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「・・・・・・・・・」
窓に映るのは、紫の髪に紫の瞳、白い肌の女。
……よもや、こんな羽目になるとは。

ESPは使える。
思考能力にも変化は無い。
ただ、容姿が変わっただけのこと・・・とは言えぬか。
このままでは外出もままならん。まして試合に参加するなどもっての他だ。
……実際のところ、ESPは使える上に尻尾も一応あるから出来なくはないが。
「・・・ドクターに付き合うと、ロクなことにならんな」
やつが好奇心で作った薬を飲んでみれば、この有様だ。あとできっちりお礼をしてやらねばな・・・


コンコン。
「おーいミュウツー、なにして・・・・・・」
「・・・ネスか。まったく、間の悪い」
「・・・・・・・・・・・・あの、あなたはだれ?」
「ミュウツーだ」

「は?」

……くくく、何と間抜けな面か。

「・・・・・・・・・みゅ、みゅ・・・・・・ミュウツー!!!?えええええっ!!どどどどどういう・・・」
「あぁ五月蝿い!!」
我を忘れぎゃあぎゃあ騒ぐネスに『かなしばり』をかける。
「あぁぅ・・・」
「・・・・・・まったく」




「―――――と、こういうわけだ」
「ふぅん・・・・・・」

ミュウツー(と名乗る)この女性の説明は、なかなか信じられないものだった。
しかし証拠にと見せてきた超能力、それにぴょこんとある尻尾は紛れもなくミュウツーのもの。

「それにしても・・・ミュウツーって女だったの?」

普段の態度や言葉遣いからは、女性的なものは欠片も感じられなかったけど・・・
でも、間違いなく美人と言われるくらいキレイだ。紫の髪とそれより深い瞳の色、スタイルもいい感じ。
これならピーチ姫やゼルダ姫にも、十分ひけをとらない。


「・・・もともと私には性別などなかった。
ある種の兵器として作られた以上、子を生す能力は危険だからな」

その時のミュウツーは、どこかすごく寂しげに見えた。
……僕はそれをあえて見ない振りをした。

「ならどうして?」
「知らん、私をこうした張本人から聞け・・・尤も私が咎めた後で、やつが口を開けたらの話だがな」
ミュウツーが紫の目を細めた途端、妙に怖く感じる。その顔立ちがすごくキレイだから、なおさらに。


「・・・ね、ねぇ。人間になって、どんな気分?」
「ん?・・・・・・そうだな、たいして変わりはないのだが・・・・・・」
「ないのだが?」
「・・・服を着る、ということはどうも違和感があるな・・・・・・」
「あ、やっぱヘンな感じする?」

……あれ?っていうか、今ミュウツーが着てる服は・・・?
「ねぇ、ミュウツー。その服はどうしたの?」
「これか?ピーチの物を借りた。無論、無断でだがな」
「・・・・・・」

悪気なんてまったくなし、と言った感じのミュウツー。でも・・・あとでバレたらどうするんだよ。


「バレたらどうする、って顔だな。・・・ふむ、確かに厄介かもしれん。
ちょうど邪魔っ気に感じていたところだ」

ミュウツーが指を立て、ひゅっと動かす。
するとピーチ姫から借りた物が、ふっと消え・・・・・・

「わわわわわわわわわ、わーっ!!!!!!
ふふ、服!!服着て服!!!」
「ん?あぁ、まずかったか」

憎らしいほど落ち着き払って、今度は指をパチンと鳴らす。
と、さっきの借り物が再び現れた。
…………はぁ、びっくりしたぁ・・・・・・・・・


ドキドキしてるのを抑えながら、ミュウツーに尋ねる。

「・・・ところでさ、これからどうするの?」
「それを今考えていたんだがな、良案が思いつかん。
このまま試合に出るわけにもいかぬ。かといって、どうすれば治るかもわからぬ」

