第二審判決
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labo_worker 2023年02月12日(日) 18:10:00履歴
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第二審判決（東京高等裁判所）
令和４年１０月２６日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和４年（ネ）第■■■■号 損害賠償請求控訴事件（原審・東京地方裁判所令和
２年（ワ）第■■■■■号）
口頭弁論終結の日 令和４年９月１２日
判決
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
控訴人 控訴人
同訴訟代理人弁護士 ■■■■
高知市本町四丁目１番１６号
被控訴人 株式会社ラボ生産
（以下「被控訴人会社」という｡）
同代表者代表取締役 幹部Ｐ
埼玉県川口市領家４−４−２０ 株式会社ラボ生産川口センターラボ内
被控訴人 被控訴人Ｙ
（以下「被控訴人Ｙ」という｡）
同所
被控訴人 被控訴人Ｚ
（以下「被控訴人Ｚ」という｡）
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 ■■■■
同 ■■■■
主文
１ 本件控訴をいずれも棄却する。
２ 控訴人の当審における拡張請求をいずれも棄却する。
３ 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。
事実及び理由
第１ 控訴の趣旨
-1-
１ 原判決中、被控訴人らに係る部分を取り消す。
２ 被控訴人会社は、控訴人に対し、３３０万円及びこれに対する平成２８年９
月１９日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
３ 被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社は、控訴人に対し、連帯して１１４万９４０
６円及びこれに対する平成２９年８月１５日から支払済みまで年５分の割合に
よる金員を支払え。
４ 被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社は、控訴人に対し、連帯して１１０万２１２
３円及びこれに対する令和２年６月２５日から支払済みまで年３分の割合によ
る金員を支払え。
第２ 事案の概要（以下、略語は、特に定めない限り、原判決の表記に従う。）
１ 本件は、被控訴人会社の従業員である控訴人が、同じく被控訴人会社の従業
員である原審相被告被告Ｘ （以下「Ｘ 」という。）、被控訴人Ｙ 及び被
控訴人Ｚ からそれぞれパワーハラスメント（パワハラ）に当たる行為を受け
たとし、Ｘ 、被控訴人Ｙ 及び被控訴人Ｚ においてはいずれも控訴人に対
して不法行為による損害賠償義務を、被控訴人会社においては控訴人に対して
使用者責任又は安全配慮義務違反による損害賠償義務をそれぞれ負う旨主張し
て、�。悄，砲茲襯僖錺魯藕坩戮砲弔い討蓮■悄ゝ擇喩鏐義平猷饉劼紡个掘■�
３０万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日（Ｘ につき令和２年９月２６
日、被控訴人会社につき同月２９日）から支払済みまで民法（平成２９年法律
第４４号による改正前のもの）所定の年５分の割合による遅延霜害金の連帯支
払を、��被控訴人Ｙ によるパワハラ行為については、被控訴人Ｙ 及び被控
訴人会社に対し、１１４万９４０６円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
（被控訴人Ｙ につき同月２６日、被控訴人会社につき同月２９日）から支払
済みまで同割合による遅延損害金の連帯支払を、�Ｈ鏐義平唯據，砲茲襯僖錺�
ラ行為については、被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社に対し、１１０万２１２３
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日（被控訴人Ｚ につき同月２６日、被
-2-
控訴人会社につき同月２９日）から支払済みまで同割合による遅延損害金の連
帯支払をそれぞれ求めた事案である。
原審は、控訴人の上記各請求をいずれも棄却した。
これに対し、控訴人が、被控訴人らに対する各請求の棄却部分を不服として
控訴した。なお、控訴人は、当審において、上記� 銑�に係る各遅延損害金の
連帯支払請求を、いずれもその起算日を不法行為の日（上記�，砲弔い討亙神�
２８年９月１９日、上記�△砲弔い討亙神�２９年８月１５日、上記��について
は令和２年６月２５日）とするものに拡張し、上記��に係る遅延損害金の連帯
支払請求を、その割合を民法所定の年３パーセントとするものに減縮した。
２ 前提事実
原判決の「第２ 事案の概要等」の１記載のとおりであるから、これを引用
する。ただし、３頁１２行目の「勤務する被告会社の従業員」を「勤務してい
た被控訴人会社の元従業員」に、４頁１行目の「現時点での」を「本件訴訟の
提起時点におけるその」にそれぞれ改める。
３ 争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり原判決を補正し、当審における控訴人の主張の要旨を付加するほ
か、原判決の「第２ 事案の概要等」の２記載のとおりであるから、これを引
用する。
(1) 原判決の補正
ア ５頁５行目の「被告らの」を「Ｘ による」に、２０行目の「被告ら」
を「Ｘ 」に、２５行目の「言いがかりか」を「言いがかりではないか
と」にそれぞれ改め、６頁８行目の「原告は、」の次に「控訴人の」を加
える。
イ ６頁１３行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に、２１行目の「また
は」を「又は」にそれぞれ改め、７頁８行目の「しただけで」の次に「同
刻印刷書面に」を加える。
-3-
ウ ７頁２６行目の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社」に改め
る。
エ ８頁１２行目の「有給休暇」の次に「取得の申請書（甲５）」を加え、
２６行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に改める。
