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証をください ◆99y1UMsgoc


冷たい――

シャワールームの床にぺたん、と尻をつき、実乃梨は頭から水を浴びていた。
今の自分は泣いているのかどうかもわからない。
顔を流れる水は、シャワーなのか涙なのかもわからなかった。
ただひとつわかるのは、悔しいということ、だけだった。

 * * *

「櫛枝、ちょっと調子悪いのか?」

私の向かいに座った高須くんが、三白眼をぎらり、と睨み聞かせて尋ねてくる。
普段はカウンター席で肩を並べて座ることが多いのだけれど、さすがに休日の午後で混んでいる。
いつもは横からの視線が、今日は前から降り注ぐのがすこし気恥ずかしい。
周りの人たちは「ヤクザだ!」とか言うけれど、慣れてしまえば可愛いものだ。
一見危ない視線の奥に隠された、優しくて、繊細な、そしてちょっと鈍感な中身。
そのアンバランスさを思うと、少し顔がニヤけてしまったかもしれない。

「おう、どうした? 今度はニヤけて」

前言撤回。その変なところの観察力だけは、鋭い視線に似合っているよ。
そう考えると、ますます笑いをこらえきれなくなる。
くくくく、と声にならない声を上げて、テーブルに突っ伏してしまう。

「く、櫛枝が壊れた……!?」

私が壊れているのはいつものことだろうに。
そして、今から壊れているとしか思えないお願いをしようと思っているところなのだ。

「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」
「お、おう」

テーブルに突っ伏したまま、次の言葉を呟く。
あくまで、聞こえないように。

「――――――」
「え、何だって?」

心配そうに高須くんが私の顔を覗き込もうとする。
確かめられてよかった、高須くんはこういう人だ。
ちゃんと私の話を聞いてくれる。
きっと私のことを捕まえていてくれる。
それと同時に、彼のことを試してしまったという後ろめたさも少しはある。
心地よい安心感と、ほんの少しの罪悪感に包まれて、私は彼の耳元で囁く。

「私が女であるうちに、高須くんに、わ、私の体を知ってほしいんだ」

「それってどういう――」

高須くんは思わず声を上げ、それが周囲の客の視線を集めていることに気づくと、ばつが悪そうに前髪を引っ張った。

「こ、ここはちょっと人が多いからさ。
ちょっと外に出ようよ」

 * * *

7回裏、ワンアウト一塁三塁の大チャンス。
ここはいい場面で打席が回ってきた。
そう勇んで打席に向かおうとしたところ、

「櫛枝、代打だ」

えっ? なんで!?
一瞬頭が真っ白になる。
今日は交代させられるようなミスもしていないし、仮にしているならもうとっくに交代させられているはずだろう。

「櫛枝、お疲れさま」

ベンチに戻ると、キャプテンが声をかけてくる。
でも、どうにも怒りをこらえきれず、その声を無視してベンチに腰を下ろす。
結局、代打で出た先輩は大きなフライ。
タッチアップで2点差までは詰め寄ったけれど、結局そのまま試合終了。

モヤモヤは試合後も晴れず、一人残って素振りをしていたらすっかり日も暮れてしまった。
そろそろ上がろう、と思って一息ついたとき、背中からの声。

「あんまり根詰めすぎるんじゃないわよ?」

声の主は、キャプテン。試合中に少し無視した様な形に、いや、無視したのだ。
なんとなく居づらさを感じ、できれば早くここから逃げたいなと思ってしまう。

「今日の試合、残念だったね。
私は、櫛枝に任せてもよかったかな、と思ったけどね」
「……」

「やっぱり納得いかない?」
「……今日は、監督は何で私に任せてくれなかったんでしょうか」
「私は監督がどう思ったか想像することしかできないけれど、」

そう前置きして、キャプテンは続ける。

「あの場面、大きい当たりが欲しかったんだと思うよ」
「私じゃダメってことですか?」
「それは、櫛枝が一番よくわかってるんじゃないかしら?」

図星だった。
非力な私の打撃じゃ打ち上げても浅いフライ。
転がせば最悪ダブルプレイもある、冷静になって考えてみればそうなのだ。

「私は、櫛枝の『夢』を知っているからこういう話をするのだけど」
「……!」

ごくり、と息をのみキャプテンの言葉を聞く。

 * * *

「それで、パワーをつけるために肉体改造をする……と?」
「そういうことなのよ、高須くん」

私が選んだのは、夕暮れの河川敷のベンチ。
ベンチならば二人で並んで座れるし、何よりこの場所に来ると自分の感情を曝け出せる気がする。
いい感情も、悪い感情も含めて、かもしれないけれど。

