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夕食も終わり、夜に試合の無い人は好きに過ごす時間となった。
「ピッピカピーピカカピッカカー」
会場でよく耳にするBGMを小さく口ずさみながら、寮の廊下を歩いていく。
今日は試合が少なく疲れはほとんど取れたため、建物の中を散歩する事にした。

下の階に下りて、廊下を歩いている途中でル…ルイー何とかとすれ違う。
「あ、ピカチュウ」
「ピカ!」
元気に返事をすると、兄のマリオさんより少し高い背から頭を撫でてくれた。
それから、口元に指を当てて静かにするような仕草。
「このあたりは静かに歩いた方がいいよ」
「ピ? ピーカ」
よく意味が分からないまま返事をすると、何とかは「それじゃ」と挨拶をしてその場を後にした。
ちょっと気分が良さそうだったけど、何だったのかな?

それから気の向くまま歩き回って、とある一室を通り過ぎようとした時。
「ピカ?」
中に置いてあるソファに、誰かが横になっているのが見えた。
ドアを開けてそっと近づくと、肘掛に乗っている金髪が見える。サムスだった。
水色のゼロスーツのままで、その体には薄い緑色の毛布がかけられている。
見た事がある、ル…えーと、さっきの二番手が持っているやつ。
すれ違ったのは、この毛布をかけてあげた後だったのだろう。
でも毛布はかけられているけど、この部屋は人が寝るには少し温度が足りない気がする。
「ピカピ、ピカピピー」
サムス、こんなところで寝ていると風邪ひいちゃうよ。
ついついと頬をつついてみる。
「ん…」
彼女は少し身じろぐ程度で、泥のように眠ったまま目を覚まそうとしない。
いつもは自分が近づけば、遠くにいても声をかけてくれるのに。



今日のことを思い出してみる。
自分の試合が終わった後、オーロラビジョンで別会場にいるサムスの試合を見ていた。
彼女は試合が多かったし、厄介な事にほぼ全戦がサドンデスまで持ち込まれたのだ。
最後の方なんか、かなり消耗しているのかふらつき始めていた。
「ピカピー! ピーカァー!」
ビジョン越しに一生懸命声援を送ったが、彼女の体力はすでに尽きていたらしい。
スネークのC4をまともに踏んでしまって、あの重たいパワードスーツなのにそれはもう高く飛ばされていって。
多分寮に戻ってから、部屋に行く気力も無かったんだろう。夕食の席にもいなかった。
そんな日にこんなところで寝ていれば、取れる疲れも取れない。
「ピカピ…」

せめてもう少しあたたかくなるようにと、彼女と毛布の間にもぞもぞと潜りこむ。
「ピカー」
横向きのサムスの腕の中に身体がすっぽりおさまった。
顔をすり寄せると、ふに、と柔らかい感触がした。あ、む、胸か。どきどき。
ちょっと動揺しながら、じっと彼女の顔を見つめて考え事をする。
捕まえられるままに研究の材料になっていた自分を、この人は助けてくれた。
あの施設から脱出する途中で頭を撫でて一言、「がんばったね」と。
こっちがお礼を言わなきゃならないのに、その言葉が何より嬉しくて声が出なかった。
あの時の恩返しに、サムスのために何か出来る事はないだろうか。
今は、彼女の胸元をあたためてあげるくらいしか出来ないのだけれど。

「ぷーぷ!」
彼女の暖かさに少し眠くなってきた頃、ソファの横からもぞもぞと見える真ん丸い影。
そっと身体の向きを変えると、プリンが大きな目でこちらを覗きこんでいた。
「ぷりゅ?」
何してるの?
「ピカピ、チュー…」
サムス、疲れて寝ちゃったみたい。寒いかなーと思って。
現に近くで話していても、彼女は目を覚まさず眠ったままだ。
「ぷりー、ぷー」
混ざっていいかな?
そう言ったプリンは、毛布がずれないようにソファに乗る。
彼女のお腹の辺りを背もたれにすると、一つあくびをしてそのまますぐに眠ってしまった。
そういえば、ポケモンとかは人より少し体温が高いんだよ、とゼニガメ達のトレーナーに聞いた事があった。



さらに少しした後。
「ぽよっ」
どこから話を聞いたのか、ナイトキャップを被った(もしかしてコピー能力?)
カービィが何かを引きずりながら部屋に現れた。
「ピカ?」
「おいカービィ! ここまで連れて来て何を…って」
引きずってきた黒くて丸い物から声がした。いや、物じゃなかったようだ。
メタナイトが首…かどうか分からないが、マントのそれらしき所をがっちり掴まれていた。
「ぽよぽよ?」
「ピーカ」
乗っていいかと聞かれたらしく、いいよ、と答えた。
ぽよ、とカービィはサムスの方を指差して、それからソファによじ登って膝の辺りに落ち着く。
「…乗れというのか」
「ぽよ」
当然、と言うようにカービィは返事をしていた。
仮面で表情がさっぱりだが、メタナイトは少々戸惑った後サムスを見やり。
一頭身にあわせた小さなマントを外し、「疲れているようだな」と彼女の肩口にかけてやった。
うん、とても紳士だ。一頭身のくせに。
彼もぴょいとソファに飛び乗ってカービィの隣に座り、やがてそろって眠りに落ちていった。
団子が三つ乗っかってるみたいで面白い。
ああそうだ、この二人も体温が高いって聞いた覚えがある。

それにしても。
一頭身と自分に囲まれて眠るサムス。何だか不思議な光景だなあ…。
そう考えながら彼女の胸に顔をすり寄せ、その夜はみんな一緒に眠った。
「ピカ、ピカチュ」
おやすみなさい、と寝る時のあいさつは忘れなかった。
寝る寸前に見た顔は、何となく口元が緩んでいたような気がする。

何日か後、スネークが撮った写真を見せてもらう機会があった。
その中にはサムスと一緒に固まって寝る自分達の写真もあって、
「くれ!」とか「羨ましい!」とか「どうやって撮った!」ってみんな騒いでたっけ。
2008年03月03日(月) 15:33:41 Modified by smer




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