上告理由書

令和４年（ネオ）第■■■号　損害賠償請求上告事件
上告人　上告人
被上告人　株式会社ラボ生産　外２名

　　　　　　　　　　　　　　　　上告理由書
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　令和５年１月４日
最高裁判所　　御中
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　上告人訴訟代理人
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　■■■■

第１　原判決には、理由不備の違法が存する（民事訴訟法312条2項6号）
　１　Ｘ　　　のパワハラ行為に関する理由不備
（１）Ｘ　　　（以下「Ｘ　」という｡）のパワハラ行為の①夜間勤務中止通告と
②自分の胸に聞いてみろ暴言に関して
　ア　①について、一審判決は、平成27年12月4日のＸ　の夜間勤務中止（取り
やめ）宣告が実体的にも手続的にも問題があったことを認めながら、「夜間勤務の
取りやめがパワハラ行為に該当するかどうかはともかく」などとして判断を避けて
いる（一審判決書18頁)（控訴理由書１頁、４頁)。原判決はこの判断を是認しな
がら（判決書７頁)、その一方で、これらの発言が直ちに控訴人に対するパワハラ
行為に該当するとはいえないと否定している（判決書10頁)。しかし、係る原審の
判断は、双方の判断が並立するもので、理由の食い違いが存する。
　イ　②についても原判決はパワハラ性を否定する（判決書１０頁)。しかし、何
ら理由を示すことなく上告人の主張を否定するもので、理由不備の違法が存する。
　ところで、Ｘ　の上告人に対する「自分の胸に聞いてみろ」発言に至る経緯は、
夜間勤務中止の理由・原因を上告人から聞かれたことに対して原審が引用するよう

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な単に係る一言を浴びせただけでなく、Ｘ　が夜勤パート社員の重大な労働条件変
更を通告する以上、グループ長のＸ　には当然にその理由について説明義務がある
にもかかわらずその説明責任を果たさず、理由を問い質す上告人に対して「聞かん
でいい｡」と言い返し､「自分の胸に聞いてみろ。｣「うだうだ言っているときとち
ゃうやろ。今は仕事しろ｡」などと頭から質問を封じて黙らせようとする威圧する
暴言であり（甲23録音物、甲24反訳書)、その言い方は、組織を束ねる長にふさ
わしくない人間が､原因が上告人にあるかのごとき責任転嫁する侮辱的発言である｡
このことに加えて、夜間勤務中止の原因が上告人にないことは、Ｙ　が聞いてくれ
と指示したＺ　が上告人が原因でないことは明言しているのであるから(甲15、甲
23、甲24)、部下を統率する上司Ｘ　の上記一連の発言は、他人を見下す感情的な
暴言以外の何ものでもなく、このような発言をする何らの必要性も必然性もないパ
ワハラ発言で、このことは控訴理由書において指摘した（控訴理由書3頁イ部分)｡
にもかかわらず、原判決はパワハラに該当しない（判決書10頁）というのみでパ
ワハラ行為を否定したものであって（原因は自分で考えろと述べたものに過ぎない
とする一審判決（18～19頁）を是認するだけであるところ、Ｘ　の発言が単に自
分で考えろという趣旨にとどまらないことは、上記その経緯と一連のやりとりから
パワハラに該当することが明らかであるのに､「自分の胸に聞いてみろ」以外のや
りとりも含めてパワハラを否定したことについて全く理由に言及しておらず)、こ
の点でも理由不備の違法がある。
（２）Ｘ　の解雇発言に関する原判決の理由不備
　原判決は､上告人が以前からＸ　の上記解雇発言を訴えていることを認めながら､
平成28年6月頃、Ｘ　から「お前なんかいつでも解雇できる。数か月余分に（現
金を）払えばいいんだから｡｣「時給を下げてやる。埼玉県の最低賃金の時給に下
げてやる｡」旨の暴言を受けたとする上告人の主張は、裏付けとなる客観的な証拠
がないとして、一審の判断を支持した（判決書10頁)。
　上告人が提出したパＣ発言に関する証拠(甲18、甲25）について反対尋問を経て

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いないとの理由で信用性を否定する以上、裁判所はパＣの人証尋問を経験すべきで
ある。しかるに、一審裁判所は、上告人に尋問請求の有無について釈明を求めなか
っただけでなく、原審も上告人が請求した同証人の尋問請求を却下した。原審が、
パＣの発言の信用性を否定しながらその人証請求を却下して何ら尋問を経ることな
く上告人が提出した上記証拠（録音とその反訳書）の信用性を否定し、上告人の主
張を裏付ける客観的な証拠がないなどと判示するのは裁判所の自己矛盾判断と言わ
ざるを得ず許されないというべきであり、審理を尽くさず理由不備の違法を犯すも
のといわなくてはならない。
（３）被上告人会社の責任に関する理由不備
　そうすると､Ｘ　の上記（1）及び（2）の各パワハラ行為は優に認定できるのに､
被上告人会社の責任を判断しなかった原審は理由不備の違法が存する。そして被上
告人会社の責任は､控訴理由書に記載したとおりであるから援用する(控訴理由書4
頁、8頁)。
　２　被上告人Ｚ　のパワハラ行為の判断に関する理由不備
（１）上告人の有給休暇の請求の有無に関する原判決の理由不備
　有給休暇請求の意思表示が存在しているとする上告人の主張にして､一審判決は､
この点何ら判断することなく請求自体を否定したので、上告人は、原審において、
次のとおり主張した。
　有給休暇の請求は、法は特段その行使方法を定めているものではないから、本来
有給休暇請求の意思表示が被上告人会社に伝われば権利の行使があったことが認め
られるべきものである。上告人は、請求書を作成し、その後シフト表に有給休暇の
請求が反映されいないことを上告人が担当者である部Ｊグループ長代理に通知して
いるのであるから、この時点をもって上告人の有給休暇請求の意思が被上告人会社
の担当者に到達伝達されて請求権について権利の行使があったと見ることができる
のである。この意味で、上告人は、上記の主張に対する判断なく上告人の有給休暇
の請求を否定した一審判決の認定に誤りがある旨指摘した（控訴理由書26頁)。

