新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

先週会ったばかりだったけれど、改めて会うとなると恥ずかしい。
貴樹はそう感じていた。

あの日の勢いからクールダウンしたため、「我に返った」ということもある。

土曜の夜、母親だけには前日のことを話した。
キスしたこと以外はすべて。
明里の母親も委細承知の上で、許してくれているとのことや、その日、明里の父は出張で不在だったということも。

貴樹の母は驚き、声を失い、ゆっくりとため息をついたあと、よろよろと立ちあがり、電話へ向かっていた。貴樹はあえてその声は聞かないよう自室へ向かった。
それでも、狭い社宅では、切れ切れに謝罪している母の声が聞こえていた。


時計台の下で会った二つの家族。まずは貴樹の母からの謝罪で始まった。
だが、それを明里の母が笑顔で制した。

「今日は貴樹くんの旅立ちの日です。それはもう済んだことで、貴樹くんも十分に反省しているようだし、明里から話を進めたようですし。どちらかが悪いというわけでもないですから」

「私が、家に連れていかなかったのが悪いんです」

明里が半泣きの表情で貴樹の母に訴える。

「どうして、そうしなかったの?」

単純な疑問で貴樹の母が聞いたのだけど。

「……貴樹くんと、ずっと一緒にいたかったから」

顔を真っ赤にしてぽつりと明里が言ったものだから、双方の母親が顔を見合わせて笑ってしまった。



この子たちは、本当に好きあってるんですね



言葉にはしなかったけれど、目と目で意志を通じ合いうなづきあった。


学校を休ませて、平日の空港。それほど混雑はなかった。

貴樹の父は一足先に任地へ飛び、住まいなどの環境を整えている。引っ越しの荷物は前日に東京の社宅から出した。
あとは、貴樹と母の二人が種子島へ行くだけだった。


チケットを持ってチェックインし、荷物を預けた。
少しだけ時間がある。

「二人だけで話したいこともあるでしょう。私たちはここにいるから」
セキュリティチェックゲートの前で、明里の母が言う。貴樹の母もうなづいている。

「じゃあ……」

貴樹が明里へ視線を投げて、二人で肩を並べて少し離れたところのベンチへ向かっていく。


「篠原さん……、子供だと思ってましたけれど、今の仕草なんて、大人の恋人同士そのものですねえ……」

少し感心しながら、貴樹の母が言うと、

「そうですねえ……私たちは、あの子たちにずいぶん過酷なことをしているのかもしれませんね」と答えた。



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隣同士に座った貴樹と明里は、つないだ手をぎゅっとつないでいた。
母親たちに見えないように、二人の体の間で。

「明里、手紙書くし、どうしても我慢できなくなったら電話もする」

貴樹がぽつりぽつりと言う。その言葉にぎゅっと手を握り返して明里が応える。

「そういえば、あれはどういう意味だったの?」

貴樹が先週からずっと考え込んでいた言葉。別れ際の明里の。

「貴樹くんは、きっと大丈夫だから」

明里にそう言われて嬉しいと思う反面、なんだか突き放されたような感じにも思えて、どうとらえていいのかわからなかった。

「それは……」

明里の手が逡巡するかのようにショルダーバッグのあたりを迷っている。

しかし、意を決したかのように中から封筒を取り出した。黙って貴樹に渡す。

宛名に自分の名前が書かれている封筒を渡されて、「ちょっといい?」と言ってからつないでいた手を離して、手紙を読み始めた。

(つづく)

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