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7-559

物語は、温泉宿を目指すバスの中からはじまる。
今回はスマブラメンバー一同で、慰安旅行に出かけようとしているところ、ちょうど目的地の温泉宿を目指している最中だ。今はわけあって、リュカのバス酔いがひどくなり道の駅で一休みしているところだった。そして、昼過ぎ…
「みんな、ここで昼食はとったな。うん、リュカの車酔いもだいぶよくなったらしいから、出かけるぜ。よーし、全員乗ったな。よし、出発しよう。」
全員がバスに乗り込む。リーダーであるマリオが乗り込んだメンバーを確認すると、
「あれ、ソニックがいないじゃないか。」
確かに、さっきまでバスに乗っていたソニックの姿がない。
と、運転席から不機嫌そうな声が聞こえた。
「バスは遅すぎるから自分で走りたいってさ。」
その声の主は、キャプテン・ファルコン。今回はバスの運転の役をかっている。
ファルコンはメンバー1のスピードを持つスマブラメンバーだったが、その座をソニックに奪われて、大変ソニックを嫌っている。
ソニックもソニックで、ファルコンをからかって喜んでいる。今回も、完全にソニックの挑発だ。
機嫌が悪いファルコンを、マリオがなだめた。
「まぁ、ファルコン、いいじゃないか。一人分軽くなって得だろ。」
「……………」
ファルコンはイライラした様子でハンドルを握る。

スマブラメンバーで不敗の魔王、ガノンドロフもそのバスに乗っている。
ガノンは自らの、通路を挟んで隣にいる、あるポケモンに心が完全に奪われ、マリオの話など上の空だ。
そのポケモンは
風船ポケモン・プリン
ガノンは、プリンに切なる片思いを寄せていた。

また、ガノンは気がついていないが、実はプリンも、通路を挟んだ隣にいる猛々しい魔王に恋心を抱いていた。
互いに、互いを思っている。だが、世間体という大きな壁が、二人の恋愛を邪魔しており、互いの気持ちが伝わりあうことはない。
しかし…ガノンはこの慰安旅行の機会に、その壁を突き破ってプリンに思いを伝えようと企てている。そのために、ルイージとゲームウォッチというサポーターもつけて、今日の企画をずっと立ててきた。
もちろん、この告白のことはあくまで世間には内緒で、しかし、思い切った計画である。
だが…ガノンは、プリンが自分をどう思っているか知らない。告白にはガノンといえどもかなりの勇気を奮い起こしたものだった。



ともあれ、バスは温泉宿を目指す。何の問題もなく、平和に街を通り抜け、田舎道へ出て、さらに山道を進んでいく…のだが…。
バスは山道を登っていく。この山をひとつ越えれば、まもなく温泉宿だ。
バスの運転手の目に、チョロチョロとバスの前を行き来する青いハリネズミが映った。
ファルコンはこらえきれずに窓から顔を出して叫んだ。
「行くんなら早く行ったらどうだ!! 目障りだ! バスの前から消えろ!」
もちろん、ファルコンをからかうつもりのソニックはお構いなしにバスを追い越したり、わざと追い抜かれたりを繰り返している。
「ハッハハ、遅いな。グズグズしてると置いてくぜ。レースマニアのおっさんよ。」
「かちん」
その一言で、ファルコンが今までこらえてきた何かが音を立てて切れた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!! 許さん! あのハリネズミ! 許さんぞぉぉぉ!!」
運転席の隣に腰掛けていたマリオが、事の重大さに気づいたときにはすでに手遅れだった。
「ファ、ファルコン…!?」
「やいっ! ソニック!!!」
ファルコンが窓から身を乗り出して、ソニックに宣戦布告した。
「勝負だ! このバスと貴様と、どっちが速いか競争しようじゃないか! え!? どうだ! お前など130キロほど突き放してやるぜ!」
「え、ちょ、おい!! ファルコン、落ち着け! これは観光用に借りたバスだぞ!! レーシングカーとは違う! それに宿まで130キロもねぇよ!」
もうマリオが何を言っても手遅れだった。ファルコンの、ヘルメットの下に光る目はすでにレーサーの目だ。
不穏な空気になってきたバスのメンバーたちに、マリオはあらんかぎりの声で叫ぶ。
「みんな、何かにつかまれーっ!!!」
その声がまさにスタートの合図のように、ファルコンはハンドルを握り締め、アクセルを踏む。
「GO――――!!」
「うわーっ!!」
メンバー全員がバスの発車の勢いで後ろに押し倒される。