オ ９頁３行目の「被告ら」を「被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社」に改め
る。
カ ９頁１８行目の「被告Ｘ らの不法行為責任及び」を「被控訴人Ｙ 及
び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に改め、２０行目の「いずれも」
の次に「控訴人に対する」を加え、２２行目の「または」を「又は」に改
める。
キ １１頁７行目の「もと」を「下」に改め、２１行目の「ので」の次に
「、部Ｊグループ長代理において」を加える。
ク １３頁１行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に改める。
ケ １３頁１４行目及び２１行目の各「被告ら」をいずれも「被控訴人Ｙ
及び被控訴人会社」に、２１行目の「第１回」を「原審第１回」にそれぞ
れ改める。
コ １３頁２４行目の「被告ら」を「被控訴人ら」に改める。
(2) 当審における控訴人の主張の要旨
ア Ｘ のパワハラ行為の存否（争点１）について
Ｘ による、�（神�２７年１２月の夜間勤務を取りやめる旨の発言及び
「自分の胸に聞いてみろ。」との暴言行為、�∧神�２８年６月頃の「お前
なんかいつでも解雇できる。数箇月分余分に払えばいいんだから。」等の
暴言行為、�Ｊ神�２８年９月１９日頃の「そこまで言うなら、日勤にこ
い。」などと勤務時間の変更を求める行為等のパワハラ行為（不法行為）
-4-
について、消滅時効が成立したから被控訴人会社の使用者責任も認められ
ないとする原判決の判断は理由不備に当たるほか、被控訴人会社につき安
全配慮義務違反の責任も認められないとした原判決の認定判断は、Ｘ の
供述、Ｘ が発言する場にいた被控訴人Ｚ の供述及びパートＣの供述の
各信用性の吟味を怠り、これらを鵜呑みにしたもので、不当というべきで
ある。また、フォトアルバムグループの夜間勤務の取りやめについては、
その違法性の判断を留保した上、その方針が２日後には撤回されたという
事後的事情をもって被控訴人会社の安全配慮義務違反を否定した原判決の
判断も不当と言わざるを得ない。
したがって、原判決は取り消されるべきである。
イ 被控訴人Ｙ のパワハラ行為の存否（争点２）について
原判決は、被控訴人Ｙ のパワハラ行為について、客観的証拠がないな
どとして控訴人の主張を排斥したが、控訴人本人が一貫してその存在を供
述していること、被害直後に控訴人がその存在を電子メール（甲４）で報
告していること、その後、幹Ｓ統括部長及び部Ｈグループ長が控訴人との
面談の機会を設けていること、控訴人が有休休暇を取得してまで被控訴人
Ｙ との同時勤務を避けていること等を考慮すれば、上記パワハラ行為の
存在は明らかであり、これを否定した原判決の認定判断には誤りがある。
ウ 被控訴人Ｚ のパワハラ行為の存否（争点３）について
原判決は、控訴人の有給休暇取得に関して被控訴人Ｚ がしたパワハラ
行為について、�々義平佑�令和２年６月２５日の有給休暇を取得するため
の手続を履践したことを的確に認めるに足りる証拠はないこと、��控訴人
が有給休暇の申請をしたのは同年５月であり、被控訴人Ｚ の有給拒否の
告知が同年７月７日にされたということを理由に、控訴人の主張を排斥し
た。しかし、�，稜�定判断は経験則に反し、�△砲弔い討蓮�被控訴人Ｚ
ないし部Ｊグループ長代理が有給取得拒否の方針を決めたのは同年７月７
-5-
日以前のことであって、そのことは、控訴人が控訴審で提出した証拠（甲
３０の２、３８の１・２）により他の従業員も有給休暇の申請を拒否され
ていた事実が認められることからも明らかであるから、原判決の認定判断
には誤りがある。また、有給取得拒否の方針が数日中には撤回されたとい
う事後的事情をもって被控訴人Ｚ のパワハラ行為による被控訴人会社の
安全配慮義務違反を否定したことも不当といわざるを得ないことは、Ｘ
のパワハラ行為の場合と同様であり、いずれにしても原判決は取り消され
るべきである。
第３ 当裁判所の判断
１ 当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する各請求については、当審における
拡張部分も含め、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとお
り補正し、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決の
「第３ 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正
ア １５頁６行目の「第２、１」を「第２の２(1)」に、７行目の「被告Ｘ
」から９行目の「である」までを「控訴人が主張するＸ のパワハラ行
為に係る控訴人の被控訴人会社に対する使用者責任による損害賠償請求権
については、仮に発生していたとしても、既に消滅時効が完成しているも
のと認められる」に、１０行目の「第１回」を「原審第１回」に、１２行
目の「に基づく被告Ｘ の不法行為責任及び」を「に係る」に、１３行目
の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社」に、１５行目の「第
２，２」を「第２の２(2)」に、２０行目の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及
び被控訴人会社」にそれぞれ改める。
イ １５頁２３行目の「不法行為責任ないし」を「被控訴人会社の」に改め
る。
ウ １６頁１行目の「原告」を「争点(1)の控訴人」に改め、２０行目の「前
-6-
に」の次に「従業員からの」を加え、１７頁２５、２６行目の「、被告Ｘ
」から１８頁１行目の「なく」までを削り、７行目の「とる」を「一方
的に講じる」に、１２行目の「話」を「その計画」に、１９、２０行目の
「被告会社がこれについて特段の対応をしていないことをもって、」を
「その取りやめの告知がされたことに関して、直ちに被控訴人会社に」に
それぞれ改める。
エ １９頁３行目の「原告」を「争点(1)の控訴人」に、１０行目の「当裁判
所」を「原審」に、１４，１５行目の「をしても不合理ではないといっ
た」を「に及んだとしても不自然ではないとみられる」にそれぞれ改め、
２０行目の「、また」から２１行目の「ないから」までを削り、２５行目
の「すると」の次に「、上記主張に沿う控訴人の上記各供述等については
