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みの☆ゴン3 ◆9VH6xuHQDo
眠れない。竜児が時計を見ると、午前0時だった。
平和な春休みだったが、今日一日だけで、竜児的にはいろんな事件が起きたからだ。
1番は、初恋の相手、実乃梨。大河を通して、メールアドレスを聞いて来た。そして、
お食事会のお誘い。素直に嬉しいのだが、どうしてだろう。全く見当つかない。謎だ。
2番は、大河。北村とすみれの話をしたらキレた。大河は去年、北村を振っている。
大河はその罪悪感で、北村の親友である竜児に、気を使っていたのではなかったのか?
…と思ったが、良く考えたら大河は、竜児に全く気を使っていない。意味不明だ。
3番は、芸能人と握手した事だ。川嶋亜美。竜児的に殿堂入りの実乃梨は別格として、
強力に美人だった。大河も美少女だが、ベクトルが違う。得した気分になった…等々。
「あーっ眠れねえ、無理矢理寝るかっ」
1度油断して大河の夢を見たが、今日も実乃梨の夢を、見るつもりでいた竜児だったが…

…コレは夢。つまり妄想。俺の妄想なのだが、なんか間違っている気がする…
なぜならベッドの上に、大の字になって手首、足首を縛られているからだ。
しかも…全裸だった。誰かが近づく。いわゆるボンデージファッションだ。
艶のある細い長髪、奇跡の8等身、ミルク色の肌に、潤んだ瞳…亜美だった。
亜美はニコニコしながら、右手に握るムチをブンブン振り回している。
何条にも分かれたムチの先が、振り上げられ、ベッドに叩き付けられる。
風きり音っ! パシンっ!! …痛そうだ 亜美は髪をかきあげる。
 …高須く〜ん、あ・そ・ぼっ…
 いや川嶋…あまりこういう遊戯は好きじゃないんだが…っていうか櫛枝は?
 …ちょっと、実乃梨ちゃんの話しないでくれる?だいたいこれって、
  高須くんの妄想だよっ?うふっ、楽しみましょうよ!おりゃああっ!!!…
パシイイン!
 痛ってーっ!!おい、川嶋!無理だそれ!!全く楽しくないぞっ!!
 …も〜っ、高須くん。根性ないなぁ…ウフッ!わたしが楽しいからいーのっ!えいっっ!…
スパアアン!
 おうっ!!っ痛てーよ、川嶋!!本気で痛てーって!止めてくれよ!
おっほっほっと、手の甲を口に当て笑っている。と思ったら、急に真剣な顔になる。
 …やだ高須くん、間違えてるよ?止めて下さい…でしょ?…
 くっ…止めて…下さい
 …聞こえな〜い。亜美さまに聞こえないわ〜?…
 止めて下さい…亜美さま…お願いします…
 …おーっほっほっ!うんっ、高須くん、いい子だから止めてあげるねっ…
 やっぱりなんか、間違っている気がする…
 …何が?何のこと?さあ、高須くん。これからが本番よ?…
 本?うおううっ、く…屈辱…ふごおっ…
亜美は後ろ向きに竜児の顔面に座った。息が苦しい。亜美の尻しか見えない。
 …ねえ高須くんっ、舐めてよ。ご褒美あげるからっ…
と言って、亜美は竜児の緊張した部分を指でピンっと弾く。
亜美はエナメルのTバックの紐を解く。丁度、竜児の舌先に、亜美の核が当たる。
 …んん〜っ、そうっ、高須くんっ、んっ、んっ、はあ〜ん、私も舐めちゃおっ…
亜美の細い指は竜児の角度を変え、口の中へ。亜美は指も柔らかいが、舌も柔らかい。
竜児は舌先で舐める箇所を、亜美の核から、液の捻出部に移動した。
亜美のカラダがキュウっと、凝縮する。丁寧に竜児は亜美の濡れた周囲を舐め続ける。
 …んぁ〜んっ、たっ高須くんっ、気持ち良くて、はぁ…ご褒美できない…じゃん…あんっ…
竜児の性器は。亜美の唾液で光っていた。ギュッと握りしめる亜美。
亜美は一度、大きく腰をくねらし、その直後、竜児を握ったまま、方向転換、見つめ合う。
 …高須くんっ。挿入れちゃうよっ、挿入れたいの…
 おうっ、川っ嶋っ…
亜美は深く腰を落とす。竜児を…飲み込む。竜児に亜美の長髪が掛かり、くすぐったい。
美しい亜美の裸体が竜児の前で踊っている。亜美の汗が掛かる。
竜児は縛られたベッドを動かすほど悶える。縛った縄は、きつく結ばれ、痒い。
 …あんっ、あんっ、ああっん、ねえ高須くんっ、口開けてよ…ん…
亜美は、竜児の口に唾液を流し込む。しかし我慢出来ず、結局そのまま竜児にキスをした。
ふたりが発する息の音と、クチュンクチュンというイヤらしい音が響く。その音は共鳴し、
だんだんスピードが上がる。そして音量も上がる。腰が意志を持ったように止まらない。速い。
 …あんっ、あんっ、高須くんっ、あんっ!いくうっ…
 はあ、はあ、川嶋っ!!

