新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

明里の予測は外れた。
なんと、1位でミスコン予選3年生の部を通過してしまったのだ。

「黙ってりゃいいのに、本城が集票活動みたいなことをしたらしいのよ。それで、あのコ、確かに人気はあるんだけど、目立つだけにアンチもけっこういてさ。それで中立派というか、「まあどっちでもいいんじゃない」と思ってた人たちが「たかが高校の学祭のミスコンで選挙活動みたいなことしてんじゃないよ」って批判が高まって、その批判票が全部あんたへの支持っていう形になって入ったみたいなのよね」

理子が集めてきた情報を元に分析・解説する。

「どうして、芝山さんじゃなくて私だったのかなあ」

「芝山ももともと一部には人気のあるコだったけど、胸が大きいからって、得意気にスリーサイズを書いたのがよくなかったらしい。女に貞淑さというか、奥ゆかしさを求めてる男もいるってことかな」

「はあ……」

「それとあんたのアンケートの答え。完全に裏目に出てる」

完璧だと思っていた戦術が裏目に出たと聞いて、明里もどういうことかと不思議に思う。
明里にしては珍しい表情……いぶかしげな、険しい顔だ。

「どういうこと?」

「つまりね、いまどき、初恋を貫徹して恋愛を続けているという一途さに萌えた一群が一つ」

「うん」
まあ、そういうピュアな人たちもいるだろう。

「奥手に見えていて13歳でのファーストキスを公表するという大胆さが、それまでの大人しい清楚なイメージとのギャップがあって、そこに萌えた野郎どもという一群が一つ」

「うん」
う……ん、よくわからないけれど、落差に惹かれる人がいる、というのはテレビで見たことがあるけれど、でも、

「さらに、さっき言った本城・芝山への批判票組。その三つが合わさって、ダントツで予選通過」

「はぁ……」
男ってよくわからないなあ、と明里は思う。

「なんかね、クラスでも活発で目立つグループと、勉強はできるけど大人しいグループに分かれるじゃない、男子も女子も。で、かわいい子はたいてい目立つグループだけど、たまに、大人しいグループにかわいい子がいたりすると、男子たちは『俺だけが知っている』みたいに思ってしまうそうなのよ。俺には審美眼がある、なんて勘違いしちゃう」


「つまり、その『俺だけが知っている、大人しいグループにいるかわいい子』が私?」
目立たないように処世してきたことが逆の効果を発揮してしまったのだろうか。
そして、能天気に過ごしてきた学生生活だけれど、常に自分の上には注視している視線があったのだろうか。そう思うと怖い気がした。

「そういうこと。表には出てこなかったけれど1年のころからけっこう根強い人気はあったみたい。まあ、あれだけ告られてるんだから、自覚はあるでしょ」

「はぁ……」
実はあまり自覚がない明里なのだ。

「今回、ライバルたちの失敗とあんたのもくろみが裏目になってこうなっちゃったと」

「困ったなあ……」


そうは言っても「彼氏がいる」と公表したことで、告白の嵐は去った。
それが当初の目的だったのでよいことだったのだが、別の面倒が起きることになってしまった。つまり、

「彼氏って誰」

という詮索の嵐だ。

最初は「秘密」と答えようかと思ったが、「票を集めるための嘘の彼氏」なんて言われるかもしれないよ、と理子に忠告されて、素直に「鹿児島に住んでいる、元同級生」と答えることにした。

どんな人? と聞かれたときに言葉で説明するのが面倒になったので、百聞は一見に如かずと、夏休みに貴樹が上京したさい、二人で撮ったプリクラを「閲覧用」に用意した。
もちろん、貴樹に事情を説明して。

貴樹は心配しつつも「明里を信じるよ」と言ってくれた。

だから、「彼氏って誰?」と聞かれたときには「この人」とそれを見せる。貴樹の容姿を見て、納得顔になる人もたくさんいた。
確かに明里と貴樹は美男美女の仲のよいカップルに写っていたから。

1週間ほどで情報が行きわたったのだろう、詮索の嵐も通り過ぎ静かになった。

「理子はもしかしたら、調査・分析の仕事というか、危機管理の仕事が向いてるかもね」

「んー、今回のことで確かに私には向いてるかもしれない、とは思ったけどさ」
笑いながら言う。


「でも、学園祭当日の行事は正直、面倒だなあ……」

「なにやらされるの?」

「質疑応答は、まあ、アンケートと同じようなものだから、『貴樹くんラブ』っていう答えでいいんだけど……」

「特技披露が問題……?」

「私、別に特技とかないし。棄権できないの? って聞いたら、ダントツで1位だからダメって原口さんが」
そういうと理子がしかめつらをした。そこまで意識しなくてもいいんじゃない、と明里は思うけれど。

「バスケで3ポイントシュート決める、とか」

「一発でそれが出来たらレギュラーになれてたよ」

「そっか……」

「あ!」
明里が何か思いついたようだ。晴れやかな顔。アニメだったら、頭の上に電球が光っているかもしれない。

「ん?」

「理子、ありがと、思いついた」

そういうと、「ね、練習するから帰ろ」と理子を促した。

(つづく)

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