もはやメンバーを乗せた観光バスは、ソニックとスピードを競うファルコンのレーシングカーと化した。
言ってみれば、全員がレーシングカーに乗せられているようなものだ。すさまじい山道のカーブに合わせ、バスが激しくゆれる。
「キャーッ!」
「うおぉぉぉ!」
「ぐあぁぁぁぁ!」
「ナナ怖いよぉーっ!!」
「助けてーッ!!!」
「おか―ちゃ―んッ!!!」(←クッパ)
メンバー全員がシートベルト無しのジェットコースターに乗っているのと同じ。
ガノンは、席の手すりにしっかりつかまっている。流石に恐れを知らぬ王。こんなものではビクともしない。
(ウウム…ファルコンめ…なんと嘆かわしい…それでも大人か?)
そんなことを思っていたときだった。すさまじい揺れに紛れて、ガノンのひざに何かが飛び込んできた。
「ム…な、なんだ?」
ガノンのところに飛び込んだもの。それは、【ピンクボール】であった。
「…ぬあっ…!!」
まさか、嘘だ。ガノンはそう思った。
プリンが、自分の元に転がってきた。
ガノンにしてみれば、本当に信じがたいことだ。まさに、偶然が生み出した奇跡。
ガノンは、現実にありえる奇跡など全てを我が物にしている気でいた。しかし、現実はそれを超えている。
プリンが転がってきた。自分のひざの上に。これは、つまりガノンがプリンをだっこしているということだ。
(信じられぬ…これは、本当にありえることなのか? 夢か? いや、夢なわけがない。現も夢も網羅したワシが、こんな幻覚を見るはずがない…。現実か…現実を超越した現実なのか…)
ガノンは自分のひざの上を見下ろした。
(現実だ…。プリン…我が生命より愛しきプリンが…我がひざの上に…なんという、この気分は…恍惚とでも言えようか…)
ファルコンの暴走により、まだまだバスが揺れまくる。ガノンはひざの上の愛しき者をしっかりと抱え、守った。
(プリン…心配はいらぬ…このバスに乗っている間は、ワシがしっかりと守る…。)



ガノンは、己が抱え込む愛しき者の顔を見ようと、目を下へやった。

幸福な夢が一瞬にして悪夢へと変わった瞬間であった。

「…イタタ…あれ? ガノンさん?」
「………!!」
ガノンはまた別な意味で、目を疑った。
「ぐ…く…お…お前は………カー…ビィ…」
プリンではなかった。カービィだ。プリンではなくカービィが自分の膝元に転がってきたのだ。
ガノンは失望した。失望のあまり、カービィから手を放してしまった。
「うわーっ!!」
カービィはガノンの緩んだ手元から離れ、大きな揺れにあわせてピンボールの玉のように跳ねて飛んでいってしまった。
「…………………」
ガノンは文字通り顔面蒼白していた。揺れのせいではない。ショックのせいでだった。