「キャプテンがね、行っているジムを紹介してくれるって言うんだ」
「いいキャプテンだな」
「……うん、そうだね。
来週ちゃんと、試合中に無視しちゃったこと謝らないとなぁ」

このまま話題をそらしてしまえ、とも一瞬思うが、逃げない、と決めたのだ。
そう、私は逃げない。

「それで、肉体改造始めると筋肉がつくわけじゃない?
はっきり言って、その……女の子の体じゃなくなっちゃうんだって」
「そういうことか……」

ひとまず高須くんは私が言ったことの正体がわかって少し安心した顔。

「びっくりしてる? 迷惑……だよね?」

「おう、びっくりしてる……けど、迷惑では、ない。
言われて、だな、その、悪い気はしない、けどな。」

いつも通り「、」の多い人だな、と思う。

「そう、それならよかったよ。
変な子だ、って軽蔑されたらどうしよう、って思ってさ」

でもきっと、それも彼なりの照れ隠し。
高須くんはいつもの仕草で前髪を引っ張り、

「櫛枝のことを軽蔑なんてするわけないだろ。」
「変な子ってところは否定しないんだね」
「茶化すんじゃねぇよ」
「うん、そうだね。ごめん
それでね、来週の週末なんだけど……」

一息をついて私は一気に、

「土曜日は部活が午前中で終わるんだ。
だから、土曜日のお昼過ぎから私の家に来て欲しいな。
両親は、弟の関東大会の応援に出かけてていないはず、だからさ。
それじゃあ、来週、待ってます!
またね!」

言い切った。
そして、ベンチを立ち上がり、バイバイと手を振り、高須くんを置いて駆け出す。
返事は言わせないんだ、私は傲慢でずるいんだから。
高須くんがどんな表情をしていたのか、見られなかったのが心残りかもしれないけれど。

 * * *

冷たい――

シャワールームの床にぺたん、とお尻をついて、降り注ぐシャワーを浴びていた。
こんなに頭に水を打ちつけられいるのに、一歩も動くことすらできずに。
今の私は泣いているのかもしれない。
でも、顔を流れる水がシャワーの水なのか涙なのか、それすらもわからなかった。
ただひとつわかることは、今の自分がとても無力であることだ。

 * * *

「櫛枝、ちょっと調子悪いのか?」

私の向かいに座った高須くんが、三白眼をぎらり、と睨み聞かせて尋ねてくる。
普段はカウンター席で肩を並べて座ることが多いのだけれど、さすがに休日の午後で混んでいる。
いつもは横からの視線が、今日は前から降り注ぐのがすこし気恥ずかしい。
周りの人たちは「ヤクザだ!」とか言うけれど、慣れてしまえば可愛いものだ。
一見危ない視線の奥に隠された、優しくて、繊細な、そしてちょっと鈍感な中身。
そのアンバランスさを思うと、少し顔がニヤけてしまったかもしれない。

「おう、どうした? 今度はニヤけて」

前言撤回。その変なところの観察力だけは、鋭い視線に似合っているよ。
そう考えると、ますます笑いをこらえきれなくなる。
くくくく、と声にならない声を上げて、テーブルに突っ伏してしまう。

「く、櫛枝が壊れた……!?」

私が壊れているのはいつものことだろうに。

そして、今から壊れているとしか思えないお願いをしようと思っているところなのだ。

「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」
「お、おう」

テーブルに突っ伏したまま、次の言葉を呟く。
あくまで、聞こえないように。

「――――――」

「え、何だって?」

心配そうに高須くんが私の顔を覗き込もうとする。
確かめられてよかった、高須くんはこういう人だ。
ちゃんと私の話を聞いてくれる。
きっと私のことを捕まえていてくれる。
それと同時に、彼のことを試してしまったという後ろめたさも少しはある。
心地よい安心感と、ほんの少しの罪悪感に包まれて、私は彼の耳元で囁く。

「私が女であるうちに、高須くんに、わ、私の体を知ってほしいんだ」

「それってどういう――」

高須くんは思わず声を上げ、それが周囲の客の視線を集めていることに気づくと、ばつが悪そうに前髪を引っ張った。

「こ、ここはちょっと人が多いからさ。
ちょっと外に出ようよ」

 * * *

夕日に染まる河川敷は私の大好きな光景のひとつだ。
ここに来るといろいろなことが見える、ということを教えてくれたのは高須くん。
それ以来、ことあるごとにここを訪れ、夕日を眺めては色々と考えてきた。
いつもは一人だったから、高須くんと二人でここに来るのはあの時以来だと思う。

