第一審判決

第一審判決（東京地方裁判所）

令和４年４月２７日判決言渡　同日原本領収　裁判所書記官
令和２年（ワ）第■■■■■号　損害賠償請求事件
口頭弁論終結日　令和４年２月９日
　　　　　　　　　　　　　　　　　判決
　　　　■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
　　　　　　原告　　　　　　　　　　　　　　　　原告
　　　　　　同訴訟代理人弁護士　　　　　　　　　■■■■
　　　　高知市本町４－１－１６
　　　　　　被告　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社ラボ生産
　　　　　　同代表者代表取締役　　　　　　　　　幹部Ｐ
　　　　埼玉県川口市領家４－４－２０　株式会社ラボ生産川口センターラボ内
　　　　　　被告　　　　　　　　　　　　　　　　被告Ｘ
　　　　埼玉県川口市領家４－４－２０　株式会社ラボ生産川口センターラボ内
　　　　　　被告　　　　　　　　　　　　　　　　被告Ｙ
　　　　埼玉県川口市領家４－４－２０　株式会社ラボ生産川口センターラボ内
　　　　　　被告　　　　　　　　　　　　　　　　被告Ｚ
　　　　　　上記４名訴訟代理人弁護士　　　　　　■■■■■
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　■■■■■
　　　　　　　　　　　　　　　　　主文
　１　原告の請求をいずれも棄却する。
　２　訴訟費用は原告の負担とする。
　　　　　　　　　　　　　　　事実及び理由
第１　請求
　１　被告Ｘ　　　及び被告株式会社ラボ生産は、原告に対し、連帯して３３０万円
　　及びこれに対する被告Ｘ　　　については令和２年９月２６日から、被告株式会
　　社ラボ生産については同月２９日から、各支払済みまで年５％の割合による金員

　　　　　　　　　　　　　　　-1-

　　を支払え。
　２　被告Ｙ　　　及び被告株式会社ラボ生産は、原告に対し、連帯して１１４万９
　　４０６円及びこれに対する被告Ｙ　　　については令和２年９月２６日から、被
　　告株式会社ラボ生産については同月２９日から、各支払済みまで年５％の割合に
　　よる金員を支払え。
　３　被告Ｚ　　　及び被告株式会社ラボ生産は、原告に対し、連帯して１１０万２
　　１２３円及びこれに対する被告Ｚ　　　については令和２年９月２６日から、被
　　告株式会社ラボ生産については同月２９日から、各支払済みまで年５％の割合に
　　よる金員を支払え。
第２　事案の概要等
　　　本件は、原告が、被告株式会社ラボ生産（以下「被告会社」という｡）の従業員
　　である被告Ｘ　　　（以下「被告Ｘ　」という｡)、被告Ｙ　　　（以下「被告Ｙ
　　　」という｡）及び被告Ｚ　　　（以下「被告Ｚ　」といい、被告Ｘ　、被告Ｙ　
　　と併せて「被告Ｘ　ら」という｡）からパワーハラスメント（以下「パワハラ」と
　　いう｡）にあたる行為を受けたと主張して、被告Ｘ　らに対する不法行為責任、被
　　告会社に対する使用者責任又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償として、被告
　　Ｘ　関係では被告Ｘ　及び被告会社に対し３３０万円及びこれに対する訴状送達
　　の日の翌日である（以下、本項において同じ）被告Ｘ　につき令和２年９月２６
　　日、被告会社につき同月２９日から支払済みまで平成２９年法律第４４号による
　　改正前の民法（以下「旧民法」という｡)所定の年５％の割合による遅延損害金の
　　支払を、被告Ｘ　関係では被告Ｘ　及び被告会社に対し１１４万９４０６円及び
　　これに対する被告Ｘ　につき令和２年９月２６日、被告会社につき同月２９日か
　　ら支払済みまで旧民法所定の年５％の割合による遅延損害金の支払を、被告Ｚ　
　　関係では被告Ｚ　及び被告会社に対し１１０万２１２３円及びこれに対する被告
　　Ｚ　につき令和２年９月２６日、被告会社につき同月２９日から支払済みまで旧
　　民法所定の年５％の割合による遅延損害金の支払を､それぞれ求める事案である。

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　　　なお､原告は､令和３年１月１４日付け準備書面（２）の第１の２項において、
　　被告らに対する請求金額や遅延損害金の利率について上記とは異なるようにも解
　　される記載をしているが、訴えの変更の手続が取られていないことなどに鑑み、
　　上記のとおり整理した。
　１　前提事実（争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実）
　　(1）被告会社は、デザインアルバムの出力等を業とする株式会社であり、埼玉県
　　　川口市領家４－４－２０所在の川口センターラボほか２箇所の事業所（現像所）
　　　を有している。
　　(2）被告Ｘ　は、川口センターラボに勤務する被告会社の従業員であり、平成２
　　　６年２月１日からフォトアルバムグループのグループ長を務め、平成２９年４
　　　月１日、商品サービス企画グループに異動した。（弁論の全趣旨）
　　(3）被告Ｙ　は、川口センターラボに勤務する被告会社の従業員であり、平成２
　　　９年３月３１日まではフォトアルバムグループに、同年４月１日からはプロア
　　　ルバムグループに所属していた。なお、被告会社では、平成２９年４月１日､
　　　フォトアルバムグループを、アマアルバムグループ（当初のグループ長は幹部
　　　Ｓ　（以下「幹Ｓ」という｡)）とプロアルバムグループ（当初のグループ長は
　　　部長Ｈ　　（以下「部Ｈ」という｡)）に分割した。（弁論の全趣旨）
　　(4）被告Ｚ　は、川口センターラボに勤務する被告会社の従業員であり、平成３
　　　０年２月１日からアマアルバムグループのグループ長を務め、令和２年４月１
　　　日から令和３年３月３１日までプロアルバムグループのグループ長も兼任し
　　　た。（乙６の２、弁論の全趣旨）
　　(5）原告は、被告会社との間で、平成２２年１０月１日を始期とする６箇月間の
　　　有期雇用契約を締結し、その後更新を繰り返した上、現在は期限の定めのない
　　　雇用契約を締結している。原告は、勤務地域、勤務期間及び勤務曜日を限定さ
　　　れたパートナー社員であり、１日８時間、週５日勤務のフルタイム就業である
　　　が、賃金体系は時給計算で、毎月末締め翌月１５日支払とする月給制であり、

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　　　賞与､退職金の支給はない｡現時点での雇用契約の内容は以下のとおりである。
　　　　就業場所　　　川口センターラボ近接の建物２階のサテライトと称する作
　　　　　　　　　　　業所
　　　　作業内容　　　プロアルバムグループにおける写真アルバムの制作
　　　　所定勤務時間　月曜から金曜まで（祝日含む）の週５日
　　　　　　　　　　　午後９時から午前６時まで（休憩　合計６０分）
　　　　賃金　　　　　１００５円
　　(6）原告は、平成２７年７月２４日に発症した頚椎椎間板ヘルニアにより、平成
　　　２８年３月２５日、労災保険支給決定を受けた｡（甲３１、３２の１ないし６、
　　　３３の１・２）
　　(7）原告は、令和２年９月５日、本件訴訟を提起した。（顕著な事実）
　２　争点
　　(1）被告Ｘ　のパワハラ行為の存否
　　（原告の主張）
　　　ア　被告Ｘ　は、平成２７年１２月４日の夜勤開始時のミーティング（朝礼）
　　　　の際、プロアルバムグループの正社員を通じ、同グループの従業員に対し、
　　　　権限なく、また何の説明もしないまま、独断で、夜間勤務を中止する旨発言
　　　　したが、職場が混乱したことから、同月６日朝にこの発言を撤回した。
　　　　　原告は、同月７日、被告Ｘ　に夜間勤務を中止にする理由を問いただした
　　　　ところ、被告Ｘ　から「自分の胸に聞いてみろ｡」と暴言を吐かれた｡原告に
　　　　は責任を問われるような心当たりはなく、以後、被告Ｘ　から中止理由を説
　　　　明されることはなかった。
　　　　　原告の雇用契約は夜間勤務である上、被告Ｘ　には勤務時間等の雇用契約
　　　　の内容を変更する権限はなかったから、被告Ｘ　のこれらの言動はパワハラ
　　　　に該当する。
　　　　　仮に、夜勤廃止が被告会社の方針であったとしても、夜勤従業員は、夜間