「!!おうっ!」
あろう事か、実乃梨ではなく、川嶋亜美で夢精してしまった竜児。しかも変態プレイ…
ドッ押し寄せる罪悪感。残念な気分だ。もしかして、俺は色魔なのだろうか?
いくら亜美がモデルとはいえ…初対面の女子で…竜児は猛省する。
竜児は、洗濯カゴにパンツを投げ入れ、パンツを交換。冷静になり実乃梨に謝罪。
「櫛枝…変な夢見て、すまんっ…」
そして竜児は実乃梨分を補充しようと、箱から実乃梨への想いを綴ったノートを取り出す。
ペラペラっと捲る。最後のページのプレイリストに目が止まる。何度も聞いた1曲目…
口ずさもうとしたその瞬間、偶然にもその曲が、竜児の携帯から流れる。着信だ。
    ♪君は太陽 僕は迷わない
        もう迷わない 君と…

メールだった。愛しの実乃梨から。


〒iII 四            00:11
差出人  : minorin@tora.zzn.com
件名   : くしえだでーっす
受信日時 : 200X.04.02  00:05

おはこんばんちわ、くしえだこと、みのりんです。
おっと…逆か(汁)
メアドありがと〜。ムリヤリだったかな?
いや〜面目ねえっ。ちょっと、たかすくんに、
相談したい事あったからさっ。カンベンなっ。
いつもたいがと一緒に登校しているんだけど、
始業式の日、たかすくんも一緒に行こうよっ。
たかすくん家から学校まで3つ目の交差点ね。
じゃね☆

…なお、このテープは、
     10秒後に自動的に爆発しない…


「テープじゃねえし…っていうか、一緒に登校?うおおっ神様!仏様!上野様!」
謝罪の恩恵だろうか、大好きな実乃梨とまた逢える。話せる。笑顔が見れる。
相談ってのがちょっと気になるが。しかし実乃梨と一緒にいられる口実になるのであれば、
もしそれが嫌でも、辛くても、痛くても、犯罪でも、竜児はこの際何でもいいと思った。
…で、結局実乃梨になんて返信しようか、竜児は悩みに悩みまくった挙句、
やっと、結局始業式の前日に、

『心配御無用』
と、非常に微妙な返信をして、一晩中激しく後悔する竜児であった。

「グッモーニンッ!ミスター高須っ!久しぶりだねっ、この前、遅くにメールごめんね?」
「おうっ、おはよう櫛枝…全然気にすんなよ。…で、相談ってなんだ?」
竜児は実乃梨に対して、サン付けを止めた。一歩前進だ。実乃梨はやっぱり今日も可愛い。
「ソレに関しては、おいおいなっ。高須くん、大河。一緒じゃないんだ」
「家の前で待つか迷ったんだが…通行人にジロジロ不振な目で見られて…ひとりで来た」
「あははっ、そうなんだっ。まあ大河は3日に1回は遅刻するからねっ。でも初日からとは…」