もちろん、ルイージとゲームウォッチも揺れに苦しんでいた。
「せ、先輩、吐きそうっす…」
「ゲームウオッチ、我慢だ、我慢するんだ! 下を向いちゃダメだ、吐きそうになるからね、なるべく上を向くんだ…」
「あー気持ち悪い…」
ゲームウオッチは体を下に傾けた。
「ゲームウオッチ、上だ! 上を向くんだ!」
「あれ…べ、別に俺…下向いてませんけど…?」
「え…」
ゲームウォッチは下を向いているつもりはない。だが、確かに体が下に傾いている。いや、ゲームウォッチだけではない。ルイージも、ほかのメンバーもみんな、下向きに傾いている。
「え? な、なんすかコレ…」
「……やばい…」
ルイージの顔が真っ青になる。
「…これは…おそらく…山を登りきって、くだりに入ったんだ!!」
「…ええええぇぇぇぇ!!」
くだりにはいる。これは恐ろしいことである。
メンバー全員を乗せた重い車が下りにはいる。つまりそれは、ガンガン加速をはじめるということだ。
「うわうわわわあ!!」
「はーっははははは!! みろ! ハリネズミめが!」
ファルコンのバスがソニックに追いついた。
ファルコンは、ますますスピードを上げる。もう、坂を下っているのか坂を落ちているのか分からない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
闘いは
おわった
ファルコンのバスが、温泉宿にたどりついたのだ。バスは止まった。流石のソニックも、走り疲れてバスのそばにしゃがみこんだ。
二人は文句なしの同着であったが…
……………。
メンバーの九割が気絶するなか、意識を保っていたマリオが起き上がった。
「み…みんな…無事…か…」
メンバーがみんな倒れている。
なんとか意識を保っているのは、運転手のファルコン、アイクやサムスやマリオといった芯の強そうなメンバー、
それから、ゼルダに抱きかかえられていたトゥーンリンクやポポにしっかりつかまっていたナナなど、愛するものに守られた一部のメンバー。それと、眉一つ動かさないスネーク。
マリオはバスの中をみまわした。まず目に入ったのは、ガノン。
「…ガノンさん!?」
マリオがガノンをみると、まったく落ち着いた様子だ。威厳ある表情で、空を見つめている。
(大したもんだ…さすがガノンさんだ…)
マリオは、意識があった一人ひとりに声をかける。みんな、無事だった。
ところで、マリオが最後に声をかけた、一番奥の席にいたスネークだが…
「スネーク、大丈夫かい?」
「……………」
スネークは凍りついたように椅子に座ったまま動かない。
「スネーク…? 意識、ある?」
「……………」
「スネーク…大丈夫? スネーク、応答しろ、スネーク! スネ――――――ク!!」
スネークはいかにも厳格な表情のまま、気絶していた。
結局気絶していなかったのはマリオとファルコンを含めて9人だけだった。

「ファルコンさん、あんたいい年なんだから、気をつけていただかないと。運転手とは、乗っている人々の命を預かる役目なのですぞ。」
「すまない…」
ひととおりメンバーの面倒を見終えたDrマリオがファルコンに説教している。(Drマリオが気絶していなかったのは良かった)
そのお説教に、ファルコンも大変恐縮したようだ。
「ソニック、君もだ。大事な仕事中のひとをからかうのはいかんな。君はもっと他人のことを考えるべきだ。」
「…サーセン」
ソニックも、説教された。

メンバーたちは気絶から目を覚ますなり
「うえぇぇっ! は、吐きそう!」
「トイレ! トイレはどこだっ!」
「ぐえっ! ちょ、俺が先だ!」
「き、気持ち悪い…」
「誰か、お水ちょうだい…」(←クッパ)
メンバーたちはチェックインのまえに、まずトイレへと駆け込む。

さて、ともあれ温泉宿に到着した。
ところが、あまりにスピードを出しすぎたため予定より二時間も早く宿についてしまった。
マリオはプログラムの予定表を開く。これからの予定は、チェックインの後に、メンバーで貸しきった遊覧船に乗って河をたどりながら、そこで夕食というつもりだったが。
「えっと…今は三時だから…本当は五時にここについて、チェックインするつもりだったから…参ったな。早すぎだ。遊覧船は五時半からだからな…ま、チェックインを済ませておいて、フリータイムにするか。」

メンバーがひととおりチェックインを済ませ、それぞれの個室に向かう。和室風の、品のいい部屋だった。
一部のメンバーは二人組で泊まっているが、(アイスクライマーやピカチュウとピチューなど)ほとんど全員が一人の個室。ガノンもルイージもゲームウォッチも、それぞれ個室だ。
つぎにメンバーたちが個室から出てきたときには、みんな宿の浴衣を着て出てきた。
ピットやネスの浴衣姿は可愛らしく、ゼルダ、サムスはなんとも色っぽい。リンクやロイなどもなかなか似合っているが、
クッパやフォックスといった、とことん浴衣が似合わないメンバーもいる。(特にファルコンは浴衣姿でいつものヘルメットをかぶっているのでなんとも異形である。)
残念ながらプリン用の浴衣がなかったので、プリンは簪(かんざし)だけ付けているが、ガノンドロフは浴衣を着こなしている。まさに、【宿に泊まりにきたおじさん】。ついでに、ルイージとゲームウォッチも浴衣姿だ。
(ついでで悪かったっすね)
(まったくだよ…)
ともかく、メンバーはすっかり牙を抜いて宿泊客になっていた。