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　　　　勤務を労働条件として雇用契約を締結して労務に従事していたから、突然、
　　　　被告会社の一方的判断で労働者の同意なく雇用契約の内容を変更すること
　　　　は違法である。仮に、一方的な勤務時間の変更が認められる余地があるとし
　　　　ても、合理的理由がなく、手続上も説明がなく、協議・合意を求める努力も
　　　　なく行われた被告らの通告は、権利の濫用として無効で､パワハラにあたる。
　　　イ　原告は、平成２６年１０月頃、夜勤担当社員であった被告Ｙ　に対し、平
　　　　成３０年に無期転換を目指すため、雇止めにされないよう、夜勤の仕事も日
　　　　勤の仕事も一通り覚えて何でもこなせる人材になり会社に貢献する、解雇、
　　　　雇止め、日勤異動等により不利益や減収のないように進めるよう要求する旨
　　　　を宣言していた。しかし、前記アの出来事があったことから、原告は、上記
　　　　要望（宣言）が被告Ｙ　から被告Ｘ　や幹Ｓグループ長に伝わってないので
　　　　はないかと感じ、平成２８年６月頃、被告Ｘ　に対し、上記宣言を知ってい
　　　　るかを尋ねた。すると、被告Ｘ　は､「お前なんかいつでも解雇できる。数
　　　　箇月分余分に払えばいいんだから｡｣､｢訴訟を起こすなら起こせ。こっちはい
　　　　つでも勝ってるんだ｡｣､「何かしてもらえると思うなよ｡」と暴言を吐いた。
　　　　更に、原告の評価についてのやり取りをする中で、原告は、被告Ｘ　から、
　　　　「時給を上げる義務はない。しかし、作業量は年々上がって当然だ｡｣､「仕
　　　　事が遅い｡｣､｢時給を下げてやる｡埼玉県の最低賃金の時給まで下げてやる｡」
　　　　などと暴言を吐かれた。当時、被告会社に原告を解雇し得るやむをえない事
　　　　由はなく､また､被告らに一方的に原告の賃金を引き下げる権限はなかった。
　　　　さらに、前記アの「自分の胸に聞いてみろ｡」とはどういう意味か改めて尋
　　　　ねたところ､被告Ｘ　から｢お前がしゃべってばかりで仕事をしないからだ｡｣
　　　　と言われた。原告は、そもそもおしゃべりや雑談は苦手である旨を伝え、原
　　　　告がいつどこで誰としゃべっていた時のことを言っているのか問いただす
　　　　と、被告Ｘ　は無言で答えず、原告が言いがかりか問うと、被告Ｘ　は「そ
　　　　うだ｡」と答えた。

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　　　　　被告Ｘ　の一連の暴言は、その地位を利用して原告の雇用契約の内容を一
　　　　方的に変更改変しようとする違法なものである。
　　　ウ　原告は、平成２８年９月１９日頃、被告Ｘ　から､「次の契約だが、君は仕
　　　　事の能力が低いので、このままなら更新はない｡」と告知された。これに対
　　　　し、原告は、原告なりに平成２７年７月に発症した労災による受傷の影響を
　　　　有する中で日々懸命に仕事し努力している旨説明すると､「そこまで言うな
　　　　ら、日勤にこい｡」と勤務時間の変更を求められた。しかし、被告Ｘ　に原告
　　　　の勤務時間の変更を命ずる権限はなかった。原告は、上司であるパートリー
　　　　ダーのパートＡ（以下「パＡ」という｡）から被告Ｘ　宛に、原告がヘルニ
　　　　ア持ちのため無理な姿勢の作業が困難であることなどを説明して配慮方申
　　　　し入れる電子メール（甲３）を送ってもらった。その後、被告Ｘ　は、原告
　　　　に対する異動要請を撤回した。
　　（被告らの主張）
　　　ア　原告が主張する被告Ｘ　のパワハラ行為なるものはいずれも存在しない。
　　　イ　原告の主張アの夜勤の件については、被告会社として、夜勤の従業員の勤
　　　　務態度等が良好ではなく、その改善を図ったものの奏功しなかったので、会
　　　　社の判断として、やむを得ず夜間勤務を取り止めることとした。しかし、続
　　　　けたいという要望が寄せられたので、被告Ｘ　は、夜間勤務の各従業員と面
　　　　談の上､夜間勤務を継続することとし､平成２７年１２月５日の夜勤終了（同
　　　　月６日朝）後、夜勤を継続する旨を伝えたものである。なお、被告会社と原
　　　　告との間では、「業務の都合により勤務時間を変更または短縮、延長するこ
　　　　とがある」ことが雇用契約の内容となっているから、被告会社の判断により
　　　　夜勤を中止する変更をすることも認められ、上記のとおりその理由もある。
　　　ウ　原告の主張ウのパＡからの電子メールについては、被告Ｘ　は、パＡから
　　　　何の脈絡もなく原告の言い分が記載されたメールが送られてきたことから、
　　　　パＡに確認したところ、パＡは、原告がとにかくメールしてほしいとの一点

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　　　　張りだったので、やむなく言われるままに送信したと述べた。パＡは、原告
　　　　が述べるような体調不良等があるのかよく知らなかったが、原告が自らの体
　　　　調不良等を被告Ｘ　に伝えるよう求めてきたので、やむなく、共有パソコン
　　　　を利用し、パＡを発信者とする電子メールを送信できる状態にしてから文面
　　　　を入力して被告Ｘ　に送信するよう原告に促し､自らの業務に戻ったところ、
　　　　おそらく、原告が電子メール（甲３）を作って送ったようである。また、パ
　　　　Ａは、印刷した当該メールを示されて、送ったので確認してほしい、記録と
　　　　して残したい、と言われたので、一瞥しただけでサインした。
　　(2）被告Ｙ　のパワハラ行為の存否
　　（原告の主張）
　　　　　原告は､平成２９年８月１５日、発送商品(アルバム)の梱包作業に従事中、
　　　　労働災害に認定された頚椎椎間板ヘルニアによる肩及び四肢の痛みとしびれ
　　　　の症状が再燃したため､被告Ｙ　に作業の中断を報告して､他の作業に従事し
　　　　ていた。作業が終了して片付け仕事をしていた際､原告は､被告Ｙ　から､｢な
　　　　ぜ作業を中断したのか｡｣と注意された｡原告は､労災による受傷箇所に症状が
　　　　生じて手足が痛みしびれる旨説明したが､被告Ｙから､「指示に従いなさい、
　　　　労災が再発して悪化しても構いません｡｣､「指示に従うことが重要だ｡会社の
　　　　責任になっても構わない｣｡｢訴訟を起こしても構いませんよ｡｣などと､構わず
　　　　作業を続けるよう言われ、作業を中断したことを非難された。
　　　　　原告は､被告Ｙ　の言いがかりともいえる理不尽な要求ないし暴言に精神的
　　　　に衝撃を受け､被告会社にパＡを通じて苦情を申し入れるとともに､被告Ｙ　
　　　　と同時に作業する危険を感じて極力同時勤務を避けるため､原告の休日である
　　　　土日と被告Ｙ　の休日（木･金）を除く平成２９年８月２１日から同月２３日
　　　　まで､同月２８日から同月３０日まで及び同年９月４日の７日間に有給休暇を
　　　　取得せざるを得なかった。
　　　（被告らの主張）