ドンッ!
っと、その時、竜児を追い越した、二人組の同じ高校の生徒と、肩が当たる。
「ってーなっ!…おおわっ、高須さんっ、すっすいませんっ!!これ…財布で勘弁してください!!」
「馬鹿っ!ぶつかる相手選べよッ、高須さん、こいつ、後でヤキ入れときますんで!…命だけは…」
すいませ〜んっ…っと竜児に財布を預け、逃げ出した二人。苦笑する竜児。目で追う実乃梨。

「ほえ〜っ、高須くん、本当に誤解されちゃうんだ…カルマよのう…」
「まあ…いつもの事だ。慣れた。俺、目が…恐いだろ?さっき、大河のマンションの前で、
 不審がられたり、職質受けたり…小学校の時からあだ名で、極道くんって呼ばれてたんだ…」
竜児は、癖で、前髪を引っ張ってしまう。今もそうなのだが、実乃梨は勘違いしてしまったようだ。
実乃梨はバシッと竜児の顔を両手ではさみ、真っ赤になって、懸命に叫ぶっ。

「高須くんっ、他のヒトはどうか解んないけどっ、わたしは高須くんの目っ、好きだぜっ!!」
竜児は、少し潤む実乃梨の瞳から目が離せない。耳まで朱色の顔、微妙に震える唇。超至近距離だ。
自分の表情は解らない。実乃梨には、竜児の顔はどう写っているのだろうか。
ここは通学路。
一見、キッスでもするかのような体勢のふたりを、複数の同じ高校の生徒に目撃される。

***

「おっ、高須っ!おはよう、いい朝だな!」
竜児は、背後から掛けられた声に気付き、振り返って手を上げた。
「おぅ、北村、おはよう」
「おぅ、北村、おはようグルト」
実乃梨は、竜児と全く同じように振り返って手を上げた。短期間にしては完璧な物真似だ。
北村は意外なカップル登校に対し、特に変わった対応をしなかった。
「やあ、櫛枝っ!おはよう、やはりいい朝だな!いつも一緒の逢坂は、いないのか?」
「そうなんだよ、大河ったら、メールも帰って来ないし、電話も出ないし…ったくブモーッ!」
実乃梨は宇宙牛の物真似を始めた。もう竜児は置いてきぼりだ。

「なあ、高須、あっちにクラス名簿が張られているぞ?一緒に見に行こうっ!」
「おうっ、楽しみだな北村。また一緒になるといいな。…くっ、櫛枝も」
「あっしも仲間に入れてくれるんですかい?へへっ、大河も一緒だといいな〜」
3人は校舎の脇に掲げられたクラス名簿の前に移動する。

「そだっ、北村くんっ。放課後に、今年一発目の新二年生ミーティングあるじゃん。
 議題終わったら、すぐ帰っちゃっていいかな?ちょっくら高須くんと約束しててさ」
ねっ!と竜児に同意を求める実乃梨。お…う…竜児は頑張って相づち。ものすごく嬉しく、
天にも昇りそうな竜児だが、これは北村に変な誤解されないだろうか?北村は答える。
「構わないんじゃないか?議題ってもスケジュール確認くらいだから。問題ないだろう。
 2時過ぎには抜けられると思うぞ。それはそうと、見えるぞ。名簿。…あった!C組か」
「北村はC組か?…!っ、俺もC組だっ、一緒だぞ!え…と…櫛…、おうっマジかっ!!!」
「あはっ、高須くんなんで泣いてるの?わたしも一緒のC組だぜよ?はい、高須くんっ、
 ハンカチ王子っ。わーおっ!大河も一緒だっ!こりゃあ、面白くなりそうだねっ!」
2−Cと言えば、牧野つくしちゃんは?F4は?っと、またもや竜児を置いてきぼりにする実乃梨。
少女漫画や、ドラマを見ない竜児は、意味が分からなくても、この雰囲気が好きだ。
ハンカチは洗って返そう。竜児は涙を拭うふりをして、匂いを嗅いだ。実乃梨の匂い…
竜児の心は、校庭に咲く桜より、綺麗なピンク色に染まった。
そんな気も知らず、実乃梨は携帯のフリップを開ける。
「えーっと…大河にメール、メール…今年もっ、一緒だよっと…どうしよっかな…あと、
 高須くんと北村くんも、クラスメイトだぜ…これでいいやっ、送信!ボチッとなっ!」
このメールが、今日の放課後にある事件を起こす原因になる。