「まぁ、色々と考えたことがあってね……」

高須くんと並んでベンチに腰かけ、話を切り出す。

「おう……今日はお前、何となく元気なかったから心配でな。
そこにあの発言なもんだから、混乱しちまった。悪い」
「まぁ普通は、混乱するよね。
こちらこそ、いきなり変なこと言ってごめんね」

大きく体を反らし、ベンチの背もたれに背中を預けながら空を見上げる。

「それで、さっきも聞いたけど……あれってどういう……」
「そう考えるようになったきっかけは色々あるのだけど」

今度は反対に思いっきり背中を丸め、ベンチから少し身を乗り出して、

「簡単に言うと、それは夢を追いかけるためには必要なことなんだ。
避けて通れないことなんだ。
今の私じゃ何よりも、パワーが足りないの。
それを補うために、もっと頑張ってトレーニングをしなきゃいけないんだって。」

ふうー、と大きく、ゆっくりと、肺にたまった空気を吐き出すと次の言葉をつなぐ。

「言われちゃった。
トレーニングすると、女の子の体じゃなくなっちゃうよ、って。
筋肉がついて、肩幅も広くなって、女の子らしい服も似合わなくなるかもしれない。
元に戻れなくなるかもしれないけど、それでいい? って」

高須くんは少しの間考えこんで、

「とりあえず、謎は解けた気が、する。
櫛枝がこういうこと話してくれたのも、素直に嬉しいと思う。
でも、俺が聞きたかった意味はそういうことじゃなくて、だな」
「言葉通り、の意味だよ。
たぶん、高須くんが想像したことであってる」
「いや……」
「女の子に、これ以上言わせる気?」

こういう時ばっかり女の子ぶったりして、自分はずるい人間だなぁと思う。

「それでね、来週の週末なんだけど……
土曜日は部活が午前中で終わるんだ。
だから、土曜日のお昼過ぎから私の家に来て欲しいな。
両親は、弟の関東大会の応援に出かけてていない、からさ。」

言い切った。
それと同時に、高須くんの返事を聞くのがなんとなく怖くなる。

「それじゃあ、来週、待ってます!
ではでは!」

そう言うと、手をぴょこんと小さく上げ、高須くんを置き去りにしてベンチから走り去っていた。
 * * *

「いらっしゃい、高須くん。
ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

思いっきり外した。うわー、引いてる引いてる。
顔をひきつらせながら高須くんは、

「め、飯は済んでる。お前もそうだろ?
シャワーは……家を出る前に浴びてきた。
だからな、その……櫛枝でよろしく頼む」
「いや、ちょっと古典的なのをやってみたかっただけだからそんなに律儀に答えなくていいんだぜ?」
「おう、すまねぇ」
「いいよ、気にしてないから。
それよりも、ご注文は私めでよろしいのですな?
それではご案内してしんぜよう」

そう言って、私は自分の部屋へと高須くんを導こうとする。
ふと振り返ると、高須くんはきっちりと扉へ向き、靴を揃えている。
少し高須くんとの間に距離ができてしまったのが寂しくて待っていると、高須くんはこちらを向いて立ち上がり、

「櫛枝、今日はスカートなんだな。
なんだ、その……なかなか新鮮で、いいな」
「似合ってる?」
「ああ」
「よかった、喜んでくれるなら買った甲斐があったぜ」

無地でシンプルなデニムのスカート。
ひらひらとした女の子らしいスカートも近くに売ってたのだけれど、そこまでは恥ずかしくて手が出せなかったのだ。
そもそも、スカートを履くのなんて、

「履くの高校のとき以来だから忘れてたんだけど、これ結構スースーするもんだぜ」
「そういうもんなのか?」
「高須くんもこんど、履いてみるかね?」
「お……いや、遠慮しとく」
「ですよねー」

そんな他愛のないやりとりを続けているけれど、心臓はバクバクと鼓動を高め続けている。
もちろん、この後に起こることをいろいろと考えると、だけど。
私の部屋のドアノブに手をかけると、ドアノブがカタカタと揺れる。
心霊現象か?ポルターガイストか?と思ったけれど、理由は単純だった。
私の腕が震えてるだけか。

