新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

「明里っ!!」

貴樹の放った声が夏空に響いて、明里はそこに初恋の人を見つけた。

ずっと。

ずっと会いたかった人に。

声を出そうとしても、喉でつっかえて何も出てこない。
目は見開いたままで、息をすることも忘れかけた。

「来るならっ! どうして知らせなかったっ! どれだけ心配したと思ってるんだっ!」

がやがやしていた生徒達が、貴樹の一声で静まり、そしてまたガヤつく。

「あれ、遠野だろ?」

「知り合い?」

「どうしたの?」

そんなささやき声が夏風にさざめく。

「明里。呼んでるよ」

前を歩いていた理子が振り返り、凍ったままになっている明里に話しかける。

「あっ……ああ……」

声が出せない。

理子は明里の背中をバシッと叩いて言った。

「あんた、今行かないと、一生後悔するわよっ!」

びくんっと理子のほうを向いた明里は軽くうなづいて、それから数歩、貴樹のほうへ歩く。眩しそうな、泣きそうな、そんな表情で。

貴樹はもどかしげに続ける。

「手紙だって!」

「だって、貴樹くんは! 楽しそうで! もう私のことなんて!」

そこまで言うと、明里はぐっと吹き出しそうな涙をこらえて叫んだ。

「私なんて、いらないんでしょ!!」


夏風がグラウンドの砂を巻き上げ、二人の間に逆巻く。

貴樹の表情が意表を突かれたかのよう変わって、首を左右に振ると、まっすぐに明里を見すえて言い放った。


「俺がっ! 好きなのはっ! 明里だけだっ!」


その言葉が、明里の心の奥底にずっと沈んでいた、感情の氷ともいうべきものを瞬時に溶かした。そして、その瞳から流れ出ていく。

ゆっくりと歩き出した明里はやがて駆け出して、ぶつかるように貴樹に抱きついた。

一連のシーンを見ていた生徒達は一瞬息を飲み、「おおおおっっ」というような低い歓声をあげる。
朝礼台の横に並んでいた「えらい人たち」がポカンとしている。

「やばい……!」

理子が駆け出して、朝礼台の上の、マイクスタンド前で突っ立っていた女性に「マイク貸してください」と頼んだ。そして、有無を言わさず奪い取ってスイッチを入れる。

「この二人は」

理子の声が校庭に流れる。

「東京で知り合いました……初恋同士なんです。でも、」

涙声になっていく。話していて、まるで自分の身に起きたかのように理子は感じていた。

この二人は、本当に苦労したの。大変だったの、と。

「親の転勤で、引き裂かれて……。ずっと手紙だけでつながっていて」

名もない鳥が切ない鳴き声を上げた。

「5年ぶりなんです……会うのが……だから、しばらくこのままで……」

そういうと理子は涙が止められずマイクを遠ざける。
泣き声なんて流したくない。

理子の話を聞いて、もらい泣きしている生徒もいた。


グラウンドにいるみんなが、その中央で抱き合っている二人を見つめていた。

(つづく)

このページへのコメント

やった!!!!!!
そうなんです!!
これなんです!!!
この展開をまっていたんです。

あのふたりには幸せになってほしい。
こうなってほしいのひとこと
この展開を見たくて、2次創作の世界まで来たんです。
ありがとうございます。
ほんとうに、ありがとうございます。

1
Posted by 19のままさ 2017年04月05日(水) 23:46:45 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

各話へ直結メニュー

第1シリーズ

その他

言の葉の庭

言の葉の庭、その後。

映像





食品




書籍・電子書籍

・書籍






電子書籍(Kindle)



管理人/副管理人のみ編集できます