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228 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/03/05(金) 19:40:08 ID:SrvVJfBX

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原作と設定がかけ離れすぎてるので、そういうのがダメな人は弾いてください。




「おおはし幼稚園」




雀の囀りをBGMに、かれこれ十分は格闘しただろうか。
「こんなもんか」
鏡の前で四苦八苦しながらも、ようやく納得というか、自分の中で妥協点を出すことができた。
就活用にと投売り同然のセールで買った、いつまで経っても着慣れないスーツ。
シワ一つとしてないよう念入りにアイロンを掛け、今日はいつも以上にパリッと仕上がっている。
クリーニングに出したものと遜色ないと、胸を張って言える出来栄えだ。
シャツもそうだしネクタイだって、あまり派手すぎず、かつ地味ではない色の物をしている。
着られている感が否めないのは、まぁしょうがないだろう。
追々そんなこともなくなるさ。
なんたってまだ社会人一年生なんだからな。
そこまではいいんだ。
「時間だぞ、泰子。ほら、さっさと起きろ」
「ん〜…あとごじかんだけ…」
揺するも目も開けずに寝返りをうっただけで、しかもそうのたまう。
無視して背中に手を這わせ、腰から上を強引に起こす。
「俺は今日は早いんだよ。朝飯はもう用意しといたから、他は自分でやれよ」
眠たそうに瞼をごしごし擦っていた泰子が、これまた眠気の抜けきらない目やにだらけのしょぼんとした目で俺を見上げる。
「りゅうちゃん、きょうなんかあるの…あぁ〜、そっかぁ。もう今日だっけ」
寝ぼけていた泰子は俺が普段着ではなくスーツを着ていることに気が付くと合点がいったようだ。
「んしょ」
温もりが残る布団から起き上がるとタンスからタオルを取り出して、さっきまで俺が篭っていた洗面所へと歩いていった。
その隙に残っていた身支度を整える。
出勤初日から遅刻や忘れ物なんてできないからな。
昨日だって何度もカバンの中身を確認したが、一応最後に持っていくべき物がちゃんと入っているか見ておく。
「あ〜おべんとうだぁ〜。いいなぁいいなぁ、やっちゃんもおべんとうがいい」
最後に入れようと思っていた弁当箱を、タオル片手に戻ってきた泰子が見つけてしまった。
「ねぇ竜ちゃん」
「だめだ」
キラキラ輝く星を放っていた眼差しが瞬く間に隕石を飛ばしてくる。
そんな顔したってだめだ。
ぶーぶー言ったってだめだ、ぶたかお前は。
それにちゃんと拭いてからにしろ、まだ顔中濡れてるじゃないか。
「なんでぇ」
むくれた泰子の顔をタオルで拭いつつ時計を見ると、そろそろ家から出ないといけない時間になっていた。
やや乱暴に終えると弁当箱をカバンに押し詰め、俺は玄関へ。
「俺は仕事があるんだよ、泰子と違って」
「じゃあやっちゃんのお昼は?」
「朝飯のおかず多めに作っといたからそれでどうにかしてくれ」
あからさまに不満げな雰囲気を出されてもどうしようもない。
昼飯まで別に用意する時間がなかったし、弁当箱の中身だってあまり変わらないんだ。
あるもので我慢してもらうしかない。
「あと大家さんに頼んであるから、鍵だけちゃんとかけてけよ。それと二度寝もするなよな」
いじけた泰子は返事をしないで、体育座りの姿勢になって体をゆらゆら。
その頭に手を乗っけてくしゃくしゃ撫でる。
「できるだけ早く帰ってくるから、それまでに食いたいもん考えとけよ。晩飯に出してやるから」
「…ほんと?」
「ウソなんか言ってどうすんだ」
チロリと覗かせた瞳は思案でもしてるのか、キョロキョロと忙しなく動く。
だけど最後に俺がそう言うと、泰子は膝にくっ付けていた顔を上げた。
「はやく帰ってきてね。やぶっちゃダメだよ、竜ちゃんからやくそくしたんだからね」
「わかったわかった」
苦笑を一つし立ち上がる。
「それじゃ行ってくるな、泰子」
「はぁい、竜ちゃん、いってらっしゃい」


開け放したドア。
その向こうに広がる景色は代わり映えのしない見慣れたもので、だけどいつもとは少し違う気もしないでもない。
緊張するのはまだ早い、落ち着け。
見送る泰子を背に、俺は今社会人としての一歩目を───
「あっけど竜ちゃん、スーツでその髪ってなんかへ〜ん。おたくのやくざさんみたいだよ」
踏み出す寸前で引き返した。

「おおはし幼稚園」

大急ぎで正門を潜り、通用口を走りぬけ、職員室へと駆け込んだ俺を待っていたのは暖かな歓迎ではなく、
さながら強盗か脱獄犯…どっちにしてもとりわけ凶悪で極悪で卑劣な…が、立て篭もるために押し入ってきたのかと誤解されたような悲鳴だった。
目と目が合った瞬間震えて泣き出した人もいた。
泣きたいのはこっちの方だ。
いくらなんでも即座に電話に手をかけないでくれ、目星なんて簡単に予想できるが、どこにかける気だったんだ。
遅刻したことと他諸々に対して頭を下げる俺を、その場にいた全員がこう思っていただろう。
観念して自首する気になったのか? と。
だから面倒なんだ、この時期は。
どこへ行こうと第一印象はこれ以上なく最悪の最低で、そこから始める人間関係は良好だなんて言えるはずもなく、
しかも他人からの評価は大抵下がりやすく上がりにくいから、しばらくの間はやり辛くって仕方ない。
早い話、居心地が悪い。
小中高といいその後といい、それまでとの環境が大きく変わるたびにこういった嫌な思いはしてきた。
いや、今だってしている。
これから同僚として一緒に仕事をしていく、まだ名前だって知らない先輩たちは一様に顔を引き攣らせ、怯えたままでいる。
向こうだってそういう意味では嫌な思いはしているだろうが、こっちが好い気になっているとでも思ったら大間違いだ。
それもこれも全部この目つきのせいだ。断言してもいい。
生まれつき悪い、なんて言葉じゃ生易しい鋭すぎるこの目つきは、会ったことすらない親父に瓜二つらしい。
それもどうやら相当な穀つぶしだったそうだ。
決して多いとはいえない親父の話は、ほぼ全てが悪評でしかなかった。
甚だ迷惑な置き土産に、もしかしたら親父と関わったばかりに悲惨な目に遭った誰かに呪われてるんじゃないかと疑ったこともあるくらいだ。
この両の目は俺に不幸しか持ち込まない。
今朝にしろ、若干暗くてもいいから、せめて大人しい印象を与えられるようにと引っ張り、前髪を下ろしていたんだが、
泰子の一言でそれも諦めた。
いくらなんでも見かけがオタクのヤクザじゃあ、暗いだろうけど大人しい印象は与えられないだろうし、変人の枠に押し込められることは想像に難くない。
さすがに勘弁願いたいし、そんな根暗の犯罪者みたいな奴が、こんな犯罪者も竦む目をしていたら、保護者が余計に不審がるかもしれない。
俺は、今日から幼稚園の先生になったんだから。
些細な事からどんな大問題に発展するか分からないこのご時勢、教育者の人格も常に問われ続け、何かしようものならすぐマスコミを賑わせる。
幼稚園教諭ともなれば、なおのことと言えるだろ。
ましてこんな目つきじゃあな。
そういったものを考慮してかどうかはさて置き、就活中も書類選考だけで落とされたのは数え切れない。
おそらくは貼り付けた証明写真を一瞥しただけで履歴書が紙くずになっただろうことは容易に考えられ、運良く面接まで残っていても、
主に目つきのことを重点的に指摘され、遠回しにうちには必要ない、来るなと言われたこともある。
このままじゃ職にあぶれ、生活の危機という嫌な影も脳裏をチラつきはじめたとき、合格通知を送ってきたのがここだった。
おおはし幼稚園───灯台下暗しとはよく言ったもので、自宅から大して離れていない場所に在ったこの幼稚園に目が行ったのは、
けっこう…いや、かなり社会の厳しさを目の当たりにして打ちひしがれていた辺りで、本音を言うとまさか受かると思っていなかった。
にわかには信じられず、ダメもとで採用理由を尋ねたところ、園内に一人しかいない男性教諭が退職してしまい途方に暮れていた折に、
唯一やってきた男が俺で、力仕事を任せられる人手として俺を雇ったと、そういう次第だそうだ。
なんだか腑に落ちないというか、素直に喜べなかったのは何でなんだろうか。
ともかく、一応は希望した通りの職に就くことができ、晴れて今日から園児の前に立つ俺が最初にした事といえば、
「お騒がせして申し訳ありませんでした…」
深々と、園長はじめ職員の方々に頭を垂れて本気の謝罪をするという、普通だったらまずありえないような自己紹介だった。



