最終更新: centaurus20041122 2014年10月16日(木) 22:13:53履歴
その年の明里の誕生日は火曜日だった。
すなわち、久しぶりに予定されているロケット打ち上げの日でもあった。
宿泊場所もそうだが、もっとも重要なのは渡航手段だ。
種子島にも空港はあるが、鹿児島空港との間にしか航空便は飛んでいない。
海路も同様だ。
だから、まずは鹿児島を目指す必要があった。
鹿児島便は比較的多く飛んでいる。
とはいえ、ロケット打ち上げを見たいファンは多数にのぼる。いくら、秋の平日とはいえ、飛行機のキャパシティを超えるだろう。
しかし、奇跡的に明里たち家族は、打ち上げ2日前の日曜日の昼便を確保することに成功した。鹿児島まで行ければ、あとは最悪、船便でもたどり着ける。
月曜から水曜までの三日間、仕事や学校を休むことにしたのは、それが「重要」だと明里の父が判断したからだった。
ロケットの打ち上げを見るのは好きだった。
初めて、アメリカがスペースシャトルを打ち上げたとき、日本でも生中継されたのだが日本では真夜中だった。明里の父は、親たちにバレないように自室のテレビを布団の中に引っ張り込んで明かりが漏れないようにし、イヤホンを取りつけて音漏れに気をつけて、万全の体制で放送を見たくらいだ。
問題は宿泊場所だった。
当初は西之表のホテルを取ろうかと考えていたが、娘の元同級生がいて、泊めてくれるという話を聞いた。場所を確認すると、打ち上げ場所にも近い。
妻から、娘とその元同級生との話も聞いて複雑な思いを抱きもした。
一人娘の初恋相手。
母親の前でさえ、口づけを交わしたという相手。
ロケットの打ち上げを見たい、と言ってはいるが、100%、その元同級生に会いたいからなのだろう。
男親としては嫉妬に値する対象だ。
それらすべての事象は、行って会ってみたら何かが動くかもしれないし、新しいシーンが開かれるかもしれない。妻同士は面識があるのだがら、挨拶するにしくはない。
鹿児島からの航空便は押さえられなかったので、船便で西之表に着き、そこで予約していたレンタカーを借りることとなった。
--
天気は大丈夫だ。
貴樹は1週間前から新聞やテレビの天気予報をことあるごとに見ていた。
天気は大丈夫だ。あとはロケットに不具合がなければ打ち上げられる。
そう考えてふと思う。
最悪、打ち上げが延期になっても、日曜日までにそれが発表されなかったら、明里は島に来る。
心に浮かんだ黒い予測を、頭を振って打ち消す。
--
妻から想定外の相談を受けた貴樹の父は、絶句していた。
なにをどう言っていいのか、わからなかった。
息子には東京で恋人が出来ていた。まだ小学生の頃に。
妻から「仲のいい同級生がいて、たまに遊びに来る」とは聞いていたが、まさか女の子だったとは。
半年前にこちらに移ってくるときに、羽田空港まで見送りに来てくれたのだが、先方の母親や妻がいるにも関わらず、ラブシーンを演じたという。
息子が東京で私学の進学校に行ってたので、成績は心配していなかったが、そちらの方面でも早熟だったのかと嘆息する。
そして、その家族が、10月のロケット打ち上げの見学に来る。宿泊先を手配を進めているが、もし取れなかった場合、泊めてもらえまいか、という話だったのだ。
いくら色恋沙汰に疎い貴樹の父でも「ロケット打ち上げは名目で、息子に会いに来るのだろうな」というのは分かっていた。わからないのは、家族全員で、というところだ。
「まだ、中学2年ということもあるし、私と先方の奥さんは面識がありますし。それと、遠野さんの旦那さまはどうも、ロケットマニアらしいんですよ」
少し誇張して妻が言う。西之表のホテルから中種子の民宿まで当たってはいるが、
最悪の場合、御厄介になることはできませんか、という打診だ。
「会いたいと言われて、嫌だということもなかろう。どうも父親同士だけが面識がないようだしな」
そういう言葉で貴樹の父は滞在を認めることとなった。
(つづく)
すなわち、久しぶりに予定されているロケット打ち上げの日でもあった。
