7-62
「何…ネスが居ない?」
―声の主は、どこかボンヤリした顔の宇宙服姿の男。
その小柄な姿からは想像も付かないような低い声だ。
どっこいしょ、といった感じでゆっくり上半身を起こす。
日の光の眩しさに一瞬顔をしかめ、一つ伸びをする。
そう、彼はオリマーである。
「よく子供達の面倒を見て下さってるオリマーさんなら、
きっと何か知ってるかもしれないと思って…」
彼の目の前には、心配そうな顔で周りを取り囲むスマブラ女性陣。
その中には、つい先日子を出産したマルスもいる。
子を持つものとしては放っておけないのだろう。
「いや、私は知らないな。ずっと寝ていたものだから。」
オリマーは見かけは子供に見えるが、一応スマブラメンバーの中では年長組に入る。
故に皆からは慕われ、トラブルがあった時には頼られる存在であった。
…試合の時だけは立場が逆転してしまうのだが。
「最近あの子、随分元気が無さそうだったから。どこに行っちゃったのかしら?心配だわ…。」
「気持ちよく眠ってらっしゃったから、起こすか起こさないか迷っていたのですけれど…」
オリマーの身長に合わせてかがんで話すピーチにゼルダ。
「別に気を遣わないでもいいさ。それより教えてくれてありがとう、皆。後で私も探しに行こう」
私はこっちを、私はあっちを。
そんな声が聞こえ、一人、そして又一人、ぽつりぽつりと人が居なくなっていった。
此処は寮の敷地内にある、割と大きめな広場。
子供達は普段よくここで遊んでいるのだが、今日はたまたま誰も遊びに来ていない。
そんな訳でオリマーは、日々の戦いの疲れを癒すべく、
ベンチの上で久々に静かな昼寝を楽しんでいたのだった。
ネスが最近どこか落ち込んでいるという事は、オリマーも感づいていた。
彼も二児の父親である。何も打ち明けてくれずとも、それ位は気付いて当然の事だ。
私がもう少し彼を見ていてやれば、と頭を抱えて溜息をつく。
彼の行きそうな場所を考えてみる。競技場か、それともまだ寮内に居るのか。
立ち上がろうとしたその時だった。
「…オリマーおじさん」
ふいにベンチの後ろにある木の陰の方から声がした。
ハッとして振り向く。
―探し物は案外近い所にあると言うものだが、こんなに近くにあったとは。
ネスが立っていた。それも自分の座っているベンチの真後ろに。
泣いていたのだろうか、目の周りが少し腫れている。
服にはぽつぽつとシミが付いている。
「…驚いたな、ずっとそこの木の後ろに居たのか?」
ネスは黙って頷く。
「…そうか、そうか。何があったんだ?
こっちに来て話してみなさい。私でよければ聞いてあげよう。」
とりあえずネスを隣に座らせ、肩をポンポンと叩く。
手が上手く肩まで届かないので、ベンチの上で正座をする。
もう、無言のままどれくらい経ったのだろう。
辺りは暗くなりつつある。
こういう時の子供の対応には慣れているつもりではあるが、
困っている理由すらハッキリしないので、どう声をかけてやればいいか分からない。
一方ネスは俯くばかりで何一つ口にしようとはしない。
よほど思いつめているのだろうか。
しかし、何も言わないからと言って問い詰めるのも良くない。
「…さて、ネス。そろそろ寮の中に入らないか。
もう此処も暗くなってきたし、皆も心配して…おっと?」
急にネスがオリマーの体一杯に抱きついて来た。
受け止めきれずに、ベンチの上に二人でねっ転がる。
…オリマーにとっては"ねっ転がる"というより、"押しつぶされる"といった感じだが。
「ちょっ…おっ…おい、ネス、重…」
必死にじたばたもがき苦しむオリマー。
しかしネスの耳にこの声は届いていないらしく、
ネスはただただ胸の上で体にしがみついて泣きじゃくっているばかりである。
胸が圧迫されて冗談抜きに苦しい。息が上手く出来ない。
その時、ネスが小さな声で呟いた。
「…ぐすん…パパ…ママ…!寂しいよ、帰りたいよ…っ…!」
…成る程な。
オリマーは全てを察した様子で、苦しさを我慢して彼をしっかりと抱きしめた。
そっと頬にキスしてやる。子供特有の柔らかな頬。
ネスの吐息が首筋に当たる。とても温かい。
「ん…」
苦しさと相まってオリマーの口から自然に声が漏れる。
自分の子供を抱いているような気分だ。
ああ、それにしても重いな…
