国家規模と同盟
最終更新：
skywalker_laurence 2016年02月22日(月) 16:18:08履歴
国家規模と同盟、ということですが今回は中世・近世における国家と同盟のセオリー、とりわけ争いの激しかったヨーロッパの国家のそれについてお伝えしたいと思います。特にヨーロッパを、ということですが中世・近世における国家と同盟のセオリーについてはヨーロッパであろうとアラブであろうとアジアであろうと基本的にはそう大差ないと思いますので、あくまでセオリーとしてお読みください。こういった話は実際にはどうだ、となるといちいち汎例を引っ張ってきてここはこうだからこうだ、とかやらなければいけなくなるので、ここではあえて広範な論としてお読みください。
国家規模と同盟、ですがここでのセオリーは簡単にまとめるとだいたいこういうことです。基本的に国家あるいは共同体のようなもの（一地域単位としての）は自分より小さいそれとしか同盟を結んではならない、同盟や友好関係（リレーションシップ）を求めるのは理想のセオリーとしては常により大きな国から、ということです。反対に、婚姻関係はより小さい国からオファーするのが理想的となるのですが、その理由はさてまたおいておいて、なぜ、より小さな国に対してしか同盟をオファーしてはならないか、という話の前にまず中世・近世のヨーロッパにおける婚姻関係と同盟の関係性について見ていくことにしましょう。「ハプスブルク家」/江村洋著によると中世ヨーロッパにおける国家の習慣では、同盟が結ばれる際にまず婚姻関係を結ぶのが慣わしである、という項があります。国家といってもある王族とそれの領地の集合体なので封建国家、あるいは集合国家の違いはあれどとりあえずは封建国家、あるいは王侯制の国ではruler、つまり支配者は王であり、婚姻関係はその国の王族と結ぶことになります。基本的に婚姻関係を結ぶのは王侯制あるいは王族同士で、共和国や自由都市などの共和制の国では基本的には婚姻関係は結びません。なぜならruler、統治者は選挙で4〜8年ごとに変わるため、そもそも婚姻関係自体が共和制の精神に反するからということになるのです。つまりは統治者が変わるのに別のカルテルのような血縁関係でコネができるのは公正な政治には不合理だから、が論理的にはそうなのです。もちろん、共和制や自由都市でも行政関係者や貴族や富裕層の間では普通に婚姻関係をはじめコネや密談もあったでしょうが、少なくとも王侯制のように国家と国家同士の関係では公には婚姻関係を結ぶということはあまりないようにも思います。理由は、先述の通りでそもそも選挙で統治者を決めるのに特に王侯制などとの国家間では公には婚姻関係を結ぶことはできない、からです。ではなぜ、王侯国家同士の同盟の前提で婚姻関係が結ばれるのか、というと血は争えない、とはいいますが血縁関係にあるものあるいは国家を攻撃することはできないし、逆にそういう同じ意味で人質のような存在でもあった、ととることもできます。もちろんカスティリャとアラゴン王国のようによりよい未来のため、という意図での一見微笑ましい婚姻同盟もあったものの、基本的に封建国家同士が互いに睨みを利かせる中世ヨーロッパのような場所では基本的には婚姻関係は人質のような意味合いが強かったのではないか、と思います。もちろん、王族は王族同士の血縁でなければならない、というような考え方も根底にはあったでしょうが、なにしろ、というかなにはともあれ婚姻関係が王侯国家同士の同盟ではまず前提になった、ということについては触れておこうと思います。大抵の場合、婚姻関係は封建領主などの小規模国家同士の場合でも結ばれたでしょうが、婚姻関係が歴史を動かす、という視点に立ってみるとより大きな大国同士の婚姻関係がその後の歴史に大きな影響を与える、というのはまず間違いないでしょうね。反面、王侯同士の婚姻関係には穴のようなものがあって王族は王族同士の血縁で、と書いたとおり実は王侯貴族同士が婚姻関係を結ぶのにはまず領土や財産などの継承権が発生する、からなのです。特に王侯制国家の場合の継承権といったら王位をそのまま引き継ぐわけですからそれはそれはまた大事で長子あるいは血縁のものが継ぐのなら問題ないですが知らない王侯同士がたまたま婚姻関係を結んでそのすぐ後に現在の王が亡くなったりすると、王位の継承権が他家に移ってしまう可能性もということなのです。これが懇意な国家なら問題ないですがともかく領地や財産がすっぽり手に入ってしまうので王侯国家同士の婚姻関係にはそういった側面もあったわけです。ちなみに、その空位になった王侯国家の血縁が複数の他家に渡ったりすると、その空位の継承権を婚姻関係を結んだことのある血縁同士で戦争をして争う、ということもあったわけでこれが俗にいう継承戦争、なのです。小国ならともかく大国同士の継承戦争となると、ヨーロッパ全土を巻き込む大波乱になるので、王侯貴族同士の婚姻関係はそういう難しい面もあるわけで、また意を返せばそういった血みどろの争いになった場合に少なくとも保証のおける味方を少しでも多く�猴儖佞靴討�くために”王侯国家、あるいは封建領主同士が婚姻関係を結ぶことはよくあった、ということなのです。
