最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 16:38:07履歴
「やっぱ、あの雪の日ってことになるのかな」
貴樹が言う。
「そう……うん。としたら、中一だよね。13歳」
「でも、ちゃんと恋人になってって言ったのは、日食の前の日だし。そしたら、高校3年、17歳か」
「でもさ、小学校のときも実質上、つきあってたようなもんだよ?」
「ん……やってることはそうだったよね。あれはデートと呼んでも差し支えないし……」
二人で顔を見合せながら小声で話し合っている。
「なんだか二人になってもごちゃごちゃ言ってるなあ」
稲垣が呆れている。
「とにかく、すげー前からってことか。次、篠原は確か栃木に転校したじゃん、今は一人暮らし?」
「うん、そうだよ」
「遠野は?」
「俺も一人暮らしだけど……結構、俺達ってややこしいんだよ、住所の変遷は」
「ややこしい?」
不思議な顔で稲垣が聞き返す。
「まず、俺は小学校卒業して、西中に行ったけど」
「そそ、篠原も合格してただろ?」
「私は、でも栃木に行っちゃって」
「それで、俺も中一いっぱいで鹿児島に転校しちゃったんだ」
「鹿児島?」
「そう。しかも種子島」
そのあとを引き取って明里が言う。
「それで、貴樹くんは中学、高校と種子島にいて、大学合格して一昨年上京してきたの。私は中学、高校と栃木で同じタイミングで上京」
「ていうことは、小学校卒業してから二人は『長距離恋愛』してたってこと?」
「まあ、そういうことになるのかなあ」
へぇーーーってという声が店に響く。
「よく6年も続いたよなあ。中学・高校の6年間だろ?」
「あ……、実は1年は手紙が途切れてて、ダメになりそうだったの。でも、私の友達が後押ししてくれて。3年前、種子島で皆既日食があったでしょ? その共同研究で種子島に行くことが出来て……それで再会」
明里がしみじみとかみしめるように語る。
この話は何度かしているのだけど、そのたびごとに奇跡なんだと何度も思うから。
ロマンティック〜〜という声が女性陣から流れる。
「もしかして、その時、二人は種子島の高校のグラウンドで……生徒の前で抱き合わなかった?」
不意にメガネをかけた真面目そうな男が聞いた。
表情が固まる二人。
「な、なんで……それを……あ、もしかして」
「その顔だとやっぱりそうなんだ」
「青葉……だよな?、写真、詳しいのか?」
貴樹がメガネの男に尋ねる。
「覚えててくれたか。そう、青葉だよ。俺、今、写真専門学校行ってるんだ。それで、コンテストにも出品してるから、その手のコンテスト入賞作は完全に把握してる」
稲垣が聞く。
「おい、青葉。どういうこと?」
「一昨年の読切新聞主催の写真コンテストの特賞作品。確か、タイトルは『Distance -5年ぶりの再会-』だったかな。背景には驚いた顔で見つめている整列した高校生。中央には抱き合ってる制服の男女。顔は女の子しか見えないんだけど、篠原に似てるなあってずっと思ってて。でも、撮影場所は種子島だし、他人の空似かなとも思ってたんだけど……。とてもいい写真だよ」
「コンテストの特賞!?」
「抱き合ってるところ?」
「それってお前たちなの?」
と口々に質問が飛ぶ。
「ん……そう。文通してたんだけど、いろいろあって1年くらい途絶えてたの。それでいきなりみんなの前で貴樹くんが「好きだ!」なんて大声で叫ぶんだもん、もううれしくて泣くしかなかった」
とつとつと明里が語るので、みんなもかたずをのんで聞いている。
貴樹は頭をかきながら無言で照れていた。
「それで一緒に種子島に行った部活の後輩が、天体写真専門の子でね。でも、私たちのそのシーンを見て、なんだか感動したらしくて、初めて人物を撮りたい、今この瞬間を切り取りたいって思ったんだって。それで、撮ってたの。その写真は私や貴樹くんにくれたんだけど、あまりにいい写真だから、コンテストに出していいかって聞かれて……」
明里が事情を説明した。後輩の浅倉が初めて撮った人物写真が、入選してしまっていたのだ。
「俺は電話で相談されたけど、まあ、そんなに簡単に入賞なんてしないだろうからって思ってたら」
「バンっとこのくらい大きく、全国紙の読切新聞に載ってしまったというわけ」
と、四つ切サイズくらいの大きさを両手で示して青葉が引き継ぐ。
「あとあと、大変じゃなかったの? そんな写真載っちゃって」
水谷が心配しながら聞いてくる。
「俺のほうはみんなの前でやっちゃったからね。今更写真が出てもとくに問題はなかったけど」貴樹が言う。
「私のほうがちょっとね」
明里で言うと。