「…そんなに恐がることないじゃねぇか…」
あれから大体三十分が経過した頃だろうか。
俺は庭園の隅で一人、何をするでもなしにぼんやりとしていた。
向こうでは年長組みと年中組み、それに今年から入園する子供たちとその保護者が並び、壇に立った園長がなにか話をしている。
本当なら俺も混じっているはずだった。
が…子供はおろか親すら涙ぐむんだ、そのままその場に居られる訳がない。
俺は人影に隠れるように身を小さくしてそこから離れた。
世の中上手く立ち回れるに越したことはないんだが、なにもそれが全てじゃないのも理解している。
でも、こんなんでこの先やってけるのか、俺。
「…ん?」
早々に弱音が出そうになった俺の視界の端を何かが横切っていった。
ぱたぱたちょこちょこ、小動物みたいなすばしっこさで走っていくのは腰まである長い髪を揺らした、小さな女の子だった。
変だな、俺以外はみんなあっちに並んでいるはずだったんだが。
なんとなく気になったんで様子を見ていると、その子は人が出払い、明かりを消した教室へと入っていった。
「どうしたんだ? 忘れ物でもしたのか?」
遅れて俺が入ったとき、その子はバッグを前に、何故か頭を抱えていた。
床にいくつも散らばる、どれも同じ色、同じ形をした、指定のバッグを。
自分のがどれだか分からなくなってしまったんだろうか。
手伝ってやった方がいいか?
そう思い声をかけるも、瞬間、その子はビクリと体全体を大きくわななかせた。
しまった、驚かせたかもしれない。
「…? …だれよあんた、こんなとこでなにしてんの」
しかしおっかなびっくり振り返った女の子は俺を見るなり態度を不遜というか、えらく強気なものにする。
しかもまぁ、ずいぶんと迫力があるな。
膝を曲げて視線を同じくらいにしようとするも、相手が小さすぎて若干見下ろす形になっているというのに、
それでも子供らしからぬ、気を抜けば飛び掛ってきそうなガンを放つその女の子に、俺の方が萎縮しそうだ。
と同時に、捕らえようのない違和感も覚える。
「ああ、いや、俺は」
「なに? ひょっとして泥棒? やめときなさい、どうせすぐ捕まんのがオチよ」
「…俺は今日からここで働くんだよ、さっき紹介されてたろ」
すぐ引っ込まされたけどな。
だが、その女の子は周りが悲鳴でいっぱいでも、ましてや元凶の俺すらも眼中になかったらしい。
首をかしげて思い出そうとしていたが、早くも飽きたのか、断念。
「ふぅん、本当かしら…まぁいいわ、私には関係ないし」
「あっ、おい」
「それよりもあんた、ここで見たことだれかにチクったらただじゃおかないわよ。いいわね」
これまた子供らしからぬ凄みだった。
見た目人形みたいな、その実生意気な女の子は釘を刺すついでに捨て台詞を吐くと、入ってきたときとは逆に悠然と教室内から出て行った。
取り残された俺は溜息を吐き出して床へと手を伸ばす。
あいつ、自分でやっておきながら友達のバッグ、散らかしっぱなしにしていきやがった。
本当に女の子かよ。
幸いというか中身はぶちまけられておらず、ロッカーにもバッグにも園児の名前が書かれたシールが貼ってあったためすぐに片付けは終わる。
だが、
「なんだこれ」
一枚だけ落ちていた、よれよれの紙。
拾い上げると、クレヨンか? でかでかと何か書いてあるみたいだが、蛇がのたくったような、おそらくは平がなの文字。
かろうじて『さた』と『あり』とだけは読めないこともないが、他はもう俺の識字できる範疇を遥かに逸脱していて分からない。
元々落ちていたんだろうか。
…それとも、さっきのあいつが、今落としていったのかもしれない。
にしたって、なんだってこんなもん持ってたんだろう。
捨てようかとも思ったが、もし大事なものだったら後々面倒だし、とりあえずどこかで見かけたら返してやった方がいいか。
捨てろと言われたらその時捨てりゃいいんだから。
俺は初めからよれてしまっていた謎の文字が躍る紙を丁寧に折りたたむとそれをポケットにしまい、教室から出ようとしたところで、
「そういやあいつ、俺のこと恐がったりしなかったな」
違和感の正体に思い至った。



「えー、今日から黒間先生に代わってみんなの先生になりました、高須竜児です。よろしく」
大きな声で返事がかえってくる。
以外にも、まともに自己紹介できたことに俺自身驚きを隠せない。
いつもの調子ならもう泣き声が響いていてもおかしくないのに。
驚いたといえばこの教室、さっき俺が入った教室で、やはりというかあの女の子もいた。
年中だったのか…他の子と比べても身長が小さいもんだからてっきり年少か、もしくは慣らし保育で来てるいるのかもと思ったが、そうか年中か。
それにしても気分でも悪くしたのか? 机に突っ伏したまま、隣の子に心配されているが。
案外体が弱いのかもな、気の強さに反して。
「せんせーしつもーん」
「お、おぅ、なんだ?」
はいはいと天井めがけて手を伸ばすのは鼻を垂らした、男子にしては髪の長い春田という子だった。
この子は元気そうだ、鼻を垂らしちゃいるが風邪だってひきそうにない。
根拠はないがそんな予感がする。
春田は椅子から立ち上がると満面の笑顔でこう言った。
「さっきせんせーが元ヤクザだって話してんの聞いたんだけどマジでー? そんじゃあせんせーやる前は組長だったりすんの?」
春田は瞬きする間に隣にいたメガネをかけた子に腕を引っ張られて着席した。
なんとも微妙な空気が漂う。
冗談のつもりで肯定してみようか?
いやいや本気にされたら取り返しのつかないことになりそうだし、やっぱり否定するべきか。
「そんなことないけど、ちなみにそれ、誰が話してたんだ?」
「いや〜こればっかりは園長せんせーに内緒って言われてるし、高っちゃんにはわりーけど教えらんねぇって」
それは冗談だよな? そうだよな?
あといきなり馴れ馴れしくなるんだな、引かれるよりはよっぽどマシだが。
「あれ、俺なんか変なこと言った? ちょっと重くねー、空気とか」
分かってるじゃないか。
それすらも分からないほどアホというわけじゃないようで安心した。
せめて繰り返すうち学習してくれることを願う。
と、そこへ別の子が手を挙げる。
「えっと、北村?」
名札に書かれた名前を呼ぶと、さっき春田の隣にいたのとはまた違うメガネをかけた男子が立ち上がる。
「高須に質問があるんだ」
成長すれば委員長か生徒会長にでもなりそうな礼儀正しい見かけをしていて初っ端から呼び捨てなのか。
最初だけとはいえ、あれでまだ先生と呼んでいた春田の方が礼儀を弁えていたのかよ。
「いや、質問というよりもちょっとした確認なんだが、もし気を悪くしたらすまん」
確認? なんだろう。
もったいぶる上に北村はずいぶんと畏まる。
「…黒間先生の急な退職に高須が関与しているという噂が巷で飛び交っているんだが…」
耳にし、言わんとしていることが何なのかに考えが及んだ瞬間唖然とした。
実際に会ったのは引継ぎの時の一回程度しかない俺が、なにをどうしたらそんな非道な事をするっていうんだ。
ひょっとして、俺はそこまでこの仕事に執着しているように傍から見られているのか。
「そうか、そうだな。高須、このとおりだ。疑ってすまなかった」
力なく首を横に振ると北村はすんなりと納得した。
ピンと背筋を伸ばし、お手本のような角度でお辞儀をする。
そのまま静かに着席。
今度は示し合わせたように女の子二人が立つ。
「ねぇ麻耶、やっぱりやめない?」
「もー、奈々子も見たでしょ、それにへいきだって…たぶん…」
乗り気でないらしい長髪の女の子の手を握った明るそうな女の子は、あまり俺とは目を合わせたくないのか俯き加減に口を開く。
「あのね、あたしらさ、さっき高須くんがタイガーと一緒にここ入ってくの見ちゃったんだけど」
「…なにしてたのかしらね、二人で」
近頃の子供はマセているとは聞いていたが、この歳でもうそんなことを気にするのか。
それとも単に不思議に思っているだけなのかもしれないが、女の子は男に比べて成長が早いともいうし。
いや、それよりも。
「タイガーって…」


自然と目を向けると、そこには俺を親の敵みたいに睨みつける、あの女の子。
そういえば出席簿に珍しい名前があったな、大河って。
大河…たいが…たいがー、ああ、それでタイガーか。
誰のことを指しているのかは理解できたが、どちらにしろあんまり女の子らしくないな。
…もしかして、本人も気にしていたりするんじゃないか?
しかも怒ってないか? 俺がオウム返しに、その気にしているあだ名で呼ぶもんだから。
ほら、立ち上がってずんずんこっち寄って来てるし。
「ど、どうした? 具合、悪いのか?」
「あんた、ほんとにここで働いてんのね」
信じてなかったのかよ。
「お、おぅ。それで、俺になにか用か? タイ…ええっと、逢坂」
慌てて言い直し、名札に書かれた苗字を口にするも、片側の眉がピクリと反応する。
器用だな、そんな仏頂面じゃなければ俺もこんなに気にしないのに。
それに何だ、この異様な緊張感は。
ひそひそと内緒話しながらこちらを窺う園児たちは、逢坂が右手をゆっくりと持ち上げると、何かを諦めたような沈痛な面持ちになる。
春田でさえもだ。
どうしたっていうんだ。
「あー…ああ、そうだ。お前さっき紙切れ落としてかなかったか」
不意に、本当に唐突に、拾ったあの紙のことを思い出した。
大して面白いわけでも広がる話でもないが会話のきっかけにはなるかもと口にしてみる。
「ぶっ!? ゲホッ、ゲフッ!」
「た、大河ー!? しっかり! 傷はあさ…ちょちょ、大河っ!? マジでしっかりー!?」
すると突然変な体勢で固まった逢坂が盛大に噴出す。
しかも今ので咽てしまったらしく、膝を着いて咳き込んだ。
「お、おい!? 一体どうし」
「なんでもないわよ! なんでもないから触んないで、バカ!」
なんでもないって、そんな鼻から口からいろいろ垂らしててなんでもない訳ねぇだろ。
涙まで滲んでるじゃないか。
「ちょ、ちょっと!? あんたどこ触ってんのよ、離しなさいよ! 離して!!」
耳の傍でギャーギャー喚く逢坂を無視して抱き上げる。
ぼかすか叩いてくるが、そのまま保健室まで、っと。
その前に、
「北村、あと頼んでいいか」
「わかった。みんな、今日はもう帰っていいそうだ。携帯電話を持ってるやつは親御さんに迎えに来てくれるよう連絡網を回してくれ」
ひと欠片も動揺せずに即答かよ。
しかもけっこう手馴れてるんだな。
こういったことはなにも初めてじゃないのかもしれないという確信を胸に、俺は咳としゃっくりで息も絶え絶えな逢坂を抱えたまま教室を出た。