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　しかし、この点原審は何ら答えることなく上告人の有給休暇の請求自体を否定し
た。よって、原判決には、理由不備の違法があるといわざるをえない。
（２）被上告人Ｚ　の「有給休暇は認めない。休業申請にするように」旨の通知の
パワハラ性の判断
　申立人は、①被上告人Ｚ　が、同年7月8日にアルバムプログループ作業所内に
設置された連絡掲示板（ホワイトボード）に、アルバムプログループ長兼アマアル
バムグループ長である同Ｚ　名で、部下の社Ｌをして「有給休暇は売上が正常化し
ない限り認めない｡｣「休業の申請をするように」「有給は使用しない運用とする｡｣
などとする指示事項を掲示させたとするいわば労働基準法に違反する有給休暇の使
用拒否宣言を原告らパート社員（正社員にはその頃別途メールで通告）らに通告し
たパワハラ行為（甲9）及び②実際原告が請求した有給休暇の取得が被上告人会社
に拒否され､同年6月分の申立人の給与明細（甲10）には、原告が請求した6月25
日に有給休暇を取得した扱いになっておらず､「欠勤」でもなく、有給休暇の請求
に代わるものとして要請された「休業」扱いとされていた事実から、これは上記の
経緯に照らし、被上告人Ｚ　が、部下である部Ｊグループ長代理や上記社Ｌらと当
面の休暇取得を拒否する方針と当時の運用に基づいて行ったと解せられるパワハラ
行為であると主張した（訴状8頁、一審判決における主張の整理8頁、甲9)。
　しかしながら、一審判決は、被上告人会社が①の事実を認め事実関係については
争いがなく（一審判決書主張の整理部分9頁)、同判決も申立人の主張する事実を
事実と認めながら（一審判決書：争点に対する判断24頁、25頁）、①の事実がパ
ワハラに該当するかどうか判断しない。そして、有給休暇の請求を承認する権限が
あるのは部Ｊグループ長代理であるが被上告人Ｚ　が部Ｊに申立人の6月25日の
有給休暇を承認しないように働きかけた証拠はないなどとして被上告人Ｚ　の上記
②のパワハラ行為を否認するが（一審判決書26頁)、原判決は上記②のパワハラ行
為を否認するだけで、①の事実のパワハラ行為の該当性についての上告人の主張に
対して何らの判断もしない。（判決書12～13頁)。

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この①の判断の遺漏については、理由不備であることが明らかである（民事訴訟法
312条2項6号)。②の判断については、第2で述べる。
　３　時効の援用に関する原判決の理由不備
　一審判決が被上告人の不法行為に係る損害賠償請求権の消滅時効について先行判
断し、Ｘ　の不法行為責任及び被上告人会社の使用者責任について、その成否を検
討する必要がないとして判断を回避したことに対し、上告人は、被上告人らの時効
の援用の主張は抗弁であり、上告人は請求原因としてＸ　のパワハラ行為と被上告
人会社の使用者責任を主張したのであるから、その判断を回避して抗弁の主張に対
する判断を行うのは、理由不備の違法を犯すもので許されないと主張した（控訴理
由書１頁)。
　これに対し、原判決は、請求原因が認められるとしても、消滅時効が完成してい
ると認められるから、上告人の主張は採用できないというのであるが（判決書９か
ら10頁)、原判決は、単に、一般的にそのように判断しているからと判示するのみ
で理由になっていない。また、結論が同じならいいではないかという説明だが、請
求原因の判断を回避した理由を説明したとは到底言えず､Ｘ　のパワハラの認定は､
被上告人会社の使用者責任はともかく安全配慮義務違反存否の前提となるものであ
るから、その判断の回避省略は許されないから、理由不備の違法は明らかである。

第２　原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が存する（民事
訴訟法325条2項)。
　原判決に経験則に反して明らかに不合理な事実認定がされており、判決に影響を
及ぼすことが明らかな法令違反(民事訴訟法247条）が存する。
　１　Ｘ　のパワハラ事件に関する原判決の経験則違反
（１）夜間勤務中止通告及び暴言に関する被上告人会社の責任判断の誤り
　原判決は、夜間勤務中止の通告を2日後の6日にＸ　が撤回して夜間勤務が継続
されることになったこと、上告人からパワハラとして被上告人会社に対応を求める