「どんな?」稲垣が聞いた。
(つづく)
貴樹が言う。
「そう……うん。としたら、中一だよね。13歳」
「でも、ちゃんと恋人になってって言ったのは、日食の前の日だし。そしたら、高校3年、17歳か」
「でもさ、小学校のときも実質上、つきあってたようなもんだよ?」
「ん……やってることはそうだったよね。あれはデートと呼んでも差し支えないし……」
二人で顔を見合せながら小声で話し合っている。
「なんだか二人になってもごちゃごちゃ言ってるなあ」
稲垣が呆れている。
「とにかく、すげー前からってことか。次、篠原は確か栃木に転校したじゃん、今は一人暮らし?」
「うん、そうだよ」
「遠野は?」
「俺も一人暮らしだけど……結構、俺達ってややこしいんだよ、住所の変遷は」
「ややこしい?」
不思議な顔で稲垣が聞き返す。
「まず、俺は小学校卒業して、西中に行ったけど」
「そそ、篠原も合格してただろ?」
「私は、でも栃木に行っちゃって」
「それで、俺も中一いっぱいで鹿児島に転校しちゃったんだ」
「鹿児島?」
「そう。しかも種子島」
そのあとを引き取って明里が言う。
「それで、貴樹くんは中学、高校と種子島にいて、大学合格して一昨年上京してきたの。私は中学、高校と栃木で同じタイミングで上京」
「ていうことは、小学校卒業してから二人は『長距離恋愛』してたってこと?」
「まあ、そういうことになるのかなあ」
へぇーーーってという声が店に響く。
「よく6年も続いたよなあ。中学・高校の6年間だろ?」
「あ……、実は1年は手紙が途切れてて、ダメになりそうだったの。でも、私の友達が後押ししてくれて。3年前、種子島で皆既日食があったでしょ? その共同研究で種子島に行くことが出来て……それで再会」
明里がしみじみとかみしめるように語る。
この話は何度かしているのだけど、そのたびごとに奇跡なんだと何度も思うから。
ロマンティック〜〜という声が女性陣から流れる。
「もしかして、その時、二人は種子島の高校のグラウンドで……生徒の前で抱き合わなかった?」
不意にメガネをかけた真面目そうな男が聞いた。
表情が固まる二人。
「な、なんで……それを……あ、もしかして」
「その顔だとやっぱりそうなんだ」
「青葉……だよな?、写真、詳しいのか?」
貴樹がメガネの男に尋ねる。
「覚えててくれたか。そう、青葉だよ。俺、今、写真専門学校行ってるんだ。それで、コンテストにも出品してるから、その手のコンテスト入賞作は完全に把握してる」
稲垣が聞く。
「おい、青葉。どういうこと?」
「一昨年の読切新聞主催の写真コンテストの特賞作品。確か、タイトルは『Distance -5年ぶりの再会-』だったかな。背景には驚いた顔で見つめている整列した高校生。中央には抱き合ってる制服の男女。顔は女の子しか見えないんだけど、篠原に似てるなあってずっと思ってて。でも、撮影場所は種子島だし、他人の空似かなとも思ってたんだけど……。とてもいい写真だよ」
「コンテストの特賞!?」
「抱き合ってるところ?」
「それってお前たちなの?」
と口々に質問が飛ぶ。
「ん……そう。文通してたんだけど、いろいろあって1年くらい途絶えてたの。それでいきなりみんなの前で貴樹くんが「好きだ!」なんて大声で叫ぶんだもん、もううれしくて泣くしかなかった」
とつとつと明里が語るので、みんなもかたずをのんで聞いている。
貴樹は頭をかきながら無言で照れていた。
「それで一緒に種子島に行った部活の後輩が、天体写真専門の子でね。でも、私たちのそのシーンを見て、なんだか感動したらしくて、初めて人物を撮りたい、今この瞬間を切り取りたいって思ったんだって。それで、撮ってたの。その写真は私や貴樹くんにくれたんだけど、あまりにいい写真だから、コンテストに出していいかって聞かれて……」
明里が事情を説明した。後輩の浅倉が初めて撮った人物写真が、入選してしまっていたのだ。
「俺は電話で相談されたけど、まあ、そんなに簡単に入賞なんてしないだろうからって思ってたら」
「バンっとこのくらい大きく、全国紙の読切新聞に載ってしまったというわけ」
と、四つ切サイズくらいの大きさを両手で示して青葉が引き継ぐ。
「あとあと、大変じゃなかったの? そんな写真載っちゃって」
水谷が心配しながら聞いてくる。
「俺のほうはみんなの前でやっちゃったからね。今更写真が出てもとくに問題はなかったけど」貴樹が言う。
「私のほうがちょっとね」
明里で言うと。
「どんな?」稲垣が聞いた。
(つづく)
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