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　　　　　被告会社は原告が労災給付を申請したことは知っているが､結果は知らない
　　　　（労災の認定結果は、使用者には通知されない｡)｡被告Ｙ　は原告が主張する
　　　　言動に思い当たることがない｡むしろ、原告は、被告Ｙ　と話すときには興奮
　　　　した様子で大声をあげ､内容がはっきりと聞き取れないことがしばしばあった
　　　　ことから､被告Ｙ　は一方的に怒鳴られ、恐怖を感じていた。パＡが原告の主
　　　　張する苦情を被告会社に伝えたこともない。
　　　(3）被告Ｚ　のパワハラ行為の有無
　　　（原告の主張）
　　　　　原告は、令和２年５月１４日､所属するプロアルバムグループ長代理である
　　　　部長Ｊ　（以下｢部Ｊグループ長代理｣という｡）の了承を得て、同年６月２５
　　　　日に予定されていた原告の腎疾患の経過観察のための定期検査受診のために
　　　　有給休暇を上司である社員Ｌ　(以下｢社Ｌ｣という｡）に提出して申請した。
　　　　　ところが､同年６月１９日､被告会社のシフト表において原告が同月２５日
　　　　に出勤となっていたので、原告は部Ｊグループ長代理に問い合わせたが返事が
　　　　なかった。そのため、原告は、予定どおり同日に有給休暇を取得した。
　　　　　同年７月８日、プロアルバムグループ作業所内に設置された連絡掲示板（ホ
　　　　ワイトボード）にグループ長である被告Ｚ　名義で「有給休暇は売上が正常化
　　　　しない限り認めない｡｣、｢有給は使用しない運用とする」などと記載した指示
　　　　事項が掲示された。原告は、同月１５日に６月分の給与明細を受領したが、同
　　　　月２５日について有給休暇を取得した扱いになっておらず「休業」扱いとされ
　　　　ていた。
　　　　　被告Ｚ　が、①原告の有給休暇の請求を拒否する権限も、拒否する法律上の
　　　　理由もないのに、原告の有給休暇の請求を拒否したこと、②令和２年７月８日
　　　　に、上記のとおり「有給休暇は売上が正常化しない限り認めない｣､「有給は使
　　　　用しない運用とする」などと所属従業員に通告したことはパワハラである。
　　　　　なお、被告らは時季変更権に言及するが、本件において被告会社は時季変更

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　　　　権を行使していない。また、コロナ過で社員の多くは自宅待機であったから
　　　　代替要員は十分いたのであり、時季変更権の要件は満たしてない。
　　　（被告らの主張）
　　　　　原告が､令和２年６月２５日に欠勤したこと､同年７月８日に連絡掲示板に
　　　　原告主張の掲示がされたこと､原告の同年６月分の給与明細の記載内容は認め、
　　　　原告が同月２５日の有給休暇取得を申請したことは否認し、その余は不知。被
　　　　告会社は、原告からの有給休暇申請を受理していないし、仮に受理したとして
　　　　も時季変更権があるから、原告が希望する日に有給を取得することができない
　　　　ことが必ずしも違法となるわけではない。加えて、令和２年７月１４日、被告
　　　　Ｚ　は有給休暇取得に関する自らの認識に誤りがあったことを謝罪した上、有
　　　　給休暇の取得については所定の手続きにより前日までの上長に申し出ればよい
　　　　こと、生産の状況等によって有給休暇の取得を変更するように調整することが
　　　　あることなどを改めて社内向けにメールするとともに、昼及び夜間の始業時の
　　　　ミーティングにおいて口頭で同趣旨を説明した。
　　　　　原告の休暇の承認は部Ｊグループ長代理が行うが、同人は被告Ｚ　から原告
　　　　による休暇願を承認しないよう指示されたことはなく、被告Ｚ　が原告による
　　　　有給の取得を妨げた事実はない。
　　　(4）被告Ｘ　らの不法行為責任及び被告会社の使用者責任の成否
　　　（原告の主張）
　　　　　被告会社は、その事業のために、被告Ｘ　、被告Ｙ　及び被告Ｚ　を使用す
　　　　る使用者であり、同被告らは被告会社の業務に関して故意または過失によりパ
　　　　ワハラ行為に及んだものである。したがって、被告会社は使用者責任を負う。
　　　（被告らの主張）
　　　　　争う。被告Ｘ　らのパワハラ行為なるものが存在しない以上、不法行為責任
　　　　も使用者責任も成立しない。

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　　　(5）被告会社の安全配慮義務違反の成否
　　　（原告の主張）
　　　　ア　被告Ｙ　のパワハラ行為に係る事前対応の安全配慮義務違反
　　　　　　被告会社は、原告が頚椎椎間板ヘルニアにつき労災認定を受けている事実
　　　　　を知っていたのであるから、原告の可能な作業内容を確認し、また、原告の
　　　　　上司に原告の労災認定事実を周知させて適切な業務分担を講じて、もって原
　　　　　告が安全かつ持続的に被告会社の業務に従事できるよう配慮すべきだった。
　　　　　　ところが、被告会社の上記指導が不十分であったため、被告Ｙ　によるパ
　　　　　ワハラ行為が発生した。
　　　　イ　被告Ｘ　のパワハラ行為に対する事後対応の安全配慮義務違反
　　　　　　被告Ｘ　のパワハラ行為は、朝礼や職場での発言であって、被告Ｙ　やパ
　　　　　ート職員ら同僚部下が同席して聞いており、被告会社のコンプライアンス担
　　　　　当者がこれを知り得て被告Ｘ　を指導教育改善することが可能であった。
　　　　　　また、幹Ｓ統括部長及び部Ｈプロアルバムグループ長は、平成２９年８月
　　　　　１８日の面談時には、原告から被告Ｘ　のパワハラ行為を聞かされて知って
　　　　　いた。ところが、幹Ｓらは、それらは被告Ｘ　の個人的発言で被告会社の意
　　　　　見ではないなどとして、被告Ｘ　のパワハラ行為を不問にしてコンプライア
　　　　　ンス担当部署に取り次ぐこともなく、また、原告にそのような部署の存在等
　　　　　の情報を提供することもなく、被告会社において上記パワハラ問題の事実関
　　　　　係を調査し、改善策等を検討することもなかった。これは安全配慮義務違反
　　　　　に該当する行為である。
　　　　ウ　被告Ｙ　のパワハラ行為に対する事後対応の安全配慮義務違反
　　　　　　被告Ｙ　の行為は、就業場所における朝礼ないし作業中のパワハラ行為で
　　　　　あり、他の従業員の知り得る場所での行為であった。また、平成２９年８月
　　　　　１８日、原告が被告Ｙ　の発言に対してパＡを通じてクレームを申し入れた
　　　　　ことを受けて、被告会社の幹Ｓ統括部長、部Ｈプロアルバムグループ長と原

　　　　　　　　　　　　　　　-10-

　　　　　告との面談（第１回）が行われた。この際、原告は、被告Ｙ　の不当な作業
　　　　　指示や暴言を指摘して、被告Ｙ　とともに作業することの原告の身体に及ぼ
　　　　　す危険性を訴えるとともに、被告Ｙ　との同席を避けるため、有給休暇を請
　　　　　求し次回面談日まで仕事を休んだ。このときまで、幹Ｓ統括部長や部Ｈプロ
　　　　　アルバムグループ長は、事実を把握していなかった。
　　　　　　同年９月４日に行われた面談（第２回）において、幹Ｓ統括部長の同席の
　　　　　もと、部Ｈプロアルバムグループ長から、被告Ｙ　に確認したが、発言を否
　　　　　定している、発言したとすればストレスによるものではないかと説明があっ
　　　　　た上で、同一場所で作業する以上、原告の方が妥協して歩み寄るしかないの
　　　　　ではないか、それが嫌なら､原告が日勤に変更するかという選択を迫られ(い
　　　　　ずれも賃金減収となる｡)、それもいやなら、アマグループに異動勤務するか
　　　　　などと打診をされた。原告はこれに同意しなかったため、現状どおりの勤務
　　　　　体制で仕事を続けることになった。また、幹Ｓらは事実関係はこれ以上調査
　　　　　しないと告げた。このような対応は安全配慮義務違反に該当する。
　　　　エ　被告Ｚ　のパワハラ行為に対する事後対応の安全配慮義務違反
　　　　　　原告が令和２年６月２５日の有給休暇を請求した同年５月中旬頃は、新型
　　　　　コロナウイルス問題で従業員の出勤を抑制していた時期であったため、あら
　　　　　かじめ部Ｊグループ長代理の了解を受けて請求したが、被告Ｚ　は、有給休
　　　　　暇の取得を制限する違法な指示を強行し、原告の有給休暇の請求を認めず、
　　　　　休業扱いとした。シフト表は、被告Ｚ　の部下である部Ｊグループ長代理が
　　　　　作成するので、有給休暇取得は認めないとする被告Ｚ　の指示を受けて原告
　　　　　の有給休暇の行使を拒否する取扱いをしたと思われる。被告Ｚ　の有給休暇
　　　　　取得の拒否ないし妨害は社内掲示板に明示して原告を含む従業員全員に向
　　　　　けて発した違法なものであり、被告会社上層部の判断に従ってされたものと
　　　　　考えられる。その後、従業員から異論を受けて、同月１３日に被告Ｚ　はこ
　　　　　れを撤回した。被告Ｚ　は、掲示板に、有給休暇問題は従業員と共有したと