直ちに信用することができず、本件証拠上」を加える。
オ ２０頁３行目の「原告」を「争点(1)の控訴人］に、１１行目の「主張
し、証拠（甲３、弁論の全趣旨）」を主張するところ、証拠（甲３）及
び弁論の全趣旨」に、２３行目の「当裁判所」を「原審」にそれぞれ改
め、２１頁４行目の「すると」の次に「、上記主張に沿う控訴人の上記各
供述等については直ちに信用することができず、本件証拠上」を加える。
カ ２１頁８、９行目の「被告Ｘ らの不法行為責任及び」を「被控訴人Ｙ
及び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に、２５、２６行目の「う
え」を「上」にそれぞれ改め、２２頁１５行目の「直ちに」の次に「被控
訴人Ｙ において」を、２２行目の「そうすると」の次に「、上記主張に
沿う控訴人の上記陳述書及び供述については直ちに信用することができ
ず、本件証拠上」をそれぞれ加える。
キ ２２頁２６行目から２３頁１行目にかけての「被告Ｘ らの不法行為責
任及び」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に、
８行目の「こと」を「旨」に、１４行目の「申し出を」を「申出を」にそ
-7-
れぞれ改める。
ク ２６頁１行目冒頭から２７頁６行目末尾までを次のように改める。
「 しかしながら、前記(1)イのとおり、控訴人において、令和２年５月１４
日、同年６月２５日の有給休暇を取得するために休暇願いの書類（甲５）
を作成した事実は認められるものの、控訴人が当該書類を用いるなどして
上記の所定の申請手続を確実に履践したことを認めるに足りる的確な証拠
はない。
また、前記(1)ウのとおり、同年６月１０日更新のシフト表においては既
に控訴人の同月２５日の有給休暇の処理がされていなかった事実が認めら
れるところ、前記(1)エのとおり、控訴人が指摘する被控訴人Ｚ による有
給は基本的に認められず、私用の休みを取りたい場合は休業申請をするよ
う指示する旨の告知がされたのは同年７月７日付けのことであって、それ
以前にプロアルバムグループにおいて有給休暇取得について被控訴人Ｚ
が告知したような運用が周知されていたことを裏付ける証拠は見出し難
い。かえって、有給休暇の承認権者である部Ｊグループ長代理は、控訴人
に対し、前記(1)アのとおり、同年５月、定期健診の受診については有給休
暇を取得してもらえると助かる旨メールで伝えており、また、前記(1)ウの
とおり、同年６月、控訴人からシフト表の誤りを指摘する問い合わせに対し
ても被控訴人Ｚ が告知したような運用である旨の回答をしてはいないの
であって、これらの事実関係に照らせば、同月２５日に控訴人が休業扱い
とされたことについて、被控訴人Ｚ が控訴人の有給休暇取得の申請を殊
更拒否したものとみることはできず、他に、被控訴人Ｚ が控訴人の有給
休暇取得を妨害するような具体的指示を部Ｊグループ長代理らに対して行
うなどしたことを認めるに足りる証拠はない。」
ケ ２７頁１１行目の「主張し」を「主張するところ」に改める。
コ ２８頁１行目の末尾に改行の上、次を加える。
-8-
「５ 小括
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被
控訴人らに対する各請求はいずれも理由がない。」
(2) 当審における控訴人の主張について
ア Ｘ のパワハラ行為の存否（争点１）について
(ｱ) 控訴人は、Ｘ によるパワハラ行為（�（神�２７年１２月の夜間勤務
を取りやめる旨の発言及び「自分の胸に聞いてみろ。」との暴言行為、
�∧神�２８年６月頃の「お前なんかいつでも解雇できる。数箇月分余分
に払えばいいんだから。」等の暴言行為、�Ｊ神�２８年９月１９日頃の
「そこまで言うなら、日勤にこい。」と勤務時間の変更を控訴人に求め
た行為）について、行為の存否にかかわらず消滅時効が成立したから被
控訴人会社の使用者責任も認められないとした原判決の判断は理由不備
に当たるほか、上記パワハラ行為について原判決のした事実認定は、Ｘ
の供述、Ｘ が発言する場にいた被控訴人Ｚ の供述及びパートＣの
各供述の信用性の吟味を怠り、これらを鵜呑みにしたもので、不当であ
る旨主張する。
しかしながら、一般に、不法行為による損害賠償請求権の存否が問題
となる事案において、不法行為に該当する事案の存否の判断に先立って
当該損害賠償請求権に係る消滅時効の成否を判断することが判決の理由
不備に当たるものとはいえないところ、本件において控訴人が主張する
Ｘ のパワハラ行為については、控訴人の主張を前提とすれば、仮に当
該パワハラ行為に係る事実が現に存し、これに係る控訴人の被控訴人会
社に対する使用者責任による損害賠償請求権が発生していたとしても、
既に当該損害賠償請求権について消滅時効が完成しているものと認めら
れることは、前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の１
（１５頁５行目から１２行目まで。当審における補正部分を含む。）に
-9-
おいて説示したとおりであって、この点に関する控訴人の上記主張は、
上記説示に照らし、採用することができない。
また、上記�，療世砲弔い討蓮�控訴人が指摘するＸ の発言の適否は
ともかく、その発言が直ちに控訴人に対するパワハラ行為に該当するも
のとまではいえないこと、上記�△療世砲弔い討蓮�控訴人の供述中には
その主張に沿う部分が存するものの、その裏付けとなる客観的な証拠は
なく、Ｘ がそのような発言に及んだとしても不自然ではないとみられ
るような状況もうかがわれず、他方、控訴人が主張するＸ の発言につ
いては記憶がない旨を述べるＸ 及び被控訴人Ｙ の各供述の信用性を
疑わせるに足りる証拠も見当たらないことからして、上記主張に沿う控
訴人の上記供述部分については直ちに信用することができず、本件証拠
上、上記のＸ の発言があったものとは認められないこと、上記��の点
については、控訴人から依頼されたパＡが作成・送信したとされる電子
メールの内容（甲３）は必ずしも契約更新の拒絶や日勤への異動の指示
があったことを前提としたものではなく、それが直ちに控訴人の主張を
裏付けるものではなく、また、控訴人の供述中にはその主張に沿う部分
が存するものの、その裏付けとなる客観的な証拠はなく、他方、控訴人
が主張するＸ の発言については記憶がない旨を述べるＸ の供述の信