ええい、ままよ、と勢いをつけて、部屋のドアを一気に開けて、ベッドにダイブする。

「く、櫛枝、大丈夫か!?」

ベッドに伏せてたから、高須くんの表情は見えないけれど、声だけでも戸惑っているのはわかる。
私は体を起こして高須くんに向き直り、ベッドの淵に腰掛ける。
少しだけ顔を俯かせ、右手で自分の脇のベッドをポンポン、と叩く。
高須くんはそのメッセージを受け取ってくれたのだろう。
すぐに来られるのは何となく怖い気がして、

「エアコン、つけてるんだ。
扉は閉めてくれよ、な?」

少しばかりの抵抗を試みるけど、稼げたのはほんの少しの時間だけ。
高須くんは扉を閉めると、無言でこちらへと歩を進めると私の隣に座り込んだ。
高須くんの重みでベッドが歪み、私の体が少し下がるのを感じる。

やばい。

高須くんに隣に座ってもらえば、いつもカウンターでお話しするみたいに自然に始められると思ったのだ。
ここまでは、シミュレーションどおり、なのだが。
カウンターで座っていたときは高須くんの言葉だけが私に向けられていたけど、今はそうではない。
高須くんの腕が、体が、そしてすべてが私に向けられているのだ。
その事実に恥ずかしくなり、高須くんと反対側に顔を俯けてしまう。

「……」
「……」

お互い無言のまま、どれくらいの時間が経っただろう。
いや、正確には3分20秒。
どうにも居づらくて、ベッドサイドにある時計の秒針を目で追ってたから。
秒針が一歩動くごとに、私の心臓が2回拍を打つペース。
このまま緊張していたら私の心臓がもたない。
勇気を踏み出さなければ、この壁は越えられないのだ。

私は最大の勇気を振り絞り、高須くんへと顔を向ける。
その気配を感じ取ったのだろう。
高須くんも私の目を覗き込んでくる。
見詰め合うのは慣れなくてなんか恥ずかしいけど、私は逃げない。
逃げないかわりに、少し目を閉じてみるのだ。
誰が決めたか知らないけれど、それが女の子の作法だと思うから。
その自然の流れに合わせて、私たちは唇を重ねる。

ついばむような軽いキスを数回、ここまではいつも通り。
高須くんの唇に力がこもり、意を決したように舌が私の唇を割って侵入してくる。

「……んむっ……!」

一瞬、戸惑うけれど、私自身の舌でそれに応える。
いつもと違う、という非日常感に、頭がのぼせて蕩けていってしまう。
力が抜けるたのは一瞬だった。
それでも、その一瞬は私をベッドに押し倒すのには十分だった。

「おうっ!?」

高須くんが驚いた声を上げる。
倒れたときにちょうどそういう形になってしまったのだろう。
高須くんの頭が、私の左胸に当たる形になる。

「わ、私の心臓、ドキドキしてるのわかる……?」

高須くんの唇から解き放たれて、名残惜しそうな口から声を絞り出す。
高須くんは胸から顔を上げ、おう、と一言。
もっと私を感じてほしくて、私は両手で高須くんの右手をとり、心臓の鼓動を一番大きく感じる場所に当てる。
私の左の胸をちょうどすっぽりと覆う高須くんの右手も、小刻みに震えていた。

「なんだ……高須くんも緊張してるんじゃん」

少しだけ笑みをこぼし、私は素直な感情を告げる。

「そりゃあ、櫛枝とこんなことしてるなんて夢みたいでさ……」
「こういうこと? これで、満足してもらっちゃあ私が困るぜ……」

なんてことを言ってしまったのだろう、と、言い終わってから恥ずかしくなる。
私、エロすぎだろう。

「あ、あのさ……」

もう、戻れないのだ。進んでもらうしかないのだ。

「服を……脱がせてくれないかね?」
「お、おう……」

私は体を起こし、背中を高須くんの胸に預ける。
ちょっと背中に汗をかいてしまったのだろう、Tシャツがペタリ、と貼りつくのを感じた。

背後から高須くんの腕が回り込み、緑色のTシャツの裾に手をかける。
Tシャツの裾がするする、と上に捲り上げられ、お臍が、お腹が露わになっていく。
次はオレンジ色のブラジャーが……と思った、その時、

「櫛枝、その……腕を上げてくれないか?」

一瞬躊躇うけれど、無言で高須くんに従う。
Tシャツが私の頭の部分に引っかかり、それと同時にTシャツで視線が遮られる。
ついに、Tシャツはすっぽりと私の頭から引き抜かれる。
それと同時に私の目に飛び込んできたのは、私が男の子の目の前で下着姿を晒しているという現実と――
律儀にTシャツをたたむ高須くんの姿だった。

