ」
あきれたような、気の抜けたような、どこかダルそうな感じで雄二が言う
皮肉じゃなく雄二が僕に謝るなんてやっぱりどこかおかしい
雄二の不調の原因が霧島さん絡みであろうことは、僕にだってすぐわかる
だから、まぁ、わかった以上は触れないでおこう
だって僕らは友だちだから

あの後は結局少しシラケてしまって、間もなく雄二は帰った
明日の約束だけはしっかり取り付けていった所を見ると、よほど家にいたくないみたいだ
なんとなく僕まで浮かない気分になったものの、雄二からのメールで一気にそんな気分は吹き飛んだ
『姫路へのメール、忘れんなよ』
…忘れてた!!!
もう夜遅くなっちゃったけど、どうしよう!?でも姫路さんの事だから、律儀に待っててくれてるだろうし…
恐る恐るメールを打つ
『遅くにゴメン、もう寝ちゃった?』
おくった後に後悔が押し寄せる
明日土曜日だし、メールするの明日の日中でもよかったんじゃないかな?
そもそも、姫路さんって夜更かしするイメージないしもう寝ちゃったんじゃないだろうか
それをこのメールで起こしてしまうとか…
「!!!」
そんなことを考えているうちにメールが返ってきて、受信音に体がビクッとひきつく
『電話してもいいですか』
え?と返ってきたメールの内容を理解する前に姫路さんから電話がかかってきた


「明久くんですか…?」
驚きながらもワンコールででると、少し不安そうな声
「ごめんね、遅くなって 起きてた?」
「いえ、あの、私待ってるうちに眠ってしまって… いつでも大丈夫と言っていたのにすみません」
今度は少し慌てた声 電話の向こうの表情が目に浮かぶ
「あ、やっぱり寝ちゃってたんだ ごめんね、明日メールしたらよかったね」
やっぱり寝ちゃってるよね 起こしちゃって悪かったな
「でも…あの…、笑わないでくださいね あの、私ちょうど嫌な夢を見てたので明久くんのメールで起きることができてよかったです メールありがとうございました」
「嫌な夢見てたんだ、じゃあメールしてよかった 僕だって鉄人の補習の夢とかだったら起こしてほしいもの」
わざとおどけて言うと、携帯から予想通りの柔らかな笑い声が聞こえた
「じゃあその時は私がメールして起こしてあげますね」
クスクスと笑いながら君がそんな嬉しいことをいってくれるから、深夜の僕は舞い上がる
電話ごしにすぐそばで聞こえる姫路さんの声
不安な声も柔らかな笑い声も全て僕と話すために、僕だけが聞いている君の声
そんな幸福感に包まれていると、不意に声の調子を変えて姫路さんがたずねてきた
「坂本くんはもう帰りました?」
「雄二は帰ったよ さすがにこんな時間までは泊まらない限りいないよ」
「そうですか」
どこかホッとしたような声
何だろう、雄二にきかれたくない話でもあるのかな?
「…最近坂本くんにかわった様子はないですか?」
意を決したように姫路さんが切り出す
「雄二?う〜ん、今週毎日うちに来てゲームしてるけど… あ、寝不足って言ってたのと霧島さんを見かけないぐらいかな いつもと違うのは」
ん?姫路さんは雄二と霧島さんの話がしたいのかな?
「そうですか… 余計なこととは思いながらも翔子ちゃんが元気がなくて気になってしまって…
言わないということは言いたくないことなのかもしれませんね すみません、深夜の電話に付き合わせてしまって」
姫路さんは霧島さんと仲良しだから心配なんだろうな
そこが僕と雄二と、女の子達のちがう所
「こちらこそごめんね、お役にたてなくて まぁ、あの二人はきっと大丈夫だよ 雄二が霧島さんに勝てるはずないし」
雄二と霧島さんは大丈夫 きっと雄二がうまくやる だって相手が霧島さんだから
だからそんなに心配しないで
「そうですよね」
少し安心したような声
その声をきいて僕も少しホッとする


