新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

「あなた、また断ったの?」

登校してきてすぐに私を見つけた理子が、半ばあきらめたような表情で私を見つめた。

「だって、よく知らない人だし」

ため息をつきながら「まあ、あなたが『よく知ってる人』なんていう男子はいないでしょうけど」と言う。たしかにそうかもしれない。基本的に興味がないのだ。

「それにしても、これで8人めよ」

びっくりするようなことを言う。私だって知らないのに。

「私だって覚えてないのに、よくそんなこと数えてるよね……」

「明里がぼーっとしてるからでしょ」

「そうかなあ」

「そうよ」

それで、理子がいうには、「中二の春から高校二年の春、つまり今日までの3年間で、私に告白してきた男子の数が8人」だそうだ。「何人かはいた」ぐらいしか認識していない私。理由は、そういうことに興味がないから。

いや、ないわけじゃない。好きな人がすでにいるから。

理子とは中二のとき、クラスが一緒になった。同じ岩舟に住んでいたということもあり仲が良くなった。私は文系だけど部活はバスケットを選んだのに対して、理子は理系で天文地学部に入っていた。ある意味、対照的な二人だったからウマがあったのかもしれない。

「だいたい、私が数えるハメになったのは、一番最初にあなた宛てのラブレターを私が代理でもらったからでしょ。忘れたの?」

「あ…、そうでした。いつもごめん」

理子だって十分魅力的な女の子だと思う。私と違って竹を割った性格というか、サバサバしていて気風のいいお姉さんタイプ。どちらかというと内気で穏やかな性格の私とはいいコンビだった。

東京の大学に進学希望だった私は、同じ希望だった理子と域内では一番の進学校へ進んだ。東京へ行くにはもちろん理由がある。
遠いところに行ってしまった、大好きな人と再び会えるようになるためだ。

転勤の多かった父親の都合で、小学校4年のときに私は東京へ転校した。
それまでに何度も転校を重ねていたため、友人をなかなか作ることができず、内気な性格になってしまっていた。そのとき、とても仲がよくなった男の子がいた。

遠野貴樹くん。

彼も転校を重ねていたので、私の境遇にすぐ気づいたようだ。
まだ体が丈夫でなかった私と彼は図書室で一緒に過ごすことが多くなった。
小学校の高学年ともなれば、そんな関係はクラスメイトのかっこうの話題の種になるけれど、彼は毅然として私のことを守ってくれた。

私たちはいつも二人でいた。
そして、一緒に私立中学に進もうと決心し、難関を突破。
あと3年は私たちは一緒にいられる、そう思った矢先に父親の再度の転勤が決まってしまった。

これまで反抗したことのなかった私が泣いてお願いしたけれど、それは無理な話で無駄な抵抗だった。私は岩舟の公立中学へ、貴樹くんは西中へ進学。

栃木に行くことになったと告げた電話で、私と彼の蜜月は終わった、そう思っていた。

(つづく)

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