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けいとらっ!Bパート
 翌日の朝。竜児は、都内でも有数のホテルの前にいて、それを見上げていた。
「おうっ…でっ、でけえな…なんか…俺、場違いじゃねえか?」
Tシャツにデニムという、超シンプルな服装なのだが、眩しい日差しにギラリと光る三白眼。
担いでいるベースケースの中身がライフルであったら、国際A級のスナイパーにしか見えない。
しかしもちろん狙撃しにきたのではない。ホテルの会場を貸し切り、バンドの練習に来たのだ。
「おっはよーっスパーンク!!高須くんっ。早いジャマイカっ」
強い夏の日差しの中でも、輝く実乃梨の笑顔。動力源はソーラー発電なのかと疑ってしまうほど、
実乃梨は今日も明るく可愛らしい。
「実は、気合い入れすぎて1時間前に着ちまってさ、ホテルの周りを軽く30周しちまったよ!」
えへへ〜っと、Vサインをする実乃梨の額には、さわやかな汗が、粒になっている。
突然、ビュッと吹いたビル風に、実乃梨のショートヘアーがなびく。
その風は、実乃梨自身が醸し出す、甘酸っぱい匂いを、竜児に運んできてくれた。
無意識、だったと思う。その香しい風を、竜児は肺の中いっぱいに吸い込む。

当の実乃梨は、いつかトラネスを超えてやる〜っ!と叫んでいて、そんな竜児に気がつかない。

…罪悪感。結局昨夜は、例の段ボールを処分出来なかった竜児。
決意したその時、大河から電話がかかってきて、そのまま押入れにしまってしまったのだ。
 大河の電話の内容は、なんでも大河の母親が、文化祭のバンド演奏を楽しみにしていて、
今夜のパーティーに使う会場を1日貸し切りにしてあり、もったいないので、夕方まで、
是非使って欲しいとの事だった。

「ねえ、高須くんっ、あたし達の出会いを憶えてる?
 あたしは運命とか信じちゃうタチだから、
 これはやっぱり運命だと思う。…笑ってもいいよ…」

実乃梨はお得意のパクリギャグを決めたつもりだったが、
元ネタを知らない、今の竜児には全く笑えなかった。
「おうっ…あっはっはっ…」
会話は成立しているが、ふたりの思惑は対照的すぎる。そこへ…
「おはようございます。高須様でいらっしゃいますね?今日はお暑いので、
 館内へどうぞ。後から来られる方は私どもがお待ち差し上げます。」
ホテルの従業員の、そんな堅苦しい対応に、はい…と、返事するのが精一杯の竜児。
促されるままに亜美や北村を待たず、竜児は実乃梨と、ホテルの中に入っていった。

 マジかよ…待ち合わせ時間ぴったりに到着したのに、誰もいない…
亜美は、今日の練習はホテルだというので、ちょっと頑張っておしゃれしてきたのだ。
バンドの練習だというので、アビー・ドーンのカットソーに、リーバイス606。
ミネトンカのフリンジブーツ…と、ロッキンに、セクシーにキメてきたのだ。
北村からは、夏休みなのに、学校に呼び出されて遅れるっとのメールはあったのだが。
「アホくさっ、帰〜えろ…」
クルッと踵を返す亜美に、呼び止める声がした。
「おはようございます。川嶋亜美様でいらっしゃいますか?お連れの方々は、
 お先にご案内させて頂いております。こちらへどうぞ」
あらっと、亜美は大きめのサングラスを外し、その長いスリムな足を停めた。
そして竜児と実乃梨が案内された入り口とは違う入り口に、亜美は案内されていった。

亜美が案内されているホテル内は、適度にクーラーが効いていて、自然に汗が引いた。
背筋をピッと伸ばし、モンローウォークを決める。コブシ位の小さい頭に見事な八頭身。
つるっつるのミルク色の素肌の亜美は、ロビーにいる男達の視線を、独り占めする。

わったっしっはっ、美っ人っ!!今日この時に、偶然亜美ちゃんに出会えて、
お前達、もう死んでも悔いは無かろう〜っ…オーラを全開で放射している亜美に、
ひとりの紳士が近寄ってきた。亜美は気付く。あれ?この人…テレビで…マジ?

