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5-9

誰かの啜り泣くような声が、ゼルダの意識を覚醒させた。
正確には明確な『音』ではなく、寧ろ心に直接響く、『思念』と呼ばれるものだろう。
まるで迷子の子どもが泣いているような響きだった。
ベッドから体を起こし、窓の外を見る。真夜中だった。
いくら夜型人間とはいえ、こんな時間まで起きている事はないだろう。子ども達が夜泣きでもしているのだろうか。
そう思いながら、ゼルダはローブを纏って部屋を出た。

スリッパの音がぱたぱたと、廊下に響いた。
本当に、皆眠っているらしい。
聞こえるのは彼女の足音と、不思議な泣き声だけだ。
聞き間違いだろうか……そう思い始めたとき、大広間が見えた。
いつもみんなはここで、そろって食事を取っている。
他にも話をしたり、テレビを見たり、とくつろぎの場になっている。
その大広間の中央、大テーブルに、何かがいた。
「……え?」
思わず近づいたゼルダは、目を丸くした。
ミュウツーが、机につっぷしていた。
いつもピンと立っている尻尾も、床にだらりと垂れている。
テレビがつけっぱなしの所を見ると、どうやら気絶同然に眠ってしまったらしい。
最近はガノンドロフに昼夜問わず付き纏われていたし。
リンクと静かな時を過ごせるのは嬉しいが、彼が犠牲になっていると考えると……
ちゃんとした場所で寝るように言おうとも思ったが、完全に眠っているところを起こすのも躊躇われた。
ひとまず部屋から毛布でも持ってこようか……そう思って一歩踏み出そうとした、刹那。

(まって)

身体の中を、直に思いが走った。
妙な言い方だが、走った、としか言いようがない。
辺りを見たが、ここには自分とミュウツーしかいない。
「……ミュウツー? 起きているのですか?」
念のため呼んでみたが、返事はない。やはり、完全に眠っている。
気のせいか。気にしている間があるなら、毛布を取りに行った方が――

(いかないで)

まただ。また、聞こえた。
身体に頭に、心に直接響く声。

(ひとりはさみしい)

まるで幼子のような調子だが、声自体は渋く、重みのあるものだった。
間違いない。聞き慣れた、彼の声だ。
2008年03月27日(木) 17:39:01 Modified by smer




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