で、話を本筋に戻しますが、より小国としか同盟を結んではならない、あるいはオファーしてはならない、というのは上記のような理由もあってかより大きな国と同盟あるいは婚姻関係を結ぶと現在の統治者が空位になった場合に同的人君連合といって半分従属関係にされてしまう場合もあるからです。もちろん、統治者が空位になった場合でも継承者、いわゆる正統な世継ぎがいればそのまま継承ということになるのですが、文化の中心や係争地となると、たとい正統な世継ぎが王位を継承する場合でも場合によっては血縁王族あるいは他家の反乱が起こることもあります。より文明の中心になっていって経済や政治関係でギクシャクしやすい土地柄になるほどこの傾向は顕著ですが、正統な世継ぎでも他の血縁者あるいはその支援者が隙あり、とみれば結構簡単に継承権を引っくり返される場合もあるのが中世ヨーロッパの世の中、であったのです。かくいう英仏百年戦争も、もとはといえば大陸側に領地を持っていた英国側が継承権を主張して宣戦布告をしたものでした。中世・近世のヨーロッパにおいて宣戦布告というものは実際大義名分（casus belli）というものが公に用意されて行われるものであるし、私たちのイメージにおいても十分に周到な準備をしてから行われるもの、という印象が強い方も多いかと思われますが、とにかく大きな国になればなるほど継承権というのは一つ間違えば大陸での戦争に発展するほどの側面も持っていたわけです。なので、というわけではありませんが同盟関係であっても現在の統治者が死亡するなどして空位なった場合に大きな国に従属させられる危険もある上、多くの場合で戦略上でもより強力な大きな国と同盟を結ぶと好きなように利用されて食い物にされる場合も多いのです。確かに軍事的に強大な大きな国と同盟を結ぶのには半分保護してもらえる、という利点もあるようには見えるものの、実際にはその大国同士の戦争に巻き込まれる可能性も高い、という側面もあるのです。大きな国からより小さな国に友好関係や同盟を提案するのには上記理由もあり何にも問題ないどころかむしろそれが戦略的であれば利点が多いのですが、小さな国では、それが係争地に在していれば継承権も危ういですし、経済的に従属させられる可能性もあります。また、そうでなくても戦略的に利用される可能性もあるし、場合によっては予想もつかない大国同士の戦争に巻き込まれてしまう可能性もあるのです。例え大国のほうから助成金が支払われるのだとしても、大抵はそのような外交カードは後でくるであろう「大きな」見返りに基づいて切られることが多いものなので、結局より小さい国にしてみれば大きな国と同盟を結ぶメリットはあまりない、といってもいいものなのです。逆に、より小さい国同士で同盟を結べば、連合体を作る、あるいはその連帯で近隣のより大国と渡り合える場合も多々あり得るので、セオリー的にはより小さい国と同盟を結んだほうが、基本的には利点は多いのです。まぁ、大きな国と同盟それから婚姻関係を結んで、一時の安泰を得たい、という領主らしからぬ領主もいるかもしれませんが、それも束の間、中世・近世のヨーロッパの世界の場合はもし空位になった場合に継承戦争、ということもあり得るのです。それを知っていればより大きな国と同盟を結ぶことなどまず考えられないわけなのですが、スイスとオーストリアなど傭兵と雇用者、という少し特殊な関係で結ばれた例もあります。必ずしもすべてがすべての場合においてより大きな国と同盟を結ぶメリットはない、ということではないのですが、それでも少なくとも自分からそれを提案してしまうのはよくよく付け入る隙を与える口実にもなり得るのだ、ということは領邦領主であれば常に頭に入れておいたほうがいい、事柄なのかもしれませんね。逆に、より大きな国のほうから同盟関係を求められた場合は、より小さい国であればその時はその場しのぎで善良な飼い犬のフリをしておくのも一手かもしれませんね。断っても、目を付けられるし、あまり喜び勇んで同盟国になったとしてもその近隣の地方で戦乱に巻き込まれるのはほとんど見えている話、ですしね。