ガノンドロフの個室にて…
「それでは、臨時会議を開催する。いやはや、なんの持成しも出来ぬが。」
「いえいえ、そんな御持て成しなんて結構ですよ!!」
「そうっすよ!」
ガノンは自分の個室にルイージとゲームウォッチを召集していた。
まず、ガノンが切り出す。
「…では早速だが、これからの計画はどうなっているのだ? それを知らねば、ワシは動くことが出来ん。」
「はい、それについては今さっき話し合いました。」
ルイージがニコニコしながら言った。
「まだ夕食時まで時間がありますよね。だからみんな、ひといきついてお風呂に入ろうとしているようなんです。」
「ウム、そうか。…それで…」
ゲームウォッチも続ける。
「はい、そんでオレたち、パンフレット読んで風呂場のシステムに目をつけたんっすよ。」
「ほう…」
この宿の風呂場は大きく3つに分かれている。男湯と女湯、そして混浴も存在するのだ。
この混浴とは、いわゆる家族連れが入る入浴場。べつに疾しい気持ちで入る場所ではなく、家族団らんのために設けられた場所だった。
「それでですね、プリンちゃんはどうやら、ピカチュウ君やピチューと一緒に混浴のほうにいくらしいんです。」
「………それで…?」
「つまり、ガノンさんもこっちの混浴にはいれb…」

「馬鹿か貴様ら―――――――――ッ!!!!」

「家族連れでもない、子供でもないワシが、どうして混浴に入る理由がある!! それこそ、魔王としての威厳が損なわれるではないか!! ええい、ひっくり返っておらんで話を聞かぬか!!」
ルイージは部屋の隅で逆さひっくり返りになりながら答えた。
「はい…聞いてます…よく聞いてます…」
ガノンは腕を組んで座りなおした。
「とにかく、その案は却下だ。…別に風呂場で企てはいらぬ。」
ガノンは立ち上がった。
「ワシはもう、他のメンバーたちと共に風呂に入ってくる。もう男たちが入り始めているだろうからな。ワシは行ってくる。お前たちも入りたくば、すぐ準備をしてついて来い。」
ガノンはバスタオルを持って出て行ってしまった。
「…先輩…」
「まいったね……さて、五時半までに…次の作戦の準備をしとかなきゃ…」
「…しかし、大丈夫かな、ガノンさん…」
「? 何がっすか?」
ルイージは腕を組んで考える。
「…なんか、ガノンさん、どこか落ち込んでいる…ような気がするんだ。ここに着てから。」
「あぁ、それは…いくらオレも感じてました。なんかマリオさんの説明のときも上の空で『がのーん』としてたし…。」
「…うん、何かあったんだろうか……」




さて、場面は変わって、風呂場の様子を実況しよう。ぜひ、ここに挙げるキャラクターを思い浮かべ、風呂場の様子を想像してみてほしい。
男湯にいるのはフォックス、ファルコ、クッパ、ドンキーコング、ヨッシー(期待を裏切って♂)、ワリオ、ディディーコング、デデデ、ファルコン、スネーク、
オリマー、ソニック、マリオ、リンク、アイク、マルス、ロイ、メタナイト、Drマリオ、ウルフ、ルカリオ、そしてガノンドロフ。
ご想像していただけただろうか。
浴槽↓
「おい! せまいじゃないか!」
「ゴリラ、もっとはじっこにいけ!」
「こら、邪魔だぞ!」
「暑苦しいなぁ…」
浴槽外A↓
「ヘイ、マルス、シャンプーとって。」
「ソニック、君、いつもどのシャンプー使ってるの?」
「うおっ! アイクすげぇ筋肉!」
浴槽外B↓
「………………」
「……………………」
「…………………………」
風呂場はごちゃごちゃしている上、喪男と美男子と無言な男達にみごとに分かれてしまった。

一方、混浴にいるのは
カービィ、ピカチュウ、ピチュー、トゥーンリンク、ゼルダ(トゥーンリンクの付き添い…)、アイスクライマー、ピット、
ポケモントレーナーとポケモン達(ポケモンに♂♀がいるため混浴に)、リュカ、ネス、プリン、ミューツー(性別は不明)
男湯に似合わぬカワイイ男の子たちはみんなこっちにきている。
「あはははははは!」
「キャッキャッ!!」
「わーい!」
「みんな、さわいじゃダメ!」
「こらこら、走ると危ないよ!」
大騒ぎする子供達を、唯一の大人であるポケモントレーナーとゼルダが面倒を見ている。
そして隅っこでは、ミュウツーが一人、体を洗っている。(性別は不明)

