BBSPINKレズ・百合萌え板の【艦これ】艦隊これくしょんで百合スレのSSまとめサイトです

703:名無しさん@秘密の花園:2013/09/29(日) 10:36:33.85 ID:5J8T9gxF
某ゲームをやってたら「このネタ暁響姉妹でも使えるんじゃね」と感じたネタが出てきたので投下。
響視点で、響→暁→女性提督
勝手な俺設定が若干含まれているので注意。


昼下がりの午後、私は執務室を訪れていた。
目の前には肩で切り揃えられた髪の女性が葉巻を燻らせている。彼女こそ私たち始め四艦隊を率いる提督であった。
彼女は私の姿を認めると、小さく手招きをする。
「ああ、響。待ってたよ。」
「提督、話ってなんだい。」
「んー、まあそう急がない。ほら、まずは一服やる?」
提督は自分の吸っていたものを私の方へ向けた。私が首を振ると、提督は手を引っ込めて肩をすくめる。
この人は少々艦娘たちとの距離が近すぎるのではないだろうか。この人柄に魅せられて、かなりの艦娘が提督に熱い視線を送り続けているという。……私のよく知る子も含めて。漏れかけたため息をグッと飲み込んだ。
「……じゃあ本題に入ろうか。」
提督は葉巻を置いてふうっと煙を吐いた。
「……響、君はこれまでの出撃によって確実に練度を上げ、強くなった。自分にその実感はある?」
「そこそこです。」
「……先刻、赤レンガのほうから電文が入った。響の二回目の改造が許可、というより要請がきたんだけど……ね。」
「妙に歯切れが悪いね。さらなる改造なら私は別に構わない。もっと強くなれる。」
「……本当にそう思う?」
私の返答に提督の目の光りが鋭くなった。自然と背筋が伸びる。
「次の改造は今までとは違う。名前が変わるんだ。……その意味、響なら分かるよね?」
「『Верный(ヴェールヌイ)』になることかい?」
「その通り。これは初の試み。旧ソ連から腕の立つものを呼び寄せて改造にあたるよ。……ただいろいろと難点がある。」
提督は腕を組むと黙り込んでしまった。じっと私は彼女を注視する。そして彼女の眉尻が微かに下がっていたことに気づいた。まるで何かを悲しむかのように。
暫くして彼女はやれやれと頭を振ると重い口を開いた。

704:名無しさん@秘密の花園:2013/09/29(日) 10:39:48.54 ID:5J8T9gxF
「……呼び寄せた職人がいうにはね、改造の工程・その他の詳細は機密とのことで明かせないそうだ。……これは最悪の可能性なのだけれどね。もしかしたらヴェールヌイへの改造での過程において、君はあるものを失うかもしれない。」
「あるもの、ってなんだい。」
「……一番大切な人の記憶だよ。」
一瞬提督が何を言っているのかが分からなかった。
言葉の意味を何とか噛み砕こうとする。だが考えれば考えるほど、頭の中はスープみたいにぐちゃぐちゃになる。
私の肩に置かれた手での重みでふと我に返った。
「……落ち着きなさい、響。まずは深呼吸。」
言われたとおり新鮮な空気を一気に吸い込み、澱んだ熱い空気を勢いよく吐き出す。
それだけで煮えくり返った思考が徐々に静けさを取り戻すのを感じた。
「……さっきの話の続きだけど、『記憶をなくす』というと少々語弊がある。正確には『今まで一番大切にしていた人との記憶が色あせて、大切に思えなくなる』といったところかな。」
「……それって心が死ぬっていうふうに聞こえる。」
「ちょっと違うかな。大切な人を知らなかった昔の君に戻るようなものだと思えばいい。……焼かれるたびに幼鳥になる不死鳥のようにね。」
拳を強く握り締める。
この時ほど自分の二つ名が憎いと思ったことはなかった。
提督は椅子から立ち上がると、扉の方へと歩いていった。
「……改造はヒトハチサンマルに工廠にて行う。私は外へ葉巻を買いに行ってくるから暫く戻らないつもり。時間までこの部屋は好きに使いなさい。」
彼女はそれだけを言い残すと、がちゃりと扉が閉まった。

705:名無しさん@秘密の花園:2013/09/29(日) 10:43:00.21 ID:5J8T9gxF
……私の一番大切な人。
「……暁姉さん。」
慌てて口元を押さえて見回す。周りには誰もいない。胸をなでおろした。
姉さんの背伸びした姿が好きだった。
人一倍お姉さんであろうとして、ドジを踏んでむくれたり。
私たち姉妹の中で一番子供っぽくって、たった一人の私の姉さん。
気がつくと私は艶のある黒髪を目で追っていた。
こんなこと、青葉あたりに聞かれたら『まさしく恋ですね……詳細をお聞かせ願います!』と詰め寄られるに違いない。
でも私は知っている。私が姉さんを追うように、姉さんの目は提督を追っていることを。
恐らくそれは一方通行的なもの。でもあの黒い瞳が私を一番に映さないことに変わりなんてなくて。
ふと窓を見やる。執務室から見える港は茜色に染まっていた。
「……黄昏時か。」
『暁』とは真逆に位置するこの時間。……呼び出すには今がちょうどいい。
私は傷だらけの黒電話を手に取り、ダイヤルを回した。