大国との同盟とは難しい話でもありますが、とにかく保護を期待するのならまだしも小国のほうからより大国のほうへと同盟をオファーする愚は戦略的にも避けたほうがいいわけです。逆に婚姻関係など、小国のほうがある程度「身を切る」形でなら大国のほうに分かってもらえない話でもないので、婚姻関係は小国のほうからというのは、もちろんある程度同盟は結ばれるであろう、という暗黙の同意の元、でなら十分そうなされるべきであろう、という観点からそう書いたわけです。より大国のほうからすると、より小さい国と同盟を結ぶのはよほどな仇敵でない限りは特段デメリットがある話でもないので、むしろ戦略的に多いに活用してやってより仇である隣のライバルなんかに喧嘩を売ってやる、というのも一華、という考え方もできなくもないのですが、アルマダの海戦、のイングランドよろしくそういうのはくれぐれも用意周到にやったほうがいい、わけなのです。逆に、アルマダの際はイングランドはスペインと独立戦争中のネーデルラントと同盟を結んでいましたが、アルマダの海戦での歴史的大敗北によってスペインの国力が一時的に衰えて後、ネーデルラントが東インド貿易などで主導権を握るようになると、むしろイングランドは同盟関係を切っています。というようにより大きな国から「主導的に」小さな国に対して同盟を提案するというのは、自分のほうから困ったらいつでも切れるから、という利点もあるからなのですが、ともかく、同盟関係というのは中世・近世のヨーロッパ世界の例にもれず、あくまでゲーム的、戦略的関係なので、それを上手く利用しながら、あるいは時には使い使われたりしながら、上手くやっていくもの、なのです。逆に、どんな世界でもそうですが、見返りを求めない、という盟友関係というものはなかなか簡単には得られないものです。ならば戦略的に、と考えるのが筋ですがまったく彼我の利益あるいは損得を考えない関係を求める、ということこそ愚の骨頂に変わりないのではないか、とも思います。確かに特殊な絆であれば見返りを振り返らない盟友関係、というのも可能ですが、基本的に、特に中世・近世のヨーロッパ世界ではそれが顕著ですが、彼我の利益や損得を無視した関係は無理だ、ということも言えるわけです。戦略的に考えるならば、多少相互に利益と負担する分を求めて、というのが筋なやり方ですが、ともかく少なくとも表面上の利害関係を乗り越えないと、見返りを求めない盟友関係、というのはなかなかと難しいものである、ということで締め括っておいて、この項は終わりにしたいと思います。友は得難し、されど機は得難し。是以て黄泉の逢瀬と為さん、なのです。
国家規模と同盟、ですがここでのセオリーは簡単にまとめるとだいたいこういうことです。基本的に国家あるいは共同体のようなもの（一地域単位としての）は自分より小さいそれとしか同盟を結んではならない、同盟や友好関係（リレーションシップ）を求めるのは理想のセオリーとしては常により大きな国から、ということです。反対に、婚姻関係はより小さい国からオファーするのが理想的となるのですが、その理由はさてまたおいておいて、なぜ、より小さな国に対してしか同盟をオファーしてはならないか、という話の前にまず中世・近世のヨーロッパにおける婚姻関係と同盟の関係性について見ていくことにしましょう。「ハプスブルク家」/江村洋著によると中世ヨーロッパにおける国家の習慣では、同盟が結ばれる際にまず婚姻関係を結ぶのが慣わしである、という項があります。国家といってもある王族とそれの領地の集合体なので封建国家、あるいは集合国家の違いはあれどとりあえずは封建国家、あるいは王侯制の国ではruler、つまり支配者は王であり、婚姻関係はその国の王族と結ぶことになります。基本的に婚姻関係を結ぶのは王侯制あるいは王族同士で、共和国や自由都市などの共和制の国では基本的には婚姻関係は結びません。なぜならruler、統治者は選挙で4〜8年ごとに変わるため、そもそも婚姻関係自体が共和制の精神に反するからということになるのです。つまりは統治者が変わるのに別のカルテルのような血縁関係でコネができるのは公正な政治には不合理だから、が論理的にはそうなのです。もちろん、共和制や自由都市でも行政関係者や貴族や富裕層の間では普通に婚姻関係をはじめコネや密談もあったでしょうが、少なくとも王侯制のように国家と国家同士の関係では公には婚姻関係を結ぶということはあまりないようにも思います。理由は、先述の通りでそもそも選挙で統治者を決めるのに特に王侯制などとの国家間では公には婚姻関係を結ぶことはできない、からです。