「こんな時に、そんなことするかね!?」

思わず下着姿なのも忘れて、高須くんに抗議していた。
まあこの人は、こういう人なのだけれど。

「いや、なんだ、その……そういうものなのか?
そうだとしても、俺は許せなくてな……」

ぷぷっ、と噴き出し、

「高須くーん、せっかく今までいいムードで来たのにさ。
ムード台無しだぜー?」

ムード台無しなのだけれど、いい感じに緊張がほぐれたのも確かだった。
気がつけば、心臓の鼓動もいくぶんゆっくりになった気がする。

「高須くんの服も脱がさせろ、おりゃーっ!」
「おうっ!?」

そう言うと私は高須くんに襲い掛かり、素晴らしい手際で、あっという間に高須くんのTシャツを剥ぎとった。

「……っ!?」

不意打ちだった。
決して見た目はいいわけではない体格、見た目に似合わず優しい性格など。
心のどこかで、私はあまり高須くんを男だと思っていなかったのかもしれない。

しかし、今むき出しになった高須くんの上半身は、まさに男、だった。
それを意識すると、再び鼓動が速くなる。
その緊張をかき消すかのように、叫んだ。

「つ、次は高須くんの番だ!
スカートでもブラジャーでもパンツでも何でも好きなものを脱がしたまえ!」

そう言ってベッドの上に仰向けになり、両腕も投げ出して服従のポーズ。
それを見た高須くんはゴクリ、と唾を飲み、私のスカートに手をかける。
スカートのホックが外され、ファスナーが下ろされ、オレンジ色のショーツが少しずつ露になる。
スカートを下ろされているうちに少し恥ずかしくなり、思わず胸の前で手を組んで隠してしまう。
右手にはまだ高須くんのTシャツが握られたままで、ちょうどTシャツが私のブラジャーを隠す形になるのだ。

「櫛枝、俺のTシャツも貸してくれよ」
「えぇ……また畳むの?」

だぁーっ、と高須くんは髪をかき上げ、

「く、櫛枝の体を見たいんだよ。
やっと念願かなってこうなっているんだ。
だからな、そう、その……もっとよく見せてくれ」

そう、それならいいよ、と呟いて、私は胸の前で組んだ腕を解き、Tシャツを高須くんに渡す。
高須くんは少し躊躇って、Tシャツを私の椅子の背もたれに無造作に掛けた。
彼にとっては衣類を脱ぎ散らかすなど到底許せない行為かもしれない。
でも、今は私だけを見てほしいのだ。

「高須くん、下を脱がせてくれるかな……?
上は自分で取るから。」

私がブラジャーに手をかけると同時に、高須くんはショーツに手をかる。
高須くんは少しだけ息をのむと、一気に私のショーツを取り去った。
私の火照った女の子の部分が外気に触れて、すこしひんやりとする。
高須くんの視線が、私をまじまじと見つめてくる。
思わず内腿をきつくすり合わせながら、私はベッドに横たわったまま高須くんに向かって腕を伸ばす。
高須くんはそれに応え、顔を私の唇に近づける。
私たちは、今日2回目のキスをした。

「……うくっ……!」

高須くんは全体重で私にのしかかってきた。
高須くんの背中に腕を回すと、おっぱいが高須くんの胸板に潰されて歪む。
なぜかこの状況を俯瞰している自分がいて、エロいよ! エロいよ! と赤面しながら見ているような気がする。

高須くんは私をキスから解放すると、舌を耳元、首筋、そして私のおっぱいへと這わせる。
目指すのは右の乳房の中心の小さなポイント――

「ひゃんっ……!?」

まさに、電流が走った、とはこのことだ。
自分で弄ったときとは違う、ぬるぬるとした高須くんの口内の感触。
何よりも、大好きな男の子に自分の乳首を吸われているという感覚が私を蕩けさせる。
気づくと高須くんの指先がもう一方の乳首を器用にこね回している。
もともと器用な人なのだろうか、とのぼせ上がったような、冷静なような、よくわからない頭で考えていた。

壊れ物を扱うような優しい手つき。でも、私は丈夫にできているのだ。
高須くんの手つきが少し物足りなく感じ、懇願する。

「も、もう少し強くしてくれても大丈夫だから……」

高須くんの掌に、少し力が篭るのを感じる。
私の柔らかなおっぱいが、高須くんの手によってその部分だけ別の生き物のように変形する。
高須くんの愛撫は続き、私の脳みそは考えることをやめてしまいそうになる。