…なんだか目の前が うすらぼんやりしてきたような…
次に起きた時には、オリマーは医務室に運ばれていた。
「気が付かれましたか、オリマーさん。」
そこにいたのはドクターだった。側らにはさっき広場にいた時よりももっと落ち込んだ顔のネス。
あっけにとられた顔でドクターの顔を見つめる。
「酸欠ですね。ネス君がここまで運んできてくれたんですよ。何があったんです?」
「へっ?…あぁ、その…色々だ」
横目でチラリとネスを見やる。申しわけ無さそうな顔で下を向いていた。
「んー…、そうですか。では聞かないでおく事にしましょう。
では私は夕食を運んできますので失礼します。」
何故か普段から異常に空気が読めるドクター。
GJとしか言いようがない。
そんな訳で、二人きりになった。
このまま又沈黙が続くかと思いきや、ドクターが居なくなった途端に真っ先にネスが口を開いた。
「あの…おじさん、ご、ごめんなさい…!」
深々とお辞儀をするネス。
「ん…いいや、別に気にしなくていいさ。
…それより、ネス。君はもう大丈夫なのかい?」
「あ…はい。おじさんのおかげで大分…。
ボク、元々ホームシックになりやすくって。
それでちょっと気分が落ち込んじゃってたんです…。」
(…私のおかげ?
私は最終的には何もしてやれていないような気がするのだが。
そういえばさっき気が付いた時からちょっと前まで
体をまさぐられていたような感覚が…
…ああ、どうか気のせいであって欲しい。)
「…そうか。それなら良かった。」
________
「あ、あの…。」
「…何だ?」
「…えっと…。」
「何ももったいぶる事はないだろう。言ってみなさい」
「…おじさんの事、パパって呼んでも、いいですか?」
「…ああ。構わないよ」
―声の主は、どこかボンヤリした顔の宇宙服姿の男。
その小柄な姿からは想像も付かないような低い声だ。
どっこいしょ、といった感じでゆっくり上半身を起こす。
日の光の眩しさに一瞬顔をしかめ、一つ伸びをする。
そう、彼はオリマーである。
「よく子供達の面倒を見て下さってるオリマーさんなら、
きっと何か知ってるかもしれないと思って…」
彼の目の前には、心配そうな顔で周りを取り囲むスマブラ女性陣。
その中には、つい先日子を出産したマルスもいる。
子を持つものとしては放っておけないのだろう。
「いや、私は知らないな。ずっと寝ていたものだから。」
オリマーは見かけは子供に見えるが、一応スマブラメンバーの中では年長組に入る。
故に皆からは慕われ、トラブルがあった時には頼られる存在であった。
…試合の時だけは立場が逆転してしまうのだが。
「最近あの子、随分元気が無さそうだったから。どこに行っちゃったのかしら?心配だわ…。」
「気持ちよく眠ってらっしゃったから、起こすか起こさないか迷っていたのですけれど…」
オリマーの身長に合わせてかがんで話すピーチにゼルダ。
「別に気を遣わないでもいいさ。それより教えてくれてありがとう、皆。後で私も探しに行こう」
私はこっちを、私はあっちを。
そんな声が聞こえ、一人、そして又一人、ぽつりぽつりと人が居なくなっていった。
此処は寮の敷地内にある、割と大きめな広場。
子供達は普段よくここで遊んでいるのだが、今日はたまたま誰も遊びに来ていない。
そんな訳でオリマーは、日々の戦いの疲れを癒すべく、
ベンチの上で久々に静かな昼寝を楽しんでいたのだった。
ネスが最近どこか落ち込んでいるという事は、オリマーも感づいていた。
彼も二児の父親である。何も打ち明けてくれずとも、それ位は気付いて当然の事だ。
私がもう少し彼を見ていてやれば、と頭を抱えて溜息をつく。
彼の行きそうな場所を考えてみる。競技場か、それともまだ寮内に居るのか。
立ち上がろうとしたその時だった。
「…オリマーおじさん」
ふいにベンチの後ろにある木の陰の方から声がした。
ハッとして振り向く。
―探し物は案外近い所にあると言うものだが、こんなに近くにあったとは。
ネスが立っていた。それも自分の座っているベンチの真後ろに。
泣いていたのだろうか、目の周りが少し腫れている。
服にはぽつぽつとシミが付いている。
「…驚いたな、ずっとそこの木の後ろに居たのか?」
ネスは黙って頷く。
「…そうか、そうか。何があったんだ?