ではなぜ、王侯国家同士の同盟の前提で婚姻関係が結ばれるのか、というと血は争えない、とはいいますが血縁関係にあるものあるいは国家を攻撃することはできないし、逆にそういう同じ意味で人質のような存在でもあった、ととることもできます。もちろんカスティリャとアラゴン王国のようによりよい未来のため、という意図での一見微笑ましい婚姻同盟もあったものの、基本的に封建国家同士が互いに睨みを利かせる中世ヨーロッパのような場所では基本的には婚姻関係は人質のような意味合いが強かったのではないか、と思います。もちろん、王族は王族同士の血縁でなければならない、というような考え方も根底にはあったでしょうが、なにしろ、というかなにはともあれ婚姻関係が王侯国家同士の同盟ではまず前提になった、ということについては触れておこうと思います。大抵の場合、婚姻関係は封建領主などの小規模国家同士の場合でも結ばれたでしょうが、婚姻関係が歴史を動かす、という視点に立ってみるとより大きな大国同士の婚姻関係がその後の歴史に大きな影響を与える、というのはまず間違いないでしょうね。反面、王侯同士の婚姻関係には穴のようなものがあって王族は王族同士の血縁で、と書いたとおり実は王侯貴族同士が婚姻関係を結ぶのにはまず領土や財産などの継承権が発生する、からなのです。特に王侯制国家の場合の継承権といったら王位をそのまま引き継ぐわけですからそれはそれはまた大事で長子あるいは血縁のものが継ぐのなら問題ないですが知らない王侯同士がたまたま婚姻関係を結んでそのすぐ後に現在の王が亡くなったりすると、王位の継承権が他家に移ってしまう可能性もということなのです。これが懇意な国家なら問題ないですがともかく領地や財産がすっぽり手に入ってしまうので王侯国家同士の婚姻関係にはそういった側面もあったわけです。ちなみに、その空位になった王侯国家の血縁が複数の他家に渡ったりすると、その空位の継承権を婚姻関係を結んだことのある血縁同士で戦争をして争う、ということもあったわけでこれが俗にいう継承戦争、なのです。小国ならともかく大国同士の継承戦争となると、ヨーロッパ全土を巻き込む大波乱になるので、王侯貴族同士の婚姻関係はそういう難しい面もあるわけで、また意を返せばそういった血みどろの争いになった場合に少なくとも保証のおける味方を少しでも多く�猴儖佞靴討�くために”王侯国家、あるいは封建領主同士が婚姻関係を結ぶことはよくあった、ということなのです。
で、話を本筋に戻しますが、より小国としか同盟を結んではならない、あるいはオファーしてはならない、というのは上記のような理由もあってかより大きな国と同盟あるいは婚姻関係を結ぶと現在の統治者が空位になった場合に同的人君連合といって半分従属関係にされてしまう場合もあるからです。もちろん、統治者が空位になった場合でも継承者、いわゆる正統な世継ぎがいればそのまま継承ということになるのですが、文化の中心や係争地となると、たとい正統な世継ぎが王位を継承する場合でも場合によっては血縁王族あるいは他家の反乱が起こることもあります。より文明の中心になっていって経済や政治関係でギクシャクしやすい土地柄になるほどこの傾向は顕著ですが、正統な世継ぎでも他の血縁者あるいはその支援者が隙あり、とみれば結構簡単に継承権を引っくり返される場合もあるのが中世ヨーロッパの世の中、であったのです。かくいう英仏百年戦争も、もとはといえば大陸側に領地を持っていた英国側が継承権を主張して宣戦布告をしたものでした。中世・近世のヨーロッパにおいて宣戦布告というものは実際大義名分（casus belli）というものが公に用意されて行われるものであるし、私たちのイメージにおいても十分に周到な準備をしてから行われるもの、という印象が強い方も多いかと思われますが、とにかく大きな国になればなるほど継承権というのは一つ間違えば大陸での戦争に発展するほどの側面も持っていたわけです。なので、というわけではありませんが同盟関係であっても現在の統治者が死亡するなどして空位なった場合に大きな国に従属させられる危険もある上、多くの場合で戦略上でもより強力な大きな国と同盟を結ぶと好きなように利用されて食い物にされる場合も多いのです。確かに軍事的に強大な大きな国と同盟を結ぶのには半分保護してもらえる、という利点もあるようには見えるものの、実際にはその大国同士の戦争に巻き込まれる可能性も高い、という側面もあるのです。大きな国からより小さな国に友好関係や同盟を提案するのには上記理由もあり何にも問題ないどころかむしろそれが戦略的であれば利点が多いのですが、小さな国では、それが係争地に在していれば継承権も危ういですし、経済的に従属させられる可能性もあります。