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ことがなかったことを理由に被上告人会社が特段の対応をしないでパワハラを放置
した安全配慮義務違反は認められないと判示した一審判決(一審判決書18頁）の判
断を是認し、かつ、事後的にせよ従業員の意向に沿って職場の維持に配慮したとま
で判示する（判決書11頁)。
　しかしながら、労働条件を一方的に変更告知するパワハラ行為が後日撤回された
からとか上告人が当時被害を申告しなかったからといって被上告人会社の責任が生
じないとか違法性が消滅するものではない上、実際はＸ　の夜勤中止宣言によって
職場が大いに混乱したことはこれまで主張立証したとおりであるから（控訴理由書
2頁、5頁（2）部分参照）、原判決の上記判断はパワハラの解釈を誤り、ひいては
被上告人会社の責任について経験則に反する判断をした違法が存する。
　すなわち、Ｘ　は、夜間勤務を中止するに際し、昼間勤務に変更できるかどうか
従業員の意向を確認したとか､個別面談したなどと供述するが(Ｘ　本人調書2頁)、
そのような事実はなく、実態は、夜間勤務の中止を一方的に通告した上で、日勤に
異動できる者は申出するように促し（甲14)、可能でない者は退職を余儀なくされ
ている。面談の結果撤回したというより、夜間勤務中止宣言後に従業員の異動の要
望の有無をアンケートしただけで、かえって多くの夜勤従業員から不満やクレーム
とともに夜勤継続の要望が訴えられた状況があり、日勤異動に同意した者もなかっ
たことから明らかなように（甲14、Ｘ　本人調書8頁)、Ｘ　は、十分な検討もせ
ず一時の感情で夜間勤務を中止させようとしたが（そのため、理由を聞かれてもＸ
　も被上告人Ｚ　（当時のＸ　の部下）も説明できないでいた。甲24、甲23)、結
局夜勤中止により労働力が維持できなくなることを恐れてやむなく撤回したに過ぎ
ない。このことは、パＣがＸ　から撤回の理由について「繁忙期で（夜間勤務）廃
止は難ありだったみたい｡」と聞かされており（甲16）、この点は既に原告準備書
面（3）で「夜間従業員が（被告）Ｘ　から夜間閉鎖の撤回発表を聴いて、パＣが
原告（上告人）に送信した電子メール（甲16）の中に「繁忙期で廃止は難ありだ
ったみたい｡」との表現は、被告Ｘ　は夜間閉鎖の通告をしてしまったものの、繁

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忙期の夜間閉鎖は結局困難なことを改めて認識して撤回したもの｣（4頁）と主張
したとおり、決してＸ　及び被上告人会社による従業員に対する配慮によって撤回
したものではないのである。
（２）Ｘ　の解雇発言に関する被上告人会社の責任判断の誤り
　ア　原判決は、前記第１の１の（2）のとおり、①平成28年6月頃､Ｘ　から｢お
前なんかいつでも解雇できる。数か月（賃金を）余分に払えばいいんだから｡｣「時
給を下げてやる。埼玉県の最低賃金の時給に下げてやる｡」旨の暴言を受けたとす
る上告人の主張は裏付け証拠がないとか、②否認するＸ　発言は不合理でないとは
いえない、などの理由で上告人の主張を認めない。③Ｘ　発言を裏付けるものとし
て上告人が提出したパＣ発言(甲18、25)については、反対尋問を経ていないとの
理由でその信用性を否定する。そして、④Ｘ　の上記パワハラ発言について記憶が
ないとするＸ　や被上告人Ｙ　の供述について嘘と疑う証拠もないなどとして、上
告人のＸ　パワハラ発言を認めず（一審判決書19頁)、原判決も、一審の上記①､
②及び④の判断を同様の理由でこれを支持した（判決書10頁)。
　イ　しかしながら、上告人が、Ｘ　のこの解雇発言の経緯を述べ、前日に上告人
と被上告人Ｙ　との間に、同被上告人の新たな作業の指示の意義等についてやりと
りがあり、その翌日の本件Ｘ　の解雇発言当日に、Ｘ　との面談の場に被上告人Ｙ
　も立ち会っているのである（甲19)。Ｙ　は前日新たな作業を上告人に指示した
事実、その仕事の意義を上告人がＹ　に質問した事実、翌日Ｘ　と上告人の面談の
場に被上告人Ｙ　が立ち会った事実を認めているのであって（被告Ｙ　本人調書7
～8頁)、上告人の主張する上記甲19記載の事実は被上告人Ｙ　や上記パＣ発言等
によって相当程度裏付けられている。にもかかわらず、上告人の主張を認定できな
いとするのは経験則に反する判断であると言わざるを得ない。
　Ｘ　の前記解雇発言はそもそも､「自分の胸に聞いてみろ｡｣「うだうだ言うな。
仕事をしろ｡」といったパワハラ発言が当該解雇発言や雇止め発言に繋がっている
ことを総合判断して理解する必要がある(訴状5頁、原告準備書面(4)の2頁、原告

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準備書面(6)の4頁、控訴理由書6-7頁)。
　ウ　また､Ｘ　は､解雇発言についても｢解雇しますと言った覚えはありません｡」
というだけで、その前後のやりとりについても「ちょっと記憶にないです｡」と言
葉を濁すのみである（Ｘ　本人調書)。しかし、被上告人Ｙ　はその場に居合わせ
て3人で話をしたことがあったこと、また、前日上告人から新しい作業の指示の意
味や評価について聞かれたことををそれぞれ認めており（Ｙ　本人調書７頁)、こ
れらの事実は前日の上告人と被上告人Ｙ　のやりとり（上告人陳述書８頁の６項
（1)）及び解雇発言時のやりとりを述べる上告人の供述を裏付けており（上告人
陳述書8頁の6項（2))、Ｘ　の供述に対して上告人の供述は十分信用に値するの
に（控訴理由書7頁)、これに反してその信用性を否定する原審の判断は、パワハ
ラの解釈を誤り、ひいては被上告人の会社の責任について経験則に反し法令（民事
訴訟法247条）に違反するものである。
（３）Ｘ　の「雇止め」及び「日勤異動」発言に関する被上告人会社の責任判断の
誤り
　ア　一審判決は、上告人の陳述書（甲35)、上告人本人の供述（原告本人調書）
その他上告人の雇止めに関する経過報告書（甲20）等の間接証拠を含めて、上告
人の主張を裏付ける客観的証拠がないとする。他方、記憶がないとするＸ　供述を
その信用性を疑わせる証拠はないとして、上告人の主張を否定し(一審判決書21
頁)、原判決も同様の理由でこれを支持した（判決書10頁)。
　原判決は、間接証拠には目をくれずに、直接証拠が存しない限り事実認定出来な
い旨宣告するもので、Ｘ　の記憶がないとする本人尋問に対する供述については、
上告人がその信用性を疑うに足る十分な主張立証を尽くしているにもかかわらず、
記憶がないとするＸ　発言を信用する。他方上告人の供述の信用性については、一
貫してＸ　のパワハラ発言を主張している点等相当程度信用性を認めながら、結果
的にその信用性を否定し、何らの根拠も示さずに虚言と認定して排斥するが、まさ
に結論ありきの原判決の判断は経験則に反するもので、到底承服できない。