「けぷっ…」
頬にやや赤みが差してはいるが、ついさっきまでは真っ赤だったり真っ青だったりで信号みたいになっていたんだ。
もう大丈夫だろう。
とんとんと若干強めに叩いていた背中を、今度は押し当てた手で撫で摩る。
「落ち着いたか?」
「うん…」
「悪いな、結局なにもできなくて」
保健室に辿りついたとき、用でもあったのか室内には誰も居らず、俺にできたのはただ呼吸が楽になるよう背中に手を当てていただけだ。
大事にならずに済んでほっと胸を撫で下ろす反面、そんなことしかできない自分が不甲斐ない。
「ううん、いい…ありがと…」
だけど逢坂はそれでも感謝してくれた。
それに生意気さがなりを潜めて、嘘みたいにしおらしい。
息ができず苦しくてそんなに心細かったのか。
「いや…それはそうとお前、体弱いのか? 教室にいるときもずっと顔色悪くしてたろ」
逢坂の表情が曇る。
そんなに重病で、聞かれるのも嫌だったのか。
だったら無神経なことをした。


「…てがみ」
しかし、どうやら俺の考えは外れたらしい。
ぽつぽつと、蚊の鳴くような小さな声で逢坂は語りだす。
「…てがみ…入れとこうとおもって…失くしちゃって…それで…」
「手紙って、これか?」
ポケットから折りたたんだ、あの紙切れを取り出す。
捨てないで正解だった、探していたようだ。
逢坂は小さく首を振るとその手紙を摘み、開いてみせた。
そこには相変わらず暗号じみた、ぐじゃぐじゃの文字と思しき羅列。
「読んだんでしょ、これ」
指でなぞる逢坂は泣きそうな顔をしていた。
「…読んだことは読んだけど、俺には何て書いてあるのかさっぱりだったぞ」
言い訳に聞こえても仕方ないんだが、俺は嘘は言っていない。
それに何て書いてあるんだ、なんていうことも聞かない。
「…そう…いいわ、信じてあげる」
だって、私にだって読めないんだもん。
逢坂は顔を隠してそう呟いた。
無理もない、平がなとはいえ自分の名前だってまだしっかり書けないだろうに、手紙だなんて。
むしろ俺でも読めた文字があったことを褒めてやらなくちゃ、いくらなんでもあんまりだろう。
きっと、一生懸命がんばって書いたんだから。
あのよれ具合を見ればなんとなく分かる。
直接渡さず、他人から隠れてバッグに忍ばせようとしていたのも、恥ずかしかったんだろうな。
そういう気持ちも分かる。
そういう手紙がどういう物かってのも、まぁ。
そんな時に居合わせた俺も間が悪いったらない。
「さっきは大事なとこで邪魔して悪い、逢坂。次こそ渡せるといいな」
「いいのよもう」
けれど逢坂は折り目のついた通りに手紙をたたむ。
「なんでだよ、相手も喜ぶと思うぞ」
「だって…よく考えたらこれ、名前だって書いてなかったのよ? 北村くんのバッグも、どれだかわかんなかったし…」
あの散らかりようはそのせいだったのか。
一つしかない手がかりであるはずの名前が読めなかったんだろう。
それで目に付くバッグを手当たりしだいに引っ張り出して、土壷に嵌った、と。
そそっかしい性格をしてるんだろうな、肝心の手紙の存在まで忘れてさっさと行っちまったくらいだし。
あと、今のは聞かなかったことにしておいてやった方がいい。
何を口走っていたのか、自分じゃあ分かっていないようだからな。
「…バカみたいでしょ、誰からかもわかんない、読めもしないてがみ出そうとして、それ落っことして、失くして」
逢坂は簡素な作りのベッドの上で膝を抱え、小さな体を丸めてより縮こまる。
「だから、うん…もう、いい」
「でも、それじゃお前」
「ありがとね。あんたがこれ拾っといてくれなかったら、もしかしたら大恥かいてたかもしれないもの」
口を挟もうとする俺に四の五の言わせまいと、捲くし立てるように先を続けた。
幾分明るい口調が、余計に空元気だってことを強調させる。
触れたままでいた背中から上がった体温が伝わってくる。
それに、微かな震えも。
ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜───……
…あと、腹の虫の音と、お腹が猛烈に動き出す、まるで地響きみたいな感触。
携帯電話のマナーモードよりも強い振動だった。
「…あの…いまのは、その、私じゃなくて…あにょ…」
またも体温が上昇する。
天井が見えないのか、ぐんぐん上がっていくと同時にじんわり湿り気も帯びてきたような気もしなくもない。
そして腹の虫が二度目の叫び声をあげた瞬間、鳴り響くお昼のチャイム。
最初のから数えても誤差は十秒とない、驚異的な正確さを誇る腹時計に、俺は堪えきれず体をくの字に折り曲げる。
「な、ななななに笑ってんのよ、ひとが真剣に話してるのに!?」
真剣に話してる最中だったからだ、とは言えなかった。
というよりも返事ができないくらい苦しかった。
腹筋が痙攣でも起こしたように引き攣って息が苦しい。


「もう! いつまで笑ってんのよ! しょうがないでしょ、お、お腹減ってんだから! お腹減っちゃ悪い!? …笑わないで!」
ぐぅぅ〜…ぐきゅるるるる〜……
狙いすましたかのようにタイミングがぴったりと重なるのは、やはり狙ってやっているのか。
苦し過ぎて痛い、何が痛いって腹が痛てぇ。
てかもう吐きそうだ、涙まで出てきた。
「〜〜〜〜っ……」
と、別の意味で真っ赤になっていただろう逢坂が一転して静かになる。
どうしたんだ。
やっと落ち着いてきた、口から飛び出て行きそうなぐらい暴れていた肺と胃を収めた胸を撫でていると、妙な予感に襲われる。
いや、妙というか、正直な話、ものすげぇ嫌な予感に。
「…っ…っ、っ…」
…誰だって笑われたら嫌な気分になるだろ。
それがお腹が鳴った、なんていうしょうもない、けれど本人からしたらどうしようもない理由じゃなおの事だ。
しかもこんな、目の前で腹抱えて笑われたりしたら、
「…ぐっ…ひ、っく…」
女の子だったら、まぁ、そうなるよな。
「お、おい、なにも泣くこと…」
「だって…ずず…だってぇ…うぇ」
「わ、悪かったって、な?」
ああ、やっぱり、俺の思ったとおり顔は真っ赤だった。
さっきともその前ともまったく別の意味でだったが。
「ぐず…わだっじ、わら、わっ…く…笑わないで、って、言ったぁ…」
慌てて手にしたハンカチで、なるべく力を入れすぎないよう顔を拭う。
後から後から溢れる涙で早くも濃い染みだらけになってしまったハンカチで、それでもただただ拭き取っていく。
「そうだな。笑わないでってちゃんと言ったよな、お前」
「なのに、なのにぃ…ひぐっ…」
「そうだよな、俺がいけなかったな。泣かすつもりじゃなかったんだよ、ごめん」
「ひっ…しらないわよ、ばかぁ…」
どうしたもんだろうな。
なかなか泣き止んでくれない逢坂を前に、俺は完全にお手上げだった。
こんな時、泰子だったら飯で釣るんだが…飯、か。
「なぁ、ちょっと待っててくれるか」
鼻を啜り、しゃくりあげる逢坂は何も言わなかったが、僅かに頷く。
俺はハンカチだけ渡してやり、逢坂を残し保健室から退室すると廊下を駆け出した。
「───おいしい…ほんとにあんたが作ったの、これ?」
「おぅ、朝飯の残りだけどな。それよりもお前、口の周りベタベタだぞ。米粒もこぼしまくって」
およそ二分ほどだろうか、いっても三分はしてないだろう。
わりと本気で走ってきたおかげでいくらか呼吸が乱れていて、人気の疎らな園内、それも二人きりで保健室にいるこの状況。
事情を知らない第三者に見られようものなら多大な誤解を招くこと受けあいだ。
それでも、こうして泣き止んでくれたことを思えば、大した問題じゃあない。
ベッドの上、茣蓙をかいて俺の持ってきた弁当を貪るという表現がぴったりな勢いでかき込む逢坂を眺めていると、なんだかそう思えた。
「一々うるっさいわね、細かいんだから…しょうがないでしょ、このお箸じゃ食べづらいんだもん」
これでもうちょっとさっきまでのしおらしさというか、大人しい性格と言葉遣いだったら言うことねぇんだけどな。
しかし逢坂の言う事も、ただの言い訳じゃないのも確かだ。
使ってるのは俺の箸なんだ、子供の手には大きい。
俺は順手で持ってとりあえず突き刺すという、原始人よりはまだまともな、けれど決して行儀のよろしくない使い方をしはじめた逢坂から、
弁当箱と箸を取り上げる。
「ほら、口開けろ」
「…いいわよ。そんなの、ひとりでできるもん。バカにしないでちょうだい」
実際そうなんだが、子供扱いされたのが気に食わなかったようだ。
不満を全開にして箸を奪い取ろうとする逢坂が腰を上げかける。
が、頭を押さえて力ずくで座らせた。
「食事中に立つな、座ってろ」
ベッドの上でものを食うのも行儀悪いが、今は横に置いておこう。
「ぐっ…わかったわよ、立ったりしないから手ぇどけなさいよ」
漬物石よろしく乗せていた手を軽く持ち上げるとすかさず逢坂は立ち上がろうとする。
瞬時に押さえつけると、今度こそ抵抗するのをやめた。
恨みがましく見上げてくるのは忘れていないが。