用性を疑わせるに足りる証拠も見当たらないことからして、上記主張に
沿う控訴人の上記供述部分については直ちに信用することができず、本
件証拠上、上記のＸ の発言があったものとは認められないことは、い
ずれも前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の２(1)から
(3)まで（１６頁１行目から２１頁７行目まで。当審における補正部分を
含む。）に認定説示したとおりであって、これらの点に関する控訴人の
上記主張は、いずれも上記認定説示を左右するものではなく、採用する
ことができない。
-10-
(ｲ) 控訴人は、フォトアルバムグループの夜間勤務の取りやめについて、
その違法性の判断を留保した上、その方針が２日後には撤回されたとい
う事後的事情をもって被控訴人会社の安全配慮義務違反を否定した原判
決の判断は不当である旨主張する。
しかしながら、上記の夜間勤務の取りやめは、平成２７年１２月４日
の夜勤開始時に被控訴人Ｚ によってその予告がされ、同月５日の夜勤
開始時にＸ 自らが従業員に対して告げたものであるところ、これに対
して複数の従業員から夜間勤務の継続を求める要望が寄せられたため、
Ｘ において夜間勤務の各従業員と面談をした結果、当該夜勤の終了時
である同月６日朝にはその取りやめ自体が撤回され、その旨が従業員に
通知されたこと等の事実経緯に照らせば、その取りやめの告知がされた
ことに関して、直ちに被控訴人会社にパワハラを放置したなどの安全配
慮義務違反があったものとみることはできないことは、前記引用に係る
原判決の「第３ 争点に対する判断」の２(1)イ（１７頁１８行目から１
８頁２１行目まで。当審における補正部分を含む。）における認定説示
のとおりである。上記の事実経緯は、被控訴人会社において、事後的で
あるにせよ、従業員の意向に沿って職場を維持することに配慮している
ことをうかがわせるものであるということができ、控訴人の上記主張
は、上記認定説示を左右するものではなく、採用することができない。
イ 被控訴人Ｙ のパワハラ行為の存否（争点２）について
控訴人は、被控訴人Ｙ のパワハラ行為について、控訴人本人が一貫し
てその存在を供述していること、被害直後に控訴人がその存在を電子メー
ル（甲４）で報告していること、その後、幹Ｓ及び部Ｈが控訴人との面談
の機会を設けていること、控訴人が有給休暇を取得してまで被控訴人Ｙ
との同時勤務を避けていること等を考慮すれば、その存在は明らかであ
り、これを否定した原判決の認定判断には誤りがある旨主張する。
-11-
しかしながら、被控訴人Ｙ は控訴人が主張するパワハラ行為を否定す
る旨の供述（乙６の３、被控訴人Ｙ 本人）をしているところ、控訴人が
指摘する電子メール（甲４）については、該当電子メールが実際に送信さ
れたかどうか自体が明らかではなく、控訴人の主張を的確に認めるに足り
るものではないこと、他に該当行為の存在を裏付ける客観的な証拠もない
ことなどからして、上記主張に沿う控訴人の上記供述については直ちに信
用することができず、本件証拠上、控訴人が主張する被控訴人Ｙ のパワ
ハラ行為に係る事実自体を認めることができないことは、前記引用に係る
原判決の「第３ 争点に対する判断」の３（２１頁１１行目から２２頁２
５行目まで。当審における補正部分を含む。）に認定説示したとおりで
あって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らし、採用することがで
きない。
ウ 被控訴人Ｚ のパワハラ行為の存否（争点３）について
(ｱ) 控訴人は、控訴人の有給休暇取得に関して被控訴人Ｚ がしたパワハ
ラ行為について、�々義平佑�令和２年６月２５日の有給休暇を取得する
ための手続を履践したことを的確に認めるに足りる証拠はないとする原
判決の認定判断は経験則に反している旨、��被控訴人Ｚ ないし部Ｊグ
ループ長代理が有給取得拒否の方針を決めたのは同年７月７日以前のこ
とであるから（甲３０の２、３８の１・２）、被控訴人Ｚ の有給取得
拒否の告知が同日にされたことを理由に、被控訴人Ｚ のパワハラ行為
に係る控訴人の主張を排斥した原判決の認定判断には誤りがある旨を主
張する。
しかしながら、控訴人において同年６月２５日の有給休暇を取得する
ための所定の申請手続を確実に履践したことを認めるに足りる的確な証
拠はないことに加え、被控訴人Ｚ が有給取得拒否の方針について告知
した同年７月７日以前に、プロアルバムグループにおいて、有休休暇取
-12-
得について被控訴人Ｚ が告知したような運用が周知されていたことを
裏付ける証拠は見出し難いことや、有給休暇の承認権者である部Ｊグ
ループ長代理においては、控訴人に対し、同年５月には定期健診の受診
については有給休暇を取得するよう促しており、また、同年６月には控
訴人からのシフト表の誤りを指摘する問合せに対して被控訴人Ｚ が告
知したような運用である旨の回答をしてはいないこと等の本件において
認められる事実関係に照らせば、被控訴人Ｚ が控訴人による同月２５
日の有給休暇取得の申請を殊更拒否したものとみることはできず、他
に、被控訴人Ｚ が控訴人の有給取得を妨害するような具体的指示を部
Ｊグループ長代理らに対して行うなどしたことも認められないことは、
前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の４(2)ア（２５頁
１４行目から２７頁７行目まで。当審における補正部分を含む。）に認
定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、いずれも上記認定説示
を左右するものではなく、採用することができない。
(ｲ) また、控訴人は、有給取得拒否の方針が数日中には撤回されたという
事後的事実をもって原判決が被控訴人Ｚ のパワハラ行為による被控訴
人会社の安全配慮義務違反を否定した原判決の判断は不当である旨をも
主張するが、同主張に理由がないことは、前記ア(ｲ)のおいて説示したと
おりである。
２ よって、原判決中、被控訴人らに係る部分は相当であって、本件控訴はいず
れも理由がなく、また、控訴人の当審における拡張請求もいずれも理由がない
から、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第２２民事部
-13-
裁判長裁判官 相澤哲
裁判官 本田哲哉
裁判官 宇田川公輔
-14-
これは正本である