やっぱり姫路さんには笑っていてほしい
僕にだけ聞こえる色んな表情の声もいいけれど
「本当にすみませんでした こんな夜遅くに電話してしまって」
「いやいや、僕の方こそメール遅くなってごめんね」
あぁ、そろそろこの電話終わるんだな、と姫路さんの言葉を聞いて思った
もう深夜だし用件は雄二達のことだったみたいだから
後はサヨナラを言って電話を切るだけ
…なんかもったいないな
「…あの、明久くん、えぇっと…あの、電話を切る前に一つお願いがあるんですけど…」
「ん、何?」
言い出しにくそうな、そんな声
姫路さんが僕にお願いって何だろう?
…まさか、週明けに料理の試食とか!?
くぅ、この週末が人生最後の週末かぁ… 悔いのないようゲーム三昧を全うしよう
そんな深夜の電話の幸福感から死の恐怖へと急下降している僕の耳にふれたのは小さな声
「一回だけ、昔みたいに下の名前でよんで、大丈夫って言ってください」
小さな子が迷子になってるみたいな、不安で一杯の声
深夜に聞くには心細すぎる
「えっ、何、どうしたの姫路さん?」
いまいち状況がのみ込めない
「…お守りです 怖い夢とか見ないための」
少しおどけたような声 くるくると表情を変える君の声に僕は振り回される
「そんなに怖い夢だったの?」
「よく…覚えていないんです ただすごく嫌な感じでした」
思い出したのか、声に不安が混じったからあわてて言う
「大丈夫、大丈夫だよ、瑞希ちゃん」
「あ、待って下さい!!ちゃんと予告してくれないと録音しそびれちゃいます!!」



…あれ?結構な恥ずかしさを我慢してリクエスト通り言ったのに僕なんか怒られてる?
しかもなんか『録音』とか言ってなかった?
「ぇっと…あの、姫路さん?」
「今度はスタンバイばっちりです!!明久くん、どうぞ!!!」
あれ?なんか急にハキハキしてない?さっきまでの不安そうな声は誰?
「いや、あのさ、姫路さん 録音ってどういうこと?」
「? だって録音してたらいつでもきけるじゃないですか?」
心底不思議そうに姫路さんが言う
えぇっと、それは
「恥ずかしいから駄目」
「なんでですか!?」
いや、だから恥ずかしいからってちゃんと言ってるでしょ?
「明久くん〜」
そんな声を出しても駄目 あの恥ずかしさが記録されるなんて本当勘弁してほしい
「ダ〜メ!!!」
と言い切った僕に応える声はない
真夜中の電話は少しの沈黙も重い
電話の向こうの姫路さんの表情がわからないから
…あれ?もしかしたら怒っちゃった?
重たさに耐えられずに先に沈黙を破ったのは僕
「本当に恥ずかしいんだよ?」
「そうですよね、坂本くんや美波ちゃんは下の名前で呼んでも、私の名前は恥ずかしいですよね…」
今度は即座に返事が帰ってきた
あぁ、なんだか面倒な拗ね方をされた気がする
「も〜、違うってば」
そうじゃないんだけど、でも姫路さんの名前だから恥ずかしいのは本当
多分、恥ずかしいの意味が君と僕とでは違うけれど
「私も皆さんみたいに名前で呼んでほしいです」
ポツリと姫路さんが以前と同じことをいう
僕だって呼びたくない訳じゃないんだけどな
でもさ、意識しちゃってなんだかもう無理
一人の時に口に出すのすら猛烈に恥ずかしいのに本人を前になんて絶対無理だよ
いっそ何の下心もなく友達としてならアッサリと呼べるのに

「なるべく早く皆さんのように下の名前で呼んでくださいね」
そういった後、私がまだそばにいられるうちに、と聞こえた気がした
「え?」
と聞き返そうとする僕の声を遮るように、
「それまではさっきの約束で我慢します じゃあ、録音するので明久くん、お願いします」
と、姫路さんが宣言した


朝っぱらから明久の家のチャイムを鳴らす
こんなことができるのも今日までだ
今夜、玲さんが出張から戻ってくるらしい
「…明日からどうすっかなぁ」
そんな言葉がぼやくように口にでて、自分が自分でないような、違和感をおぼえる
以前翔子と距離を取った時のように荒れる気は無かった
ただひたすら考えるのがダルかった
見ないように、考えないようにこの一週間を過ごした
考えて知ってしまうことが怖かった
考えて理解してしまえば変わってしまう
俺と翔子の関係が