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　イ　Ｘ　は、雇止め発言について「覚えていない」を連発するだけで(Ｘ　本人
調書11頁、12頁)、その前後のやりとり中「日勤に来い」と言った記憶はあると
認めながら、Ｙ　の同席事実や自身の雇止め発言といった自己に不利益な発言のみ
認めない。このようなＸ　の否定供述は合理性がなく信用性に乏しいものと言わざ
るをえない。
　Ｘ　は､「雇止めの話を上告人にしたことは覚えていない｡」「Ｙ　の同席やその
場でＹ　を叱ったことは覚えていない｡」と言いながら(Ｘ　本人調書11～20頁､14
頁)､「日勤に来い。俺が査定してやる｡」という言葉は記憶あるという（同13頁)｡
これらは上告人の主張を相当程度裏付けるものである。Ｘ　はさらに、被上告人ら
代理人の補充質問に対して「日勤に異動して自分の側で成果を見せてほしいという
話をしたら、上告人は話合いが決着したみたいないい顔をして、頑張りますと答え
て面談が終わった｡｣（同18頁）などと取って付けたような証言をする。しかし、
それまで被上告人Ｘ　が主張していなかった供述であって、雇止めや日勤の異動を
宣告されてそこで査定をして改めて判断するような不利益通告をされた上告人が、
そのような言動ないし対応をすることはありえず、その直後の上告人の送信したメ
ール（甲3）に照らしても、Ｘ　の証言は何ら裏付けのない信用に値しない架空の
供述である。
　むしろ、上告人が主張し供述するように（甲20）、平成28年9月19日頃にＸ　
から「このままなら更新はない｡」と雇止めを予告されたこと、上告人が労災後遺
症を抱えて自分なりに努力していることを説明したところ、「日勤に来い。俺が評
価してやる｡」と異動を求められたこと、それに対して、パＡから上告人の健康問
題を伝える内容の電子メール(甲3)を送信してもらったこと、Ｘ　から日勤異動の
取消しを聞かされたことなど以上の経緯に鑑みると、上告人の供述は十分合理的に
信用に値するものであって、甲3の記載について、単に「更新拒絶や日勤への異動
の話があったことを前提とする内容ではない」ことを理由にＸ　の雇止めパワハラ
発言を否定するのは、パワハラの解釈について経験則に反する不合理な判断をし、

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ひいては被上告人会社の責任判断を誤り法令に反し違法であることは、控訴理由書
（10～12頁）で供述したところである。
　２　被上告人Ｙ　事件に関する原判決の経験則違反
（１）被上告人Ｙ　のパワハラ行為（暴言）に関する判断の誤り
　ア　一審判決は、①上告人が主張する平成29年8月15日に、梱包作業中頚椎椎
間板ヘルニアによる頸部等の痛み、しびれによる症状再燃により作業を中断したこ
とについて、被上告人Ｙ　から「なぜ、作業を中断したのか｡｣「指示に従いなさ
い。労災が再燃し悪化しても構わない｡｣「訴訟を起こしても構いません｡｣「指示
に従うことが重要だ。会社の責任になってもかまいません｡｣「訴訟をおこしても
かまいませんよ｡」などと暴言を受けたとするその被上告人Ｙ　の発言を裏付ける
客観的証拠がないとする。その一方で、②業務内容は会社が決めるものだから会社
の指示に従う必要があると言っただけだとする被上告人Ｙ　の弁解を理解できると
し、③被上告人Ｙ　が上告人が主張するような言い方（パワハラ発言）をすること
が自然である事情はないなどと判示し(一審判決書22頁)、原判決も「当該電子メ
ールが実際に送信されたかどうか事態明らかでなく、上告人の主張を認めるに足り
ない｡」などとして、一審判決と同様の理由でその判断を是認する（判決書12頁)｡
　イ　しかしながら、上告人は、被上告人Ｙ　から請求原因記載のパワハラ発言を
受けたことを一貫して供述している事実(甲4、甲26～28、乙4、乙5)、被害直後
に上告人が被上告人会社に電子メール(甲4)で被上告人Ｙ　のパワハラ行為を送信
している事実、これを受けて幹Ｓ統括部長と部Ｈグループ長が上告人との面談を設
定した事実（甲26、27、乙4)、上告人はこれ以上の被害を避けるため一時有給休
暇を取得して被上告人Ｙ　との共同作業から離脱した事実(原告本人調書19～20
頁）等の諸事情を総合すれば、甲4の被上告人Ｙ　によるパワハラ被害内容を記載
した電子メールの存在は明白であり、上告人に対する被上告人Ｙ　のパワハラ行為
は上記客観的証拠によって裏付けられていて優に認定できるのに、これを否定した
原判決の判断は、明らかに経験則に反する不合理なもので、原判決の上記①～③の