令和４年１０月２６日
東京高等裁判所第２２民事部
裁判所書記官 本多千恵
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第二審判決（東京高等裁判所） 
令和４年１０月２６日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和４年（ネ）第■■■■号 損害賠償請求控訴事件（原審・東京地方裁判所令和
２年（ワ）第■■■■■号）
口頭弁論終結の日 令和４年９月１２日
判決
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
控訴人 控訴人
同訴訟代理人弁護士 ■■■■
高知市本町四丁目１番１６号
被控訴人 株式会社ラボ生産
（以下「被控訴人会社」という｡）
同代表者代表取締役 幹部Ｐ
埼玉県川口市領家４−４−２０ 株式会社ラボ生産川口センターラボ内
被控訴人 被控訴人Ｙ
（以下「被控訴人Ｙ」という｡）
同所
被控訴人 被控訴人Ｚ
（以下「被控訴人Ｚ」という｡）
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 ■■■■
同 ■■■■
主文
１ 本件控訴をいずれも棄却する。
２ 控訴人の当審における拡張請求をいずれも棄却する。
３ 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。
事実及び理由
第１ 控訴の趣旨
-1-
１ 原判決中、被控訴人らに係る部分を取り消す。
２ 被控訴人会社は、控訴人に対し、３３０万円及びこれに対する平成２８年９
月１９日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
３ 被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社は、控訴人に対し、連帯して１１４万９４０
６円及びこれに対する平成２９年８月１５日から支払済みまで年５分の割合に
よる金員を支払え。
４ 被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社は、控訴人に対し、連帯して１１０万２１２
３円及びこれに対する令和２年６月２５日から支払済みまで年３分の割合によ
る金員を支払え。
第２ 事案の概要（以下、略語は、特に定めない限り、原判決の表記に従う。）
１ 本件は、被控訴人会社の従業員である控訴人が、同じく被控訴人会社の従業
員である原審相被告被告Ｘ （以下「Ｘ 」という。）、被控訴人Ｙ 及び被
控訴人Ｚ からそれぞれパワーハラスメント（パワハラ）に当たる行為を受け
たとし、Ｘ 、被控訴人Ｙ 及び被控訴人Ｚ においてはいずれも控訴人に対
して不法行為による損害賠償義務を、被控訴人会社においては控訴人に対して
使用者責任又は安全配慮義務違反による損害賠償義務をそれぞれ負う旨主張し
て、�。悄，砲茲襯僖錺魯藕坩戮砲弔い討蓮■悄ゝ擇喩鏐義平猷饉劼紡个掘■�
３０万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日（Ｘ につき令和２年９月２６
日、被控訴人会社につき同月２９日）から支払済みまで民法（平成２９年法律
第４４号による改正前のもの）所定の年５分の割合による遅延霜害金の連帯支
払を、��被控訴人Ｙ によるパワハラ行為については、被控訴人Ｙ 及び被控
訴人会社に対し、１１４万９４０６円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
（被控訴人Ｙ につき同月２６日、被控訴人会社につき同月２９日）から支払
済みまで同割合による遅延損害金の連帯支払を、�Ｈ鏐義平唯據，砲茲襯僖錺�
ラ行為については、被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社に対し、１１０万２１２３
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日（被控訴人Ｚ につき同月２６日、被
-2-
控訴人会社につき同月２９日）から支払済みまで同割合による遅延損害金の連
帯支払をそれぞれ求めた事案である。
原審は、控訴人の上記各請求をいずれも棄却した。
これに対し、控訴人が、被控訴人らに対する各請求の棄却部分を不服として
控訴した。なお、控訴人は、当審において、上記� 銑�に係る各遅延損害金の
連帯支払請求を、いずれもその起算日を不法行為の日（上記�，砲弔い討亙神�
２８年９月１９日、上記�△砲弔い討亙神�２９年８月１５日、上記��について
は令和２年６月２５日）とするものに拡張し、上記��に係る遅延損害金の連帯
支払請求を、その割合を民法所定の年３パーセントとするものに減縮した。
２ 前提事実
原判決の「第２ 事案の概要等」の１記載のとおりであるから、これを引用
する。ただし、３頁１２行目の「勤務する被告会社の従業員」を「勤務してい
た被控訴人会社の元従業員」に、４頁１行目の「現時点での」を「本件訴訟の
提起時点におけるその」にそれぞれ改める。
３ 争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり原判決を補正し、当審における控訴人の主張の要旨を付加するほ
か、原判決の「第２ 事案の概要等」の２記載のとおりであるから、これを引
用する。
(1) 原判決の補正
ア ５頁５行目の「被告らの」を「Ｘ による」に、２０行目の「被告ら」
を「Ｘ 」に、２５行目の「言いがかりか」を「言いがかりではないか
と」にそれぞれ改め、６頁８行目の「原告は、」の次に「控訴人の」を加
える。
イ ６頁１３行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に、２１行目の「また
は」を「又は」にそれぞれ改め、７頁８行目の「しただけで」の次に「同
刻印刷書面に」を加える。
-3-
ウ ７頁２６行目の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社」に改め
る。
エ ８頁１２行目の「有給休暇」の次に「取得の申請書（甲５）」を加え、
２６行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に改める。
オ ９頁３行目の「被告ら」を「被控訴人Ｚ 及び被控訴人会社」に改め
る。