はじめまして…差し出された名刺には、誰でも知っている名前が書いてある。
亜美に、突然のビッグビジネスの話が飛び込んできた。

ホテルの最上階の会場から、練習を開始した竜児と実乃梨の奏でる音が聞こえる。

ダダダダ、ダダダダッ!一定のリズムで竜児はベースラインを弾き出す。
ツツタタ、ツツタタッ!その音にリードされ、寄り添うように実乃梨はドラムを叩く。

ハアッハアッ無我夢中の竜児。間違えないように、遅れないように、指先を交差させる。
くっ、んっ、実乃梨は、一生懸命の竜児に逆らわず、その指先のビートにシンクロする。
実乃梨は竜児と一体化した事に上気したのか、バスドラが速くなる。太ももが揺れる。
ハイハットが加わり、実乃梨は、陶酔した表情を作った。息が荒い。んっ!んっ!
Aパートに戻り、ちょっと余裕が出た竜児は実乃梨に歩み寄って来た。実乃梨と見つめ合う。
何度も頷くように動く度、実乃梨の汗は、竜児に降り掛かる。実乃梨のアタックが激しい。
サビに入り、複雑になるコード進行に、すでに竜児はその光景を楽しむ余裕がなくなる。 
ふたりの音が止まる。サビまでの通してみたが、なんとか上手くいった。

「うおおっ!いいじゃん高須くんっ!結構練習したぞなもし?抜け駆けしよってからにっ!」
スタタンッとスネアを叩き、ビシッと、スティックで竜児を差す実乃梨。
「おうっ!そうか?でもまあ今のは、櫛枝に助けてもらった所が多いな。ありがとな。
 実は俺、昨日遅くまで練習していたんだ。弾けるようになると面白い、ハマっちまったな」

広い会場にふたりきり。パーティまで7時間以上あり、たまにチラッと、
ホテルの従業員が現れる程度だった。実乃梨の荒くなった呼吸が聞こえる。
会場の音響は最高で、エフェクトを掛けても、全くハウリングしなかった。
ラックに設置してある機材は、よく分からないが、もの凄く高そうだ。
「しっかし…すげえな。大河ん家って、改めて…ブルジョアだったんだな…」
「だよね〜、持つべきものは、大河なりってね、大河は、今日は来ないのかな?やっぱ」
思い起こせば、大河の着ている服、持ち物全て、高級品ばかりだ。
あいつの母親だって、このご時世でポルシェだ。

だいたい竜児は、ポルシェの値段を知らない。

こんなの見せつけられれば、竜児だって、大河との経済的な格差を感じてしまう
「…なんか…俺…いいのかな…」
ふと、ロミオとジュリエットの物語を思い出す。あの物語の結末は…

「何がだい?高須くんっ」
竜児の心の揺らめきを感じ取ったのか、実乃梨は、いつの間にか竜児の傍らに近寄っていた。
「おうっ…いっ…言わねえ…」
実乃梨は、目を細め、優しく微笑む。
「なんだい高須くんっ、ツレねーなっ、らしくないぜっ!」
「そうか?俺、…俺らしく…、か。なあ、櫛枝。俺は、大河に相応しい男だと思うか?
 その…あいつ…金持ちじゃっねえか、こんな、俺はっっおうっ痛てぇ!!」

ドンッと、実乃梨は、竜児の胸を叩く。俯いて、垂れた前髪で表情は、見えない。
「高須くん…それ以上言ったら、だめっだよ。言っちゃだめっ…分ってるでしょ?
 大河は、高須くんの運命の人!今の話は、聞かなかった事にしてあげる…」

そうだな…っと、言わされた感いっぱいの竜児。実乃梨はゆっくり顔を上げる。
「でも…さっ、高須くんの言いたい事わかるよ。だけどさ。頑張ってよ。大河の為に。
 わたしも夢に…前進したかもしれないし…高須くんも頑張ろっ」
いつもそう。実乃梨は、竜児を勇気づけてくれる。後押ししてくれる。
気後れする無く、真っ直ぐな実乃梨が竜児は好っ……ん?夢に前進?

「そうなのか?櫛枝の夢って、ソフトの全日本になるってやつ…前進って、何かあったのか?」
実乃梨は大きな瞳をパチクリする。
「えっ?そっ、そうなの。昨日さ、家に帰ったら、体育大から電話が…って私の事は、いいじゃん!」
「よくねえって、何だよ、聞かせてくれよっ」
竜児は食らいつく。竜児は実乃梨と、お互いの頑張る姿を伝えあうって誓ったのだ。聞いて当然。
「…この前、地区大会で。負けちゃったじゃん?…その試合、見てくれた人がいたみたいで、
 ほんとはベスト8以上が条件なんだけど…スポーツ推薦っつーか、AO入試の話されて…
 結構、大学代表選手もいる大学でさ…ぶっちゃけ志望校なんだ…」
「スっゲーな!俺、なんか嬉しいよっ!ほんとっ前進だな!やったな!おめでとう」
竜児は自分の事のように喜ぶ。実乃梨は照れて、柔らかな表情になる。
「えへっありがとうっ高須くん。まだ内緒だからっ。禁則事項だからっ」
「そうだなっ。…禁則事項って、また大袈裟だな…」
「最初に話したのが、へへっ、高須くんで…よかった…」