　　　　　　　　　　　　　　　-11-

　　　　　して、あたかも従業員に了解事項であることを掲載しているが、それまで被
　　　　　告Ｚ　から原告ら従業員に何ら説明がなく、有給休暇の取得によりあたかも
　　　　　被告会社が存続し得なくなるかのごとき被告Ｚ　の説明文言をもって従業
　　　　　員の有給休暇の行使を抑制しようとする明らかな違法行為を明言している
　　　　　のに、被告会社は、現場責任者による有給休暇請求の拒否という違法行為を
　　　　　是正せず容認した。
　　　　オ　被告会社は、このように被告Ｘ　らのパワハラ行為を放置しており、パワ
　　　　　ハラ防止のための教育や研修を実施したり、社内規定を整備して相談窓口を
　　　　　設置したり、パワハラ等の対応マニュアル等を作成したりすることはなかっ
　　　　　た。また、被告会社は、パワハラ被害の申告を受けた場合、自らあるいは第
　　　　　三者による調査機関を設置して厳格な事実調査を実施し、その再発防止策を
　　　　　定めるという対応をしていない。被告会社は、事実を確認した場合、被害者
　　　　　に謝罪させ、加害労働者を異動させる等の適切な人事措置を定めるなど上記
　　　　　パワハラ防止のガイドラインや規則の制定を怠った。
　　　　　　被告会社の就業規則上、パワハラ行為等があったときは解雇する旨を定め
　　　　　ているようであるが、原告から被告Ｙ　のパワハラ行為の指摘を受けても被
　　　　　告会社は十分な調査をせず、本件訴訟でも否認するだけで調査を尽くして事
　　　　　実の存否を確定してパワハラ行為者の解雇処分を決定する様子はない。また、
　　　　　コンプライアンス・ホットラインの存在が周知されていることはない。
　　　　　　被告会社は、パワハラ行為がないよう従業員に対する教育指導を徹底し予
　　　　　防に努め、被害が生じた場合は直ちに事実関係を調査して事実であれば処分
　　　　　や再発防止策を講じ、もって職場環境に配慮すべきであった。そして、被告
　　　　　会社はパワハラ行為の事実を知り得たのに、事実関係を調査確認して是正な
　　　　　いし改善を図る措置を講じなかった。そのため、パワハラ行為が繰り返され
　　　　　た。
　　　　　　したがって、被告会社には安全配慮義務違反がある。

　　　　　　　　　　　　　　　-12-

　　　　（被告らの主張）
　　　　　　被告会社は、原告が労災給付を請求したことは知っているが、労災の認定を
　　　　　受けたことは知らない。
　　　　　　被告会社では、パワハラ行為を禁止する旨就業規則等で定めるなどの体制を
　　　　　とっている。被告会社を含むキタムラグループでは、平成２０年２月１５日以
　　　　　降、コンプライアンス・ホットラインを設けており、パワハラ行為等の違法・
　　　　　不当行為を受けたり、発見したりしたときは、代表者やホットライン担当者に
　　　　　相談することができることを社内に周知している。
　　　　　　平成２９年８月１８日及び同年９月４日に行われた、原告と、幹Ｓ、部Ｈと
　　　　　の面談においても、幹Ｓが様々な対応を行うこととし､原告はこれを納得した｡
　　　　　このような「和解」が成立して解決が図られたことを原告も納得しており、こ
　　　　　の面談以前に原告が主張していた問題はここで解決が図られた。
　　　　(6）不法行為に係る損害賠償請求権の消滅時効の成否
　　　　（被告らの主張）
　　　　　　被告Ｘ　のパワハラ行為なるものの最終行為日は平成２８年９月１９日頃
　　　　　であるから、本訴提起まで３年が経過しており、不法行為に基づく損害賠償請
　　　　　求権について消滅時効が完成しており、使用者責任も時効消滅する。
　　　　　　被告Ｙ　のパワハラ行為なるものは平成２９年８月１５日に生じたようで
　　　　　あるから、本訴提起まで３年が経過しており、不法行為に基づく損害賠償請求
　　　　　権について消滅時効が完成しており、使用者責任も時効消滅する。
　　　　　　被告らは、令和２年１１月１８日の第１回口頭弁論期日において、前記消滅
　　　　　時効を援用する旨の意思表示をした。
　　　　　（原告の主張）
　　　　　　被告Ｙ　関係につき、原告は、被告らに対し、令和２年８月１２日、その責
　　　　　任を指摘して損害賠償を請求する催告をしたから、消滅時効は完成していない。
　　　　(7）原告に生じた損害

　　　　　　　　　　　　　　　-13-

　　　　（原告の主張）
　　　　　ア　慰謝料　合計５００万円
　　　　　　　原告は、被告Ｘ　らの再三のパワハラ行為により、多大な精神的損害を被
　　　　　　った。加えて、原告からのクレームに対して、被告会社はパワハラを許さな
　　　　　　いとする毅然とした姿勢をみせず、調査もおざなりで改善措置等がみられず、
　　　　　　社内のパワハラ行為が繰り返され再発防止策がとられなかったことから、原
　　　　　　告の被告会社に対する信頼関係が損なわれ、精神的損害は増大した。これを
　　　　　　金銭に評価すると、被告Ｘ　のパワハラ行為による損害が３００万円、被告
　　　　　　Ｙ　及び被告Ｚ　のパワハラ行為による損害が各１００万円である。
　　　　　イ　被告Ｙ　に係る有給休暇取得関係の損害
　　　　　　　被告Ｙ　のパワハラ行為により、原告は５日間の有給休暇取得を余儀なく
　　　　　　された。その損害額は１日８９８３円(計算は次のとおり)の５日分で４万４
　　　　　　９１５円となる。
　　　　　　　（当時の時給９３５円×８時間）＋（深夜勤務６時間分の割増賃金として
　　　　　　９３５円×６時間×０．２５）＋１００円≒８９８３円（１日分)。
　　　　　ウ　被告Ｚ　に係る有給休暇取得妨害関係の損害
　　　　　　　被告Ｚ　のパワハラ行為により、有給休暇を休業扱いに変更されたことで、
　　　　　　賃金(９６４８円。計算は次のとおり｡）の８割が休業補償（７７１８円）さ
　　　　　　れるにとどまり２割分の損害（１９３０円）を被った。
　　　　　　　（当時の時給１００５円×８時間）＋（深夜勤務６時間分の割増賃金１０
　　　　　　０５円×６時間×０．２５）＋１００円≒９６４８円。
　　　　　エ　弁護士費用
　　　　　　　被告Ｘ　関係につき３０万円、被告Ｙ　関係につき１０万４４９１円、被
　　　　　　告Ｚ　関係につき１０万０１９３円となる。
　　　　（被告らの主張）
　　　　　　被告会社が、休業補償として所定の時間給の割を補償したことは認め、そ