「また君か?よく落とし物拾うねえ」
「はあ…そうですね」
放課後、竜児は、用務員室へ、不可抗力でカツアゲしてしまった財布を届けていた。
こういった地道な努力が、竜児は普通の高校生!っという実が結ぶ日を信じて。
「おうっ、あと五分かっ」
実乃梨と約束したのは2時半。竜児は、二段抜かしで、階段を駆け上がり、2ーCの教室へ戻る。

「…っ…」
教室のドアを開けると、竜児は絶句した。イスが3つほど、宙を舞っていたからだ。
とっくに下校時間を過ぎ、無人のはずの教室で、何かが起きているのだ。
ドカンドカンっと、イスは落下。そのイスを蹴り倒し、ロッカーに身を隠す影ひとつ。
その影の正体を竜児は知っている。今日、クラスメートに聞いたのだ。身長145cm、
校内最高ランクの危険人物。誰が呼んだか手乗りタイガー、逢坂大河だ。
どうやら本人は隠れているようだが、教室の鏡にバッチリ写っている。

「逢坂…だろ?俺だ…お隣さんの高須竜児だ…」
竜児の声を聞いた大河は、頭を掻きながら、ロッカーから出て来た。無愛想だ。
「なによっ、竜児か…こらっ!おどかすんじゃない!!わたしを殺す気?」
「おどかしてんのは逢坂だろ?なんでイス飛ばしてんだよっ!イスの神様に謝れ!」
グルルッ…っという呻き声が聞こえるくらい竜児を威嚇する大河。
「…やめようぜ逢坂…これからお食事会だろ?好きな食べ物はなんだ?」
「…肉」
竜児はこれ以上刺激しないように、ゆっくり教室に足を踏み入れる。
そして、帰り際に話をした、北村の机に置いた自分のカバンを手に取る。
「あっ!」
大河が飛び上がった。なにかマズい事でもしてしまったのだろうか?
「なんだよ…おうっ、なに悶絶しているんだっ、お前おかしいぞ?」
おちょぼ口をあうあうし、指をワキワキする大河。小刻みに震えている。
「りゅりゅ竜児のカバン、だって言うの?だって、座席表だと竜児の席は、
 そこじゃないでしょ?ななな、なんで、なんでそそそそんな…」
激しくドモって、竜児を指弾。
「…なんでもなにも、教室を出る前に北村と話していて、そのまま…おうっ!」
竜児と数メートルあったはずの間合いを一瞬で詰める大河。
「…っ、…っ、…っ!」
大河は竜児が抱えていたカバンを奪おうとする。ものすごい力で引っ張る。
「なにすんだよっ!俺のカバンは喰えねえからっ!逢坂!やめてくれっ」
「かっ、かし、な、さいよぉ…っ! よこせっ!」
「あ、あぶねえからっ!よせ、やめろっ!」
この状態で手を離したら、大河は後ろに吹っ飛ぶ。離せない。

