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人、特に女性というのは丸いもの、やわらかいもの、ふわふわしたものに触れることが好きなようだ。現に、いつも二人の姫は膝のうえにピカチュウかプリン、カービィが乗っていてやさしく撫でられている。
まだこの三匹は納得がいく。しかし、この前桃色の姫がいる部屋を横切ろうとしたとき妙な気配を感じたのだ。あまりやらないほうがいいのだが、覗いてしまった。桃色の姫の膝で眠る狐の操縦士がいた。
私はこの時なぜだか知らないが彼がとても羨ましかった、むしろ悔しかった。
嫉妬?
…きっとそういうものだったのだろう。私はむしゃくしゃして落ちていた空き缶を蹴飛ばした。

翌日の事だ。私は一戦を終えたあと背中と腕が痛むのを感じ、医務室へと向かった。
ドアを開ける前から気付いていたが、中に桃色の姫が回転イスに座っていた。
中に入り、互いに目が合い、私は会釈をした。向こうはすっと立ち上がり王女らしい挨拶をしてくれた。いつ見ても彼女は上品だ。私はそんなことを考えていた。
「今、ドクターは留守なの。ちょっとした怪我なら私が診てあげてるんです」
そういうと彼女は「さあ、どうぞ」と先ほど自分が座っていた回転イスに私を招いた。
「今日はどうしましたか?」
なんだか医者ごっこでもしているかのように微笑んでいる彼女に、私は背中と腕の痛みを告げた。「それは大変、早速背中から診てみましょうね」と、くるっとイスを回され彼女に背を向けた状態になった。



「まあ、痛そう…」
私は自分の背中がどうなってるか聞くと彼女は「少し血が出てる、こう斜めに!」ときっと背後で傷口の斜め具合をジェスチャーしていたのだが私には見えない。緑の剣士の攻撃を避けきれなかった時に擦ったのだろう。
彼女は救急箱から消毒液と傷薬、薄っぺらなものを数枚取り出すと「最初は消毒しまーす」と、大胆に消毒液を傷口にかけていく。背中が、つめたい…。
次に彼女は鼻歌まじりに滴れた消毒液を拭きながら傷薬を塗っていく、そして最後に何か貼られた。彼女曰く「絆創膏をはったからもう大丈夫!」だそうだ。
見えないが、私の背中には斜めに並んだ絆創膏があるのだろうか。
「次は、えーっと…」
「…腕です」
イスを回され正面を向いたその時、彼女の顔が私の顔当たりそうなくらい近くにあったので私は思わず赤面してしまった。彼女の香りが、見つめている目が、艶やかな唇がすぐ傍にあったのだ。自分の心臓の音が大きくなるのに気付いた。
「痛むほうの腕をみせて?」
私は左腕を彼女の方へ差し出す。彼女は私の腕をとり、どこが痛むかやさしく押しながら聞いた。私は痛む辺りを言うと彼女は私の右腕と見比べながら「少し腫れてるわ」と言った。
救急箱から湿布を取り出し、痛む部分を包み込むように貼り、その上から包帯を巻いて固定してくれた。
私はこの間、無意識のうちにずっと彼女の顔を見ていた。
「これで様子をみて今より腫れてきたらもう一度ここに来てくださいね」
救急箱に先ほど出したものをしまいながら彼女は言った。



彼女は私の無意識の視線に気付いた。
「どうしたの?まだ、どこか痛むの?」
「い、いえ…、なんでもありません…」
私は慌てて立ち上がり、礼を言うとドアの手前までいき会釈して出ていった。

私はさっさと自分の部屋に戻るとカギをかけ、ベッドの中にもぐりこんだ。
まだ心臓が忙しなく動いている。そして胸の辺りがもやもやとして落ち着かない。こんな気持ち初めてだった。
いとおしい…?
彼女のことはあまり知らない。ただ私はあの時かいだ彼女の香りと、あの柔らかな手がもう恋しくなっていた。

まだ夕方にもなっていない頃、私は夢を見ていた。
私は彼女の膝の上で眠り、そのあと…、そのあと口付けをして彼女を押さえ付けたあと胸に顔を埋めて、それから…………。

突然目が覚めた。理由はわかっている…。
吐息で湿った枕、乱れた掛け布団、あの独特のにおい…。

(私は知らず知らずのうちに彼女を性的な対象として見ていたのだろうか。)
(…何を考えている。彼女は人間だ。私とは違う、違うんだ…)

しばらくしたあと、私は白いもので汚れた下腹部を拭くと、そのままもう一度眠りにつこうとした。
愚かなことに、私は夢の続きを期待していたのだ。
2008年03月03日(月) 17:41:07 Modified by smer




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