　　　　　　　　　　　　　　　-14-

　　　　　の余は否認し、争う。
　　第３　争点に対する判断
　　　１　争点(6)（不法行為に係る損害賠償請求権の消滅時効の成否）について
　　　　　事案に鑑み、争点(6）から判断する。
　　　　原告が主張する被告Ｘ　のパワハラ行為は、もっとも新しいものでも平成２８
　　　年９月１９日頃である（前記第２、１参照）から、本訴提起日である令和２年９
　　　月５日の時点では、既に３年が経過している。したがって、被告Ｘ　に対する不
　　　法行為に基づく損害賠償請求権は、仮に発生したとしても消滅時効が完成してお
　　　り、使用者責任についても同様である。被告らは、令和２年１１月１８日に聞か
　　　れた第1回口頭弁論期日において、前記消滅時効を援用する旨の意思表示をした
　　　から(顕著な事実)、その余について判断するまでもなく、被告Ｘ　のパワハラ行
　　　為に基づく被告Ｘ　の不法行為責任及び被告会社の使用者責任は認められない。
　　　　他方、被告らは被告Ｙ　のパワハラ行為についての消滅時効も主張するが、原
　　　告が主張する被告Ｙ　のパワハラ行為は平成２９年８月１５日に起きたもので
　　　あるから（前記第２、２参照)､本訴が提起された令和２年９月５日時点では既に
　　　３年が経過しているものの、原告は、同年８月１２日に被告Ｙ　及び被告会社に
　　　到達した催告書において、当該パワハラ行為を指摘し、不法行為責任ないし使用
　　　者責任に基づき損害賠償を求めているから(甲１２の１・２、１３の１・２)、消
　　　滅時効の完成しないうちに本訴を提起したものといえる。したがって、この点に
　　　関する被告らの主張は採用することができない。
　　２　争点(1)（被告Ｘ　のパワハラ行為の存否）及び争点(5)（被告会社の安全配慮
　　　義務違反の成否）のうち被告Ｘ　のパワハラ行為に係る部分について
　　　　被告Ｘ　のパワハラ行為については、前記１のとおり、不法行為責任ないし使
　　　用者責任の成否を検討する必要はないから、被告会社の安全配慮義務違反（事後
　　　的な対応に関する義務違反）の成否の検討に必要な限度で事実経過を認定し、判
　　　断することとする。

　　　　　　　　　　　　　　　-15-

　　(1）平成２７年１２月の夜勤取りやめ（原告の主張ア）について
　　　ア　証拠（甲２の１、１４ないし１６、２３、２４、３５、３６の１・２、乙
　　　　６の１･２、原告本人、被告Ｘ　本人、被告Ｚ　本人のほか各項末尾に記載）
　　　　及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠（前
　　　　掲証拠のうち後記認定に反する部分を含む｡）は採用しない。
　　　　(ｱ）被告会社における夜間勤務は、全従業員が日中勤務と夜間勤務との双方
　　　　　をシフト制で交代しながら担当するといったものではなく、実体としては、
　　　　　多くの従業員は基本的に夜勤のみを担当するという形態で行われていた。
　　　　　アルバムグループ全体で夜間勤務に携わる従業員は総勢約１００名はい
　　　　　た。
　　　　(ｲ）原告と被告会社との間の雇用契約においては、勤務時間は午後９時から
　　　　　午前６時までとされ、また、勤務時間の変更には業務の都合が必要とされ
　　　　　ている。
　　　　(ｳ）被告Ｘ　は、フォトアルバムグループの夜間勤務において従業員間のト
　　　　　ラブルを生じたことから、夜間勤務を続けることはできないと判断し、平
　　　　　成２７年１２月４日、被告Ｚ　を通じ、フォトアルバムグループの夜間勤
　　　　　務を取り止める旨を予告し、同月５日には自らこれを従業員に告げたが、
　　　　　この際、夜間勤務を取り止めることになった事情については、従業員の勤
　　　　　務態度等が問題となっているといった説明をした程度で、具体的には説明
　　　　　せず、夜間勤務の取りやめを通告する前に意見聴取をしたこともなかった。
　　　　　　原告は、同月４日の夜勤開始時の被告Ｚ　による予告により夜間勤務の
　　　　　取りやめを知った。
　　　　　　同月４日の夜勤の際には､「アルバムＰ　夜勤閉めます　継続して日勤
　　　　　でも働ける方　サインを御願いします」という記載と共に従業員（２１
　　　　　名）ごとにサインの欄を設けた書類が、タイムレコーダーのところに掲示
　　　　　された。

　　　　　　　　　　　　　　　-16-

　　　　(ｴ）被告Ｘ　による上記通告に対し、複数の従業員から夜間勤務を続けたい
　　　　　という要望がよせられた。そこで、被告Ｘ　は、夜間勤務の各従業員と面
　　　　　談をした結果､夜間勤務を継続することとし､平成２７年１２月６日朝(同
　　　　　月５日からの夜間勤務の終了時）に、夜間勤務を継続する旨を従業員に通
　　　　　知した。
　　　　(ｵ）原告は、平成２７年１２月４日の夜勤終了後、公休日が続いたため、被
　　　　　告Ｙ　にＳＮＳを通じて夜間勤務の取りやめについて問い合わせ、同月６
　　　　　日午後には、夜勤が継続となった旨の回答を得た。
　　　　(ｶ）原告は、同月７日の夜勤に出勤した際、被告Ｚ　に対し、夜間勤務の取
　　　　　りやめについて確認し、取りやめの話がなくなった旨を聞かされた。原告
　　　　　が､被告Ｚ　に対し､夜間勤務の取りやめの話が出た原因を尋ねたところ、
　　　　　被告Ｚ　は言えない旨を回答し、原告が、原因の一端が原告にあるかと尋
　　　　　ねたところ、被告Ｚ　は、原告にはないと答えた。原告と被告Ｚ　が上記
　　　　　のやり取りをしていたところ、被告Ｘ　がやり取りに参加してきたことか
　　　　　ら、原告が、被告Ｘ　に対し、夜間勤務の取りやめの原因を改めて尋ねた
　　　　　ところ、被告Ｘ　は「自分の胸に聞いてみろ」などと答えた。
　　　イ　検討
　　　　　被告Ｘ　による夜間勤務の取りやめ行為は、事前の意見聴取もないまま、
　　　　突如としてフォトアルバムグループの夜間勤務を取り止めるというもので
　　　　あったところ、被告会社における夜間勤務は、多くの従業員が基本的に夜勤
　　　　のみを担当するという形態で行われていたこと、アルバムグループで夜間勤
　　　　務に携わる従業員は総勢１００名はいたこと、原告と被告会社との間の雇
　　　　用契約においても勤務時間の変更には業務の都合が必要とされていること
　　　　に照らすと、夜間勤務の取りやめは、被告会社としての業務遂行の在り方は
　　　　もとより、その従業員の生活にも多大な影響を与えるものであるから、被告
　　　　Ｘ　にその点を決定する権限、裁量があったとしても完全に自由なものでは