な〜に、してんの?おふたりさんっ…
手を取り合って、喜びを分ち合う竜児と実乃梨の前に、亜美がいた。しかも至近距離。
「ちっ違うのっ、あーみんっ、蟲…そう高須くんと、蟲捕まえて、手が離せないのっ」
「そうだぞへんな勘違いすんなよっ…え?蟲?マジかっ?」
「なにが違うの?まだ何も言ってねえんだけど…まあ、タイガーには内緒にしてあげる。
 亜美ちゃん今、チョ〜機嫌が良いから!うふっ、ねえねえ、これ!この名刺見てよ〜っ!」
竜児でも知っている名前が書いてある…名俳優だ…なんでも初監督作品を撮るって
先週のズームインで紹介されてたけど…

「わたしっ。映画デビューするのっ、美しさも罪ねっ〜!」

「遅れてすまーんっ!いやー今日は暑いなっ!夏真っ盛りだ。実は学校に呼びたされてなっ。
 文化祭に協賛してくれる企業がいて、先生方とご挨拶していたんだ。いやー助かったっ。
 今年も1日だけの開催だが、黒字にしてみせるっ!お?コーラか?夏はコーラだなっ」
一年中コーラを飲んでいる北村は、パーティ会場に設置されたジュースディスペンサーを、
勝手に操作し、ドリンクバーよろしく、わははははっと、コーラを3杯連続で飲んだ。

正午を過ぎて、夜のパーティ会場の準備が、ちょっとづつだが始まっていたのだ。
「おいっ、北村!勝手に…飲んでいい…の…か?」
竜児は北村を制止しようとするが、すでに実乃梨と亜美も、勝手に飲み始めていた。
おまえら…俺にも飲ませろっ!と、竜児はベースアンプの電源を落とし、駆けよる。

「高須はコーヒーでいいな?こっちだぞ。…おっと、お菓子もあるじゃないか。ポッキーか?」
ポッキーにしては太いスティック菓子を、北村は口に放り込む。
「これは…うまいじゃないかっ!高須!お前も食べるんだ。これは強制だ」
コーヒーを注いでいる竜児の口に、無理矢理スティック菓子の残りを押し込む。
「おうっ!ぐふぉ、んぐっ、ぶはーっ!おいっ北村っ!旨めーけどっ死ぬって!」
禁断のメガネ剥がしを敢行し、プロレスごっこをはじめたふたりに、実乃梨が近づく。

「ねえねえ北村くん、高須くんっ、ホテルの人がお弁当くれたよっ。食べようぜ!」
「実乃梨ちゅあーんっ、そっちいっちゃちゃ、いやだあ〜っ、ヒクっ…」
はっ!酒の匂いがする…亜美を見る。…オンナの友情ってそんなもんにゃの〜…乱れている…

「ちょっと、あーみん、あんた何飲んだのさっ!うおっ…よくも短時間で…なんだこれ?」
スピリタスと書いてある瓶が空いていた。消毒液みたいな匂いがする。飲んだのか亜美は…

「…とりあえず昼飯にしようぜ…北村」
「そうだな高須っ。楽しいなあ、想い出さないか?去年の…」
「うおーーいっ!あたしゃあ、あーみんに捕われてるんだけどっ、離してくんないんだけどっ!」
亜美の長い手足が、実乃梨のカラダに巻き付かれている。これはこれでいいオカズになる…かも。
4人はちょっと長い休憩を取る事にした。

お弁当を食べながら竜児はふと、ここ一日で飛び込んでくる朗報に少し違和感を感じていた。
多すぎないか?ま…いいんだけど。それは竜児だけ、特になにも起こらなかったからかもしれない

その日の夕方。ドレスアップした大河は、ホテルのエントランスにいた。
社長令嬢という事で、シックな方と迷ったが、小柄で、…ぺったんこ…な体型を生かして、
プリンセスラインのドレスにした。大河はお嬢様というより、お姫様という言葉がぴったりだ。
まるでお城の舞踏会に招待されたみたいに、エレガントで、キュートで似合いすぎていた。

「うわ〜っ、遅くなっちゃった…」
エントランスを抜け、慣れないヒールで、カツカツ小走りの、動くフィギアのような大河。
それを見つけたホテルの従業員は、パーティの控室に案内しようと声をかける。
しかし大河は断り、バンドが練習をしている、最上階の会場にひとりで向かう事にした。