その眼前に、適当な大きさにした、これなら好き嫌いはないだろうと踏んだ卵焼きを持ってくる。
ものの、素直に口にはしない。
じっと黄色い卵焼きを見つめる逢坂。2〜3度喉が動いて涎を飲み込む音がこっちにも聞こえてくる。
俺はボソリ、と呟く。
「今日は甘い卵焼きにしたんだよな。それもうんと甘くしてあるぞ」
横一文字に引き締めた唇の端から垂れていく、透明な一筋の糸。
コロコロと忙しなく代わる表情。
そして、まるで催促しているように間隔を空けずに鳴る、ぐぅぐぅという腹の虫。
葛藤に揺らいだ瞳の中、映る俺は自分で言うのもなんだが、意地の悪い笑みを浮かべていた。
ほどなくして口を開けた逢坂は、目を瞑っていた。
「…あまい」
「だろ。もっと食うか?」
「…そっちのウインナーがいい。タコさんの」
「これはカニな。そんでこっちはチューリップだ、よくできてるだろ」
「…今度はタコさんにしなさい」
注文をつけられた上に予約までされた。
タコか…ただのタコじゃ面白くない、度肝を抜くタコを作ってやろう。
タコはタコでも正月に揚げるタコとか。
「やだっ、いらない」
「好き嫌いすんな、大きくなれねぇぞ」
次のはよっぽど苦手だったのか、逢坂は頑として折れなかった。
そのため、ブロッコリーは俺が食うことに。
結局、俺が昼飯に口にできたのはそれだけだった。
その後もせっせと餌を運ぶ親鳥と、運ばれるままに餌を啄ばむ雛鳥よろしく箸を進めていると、
「ねぇ」
「おぅ、なんだ」
「あんた、どうしてこんなことやってんの」
半分ほど胃に収めた辺りで、逢坂は突拍子もなく、訳の分からないことを尋ねてくる。
言葉の意味がきちんと捉えきれず、どう答えればいいか考えあぐねている俺に、ちゃんと伝わってないと感じたらしい逢坂もフォローを入れた。
「だって、ぶっちゃけあんたって向いてなさそうじゃない、こういうの」
「…俺が弁当作るのがそんなに似合わないか?」
「そうじゃなくって」
「…この箸じゃお前、食いづらそうだし」
「だーかーら、そうじゃないのよ、そういうんじゃ」
あーでもない、こーでもないとうんうん唸り、言葉を選んでいる逢坂が、手をぽんと叩く。
「そう、おしごと」
喉まで出かかっていた言葉がようやく出てきたことに、逢坂は一人、何度も大きく頷く。
自分だけ納得されても、聞かれた俺には言わんとしていることがまだよく理解できていない。
何で仕事してんのかって訳じゃあるまいし。
いや、待てよ。
確か直前に向いてなさそうとか言ってたな、こいつ。
そういうことか。
「変か? 俺が先生やってちゃ」
納得顔の逢坂は、俺と目を合わせると心底不思議でならないという風に言う。
「変よ、変。あんた自分の顔かがみで見たことある?」
純粋な疑問なんだろうが、しかし元の口の悪さと相まって辛辣な言葉として投げられたそれは、俺の胸に深く突き刺さった。
自覚がないって、残酷だよな。
子供に発言の重みを自覚しろっていう方が酷なのかもしれないが、それでも、こうも面と向かって告げられるってのも、正直傷つく。
「そんなゆーかいはんみたいなおっかない目つきしてて、よく幼稚園の先生なんてなれたわよね。こどもがどん引くわよ、ふつう」
反論の余地がないのが自分でも情けない。
けど、
「お前はどうなんだ」
「なにがよ」
「少なくともお前は俺のこと、恐がってねぇみてぇだけど」
頭上にいくつも疑問符を浮かべた逢坂は、あごに手をあてがうと、はたと動きを止める。
待ってみると、眉間にシワを寄せよるという感じの渋面を作り、首を傾げる。


「なんで私があんたなんかにビビんなきゃいけないのよ」
そういう問題じゃねぇよ。
「…俺が言うのもなんだけどよ、お前、変わってるって言われないか」
「んな、ななななに言ってんのかしらね、当てずっぽうでもの言うなんて、あんた先生に言いつけるわよ」
「俺がその先生だぞ」
「え? あ、そっか」
動揺の仕方から見て十中八九そうだと思っていいだろう。
けど、腑に落ちない。
変わり者扱いというか、俺と周りの人間との間に距離が生まれるのは、主に目つきによる容姿に対しての偏見でというのが一番の理由だ。
目を合わせれば避けられ、表を歩けば人波が割れ、肩がぶつかれば財布を差し出される。
人は外見よりも中身が大事だとは俺も思うが、そう言われるのは外見が無視できない部分を占める重要な要素であり、
しばしば中身よりも優先されがちだからだ。
誰だって目に映るものの方が簡単に分かるからな。
中身なんて見えないもん、実際に付き合ってみなけりゃ良いのか悪いのか、なんて分からないんだ。
大抵の奴が俺を一目見ただけでやれヤンキーだ、関わったら何されるか分からないという具合に怯えるのは、
俺の目つきがそれだけ凶悪であり、知らず知らずの内に相手に威圧感や恐怖心を植え付けるからという単純な理由からで、なお更手の施しようがない。
それこそ整形でもしなきゃどうしようもないだろ、こんな問題。
いっそ会う奴全員と親しくなれる方法でもあれば別だが。
でも、逢坂は丸っきり違う。
同じ目を引くといっても、俺のそれとじゃ完全に逆転している。
黙ってりゃ可愛いんだから、ちょっとくらいお転婆でも人の輪の中から外れることはないだろうに、
なのにこいつからはあまりそういう空気がしてこない。
思えば教室でもどこか浮いていた。
おそらくは気に入っていないだろうあだ名で呼ばれていたし、他の園児の態度も、逢坂には余所余所しいものがあった。
いや、一人いたな、仲良さそうにしていた子が。
逢坂が咽込んでしまったときも、いの一番に飛び出してきてた、活発そうな女の子。
孤立しきっている訳じゃなさそうだ。
少し、安心した。
「こほん…わ、私のことはいいでしょ、あんたには関係ないんだから。それよりも質問にこたえなさいよ、ぎむよ、ぎむ」
わざとらしい咳払いをした逢坂が軌道修正を図る。
それ、その理屈だと俺のことだってお前には関係ないし、わざわざ答える義務だってありはしないんだが。
「俺は昔から子供の面倒をみるのが好きで、将来はそういう職業に就きたいと兼ねてから」
「へぇ、そのくせ平気でこどもにウソつくのね、あんた。そうなんだ、ふぅん」
人聞きの悪いころを言うな。
一応これでもれっきとした俺の本心の一部だ、履歴書にもしっかり書いてあるんだぞ。
「ま、今のはじょーだんってことにしといてあげるわ。さっ、続けなさい。
 …ちなみに、つぎウソ言ったらハリせん本のますわよ。いい? これ、じょーだんなんかじゃなくてガチだからね」
俺の言葉を本音ではないと見抜いたのがそんなにご満悦なのか、えっへんと胸を張る逢坂が先を促す。
ついでにありがちな、しかし冗談とは到底思えない釘を刺す。
これ以上伸ばしても、はぐらかしてもこいつは引き下がらないだろうと、何でそんなに知りたがるのか、興味津々に輝く瞳がそう物語っている。
それに手紙の件で邪魔をしたり、泣かせてしまったという負い目が今さら圧し掛かる。
観念し、俺は渋々打ち明けた。
それに対する逢坂の反応はこうだった。
「い…い…」
口をパクパクとさせ、ベッドの端、俺から対角線上になるまで後ずさりすると、
「いやあああああああ!? あんたやっぱりそういうシュミしてたのね!?」
汚物でも見るような目で、俺に向けてそう言い放った。
「あのな、お前絶対勘違いしてるぞ、俺はそんな意味で言ったんじゃ」
「いやっ、やだ! 近づくんじゃないわよこのロリコン! ペド!」
出した手を即座に叩き落とされた。
なんだよペドって。
感じるものとしてはいささか早すぎる類の身の危険を俺の一言から感じたらしい逢坂は、端っこでブルブル体を震わせ、
近づく度にジリジリ動いては一定の間隔を保つ。
それでも、そんな状況に陥ってなお空腹を訴えてくる、食欲に忠実な腹の虫。


