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スマブラメンバーが泊まる温泉宿も、日が沈んだ。いよいよガノンドロフがプリンに告白する時だが…
「…ルイージ、何か、今回の策はあるのか?」
「………何も、ありません。」
ルイージの対策は意外なものだった。
「何!? 策が無いだと? どういうことだ?」
「ガノンさん…」
ルイージは神妙な様子でガノンに言う。
「…もう僕たちは、ガノンさんとプリンちゃんが話し合えるきっかけを作ることが出来ました。これ以上、手出しをする必要はありません。」
「…………」
あとはガノン次第…ルイージはもう、何の策も用意していなかった。
「…もう、準備は整いました。あとは、ガノンさんが、告白する勇気を出すだけです。何も細工はいりません。プリンちゃんだって、ガノンさんが一人で勇気を出したのを知ったら、どういう結果であれ、きっと嬉しいでしょう。」
「………なるほど…」
ガノンは納得してうなずいた。
「…わかった。あとはどうなるか、ワシ次第ということだな…。よかろう。これ以上お前達の手を借りず、やってみようではないか。」
ガノンはそう言うと、【闘い】の準備をすべく出かけていってしまった。
ちょうどガノンと入れ替わりに、ゲームウォッチがルイージのもとへやってくる。
「先輩! お疲れっす! 注文しておいた『アレ』が届いたっすよ!」
「本当かい!?」
ゲームウォッチの後ろには、二人の身長より大きな箱が5〜6個置かれている。
「中身は確認した?」
「個数も全部、オッケーっすよ。」
「よし、じゃぁさっそく、これを持って河原へ行くぞ!」
「オスッ!」

ちょうどその頃…
ガノンはプリンの部屋に忍び込んでいる。
別に何かしたというわけでもなく、ただ、部屋の机の上にこっそり置き手紙を置いて去っていった。
手紙には
「今宵 七時 宿前木橋前に来たれ」
かなり丁重かつ達筆な字でそう書かれている。

プリンは七時ちょっと前に部屋に戻ってその手紙を手にし、一体何のことか分からないまま、指示された橋の前にやってきた。
…この橋は…
…ガノンと初めて、まともに話すことが出来た場所である、宿からほど近い橋だった。
プリンがそこへやってくると、前のようにガノンが佇んでいる。
(ガノン様…あの手紙の待ち合わせ場所にガノン様がいる…! …この書置きを書いたのは、ガノン様…? …まさか、そんなわけないよね…でも、こんなきれいな字を書けるのはガノン様くらいだし…。)

もし、この手紙をよこしたのがガノンだったとしたら…?

それは、プリンにとって幸福この上ないことだった。

ガノンがプリンを愛するように、プリンもガノンを愛している。
だがプリンは、自分の思いは一生、ガノンに伝わらないものだと思いつづけてきた。
…本当は、話すことすら、ままならないと思っていた。
だが…プリンは昨日、そのガノンと話すことが出来たのだ。

この宿に来てから、プリンにとって幸せなこと、ガノンと触れ合うきっかけが次々と起こっている。そして今回の手紙と、その待ち合わせの場所に既にいるガノン…
「…まさか…」



「ガノンさん………。」
「来たか…。」
「…はい…。」
プリンは突っ立っていても仕方がないと思い、思い切ってガノンに話しかけた。
「プリン、もう悟っておるだろうが、あの置手紙、ワシが書いたものだ。」
「…なぜワタシを呼んでくれたのですか?」
「………」
ガノンもガノンで、『告白したいから』なんてストレートにいえるわけがない。愛しき者に見つめられながら、それは尚更だ。ガノンはどう答えればいいか困ったが、やがて、それらしく河のほうに目をやった。
「…いや…この河の流れを…もう一度見たいと思ってな…プリン、お前と…」
それっぽく決めてみたガノン。
「河の流れ? ですか?」
プリンは河を眺めた。もう暮れかけている夕日を反射して、美しい。
「プリン、もっとこちらに来て、見てみよ。」
「あっ…はい!」
プリンは橋の手すりによじのぼって、河が良く見える場所に座った。