私の息が少し荒くなり、反応がよくなったことに気をよくしたのかもしれない。
高須くんは乳首への刺激を指に切り替えながら、顔を私の下半身へ近づける。
無意識に、私は蕩けている女の子の部分を手のひらで隠そうとした。

「そ、そこは……恥ずかしいよぅ……」
「イヤか?」
「い、イヤ……じゃない、けど、待って……心の準備が……」
「よし、じゃあいいな」

高須くんは私の手を押しのけ、敏感になった芯の部分に唇を近づける。
今までは私がリードしていた、つもり、だった。
急に主導権を奪われたことに驚く間もなく、

「やめて、恥ずかしい……!」

高須くんはやすやすと私の両脚を開き、間に顔を割り込ませる。
普段ならば、悪いけれど高須くんくらいの力なら抵抗できるのだろう。
しかし、上半身への執拗な愛撫で力が入らなくなった私には、抗うすべもなかった。

「んっ……! あぁんっ……!」

私の口から悩ましい声が漏れるのと、高須くんの舌が蕩けた部分に触れるのは同時だった。
指での感触はある程度は経験もあるし、想像がつく。
でも、私の一番敏感な部分に、舌という経験したことのない柔らかさが触れている。
当然、その感覚は私が体験したことがあろうはずもなく、少し怖くなる。

「た、高須くん……手ぇ、握って、ぇっ……!」

右手を差し出すや否や、高須くんはそれを握りかえしてくれる。
私の指の間に高須くんの指が差し込まれると、思わず強く握り締めていた。
私のほうが握力が強いのだろうけれど、当然今はそんなことを気にしている余裕はない。

「ごめ、んっ……!
ち、から……加減、で、きな、いっ……!」

右手では高須くんの左手を、左手ではシーツを握り締める。
下半身の奥に、今まで感じたことのない熱いうねりが生じる。

それが突然爆発し、頭から指先、足の先まで体の隅々まで広がっていくのを感じ、

「あぁぁぁぁぁっ……!」

全身を小刻みに震わせ、私は絶頂を迎えた。

 * * *

ぼやけていた視界が、だんだんとクリアになる。
高須くんが少し心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。

「ん……少し、飛んじゃってたみたい……」
「だ、大丈夫か……?」
「だ、大丈夫……。
すっ、ごい、気持ち……よかった……」

こんなに感じたのは目の前にいる人が、大好きな人だから、きっと。

「きっと、高須くんがしてくれたから……
こんなに気持ちよくなれたんだよ」

体の奥に灯った火種はもう、自力では消せそうにない。

「高須くん、いいよ。
き、来て、くれるかな……?」

この人なら、何を? とか野暮なことを聞き返してくるかも、と少し思ってしまった。
けれどさすがの高須くんもわかってくれたようで、

「ちょっと待ってくれよな」

というと、ジーンズのポケットからピンク色の包み紙を取り出すと、

「脱ぐから少し待ってくれ」

ベルトに手をかける。
ジーンズを脱ぎ去ると、トランクスの上から高須くんのモノがその存在を主張しているのがわかる。
それを見ると、私はなぜか力がわいてきて、

「ちょっと観察させろーっ!」

そう言って、高須くんのトランクスに手をかける。
さっきまで力も入らなかったはずなのに、こういう変なところでは動ける人なのだ、私は。
高須くんはおわっ、っと驚いた声を上げるけれど、それもお構いなし。
私はゴクリ、と唾を飲み込んだかもしれない。
高須くんのトランクスをずり下ろすと、

「うわぉ……」

こんにちは、高須ジュニア。
その禍々しくも、なぜか愛おしく感じられるモノから、目が離せなくなる。

「あ、あんまり見るな……!」
「ほーう、私の一番恥ずかしい部分を長いこと見るどころか、色々しちゃってくれたのはどこの誰だったかね?」
「うっ……」
「でも、これが……私の中に入るんだよね……」

比較対象を知らないから、これが大きいかどうかはわからないけれど。
少なくとも私にとっては未知の大きさなのだ。
高須くんはそんな私の少しの不安を察知したのか、

「こ、ここまで来てやめるとか言わせねーぞ?」
「む、無論! 当然!」

私とて、ここまで来て止めたら女がすたる。
すこし高須くんを睨み返すような形になり、高須くんの手にあるピンク色の包み紙を奪う。
ベッドを降りて床に膝立ちになると、ちょうど高須くんの股間を覗き込むような体勢になる。

「私、今すごいポジションにいる、よね……」
「いきなりなんだよ!?」
「こ、これは私につけさせてもらおう!」
「お前、何でそんなにノリノリなんだよ?」
「ふははははは!」