「…なんにもしねぇ、約束する。破ったら針千本だって飲んでやるから、だからこっち来いよ、腹減ってんだろ」
文字通り頭隠して尻隠さずをやっている逢坂は耳まで塞いでいる。
だが、もぞもぞ身動ぎをする様から、声は届いているようだ。
俺は背を向け、聞こえるか聞こえないかという大きさで言う。
「まだから揚げが残ってんだけどな」
振り返ったとき、逢坂はすでにそこに正座していた。
泳いだ目のちょっと下では、今か今かと待ちわびて、溢れそうになっている唾液の海。
「お前、やっぱ変わってるよな」
「…うるふぁい」
「口に物入ってるときは喋らない」
「………うるさい」
そこから先、照れ隠しにペースを速めた逢坂は凄い勢いで残りを平らげ、弁当箱は米粒一つ付いてないキレイな空箱に。
満足したらしい、少しばかり膨らんだように見えるお腹をした逢坂が、それを感じさせない身軽さでベッドから飛び降りる。
「こら、お前ごちそうさましてないだろ」
「…お米のかみさま、けいさんしゃのみなさん、ごちそうさまでした」
「お前なぁ、それを言うなら生産者だろ、たく」
包みに空箱をしまい終え、軽くベッドのシーツを直してから保健室から出ると、少し先の廊下に立つ逢坂の姿が。
「なにボケッとしてんのよ」
こっちのセリフだ。
仁王立ちになり腕を組み、指をとんとんと叩く。
なんで焦れてんだ、あいつ。
「早くしなさいよ、私もう帰るんだから」
「お、おぅ、わかった」
小走りで寄ると、逢坂はぷいっと振り返り、俺の前を歩き始める。
途中、他の教室の前を通ると人気はまったくなかった。
今日は入園式があった以外はただ登園するだけの日だから、式さえ済めば帰っても問題はない。
いろいろとゴタゴタしていたから、すっかり出遅れてしまったらしい。
案の定俺たちの教室にも誰も居なかった。
北村がしっかりとしていてくれたからか、あるいは、みんなも慣れているのか? 先生なんかいなくても。
逞しいな、こんなことでもう存在理由を見失いかけるほどに精神的に脆弱な俺よりも、断然。
「なにそんな泣きそうな顔してんのよ」
「なんでもねぇ。ほら、バンザイしろ」
一着だけ壁のフックに掛かっていた上衣は、確認をとるまでもなくこいつのだろう。
一緒に掛かっていた帽子とともに、脱がせたスモックの代わりに着せてやる。
そこでふと、あることに気が付く。
「お前、迎えとかどうしてるんだ?」
他の園児は、ここに残ってないからには親御さんが来たんだろうが。
「ないわよ」
「ああ、そうなのか」
あっさり過ぎるくらいあっさりと、それが当然の如く言うもんだから、俺もそのまま流しそうになる。
が、バッグを肩に提げてやった辺りで、
「いや、そんなわけねぇだろ」
しかし逢坂は代わらず、帰り支度の手を止めないで、
「いいのよ。べつにうち、こっからそんなに遠くないから。ママだって忙しいし、それに」
第一印象は、とにかく小さいって、そう思った。
年中とは思えないくらい、小さな体。
それ以上に小さく見えた背中。
「いつものことだもん」
逢坂は本当にどうでもいいという、投げやりな声でそう言った。



「…お前、本当にここに住んでんのか?」
疑っているわけじゃない。
ただ、できすぎというか、世の中の狭さに驚いているというか。
蹴躓くこと三回。内、膝を擦りむくくらい派手に転ぶこと一回。
見かねて手を繋ぎ、小さな歩幅に合わせ、こっちと指差す方へ案内されながら歩いてきた俺は、逢坂がここだと主張する建物を前にそんなことを考えていた。
いや、そこまでおかしなことじゃないんだ。
歩いて通える距離、それも子供一人でもというなら、ありえなくはない。
もう一度見上げる。
眼前に聳え立つそれはけっこう最近に完成したもので、真新しいのはもちろん、部屋の広さに加えてしっかりとしたセキュリティー、
そして、その割りには手ごろな家賃を謳い文句にしている、しかし常識に照らし合わせれば十分に『高級』を冠せられる新築のマンション。
「そうよ。ちょっと狭いけど、まぁがまんするわ。この辺じゃまだマシだもの」
そうだ、最近できたばかりなんだから、こいつもこいつの家族もつい最近になって越してきたことになる。
その前は一体どんな家に住んでたんだろう、これを狭い呼ばわりするくらいだからかなりの物なんだろうが、俺には今一ピンとこない。
「…それに、やなやつもいないし…」
不意にそんな声が聞こえた気がした。
「なんか言ったか?」
「…なんでもない」
そう言うわりには不機嫌になっているのは俺の気のせいだろうか。
顔つきにも、若干翳りが差したように見える。
「にしてもあんた、さっきからなにジロジロしてんのよ。そんなにこれが珍しい?」
話題を逸らそうと、逢坂が立てたと親指を突きつけたのは、背にしたマンション。
そんなことはない。
このマンションのことならよく知ってる。
着工から完工までどれくらいの期間かかったか、とかな。
だが、逢坂は俺を一瞥するとフッと冷ややかな笑みを浮かべる。
「ムリもないわね、あんた、すっごくビンボーしてそうだもん」
否定はしない。
事実そうだ、俺にこんなマンションの部屋を借りられる甲斐性はない。
だから否定はしないが、とりあえずその場で体を抱え上げ、お尻ペンペンをかます。
子供の内からつけ上がるとろくな人間にならない。
手加減はしてるんだ、これは僻みじゃない、愛の鞭だ。
「なな、ななななにすんのよ!? こ、ここ、こ、こんな…人前で…」
なにもじもじしてんだ。
人前っつったって誰も居ないし、居たとしても見ちゃいねぇよ、そんな色気の欠片もないイチゴ柄のパンツ。
だからそんな恥ずかしがんなよ。
「…もうおよめにいけない…」
「そんときゃ貰ってやるよ。それよりもお前、何階に住んでんだ」
「へ………」
逢坂が変な表情になったまま固まる。
手を目の前でひらひらと翳しても何の反応もない。
尻、叩きすぎたか?
「おい、逢坂、おいって」
肩に手を置いて揺すってみる。
すると途端にビクリと全身が跳ねて、おずおずと逢坂が顔をこちらに巡らせる。
「な、なに…?」
「いや、なにってお前聞いてなかったのかよ」
「う、ううん、聞いてた…けど…そんな、いきなり…きょ、今日あったばっかりなのに…」
だめだ、聞いちゃいねぇ。
ブツブツとよく分からないことを呟く逢坂は次第にその声を大きくしていく。
一向に終わる気配が見えてこず埒が明かない。
俺は逢坂を抱き上げる。
「なぁ、お前ん家って何階なんだよ。ていうか今誰かいないのか、家に」
突然の浮遊感に、ようやく降りてきたようだ。
パチクリ瞬かせた目が合う。


「たぶんまだ…夜になんないと、ママ、帰ってこないから」
「…そうか」
「…あの…あのね、うち、ここのにかいなの」
二階、か。
「よかったら」
「お前さ、あれ、なんだか分かるか」
何か言おうとしていたようだが、遮ってしまう。
それが気に入らなかったんだろう、目を皿にした逢坂だが、とりあえずは俺の示した方を見る。
これっぽっちも面白くなかったらしく、顔にも出まくっている。
なにがしたいんだ、って。
「なにって、ただのぼろいアパートでしょ」
「ただのじゃなくてかなりぼろいアパートだな」
「ああ〜、たしかにそうね、はじめ見たとき倉庫かと思っちゃった。人の住んでいい家じゃないわよ、あれ」
「人のじゃなくて俺ん家だ」
「へー、そうなんだ。おもしろいじょーだんね」
沈黙でもって返事にする。
何も言わない俺をからかってるもんだと、逢坂はやめてよなんて笑っていたが、じきにそれも収まる。
自宅があるバカでかいマンション、その影に隠れている、今にも潰れそうな隣のボロアパートと、そして俺。
順に見やった逢坂は、今しがたのものとは異なるぎこちない笑みを貼り付けていた。
「…ほんとに?」
「針千本はイヤだからな」
今度こそ冗談のつもりだったんだが、クスリともウケなかった。
こいつ、よりにもよって隣に住んでたのか。
通園路にやけに見覚えがあるから近所かもとは思っていたが、まさかこんな、うちから目と鼻の先に行き着くなんて。
それも二階って、窓から丸見えじゃねぇか。
全然知らなかった。いや接点なんて殆どなかったんだから無理もないんだが。
「あんた、あそこに住んでるんだ…」
しげしげと、それこそ物珍しそうにアパートを見つめる逢坂が小さく言う。
こいつ曰く人の住んでいい家じゃないそうだが、そこに住む俺は一体なんなんだろう。
なんだか自分が心配になる。
それにしても、だ。
こいつ、こんな真昼間から夜になるまで、どうやって過ごすんだ。
道中なんの気なく聞くと、昼飯はコンビニ弁当を、ついでに晩飯まで帰りがけに買って済ますつもりだったと言っていた。
それもいつものことだと。
それに、逢坂は一人っ子だという。
一人きりで、親が帰宅するまでの間、だだっ広い部屋に。
「…上がってくか、うち」
想像すると、自然とそう持ちかけていた。
「え…いいの?」
「ムリにとは言わねぇけど、暇なら」
逢坂がブンブン首を振る。
「そうか…ただ、なんもないぞ?」
「あんたはいるんでしょ」
綻んだ顔でそう言われ、不覚にも子供を可愛い可愛いと溺愛する親バカの気分にさせられた。
「竜ちゃんおかえり〜…だぁれ?」
「あんた子持ちだったの?」
丸と三角になった二対の瞳に見上げられたのは玄関先での事だった。
前者はまだ分かるが後者はどうしてだ。俺、何もしちゃいないだろ。
言わずもがな目を真ん丸に丸めているのはわざわざ出迎えにきた泰子で、ジトっと、それでいて鋭く吊り上げた目で俺を睨むのは逢坂だ。
「ただいま。逢坂っていうんだ、仲良くしてやってくれ、泰子」
人見知りの気があるようには見えなかったが、泰子から隠れる逢坂に手洗いとうがいをするよう言いつけ、一足先に済ませた俺は自室へ。
着替えて出てくると、居間で泰子は逢坂相手に質問攻めを行っていた。
大体は好き嫌いやどこに住んでるのかという他愛無いことを尋ねていて、一々大げさに反応を返す泰子にだんだんと逢坂も警戒心を解いてきたのか、
次第に緊張が抜けていく。
「ねぇねぇ竜ちゃん、大河ちゃんとなりのマンションに住んでるんだって」
「聞いたよ。それも二階だってよ、そっから見えるんじゃないか。それよりも泰子、帰ったらまず着替えろっていつも言ってんだろ」