「おはよー…早いね…」
予想通り眠たげな明久の顔によく冷えたペットボトルをぶつけるように渡す
「朝メシ、買ってきてやったぞ」
「へ〜、ありがと…ってまたどうせ僕の分は割りばしとかいうんで」
「焼きそばとパンでいいだろ」
言葉を遮って明久の目の前にコンビニの袋を出すと、動きが面白いように止まる
そして眼球だけを袋から俺に、俺から袋にとせわしなく動かす
やがて何かを思いついたように青ざめながら叫んだ!!
「さては姫路さん特製焼きそばとパンだな!!?昨日といい二人して僕を罠に嵌めようとしてるんだろうが、そうはいくか!!」
まったく、こいつは何で人様の好意を素直にありがたく受け取れないんだ
たちの悪い奴にでも囲まれてんのか?
「こんな朝っぱらから姫路ん家に行くかよ てか姫路の家なんか知らねぇよ ん、待てよ?昨日ってなんだ?」
最初はただあきれていたものの、わずかに面白そうなニオイを感じとる
明久は顔を青から赤、やがて再び青くしてしらばっくれ始めた
「なっなんのこと?ほら、早くあがってゲームしようよ!!」
これは確実に何か面白そうなことがおきてるな いったん油断させておいて機会を見つけてつついてみよう
そう思って明久の家にあがった


「どぉりゃぁぁぁ!!飛び上がれ、深紅に染まれしハツよぉぉぉ!!!」
「させるか、ボンジリ・アタック!!そして今だ、舞い降りろヒレ!!よし、もらったぁ!!!」
明久のキャラの花火職人が打ち上げたハツを俺の社会福祉課係長が左手のボンジリではね飛ばし、それにより生じた空間を右手で投げたヒレが移動して定位置におさまる
この勝負は俺の勝ちだ!!
「くっ… まさか係長が両利きだったなんて…」
がっくりと肩を落としながら呟く敗者の姿を鼻で笑ってやる
「体力のない中間管理職と舐めてたな」
肩を落としたまま明久は悔やみ続ける
「まさか…まさか今週の全食費をつぎ込んで買った『ウイイレ』かと思ったゲームが、肉の部位を所定の位置に投げ入れる『ブイイレ』だったなんて!!!」
「まぁ、この肉屋の親父が悪そうな表情で笑っているパッケージで気がつけよって話だがな」
こんなパッケージのサッカーゲームは流石にないだろう
「しかもさぁ、これミニゲームで部位の名前当てがあるんだけど、3回間違うと『貴様の部位をえぐり出すにゃん』って肉屋のおじさんが優しいボイス付きで言うんだよ…」
しくしくと泣きながら、明久が想像するにエグい話をする
…なにを追求したゲームなんだ、これは

「あ〜でもお肉の話ばっかりだったからお腹が空いたね お昼、水と塩と胡椒と砂糖と油、醤油とオイスターソースがあるけどどれがいい?」
体を起こしながら明久が言う
久しぶり過ぎて聞き間違いかと思うぐらいだ
「水と油以外全部調味料じゃねぇか!!」
「言ったでしょ、今週の全食費つぎ込んだって!!お米は丁度切れちゃったし、小麦粉も使っちゃって、昨日まではマヨネーズとモヤシの髭も残ってたんだけど」
相変わらず、むちゃくちゃな食生活だ
そんなんだから腕とかひょろっちいままなんじゃねぇか?
「だいたい、前に比べたら超ゴーカな品揃えじゃないか」
とブツブツ言っている明久を見ながら思う
そして大切な事を一つ忘れているこのバカに忠告してやる
「だいたい、そんな食材スッカラカンだとそっこうバレるんじゃねぇか?ゲームにつぎ込んだこと」
「大丈夫!!今夜姉さんは遅くなるから食べて帰ってくるし、それに今夜来週分の食費をもらう約束だから朝食は朝一で買いに行くよ!!」
一応、自分の生命に関わることだから考えてはいるらしい
誇らしげに胸を張る明久を見ながらそんなことを考えていると明久の携帯が鳴った
「あれ?姫路さんからメールだ 何だろう?」
そういいながら明久が携帯を見る
メールをいちべつした明久は急に俺の腕を引っ張った
「行こう、雄二!!霧島さんが倒れた!!」