　　　　　　　　　　　　　　　-17-

　　　　なく、これを実行するには、実態面ではそのような体制をとる業務上の必要
　　　　性が、また、手続面では従業員に対する打診や移行に要する期間の設定など
　　　　の手続保障が求められるところである。しかしながら、本件では、被告Ｘ　
　　　　が夜間勤務の取りやめを行った理由としては、従業員間のトラブルが抽象的
　　　　に挙げられているだけで、その解消の手段として夜間勤務の取りやめが適当
　　　　であったのか、また、直ちにそのような手段をとるべきであったのかなどに
　　　　ついても不明な点が多く、夜間勤務の取りやめという方法をとることには問
　　　　題があったものといわざるを得ない。
　　　　　他方で、夜間勤務の取りやめは、平成２７年１２月４日の夜勤開始時に被
　　　　告Ｚ　によって予告がされ、同月５日の夜勤開始時に被告Ｘ　自らが告げた
　　　　ものであるが、当該夜勤の終了時である同月６日朝には取りやめ自体が撤回
　　　　され、夜間勤務が継続されることとなるなど、ごく短期間のうちに話自体が
　　　　なくなったものであること、このこと自体について、本訴提起までの間は、
　　　　原告から、被告会社に対し、パワハラであるとして具体的対応を求めること
　　　　はなかったこと（なお、平成２９年８月１８日の原告と幹Ｓ、部Ｈの面談に
　　　　おいて、この点に若干の言及がされているが（甲２６、２７、乙４)、単に事
　　　　実経過として指摘がされているだけであって、パワハラ行為としての申告が
　　　　されたものではない。）からすると、夜間勤務の取りやめがパワハラ行為に
　　　　該当するかはともかくとして、被告会社はこれについて特段の対応をしてい
　　　　ないことをもって、パワハラを放置したなどの安全配慮義務違反があるとは
　　　　いえない。
　　　　　また、原告は、平成２７年１２月７日の被告Ｘ　による「自分の胸に聞い
　　　　てみろ｡｣という発言がパワハラ行為に該当すると主張する。しかしながら、
　　　　当該発言は、原告が、被告Ｘ　に対し、夜間勤務の取りやめの原因を改めて
　　　　尋ねたことに対する返答であり、原因については自分で考えるように述べる
　　　　ものにすぎず、原告とのやり取りとしてかみ合っているかどうかはともかく、

　　　　　　　　　　　　　　　-18-

　　　　これがパワハラ行為に該当するとはいえないから、その点に係る安全配慮義
　　　　務違反も観念し得ない。
　　(2）平成２８年６月頃の被告Ｘ　の発言（原告主張イ）について
　　　　原告は、平成２８年６月頃、被告Ｙ　も同席する中で被告Ｘ　と面談したと
　　　　き､被告Ｘ　から､｢お前なんかいつでも解雇できる｡数か月分余分に払えばい
　　　　いんだから｡｣､｢時給を下げてやる｡埼玉県の最低賃金の時給まで下げてやる｡｣
　　　　などと言われたなどと主張する｡この点につき､原告は、その陳述書(甲３５)
　　　　及び供述（原告本人）において上記主張に沿う供述をするほか、平成２９年８
　　　　月１８日に幹Ｓ及び部Ｈと面談した際にも同旨の供述をしており（甲２６，２
　　　　７)、令和３年３月３１日に当裁判所に提出した令和２年７月１６日付けの原
　　　　告作成の解雇発言経緯に係る書面（甲１９）においても言及があることに照ら
　　　　すと、原告は、少なくとも平成２９年８月頃から継続して上記主張を繰り返し
　　　　ているものとはいえる。しかし、原告の上記主張や供述を裏付ける客観的な証
　　　　拠はなく、また、原告の主張を前提としても、被告Ｘ　がそのような発言をし
　　　　ても不合理ではないといった状況もうかがわれない。原告は、夜勤のパート社
　　　　員であるパートＣが被告Ｘ　の原告に対する解雇発言を聞いているとしてそ
　　　　の録音及び反訳書を提出するが（甲１８，２５)、当該録音が前記パＣの発言を
　　　　録音したものであるとしても、被告Ｘ　が、お前なんかいつでも解雇できるん
　　　　だからと発言したという内容をいうものではあるものの、その具体的な日時や
　　　　同席者、どのような経過で発言がされたのかも明らかでなく、また、前記パＣ
　　　　に対する反対尋問を経たものでもないから、その存在をもって原告の上記供述
　　　　等を補強するものということもできない。
　　　　　そして、原告が主張する被告Ｘ　の発言について、被告Ｘ　や被告Ｙ　は記
　　　　憶にないと述べており（被告Ｘ　本人、被告Ｙ　本人)､これらの供述の信用性
　　　　を疑わせるに足りる証拠も見当たらないことからすると、原告が主張する被告
　　　　Ｘ　の発言があったものと認めることはできない。

　　　　　　　　　　　　　　　-19-

　　　　　そうすると、前提となる被告Ｘ　のパワハラ行為が認められない以上、これ
　　　　に係る被告会社の安全配慮義務違反も認めることができない。
　　　(3）平成２８年９月１９日頃の被告Ｘ　の発言（原告の主張ウ）について
　　　　　原告は、平成２８年９月１９日頃、被告Ｘ　から､｢次の契約だが、君は仕事
　　　　の能力が低いので、このままなら更新はない｡｣と告知されたこと、原告なりに
　　　　労災による受傷の影響を有する中で日々懸命に仕事し努力している旨説明す
　　　　ると、被告Ｘ　から、権限もないのに「そこまで言うなら、日勤にこい｡｣と勤
　　　　務時間の変更を求められたこと、そこで、原告は、パＡから被告Ｘ　宛てに、
　　　　原告がヘルニア持ちのため無理な姿勢の作業が困難であることなどを説明し
　　　　て配慮方申し入れる電子メールを送ってもらった結果、被告Ｘ　は、原告に対
　　　　する異動要請を撤回したことを主張し、証拠（甲３、弁論の全趣旨）によれば、
　　　　同月２０日頃、原告が、パＡに依頼して、パＡが準備した環境において、原告
　　　　が自らのヘルニアの症状とそれに伴う作業状況について電子メール本文を記
　　　　載し被告Ｘ　に宛てて送信したこと、当該メールには、「上を向いてはいけな
　　　　い｡｣、｢デスクワーク等で下を向いても良い。ただし、向き続けるのはだめ。」
　　　　「首を曲げるのは４５度まで｡(負荷が掛からない程度まで)｣､「仕事の負荷は
　　　　やっても５、６割まで｡｣､「悪化すると回復不可｣などの記載があることが認め
　　　　られる。
　　　　　しかしながら、上記電子メールの内容は、必ずしも契約更新の拒絶や日勤へ
　　　　の異動の話があったことを前提とした内容ではなく、当該電子メールの存在が
　　　　直ちに原告の上記主張を裏付けるものではない。
　　　　　また、原告は、その陳述書（甲３５）及び供述（原告本人）において、上記
　　　　主張に沿う供述をするほか、令和３年３月３１日に当裁判所に提出した令和２
　　　　年７月１６日付けの原告作成の雇止予告状況に係る書面（甲２０）においても
　　　　同旨の言及があることに照らすと、原告は、少なくとも本訴提起の頃から継続
　　　　して上記主張を繰り返しているものとはいえる。しかし、原告の上記供述等を

　　　　　　　　　　　　　　　-20-

　　　　裏付ける客観的な証拠はない。
　　　　　そして、原告が主張する被告Ｘ　の発言について、被告Ｘ　は記憶にないと
　　　　述べており（被告Ｘ　本人)､この供述の信用性を疑わせるに足りる証拠も見
　　　　当たらないことからすると、原告が主張する被告Ｘ　の発言があったものと認
　　　　めることはできない。
　　　　　そうすると、前提となる被告Ｘ　のパワハラ行為が認められない以上、これ
　　　　に係る被告会社の安全配慮義務違反も認めることができない。
　　３　争点(2)(被告Ｙ　のパワハラ行為の存否）並びに争点(4)(被告Ｘ　らの不法
　　　行為責任及び被告会社の使用者責任の成否）及び争点(5)(被告会社の安全配慮
　　　義務違反の成否）のうち被告Ｙ　のパワハラ行為に係る部分について
　　　　原告は、平成２９年８月１５日、発送商品の梱包作業に従事中、労災認定され
　　　た頚椎椎間板ヘルニアによる肩及び四肢の痛みとしびれの症状が再燃したため、
　　　被告Ｙ　に作業の中断を報告して、他の作業に従事したが、その後、被告Ｙ　か
　　　ら、「なぜ作業を中断したのか｡｣と注意され、労災による受傷箇所に症状が生じ
　　　て手足が痛みしびれる旨説明したにもかかわらず、被告Ｙ　から、「指示に従い
　　　なさい、労災が再発して悪化してもかまいません｡｣､｢指示に従うことが重要だ。
　　　会社の責任になってもかまわない｡｣､｢訴訟を起こしてもかまいませんよ｡｣など
　　　と、構わず作業を続けるように言われ、作業を中断した事を非難された旨を主張
　　　し、これに沿う原告の陳述書(甲３５)及び供述（原告本人）が存在する。また、
　　　証拠（甲１７、２６ないし２８、乙４、５）によれば、原告の申入れを受けて、
　　　平成２９年８月１８日に被告会社の幹Ｓ統括部長及び部Ｈグループ長が原告と
　　　面談したところ、原告は、被告Ｙ　から、労災が再発しても構わない、会社の指
　　　示に従うことがより重要、会社責任になっても構わないなどといわれたので、被
　　　告Ｙ　と一緒に夜勤を継続することは困難である旨を申し立てたこと、同年９月
　　　４日に同様の面談が持たれた際、幹Ｓ統括部長らが、被告Ｙ　に確認をとったう
　　　え、被告Ｙ　は、労災が再発しても構わない、といった発言はしておらず、業務