カ ９頁１８行目の「被告Ｘ らの不法行為責任及び」を「被控訴人Ｙ 及
び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に改め、２０行目の「いずれも」
の次に「控訴人に対する」を加え、２２行目の「または」を「又は」に改
める。
キ １１頁７行目の「もと」を「下」に改め、２１行目の「ので」の次に
「、部Ｊグループ長代理において」を加える。
ク １３頁１行目の「被告ら」を「被控訴人会社」に改める。
ケ １３頁１４行目及び２１行目の各「被告ら」をいずれも「被控訴人Ｙ
及び被控訴人会社」に、２１行目の「第１回」を「原審第１回」にそれぞ
れ改める。
コ １３頁２４行目の「被告ら」を「被控訴人ら」に改める。
(2) 当審における控訴人の主張の要旨
ア Ｘ のパワハラ行為の存否（争点１）について
Ｘ による、�（神�２７年１２月の夜間勤務を取りやめる旨の発言及び
「自分の胸に聞いてみろ。」との暴言行為、�∧神�２８年６月頃の「お前
なんかいつでも解雇できる。数箇月分余分に払えばいいんだから。」等の
暴言行為、�Ｊ神�２８年９月１９日頃の「そこまで言うなら、日勤にこ
い。」などと勤務時間の変更を求める行為等のパワハラ行為（不法行為）
-4-
について、消滅時効が成立したから被控訴人会社の使用者責任も認められ
ないとする原判決の判断は理由不備に当たるほか、被控訴人会社につき安
全配慮義務違反の責任も認められないとした原判決の認定判断は、Ｘ の
供述、Ｘ が発言する場にいた被控訴人Ｚ の供述及びパートＣの供述の
各信用性の吟味を怠り、これらを鵜呑みにしたもので、不当というべきで
ある。また、フォトアルバムグループの夜間勤務の取りやめについては、
その違法性の判断を留保した上、その方針が２日後には撤回されたという
事後的事情をもって被控訴人会社の安全配慮義務違反を否定した原判決の
判断も不当と言わざるを得ない。
したがって、原判決は取り消されるべきである。
イ 被控訴人Ｙ のパワハラ行為の存否（争点２）について
原判決は、被控訴人Ｙ のパワハラ行為について、客観的証拠がないな
どとして控訴人の主張を排斥したが、控訴人本人が一貫してその存在を供
述していること、被害直後に控訴人がその存在を電子メール（甲４）で報
告していること、その後、幹Ｓ統括部長及び部Ｈグループ長が控訴人との
面談の機会を設けていること、控訴人が有休休暇を取得してまで被控訴人
Ｙ との同時勤務を避けていること等を考慮すれば、上記パワハラ行為の
存在は明らかであり、これを否定した原判決の認定判断には誤りがある。
ウ 被控訴人Ｚ のパワハラ行為の存否（争点３）について
原判決は、控訴人の有給休暇取得に関して被控訴人Ｚ がしたパワハラ
行為について、�々義平佑�令和２年６月２５日の有給休暇を取得するため
の手続を履践したことを的確に認めるに足りる証拠はないこと、��控訴人
が有給休暇の申請をしたのは同年５月であり、被控訴人Ｚ の有給拒否の
告知が同年７月７日にされたということを理由に、控訴人の主張を排斥し
た。しかし、�，稜�定判断は経験則に反し、�△砲弔い討蓮�被控訴人Ｚ
ないし部Ｊグループ長代理が有給取得拒否の方針を決めたのは同年７月７
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日以前のことであって、そのことは、控訴人が控訴審で提出した証拠（甲
３０の２、３８の１・２）により他の従業員も有給休暇の申請を拒否され
ていた事実が認められることからも明らかであるから、原判決の認定判断
には誤りがある。また、有給取得拒否の方針が数日中には撤回されたとい
う事後的事情をもって被控訴人Ｚ のパワハラ行為による被控訴人会社の
安全配慮義務違反を否定したことも不当といわざるを得ないことは、Ｘ
のパワハラ行為の場合と同様であり、いずれにしても原判決は取り消され
るべきである。
第３ 当裁判所の判断
１ 当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する各請求については、当審における
拡張部分も含め、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとお
り補正し、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決の
「第３ 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正
ア １５頁６行目の「第２、１」を「第２の２(1)」に、７行目の「被告Ｘ
」から９行目の「である」までを「控訴人が主張するＸ のパワハラ行
為に係る控訴人の被控訴人会社に対する使用者責任による損害賠償請求権
については、仮に発生していたとしても、既に消滅時効が完成しているも
のと認められる」に、１０行目の「第１回」を「原審第１回」に、１２行
目の「に基づく被告Ｘ の不法行為責任及び」を「に係る」に、１３行目
の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人会社」に、１５行目の「第
２，２」を「第２の２(2)」に、２０行目の「被告ら」を「被控訴人Ｙ 及
び被控訴人会社」にそれぞれ改める。
イ １５頁２３行目の「不法行為責任ないし」を「被控訴人会社の」に改め
る。
ウ １６頁１行目の「原告」を「争点(1)の控訴人」に改め、２０行目の「前
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に」の次に「従業員からの」を加え、１７頁２５、２６行目の「、被告Ｘ
」から１８頁１行目の「なく」までを削り、７行目の「とる」を「一方
的に講じる」に、１２行目の「話」を「その計画」に、１９、２０行目の
「被告会社がこれについて特段の対応をしていないことをもって、」を
「その取りやめの告知がされたことに関して、直ちに被控訴人会社に」に
それぞれ改める。
エ １９頁３行目の「原告」を「争点(1)の控訴人」に、１０行目の「当裁判
所」を「原審」に、１４，１５行目の「をしても不合理ではないといっ
た」を「に及んだとしても不自然ではないとみられる」にそれぞれ改め、
２０行目の「、また」から２１行目の「ないから」までを削り、２５行目
の「すると」の次に「、上記主張に沿う控訴人の上記各供述等については
直ちに信用することができず、本件証拠上」を加える。
オ ２０頁３行目の「原告」を「争点(1)の控訴人］に、１１行目の「主張