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指摘は当たらない。
　ウ　原判決は、前記アのとおり、上告人が上記イで指摘する電子メールが実際に
送信されたかどうか明らかでないなどと判示する（判決書12頁)。
　しかしながら、後記オとともに、幹Ｓの次の発言から被上告人会社の受信事実は
明らかである。係る上告人の指摘に対して被上告人は上告人が求めた電子メールの
提出に応じないのである(原告準備書面(3)の8頁、被告第3準備書面4頁)。
　この点上告人は、次のとおり指摘して、被上告人の電子メール受信事実を主張立
証した(原告本人調書22頁)。すなわち、客観的証拠である甲26及び27、乙4の
冒頭幹Ｓが「ちょっと、詳細見させてもらいました。・・｣「一応読ませてもらっ
たんですけど、・・」とある記載は(例えば、乙４の１頁)、明らかにこの電子メー
ルの送信と被上告人会社が受信して幹Ｓと部Ｈが確認していることを物語るもので
あるから(上告人の供述によれば、パＡは部Ｈに送信した旨述べたという（原告本
人調書18頁）)、経験則上被上告人会社が当該電子メールを受信したことは優に認
定できるのに、上記のような判示をする原審の判断は、明らかに経験則に反する不
合理な誤った判断というほかない。
　エ　そして、上告人が労災請求をして認定された労災の後遺症による頸部の痛み
等の症状を訴えてていたことは被上告人Ｙ　も認めていること(被告Ｙ　本人調書
2頁)、被上告人Ｙ　が当時ストレスと精神的不安定で(乙5の33～34頁）常習的
にパワハラ言動を有し、要監視状況にあったことは幹Ｓ統括部長ら会社幹部も認識
していたこと（乙5の5頁)、パワハラ被害時の状況は、原告陳述書（甲35の12
項（1）ないし（3)､）及び原告本人調書（15頁以下）記載のとおりで、日頃の通
常作業の課程の中で生じたもので上告人の供述に不自然なところはない。他方被上
告人Ｙ　の供述の不自然不合理性等の諸事実を総合すると、被上告人Ｙ　が本件当
時上告人が労災後遺症による肩、四肢のしびれ、痛みの再燃で作業を中断したこと
に対して、被上告人Ｙ　が上告人に暴言を吐いたとする事実が存したとみても何ら
不自然でも不合理でもなく、上記のとおり上告人が被上告人Ｙ　からパワハラ被害

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を受けて直ちに電子メール（甲4）で被上告人会社に報告して救済を求め、その結
果幹Ｓ・部Ｈ面談が実現している事実、上告人は有給休暇を数日取得して当面の被
上告人Ｙ　との共同作業の機会を回避したことなどの事実が認定できるのであるか
ら、原判決が支持した一審判決の上記②及び③の判示は、明らかに経験則に反する
不合理な判断であることは明らかである。
　オ　一審判決は、甲４の証拠は電子メールそのものではないとして上告人のパワ
ハラ被害の裏付けとならない旨判示し(一審判決書22頁)、原審もこれに同調する
（12頁)。
　しかしながら、上告人がパＡに依頼して被上告人会社に送信してもらった電子メ
ールの内容がまさに甲４であることは、次の証拠から明らかであると明確に指摘し
たところである（控訴理由書15頁)。
　すなわち､甲４に記載のある｢上告人が8月16日の梱包作業中にヘルニア症状(労
災後遺症）が出始めたため、だましだまし作業を続けていたが、収まらないので作
業を中断した」事実が記載され、このことで朝方被上告人Ｙ　から「なぜ作業を中
断したのか｡」と叱責されて作業を続けるように命令され「指示に従いなさい。労
災が悪化しても構わない｡」等々の暴言を吐かれるパワハラ被害を受けたのである｡
　このことは、幹Ｓ・部Ｈ面談で、電子メールの内容を幹Ｓらが面談の冒頭で上告
人に確認しており､そこに幹Ｓ｢一応読ませてもらったんですけど、・・｣(乙4の1
頁19行)、と述べて電子メールを受信していることを前提に幹Ｓが話を始めている
ことによって裏付けられているのである。そして、幹Ｓ「以後で締めくくりで間違
いないですか｡」(同2頁6行)、と甲４と同一の記載のある内容を確認し、幹Ｓ｢今
お体なんですけど、途中で、だましだましということだったんですけど、以前から
こういう作業が体がきついんですとか言う話は・・」(同2頁20行）と幹Ｓが上告
人に質問したのは、甲４の「ある程度だましだまし行ったのですが収まらず､・・｣
の記載のとおり被上告人会社が受信した電子メールにも同一の記載があることを受
けた幹Ｓの発言であることは明らかである。こうした乙４の証拠(甲26､27と同じ)

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が存するのに(この点は既に原告準備書面(5)の第3の4項(9頁）で指摘したとお
りである｡)、甲４の証拠が電子メールそのものではないとか、当該電子メールが
送受信されたかどうか明らかでないなどとする原判決の判示は、経験則に明らかに
反する不合理な判断である。
　カ　結局上告人の主張するパワハラ事実を認定できないとする原判決の判示は、
そうであれば、パワハラ加害者が真実を述べ、上告人が虚言を弄して社内を混乱さ
せたことになる。果たしてそうした認定が正しいといえるのか。事実を話して不利
益を受けるのは誰かを考えれば、経験則に反する判断ではないだろうか。
　普段上告人の労災後遺症に理解を示していたパートロが自身の指示書仕分け工程
作業が終了すると上告人の梱包工程を代わってやってくれていた。被上告人Ｙ　も
この事実を目撃して知っていたのに(被上告人Ｙ　本人調書9頁)、パワハラ被害当
日パロが欠勤したため上告人は交代してもらえず、そこで上告人は梱包作業をおお
かた済ませたところで、被上告人Ｙ　に断って作業を中断したというのである（原
告本人調書16～17頁、原告陳述書甲35の12項(2))。ところが、被上告人Ｙ　
は断ったときは何も言わなかったのに、夜勤終了間際になって片付け仕事をしてい
た上告人に向かって、上告人のことを日頃良く思っていなかったからか訴状記載の
暴言を浴びせたのである。このパワハラ事実は、普段の作業交代状況、そのことを
被上告人Ｙ　も知っていたことを含めてパートロの尋問によって、当日の被上告人
Ｙ　の取った対応ないし言動が特異なものであったことを証明できるものと考え、
上告人が原審においてその尋問を請求したが、原審はこれを却下した。原審が審理
を尽くさず、その結果経験則に反する誤った判断をしたものといわざるを得ない。
　キ　パート社員である上告人の上司に当たる正社員である被上告人Ｙ　のパワハ
ラ行為を裏付ける上告人の陳述書（甲35）及び本人尋問の結果の信用性は、被害
後直ちにパＡに苦情の申入れをし（甲4)、被上告人Ｙ　との同時勤務を避けるた
め有給休暇を取得したこと（乙４の46頁5～6行、48頁16～22行、69頁24～28
行、70頁3～5行)、及び苦情を受けて当時のグループ長部長Ｈ　　及びその上司