「あれれ?おいおい、おふたりさんっ!何やってんのさ!」
丁度そこに実乃梨が現れた。
「あっ、みのりんっ!こいつがカバン離してくれないのっ!助けて!」
「なっ!これは俺のカバンだろっ!離すなら逢坂が離せ!櫛枝!そういう訳だ!」
「んも〜!よく分からないけど、早く帰るよ!おおーりゃ!」
実乃梨は、ふたりが引っ張りあっているカバンをスパっと、インターセプトする。
鮮やかなプレーだ。カバンが無くなったふたりは、左右にふっ飛ぶ。
「こいつぁ、わたしが預かっておくよ!カバンに罪はねえよ!」
「いたた…みのりん…その中に間違って、需要書類を入れちゃったのっ!…」
「なんだい大河、そういう事は、早く言いなよね!高須くん、開けていい?」
「って〜…なんだ、そういう事か…構わねえ。おうっ、コブになっちまった…」
「どれ…これだね?…はい、取った!大河、俺のオゴリだ、取っときなっ!」
実乃梨は、竜児の持ち物にしては、可愛らしい封筒を大河に手渡す。
大河は、大至急封筒をしまう。竜児はイスを元に戻した。

「これにて、一件落着!罪を憎んで、人を憎まず!!さっ行こっ!」
三人は、実乃梨の大岡裁きに、納得したのかしないのか、
夕食の買い出しにスーパーへ向かう。
「肉!ねえ、みのりん!わたし、肉がいいっ!」
「若い奴は、肉食っときゃ〜、間違いねぇっ!高須くんっ、頼んだぜ」
「おうっ!かしこまりだ。そうだ、デザートは、どうするんだ?
 一応、クリームブリュレなら、下ごしらえしてあるけど、」
「ゴクリ…竜児が夕食作る間に、試食しておいてあげるわ」
「おお〜高須くんっ!ナイススイーツ!クリームブリュレ作れるんなら、
 今度、一緒にバケツプリン作ろうよ!それは女の欲望番外地…」
なにそれ〜みのりん面白いっ!っと、大河の機嫌が戻ったようだ。
実乃梨は、大河に抱きつかれながら、自分の視力の良さに後悔していた。

決して見たのではない。見えてしまったのだ。
封筒に大河の筆跡で書かれた誰かの名前を、コメントを。

どういう内容か、分からないほど、実乃梨は、鈍感ではない。

「きゃーん☆美味しそ〜。今日もお招きありがと〜☆」
「やっちゃん、こんばんわ!エイプリルフールぶりねっ」
「おいおい大河。高須くんのお母さんに、なつきすぎじゃね?こんばんわ!
お久しぶりですっ!今日も、ボリューミーで何よりですっ!」
大河のキッチンから、ハーブティーを運んできた実乃梨と竜児。
「ちゃんと俺の分も残してくれよな〜…もうすぐ出来ちまうけどな」
結局、竜児が夕食を作る間、クリームブリュレを食べる事になった。
フランベしたカラメルの香ばしく、甘い匂いが漂う。
実乃梨は、竜児と一緒にキッチンに戻る。今日は大河のリクエストで豚カツだ。

「ねえ、大河ちゃ〜ん、これからも夕食一緒に食べようよ〜。毎日でもいいでしょ〜」
大河は、実乃梨をチラ見する。ケタケタ笑いながら、真っ赤な竜児と、料理している。
いつも明るい実乃梨だが、なんか、いつもより…。気のせいではない。
「そうね、やっちゃん。たまにならイイよ。みのりんも一緒にね!みのりん、わたしの嫁なのっ」
「え〜っ!そうなの〜、それって、もしかして、百合とか、ビアンとか…」
眉毛をハの字にして困り顔の泰子。大河はハーブティーをふうふうしている。
「なに怪しい会話してんだよ、出来たぞ。豚カツは、暖かいうちが一番美味い。
 しかも国産黒豚だからなっ、キャベツも新鮮シャキシャキだっ」