し、証拠（甲３、弁論の全趣旨）」を主張するところ、証拠（甲３）及
び弁論の全趣旨」に、２３行目の「当裁判所」を「原審」にそれぞれ改
め、２１頁４行目の「すると」の次に「、上記主張に沿う控訴人の上記各
供述等については直ちに信用することができず、本件証拠上」を加える。
カ ２１頁８、９行目の「被告Ｘ らの不法行為責任及び」を「被控訴人Ｙ
及び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に、２５、２６行目の「う
え」を「上」にそれぞれ改め、２２頁１５行目の「直ちに」の次に「被控
訴人Ｙ において」を、２２行目の「そうすると」の次に「、上記主張に
沿う控訴人の上記陳述書及び供述については直ちに信用することができ
ず、本件証拠上」をそれぞれ加える。
キ ２２頁２６行目から２３頁１行目にかけての「被告Ｘ らの不法行為責
任及び」を「被控訴人Ｙ 及び被控訴人Ｚ の不法行為責任並びに」に、
８行目の「こと」を「旨」に、１４行目の「申し出を」を「申出を」にそ
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れぞれ改める。
ク ２６頁１行目冒頭から２７頁６行目末尾までを次のように改める。
「 しかしながら、前記(1)イのとおり、控訴人において、令和２年５月１４
日、同年６月２５日の有給休暇を取得するために休暇願いの書類（甲５）
を作成した事実は認められるものの、控訴人が当該書類を用いるなどして
上記の所定の申請手続を確実に履践したことを認めるに足りる的確な証拠
はない。
また、前記(1)ウのとおり、同年６月１０日更新のシフト表においては既
に控訴人の同月２５日の有給休暇の処理がされていなかった事実が認めら
れるところ、前記(1)エのとおり、控訴人が指摘する被控訴人Ｚ による有
給は基本的に認められず、私用の休みを取りたい場合は休業申請をするよ
う指示する旨の告知がされたのは同年７月７日付けのことであって、それ
以前にプロアルバムグループにおいて有給休暇取得について被控訴人Ｚ
が告知したような運用が周知されていたことを裏付ける証拠は見出し難
い。かえって、有給休暇の承認権者である部Ｊグループ長代理は、控訴人
に対し、前記(1)アのとおり、同年５月、定期健診の受診については有給休
暇を取得してもらえると助かる旨メールで伝えており、また、前記(1)ウの
とおり、同年６月、控訴人からシフト表の誤りを指摘する問い合わせに対し
ても被控訴人Ｚ が告知したような運用である旨の回答をしてはいないの
であって、これらの事実関係に照らせば、同月２５日に控訴人が休業扱い
とされたことについて、被控訴人Ｚ が控訴人の有給休暇取得の申請を殊
更拒否したものとみることはできず、他に、被控訴人Ｚ が控訴人の有給
休暇取得を妨害するような具体的指示を部Ｊグループ長代理らに対して行
うなどしたことを認めるに足りる証拠はない。」
ケ ２７頁１１行目の「主張し」を「主張するところ」に改める。
コ ２８頁１行目の末尾に改行の上、次を加える。
-8-
「５ 小括
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被
控訴人らに対する各請求はいずれも理由がない。」
(2) 当審における控訴人の主張について
ア Ｘ のパワハラ行為の存否（争点１）について
(ｱ) 控訴人は、Ｘ によるパワハラ行為（�（神�２７年１２月の夜間勤務
を取りやめる旨の発言及び「自分の胸に聞いてみろ。」との暴言行為、
�∧神�２８年６月頃の「お前なんかいつでも解雇できる。数箇月分余分
に払えばいいんだから。」等の暴言行為、�Ｊ神�２８年９月１９日頃の
「そこまで言うなら、日勤にこい。」と勤務時間の変更を控訴人に求め
た行為）について、行為の存否にかかわらず消滅時効が成立したから被
控訴人会社の使用者責任も認められないとした原判決の判断は理由不備
に当たるほか、上記パワハラ行為について原判決のした事実認定は、Ｘ
の供述、Ｘ が発言する場にいた被控訴人Ｚ の供述及びパートＣの
各供述の信用性の吟味を怠り、これらを鵜呑みにしたもので、不当であ
る旨主張する。
しかしながら、一般に、不法行為による損害賠償請求権の存否が問題
となる事案において、不法行為に該当する事案の存否の判断に先立って
当該損害賠償請求権に係る消滅時効の成否を判断することが判決の理由
不備に当たるものとはいえないところ、本件において控訴人が主張する
Ｘ のパワハラ行為については、控訴人の主張を前提とすれば、仮に当
該パワハラ行為に係る事実が現に存し、これに係る控訴人の被控訴人会
社に対する使用者責任による損害賠償請求権が発生していたとしても、
既に当該損害賠償請求権について消滅時効が完成しているものと認めら
れることは、前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の１
（１５頁５行目から１２行目まで。当審における補正部分を含む。）に
-9-
おいて説示したとおりであって、この点に関する控訴人の上記主張は、
上記説示に照らし、採用することができない。
また、上記�，療世砲弔い討蓮�控訴人が指摘するＸ の発言の適否は
ともかく、その発言が直ちに控訴人に対するパワハラ行為に該当するも
のとまではいえないこと、上記�△療世砲弔い討蓮�控訴人の供述中には
その主張に沿う部分が存するものの、その裏付けとなる客観的な証拠は
なく、Ｘ がそのような発言に及んだとしても不自然ではないとみられ
るような状況もうかがわれず、他方、控訴人が主張するＸ の発言につ
いては記憶がない旨を述べるＸ 及び被控訴人Ｙ の各供述の信用性を
疑わせるに足りる証拠も見当たらないことからして、上記主張に沿う控
訴人の上記供述部分については直ちに信用することができず、本件証拠
上、上記のＸ の発言があったものとは認められないこと、上記��の点
については、控訴人から依頼されたパＡが作成・送信したとされる電子
メールの内容（甲３）は必ずしも契約更新の拒絶や日勤への異動の指示
があったことを前提としたものではなく、それが直ちに控訴人の主張を
裏付けるものではなく、また、控訴人の供述中にはその主張に沿う部分
が存するものの、その裏付けとなる客観的な証拠はなく、他方、控訴人
が主張するＸ の発言については記憶がない旨を述べるＸ の供述の信
用性を疑わせるに足りる証拠も見当たらないことからして、上記主張に
沿う控訴人の上記供述部分については直ちに信用することができず、本