さて、女湯はというと…
………
………
………
………
女湯に、ポチャンと水が落ちる音が響いた。
………
「とっても静かで…寂しいわね…」
「そうね…ゼルダもナナも、混浴のほうだし…」
広い女湯には、ピーチとサムスだけである。
「……………」
「……………」
ほかの客もきていないようで、しかも田舎の温泉宿。ほぼ無人の女風呂には、風と水の音だけが響いていた。

ちなみに、風呂に入っていないメンバーは、錆に弱いロボット、入浴の間も惜しんで計画を立てているルイージとゲームウォッチだ。



「ウーン…」
「ウーン…」
この期に及んで、風呂にも入らずに顔をとっつき合わせる二人の男、ルイージとゲームウォッチ。
「…どうする…」
「……遊覧船の計画はゲームウォッチに任せてたけど、もう仕上がってるんだよね。」
「はい。それは…まぁ、OKっすけど…。」
ゲームウォッチは気まずそうに答えた。
「どうしたの? なんかテンション低いけど。」
ゲームウォッチは頭をかかえた。
「いや…じつは何日も考えたんすけど、どうしても浮かばなくて…バスで揺られながらやっと考えついたのが、【遊覧船に乗っている最中に巨大ダコが襲来、ガノンさんがそれを見事に倒して一躍ヒーローに!】…ってのなんすけど…。」
「………はーぁ…。」
「………はーぁ…。」
遊覧船乗船まで、あと一時間だった。

rrrrrrrr…
《こちらスネーク…》
「あ。スネークさんですか?」
《ム…お前は確か…》
「どうも、スネークさん。【L】です。」
《L…確か、プログラムの書き換えを依頼してきた…》
「おっとっと! 声に出さないで、あなたの周りにはメンバーがいますね。」
《あぁ、まぁな。今入浴中だからな…》
「では、一方的に話を聞いてください。ほかのメンバーにこの事がバレたら困りますので。」
《…そうか。よし、話せ。》
「はい。では話しますね。まず、前回の依頼を受けてくださったことに感謝します。」
《…………………》
「そして、今回は、また新しく、依頼したいことがあるのです。」
《…………………》
「今回の依頼…。あなたの仲間に、プリンというポケモンがいますね。」
《…………………》
「そのコが持っている、慰安旅行の日程プログラムを、こっそり借りてきてほしいのです。」
《…………………》
「借りる作業と返す作業、それから前回の仕事を含め、あなたの働きに3万円お支払いいたします。受けていただけるのなら、このまま通信をきってください。」
《…………》
プツンッ…

湯船に浸かっていたスネークは、無線機の通信を切る。
「ん? スネーク、誰かと話してたのか?」
「…極秘任務だ。」
「お前、こんなところでも携帯電話つけてんのかよ。」
「携帯電話ではない! 携帯電話機能つき無線機だ! …耐水性や耐熱性もある無線機だからな。いつ連絡が来てもいいようにしているんだ。…確かに、公私混合することもあるが…。…俺はちょっとしなければならないことがある。先に上がるからな。」
スネークは湯船から上がり、脱衣場へ向かう。



スネークとのやりとりのあった30分後、ゲームウォッチはロビーの受付へ向かった。
「あの…すみません。こちらのほうに、【ミスターL】宛てに、届いているものがないっすか?」
スネークが手に入れたものがルイージやゲームウォッチのところに直接届いてはまずいので、ロビーの受付を経由しているのだ。
ゲームウォッチは受付から、紙袋に入ったファイルを受け取り、部屋へ持ち帰る。

「…よかった。今回は一発で来たっすね。」
「…うん。」
中に入っていたのは、間違いなくプリンのプログラムだった。後ろにちゃんと名前が書いてある。
「先輩…」
「うん…」
ルイージはボールペンと修正液を手に取る。

rrrrrrrr…
《こちらスネーク…》
「スネークさんですか? …Lです。黙ったままで話をお聞きください。」
《………………》
「こちらの作業が完了しました…ロビーに例のものを預けておきましたので、速やかに、プリンちゃんの部屋へ戻してきてください。痕跡がないようお願いします。」
《…すまないが…こちらも少し尋ねたいことがある。》
「!? はい、なんでしょう。」
《心配要らない。俺は他のメンバーから離れたところにいる。この会話が誰かに聞かれることはない。この山奥なら、たぶん電波も傍受されまい…。単刀直入に聞こう、お前は誰だ?》
「! そ、それは、お教えできません。」
《…一通り風呂を見回しても、俺と通信しているような奴は見当たらない。お前は、風呂の外にいるやつだな…。》
「……失礼。」
《…おい、おいL………。……通信を切ったか…》