こっちに来て話してみなさい。私でよければ聞いてあげよう。」
とりあえずネスを隣に座らせ、肩をポンポンと叩く。
手が上手く肩まで届かないので、ベンチの上で正座をする。
もう、無言のままどれくらい経ったのだろう。
辺りは暗くなりつつある。
こういう時の子供の対応には慣れているつもりではあるが、
困っている理由すらハッキリしないので、どう声をかけてやればいいか分からない。
一方ネスは俯くばかりで何一つ口にしようとはしない。
よほど思いつめているのだろうか。
しかし、何も言わないからと言って問い詰めるのも良くない。
「…さて、ネス。そろそろ寮の中に入らないか。
もう此処も暗くなってきたし、皆も心配して…おっと?」
急にネスがオリマーの体一杯に抱きついて来た。
受け止めきれずに、ベンチの上に二人でねっ転がる。
…オリマーにとっては"ねっ転がる"というより、"押しつぶされる"といった感じだが。
「ちょっ…おっ…おい、ネス、重…」
必死にじたばたもがき苦しむオリマー。
しかしネスの耳にこの声は届いていないらしく、
ネスはただただ胸の上で体にしがみついて泣きじゃくっているばかりである。
胸が圧迫されて冗談抜きに苦しい。息が上手く出来ない。
その時、ネスが小さな声で呟いた。
「…ぐすん…パパ…ママ…!寂しいよ、帰りたいよ…っ…!」
…成る程な。
オリマーは全てを察した様子で、苦しさを我慢して彼をしっかりと抱きしめた。
そっと頬にキスしてやる。子供特有の柔らかな頬。
ネスの吐息が首筋に当たる。とても温かい。
「ん…」
苦しさと相まってオリマーの口から自然に声が漏れる。
自分の子供を抱いているような気分だ。
ああ、それにしても重いな…
…なんだか目の前が うすらぼんやりしてきたような…
次に起きた時には、オリマーは医務室に運ばれていた。
「気が付かれましたか、オリマーさん。」
そこにいたのはドクターだった。側らにはさっき広場にいた時よりももっと落ち込んだ顔のネス。
あっけにとられた顔でドクターの顔を見つめる。
「酸欠ですね。ネス君がここまで運んできてくれたんですよ。何があったんです?」
「へっ?…あぁ、その…色々だ」
横目でチラリとネスを見やる。申しわけ無さそうな顔で下を向いていた。
「んー…、そうですか。では聞かないでおく事にしましょう。
では私は夕食を運んできますので失礼します。」
何故か普段から異常に空気が読めるドクター。
GJとしか言いようがない。
そんな訳で、二人きりになった。
このまま又沈黙が続くかと思いきや、ドクターが居なくなった途端に真っ先にネスが口を開いた。
「あの…おじさん、ご、ごめんなさい…!」
深々とお辞儀をするネス。
「ん…いいや、別に気にしなくていいさ。
…それより、ネス。君はもう大丈夫なのかい?」
「あ…はい。おじさんのおかげで大分…。
ボク、元々ホームシックになりやすくって。
それでちょっと気分が落ち込んじゃってたんです…。」
(…私のおかげ?
私は最終的には何もしてやれていないような気がするのだが。
そういえばさっき気が付いた時からちょっと前まで
体をまさぐられていたような感覚が…
…ああ、どうか気のせいであって欲しい。)
「…そうか。それなら良かった。」
________
「あ、あの…。」
「…何だ?」
「…えっと…。」
「何ももったいぶる事はないだろう。言ってみなさい」
「…おじさんの事、パパって呼んでも、いいですか?」
「…ああ。構わないよ」
2008年03月03日(月) 16:40:06 Modified by smer