　　　　　　　　　　　　　　　-21-

　　　内容は会社が決めるものであるから会社の指示に従う必要がある旨を述べたも
　　　のにすぎないと説明したのに対し、原告は、これに納得せず、被告Ｙ　の指示を
　　　受ける形で業務を継続することはできない旨を申し立てていることが認められ
　　　る。
　　　　しかしながら、原告の上記主張に係る被告Ｙ　の発言があったことを裏付ける
　　　客観的な証拠はない。また、原告の主張によっても、少なくとも原告は担当作業
　　　を中断して別の作業を行ったものであるところ、これに対し、夜勤の担当従業員
　　　（正社員）である被告Ｙ　において、その理由を確認したり、一般論として担当
　　　業務の指示は使用者である会社側からするものであって従業員の自己判断で業
　　　務を変更するものではないといった発言をしたりする可能性はあり得るところ
　　　ではあるが（上記認定中の幹Ｓ統括部長らによる被告Ｙ　の発言の趣旨説明もこ
　　　れと同旨と解される｡)、それを超えて原告が主張するような言い方をすることが
　　　自然であることをうかがわせる事情は見当たらない。被告Ｙ　と原告の関係は、
　　　当時良好なものではなかったと認められる(原告本人、被告Ｙ　本人)けれども、
　　　そのことから直ちに上記のような発言をしたことが推認できるものでもない。原
　　　告は、平成２９年８月１５日の直後に会社に被告Ｙ　の発言内容をメールで会社
　　　側へ送信したとして証拠（甲４）を提出するが、この証拠は電子メールそのもの
　　　ではなく、上記主張を的確に認めるに足りるものではない。平成２９年８月１８
　　　日に幹Ｓらと原告の間で面談がもたれることとなったことは、当時、原告から見
　　　て何らかの問題が生じていたと認識していたことをうかがわせるが、そのことが
　　　直ちに原告の主張するような事実が生じたことを裏付けるものでもない。
　　　　そうすると、原告が主張する被告Ｙ　のパワハラ行為自体を認めることができ
　　　ず、被告Ｙ　の不法行為責任及び被告会社の使用者責任を認めることができず、
　　　また、パワハラ行為の存在を前提とする被告会社の安全配慮義務違反も認めるこ
　　　とができない。これらの点に関する原告の主張は採用することができない。
　　４　争点(3)（被告Ｚ　のパワハラ行為の有無）並びに争点(4)（被告Ｘ　らの不法

　　　　　　　　　　　　　　　-22-

　　　行為責任及び被告会社の使用者責任の成否）及び争点(5)（被告会社の安全配慮
　　　義務違反の成否）のうち被告Ｚ　のパワハラ行為に係る部分について
　　　(1)　証拠（甲３５、乙６の２、原告本人、被告Ｚ　本人のほか各項末尾に記載）
　　　　及び弁論の全趣旨によれば、被告Ｚ　のパワハラ行為とされる点について次の
　　　　事実が認められ、これに反する証拠（前掲証拠のうち後記認定に反す部部分を
　　　　含む｡）は採用しない。
　　　　ア　原告は、令和２年５月６日、部Ｊグループ長代理に対し、同年６月２５日
　　　　　は定期健診のため、同日及び同月２６日は出勤できないこと、コロナ過の下
　　　　　でもあるので、有給休暇、特別休暇、振替など、どのように対応すべきか連
　　　　　絡してほしい旨をＬＩＮＥで送信した｡これに対し､部Ｊグループ長代理は、
　　　　　有給休暇でお願いさせてもらえると助かる旨を返信し、これに対し、原告は
　　　　　「了解しました。後日申請致します｡｣と返信した｡（甲６の２）
　　　　イ　被告会社の就業規則上、年次有給休暇を利用しようとする者は、所定の手
　　　　　続により前日までに上長に申し出なければならず、申し出を受け、業務上支
　　　　　障が生ずる場合、上長は他の時期に変更するものとされている。プロアルバ
　　　　　ムグループでは、所定の手続は、休暇願を同グループの社Ｌに提出し、社Ｌ
　　　　　から、有給取得を承認する権限を有している部Ｊグループ長代理に休暇願が
　　　　　申し送られ、その承認を受けることとなっている。部Ｊグループ長代理は、
　　　　　承認した休暇願を、翌週月曜日には勤怠管理システムに入力してから月ご
　　　　　とにまとめてクリアファイルに保管している。
　　　　　　原告は、令和２年５月１４日、定期健診を理由として同年６月２５日の有
　　　　　給休暇を申請する休暇願いの書類を作成した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（以上につき、甲５、乙１）
　　　　ウ　原告は、令和２年６月１０日を更新日をする被告会社のシフト表において、
　　　　　同月２５日が原告の出勤日とされていることに気付き、同月１９日、部Ｊグ
　　　　　ループ長代理に対し、出勤表に誤りがあり、同月２５日は有休申請済みであ

　　　　　　　　　　　　　　　-23-

　　　　　る旨をＬＩＮＥで申し出た。部Ｊグループ長代理からは特に返答はなかった
　　　　　が、原告は、同日について出勤をしなかった。（甲７、８の２）
　　　　エ　被告Ｚ　は、令和２年７月７日､｢有給について以前も共有しましたが、理
　　　　　解されていないようなので、改めて共有指示します｡」という題名の電子メ
　　　　　ールを､「川口プロアルバムＧ＿ＭＬ｣（Ｇ＿ＭＬは「グループ　メーリング
　　　　　リスト」と解される｡）宛に送信した。同電子メールには､「■有給は基本
　　　　　売り上げが正常に戻らない限り認められません｡｣､「私用の休みを取りたい
　　　　　場合は、休業申請を出してください｡｣､｢■改めて有休・休業・欠勤は下記運
　　　　　用とします(プロアルＧ･アマＧのみ他のＧは他Ｇのリーダーが定めた運用で
　　　　　す｡)｣､「・有給は使用しません｣､「・シフト組外の休業は他休業日と入替て
　　　　　「出勤日日数が下回らないように各自で調整申請」してください　休業申請
　　　　　は１週間前までに提出してください｣､「・突発欠勤はいかなる理由があろう
　　　　　とも、欠勤扱いとします｡」などの記載があった。同電子メールは、プロアル
　　　　　バムグループの作業所内に設置された連絡掲示板に掲示された。同月８日の
　　　　　夜勤開始時のミーティングでは、当該掲示の内容が問題視され、原告やパＡ
　　　　　が、社Ｌに対し掲示内容の説明を求めるなどした。（甲９、２９ないし３１）
　　　　オ　被告Ｚ　は、幹部Ｒ　所長から、上記エの指示内容がおかしい旨の指導を
　　　　　受け、令和２年７月１３日付けの「川口プロアルバムＧ＿ＭＬ」宛ての電子
　　　　　メールにおいて､｢各位、労働規則読み直し訂正箇所ありましたので、改めて
　　　　　共有します申し訳ありませんでした｡｣､「■有休は１日前までに申請いただ
　　　　　いた場合まで適用になりますが､入荷量に合わせた､休業への振り替え等相談
　　　　　のうえ申請をお願いします｡」などと記載した。また､同日の夜間開始時のミ
　　　　　ーティングにおいて、被告Ｚ　は、認識に誤りがあったことを謝罪し、有給
　　　　　休暇の取得については所定の手続により前日までに上長に申し出ればよい
　　　　　こと、生産の状況等によって有休の取得日を変更するように調整することが
　　　　　あることなどを述べた。