「……………」
「せ、先輩…」
自分の部屋で、ゲームウォッチと二人でスネークと通信していたルイージ。もちろん、風呂には入っていない。
「先輩…大丈夫っすか?」
「…………やばい…バレたかもしれない…」

二度目の入浴を終え、風呂から上がってきたスネーク。
「あの声…あの丁寧なしゃべり方…ミスター…L…」
スネークは唸った。
「ま っ た く 分 か ら ん」
スネークが浴場から出てきて廊下を歩いていたところ、ちょうどロビーのほうから、風呂に入っていなかったロボットがやってきた。
ロボットはスネークとのすれ違い際、お辞儀をして去っていく。スネークはその後姿を目で追った。
「ミスターL…ロボット…Lo…ボット……」
スネークは何食わぬ顔でその場を去ったが、その内心には、一つの確信があった。
「…ミスターL…あいつだったのか……。」



(ロボットの頭文字はLではなくRです)



五時になった。
宿からほど近い、遊覧船が出る船着場への集合時間まであと20分、まだメンバーは集まっていない。
だが、一人だけ、すでにこの場に到着している男がいた。
ガノンドロフだ。
「く…ルイージ…一体なぜ…こんなに早く集合などと…」
じつは20分ほど前、ルイージがガノンに
「集合時間は5時20分ですけど、5時に集合場所へ行ってください。」
と、言っていた。ガノンは言われたとおり、五時にここにきたのだが…
「フム…しかたがない。待つか。」
ガノンは流れる河を眺めて待った。

ちょうどそこに、一人の女の子が駆けてきた。
「大変大変! 遅れちゃうよ!」
プリンだ。プリンが集合場所にやってきたのだ。
…今からちょうど30分前…
プリンは入浴を終えてから、集合時間を確かめるためにプログラムを見た。
しかし、そのプログラムはミスターL、もといルイージによって書き換えられたものであった…。
集合時間が、予定より早い五時と書き換えてあり、プリンはそれに騙されて、五時に集合場所に来てしまったのだ。

「あれー…? 誰もいない…も、もういっちゃったのかな? …あれ、でも船はちゃんと泊まってるし…」
プリンが辺りを見回していると、ふと、一人の男が目に入った。ガノンドロフだ。
「―――――!! ガ、ガノン様…!」
プリンは目を疑った、自分の憧れのガノンが、たった一人でこんなところにいる…!
しかも、河の一点を見つめるその姿は、なんとも絵になっている。風に揺らぐ浴衣姿も、それを引き立てていた。
(か…カッコいい……素敵…あぁ……そ、そうだ…みんなどこにいったのか、ガノンさんに聞こう…あぁ、でも恥ずかしいなぁ…ガノンさんとまともに話したことなんてないもの…でも、聞かないと。)
プリンは勇気を振り絞ってガノンのもとへ歩み寄った。
プリンがすぐ近くまで歩み寄っても、ガノンはまだ気づかなかった。
「あの…ガノン…さん?」
「!!?」
一瞬、ガノンは自分の耳を疑った。この誰もいない場所で、愛しのプリンの声が、しっかりと聞こえてきたからだ。
ガノンが振り向くと、そこにプリンがいた。
(プ…プリン…なぜここに…!? …あの二人の策略か…?)
一瞬、またカービィだのの見間違いかとも思った。だが、違う。プリンだ。間違いなく、己の愛しむ者だった。