案内を断られたホテルの従業員は、誰かに無線で連絡、そしてその従業員はうなづく。

そんな事を知らずに大河は、目の前の最上階へのエレベータの扉が閉まっていくのを確認。
いけるっ!っと思ってしまった大河は、自慢の脚力で全速力。加速するっ!
カッ!カッ!カッ!とおおっ!!大河は扉に飛び込み、ギリギリ間に合うが、足がもつれて…

「あわわわっ、コケッ…あれ?」
確実にコケると思ったが、大河は宙に浮いたままだった。

「チッ」
という、舌打ちが聞こえた。大河に対してだろう。
大河はムカッとするが、その舌打ちの主は、大河を支えてくれていた。
確かに大河が悪いのだが…なんか気に食わない。
仮にも手乗りタイガーと恐れられる大河。しかも舌打ちは、大河の専売特許だ。
そのわたしに…大河はムカムカ度が上昇してくる。大河を降ろした後、男は背中を向けている。
竜児より、少し大きい。180cm前後か。こいつの延髄に飛びゲリでもカマしたろかっ、
完全な逆恨み、八つ当りとしか思えないが、大河が、強烈な殺気を、怨念を送ったその時

「舌打ちしたぐらいで、何しようってんだ?止めとけ」
背中を向けたまま、男は大河の殺気をよむ。ほお…こいつ…大河の戦闘本能に火がつく。
もう舌打ちの事はどうでもよかった。強さへの欲望、羨望、渇望…

髪をアップし、スワロフスキーのボンネが光っている。絵本から飛び出て来た、
お姫様のような大河。スカートの端をちょんっとつまんで、ふわっと広げる。
優雅にカーテシー…ではなく、大河は、重心を落とし、跳んだ。男の後頭部めがけて、
上段回し蹴りっ、履いているヒールが、ヒュッと、風を切る。ガスッ!!!

「じゃじゃ馬だな。嫌いじゃないぜ」
大河の足の指先が、じんじんするほど、光速に放った大河の回し蹴りは、
男の左手に捕らえられた。よく見れば、男の右手は、次の一手に備え、掌握されている。
「ひょおおっ!!すっ、すすすすいません…れす」
戦闘解除した大河。男は何事もなかったかのように、また大河に背を向ける。
…同種。大河そう思った。ただ手乗りとか可愛いモノではなく、大型の…虎…

ガタン
両虎を囲むエレベータが止まる。
「えっ?なんで?嘘っ、止まっちゃったっ!ふおぉぉっ!」
大河は、インターホン呼出ボタンを冷静に押す男の姿を見て、パニクる自分に恥かしくなる。
しかし…スピーカは、無言のままだ。
「…携帯」
「けけけけい?」
「携帯電話。俺は、持たない主義なんだ」
「あっ、けっ携帯電話!あるある、待っててっ」
ポーチの中身をバラバラ出して、大河は携帯を取り出す
「うっそっ圏外…」
男は、大河に振り返り、今度は優しく話してくれた
「さっきはレディーに対して無礼な態度をして、すまなかった」
ばらまいた口紅やらハンカチやらを拾いながら、その男は、大河に微笑む。
「…いえっ、…わたしこそ…ほんと、ごめんなさい」
いつの間にか、大河の耳は朱色に染まる。男は獣の匂いがした。嫌いではない。
「このクラスのホテルならすぐ復帰するだろう」
大河を安心させようとする男の言葉、牙を納めた虎…そんな感じがする
「実はいまから気が進まないパーティーに立席するんでな、悪かった」
「あっわたしもそうかも…面倒くさっ」
「ふっ、気があうな。つまらねぇ奴ばかりだと思っていたが…安心した。
 おまえ…綺麗だしな。恋人いるのか?」

大河の目が泳ぐ。惑う。大河は竜児の顔を何とか想い出し、ゆっくりうなづく。
「そうか、大事にしろよ。望まない結婚をする奴もいるんだから…」
それは、自分の事を言っているのだろうか?よく見たら、かなり優しそうな男の横顔を見ながら、
この男と結婚出来るなら、その相手は、スゴイラッキーなんじゃないかなと、大河は密かに思った。
ポーッとしている大河を覚ますかのように、エレベーターはゴトッと動き出した

チンッ
最上階に到着すると、大河は逃げるように走って会場へ。
逃げないと、ここから、そうじゃないとヤバい。その…いろんな意味で…
キョロキョロ会場を探す大河。こっちかっ!再び走り出す。
大河に遅れて、エレベーターを降りようとした男は、拾い忘れた虎柄の手帳に気付く。