「!? …姫路が一緒にいるんだろ?」
一瞬何を言われたのかわからなかった
翔子が倒れるって…どういうことだ?姫路からメールって事は姫路が一緒にいるんだろ?
「姫路さんと出かけてたんだって!いきなり倒れたから今近くの木陰で休んでるって 早く行こうよ雄二!!」
一向に動こうとしない俺に苛立って明久がつかんだ腕を強く握る
その手を払いのけながら俺は言う
「姫路が一緒にいるんなら大丈夫だろ だいたいメールがきたのはお前だろ、明久」
沸き上がる不安と苛立ちをおさえ、なるべく冷静な振りをする
「何言ってんだよ、雄二!!姫路さんだけで倒れた霧島さんを送れるはずないだろ?どうしちゃったんだよ?」
驚いた顔の明久を見て苛立ちが押さえきれなくなる
「うるせぇな、翔子と姫路の罠かもしれねぇだろ!!!」
これが俺の本音だ
明久と俺が一緒にいることを見越して姫路から明久にメールをする あざとい手段だ
その手にはのらねぇぞ
「…本当にどうしちゃったんだよ、雄二 霧島さんが困ってるんだから罠とかそんなのどうだっていいだろ?
それが罠ならその時考えればいいじゃないか そんなの得意中の得意だろ!!守りばかりに固執するなんて雄二らしくないよ!!!」
お前が一体俺の何を知っている?
…そう問うには俺たちは一緒に戦いすぎた
明久の言葉に、頭のモヤが晴れてくる
これが戦いだとしたら
「敵の術中にわざわざハマりに行くバカはいねぇ…と言いたいところだが、こちとらバカ中のバカの代表・観察処分者と、バカのFクラスの代表だ
ハマりに行ってみようじゃねぇか!!!」
そう言った瞬間、覚悟は決まった



「翔子ちゃん、飲み物はいかがですか!?」
瑞希の方が今にも倒れそうな不安な声で、心配そうに私にたずねる
「……いら、な、い」
急に目の前が白く何も見えなくなっていって、音も壁を隔てたかのように遠くなった そう思った次の瞬間私は膝から崩れて座りこんだらしい すぐに気がついた瑞希のおかげで倒れこむことは避けられたようだ
しかしまだ周囲の光は目に眩しく顔をあげられない
すぐ隣にいるはずの瑞希の声も水の中で聞いているかのような、妙に遠い感じがする
酸素も薄いのかうまく呼吸もできない
ただ、私の左手に感じる瑞希の手の温度が、驚くほどに早く響く私の鼓動を少しだけ安心させる気がした
「…人を…ので…ここで…しょうね 丁度木陰で…」
瑞希が何かを言っている
大事にする必要はないと大丈夫だと瑞希に告げたいのに、また苦しくなってきて冷や汗が噴き出すのが自分でわかった
そういえばここ一週間ぐらい食事がうまくとれていなかった気がする
あまり寝てもいない
…エネルギー不足と寝不足、脳貧血かもしれない
脳貧血ならしばらく耐えればよくなるはず
思考力が著しく低下した状態で途切れ途切れに考える
「翔子ちゃん、私にもたれていいですよ」
答える前に後ろに優しく引かれて瑞希の体温を背中に感じた
目を閉じて、柔らかくて温かい温度に包まれる
それは気持ちがよいけれど、私を本当に安心させるものは別にある
声が聞きたい、その熱に触れたい
同じように近づくことを拒まれていた中学の頃より随分と欲張りになってしまった私の想い
何を怒ったの?どうして私を避けるの?何にそんなに苛立っているの?
雄二の答えがわからない
思考はまとまらず、とりとめもなく浮かんでは消える
そうやって瑞希にもたれたままどのぐらいたったのか

「大丈夫!?姫路さん、霧島さん!!」
左側から聞き覚えのある声がした
この声は…吉井?
「あ…よかった」
後ろから瑞希のホッとした声が聞こえる
「霧島さんどう?」
「多分、貧血だと思うんです 急に倒れてしまって ベンチで休ませてあげたいんですけど、私では翔子ちゃんを運んであげられなくて…」
「そっか わかった あそこのベンチでいいかな?」
「はい、お願いします」
目を開けるのが億劫で、目を閉じ瑞希にもたれたまま吉井と瑞希の会話をきく
目を開けて、雄二がいないことを確認したくはなかった
ねぇ雄二、よんだとしたらきてくれた?