腰を下ろす俺にすぐいろいろと教えてくる泰子は逢坂が着ているのと同じ制服姿で、胸の周りに薄っすら染みがある。
今朝にはなかったものだ。昼食にやらかしたな。
「だって竜ちゃんのごはんおいしくってぇ、ついつい食べすぎちゃうんだもん」
それとこれとは関係ないんじゃないのか、たんに食べ方の問題で。
「あ、わかるわかる。あいつ顔ににあわず料理上手なのね、びっくりしたわ」
「うんっ、でしょでしょ? けど大河ちゃあん、竜ちゃんにあいつなんて言っちゃだめぇ」
嗜めるのは、曲がりなりにもお姉さんだからか。
年長のわりには泰子は成長が早いというか、見てくれは、他の子よりはちょっと大きい。
たまに小学生にも間違われるほどで、中身はそうでもないが、これを期に少しでも追いついてくれるんならいいんだが。
「だってあいつの名前知らないんだもん。それにあいつだって私のことずっとお前って呼ぶし」
「そうなんだぁ。じゃあね、やっちゃんがおしえたげるね」
泰子はまず自分を指差して大きな声で言う。
「やっちゃんはぁ、やっちゃんていうの」
「それは知ってる」
その指を今度は隅っこへ向ける。
「あそこにいるのはねぇ、インコちゃん。とってもかわいいんだよ。インコちゃ〜ん、大河ちゃんだよ〜」
「ぐっ、ぐぐ…イィ───ッ!! よよ、よろ、よっ…よろちくび」
カゴの中、羽を元気よくバタつかせたインコちゃんはふんわり愛され系なヒーリングボイスでお返事。
「うわっ、キモ。微塵もかわいくないし、ていうかそれマジでインコ? ウソでしょ、だって本で見たインコってもっと愛らしかったもの。
 でなきゃインフルエンザにでもかかってんじゃないの、早いとこ消毒してやったほうがいいわよ。顔とか顔とか、あと他にも顔とか」
「ガーンッ!? ひひひ、ひどいぃ…とりも、木から、おちる」
インコちゃんには生まれて初めての経験かもしれない。
こうも徹底的に、それもあの個性的な容姿を否定されるというのは。
逢坂には我が家のエンジェルはお気に召さなかったようだ。
けれどインコちゃん、そんなに気に病む必要はないんだ。
落ちる様を演出しようとしてるんだろうが、そんな止まり木に宙吊りになってまで自己アピールしなくっていいんだ。
インコちゃんの魅力は子供にはちょっとまだ早いってだけだって。
いつかきっと分かってもらえるさ。
「それでね、竜ちゃん」
とてとてと膝の上まで来た泰子はそのまま座り、俺の手を引っ張ってシートベルトのように自分に回す。
「やっちゃんのなの。いいでしょ」
いつからそうなったのか問い詰めたいのは山々だが、それ以上に目を見張るのが逢坂の様子。
ぷくっと膨らんだほっぺたはリスかハムスターのようで、それにリンゴみたいに赤く色づいている。
尖らせた唇はアヒルみたいだ。
「…竜ちゃ…あんた名前なんてのよ。なんかもうちょっとちがったわよね」
「だからね、竜ちゃんはぁ竜ちゃんっていうの、りゅーうーちゃん」
泰子が再度教えるが逢坂はじっと俺に合わせた視線を外さない。
「竜児だ、りゅうじ。これでいいか?」
「りゅうじ…」
「そうだ、竜児」
ちゃんと教えると、逢坂は口の中で俺の名前を反芻する。
「りゅうじ…りゅぅじ…リュウジ…りゅーじ…」
色々イントネーションを変え、何度も繰り返し呟くと、逢坂は俯き始めていた顔をおもむろに上げた。
「竜児」
「おぅ」
普通に。
「竜児っ…竜児?」
「なんだ」
尋ねるように。
「竜児!」
「なんだよ」
怒っているように。
具合を確かめながら名前を呼ぶ逢坂は、もう一度名前を呼んだ。


「大河」
俺のではなく、自分の名前を。
言うことは全て言い切ったという誇らしげな逢坂は、十秒もすると「ん?」なんて感じになって、
一分も経つ頃には「まだ?」というあからさまに待ちくたびれた雰囲気を全身から放つ。
そして堪えられなくなった逢坂は、
「大河よ、大河。た・い・が」
ちょっとイライラしながら、噛み砕くようにしっかりはっきりもう一度自分の名前を俺に言う。
何がしたいんだこいつ。
「ああもうっ! いい!? あのバードドーパントみたいのはなに!?」
「いや、なんだそれ」
「いいのよなんだって! それよりもあれよあれ、あのぶっさい鳥。あいつ、なんて呼んでんのよ」
「はぁ? …インコちゃんだろ」
よく分からんが、とりあえず失礼なことをインコちゃんに言っていた気がする。
「…やっちゃんのことは?」
「泰子」
膝の上に陣取る泰子をちらり。
一気にテンションが下がるが、ぐっと耐えるように大きく息を吸う。
「…私は…?」
「そりゃあ逢さっ…なんだよ」
手の甲を抓った泰子は、仰け反って俺と顔を合わせると口だけ動かす。
だめ? そう言いたいんだろうか。
「…そう」
「あ…」
目を伏せる逢坂。
落とした視線の向こう、胸に付けた名札には───
ああ、そうか、やっと分かった。
さっきも言ってたじゃないか、俺は、お前としか呼んでなかったなかったって。
「…大河だろ、大河。逢坂大河。あんまりないけど、良い名前だな」
名前で呼んでほしかったんだ、こいつは、大河は。
その証拠に大河はパァッと咲いた花のように、だけどもそれを素直に表に出すのを恥ずかしがって抑え込もうと、
顔中の筋肉をピクピクさせてにやけそうになるのを必死に我慢する変顔になってしまっている。
「大河」
片側の瞼が跳ね上がる。
「…大河?」
口角が右と左で逆さまに。
「大河!」
すげぇ、耳が動いた。それも両方。うさぎか。
不謹慎ながら面白くってつい調子に乗っていじってしまった。泰子もけたけた笑っている。
「な、なによ! ちょ、ちょっとびっくりしただけだもん、笑うことないじゃない…ていうか馴れ馴れしく呼ばないでよ」
「ああ、悪かった、逢坂」
「…べ、べつに名前で呼ぶなっていってるんじゃなくって、私は、ただ…だから、そにょ…うう〜…」
膝の上の泰子を降ろす。
保健室での二の舞はごめんだからな。
「それじゃ、これからは大河って呼んでいいのか? 大河」
「うん…あっ、ちっちが…もう、あんたがそうしたいんなら勝手にすればいいじゃない。一々私に聞かないでよ、ばか…」
本当に素直じゃねぇな。
今日一日で大河の天邪鬼ぶりもだいぶ慣れたけどよ。
「……ばか……」



それから大河は日が暮れ、かなり遅くなるまでうちに居座っていた。
泰子はともかく、喋るお人形さん代わりに相手をさせられていたインコちゃんは今はもう憔悴しきった様子で、
しかし若干いじめられながらもチヤホヤされるというのは満更ではなかったらしい。
大河からのムチャ振りにも果敢に挑戦していった。
まあ、だから疲れきってしまったんだが。
探検と称しては狭い家の中をあちこち駆け回る大河は大河で遠慮とは無縁であり、風呂まで浴びていき、
晩飯もしっかりと食っていったほどだ。
俺はいつにも増して忙しかったが、大河は楽しそうにしていた。
だからだろう、時間はあっという間に過ぎていった。
「じゃあね、私そろそろ帰るわ」
予め帰らねばならないと言っていた時間ギリギリになってから、大河は腰を上げた。
名残惜しそうに泰子と、それにインコちゃんにもおわかれをしている。
「待て、送ってってやるよ」
「いいわよ、すぐそこなんだから」
「なんかあったらどうすんだ」
気付けば窓の外はすっかり暗くなっていた。
こんな夜道を、たとえ隣とはいえ一人で歩かせるのは心配だ。
むしろすぐそこだからこそ送っていくことに面倒は感じない。
「いいってば、そんなのないから」
「ないって言い切れねぇだろうが…心配なんだよ、お前のことが」
過保護だな、俺も。それもかなりの。
大河も煩わしそうに顔を顰めるが、しばし見つめ合っていると、フッと柔らかいものにする。
「いいのよ、ほんとに」
「…でも大河、俺は」
「今日はもう十分だから、いいの」
言うと、大河は卸したての、まだ真新しい靴に足を通す。
忘れ物がないかを確認し、それを終えると帰り支度が済み、
「ねぇ」
開けてやったドアの向こう、
「また、来ていい」
大河は背を向けたまま、そう俺に尋ねた。
言葉になった期待が、春先のまだ冷たい風に乗って耳に届く。
「おぅ、いつでも来いよ。待ってるからな、大河」
振り返りかけた大河は、だけど顔を見せることはなく。
小さくばいばいとだけ言い残して帰っていった。