　　　　　　　　　　　　　　　-24-

　　　　　　さらに、被告Ｚ　は、令和２年７月１４日付けの「川口プロアルバムＧ＿
　　　　　ＭＬ」宛ての電子メールにおいて､「有休、休業の取得について、個人の見解
　　　　　で表現し就業規則に合わせた説明が正しくできておらず、大変申し訳ありま
　　　　　せんでした｡｣､｢下記に訂正いたしますので、ご確認をお願いいたします｡｣､
　　　　　「１、有給取得について　・有給取得前日までに申請してください　・生産
　　　　　の状況次第は別日で調整できないか？相談する事もあると思いますのでそ
　　　　　の際は、ご協力をお願いいたします｣､｢２．休業について　・仕事量に合わ
　　　　　せ、事前に休業日の指示をします｡」などと記載した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（以上につき、甲９の２、乙１）
　　　　カ　令和２年７月１５日付けで支払われた原告の同年６月分給与（同月１日か
　　　　　ら同月３０日まで）では、６月２５日について休業扱いとされたことを前提
　　　　　とする処理がされていた｡（甲１０）
　　　(2）検討
　　　　ア　原告は、部Ｊグループ長代理の了承を得て、令和２年６月２５日に予定さ
　　　　　れていた原告の腎疾患の経過観察のための定期検査受診のために有給休暇
　　　　　を上司である社Ｌに提出して申請し、同日について有給休暇を取得したにも
　　　　　関わらず、同月分の給与上の取扱いでは同日が休業扱いとされたところ、こ
　　　　　れは、被告Ｚ　が、原告の有給休暇の請求を拒否する権限も、拒否する法律
　　　　　上の理由もないのに、原告の有給休暇の請求を拒否したものであると主張す
　　　　　る。そして、原告が部Ｊグループ長代理に令和２年６月２５日の定期健診の
　　　　　ために出勤できないことを相談していたこと、同日に原告が出勤しなかった
　　　　　ところ、有給扱いでも欠勤扱いでもなく休業扱いとされたこと、被告Ｚ　が、
　　　　　同年７月７日に送付した電子メールにおいて、有給は基本売り上げが正常に
　　　　　戻らない限り認められない、使用の休みを取りたい場合は、休業申請を出す
　　　　　ことなどを指示し、同電子メールは、プロアルバムグループの作業所内に設
　　　　　置された連絡掲示板に掲示されたことは認められる。

　　　　　　　　　　　　　　　-25-

　　　　　　しかしながら、前記のとおり、被告Ｚ　は、令和２年７月７日付けで、有
　　　　　給は基本的に認められず、使用の休みを取りたい場合は休業申請をするよう
　　　　　指示しているところ、原告の有給休暇の申請は令和２年５月にされており、
　　　　　同年６月１０日更新のシフト表において既に有給休暇の処理がされていな
　　　　　かったものであるから、上記電子メールによって原告の有給休暇の申請を認
　　　　　めないものとしたとは解し難い。また、上記電子メールの題名は「有給につ
　　　　　いて以前も共有しましたが、理解されていないようなので、改めて共有指示
　　　　　します｡」というものであることからすると、以前にも被告Ｚ　において同
　　　　　旨の指示をしたことがあるものの、プロアルバグループにおいてこれが理解
　　　　　されていなかった（すなわち被告Ｚ　が考えるような運用がされていなかっ
　　　　　た）ことがうかがわれるところである（例えば、原告が令和２年７月以前に
　　　　　被告Ｚ　が上記のような指示をしていたことを認識していたことを認める
　　　　　に足りる証拠はない｡)。また、原告の有給休暇取得を承認する権限を有して
　　　　　いるのは、被告Ｚ　ではなく部Ｊグループ長代理であるところ、被告Ｚ　が
　　　　　部Ｊグループ長代理に対して原告の有給休暇取得を認めないよう具体的に
　　　　　働きかけたことをうかがわせる証拠もない。そうすると、そもそも被告Ｚ　
　　　　　が原告の有給休暇取得を妨害するような具体的指示を行ったことを認める
　　　　　に足りる証拠はない。
　　　　　　さらに、原告が令和２年６月２５日につき有給休暇を取得するための手続
　　　　　を履践したことを的確に認めるに足りる証拠はない。原告は、提出前の休暇
　　　　　願いを撮影した画像を証拠提出しており（甲５）、このような証拠がある以
　　　　　上、休暇願いを社Ｌに提出した可能性は相当程度あるとはいえるものの、こ
　　　　　れが確実にされたとは断言し難い。また、仮に、休暇願いが提出されたとし
　　　　　ても、何らかの手違いで紛失するなどして手続が進まなかった可能性もあり、
　　　　　休暇願いが適切に処理されなかったのが、被告Ｚ　の指示によるものである
　　　　　ことを的確に裏付ける証拠はない。なお、原告は同日について出勤していな

　　　　　　　　　　　　　　　-26-

　　　　　いところ、休暇願い等の手続がとられていないのであればこれを欠勤扱いと
　　　　　すれば足りるにもかかわらず被告会社はこれを休業扱いとしており、このこ
　　　　　とは、被告会社は原告が休暇願いを提出しているとの認識を有していながら、
　　　　　有給休暇ではなく休業扱いにしようとしたのではないかという疑いを生じ
　　　　　させるものではある。しかしながら、これが被告Ｚ　の指示によるパワハラ
　　　　　行為であると認めるに足りないのはこれまで検討したとおりである。
　　　　　　そうすると、この点に関する原告の主張は採用することができない。
　　　　イ　また、原告は、被告Ｚ　の令和２年７月７日付け電子メールが連絡掲示板
　　　　　に掲示されて、有給は基本売り上げが正常に戻らない限り認められない、有
　　　　　給は使用できないなどといった通告が従業員にされたことが被告Ｚ　によ
　　　　　るパワハラ行為であると主張し、当該電子メールが令和２年７月７日頃以降
　　　　　に連絡掲示板に掲示されていたことが認められるのは前記(1)のとおりであ
　　　　　る。そして、有給休暇は労働基準法の規定のある制度であって、時季変更権
　　　　　を行使できる場合などを除けば使用者がその取得を拒むことは許されない
　　　　　から（労働基準法３９条)、被告Ｚ　の前記電子メールの内容は労働関係法
　　　　　規の理解を誤った、不相当なものであるといわざるを得ない。他方で、被告
　　　　　Ｚ　は、自らの指示内容の誤りを指摘され、数日のうちにこれを撤回し、謝
　　　　　罪しており、また、このような指示（掲示）がされたことによって具体的に
　　　　　原告の有給休暇取得が妨げられたことを認めるに足りる証拠はない。そうす
　　　　　ると、被告Ｚ　の令和２年７月７日付け電子メールの内容は問題の多いもの
　　　　　であって、このような指示を出したことについては猛省してしかるべきでは
　　　　　あるものの、これをもって原告との関係でパワハラ行為に当たるとはいい難
　　　　　い。
　　　　ウ　以上によれば、原告の、被告Ｚ　にパワハラ行為があったという主張は採
　　　　　用することができない。したがって、被告Ｚ　の不当行為も、被告会社の使
　　　　　用者責任も、被告会社の安全配慮義務違反も、前提を欠き、認めることがで

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　　　　　きない。
　第４　結論
　　　　以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理
　　　由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

　　　　　　東京地方裁判所民事第７部

　　　　　　　　　　　　　　　裁判官　野村武範

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これは正本である。
令和４年４月２７日
東京地方裁判所民事第７部
　　　裁判所書記官　小豆澤恵莉