また、そうでなくても戦略的に利用される可能性もあるし、場合によっては予想もつかない大国同士の戦争に巻き込まれてしまう可能性もあるのです。例え大国のほうから助成金が支払われるのだとしても、大抵はそのような外交カードは後でくるであろう「大きな」見返りに基づいて切られることが多いものなので、結局より小さい国にしてみれば大きな国と同盟を結ぶメリットはあまりない、といってもいいものなのです。逆に、より小さい国同士で同盟を結べば、連合体を作る、あるいはその連帯で近隣のより大国と渡り合える場合も多々あり得るので、セオリー的にはより小さい国と同盟を結んだほうが、基本的には利点は多いのです。まぁ、大きな国と同盟それから婚姻関係を結んで、一時の安泰を得たい、という領主らしからぬ領主もいるかもしれませんが、それも束の間、中世・近世のヨーロッパの世界の場合はもし空位になった場合に継承戦争、ということもあり得るのです。それを知っていればより大きな国と同盟を結ぶことなどまず考えられないわけなのですが、スイスとオーストリアなど傭兵と雇用者、という少し特殊な関係で結ばれた例もあります。必ずしもすべてがすべての場合においてより大きな国と同盟を結ぶメリットはない、ということではないのですが、それでも少なくとも自分からそれを提案してしまうのはよくよく付け入る隙を与える口実にもなり得るのだ、ということは領邦領主であれば常に頭に入れておいたほうがいい、事柄なのかもしれませんね。逆に、より大きな国のほうから同盟関係を求められた場合は、より小さい国であればその時はその場しのぎで善良な飼い犬のフリをしておくのも一手かもしれませんね。断っても、目を付けられるし、あまり喜び勇んで同盟国になったとしてもその近隣の地方で戦乱に巻き込まれるのはほとんど見えている話、ですしね。大国との同盟とは難しい話でもありますが、とにかく保護を期待するのならまだしも小国のほうからより大国のほうへと同盟をオファーする愚は戦略的にも避けたほうがいいわけです。逆に婚姻関係など、小国のほうがある程度「身を切る」形でなら大国のほうに分かってもらえない話でもないので、婚姻関係は小国のほうからというのは、もちろんある程度同盟は結ばれるであろう、という暗黙の同意の元、でなら十分そうなされるべきであろう、という観点からそう書いたわけです。より大国のほうからすると、より小さい国と同盟を結ぶのはよほどな仇敵でない限りは特段デメリットがある話でもないので、むしろ戦略的に多いに活用してやってより仇である隣のライバルなんかに喧嘩を売ってやる、というのも一華、という考え方もできなくもないのですが、アルマダの海戦、のイングランドよろしくそういうのはくれぐれも用意周到にやったほうがいい、わけなのです。逆に、アルマダの際はイングランドはスペインと独立戦争中のネーデルラントと同盟を結んでいましたが、アルマダの海戦での歴史的大敗北によってスペインの国力が一時的に衰えて後、ネーデルラントが東インド貿易などで主導権を握るようになると、むしろイングランドは同盟関係を切っています。というようにより大きな国から「主導的に」小さな国に対して同盟を提案するというのは、自分のほうから困ったらいつでも切れるから、という利点もあるからなのですが、ともかく、同盟関係というのは中世・近世のヨーロッパ世界の例にもれず、あくまでゲーム的、戦略的関係なので、それを上手く利用しながら、あるいは時には使い使われたりしながら、上手くやっていくもの、なのです。逆に、どんな世界でもそうですが、見返りを求めない、という盟友関係というものはなかなか簡単には得られないものです。ならば戦略的に、と考えるのが筋ですがまったく彼我の利益あるいは損得を考えない関係を求める、ということこそ愚の骨頂に変わりないのではないか、とも思います。確かに特殊な絆であれば見返りを振り返らない盟友関係、というのも可能ですが、基本的に、特に中世・近世のヨーロッパ世界ではそれが顕著ですが、彼我の利益や損得を無視した関係は無理だ、ということも言えるわけです。戦略的に考えるならば、多少相互に利益と負担する分を求めて、というのが筋なやり方ですが、ともかく少なくとも表面上の利害関係を乗り越えないと、見返りを求めない盟友関係、というのはなかなかと難しいものである、ということで締め括っておいて、この項は終わりにしたいと思います。友は得難し、されど機は得難し。是以て黄泉の逢瀬と為さん、なのです。
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