川岸に並ぶ二人は、じっと河の流れを眺めていた。
「ガノンさん…」
突然プリンが、ガノンに聞いた。
「ん? 何だ?」
ガノンがプリンのほうを向くと、また、目が合う。
プリンはただ、ガノンの名前を呼んだだけだったが、これではなにか話をしないと、と思いついた質問をぶつけてみた。
「あ、あの………あ、そうだ。ガノンさんは、ご出身はどちらなんですか?」
あまりに即席すぎる質問だった。
変なことを聞いてしまったかと一瞬焦ったプリンだが、ガノンはまったく気にならない様子で、答えを話して聞かせる。
「ワシの出身地か。ワシは、ここから遥か遠方の砂漠の国で生まれたのだ。」
「砂漠ですか…」
プリンの出身地、カントー地方周辺には砂漠がないのでイメージが出来ないかったが、過酷な環境で育ってきた、というのは理解できた。
ガノンはさらに、話を続ける。
「…そうだ。砂漠だ。…ワシは、ゲルド族という砂漠の民の王だった。」
「ええっ! ガノンさん王様だったんですか!」
「…まぁ…そうだ。」
「…すごーい…。」
プリンがあまりに感心しているので、ガノンは咳払いした。
「まぁ、過去のことはどうでも良い。ワシは今は王ではない。一人のスマブラ戦士だ。」
「…でもガノンさん、とっても厳しい場所で育ったんですよね?」
「あぁ。そうだな。」
……………
会話が止まってしまった。



プリンはもっとガノンのことを知りたいと思っているし、ガノンは、どうにかして想いを伝えるきっかけを作りたいと思っている。
ガノンがどう話を展開するか考える前に、プリンがガノンに尋ねた。
「…あの、ガノンさん…ガノンさんって、とっても強いですよね。」
「ん…まぁ、世間ではそう言われておるな。」
「はい…あの…どうしてそんなに、強いんですか?」
ガノンはしばらく考えた。
「…強いて言うなら、先ほど言った、ゲルドの王としての威厳や実力を得るためだ。」
「…なるほど…」
プリンは王だとかいうものにはまったく無縁なので、その気持ちを知ることは出来なかった。
が、ガノンは、さらに続ける。
「…ワシは、長い間、その【力】というものにあこがれ続けた。だが…最近になって知ったこともある。」
「?」
「力よりも、もっと尊きものがあることを知った。」
「? なんですか? それは…」
「力より、『守る価値があるもの』だ。ちょうど、このメンバーに参加した頃から、気づいたことだ。」
ガノンはこのスマブラメンバーに参加した頃の事を思い浮かべた。

……………
ガノンのもとに届いた一通の手紙、そこには
「スマッシュブラザースDX 出場招待状」
と書かれており、さらに、その概要が記されていた。
強く、ファイトのある戦士を求む大会。ガノンは戦士の全てを倒してやろうと意気込んで、会場へと出かけていく。
その会場に出場届けを出しに行ったとき、ちょうど、プリンを見たのだった。
それは、今まで強いものにしか惹かれることがなかった魔王がはじめて惹かれた、強いものではないもの、だった。
……………

「ガノンさん、その、守る価値があるもの…って、何ですか?」
「ウム…」
言いづらかった。
「…その、価値があるもの…それは…だな…ウム…。…自身は力を持っておらず、誰かの手を借りて、常に誰かと行動を共にせねばならないような、幼き者だった。
 …その者は、強くなろうと努力をしていたが…。必死になっていたようだった。大会でもなんとしても勝利を得ようと…しかし、勝利は得られず、ひたすらに焦っているようだった…
 力を持ってはいなかったが、力を得ようと、真っ直ぐな努力をしている、一人のファイターだった。」
「…その人、誰なんですか?」
「………」
ガノンはしばらくじっと黙った。
「? ガノンさん…その人って…一体…?」
ガノンは、どうしてもプリンだとは言えず、ただ、こう言った。
「ワシが、【守りたい者】だ。」
それだけ言うと、ガノンはふたたび流れる河のほうを向き、プリンから目をそらした。
「守りたい者…一体それは…」
プリンは急に、その言葉を唱えてある事を思い出した。