おそらくはじめて、二人はまともに目を合わせた。
ふたりはじっと、お互いを見つめている。
「…」
(ガノン様…はじめて、まともに見た…やっぱり、本物を近くで見るほうが、ずっと素敵…。)
「…」
(プリン…初めてか、こんなに近くで会ったのは…簪(かんざし)も、よく似合っておる…。)
プリンは、夢心地でガノンを見上げていたが、やがて我にかえった。
「あ…あの、ガノンさん…」
「…………ん? ん、あぁ、何だ?」
ガノンも我にかえった。
プリンは辺りを見回しながら、不安げに尋ねる。
「ガノンさん…あの、集合時間になりましたけど…みんなどこへ…?」
「なぬ? 集合時間…? 集合の時間までは、まだ間があるぞ。五時半集合だからな。」
「えっ?」
プリンは今、プログラムを持っていなかったので、さきほど読んだプログラムに書かれていたことを思い出した。
確かに、五時と書いてあったような…。あれ、五時半だったかな…よく覚えていない。
(あれ…おかしいな…たしか五時って…見間違い? …ま、いっか。遅いよりましだものね。)
「そ、そうなんですか…。は、早く来すぎちゃった。」
「…そうか。時間を間違えたか。まぁよいだろ。」
………
…ガノンは思った。
せっかくのチャンスだ! ここへきて、プリンに何か、アピールせねば…と。
「そうだ、プリン、どうせもうすぐ時間だ。隣へ来て河を眺めてみないか。なかなかいい眺めだぞ。」
ガノンの突然の提案に仰天するプリン。
「えっ! ガノンさんの隣に…え、えぇ、もちろんっ!」
プリンにしても、これは夢のようなお誘いだった。
プリンはさっそくガノンの傍にかけて行き流れていく河を見つめた。
「うわぁ、きれい…。」

(…時間より早く来ちゃったけど…でも、そのおかげでガノンさんと話ができたし、ガノンさんの傍で…これってデート? きゃーっ! 超ラッキ〜!!!(^ロ^))

「プリン…」
ガノンが急に話しかけたので、プリンはびっくりしてガノンのほうを向いた。
「えっ! …ど、どうしましたか!?」
ガノンは、河をみつめながらプリンにたずねる。
「…プリン…ここへくるとき…バスに乗ったときだ…大丈夫だったか?」
「えっ…あ…はい。」
本当は、プリンはなんども右へ左へ振り回されていた。ガノンならそのくらいのことは気づく。
ガノンは、河を見つめながら、申し訳なさそうにプリンに言う。
「…すまぬ…ワシは、お前のすぐ近くにいたのに…お前を守ってやれなかった…。」
「えっ! 何をいっているんですか!?」
「…すまなかった…謝ろう。」
「そ、そんな、ガノンさんが謝ることなんてありませんよ!」
「…いや、謝らせてくれ。……次は、きっと守るからな…」
「!!!」
プリンは驚いて息が止まった。
プリンは目を丸くする。『次は守る』…ガノンが…自分を守ってくれる…そう思うだけで嬉しくなった。
「…ありがとうございます。…」
プリンは、溢れそうな思いを、その一言にまとめた。
「あぁ…」
ガノンも、たくさんの言いたいことを、全て一言に託す。
二人は、そのまま黙って、じっと河を眺めていた。
ガノンはバスに乗って、愛しのプリンとカービィを間違えてから、今までずっと憂鬱だったが、気分がすっかり晴れたようだ。
プリンも、ずっと夢見ていたガノンとの会話ができて、目が潤んでいる。



「いいなぁ…」
「ロマンっすね…」
二人には見えない木陰で、ルイージとゲームウォッチが二人を見守っていた。
長いこと、プリンと並んで河を眺めてている、無言のガノン。何も言葉は発していないが、ガノンは幸せだろう。二人は分かっていた。
「先輩、プリンちゃんも…」
「あぁ、きっと、ガノンさんが好きだったんだね。」
「良かったな。このこと知ったら、ガノンさん大喜びっすよ。」
「いや、このことはまだ話さないでおこう…」
ルイージが言った。
「ガノンさんは期待しているはずだ。プリンちゃんに告白した、その返事を。それを先に言ったら、面白くないじゃないか。僕らの役目は、二人をサポートして、見守ることだけだ。」
「先輩…やっぱりいいこと言うっすね…。」
ルイージとゲームウォッチは、その、河を眺めるふたりをじっと見守っていた。
………………
「ようやく飯だぜ!」
「ワーイワーイ!」
ルイージとゲームウオッチは良い夢から覚めたようにはっとした。
宿のほうを見ると、ソニックとカービィがこちらへ向かってきている。
「しまった! ゲームウォッチ、今何時!?」
「あっ、やべぇ! もう15分だ! みんな集まってくるっすよ!」
気が早いソニックと食事を楽しみにしているカービィが、もうやってきたのだ。
ガノンとプリンは、まだメンバーが来るのに気づいていない。大事態だ、こんな二人が誰かに見られたら…
「大変だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「せ、先輩! どうするんすか!!」
「よし、ぼ、僕にまかせるんだ!」
ルイージは大声で叫んだ。
「あれーっ!!? プリンちゃん、どこにいったの〜!!?」