「霧島さん、聴こえてる?今から向こうのベンチに運ぶからね」
吉井の声に僅かに頭を動かして頷いた
背中から柔らかい感触と温もりが消える
倒れないよう支えてくれていた手が、瑞希の柔らかい腕から固い腕にかわる
抱えあげられた時にその腕に感じた違和感は確信に変わった
「雄…二…」
薄く目を開ければさっきまで想い描いていた人の顔がぼんやりとうつる
「…何やってんだよ、バカ」
少し怒ったような声 でもこれは心配してくれたから だから少し怒った声なのだとわかる
その事にホッとする
そうしてそのまま、現金な私の体は欲しかった声と熱を手に入れて、安心しながら意識をてばなした



大きな手が髪に触れた気がして意識が浮上する
その手が耳に当たる
「…んっ…」
まだ少しモヤのかかったような頭が重い
上半身を起こそうとすると雄二の声がした
「無理しないでまだ寝とけ」
その声に素直に従ってまた横になる
柔らかい感触…これはベッド?
「…わりぃな、お前んちには運びづらかったんだよ 大丈夫だ 今姫路と明久は飲み物を買いに行っているし、下にはオフクロもいるから安心して寝とけ」
雄二がうちに倒れた私を連れて行きにくいのも、雄二のベッドを借りていることもわかった
吉井と瑞希が心配してくれたであろうことも
でもなぜ一階にお義母さんがいることと安心が繋がるのかわからない
私は雄二がそばにいてくれればいつだって安心していられるのに
「髪…触るの、好き?」
そう思いながら違うことを聞いた
私が髪を触られたことに気づいていないと思っていたのか、雄二が明らかにうろたえる
「なっ…」
「この間もそうだった 雄二の布団にもぐり込んだら寝ぼけたままでずっと髪を触ってた さっきみたいに耳に手がかすって思わずあの時は笑ってしまって、その声で雄二が起きたの」
あの時の幸福感が胸によみがえって顔が緩む
そうしてこの一週間心の中で繰り返した問いを口にする
「ねぇ雄二、私の何がいけなかった?」
真っ直ぐに雄二を見る
ねぇ、どうして?
何をそんなに怒っているの?何故自分に苛立っているの?

私を真顔で見ていた雄二は、急に空気が抜けたような音をたてて崩れ落ちた
「…雄二?物まね?」
「翔子…さん?ひとつ確認いいですか?」
崩れ落ちた体を両腕で支えながら雄二が私にたずねる
「なぁに?」
「あの時さわったのは髪だけ…と耳に手が当たって笑い声がでて俺が起きた、これが全てでまちがいないですか?」
「うん」
下をむいて肩を小刻みに震わせながら、雄二が私に確認する
私は最初からそう言っているのに
「つまり、さわった、ってのは髪の話で…」
「私の耳に手が当たって声がでた」
「紛らわしいわぁ!!!」
急に雄二が大きな声を出す

それはいつも通りの会話で
いつものように私に話しかける
あなたがそばにいてくれる
そう思ったら、涙腺が壊れたみたいに涙が出てきた
「しっ、翔子?悪かった、急に大声だしたりして」
急に弱気になってうろたえる雄二を見るのはおもしろいけれど、自分の涙の意味がわからなくて私も戸惑いながら雄二のベッドがぬれないように体を起こす
「雄二…涙が止まらない…」
普段ほとんど泣かないだけに、自分でも対処できなくなって途方にくれる
その間も頬を次々に水滴がつたっていく
ぬぐってもぬぐっても追い付かぬ程に
不意に引き寄せられて顔に布が、次に固い体の感触と熱が当たる
「…悪かったよ」
顔に当たる布越しに響く雄二の声
雄二の服に私の涙が吸い込まれていく
「雄二、服がぬれちゃう…」
私の顔の当たる雄二のお腹の辺りをそっと押し返そうとするけれど
「別に服なんて乾くだろ」
そんな風に言ってもう片手で私の頭を撫でるから
私の涙が止まらなければいいのにとほんの少しだけ願ってしまった



「翔子」
雄二の服の濡れて色の濃くなったおなかの辺りが少し乾き始めた頃、私を引き寄せたまま、雄二が静かに私の名を呼ぶ
「…なに?」
「寝てる俺の布団に入ってくるのは以後禁止な」
穏やかな声 もう怒ってはいないようだ
「…なぜ?」
「お前と俺が心配だから」



