最終更新: centaurus20041122 2014年07月22日(火) 11:46:40履歴
先週会ったばかりだったけれど、改めて会うとなると恥ずかしい。
貴樹はそう感じていた。
あの日の勢いからクールダウンしたため、「我に返った」ということもある。
土曜の夜、母親だけには前日のことを話した。
キスしたこと以外はすべて。
明里の母親も委細承知の上で、許してくれているとのことや、その日、明里の父は出張で不在だったということも。
貴樹の母は驚き、声を失い、ゆっくりとため息をついたあと、よろよろと立ちあがり、電話へ向かっていた。貴樹はあえてその声は聞かないよう自室へ向かった。
それでも、狭い社宅では、切れ切れに謝罪している母の声が聞こえていた。
時計台の下で会った二つの家族。まずは貴樹の母からの謝罪で始まった。
だが、それを明里の母が笑顔で制した。
「今日は貴樹くんの旅立ちの日です。それはもう済んだことで、貴樹くんも十分に反省しているようだし、明里から話を進めたようですし。どちらかが悪いというわけでもないですから」
「私が、家に連れていかなかったのが悪いんです」
明里が半泣きの表情で貴樹の母に訴える。
「どうして、そうしなかったの?」
単純な疑問で貴樹の母が聞いたのだけど。
「……貴樹くんと、ずっと一緒にいたかったから」
顔を真っ赤にしてぽつりと明里が言ったものだから、双方の母親が顔を見合わせて笑ってしまった。
この子たちは、本当に好きあってるんですね
言葉にはしなかったけれど、目と目で意志を通じ合いうなづきあった。
学校を休ませて、平日の空港。それほど混雑はなかった。
貴樹の父は一足先に任地へ飛び、住まいなどの環境を整えている。引っ越しの荷物は前日に東京の社宅から出した。
あとは、貴樹と母の二人が種子島へ行くだけだった。
チケットを持ってチェックインし、荷物を預けた。
少しだけ時間がある。
「二人だけで話したいこともあるでしょう。私たちはここにいるから」
セキュリティチェックゲートの前で、明里の母が言う。貴樹の母もうなづいている。
「じゃあ……」
貴樹が明里へ視線を投げて、二人で肩を並べて少し離れたところのベンチへ向かっていく。
「篠原さん……、子供だと思ってましたけれど、今の仕草なんて、大人の恋人同士そのものですねえ……」
少し感心しながら、貴樹の母が言うと、
「そうですねえ……私たちは、あの子たちにずいぶん過酷なことをしているのかもしれませんね」と答えた。
-----------
隣同士に座った貴樹と明里は、つないだ手をぎゅっとつないでいた。
母親たちに見えないように、二人の体の間で。
「明里、手紙書くし、どうしても我慢できなくなったら電話もする」
貴樹がぽつりぽつりと言う。その言葉にぎゅっと手を握り返して明里が応える。
「そういえば、あれはどういう意味だったの?」
貴樹が先週からずっと考え込んでいた言葉。別れ際の明里の。
「貴樹くんは、きっと大丈夫だから」
明里にそう言われて嬉しいと思う反面、なんだか突き放されたような感じにも思えて、どうとらえていいのかわからなかった。
「それは……」
明里の手が逡巡するかのようにショルダーバッグのあたりを迷っている。
しかし、意を決したかのように中から封筒を取り出した。黙って貴樹に渡す。
宛名に自分の名前が書かれている封筒を渡されて、「ちょっといい?」と言ってからつないでいた手を離して、手紙を読み始めた。
(つづく)
貴樹はそう感じていた。
あの日の勢いからクールダウンしたため、「我に返った」ということもある。
土曜の夜、母親だけには前日のことを話した。
キスしたこと以外はすべて。
明里の母親も委細承知の上で、許してくれているとのことや、その日、明里の父は出張で不在だったということも。
貴樹の母は驚き、声を失い、ゆっくりとため息をついたあと、よろよろと立ちあがり、電話へ向かっていた。貴樹はあえてその声は聞かないよう自室へ向かった。
それでも、狭い社宅では、切れ切れに謝罪している母の声が聞こえていた。
時計台の下で会った二つの家族。まずは貴樹の母からの謝罪で始まった。
だが、それを明里の母が笑顔で制した。
「今日は貴樹くんの旅立ちの日です。それはもう済んだことで、貴樹くんも十分に反省しているようだし、明里から話を進めたようですし。どちらかが悪いというわけでもないですから」
「私が、家に連れていかなかったのが悪いんです」
明里が半泣きの表情で貴樹の母に訴える。
「どうして、そうしなかったの?」
単純な疑問で貴樹の母が聞いたのだけど。
「……貴樹くんと、ずっと一緒にいたかったから」
顔を真っ赤にしてぽつりと明里が言ったものだから、双方の母親が顔を見合わせて笑ってしまった。
この子たちは、本当に好きあってるんですね
言葉にはしなかったけれど、目と目で意志を通じ合いうなづきあった。
学校を休ませて、平日の空港。それほど混雑はなかった。
貴樹の父は一足先に任地へ飛び、住まいなどの環境を整えている。引っ越しの荷物は前日に東京の社宅から出した。
あとは、貴樹と母の二人が種子島へ行くだけだった。
チケットを持ってチェックインし、荷物を預けた。
少しだけ時間がある。
「二人だけで話したいこともあるでしょう。私たちはここにいるから」
セキュリティチェックゲートの前で、明里の母が言う。貴樹の母もうなづいている。
「じゃあ……」
貴樹が明里へ視線を投げて、二人で肩を並べて少し離れたところのベンチへ向かっていく。
「篠原さん……、子供だと思ってましたけれど、今の仕草なんて、大人の恋人同士そのものですねえ……」
少し感心しながら、貴樹の母が言うと、
「そうですねえ……私たちは、あの子たちにずいぶん過酷なことをしているのかもしれませんね」と答えた。
-----------
隣同士に座った貴樹と明里は、つないだ手をぎゅっとつないでいた。
母親たちに見えないように、二人の体の間で。
「明里、手紙書くし、どうしても我慢できなくなったら電話もする」
貴樹がぽつりぽつりと言う。その言葉にぎゅっと手を握り返して明里が応える。
「そういえば、あれはどういう意味だったの?」
貴樹が先週からずっと考え込んでいた言葉。別れ際の明里の。
「貴樹くんは、きっと大丈夫だから」
明里にそう言われて嬉しいと思う反面、なんだか突き放されたような感じにも思えて、どうとらえていいのかわからなかった。
「それは……」
明里の手が逡巡するかのようにショルダーバッグのあたりを迷っている。
しかし、意を決したかのように中から封筒を取り出した。黙って貴樹に渡す。
宛名に自分の名前が書かれている封筒を渡されて、「ちょっといい?」と言ってからつないでいた手を離して、手紙を読み始めた。
(つづく)
コメントをかく