新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

木枯らしが吹き始めたころから、明里は貴樹にお願いしていた。

「12月24日は、絶対に明けておいてね!」

貴樹も明里も、それほど「記念日」にこだわるタイプではないけれど、お互いの誕生日と3月4日は絶対に会う、という約束をかわしていた。
これは神聖な誓約ともいうべきものだった。

それに準ずる日ということで、クリスマスイブを過ごしたい、明里はそう思っていた。

イブの数日前に会った時に、これまでイブをどのように過ごしていたのか話題になった。
「貴樹くんは、これまでクリスマスはどうしてたの?」
興味深々といった感じで明里が聞いてくるものの。

「う〜〜ん……何してたっけ……」
貴樹にはほとんど覚えがない。もう冬休みに入っているし、部活してたんじゃないだろうか。

「一つ一つ思い出して。まずは去年」

「去年はもう受験間際だから、家にこもって勉強してたよ。それに電話で少し話したよ?」

「うん、もちろん覚えてるよ。あの時に思ったの。来年のイブは絶対に二人でお祝するんだって。じゃあ、おととし。高校2年のときは?」

そう問われて鈍い痛みが貴樹の心に湧きあがる。表情がゆがむ。

「どうしたの?」

「そのころは……明里からの手紙が途絶えて……本当に悲しいときって、涙も出ないってわかったころかな……」
貴樹がそう言うと、明里はハッと表情を凍らせた。

「……ごめん……思い出させてしまって……」

「あのころのことを思い出すと、まだこのあたりが痛くなるんだ。もう今は、そばに明里がいるっていうのに。俺はこんなに明里のことが好きなのに、ちゃんと伝えられなくて後悔してて。年賀状だけでも出すべきか悩みながら、勉強へ逃避してたかな……」
みぞおちのあたりを撫でながら思い出す。きりきりする。

「年賀状……私も書けなかった……ごめんね」

「いや、それはもう済んだことだし、いいんだけどさ……」

未だにあの1年の空隙は二人の間の、たった一つの傷として残っていた。それ以外がすべて素敵な思い出に彩られていたからこそ、その痛みも際立っていた。
光が強いほど、影もまた濃くなってしまう。

「その前は? 高校1年の冬」

「うーん……部活かなあ。弓道やりはじめてまだ半年過ぎだったし、練習してたと思う」
「高校に入って、告られたりしなかったの?」
明里が矛先を変えた。
本来は当時の手紙の中で問うべきような内容だったかもしれないけれど、そのころの二人にはまだ難しい話題だったかもしれない。

幼すぎて。

「うちの高校は地元の中学から上がってくる人ばかりだからさ、人間関係は継続されてるし、そのころには他の中学出身の連中とももう仲良くなってたから、情報は筒抜けでさ」
「ん? どういうこと?」

「つまり、僕が誰かとつきあってるらしい、っていう中学からの噂が、もう学年中に広まってたからね」

「なるほど。じゃあ、中3!」

「受験勉強してたよ。ほぼ大丈夫だと思ってたけど、念には念を入れて。俺だけじゃなくて、明里のも聞きたいな」

そう言って貴樹は話題を変えた。

「えー。それじゃあ……去年は学校の友達とお茶して、彼氏のいる友達を見送ったあと、貴樹くんに電話したでしょ? 高校2年のときは……便せんを出して、手紙を書こうとがんばってたの。でも、書けなかった」

「責めるつもりじゃないけど、どうして?」

「怖かった。私のことがいらないんじゃないかって。だけど、手紙が来るからしょうがなく返事を書いてるだけじゃないかって。私が好きだって書いても、そのまま流されてしまうんじゃないかって……」

「俺がちゃんと書けばよかったんだよね……。今思えば、なにを意固地になってたんだろうって思うんだけど……。きっと最初に考えたことを曲げると、良くないと思ってたんじゃないかな……じゃあ、続き。高校1年のころは?」

「うーん、なにしてたっけ……あ、理子やほかの女の子たちが映画見に行こうって。それでついてったら4対4のグループ交際みたいな感じになってて。それで私そんなこと全然聞いてなかったから、体調が悪くなったフリして家に帰った」

「へえええ……そんなことあったんだ。でも、手紙にそのこと書いてなかったよね」

「書くと心配すると思って……」

「うん……たぶん心配したろうな。でも、もしかしたら、それで焦って、『好きだ!』って手紙に書いたかもしれない」

「そうか……私たちって、たぶんはたから見るとものすごくイライラする関係だったのかなあ」

「そうかもね……お互いわかっているのに、いやわかっているからこそ核心に触れなくて、気を使うことで誤解して……直接話せばすぐに解決できたことだったのに。……それで、飯田さんたちはどうして明里に声をかけたの?」

「ん……そのころは私に貴樹くんという存在がいるって誰も知らなくて、私がフリーだと思ってたみたいで、私とくっつけようとしてた男の子がいたみたいなの。ずいぶんあとに聞いた話だけど」

「なるほどね。じゃあ中3は?」

「それは貴樹くんと一緒。受験勉強してた」

「では中2」

「貴樹くんといっしょに過ごせることを想像しながら、手紙を書いた気がする」

「あ、そういえば、やたらクリスマスの話題が書かれてた手紙があったなあ」

「あれ、そういえば貴樹くんの中2は? まだ聞いてないよ」

明里がそういうと貴樹がバツの悪そうな顔をした。

(つづく)

このページへのコメント

ありがとうございます。

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Posted by ふなはし 2014年04月14日(月) 21:23:21 返信

待っていました。つづき期待しています。頑張ってください‼︎

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Posted by 秒速500センチメートル 2014年03月29日(土) 00:10:08 返信

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