話ながら机においてあったコップを浮かせ、くるくると回すミュウツー。
……そういえば、この仕草はミュウツーが考え事をしている時によくやってたなぁ。

「ドクターには聞いたの?」
「至極無責任な答えしか返ってこなかった。もしそこでやつが解決したらならば、咎めぬつもりだったが・・・な」
「・・・そ、そう・・・」
ドクター・・・死ななきゃいいけど。


そのままずっと話し込んでて、気がつけば2時間ぐらい過ぎていた。


「―――それにしてもさ、ミュウツーがこんなにキレイだったなんてねー」
最初に見たときからずっと思っていたことを、僕は口に出した。

「そうか?この状態の外見など、知ったことではないが・・・」
「えと・・・うん、これならフォー・サイドの劇場でもトップになれるよ」
実際、トポロ劇場の看板美人のビーナスさんと比べても・・・うん、全然負けない。

「そうだ、みんなに見せてみたら?」
「それだけは御免だ・・・生き恥をさらすことになる」
「そんなことないのに。かわいい・・・というか、すごくキレイだよ?」
「・・・・・・・・・フン」

……普段、冷静で表情の無いミュウツーだけど・・・人間になってみると、ちゃんとそれがある。
あのミュウツーでも、こんな風に赤くなったりするんだなぁ。言っておいてなんだけど、すごく意外だ。


「・・・・・・ずっと、無縁だと思っていた」
「え?」
ミュウツーがいきなりそう呟いた。そしてそのまま、言葉を続けていく。

「人間たちが、ポケモンを褒める言葉・・・かわいい、きれい、格好いい・・・・・・山ほどある。
私にはそのどれもが無縁だと思っていたが、よもやこんな形で聞くとはな・・・」

目を細めて呟くその表情に、僕は戸惑った。

「・・・多くのポケモンに言葉という能力はない。だが私にはある。
ネス。こういう時は・・・『ありがとう』と言うのだろう?」
「あ・・・・・・う、うん」
どうしたんだろう、なんか全然ミュウツーらしくない・・・

意外なことの連続に戸惑いっぱなしの僕。
その時、ふっと額に落ちてきたのは・・・ミュウツーの、唇。

「・・・ありがとう、ネス」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉が出ない。声にならない。


「・・・私はゼルダの所へ行ってくる。
この姿のままどうにもならなかった時の対策として、変身の魔法を教わろうと思う。
その後で・・・諸悪の根源を懲らしめてくるとしよう」
そう言って立ち去るミュウツーの後姿を見送ることもできずに、僕はただ固まっていた。





翌日。
僕は朝一番にミュウツーの部屋を訪れた。ニ、三回ノックしてからドアを開けてみる。
ミュウツーは昨日のように、窓際に立っていた。何事もなかったかのような涼しい顔をして。
「ミュウツー、ちゃんと戻ったんだね!よかった・・・」
「・・・・・・一応だがな」

ミュウツーが突如、光に包まれる。
そしてそこに立ったのは、紛れもなく人間の女性だった。ただし尻尾のおまけつき。

「・・・結局、今のところは変身魔法に頼らざるをえないらしい」
「・・・・・・どっちがホントの姿なの?」
「自分の感覚的にはこちらだ。まったく、可笑しなものだ・・・」
再度光に包まれ、そこに現れたのはポケモンのミュウツー。

「このことは内密にな、ネス」
「OK♪」
「・・・ありがとう」

去り際にぼそりと呟いたその言葉に、昨日の光景がフラッシュバックする。
そのせいで頬が熱くなったのを感じつつ、僕はミュウツーの背を追った。




あとで知ることになったんだけど、ミュウツーは大きなミスを犯していた。
それは『ドクターに復讐する際、ポケモンの姿だった』こと。
そのせいでドクターは、この薬は『ちゃんと元に戻ることが可能』だと勘違いした。

唯一の問題点が解消された、となれば当然彼の好奇心は収まるはずがない。



ドクターが重傷から回復して数日後。

窓が割れそうなくらいの絶叫が、館中に響き渡った。
2008年03月27日(木) 13:21:50 Modified by smer




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