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統括部長幹部Ｓ　が当事者と個別に面談を開始していることから明らかである。に
もかかわらずパワハラが存在しなかったというのであれば、これらのメールや面談
は何だったのか､原判決には合理的かつ説得力のある説明はない｡被上告人らは甲４
の電子メールは送信も受信もなく存在しないなどと否定し（被告ら第１準備書面3
頁、第3準備書面4頁)、幹Ｓ・部Ｈ第２回面談の事実も知らないなどと虚偽の答
弁をしていたのであって(被告ら第１準備書面3頁、第3準備書面5頁)、これらの
事実は被上告人Ｙ　の供述の信用性を否定するのに十分である。
　上告人から「指示には従えない｡」と言われたと主張する被上告人Ｙ　の発言や､
それに対し同被上告人が「作業内容はこちらで決めるので、指示に従うように｡」
と言ったとする発言（被告Ｙ　本人調書4頁）は、それだけとりあげればありうる
やりとりに聞こえるが、上告人は上記の発言を明確に否定しており（原告本人調書
23頁)、詳細は原告準備書面（6）の第2の3（6頁）記載のとおりである。そして､
被上告人Ｙ　自身は当時上告人との関係が良くなかったことを認めており（Ｙ　本
人調書6頁)、幹Ｓ統括部長及び部Ｈグループ長が共に、かねて被上告人Ｙ　の言
動に問題があり同被上告人に改善の見込みがなく要監視状態にあったことを認めて
いる経緯に照らすと（乙5の5頁18－23行、33頁26行以下、34頁13－18行、26
－30行)、こうした被上告人Ｙ　の上記供述は自身のパワハラ発言を否定するため
の言い訳とみるほかないのである。
　にもかかわらず、被上告人Ｙ　の供述の信用性を肯定した原審の判断は、経験則
に反する極めて不合理なものというべきである。
（２）被上告人会社の責任に関する判断の誤り
　ところで、被上告人会社が、パワハラ被害を受けて幹部Ｓ　統括事業部長と部長
Ｈ　　グループ長が面談を設定しながら、当事者、特に加害者とされる被上告人Ｙ
　から十分な事実確認とともに事実関係に争いがある場合は関係者らの事情聴取等
を行う調査を尽くすべきであったのに、これが行われずに事実認定ができないまま
に作業体制の現状維持ないし妥協を上告人に求めたことに問題がある。すなわち、

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被上告人Ｙ　については同人の夜勤を異動できないとして配置換えをせず上告人は
今後とも同被上告人Ｙ　の指示に従ってほしいとする現状維持の提案に止まり（乙
5の16頁19行、17頁9-10行)、あるいは、代案①としてパＡの管理下に入り上告
人の勤務日数を減らして週4日勤務となるか、代案②として日勤に異動して夜勤手
当がなくなる収入の減少を受け入れるという補償なしの妥協案を示された（乙5の
17頁19行～18頁6行､26頁2-5行)。その代案のいずれかか、そうでなければ上記
代案前に提示されたのパワハラ加害者である被上告人Ｙ　との共存しかないとされ
た。上告人が有給休暇を取得してまで被上告人Ｙ　との共存を避けようとしている
状況であるのに、被上告人会社にパワハラ防止、就業関係改善の真摯な決意がみら
れないのである。
　被上告人会社としては、事が、就業規則（甲39）が委任した服務規程におそら
く禁止事項として定め（就業規則37条、38条)、就業規則上解雇事由と明示して
いるパワハラスメント行為（同規則15条7号）という重大事案であるから、外部
委員等による第三者委員会を設定して徹底的な調査を実施をすべきだった。単にホ
ットラインを設けたとか社内報にその存在を掲示したと主張するだけで、何らこれ
に関する周知も徹底もなく、研修も実施しておらず、社員のほとんどが現実にパワ
ハラに関する知識も救済手段、方法等も知らない現状にあっては、被上告人会社の
日頃の安全配慮義務の懈怠は明らかである（Ｘ　本人調書16頁、原告本人調書20
頁)。
　上告人は、幹Ｓ統括部長と部Ｈグループ長との第１回面談で、両名共に上告人の
労災事実や後遺症に付いて何も知らなかったこと（乙４の7頁）や上告人と被上告
人Ｙ　の関係が良好でないことを初めて知ったことを（乙４の40頁22-24行）知
らされたのである。幹Ｓ統括部長と部Ｈグループ長は上告人の聴取後に被上告人Ｙ
　にも面談して聴取しているが、被上告人Ｙ　は、幹Ｓらから面談目的ないし理由
を聞いていないという｡甲4のメールに記載されている上告人の被害事実について、
これを指摘されたり事実確認をされなかったというのである(被告Ｙ　本人調書12

