第1準備書面

令和２年(ワ)第■■■■■号　損害賠償請求事件
原告　　■■■■
被告　　株式会社ラボ生産　外３名
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　令和３年１月１２日

　　　　　　　　　　　　第１準備書面

東京地方裁判所民事第４８部ろ係　御中

　　　　　　　　　　　　　被告ら訴訟代理人
　　　　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　■■■■

　　　　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　■■■■

第１　本準備書面について
　　本準備書面では、原告の準備書面(1)に対し、必要と認める範囲で反
　論しておく。なお、特に明記しない限り、略語は答弁書の例による。

第２　被告Ｘ　が原告にパワハラ行為をしたとはいえないこと
　１　最終的に被告会社が夜間勤務を中止するには至らなかったこと
　　(1)　被告会社は、夜間勤務に従事する従業員の勤務態度等が良好で
　　　はなく、その改善を図ったものの奏功しなかったため、やむを得
　　　ず夜間勤務を取り止めることとした。平成２７年１２月４日、被
　　　告Ｘ　は、その旨を出勤していた夜間勤務の従業員に告げた。す
　　　ると、複数の従業員から夜間勤務を続けたいという要望が寄せら
　　　れた。被告Ｘ　は、夜間勤務の各従業員と面談の上、夜間勤務を
　　　継続することとし、翌５日の夜間勤務を終了した後、夜間勤務の
　　　従業員に対し、そのことを知らせた。
　　　　無論、この間、被告Ｘ　から原告に対する暴言はなかったし、
　　　被告会社の業務に支障が生ずるような混乱も見られなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　-1-

　　(2)　このように被告会社及び被告Ｘ　は、一旦は夜間勤務を中止し
　　　ようとしたものの、従業員の意見を踏まえ、夜間勤務を継続した
　　　のであるから、むしろ従業員の意見を傾聴し、できる限り配慮し
　　　ていたというべきである。
２　パＡは原告に言われるがまま電子メール送信を認めたこと
　　(1)　被告Ｘ　への電子メール(甲３)が送信された経過については、
　　　次のとおりであった。
　　　パートＡは原告が述べるような体調不良等があるのかどうか、よ
　　　く知らなかった。それでも原告が自らの体調不良等を被告Ｘ　に
　　　伝えるように求めてきたことから、パＡはやむなく、原告の体調
　　　等を電子メールにて被告Ｘ　に伝えることを提案すると、原告は
　　　それを了承した。そこでパＡは、プロアルバムグループの共有パ
　　　ソコンを使って、自らを発信者とする電子メールを送信できる状
　　　態にしてから、文面を入力して被告Ｘ　に送信するよう原告に促
　　　し、自らの業務に戻った。
　　　　その後、原告は、電子メール（甲３）の文面をすべて入力して、
　　　それを被告Ｘ　に送信したようである。
　　　　したがって、パＡは、冒頭の４行（｢…以下、ご考慮お願い致し
　　　ます｡｣まで）の部分を含め、電子メール（甲３）の作成及び送信
　　　を直接行っていない。
　　(2)　また、パＡは、電子メール（甲３）を印刷していない。原告か
　　　ら、印刷済みの同メールを示され、｢送ったので確認して欲しい。
　　　記録として残したい｡｣と頼まれたことから、パＡは、その内容を
　　　一瞥しただけで、原告の求めに応じ、確認した日付等を記入した。
　　　　プロアルバムグループに所属するパートナー社員は、給与明細
　　　を印刷するために前記の共有パソコンを利用しているから、原告
　　　が上記電子メールを印刷したものと解される。
　　(3)　もしパＡが原告の主張するような事情を理解していたのであれ
　　　ば、前記(1)のような対応ではなく、直接被告Ｘ　にその事情を伝
　　　えたり、電子メールを書いて送っていたであろう。
３　小括

　　　　　　　　　　　　　　　-2-

　　　　よって、被告Ｘ　から原告に対するパワハラ行為があったとはい
　　　えない。

第３　被告Ｙ　が原告にパワハラ行為をしたともいえないこと
　１　原告に対する労災の認定等について
　　(1)　労災の認定結果は直接労働者に通知され、使用者には通知され
　　　ない（労働者災害補償保険法施行規則１９条１項)｡それゆえ、被
　　　告会社は、原告が労災給付を請求したことは知っていても、その
　　　結果がどうなったかどうか知らされていない。
　　(2)　また、パＡが、原告作成の原稿（甲４）のようなメールを送信
　　　したことはない。
　　　　どう現行の記載内容に信ぴょう性があるともいえず、作成時期等
　　　の裏付けもなく、その証拠価値は極めて乏しい。
　　(3)　原告は、平成２９年９月４日に有休を取得したが、その際、被
　　　告会社において、原告がガーゼを口に含んだ状態で面談したかど
　　　うか不明である。
　２　小括
　　　　よって、被告Ｙ　から原告に対するパワハラ行為もあったとはい
　　　えない。

第４　被告Ｚ　が原告によるパワハラ行為をしたともいえないこと
　１　被告会社（プロアルバムグループ）における有給休暇の取得手続
　　　被告会社の就業規則上、｢年次有給休暇を利用しようとするもの
　　は、所定の手続きにより前日までに上長に申し出なければならない｣
　　とされている（２９条５項）（乙１）。
　　　被告会社のプロアルバムグループでの「所定の手続き」は、夜間
　　勤務の従業員については、「休暇願い」（書式自体は甲第５号証に写
　　っているものである｡）を、同グループの社員Ｌ　　(以下｢社Ｌ｣と
　　いう｡)（夜間勤務担当であり、原則として午前６時に退勤）に提出
　　し、その後、社Ｌから部Ｊグループ長代理（有休の取得を承認する
　　権限を有する。原則として午前９時に出社）に休暇願いが申し送ら