件証拠上、上記のＸ の発言があったものとは認められないことは、い
ずれも前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の２(1)から
(3)まで（１６頁１行目から２１頁７行目まで。当審における補正部分を
含む。）に認定説示したとおりであって、これらの点に関する控訴人の
上記主張は、いずれも上記認定説示を左右するものではなく、採用する
ことができない。
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(ｲ) 控訴人は、フォトアルバムグループの夜間勤務の取りやめについて、
その違法性の判断を留保した上、その方針が２日後には撤回されたとい
う事後的事情をもって被控訴人会社の安全配慮義務違反を否定した原判
決の判断は不当である旨主張する。
しかしながら、上記の夜間勤務の取りやめは、平成２７年１２月４日
の夜勤開始時に被控訴人Ｚ によってその予告がされ、同月５日の夜勤
開始時にＸ 自らが従業員に対して告げたものであるところ、これに対
して複数の従業員から夜間勤務の継続を求める要望が寄せられたため、
Ｘ において夜間勤務の各従業員と面談をした結果、当該夜勤の終了時
である同月６日朝にはその取りやめ自体が撤回され、その旨が従業員に
通知されたこと等の事実経緯に照らせば、その取りやめの告知がされた
ことに関して、直ちに被控訴人会社にパワハラを放置したなどの安全配
慮義務違反があったものとみることはできないことは、前記引用に係る
原判決の「第３ 争点に対する判断」の２(1)イ（１７頁１８行目から１
８頁２１行目まで。当審における補正部分を含む。）における認定説示
のとおりである。上記の事実経緯は、被控訴人会社において、事後的で
あるにせよ、従業員の意向に沿って職場を維持することに配慮している
ことをうかがわせるものであるということができ、控訴人の上記主張
は、上記認定説示を左右するものではなく、採用することができない。
イ 被控訴人Ｙ のパワハラ行為の存否（争点２）について
控訴人は、被控訴人Ｙ のパワハラ行為について、控訴人本人が一貫し
てその存在を供述していること、被害直後に控訴人がその存在を電子メー
ル（甲４）で報告していること、その後、幹Ｓ及び部Ｈが控訴人との面談
の機会を設けていること、控訴人が有給休暇を取得してまで被控訴人Ｙ
との同時勤務を避けていること等を考慮すれば、その存在は明らかであ
り、これを否定した原判決の認定判断には誤りがある旨主張する。
-11-
しかしながら、被控訴人Ｙ は控訴人が主張するパワハラ行為を否定す
る旨の供述（乙６の３、被控訴人Ｙ 本人）をしているところ、控訴人が
指摘する電子メール（甲４）については、該当電子メールが実際に送信さ
れたかどうか自体が明らかではなく、控訴人の主張を的確に認めるに足り
るものではないこと、他に該当行為の存在を裏付ける客観的な証拠もない
ことなどからして、上記主張に沿う控訴人の上記供述については直ちに信
用することができず、本件証拠上、控訴人が主張する被控訴人Ｙ のパワ
ハラ行為に係る事実自体を認めることができないことは、前記引用に係る
原判決の「第３ 争点に対する判断」の３（２１頁１１行目から２２頁２
５行目まで。当審における補正部分を含む。）に認定説示したとおりで
あって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らし、採用することがで
きない。
ウ 被控訴人Ｚ のパワハラ行為の存否（争点３）について
(ｱ) 控訴人は、控訴人の有給休暇取得に関して被控訴人Ｚ がしたパワハ
ラ行為について、�々義平佑�令和２年６月２５日の有給休暇を取得する
ための手続を履践したことを的確に認めるに足りる証拠はないとする原
判決の認定判断は経験則に反している旨、��被控訴人Ｚ ないし部Ｊグ
ループ長代理が有給取得拒否の方針を決めたのは同年７月７日以前のこ
とであるから（甲３０の２、３８の１・２）、被控訴人Ｚ の有給取得
拒否の告知が同日にされたことを理由に、被控訴人Ｚ のパワハラ行為
に係る控訴人の主張を排斥した原判決の認定判断には誤りがある旨を主
張する。
しかしながら、控訴人において同年６月２５日の有給休暇を取得する
ための所定の申請手続を確実に履践したことを認めるに足りる的確な証
拠はないことに加え、被控訴人Ｚ が有給取得拒否の方針について告知
した同年７月７日以前に、プロアルバムグループにおいて、有休休暇取
-12-
得について被控訴人Ｚ が告知したような運用が周知されていたことを
裏付ける証拠は見出し難いことや、有給休暇の承認権者である部Ｊグ
ループ長代理においては、控訴人に対し、同年５月には定期健診の受診
については有給休暇を取得するよう促しており、また、同年６月には控
訴人からのシフト表の誤りを指摘する問合せに対して被控訴人Ｚ が告
知したような運用である旨の回答をしてはいないこと等の本件において
認められる事実関係に照らせば、被控訴人Ｚ が控訴人による同月２５
日の有給休暇取得の申請を殊更拒否したものとみることはできず、他
に、被控訴人Ｚ が控訴人の有給取得を妨害するような具体的指示を部
Ｊグループ長代理らに対して行うなどしたことも認められないことは、
前記引用に係る原判決の「第３ 争点に対する判断」の４(2)ア（２５頁
１４行目から２７頁７行目まで。当審における補正部分を含む。）に認
定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、いずれも上記認定説示
を左右するものではなく、採用することができない。
(ｲ) また、控訴人は、有給取得拒否の方針が数日中には撤回されたという
事後的事実をもって原判決が被控訴人Ｚ のパワハラ行為による被控訴
人会社の安全配慮義務違反を否定した原判決の判断は不当である旨をも
主張するが、同主張に理由がないことは、前記ア(ｲ)のおいて説示したと
おりである。
２ よって、原判決中、被控訴人らに係る部分は相当であって、本件控訴はいず
れも理由がなく、また、控訴人の当審における拡張請求もいずれも理由がない
から、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第２２民事部
-13-
裁判長裁判官 相澤哲
裁判官 本田哲哉
裁判官 宇田川公輔
-14-
これは正本である
令和４年１０月２６日
東京高等裁判所第２２民事部
裁判所書記官 本多千恵