「?」
プリンが、どこからか聞こえてきた声に反応した。
「ん? どうした? プリン…」
「誰かが、私を呼んでる。…探しているみたい…。ごめんなさい、ガノンさん、ちょっといってきます。」
「ム、そうか。」
プリンは宿のほうへ駆けていった。
そして、一度だけ、ガノンのほうを振り向いて、ガノンに叫んだ。
「あの、ありがとうございました!」
…ガノンは、その後姿を見送った。
もうすぐ、メンバーが集まってくる。

全員が無事、遊覧船に乗ることができた。
みんなが楽しみにしていた遊覧船で夕食。和食がメインの、豪華な夕飯だった。メンバーたちは皆、宴会騒ぎだ。
今回はさすがに、マルスも座席表の準備はしていない。(理由:マリオの大反対を受けたから)
みんなで自由に集まって食事をしている。
ガノンとプリンの席は離れた場所になってしまった。だが、運のいいことにお互いの姿が確認できる位置だったので、ときどき、チラッと目が合う。
(ガノンさん…)
(プリン…)
ガノンはまだ、プリンの気持ちを知らないし、プリンも、ガノンの気持ちは知らない。
でも、二人は幸せだった。
ガノンは、自分がプリンを愛せることを…プリンは、自分がガノンを愛せることが、幸せだった。

遊覧船の食事を終えたメンバーは宿に戻り、もう一度入浴をしたり、誰かの部屋に集まって騒いだりしている。
やがて、夜になった。プリンを含む幼い子供はもう寝てしまい、大人たちも、一つの部屋に集まって飲みはじめる。
ルイージとゲームウォッチは、誰もいなくなった男湯に二人で入っていた。
「いやぁ…疲れたね、今日は。」
「ほんとに、お疲れさんっす、先輩。」
「でも、まだ終わっていない。明日もあるんだからね。…そして明日、ガノンさんが告白するつもりなんだ…。まだこれからだよ。明日もがんばろう。」
「オスッ!」

さて、果たして翌日に、二人の仲は結ばれることになるのか…
それは、また別の機会に。




オマケ

時は深夜、宿に泊まったメンバーは皆、眠ってしまった。ただ起きているのは、ワリオ、スネーク、ファルコだ。皆、スネークの部屋に集まっている。
「みんな、そろったな。」
「おう! スネーク、早く見せろよ!」
「ワリオ、そんなにあせるな。すぐに見せてやるよ。」
スネークが、自分のノートパソコンを開く。
「は、はやく見せろよ!」
ファルコにせかされて、スネークはパソコンの電源を入れ、しばらく操作していたが…
「…おかしいな。」
開きたいファイルが見つからないようだ。
「…ん………。」
スネークは少し考えた後、急に黙ってパソコンを閉じる。
「!?」
予想外の態度に驚いた二人。
「…おい、どうしたんだ、早く見せろ!」
ファルコがスネークに詰め寄るが、スネークは首を振った。
「…すまない。無くしてしまった。…間違えて、他のパソコンに送ってしまった。」
「なにっ!?」
どうやら、スネークはお目当てのファイルを、誤って誰かに送ってしまったらしい。
「誰かに送った!? じゃぁ早く取り返せ!」
「無理だ…どうにもならん…送った相手は、おそらくすでにデータを消しているだろう…。」
「な…なに…」
その送った相手からは、どうやらそのデータは返してもらえないようだ。その、二人に見せたかったファイルの…。
ファルコとワリオも、お目当てのファイルにありつけずにがっくりきているらしい。だが、一番ショックを受けているのは自分の自慢のファイルを無くしたスネークだった。
「…………………おあずけかよ…」
「……………期待してたんだぞ…」
「………あぁ………性欲を…もて…あます………」
2008年03月08日(土) 17:13:16 Modified by smer




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