ちょうど一日前…ガノンと初めて話したとき…ガノンがプリンに言った一言…
(……次は、きっと守るからな…)
プリンは、それを思い出して驚いた。
「ま、まさか、ガノンさんが…その、守りたい人…っていうのは…」
「気づいたか…」
ガノンはもういちど、プリンと向き合った。

「お前だ…プリン…」




プリンは驚いて、ただただ目を丸くするばかりだった。
「プリン…お前に、こう言う機会を、ずっと待っておった…お前が……好きだとな…」
ガノンは再び、河のほうを向いた。
恐ろしかった、返事が。
どういう返事がくるか分からない。急に泣き出すかもしれないし、「ふざけないでください」と断られるかもしれない。
ガノンの額から頬にかけて、冷や汗が流れる。

「………ガノンさん…こっちを向いてください…」
そう言われてガノンがプリンのほうを向くと、プリンは微笑んで、涙を流していた。
「…ガノンさん…………ワタシ……嬉しいです………」

ガノンはその返事に、驚いた。
「な、なぬ…では…」
「ワタシも、ガノンさんのこと、ずっと好きでした。でも、そんなこと言ったらガノンさんに怒られちゃうかもしれないし、ガノンさんに迷惑がかかると思って…ずっと…黙っていました…。」
「…まさか…お前も…だっ…たのか…」
「…ワタシは、この想いはずっと…胸にしまっておくつもりでした…でも…ガノンさんも………」
ガノンは、その返事が信じられなかった。またなにか、夢でも見ているのかと、なんども思う。しかし、現実だった。
(まさか…信じられぬ…プリンがワシのことを……)
「そ、それは本音なのか? たとえば、誰かに言わされているとか…」
「本音です。」
「ウ…」
即答されて、発すればいい答えが出ない。

「…ガノンさん…なにも難しいことなんてありませんよ…ワタシはガノンさんが好き…ガノンさんはワタシが好き…それだけじゃないですか…。」
「…ウム…」
「…ガノンさん…もうちょっと、隣にいてもいいですか?」
「……あぁ…か、かまわぬ…。」
プリンはまた橋の手すりに腰掛けて、ガノンと並んで河を眺めた。



ちょうどそのとき。
ドン! と、橋の下の河原のほうから花火があがった。
「!」
「な、なんでしょう!?」
「ム…」
橋や宿からは見下ろすことができない場所から、花火があがっている。
まるで、二人を祝福しているかのようだった。

その花火を、宿のメンバーたちも、宿の個室から眺めていた。
「うおっ! 花火だ!」
「すげーっ!」
「なんだ? 誰が打ち上げているんだ?」
「わからないな…?」
「きれいだな〜…」
「た〜まや〜!!」(←クッパ)
ほとんどのメンバーが個室にいたので、みなが、この花火を見た。
一体誰の仕業なのか、それは、誰も知らなかった。

さて、誰にも見つからないような、宿の下方の河原にて…
「先輩! もうコレ、弾がないっすよ!」
「ゲームウォッチ、こっちの箱も開けて! ガノンさんからのボーナスでたっぷり買ったんだ、ジャンジャン打ち上げるんだ!」
ルイージとゲームウォッチが、クラッカーランチャーを天に向かって打ち上げていた。打ち上げられたクラッカーランチャーの弾は、天にきれいな花を咲かせている。
実は二人は何も策がないと言っておきながら、二人のムードを高めるために花火となるクラッカーランチャーを大量に箱買いして、準備しておいたのだ。
このためにガノンから受け取った30万円のうちの25万円を使い切った。(3万円はスネークへの報酬に使ったので、残ったのは2万円だけだったが)
二人の狙い通り、ガノンとプリンのムードは最高だった。