宿泊場所もそうだが、もっとも重要なのは渡航手段だ。
種子島にも空港はあるが、鹿児島空港との間にしか航空便は飛んでいない。
海路も同様だ。
だから、まずは鹿児島を目指す必要があった。
鹿児島便は比較的多く飛んでいる。
とはいえ、ロケット打ち上げを見たいファンは多数にのぼる。いくら、秋の平日とはいえ、飛行機のキャパシティを超えるだろう。
しかし、奇跡的に明里たち家族は、打ち上げ2日前の日曜日の昼便を確保することに成功した。鹿児島まで行ければ、あとは最悪、船便でもたどり着ける。
月曜から水曜までの三日間、仕事や学校を休むことにしたのは、それが「重要」だと明里の父が判断したからだった。
ロケットの打ち上げを見るのは好きだった。
初めて、アメリカがスペースシャトルを打ち上げたとき、日本でも生中継されたのだが日本では真夜中だった。明里の父は、親たちにバレないように自室のテレビを布団の中に引っ張り込んで明かりが漏れないようにし、イヤホンを取りつけて音漏れに気をつけて、万全の体制で放送を見たくらいだ。
問題は宿泊場所だった。
当初は西之表のホテルを取ろうかと考えていたが、娘の元同級生がいて、泊めてくれるという話を聞いた。場所を確認すると、打ち上げ場所にも近い。
妻から、娘とその元同級生との話も聞いて複雑な思いを抱きもした。
一人娘の初恋相手。
母親の前でさえ、口づけを交わしたという相手。
ロケットの打ち上げを見たい、と言ってはいるが、100%、その元同級生に会いたいからなのだろう。
男親としては嫉妬に値する対象だ。
それらすべての事象は、行って会ってみたら何かが動くかもしれないし、新しいシーンが開かれるかもしれない。妻同士は面識があるのだがら、挨拶するにしくはない。
鹿児島からの航空便は押さえられなかったので、船便で西之表に着き、そこで予約していたレンタカーを借りることとなった。
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天気は大丈夫だ。
貴樹は1週間前から新聞やテレビの天気予報をことあるごとに見ていた。
天気は大丈夫だ。あとはロケットに不具合がなければ打ち上げられる。
そう考えてふと思う。
最悪、打ち上げが延期になっても、日曜日までにそれが発表されなかったら、明里は島に来る。
心に浮かんだ黒い予測を、頭を振って打ち消す。
--
妻から想定外の相談を受けた貴樹の父は、絶句していた。
なにをどう言っていいのか、わからなかった。
息子には東京で恋人が出来ていた。まだ小学生の頃に。
妻から「仲のいい同級生がいて、たまに遊びに来る」とは聞いていたが、まさか女の子だったとは。
半年前にこちらに移ってくるときに、羽田空港まで見送りに来てくれたのだが、先方の母親や妻がいるにも関わらず、ラブシーンを演じたという。
息子が東京で私学の進学校に行ってたので、成績は心配していなかったが、そちらの方面でも早熟だったのかと嘆息する。
そして、その家族が、10月のロケット打ち上げの見学に来る。宿泊先を手配を進めているが、もし取れなかった場合、泊めてもらえまいか、という話だったのだ。
いくら色恋沙汰に疎い貴樹の父でも「ロケット打ち上げは名目で、息子に会いに来るのだろうな」というのは分かっていた。わからないのは、家族全員で、というところだ。
「まだ、中学2年ということもあるし、私と先方の奥さんは面識がありますし。それと、遠野さんの旦那さまはどうも、ロケットマニアらしいんですよ」
少し誇張して妻が言う。西之表のホテルから中種子の民宿まで当たってはいるが、
最悪の場合、御厄介になることはできませんか、という打診だ。
「会いたいと言われて、嫌だということもなかろう。どうも父親同士だけが面識がないようだしな」
そういう言葉で貴樹の父は滞在を認めることとなった。
(つづく)
このページへのコメント
長かった…。待ちに待った甲斐がありました。
父親の心情を綴った、素晴らしいSSでした。
また続き、期待しています。