泣きやんだ翔子に話しかける
「翔子」
「…なに?」
倒れて、泣いて、今日の翔子は普段ではほぼ見ないことばかりを経験したせいかずいぶんと素直だ
いや、違うな 翔子はいつも素直だ
ただ常識はずれに暴走するだけで
「寝てる俺の布団に入ってくるのは以後禁止な」
「…なぜ?」
きょとんとした目線を上にあげ、俺を見上げる
時々、こいつはどこまできちんとわかっているのか不安になる
「お前と俺が心配だから」
言っても多分わかんねぇんだろうな
寝てる俺に無意識にあちこち触られるかもしれないだろ?嫌がったからと言って無意識じゃぁ止めるとも限らない
第一、お前は時々俺をわざと挑発するけれど、それは俺が乗ってこないと知った上でだと、俺も知っている
起きていればまだ理性でどうにかできる
でも意識のない状況じゃぁ、どうしようもない
最悪、今日みたいな泣かし方よりよっぽど酷い泣かし方をする可能性もある
だから俺が寝てる間はお前の為

そして、起きた俺の為でもある
まず第一に寝起き一発目に隣に寝ている翔子とか心臓に悪すぎる
自分が何かしたんじゃ、されたんじゃないかという不安も大きい
俺の未来が決まってしまうことへの不安
しかも無意識だ、冗談じゃない
後、寝起きで見る翔子が泣いてたりしたら俺はもう確実に自分が許せなくなるだろう
だから起きた時の俺の為

「…よくわからない」
少し困ったように寄せられた眉
俺の服をそっと握っている白い手
俺を見つめるこの存在全てを求めることがないと言えば嘘になるけれど
それ以上に傷つけたくないんだ
汚したくないんだ
そんなことは考えるのもこっぱずかしいけれど




「布団に入ってこなけりゃ、部屋に入るのぐらいはかまわねぇよ」
じっと見られて、翔子の視線を避けるように自分の方に引き寄せる
もう涙が出ていないのは知っているけれど
「…よくわからない…けど、雄二が言うならそうする」
不意に翔子が頭を俺の腹の辺りに甘えるように擦り付けるから

思わず引き離す
「? 何?」
驚く翔子に説明しずらい思春期以降の男の気まずさを感じていると、携帯が鳴った
『姫路さんがどうしても買い忘れたものがあるって言うから、買いに行くね あ、飲み物はおばさんに預けたから』
………見られたのか!?見られたのか!?
顔から血の気が引くのがわかる
「…雄二、大丈夫?横になる?」
少しだけずれて自分の横を翔子がポンポンと叩く
「だから一瞬には寝ねぇっつてんだろ!!」
「目は覚めてるからいいのかと思った…」



翌日、明久が来る前に教室で姫路を捕まえて問いただす
姫路なら明久のように騒ぎ立てることもないだろう
それに、敵(明久及びそれにより派生するFFFの面々)との接触前にどれ程情報を握られているか把握しておく必要がある
「昨日はすまなかったな」
「明久くんと坂本くんが一緒にいてくれてよかったです」
姫路がふわりと笑う
あぁ、そうだ
こいつは罠とかそういうのに縁遠い奴だったな
「翔子ちゃんも元気になったみたいでよかったです」
「その話なんだが…、いつ帰ってきた?」
「飲み物買った後です」
「…そうじゃなくて」
「ふふっ、ごめんなさい
大丈夫です 飲み物買った後おば様に渡してそのままお買い物に行きましたから 明久くんも私もお部屋には行っていませんよ」
「…感謝する」
「でも、仲直りしてくれて本当に良かったです だって私は翔子ちゃんと坂本くんの友達ですから」
「…よかった、ばかりだな」
「良い思い出をいっぱい作りたいんです」
姫路の笑顔が少しだけ曇った気がしたのは気のせいだろうか?
「姫路もがんばれよ あのバカ相手だと苦労しそうだがな」
「そうですね 明久くんとも美波ちゃんとも、Fクラスの皆さんたちとも一つでも多く思い出を作りたいです」
そう言って少しだけ寂しそうに笑う姫路は、やっぱり明久なんかにゃもったいないと思った

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