                    ***

玄関の鍵は開いていて、中は明かりも点いていた。
靴もある。
帰ってきてたんだ、ママ。
今日はいつもよりもずいんぶん早いわね。
「ただいま」
リビングにはうつ伏せになってソファーに倒れこんでいるママがいた。
寝ちゃってるのかな。
「…こんな時間までどこにいたの」
起きてた。
テーブルの上にはダイレクトメールの束と、よくわからない書類と、それに二人分のお弁当。
まだご飯食べてないみたい。
待っててくれたんだったら、電話の一つくらいしとけばよかった。
ううん、そんなことしなくても、すぐそこにいたんだから、ママも呼んであげた方がよかったかしら。
こんなのよりずっとおいしかったのに。
「えっと、ママ、あのね、ちょっとね、そこの」
「大河? ママすっごく疲れてるの」
「…うん」
「でも今日は早く帰れたから、せっかくだしあなたとどこか外に食べに行こうと思ってたんだけど…もうこんな時間だわ」
お弁当はすっかり冷めてしまっていた。
ただでさえおいしそうじゃないお弁当。もっとおいしくなさそう。
「あんまり心配かけないでちょうだい」
「…ごめんなさい」
ママは一度深く息を吐き出すと私に傍に来るよう手招きをする。
シワが寄ったスカートを伸ばして、その膝の上に抱っこした私を乗っけて、ぎゅっと抱きしめた。
「それで、今日はホントにどうしたの? 珍しいわね、大河がお外で、それもこんなに暗くなるまで遊んでるなんて」
香水の匂いに混じるママのいい匂い。
なんか、落ち着く。
「それなんだけど、ママ、そこにアパートあるじゃない」
「あの倉庫のこと? だめよ、ああいう所で遊んじゃ。いつ崩れるかわからないでしょ、危ないんだから」
思わず噴出しちゃった。
ママは全然わかってなくて、それも本当にあのアパートを倉庫だって思ってる。
竜児がこの場にいたらなんて言うだろう。
きっと私のこと、ママとそっくりだって呆れるわね。
本気で怒ったりはしなさそうだけど。
でもさすがに落ち込んじゃうでしょうね、立て続けにそんなこと言われたりしたら、あいつじゃなくったって。
見た目と違ってバカみたいに真面目な竜児のことだから余計にありえそう。
それはそれで面白いけどね。
「ママ? 一応言っとくけど、先生の前で言わないでね、それ」
「…? ……え、それ本当に?」
半分信じてないママに向かって、大きくこくりと首を振る。
「やだ、挨拶してきた方がいいかしら」
「やめてよ、恥ずかしい。竜児だって迷惑だろうし」
ママは今度こそ信じられないというように、ずいっと顔を近づける。
大きく見開かれた目には、心なしか頬を染めた私。
むずがゆい。
「驚いたわ、あなた北村くんだってそう呼んでるのに、その先生のことは名前で呼び捨てにしてるのね」
「あ…き、北村くんはべつに…それに、竜児だって私を呼び捨てにして、だから…」
「あら」
今みたいに優しいママは好き。
さっきみたいに怒ってるママは嫌い、恐いもん。
でも、優しいけどニヤニヤしてるママは…嫌いじゃないけど、イヤかな。
だっていぢわるするんだもの。


「さすがはママの子だわ、やり手さんなんだから、もう」
「そ、そんなんじゃないわよ!? そんなんじゃ…ただ、竜児が私のこと…その、もらってくれるって…」
「まあ、なににかしら」
「……およめさん」
「まあ、まあ」
やっぱりニヤニヤしてるママは嫌い、それもただ嫌いなだけじゃなくって、大っ嫌い。
いぢわるなママもしつこいママも嫌い。しつこいっていうかしつこすぎるのよ、性格悪いんだから。
「そう、あなたそれで帰ってくるのが遅かったの」
「そ、そうよ。ご飯食べたりしてて、それで」
「帰るのを渋ったのね、迷惑とか言っといて。困った子なんだから、ほんとに」
「ちちち、ちがうもん! なんでそうなるの、私は」
「隠す必要はないのよ、あなたがとんでもなくワガママな子だって、ママちゃんとわかってるから。
 ええそれはもう認めたくないけど最近小じわが増えたって実感しちゃったくらい」
ぼそっと、瞬時に疲れきった目になって、ママはどこか遠くに向けて重たそうなため息を吐き出した。
シワとかそんなの、こうしてても全然気になんないしわかんないのに、そんなにヤなのかな。
それにしても、私、そんなにワガママばっかり言ってるのかしら。
「どうしたの、そんな顔して」
「…私、いい子じゃないんでしょ」
キョトンとするママは、苦笑すると、優しく頭を撫でてくれた。
「でも、ママは大河が大好きよ」
「ウソよ、だって」
「いい子にしていてくれるのは助かるし、ワガママ三昧なのは困るけど、ママはそんなことで大好きな大河を嫌いになったりしない」
「…ほんと?」
「ええ。それに、そのワガママを叶えてあげるのもママのお仕事の内なの」
とっても素敵でやり甲斐があるでしょって、ママは囁く。
私は手を回してママにしがみついた。
ママも一層力を込めて抱きしめてくれる。
やっぱりママ、大好き。
「言い方が悪かったわね。ごめんなさいね、大河。許してくれる?」
「ううん、私も…遅くなってごめんなさい」
「いいのよ、そんなの。ママの代わりに先生が優しくしてくれたんでしょ?」
「うん…最初はね、ビックリしたの。あんまり恐い目つきしてたんだもん。ゆーかいはんかと思っちゃった」
「そういう男はけっこう狙い目よ。見た目がアレでも性格さえまともなら他はどうとでもなるし、変に外で遊ぶこともないわ」
誰か、についてははっきり言わないけど、間違いなくパパのことね。
たしかに正反対かもしれない、性格とかっていうのは特に。
ま、ママじゃなくてもあんなの願い下げだけど。
「そのときは、たいして話とかしなかったんだけど、次に会ったときもね、ビックリしたわ。今日から先生だって言うんだもの」
「そう」
「それで、私最初に会ったときにてがみ落としちゃってたんだけど」
「ああ、北村くんに書いてたあれね。転んじゃった大河に手を貸してくれてありがとうって」
「そ、それはいいの! …そのてがみ、竜児が拾っててくれて…でも竜児、人が真剣に話してるときに笑うのよ、ひどくない?」
「あなたが何かしたんでしょう」
「そ、それはその…だって、お腹減って…」
ほらごらんなさいって、ママは批難めいた目で私を見る。
「けど、そしたら竜児がお弁当くれたの」
「…晩御飯だけじゃなくてお昼までごちそうになったのね」
「うん。そこいらのお店で食べるよりもおいしかった」
また食べたいな。
ううん、今度はタコさんウインナーって約束したもの、竜児ならちゃんと作ってくれるはずよね。
なによりあんなお弁当、頼んだってママじゃ絶対作れないし。
ママの前じゃ口が裂けても言えないけど、本当に比べものにならない差があるもん。
「まったく…その張った食い意地は誰に似たのかしらね…それで?」
「えっとね、帰ろうとしたら迎えはどうすんだって聞かれて、ないわよって言ったら竜児が送ってくれた」
「…そう」
「そのあとはずっと竜児のお家にいたんだけど、すっごく狭いのよ、あのお家」


けれど、ちょっとだけ羨ましい。
狭い分誰かがずっと傍にいてくれるようで、あの窮屈さは思いのほか気持ちよかった。
この家と違ってどこも整理整頓されててキレイだったし、家事は全部竜児がやってるってやっちゃんが言ってたから、
真面目なだけじゃなくて几帳面なのね、竜児って。
「あ、そうだ。竜児のお家にね、年長の女の子がいたの。あとよく喋るきもちわるい顔したインコも」
「あら、その人そんなに大きなお子さんがいるの」
「わかんない」
結局なんだったんだろう、あの子。
みのりんもけっこう掴めないところあるけど、もっと掴みようがない感じ。
こっちに合わせてあんな間延びしたお子ちゃまっぽい喋り方してるわけじゃなさそうだし、じゃあ素であれ?
どうなんだろ。
悪い子じゃないのはきっと合ってると思う、そんな風には見えなかったのもあるけど、竜児と一緒に暮らしてるんだから。
てか一応年上なのよね、年長なんだからたぶん、そのはず。
それにしたって、なんか、胸の辺りに他の子には普通はない、体に不釣合いなふかふかしたのがあったような気がしたけど…まさかね。
もし仮に、仮によ、百万歩譲って本当にそうだったとしても私だって大人になれば、そこそこ大きくなるだろうし。
焦る必要はないわね、うん。
それに、
「でもね、ママ」
「うん?」
「竜児、名前で呼んでくれた」
「よかったわね」
大河、だって。
タイガーってバカにした呼び方じゃなくって、大河って、私の名前を。
嬉しかった。
「そうだわ、大河? こんな話知ってる?」
ふと、ママは思いついたように言う。
「虎と竜はいっつも一緒にいるのよ。なんだかぴったりじゃない、あなた達に」
虎って、わたしのこと?
きっとそうだと思う。
私の名前からもじったタイガーってあだ名、虎のことだったはず。
じゃあ竜って、竜児?
「ほんとう?」
「ほんとうよ」
「ずっと?」
「さあ、それはどうかしら」
矛盾してる。
いっつも一緒って言ったのに、ずっと一緒なのかどうかはどうかわからないなんて、そんなのおかしい。
考えても考えても、なにを言いたいのかわからない。
難しい顔をした私を見て、ママは含み笑い。
「あなたしだいよ」
スーッと、凝り固まった頭と心にその言葉が染み込んでいった。
「私しだい…?」
「ええ。大河がずっと一緒がいいならそうなるし、その逆だって…あなたには、まだちょっと難しいかしらね」
難しいけど、でも、なにか、わかったような気がする。
要は、したいことをすればいいんでしょ。
大事なのは、きっと、そういうこと。
「ママ、おねがいがあるの」
「なぁに?」
「明日の朝って、いつもとおんなじで早いんでしょ。起こしてってほしいの」
「いいわよ。その代わり、一度で起きなきゃだめよ」
一つ目は簡単にきいてくれた。
あとは、残りの二つ。
「それでね………で、これからは竜児に………なんだけど、いい?」
「そうねぇ」
ある意味これが一番重要で、ワガママの度が過ぎてる。
だけど、おねがい。
「…ママはいいわよ。ただし、きちんとお願いするのよ、先生に」