　　　　　　　　　　　　　　　-3-

　　れ、同人の承認を受けることとなっている。
　　　部Ｊグループ長代理は、承認した休暇願いを、翌週月曜日には勤
　　怠管理システムに入力してから、月ごとにまとめてクリアファイル
　　に保管している。なお、部Ｊグループ長代理は、毎月１日には前月
　　の勤怠を念のために確認してから、確定している。
　２　原告から休暇願いが提出されなかったこと
　　しかしながら、社Ｌにも部Ｊグループ長代理にも、令和元年５月
　　１４日頃、原告から休暇願い（甲第５号証に写っているもの）を受
　　け取ったという記憶がない。上記１で述べた部Ｊグループ長代理の
　　クリアファイルにも、原告が作成したという上記休暇願いは保管さ
　　れていなかった。
　　　したがって、被告会社は、上記休暇願いを受理していないから、
　　被告Ｚ　は、原告が有休を取得するのを妨げようがない。意図的に
　　か、失念していたのか不明であるが、原告は、上記休暇願いを被告
　　会社に提出しなかったものと見られる。
　３　被告Ｚ　の認識が影響を及ぼしたとはいえない上、すぐに改めら
　　れたこと
　　　まず、部Ｊグループ長代理は、被告Ｚ　から、原告による休暇願
　　い（有休取得）を承認しないように指示されたことはなく、被告Ｚ
　　の認識如何によって、原告が有休を取得できなかったのではない。
　　　そして、被告Ｚ　は、有休取得に関する自己の認識をすぐに改め
　　たことは答弁書（４頁）にて述べたとおりである。被告Ｚ　は、正
　　社員に対しては、認識を改めたことを電子メール（乙１）にて知ら
　　せた。それとともに、パートナー社員（原告を含め、被告Ｚ　から
　　の電子メールを受信する環境にない者）に対しては、令和元年７月
　　１３日、夜間勤務の勤務開始時のミーティング(便宜上、これを｢朝
　　礼」と呼んでいる｡)にて、上記電子メールの文面を読み上げ、夜間
　　勤務に従事する従業員（正社員及びパートナー社員の双方）に謝罪
　　及び説明をした。同日、原告は出勤しており、被告Ｚ　の上記説明
　　等を聞いていた。被告Ｚ　は、上記説明等の後、｢何か質問がありま
　　すか？」と問いかけたが、従業員からの質問はなく、理解を示して

　　　　　　　　　　　　　　　-4-

　　いた。
　　　なお、昼間勤務に従事する従業員に対しては、被告Ｚ　は、翌１
　　４日の朝礼時に、夜間勤務の朝礼と同じ謝罪及び説明を行った。
　４　小括
　　　よって、被告Ｚ　が原告による有休取得を妨げたともいえない。

第５　被告会社が使用者責任を負ったり、安全配慮義務に反したとはい
　　えないこと
　１　原告の請求は前提を欠くこと
　　　前述のとおり、被告Ｘ　、被告Ｙ　及び被告Ｚ　が原告に対する
　　パワハラ行為をしたとはいえない以上、被告会社が、存在してもい
　　ないパワハラ行為を放置することはあり得ない。
　　　加えて、被告会社を含むキタムラ・グループには、従業員からの
　　相談を受ける窓口であるコンプライアンス・ホットラインも設けら
　　れており、真にパワハラ行為があればしかるべき対応をする体制が
　　あったから、被告会社が何らかの安全配慮義務違反を負うこともな
　　い。
　２　コンプライアンス・ホットラインが周知されていたこと
　　(1)　被告会社を含むキタムラ・グループにコンプライアンス・ホッ
　　　トラインが設けられていることは、答弁書（５頁）にて述べたと
　　　おりである。同グループの事業計画書は毎年改訂されており、各
　　　年の事業計画書にコンプライアンス・ホットラインについて記載
　　　されている（乙２)｡ただし、事業計画書そのものは社外秘とされ
　　　ており、正社員のほか、一定の職位以上のパートナー社員にのみ
　　　配布され、原告には配布されていない。
　　　　もっとも、コンプライアンス・ホットラインの存在については、
　　　社内報等を通じて、従業員に周知されていた。例えば、キタムラ・
　　　グループでは、｢きずな｣という社内報が発行されており、その平
　　　成２９年（２０１７年）２月号では、「グループ会社には｢コンプ
　　　ライアンス・ホットライン」があります」などと事業計画書を抜
　　　粋した告知が掲載されている（乙３［４枚目］）。

　　　　　　　　　　　　　　　-5-

　　　　被告会社のプロアルバムグループでは、従業員が勤怠を打刻す
　　　るためのパソコン付近に上記「きずな」が置かれており、原告は
　　　もちろん、従業員であれば、誰でも閲覧し、持ち帰ることが許容
　　　されていた。
　(2)　原告の主張するようなパワハラ行為が認められない以上、被告
　　　会社が被告Ｘ　、被告Ｙ　及び被告Ｚ　に対する解雇や懲戒処分
　　　（言うまでもなく、必ずしも被告会社が解雇等を行うことを義務
　　　付けられているわけでもない｡)をしないのも至極当然である（労
　　　契法１５条、１６条参照）。
　３　被告Ｚ　は直ちに対処したこと
　　　前記第４にて述べたとおり、被告Ｚ　が有休取得に関する認識を
　　改め、その旨社内に周知したのは、被告会社の指導が行き届いてい
　　た証左である。
　４　小括
　　　したがって、被告会社が使用者責任や安全配慮義務違反による損
　　　害賠償責任を負うこともない。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上

　　　　　　　　　　　　　　　-6-