「そういうばみのりん今月誕生日でしょ?またウチに集まろうよ」
「うーん、実は、大河。ソフトボールって、春と秋に、デッカい大会があってさ。
 特に春季大会は、インターハイの予選も兼ねてるのよね、暫く無理かなぁ」
「みのりんちゃん、そ〜なのっ?じゃあ、みんなで応援に行こうよ〜!プレイボ〜イ☆」
「プレイボールだ。そんな、邪魔になるだけだろ、櫛枝、スルーしてくれ」
大河は少し考え…
「竜児。あんたは応援行くのよ。負けたらあんたのせいだからね!」
「なんでだよっ、俺は貧乏神かよ。櫛枝、やはりスルーしてくれ」
「キーングボンビーッ!ボンビラス星ではお金などいらぬのだ!っと思ったらスリの銀次だった!
 ありがとう。嬉しいよ!応援全然ウェルカムなんだぜっ!とりあえず、食べよっ!」

いただきま〜す!
しかし、この団欒の声は、今日を境に、しばらくの間、おあずけになる。

夕食が終わり、明日も学校なので、竜児は早めに実乃梨を送る事にした。
まだ6時半過ぎだ。ふたりはゆっくり、味わうように並んで歩いていた。

「さっきも話したけど、来週にソフトボールの春季大会があるの。
 ゴールデンウィークに、関東大会予選。次に六月の関東大会があって、
 夏休みにインターハイなんだ。まあ、勝てたらだけどねっ」
「勝てるさ。頑張っているじゃないか、いつも観…いやっ、北村から聞いたんだっ」
竜児は前髪に触れるのを我慢した。実乃梨は、竜児の言葉を素直に喜んだ。

「うふふ、ありがと、高須くん。んで…大河の事なんだけど…お節介なのは、百も承知で、
 やっぱり気になる訳よ…たまに掃除とかさ、やってあげたいんだけど、バイトもあるし…」
一瞬目が合って、竜児は慌てて正面に顔を戻す。ポケットの中の手は、緊張で握りしめている。
「優しいんだな、櫛枝は」
「…ううん…お節介なんだよ。実はそれで一回失敗してるんだ。大河のお父さんと、
 ケンカしちゃったんだ。あの自分勝手な…あ、止めた。ごめんっ、なんでもネーゼ…
 それから、大河は、どんなに困っても、わたしにSOSを出さないようになったの。
 SOSを出したら、わたしがお父さんを怒るから…大河の事…大切なんだ」
「本当にお節介だったら、逢坂だって、もう櫛枝と一緒にいたり、遊んだりしてないだろ?
 逢坂にとっても、櫛枝は大切なヒトなんだと、俺は思う。判った。協力する」
竜児にとっても、実乃梨は大切なヒトだから…とは、言えなかった。

「うれしいっ。ありがとう。こんな事、相談できるの高須くんくらいだよ。
 高須くんなら、わたしの事理解してくれそうな気がして、話しちゃった」
「俺は櫛枝の事、理解したいと思ってるし、話してくれて…光栄だと、思ってる…」
これが今の竜児の出来る精一杯の告白だった。伝わらなくても満足だった。

「本当?…あ、もう家着いちゃう…ねえ高須くんっ、ウチ来ない?もう少し話したいなっ」
「おうっ!それは…それも光栄なんだが…まっ、マズいだろっ」
「大丈夫だぜ!ちゃんとキレイにしてるから。大河んちよりマシだぜ?そうだっ、都こんぶ!
 わたし都こんぶを大人買いしたのです!実はわたし、孤高のダイエット戦士なんだけど、
 1箱たったの22キロカロリーでミネラルいっぱいの都こんぶがあるのっ。ねえ高須くん、
 禁断の都こんぶ一気食いを、おいらと一緒に体験してみないかっ?」
グイッと竜児に顔を寄せる実乃梨。鼻息が掛かるほど近い。五感が麻痺するほど体温が上昇する。

「そっ…そういうんじゃなくてさっ。マズいってのは…まあ都こんぶ好きなんだが…
 俺、男だし…櫛枝は、女だしっ。嫌じゃないんだ。むしろ、好…っつおお…」
竜児は限界を超えた。体温が100度を超えた。
「え?」

