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彼女はボクに向かって、ゆっくり口を開け、こう言った。

「・・・あなたの目の色・・凄い好き。」

そう言って彼女はにっこりと笑った。

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風が吹いた天気の良い日だった。
ボクが部屋にある剣を腰に差していると、
「お!マルス、どっか行くのか?」
ロイが声をかけてきた。
「うん。ちょっと久しぶりに素振りの練習でもしようかと。」
ロイが神妙な顔つきで、
「そうか・・マルスは真面目だなぁ・・あ、じゃあ俺が練習相手に・・」
「いや、ちょっと集中したいから・・・一人でやりたいんだ。」
「うーん・・ま、いいや。俺ネス達と遊びに行こ!」
そう言ってロイは部屋から出て行った。
そして、ボクも部屋から出て、鍵をかけた。

外に出ると庭でカービィ達が遊んでいた。
さすがにここでやるのも危ないと思い、別の場所にする事にした。

(そういえば庭の奥はとても広い草地だっけ・・・)
そう思い、ボクは庭の奥に行く事にした。
庭の奥でたまに皆でバーベキューをやる。
ボクは楽しかった思い出を胸に、その場所に向かった。


十分歩いただろうか。その場所に着いた。
気持ちの良い風がそよそよと吹いている。
美しい緑に囲まれ、素振りをするのは絶好の場所だった。
辺りを見回すと、一人の女性が座っていた。


「・・・ピーチさん?」
「あら、マルス!どうしたのこんな所にきて・・」
ボクは嬉しかった。その嬉しさを心の中にしまい、
「ちょっと素振りの練習に来たんです。」
「あらそうなの!練習熱心ね!」
そう言ってにっこりと笑った。

「・・・私は散歩に来たの。」
彼女は風を体全体で浴びながら言った。
「こういう風の日には必ずここに来るの。」
「・・・気持ち良いですよね、ここの風。」
ボクは思ったことを口に出した。彼女は嬉しいそうな顔をして、
「気持ち良いわよね・・。私、この風凄い好きなの・・・・。」
そう言って地面に座り、持っていたリュックから水筒を取り出した。
「私が作ったハーブティー。飲む?」
ボクは迷わず地面に座り、“いただきます”と言った。


彼女がお茶を注ぐ。細い手からお茶が注がれる。
風が吹いて、彼女の金髪が揺れる。一本一本丁寧に揺れる。
その光景は、ただただ美しかった。

ボクはそんな彼女を見て、罪悪感を感じた。
彼女には大切な人がいる。その人は世界中のヒーローだ。
ボクは・・・ただのしがない王子だ。どう考えても叶うわけが無い。
憧れから生まれた恋心。
そんな恋心を持って、ボクはこうして座っている。

「ハイ、マルス!どうぞ。」
彼女はゆっくりとお茶を差し伸べた。
「ありがとうございます・・」
お茶を貰い、ゆっくりと飲み干す。

ふと、思った。
この恋心が知られたら一体どうなるのだろう。
彼女はどんな顔をするだろう。

「マルス・・・・・?」
ボクは無意識に彼女の顔をじっと見つめていた。
彼女も、ボクを見つめる。
心臓の音がどんどん大きくなる。
彼女に聞こえてしまってるのでは、と思うくらい大きいと感じた。
ボクはこのまま雰囲気に飲まれてしまうのではないか。
憧れから生まれた恋心。
そんな恋心を持って、ボクはこうして座っている。


彼女はボクに向かって、ゆっくり口を開け、言った。

「・・・あなたの目の色・・凄い好き。」

そう言って彼女はにっこりと笑った。


ボクは我に返った。
何をやっているのだろう。
彼女が口を開かなければ、ボクは必ず彼女に手を出していた。
こんな風に想っているなんて、彼女は思いもよらないだろう。
風が少し、強くなった。

「マルス!私そろそろ皆の夕食の用意しなきゃいけないから帰らないと・・」
彼女は残念そうな顔でこちらを見る。
「そうですか・・・・。あ、お茶ごちそうさまでした。」
「いえいえ!また飲ませてあげるわ!」
彼女は背中にリュックを背負い、立ち上がった。
「じゃあね、マルス!練習頑張ってね!」
手を大きく振り、彼女は帰っていった。


「・・・・・・・練習、頑張ってね・・か・・」
ボクはそう呟いて、また地面に座った。
「・・・・・・・何やってるんだろう・・・ボク・・・。」

風は相変わらず吹いている。
口の中にはさっき飲んだハーブティーの味がする。
紺色の髪の毛が風によって吹かれる。
ボクは空を見上げながら、目を閉じるのだった。

END
2007年05月08日(火) 15:41:21 Modified by smer




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