706:名無しさん@秘密の花園:2013/09/29(日) 10:47:01.77 ID:5J8T9gxF
それから十分くらい経った頃。
ノックの音とともに扉が開く。姉さんだった。
「どうしたの響、こんなとこに呼び出して。」
「何となく話がしたくなったんだ。」
「あらそうなの。提督は?」
「葉巻を買いに行ってるから暫く戻ってこない。」
「えへへ、じゃあ提督のふかふかの椅子もーらいっ!」
姉さんは勢いをつけて椅子に飛び乗る。ごんっと鈍い音がした。姉さんの眉が歪む。
「姉さん、大丈夫?」
「平気だけど……いった〜い。この椅子のクッション、破れてほとんど綿がないじゃない!」
「提督のことだから、単純に修理も買い換えも面倒なだけじゃないかな。」
「全く……あの提督はレディーとしてなってないわね。今度会ったら一人前のレディーの私がきつく言ってあげるんだから。」
姉さんはお尻をさすってから足を組んで座る。むくれているのにどこか嬉しそうだ。
今がずっと続けばいいのに。子供のわがままじみた考えに我ながら苦笑する。

711:706続き:2013/09/29(日) 12:45:04.02 ID:5J8T9gxF
「……夕焼けが綺麗ね。」
姉さんが目を細める。
「それ、『月』だったら私への告白になる。」
「ばっ、バカ!違うわよ!」
「そこまで全力で否定されると少し寂しいね。」
「私は響のこと嫌いじゃないわよ!可愛い妹だもの。」
「ん、そうか。Спасибо.(ありがとう)」
多分これ以上からかうと暫くまともに答えてくれなくなるだろう。
姉さんの可愛いところではあるけれど、ちょっと今それをされると困る。
「ねえ姉さん。姉さんはさ、もし願いが一つだけ叶うとしたら何をお願いする?」
姉さんが私の方を見てきょとんとした。
「急な質問ね。どうかした?」
「聞いてみたくなっただけだよ。」
「んー……そうね。響はある?」
「……まああるかな。」
「じゃ、それで。響の願い事が叶いますように。私ならそう願うわ。」
私は大きく目を見開いた。
「……てっきり『提督ともっと仲良くなれますように』かと思ったよ。」
「ちっ……違うわよ、誤解しないで!私は別にそんなんじゃないんだから!」
「姉さん、耳まで真っ赤だ。」
「うっ、うるさいっ!今日の響、なんか意地悪よ……。」
半分涙目になりながら姉さんが俯く。
しばらくしてからぽつりと姉さんが呟いた。
「……響は私の大切な妹だもの。妹の幸せを願わないはずないじゃない。」
どきりと心臓が跳ねた。
恐らく言葉通りの意味しか持たないのだろう。
でも……もう十分だ。

712:名無しさん@秘密の花園:2013/09/29(日) 12:46:49.79 ID:5J8T9gxF
「姉さん、どうせなら私にちなんでロシア風に願って欲しい。向こうの方には直接成功を祈ると逆に失敗するという考えがあるんだ。だから逆のことを願って。」
「へえ、つまり『響の願いが叶いませんように』って祈ればいいのね?」
「そう。そういうこと。」
時計を確認すると、ちょうど18時を回った辺りだった。
そろそろ潮時か。
「私、ちょっとこれから用事があるんだ。工廠で二回目の改造の予定があってね。だからちょっと姉さんに幸運を祈るおまじないをして欲しい。」
「たかが改造に大げさねえ。別に構わないわよ。」
「Спасибо(ありがとう).……じゃあ私の目を見て、今から言ったことを繰り返して欲しいんだ。『Ни пука, ни перо.(二・プーカ 二・ペーラ)』」
「にぷーかにぺーら……どういう意味?」
かちりと姉さんと視線が合う。
「んー……内緒。もう私は行くよ。」
Ни пука, ни перо.(毛もなく、羽もなく。何も得ぬまま地獄へ堕ちろ)
確かに姉さんは私に対してそう言ってくれた。これで良い。
Прощайте,моя первая любовь.(永遠にさようなら、私の初恋。)
私は振り返ることなく、執務室の扉を閉めた。

以上です。
お察しのとおり途中でさるさん引っかかったぜ……。
中断してすみませんでした。
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