よし、最大の難所は通った。
最後の一つは、おねがいっていうほどのおねがいでもないんだけど、やっぱり聞ける相手なんてママくらいだから。
「あのね、教えてほしいんだけど───」
聞き終えたママは柄にもなく大きな声で笑っていた。
ひとしきり笑うと、荒い息をしたママはこう言う。
「任せなさい、とっておきを教えてあげるわ」
とっても素敵で、やり甲斐があって、絶対叶えてあげたいワガママね。
そう付け加えたママは、耳元にそっと口を寄せた。

                    ***

「なぁ、大河」
「なによ」
「たしかに俺は昨日、いつでも来いとは言った」
「ええそうね」
「だからって、こんな朝っぱらから来ることないんじゃないのか」
テーブルに着いているのは俺と泰子と、そして大河。
囲む朝食。玄関がノックされたのはその支度中だった。
インターホンまで手が届かなかったんだろうが、にしたって早朝からドンドンドンドンと、
力いっぱい何度もノックをされるというのは近所迷惑以外の何物でもない。
イタズラだったらどうしてくれようとドアを開けると、そこには大河がいて、開口一番こう言った。
『遅い、寒い、お腹減った』
そのままさも自分の家みたいに上がりこんだ大河は勝手にテレビを点け、ニュースなんかには目もくれず、
こんな時間から放送している幼児番組にチャンネルを合わせると食い入るように見ていた。
泰子も、テレビから流れる着ぐるみたちのやりとりで目を覚まし、枕を引きずって起きてきた。
その枕に頭を乗っけ、寝そべってテレビを見るのはどうかと思うんだが。
しかし大河と並んで『ゆゆぽおねえさんのたらふくたらスパ体操』をうつらうつらとしながらもしている内に眠気は完全に払拭できたようだ。
大河に習って言われもせずに着替える。
手間が省けていいな。
泰子の方がお姉さんなんだから普通は逆だろとは、この際置いておこう。
それよりも大河の方が気にかかる。
なんだってこんな時間から、もう登園する気まんまんでうちに来るんだよ。
「やっちゃんこれきらーい」
「私もイヤ」
無視かよ。しかも人の皿にさりげなく嫌いなもん除けるな。
「あ、そうそう。ねぇ竜児」
「…なんだよ」
大河が今思い出したように言う。
「ママがね、竜児に幼稚園連れてってもらえって」
唐突で、かつかなり意外な申し出だった。
別段それ自体は構わないんだが、面識もない、それも大河にだって昨日初めて会ったばかりの俺にそんなことを頼んでいいのか。
「だめ?」
「いや、だめってことは…まぁいいけどよ」
「やった」
大河はほっと一息、そして続けざまに爆弾を落とした。
「それじゃ、今日から毎日おねがいね」
静まり返る室内。
外から聞こえる音以外はなにもしない。
時間が止まったようだ。
「げふぅーい」
だが、ご飯を食べ終えたインコちゃんの可愛らしいげっぷを境に、時計の針が動き出す。
「ま、毎日ぃ? 今日だけじゃなくてか?」
「そうよ、毎日。いいでしょ、どうせ行き先は一緒なんだから連れてきなさいよ」
「わぁー、じゃあ大河ちゃんとずっといっしょだねぇ〜」
泰子、それは喜ぶところなのか。
そりゃお前は遊んでもらったり、面倒見てもらったりだのと、おおよそ世話をかける方だからいいだろうが、俺はそうはいかないんだぞ。
「お前、弁当は? 今日から持ってかなくちゃいけないんじゃないか」
「タコさんウインナー、楽しみにしてるわね」
ほら見ろ、こんな調子だ。


こんなこともあろうかと急遽三人前の朝食と一緒に弁当の用意をしてなかったら、今頃大わらわでまた台所に立っていたことだろう。
しかも、これが毎日ときたか。
嫌ってほどじゃねぇんだけど、かといって手放しで喜べる事態でもない。
他はともかく食費とか、最低でもそれだけはどうしたもんか。
「安心して、竜児」
大河が胸を張る。
洗濯板よりはまだ厚い胸囲をこれ見よがしに見せ付けられても、俺の不安は小指の先ほども解消されない。
どちらかといえば将来、寸分違わないサイズのままでいそうなソレの方が要らぬ不安を掻き立てる。
「その…カラダでかえしてあげる…」
ぽっと頬を染めるな、ちゃんと意味分かって言ってんのか。
「からだでかえす? 大河ちゃん、それなぁにぃ? なにするの?」
「よくわかんないけど、こう言えばイチコロだってママが言ってたの」
それでイチコロされたとして、そんな男の目の前に自分の、しかも言葉の意味も理解してない年齢の子供を置いておける神経を疑う。
話に出てくるのは一貫して母親だけだから、こいつの少々ズレた性格や並外れた行動力はひょっとしたら母親譲りなのかもしれない。
どんな人だろう、できればあまりお目にかかりたくない。
だって偶然に偶然が重なったとはいえ、さらりと隣家の住人を送迎係り兼子守りにするような人間だぞ。
それも本人の了承は一切得てない上に子供を通して伝えるなんて、どうかしてるだろ。
挙句にあんなことを言わせて。
「竜ちゃ〜ん、やっちゃんもぉカ・ラ・ダ・で、かえすからぁ、ほしいのがあるの」
なんで子供ってなんでもすぐマネするんだろうな。
とても子供のおねだりとは思えない仕草でもたれ掛かってきた泰子が、やけに大人びた声で囁く。
言うだけ言ってみろ、たいしたものじゃなかったら考えておく。
まぁどうせおもちゃとかそこら辺だと、
「あのね、やっちゃんね…あかちゃんがほしい…」
「大河? お前忘れもんとかないよな? なかったらちょっとこっち来い」
子供のおねだりはよりにもよって子供が欲しいという子供らしからぬおねだりだった。
俺は今の場面を頭から忘却するよう無理やり自分に言い聞かせ、いやぁ〜んなんてアホみたいに身をくねらせる泰子を尻目に、
三人分の弁当箱を詰めたカバンを引っ提げ大河の手を取り玄関へ。
「ああいうの、二度と泰子の前で言うなよ」
「でで、でも、そんな、私のせいじゃ」
「言うなよ」
「…わかったわよ」
しゅんとうな垂れる大河。
ちょっと、キツく当たりすぎたか。
考えてみればこいつだって、なにも悪気や変な狙いがあってあんな言葉を口にしたわけじゃないんだよな。
「ふにゅ…ひゃみすんにょよ、ばか」
両側の頬を持ち上げる。
ひょっとこ顔の大河がギロリと俺を睨んだ。
パッと手を離す。
「ほら、しゃんとしろ。もう幼稚園行くんだぞ」
「…だからってなんでほっぺ抓ったりすんのよ。痛いじゃない」
「泰子、そろそろ出るぞ」
「ふぁ…ん…やぁん、竜ちゃん、だぁいたぁ〜ん」
「シカトするなんていい度胸してるわね」
ひとりおままごと絶賛真っ最中の泰子を抱きかかえる。
大河はこめかみをピクピクさせながらも、時間がないのが分かっているからか手を出してこない。
が、大人しかったのも外に出るまでで、歩き始めたとたんに脹脛に鋭い蹴りをお見舞いされた。
「ふんっ、これでおあいこよ」
靴跡を残されたズボンを叩き、砂埃を払い落とす。
片手じゃ、いい加減辛くなってきたな、泰子を持ち上げているのも。
「ん」
もう片方の手まで塞がれてしまった。
殊更足なんか滑らせないよう注意して歩かないと。
人の目がそこはかとなく刺さってくるが、まぁ、こういうのは何も初めてじゃない。
潔く諦めよう。
「おい、歩くの早いって」
「竜児が遅いのよ、早くしなきゃ遅刻しちゃうわよ」
なにせ、毎日これが続くんだからな。




249 174 ◆TNwhNl8TZY sage 2010/03/05(金) 20:01:42 ID:SrvVJfBX
おしまい
時代はスモック。
だってスモック着たやっちゃんが頭から離れなかったから。
これ、あんまり幼稚園らしいネタもなかったから、できたら短い話でぽちぽちやりたい。



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