そう言って高須くんのモノに左手を添えるのだけれど、思わず率直な感想が口から漏れてしまう。

「硬い……」
「……好きな女とこういうことして、こうならねぇ男はいねぇよ」

好き、という言葉に思わず赤面する。
それ以上に恥ずかしいことをしているはずなのに。
高須くんのモノにゴムを装着し終えると、私はベッドの上に戻り仰向けになる。
腿に引っかかっていたトランクスを完全に脱いで、高須くんは一糸纏わぬ姿になる。
私の脚を開いて陣取り、高須くんがこちらに向くと、思わず緊張で体が強張ってしまう。

そしてついに、高須くんの切っ先が私の入り口にあてがわれる。
その感覚がむず痒くて、高須くんの腰が押し込まれるのを察知すると思わず腰が引けてしまう。
ずるずる、ずるずると少しずつ下がっていって、ついには頭がベッドの端にコツンとぶつかってしまった。
私の頭がベッドのポールにぶつかって、カタカタと音を立てている。

「こ、怖いか……?」

やめるか? って訊かないところを見ると、やめる気はさらさらないらしい。
少しだけ高須くんに甘えたくなって、

「ねぇ、少しギュッってしてくれるかな……?
そうすれば、震えも、と、止まると思うんだ。」

その言葉を聞くと高須くんはおう、と返事を返し、私に体を近づけ――

その時だった。

高須くんの先端が私をしっかりと捉えていたもんだったから。
高須くんが私に近づくということは、自然と高須くんの侵入を許してしまうということだ。

「あぐっ……!」

痛い。

痛いなんてもんじゃない。

一番敏感な部分を、あんな硬いもので突き刺そうとしているのだ。
それが初めてなら、なおさら、だ。
あとあと考えてみると、勢いで挿入されてしまってよかったのかもしれない、と思う。
でも、その時はそんなことを考える余裕もなくて、ただ感じたことのない痛みに耐えるのが精一杯だった。

「櫛枝、わ、悪い……」
「い、痛いよう、高須くん……」

目には少し涙が浮かんでいたのかもしれない。

「や、やめるか……?」

その言葉を聞くと、半ば反射的に両足で彼の腰をがっちりと掴んでいた。

「せ……せっかく、の初めて、なんだっ……!
だから、さ、最後までちゃんと、し、て欲しい、ん……だ」

そう言って、無理に笑顔を作る。
心配そうな顔を向ける高須くんに向かって、心の中で、大丈夫だよ、大丈夫だよ、と呟きながら。
高須くんは少し遠慮がちにゆっくりと、私の中に侵入してくる。
そしてとうとう、奥まで侵入すると、私に覆いかぶさってきて、痛いくらい私を抱きしめて、

「悪いな、その、いきなりで……」
「いいんだよ、そんなの……
やっとひとつになれたんだから……」

私もそれに応え、ギュッっと抱き返すのだ。

「悪い、櫛枝。もう我慢できそうにねぇ……」

そう言うと高須くんは上半身を起こし、私の頭の脇に手を突いて自分の体重を支える。
肌が離れたことに寂しさを感じる間もなく、

「うあんっ……!」

ゆっくりと抜き差しを開始する。
当然快感などあろうはずがなく、痛いだけ。
柔らかでデリケートな部分を擦られつづけているのだ。
相手が高須くんでなければ、とうてい我慢はできなかっただろう。
思わず高須くんの肩を手で掴み、爪が立っているのもお構いなしに力いっぱい握り締める。

「……ひぐっ……ひぐっ……」

私の口から、嗚咽ともとれる声が漏れる。
高須くんの額に、髪の先に、大粒の汗が滴っているなぁ、そりゃそうだ、こんな激しい運動をしているのだから。
そんなことを考えていると、高須くんは次第に動きを速め、私の奥でぴたり、と突然動きを止める。
じんじんとひりつく下半身越しに、高須くんのモノが脈打っているのを感じる。
ふぅ、と大きく息を吐き出し、高須くんは私の中で果てた。

 * * *

高須くんは心配そうに、脱力してベッドに横たわる私の顔を覗き込んでくる。

「その、悪かったな……優しくしてやれなくて……
俺一人、気持ちよくなっちまったみたいで」

汗に塗れた前髪を引っ張り、申し訳なさそうに目をすぼめながら。

「いいんだよ、初めてはそんなもんだろうし。
高須くんが私の体で感じてくれたなら、ひとまずはそれだけで十分なんだぜ」

痛さの点で言えばとんでもない体験だったのだろうけれど、きっとこれは私の偽らざる本心。

「お、女の私は十分堪能していただけましたかね?」
「お、おう……すげぇ柔らかくて、壊れそうで怖かったけど」
「でも、意外と丈夫だったでしょ?」
「そうだと、いいんだが……」

