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10-48

早春。一段と厳しかった寒さも少しずつ和らいできたとはいえ、夜はまだまだ寒さも残る。
そんな夜の空の下にメタナイトは一人佇んでいた。今日は新月、空に月はない。
星だけが輝く空を見つめながらメタナイトは考え事にふけっていた。ところはスマブラ寮の庭の、
建物からは少し離れた所である。

「…隣、よろしいですか?」
その声でメタナイトは我に帰った。振り向くとそこには声の主、ゼルダが立っている。
「ゼルダ姫…特に構わぬが」
ゼルダはゆっくりとメタナイトの近くに腰を下ろす。
(そういえばゼルダと二人きりになることはおろか、まともに話すことすら初めてだな…
一体何を話せばよいのやら…)
少しの沈黙の後、ゼルダが口を開いた。
「…いつも此処にいらっしゃるのですか?」
「特にここと決まっているわけではないが、大体外に居る。…どうも寮の中はにぎやかで
なかなか落ち着かぬ」
「確かにメタナイトは何といいますか、落ち着きのある大人、という感じがしますものね…」
「いや、そうでもないと思うが…ところでそなたは何故此処に?」
「明日の試合に備えて早く寝ようと思ったのですが…なかなか寝付けなくて。だから気分転換に
この辺りを散歩しようと思いまして。そしたら貴方を見かけたので声をかけてみたんです」
「成程。しかし私などがそなたのような方に声をかけられるとは思ってもいなかったな」
メタナイトの声に、少しだけ明るさが混じる。仮面をつけているからわかりづらいが、恐らく
その顔からは少し笑みがこぼれていただろう。

「そろそろ、ですね」
「そろそろ、とは…」
ゼルダが指を差した先に、その答えがあった。スマブラ寮の庭の中でも一際大きなサクラの木。
つぼみの一つ一つが早く咲かせろと言わんばかりに大きく膨らんでいる。
「メタナイトはまだ見たことないですよね?」
「ああ、なにしろ此処に来てから半年も経ってないからな」
「この桜、満開になるととても綺麗なんですよ。寮の皆さんも毎年この時期を楽しみにしているんです」
「ふむ、早くお目にかかりたいものだ」
出来ればそなたと一緒に、とはさすがに口に出せなかった。確かにメタナイトはゼルダに惹かれつつある。
見るものを惹きつける凛とした美しさ、そして大人らしい、落ち着いた言動…美しい女性とはこういうものなのか。
しかし、まだ少ししか会話を交わしてないのにどうしてそんなことを口にできよう。一瞬だけ湧き出たその想いを、
彼は即座に心の奥底にしまうのであった。



時折強い風が吹く。3月も半ばとはいえ、風はまだ冷たい。
「やはりまだ冷えるな…」
ふとゼルダの方に目を見遣ると、心なしか縮こまってるようにみえる。身に纏っているドレスが
ふわり、ふわりと揺れる。それだけ生地が薄いのだろう。そしてわずかに露出している肩。
その姿で寒さを凌ぐのはかなり厳しいと思われる。
「寒く、ないか?」
「少し…」
「ならばこれを羽織るといい」
身に着けていたマントをゼルダの肩にそっと掛ける。
「ありがとうございます…でもいいのですか?今度は貴方が…」
「私は大丈夫。それよりもそなたのお体が心配だ、また明日試合があるのだろう?」
「そうですね。ではしばらくお借りします」
「うむ…」
ゼルダの口元が緩む。いつもとは違う、母、いや聖母のような笑み…やはり彼女は美しい。

「メタナイトはいつもこの辺りにいらっしゃるのですよね?」
「ああ、そうだが…」
「でしたら、またこうしてお話に来てもよろしいですか?」
メタナイトは何も言わずに頷く。
「そろそろいい時間ですし、私はこれにて失礼しますね。それとこれ…」
マントを差し出そうとするゼルダをメタナイトが制する。
「しかし、これは貴方の…」
「また明日返してくれればいい。先ほどより寒くなっている、そなたが風邪を引かれては大変だ」
「では、明日必ず返しにきますね。それでは」
ゼルダは寮に向かってゆっくりと歩き出した。
(私もそろそろ帰るか…)
立ち上がるが、すぐに桜の木のほうに振り返る。
「ゼルダ姫…私は貴方と一緒に満開の桜を楽しみたい…」
本人こそいないものの、メタナイトはゼルダへの想いを始めて口にしたのだった。

−終−


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2008年03月30日(日) 12:16:33 Modified by smer




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