「お〜っ!大河っ!カッワイイじゃ〜んっプリプリプリティ〜だああっ」
実乃梨の声に全員演奏を止め、入り口の大河に視線が集まる。
「遅くなってごっめ〜んっ!ありがとうーっ!みっのり〜んぬふっ!」
実乃梨の胸に飛び込む、ピンクのドレスを纏う大河。まるで映画のワンシーンのようだ。
ただ、実乃梨が頭に巻いたタオルが残念だが…北村が、駆けつけ三杯!とコーラを持ってくる。

「おうっ、大河。すげぇ…似合ってるな」
大河は竜児に褒められたが、ちょっぴり気まずそうな顔になる。
その態度を見て、マイクをブンブン振り回す亜美。ゴーゴー夕張というよりか、宍戸梅軒の娘か。
「タイガーさぁ、高須くんが似合ってる〜って、言ってくれてるんだからさっ、
 もっと喜びなさいよっ、例えば…竜児ぃ!あはっ、嬉しい〜って、感じっでっ!」
もうとっくに酔いが醒めているはずの亜美は、どさくさに紛れて竜児に抱きつく。
おいっ川嶋っ、と焦った竜児は、なかなか亜美を振り払えない。

「…竜児。わたし、時間無いの。もう控え室行くから、ちゃんとかたしておいて、じゃあね」
「あれ…タイガー怒っちゃった?」
亜美はそう言った後、違和感を感じてた。あの態度は…まさか、誰か…
おいっ大河っ!と竜児は大河に声をかけるが、大河は出ていってしまった。

北村は、結局自分でコーラを飲んだ。

***

控え室には、母親と父親が来ていた。幼い弟は、託児所だ。
「あら大河、あと1時間後よ。大丈夫?」
「うん…わかってる。大丈夫よ」
なんか…いつもと違う…大河に覇気がない。

大河の真っ白い肌は、吸い込まれそうなくらい綺麗で、体調は良さそうだ。
溜息なんかついて、悩みでもあるみたい。 それとも気付いたのか?
今日のパーティーで…大河に打ち明ける婚約の事を…
しおらしい娘の態度に、大河の母親は、心を傷めた。

「大河ちゃん遅いね〜☆」
竜児は休みの日には大河と、泰子の仕事場、弁財天国でお好み焼きを食べる事にしていた。
「大河は、今日は来ねえんだ。なんか、母親の会社のパーティーなんだと」
泰子はpiyo piyoと、ヒヨコの絵が描かれているエプロンで手を拭いた。
「え〜、それならやっちゃんのお店に来ればい〜のにぃ…
 大河ちゃんの好きな、ブタ玉泥機璽咼垢靴舛磴Δ里砲福繊」
「まあ、そんな訳いかねぇだろ、人数多いし、それに…」
お姫様を呼ぶには、この店ではあまりにも大衆向け、庶民派過ぎる。
という言葉の続きを竜児は、泰子に告げる事が出来なかった…が、
「泰子さんっ!すいません、マヨネーズが無くなりましたっ」
北村も一緒だった。
「ちょっと!祐作っ!!マヨネーズ掛け過ぎだっつーの!自分の皿に掛けろ!」
亜美も一緒だった。
「高須くーん!こっちも焼けたよっ!もう1つヘラ取ってくれい!…よっサンキュ〜!
 …究極まで燃え上がれ俺のコスモ…今こそ目覚めよっ!わが聖剣、エクスカリバーよ!!」
実乃梨ももちろん一緒だ。テキパキと、お好み焼きを切り分け分配する。
最近では泰子の店でもバイトをこなし、その手付きはプロフェッショナルだ。
「あいよ〜、喰いねえ、喰いねえ♪」
「櫛枝、3年は引退だけど、まだ部長だからソフト部の合宿いくんだろ?いつだっけ?」
「明後日。明日は図書館いくよ。バンドの練習に」

「でもさ、もう少しリズム隊がしっかりしないと唄いにくいんだけど…実乃梨ちゃん後半さ、
 すごい走り過ぎて、高須くんが遅れちゃうのよね〜、そうだ、明日はふたりで練習しなよ!」
北村が何か言おうとするが、亜美はお好み焼きを北村の口に突っ込み、阻止した。北村は悶絶する。

「そだね…うん高須くんっ、明日はふたりで練習すっか…ついでに譜面買いに行こうぜっ!」
「おっ、おうっ、そうだな…」

竜児と大河は、ガチだし、あんなオレンジなんて未練タラタラな曲作っちゃう実乃梨に、
少しくらい良い思いさせてやるかっ!
…というこの亜美の軽いお節介が、竜児と実乃梨の運命を変えるとは、誰も予想出来なかった

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