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頁～14頁)。にわかに信じ難いが、これが事実なら、幹Ｓらは何のために上告人や
被上告人Ｙ　との面談を設定したのか。甲４で被害を被上告人会社宛てに申告した
上告人のパワハラ被害救済の申立てに対して､被上告人会社は何も対応らしい対応、
事実確認のための調査を行わなかったことになる。この点でも被上告人会社の安全
配慮義務の懈怠は明らかであり、債務不履行を否定し債務の履行を主張する以上立
証責任を有する被上告人会社から何ら立証はなかった。上告人は、審理を尽くすた
めには幹Ｓ統括部長の尋問が必須と考え上告人がその尋問を請求したが、原審はこ
れも却下した。審理不尽の結果、上告人に対する被上告人Ｙ　のパワハラと被上告
人会社の責任（使用者責任、安全配慮義務違反）を否定した原判決の判断は、経験
則に反する極めて不合理なもので違法である。
　３　被上告人Ｚ　のパワハラ事件に関する原判決の経験則違反
（１）上告人の有給休暇の請求事実自体認められないとする原判決の判断の誤り
　ア　上告人が､有給休暇の請求をしたこと自体証拠がないとした一審判決に対し､
後記イのとおり原審で指摘した事実及び証拠に照らせば､上告人が令和2年6月25
日の有給休暇を請求した事実は明らかであるのにこれを否定した一審の判断は経験
則に反するとした原審における上告人の主張に対し、原判決は､「上告人が同年6
月25日の有給休暇を取得するための所定の手続を確実に履践したことを認めるに
足る的確な証拠がない｡」と判示する（判決書12頁)。そして、一審判決が、上告
人名義の有給休暇請求書(甲5）が作成されてこれを被上告人会社に提出した可能
性があると認めながらも、これが確実に提出されたとは言えないとか、提出後紛失
した可能性があるなどと判示したため(一審判決書26頁)、上告人は、いかに的外
れの不合理な判断か指摘した（控訴理由暑25頁（5）部分､（4）とあるが（3）以
降重複のため（5）に読み替える｡）が、原審はこの一審の認定も否定しなかった。
　なお、有給休暇の請求は、書面による意思表示に限定されるものではないから、
この点口頭による請求の意思標示が存したことを主張していたところ（控訴理由書
26頁イ部分)、この点原判決は、何ら判断することなく本件控訴を棄却したため、

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前記第１で理由不備の違法を指摘したところである。
　イ　しかしながら、上記請求書（甲5）が作成されて存在しただけでなく、その
後の休暇の請求を前提とした関係者との一連のやりとりについて一審判決も認定し
ているところであり（一審判決書23頁の（1）部分)、こうした経緯に照らせば、
上告人の休暇の請求自体が存しないとする一審判決を是認する原判決は、請求書の
提出自体なかったとする判断は合理的な推認を否定するもの、被上告人会社が紛失
した可能性があるとする判断は被上告人会社の重大な過失を不問にして上告人の不
利益に帰する不合理な判断であり、裁判所に許される自由心証を逸脱したもので到
底納得できないこと、そして、上告人の有給休暇請求の意思表示は、上記のとおり
書面の提出の有無にかかわらず認定できることを控訴理由書（26頁イ部分）で改
めて主張したところである。
　被上告人会社によれば、一審判決（一審判決書23頁）が認定し、原審判決が是
認するとおり、有給休暇の請求は、所定の「休暇願」をグループの社Ｌに提出し、
社Ｌから部Ｊに送られて処理されることになっている。原審が休暇の請求事実を認
定できないというなら、被上告人らは休暇願の提出がなかったと主張するのみで社
内に関係者を抱えながら何ら自身の主張を裏付ける反証行為をしないのであるか
ら、この点上告人に有利な認定をして然るべきところ、この点原審は事実確認も求
釈明もしないままに上告人が原審で請求した証人社員Ｌ　の尋問さえ却下した。こ
のような事実をも総合すると、原判決の前記認定判断自体経験則に反する誤った判
断で民事訴訟法247条に反するものと言わざるをえないのである。
　近時控訴審の審理が事後審的となり、新たな証拠調べを行わず第１回口頭弁論期
日に弁論が終結されることが多くなったことが指摘されており、これは一審の審理
が重視強化されて一審において十分な審理が尽くされていることが前提となるはず
であり、一審が十分な審理を尽くさなかったことが指摘されている原審において、
なお、一審同様証人尋問自体避けてこれ以上の事実関係の解明を拒否しようとする
原審の態度は、裁判の拒否に繋がる不当なもので、到底国民の理解は得られない。

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（２）被上告人Ｚ　の有給休暇の請求拒否ないし請求の妨害事実を否定した原判決
の判断の誤り
　前記第１の2の（2）で整理した上告人Ｚ　のパワハラ行為の②について、一審
判決のその経験則に反する不合理な判断に対し､原審で追加した書証(甲30の2､38
の1、38の2）とともに徹底して指摘反論したにもかかわらず（控訴理由書20頁
（2）以下)、原判決は、なお請求を棄却した。しかし、原判決は、一審判決を正
当化する２、３の理由を付加するだけで、上告人が指摘した疑問点には何ら答えて
いない。
　すなわち、被上告人Ｚ　メールが「有休について以前も共有しましたが、理解さ
れていないようなので、改めて共有指示します｡｣（甲9）と明言していて、一審判
決もこの事実を認定しているのに（一審判決書24頁)、原判決は「有給休暇取得に
ついて、被上告人Ｚ　が告知したような運用が周知されていたことを裏付ける証拠
は見出し難い」という（判決書13頁)。周知されていないから再度Ｚ　がメールし
たり掲示しているのであるから､「周知」の有無が問題となっているのではないの
である。そのような運用がされていてそのことが正社員やパート社員に十分理解さ
れていないようだとそのメールは言っているのである。控訴理由書21頁（2）及び
（3）で指摘したように、甲30の2（甲29の録音物の反訳書）の記載内容から、
パＡも7月1日取得予定の有給休暇の請求を拒否されたことを述べており、甲38
の1及び38の2のシフト表から、パチ、パリ、パヌが7月7日、14日、17日の取
得予定の休暇を欠勤扱いされ、被上告人Ｚ　が7月13日にいたって有給休暇拒否
を撤回したため、急遽パチらの上記有給休暇請求を有給休暇として認めたり、休業
に変更を了解したものは休業にしていることが認められるのである。
　これらの事実から、上告人が6月25日に定期検診で出勤できないため欠勤を予
定していることについて休暇の取り方について部Ｊに相談したところ、部Ｊから有
給休暇にしてほしいと言われた5月6日時点（甲6の2）では未だ被上告人Ｚ　の
有給休暇拒否の方針が固まっていたとは認め難いが、これに応じてその後上告人が