大丈夫だよ、と返すと、少しの沈黙が流れる。

「お前は、ああ言ったけど」

そう言うと高須くんは一呼吸置いて、

「俺は女だからお前を抱いたんじゃない。
お前が櫛枝実乃梨だから、その、抱いた……んだ。
たとえお前がこれからどれだけ強い体になったとしても、その気持ちは変わらねぇ。
俺が好きになったのは夢に向かって真っ直ぐな櫛枝実乃梨、だからな」

どうしてこの人はこういう小っ恥ずかしいことを真っ直ぐに言えるのだろう。
そう、これが高須くん。
そして、私の大好きな人。

胸の奥に熱い感情が広がり、気づくと私の目から涙が溢れていた。

「おうっ! まだ痛いのか?」

小さく左右に首を振り、私は答える。

「ううん、安心したの。
高須くんが私の思ったとおりの人で。
今回のこと、実を言うと少し怖かったんだ。
もしかしたら、高須くんが離れていってしまうんじゃないかって。
女の私を知ってしまったら、その後の私の変化に耐えられないんじゃないかって思って」
「そんな訳ねぇだろ」
「ごめんね。ううん、ありがとう。
高須くんはきっと私を捕まえてくれる、それを再確認できたよ。
どんなことがあっても、ね」

そう言うと、自然に笑顔がこぼれるのだ。
きっと今の私は、今までに見せたことのないくらい最高の笑顔で笑っているに違いない。
そう信じられるほど、心は満ち足りていた。

「高須くん、ちょっと隣に来てくれるかな。
少し、ギュッってして欲しいんだ……」

首をすくめ、少し恥らいながら自分の横に高須くんのスペースを作る。
おう、と高須くんは私の横に寝転び、力強い腕で、あくまでも優しく、私を包み込むのだ。
頭を高須くんの胸の中に預けると、いつしか私は自然と深い眠りに落ちていた。

 * * *

ふと気がついて目を覚ますと、頭の上に高須くんの息遣いを感じる。
こういうシチュエーションがなんとなく恥ずかしくて、急に体を起こしてしまった。
それでも高須くんの反応はなく、ぷに、ぷにと人差し指で頬をつついてみても微動だにしない。
高須くんもどうやら眠りに落ちてしまったようだ。
よくよく見ると、高須くんの左腕に自分の頭の跡がくっきりとうつっている。
あちゃー、悪いことをしたなー、と思いながら時計を見ると、5時半。
あまりに高須くんが幸せそうに寝ているので、起こすのも忍びなくて、ひとまず一人でシャワーを浴びることにする。

脱衣所の鏡に映った自分の姿を見て、

「うわぁ……ひっどいツラ……」

涙で目が少し腫れているのに、意味もなくニヤけているアンバランス。
そして、自分が全裸なのに気づくと、慌てる意味も特にないのに急いで浴室へと駆け込む。

シャワーヘッドを高い位置に移し、上から来る水を浴びる。
ふと自分の胸に目をやると、ちいさな痣。
高須くんの指の跡なのか、キスマークなのかはわからない。
それでも、高須君のものになった証のように思えて愛おしい。

そして、「女」になった自分の下半身に恐る恐る手を伸ばす。
不意に電流が走り――それが破瓜の痛みなのか、それとも他の感覚だったのかはわからない。
とにかく腰が砕け、ぺたんと尻もちをついていた。

「冷たぁい……!」

頭の上から降り注ぐ水流に、思わず声が漏れる。
今はこの冷たさが、火照った体を冷ましてくれるようでとても心地いい。
心地よさに身を任せ、ずっと浴びていたいような感覚になる。

でも、そんな暇はないのだ。
高須くんもそのうち起きてしまうだろう。
それまでにとびっきり全力を注いで晩御飯の準備をするのだ。
そして、満開の笑顔で高須くんを起こして、晩御飯のならんだテーブルへと案内するのだ。
高須くんはどんな顔をしてくれるだろう?
喜んでくれるかな? それとも、驚くのかな?

私は自分の頬を両手でぴしゃん、と叩いて気合を入れ、勢いよく浴室の扉を開けて次のステージへと一歩を踏み出すのだった。

(了)

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