ガノンとプリンは、それっきり、話もせずにずっと、ずっと河と花火を眺めている。

「先輩…どうっすか?」
クラッカーランチャーを撃つゲームウォッチが、ルイージに尋ねる。
ルイージは花火をゲームウォッチに任せ、双眼鏡で二人の様子を眺めてうっとりしている。
「…あぁ…どうやらうまくいったようだね…。」
「せ、先輩、そろそろ代わって下さい…」
「あ、そうだね。」
ルイージも、打ち上げの作業に戻る。
ゲームウォッチは代わって、今度は望遠カメラを取り出した。
これは乱闘中に写真を撮るための高性能なもので、マリオにあらかじめ借りておいたのだ。
二人の場所はガノンとプリンから近いので、このカメラなら二人を撮ることが出来る。
ゲームウォッチが、二人にカメラを向け、シャッターを押した。

この、二人を祝福する壮大な花火大会はこの先2時間半も続いた。その間、ガノンとプリンは、じっと、まるで一つの絵のように、その場に佇んでいた。



さて、一夜明けた帰りのバス。
メンバーはみな、疲れを癒した顔で宿を去っていく。
帰りのバスは行きのバスよりもゆったりと進んでいった。
今回の旅行で、急にソニックとファルコンが仲良くなったらしく、ファルコンのバスとソニックは、並んで帰路を進んでいく。
バスの座席では、眠りについたり、話し合ったり、メンバーたちも行きと違ってくつろいでいる。
(偶然にも、ピットはゼルダの隣。昨日の一件もあってタジタジなピットだったが、なんだかんだでゼルダと親しくなれたようだ。)
そして、ここでもルイージとゲームウォッチの計らいが。ガノンとプリンの席が、隣同士だったのだ。しかも、一番後ろなので誰にも見られず、邪魔もされない。
プリンはガノンに寄りかかって眠ってしまった。ガノンもじっと前を向いているが、二人とも、この上なく幸せそうな笑顔だった。

さて、慰安旅行が無事終わった数日後。
ちょうど朝食時の、スタジアム食堂にはガノンがいた。
ガノンを含むメンバーたちはすっかり疲れを取って、また、いつもどおりの元の生活に戻っている。
と、ちょうど納豆を食べ終えたガノンのところにゲームウォッチが駆けてきた。
「ガノンさ〜ん!」
「ム、ゲームウォッチではないか。」
ゲームウォッチがガノンのもとにくるなり、封筒を一つ、ガノンに手渡した。
「ガノンさん、これ、受け取っておいてください!」
「なんだ? これは…?」
封筒には何も書いていなかったが…。
「まぁ、開けてからのお楽しみっすよ!」
ゲームウォッチは笑いながら、走り去っていく。
ガノンが箸を置いてその封筒を開けてみると…
「おおっ!」
ガノンとプリンのツーショットの写真であった。あの、花火のときに撮ったもののようだ。
「……これは…。」
ガノンはその写真を封筒に戻し、懐にしまった。

同じ頃、ルイージがプリンの寮部屋に忍び込んで、一つの封筒を置いて去っていった。
その直後にプリンが寮部屋に帰ってきて、封筒を発見する。開けてみると、ガノンが受け取ったものと同じ写真が。
「!」
プリンは驚いたが、これはきっとガノンがくれたものだろう、と、写真を大切そうに封筒から抜き出し、一つのアルバムの中に入れた。

ガノンもプリンも、自分の恋の話を他人に話すことは絶対になかったという。もちろん、ルイージやゲームウォッチやDrマリオもだった。

ガノンとプリンが結ばれるまでのお話はこれでおしまい。
だが、二人だけの話は、始まったばかりだった。

END
2008年03月10日(月) 23:07:25 Modified by smer




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