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有給休暇請求書を提出した5月14日時点（甲5）において被上告人Ｚ　の係る方
針が固まっていたかどうかはともかく､遅くとも部Ｊがこれを無視して上告人の｢有
給」を認めずに「出勤」に変更するシフト表を作成した6月10日時点か(甲7)、
あるいは上告人のシフト表の誤りを指摘した問い合わせに応じなかった同月19日
頃には(甲8の2)、この方針を決めていた被上告人Ｚ　が、上告人に対してだけで
なく上記パＡやパチ、パリ、パヌら複数の従業員にも同様の対応をしたことが認め
られるのである。
　そして、これら当時の有給休暇拒否の運用は、その意味でグループ長である被上
告人Ｚ　、事実上有給休暇の請求の可否を判断してシフト表を作成するグループ長
代理部長Ｊ　及び有給休暇の請求書を受け付けたり朝礼等で被上告人Ｚ　の意向を
夜勤パート社員らに伝達してきた社員Ｌ　の3名が共同一致して行動しない限り円
滑な遂行運用ができないと考えられるのであるから、彼らの共同したパワハラ行為
とみるのが極めて自然かつ合理的である。
　そうであるから、原判決が、部Ｊグループ長代理が上告人に対して同年5月に定
期検診の受診について有給休暇を取得するように促したとか、同年6月には上告人
がシフト表の誤りを指摘する問い合わせに対して、被上告人が告知したような運用
方針を回答していないとかの理由を挙げて被上告人Ｚ　が有給休暇を拒否したとは
いえないとか、部Ｊらに拒否を指示して請求を妨害したとは認められないとした原
判決の判断は、上記の時系列や上告人提出の証拠に照らして、明らかに経験則に反
する誤った判断であるから、破棄を免れないのである。この点は控訴理由書で詳述
したところである（19頁1の（1）ないし（4)（読替え前の2番目の（3）部分。24
頁の(3)は(4)の誤記であり､以下順次番号を繰り下げて読み替えるものとする｡)。
（３）被上告人会社の責任判断の誤り
　原判決は、被上告人会社の有給休暇取得拒否の方針が数日中に撤回された事後的
事情は、被上告人会社が従業員の意向に沿って職場を維持することに配慮している
ことをうかがわせるものであるから、被上告人会社にパワハラを放置した安全配慮

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義務違反があったとはいえないと判示する(判決書13頁(イ)部分､11頁アの(イ)
部分)。
　しかしながら、有給休暇拒否の撤回は決して被上告人会社の配慮によるものでは
ない。
　被上告人Ｚ　は、上司の指摘を受けて違法性を認識し朝礼で誤りだったことを従
業員に伝えたとするが（Ｚ　証人調書3頁、9頁)、供述以外裏付けのないもので
その真偽はともかく、仮にそうであったとしても何ら従業員に配慮した結果ではな
い。
　こうした評価が、事実を適切に把握しない上での誤った判断であることは、控訴
理由書で指摘したとおりであり（控訴理由書26頁（6)（旧（5)）部分及び29頁2
項部分)、遵法意識に欠けた中間管理職にあるＸ　、被上告人Ｙ　、同Ｚ　らが労
基準法違反行為やパワハラ行為を繰り返すこと自体日頃全くパワハラ防止のための
教育・研修を怠っていて健全な職場秩序を混乱させてきた被上告人会社の責任（安
全配慮義務違反）を問うているのである。
　そうであるから、被上告人Ｚ　の通告前の6月頃からこれを取り消した7月13
日までに及んだ有給休暇拒否という違法行為の運用について、被上告人会社がそう
した事情のみならず、7月7日の改めての運用の徹底を促す被上告人Ｚ　の通告に
対し、どうして係る違法行為を撤回させるのに1週間も要するのか、こうした経緯
や事情は、被上告人会社の労働者に対する安全配慮を著しく欠くもので、これに対
し、従業員の意向に沿った措置だとか、職場の維持に配慮したなどとする原判決の
判示は事実に基づかない誤った判断であることが明らかである。
　そして、被上告人Ｚ　が社Ｌを使った有給休暇使用の拒否を再三通告したことが
いかに上告人や他の従業員の動揺、不満、抗議をもたらし労働者の権利を奪い職場
秩序の混乱をもたらしたもとか係る上告人の主張に対し、立証責任を有する被上告
人会社は安全配慮義務を履行し過失のないことについて裏付けをもって何ら立証し
なかった。被上告人から、社Ｌや部Ｊらの尋問の請求は一切なく、単に職場秩序の

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混乱状況を否定するだけで、上告人が原審において違法な有給休暇の拒否の運用を
しばらく敢行していたことを立証したにもかかわらず、被上告人会社からその反証
は全くない。7月7日被上告人Ｚ　がした有給休暇拒否通告をその後撤回したとの
一事をもって被上告人会社の責任（使用者責任、安全配慮義務違反）を否定する原
判決は、審理不尽の結果経験則に反する誤った判断をしたものというべきである。

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