実乃梨は、目を丸くする。暫く沈黙し…そして実乃梨は、落雷を受けたような衝撃を受ける。
気付いたのだ。竜児の真意。そして、自分の気持ちに…実乃梨も限界を超えた。

「…りゅ…竜児くんっ!…高須くん。あのさ…竜児くんって…呼んでもいいカナ…」
もともと自分にそんな感情があったのか?と思っていたほどの実乃梨。対処に困る。
うつむき加減で、竜児を見つめる実乃梨は…何とも言えない表情をしていた。
敢えて例えるなら…

  本物の幽霊が見えてしまった時の
         驚き、恐怖、嬉しさ
          …を、ミックスさせたような表情…

そんな感じだ。

竜児は、大橋の欄干にもたれ掛かっていた。
「竜児くんって…俺の事だよな…」
結局、櫛枝家にお邪魔する事は、出来なかったが、それ以上に、実乃梨との関係が、
進展してくれたように思える。ついさっきの出来事が、夢のようで現実味が無い。

欄干からは、川全体が見渡せて、頼りない外灯の灯りがユラユラ映り混んでいた。
まだ少し肌寒いが、土手沿いの桜を楽しんでいる花見客が数人見える。盛り上がっている。

…竜児がいまいち盛り上がらないのは、実乃梨との約束の事だ。
「逢坂大河…どうすりゃいいんだ…」
手乗りタイガーの異名を持つ大河には、黒い噂が後を絶たない。自らも誤解される事が多い竜児は、
真に受けなかったが…実際に竜児の身に降り掛かった事は別だ。暴言、暴力、暴走…
竜児は体験してしまった。一見、儚げな美少女っぷりとのギャップが、さらに大河の非道さを
際立たせているのだろう。取扱注意の猛獣を相手にするには、あまりにも竜児は、経験不足だ。

低い位置に沈みかけた月が見える。今日は三日月だった。太陽の光のおかげで、月は光る。
竜児は実乃梨を太陽に喩えていた。キラキラして、眩しくて、明るくって、憧れた。
そして、そのキラキラした実乃梨の光を浴び、一緒に光りたいと、思っている。
「俺は、…月か」
「月といえばアポロだな。こんなところでどうした、高須」
「おうっ、北村!なんでここに?こんな時間に?」

「俺の家は本町だ。今日はミーティングもあったし、新学期で生徒会の雑用もあったからな。
 高須がここにいるのは…櫛枝を送った帰りなんだろ?櫛枝の家、こっちの方だからな」
「…アタリだ北村。探偵になれるぞ」
「しかし、正直、朝は驚いたぞ。春休みに何かあったのは…お前の方だったんだな」
「いや、まだこれからだ…茶化すなよ、北村」
「そんなつもりはないぞ。櫛枝は、いい奴だ。高須と仲良くなったみたいで、嬉しいぞ」
竜児はバシッと肩を叩かれる。
男ふたりで、それ以上何も語らず、感傷に浸っていたのだが…

「やっぱりそうだ!魅羅乃ちゃんトコのお坊っちゃん!いや〜、どこかの恐い
 若い衆かと思ったけど、間違えなくって良かった!こんな所でなにしてるんだい?」
「え?あ〜っ!稲毛酒店のおじさん!いつも母が、お世話になってます。
 たまたまここで、親友と出会って。稲毛さんは?」
「おれは今日、商店街の花見でさぁ、あそこで呑んでるんだよ。
 本当は魅羅乃ちゃんの、お店に顔出したいんだけどね。
 …そうだ!お坊ちゃんも一緒に呑もう!さあさあ!」
稲毛のおじさんは、竜児の肩を抱き、土手下の花見会場に連れて行こうとする。
「いや!稲毛さんっ!お気持ちだけで結構です!俺未成年ですし、親友も…
 おう、いねぇ!北村!どこだっ!助けてくれ!おおぅ!北村ぁぁあっ!!」

酔っ払いに引き摺られていく竜児。
「…高須、すまんっ、生きて帰れよっ」
戦地に向う兵士を見送るように、橋の向こうでビシッと敬礼し、涙する北村であった。

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