新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

10月15日の日曜日。
天気は秋晴れで日本国中の航空便はほぼタイムスケジュール通りに飛んでいた。
明里たち家族を載せたANA便も、定刻通りに羽田を飛び立ち、安定した大気の中、揺れることなく鹿児島空港に到着した。念のため、海路を押さえてはいたが、2日前の現地入りで、しかも日曜日の遅い午後ということもあって、種子島行きの空路も押さえることが出来ていた。

仮に船便となると空港から港まで1時間近くかかり、そこから水中翼船で90分かかることとなるが、空路だとわずか40分だ。

10月半ばの夕暮れ時に、篠原家は種子島空港のターミナルに降り立った。

ターミナルはロケット打ち上げの関係者や見学者であふれかえっていたが、人数自体がそれほど多くはないので流れのままに進んでいく。


ゲートをくぐるとそれほど迷うことなく、貴樹と貴樹の母を見つけることが出来た。

「明里!」

貴樹は思わず駆けだした。

半年前の羽田以来だ。
その前の岩舟のときは今生の別れだと覚悟していた。
しかし、それは違った。
自分たちの意志で、力で、動けばなんとかなるものなんだと感じた。

目の前にいる恋人の姿を見て、心がはやったが、今回は違った。

明里のお母さんは何度か会っているし、ラブシーンだって見られている。
でも、今回はお父さんもそばにいるのだ。
明里のお母さんを通して、二人がキスをしたことは知られているはずだけど。

どんな顔をしたらいいのかわからなかった。

しかし、駆けだして到着した篠原家の前まで来てしまったのだから、何かしら言わねばならない。

「あ、えーと。ようこそ、種子島へ」
差しさわりのない挨拶をまずしてから、明里の父親の方へ向き直った。

「はじめまして、遠野貴樹です。わざわざこんな遠いところまでありがとうございます」
そういうと、明里の父はいたずらっぽく「ロケットの打ち上げを見に来ただけだよ」と言ってにやりと笑い、「おとうさん!!」と明里に怒られて「うそうそ」ととりなしている。

「一家そろってお世話になります。……えっと、お父さんは?」
明里の父がキョロキョロと回りを見渡している。

「あ、父は家でお待ちしています。いろいろ準備もあるので」
「そうか。よろしくお願いします」
最後のほうのセリフは近寄ってきた、貴樹の母へ向けてのものだった。

空港近くのレンタカーで小型車を借り、貴樹の母が運転する車が先導して県道を南へ走る。10月の半ばの夕陽とはいえ南国の陽射しはまだ夏の残照が残り、ガラス越しの陽射しでさえ肌を焼きそうだ。

「久しぶりなんだから、一緒に乗っていけば」

母にそう言われて、明里は貴樹の母が運転する車に乗ることになった。
後部座席に並んで座り、運転席から見えないように体と体の間で手をつないだ。

貴樹の母がすぐ前にいるから、甘い会話などできない。
その分、つないだ手のぬくもりがカラカラに乾いていた心を潤していくようだった。

「せっかく会えたのに何も話さないの?」

運転中なので前を向いたまま、貴樹の母が不審がる。

「あ、えーと……半年ぶり」
間の抜けたことを貴樹が言ったものだから、思わず明里が噴き出してしまった。

「貴樹くん、ずいぶん陽に焼けたね」

「夏休みもクラブの練習で外に出てたからね」

「海は? 種子島はサーフィンが盛んだってきいたけど」

「泳ぎは……うーん、あまり好きじゃないんだ」

「え、知らなかった」

一度火がつくとたちまち二人の間は元に戻ったようで、車の中も穏やかな空気が流れていく。

30分ほどで貴樹の家に到着するころには夕焼けもピークを過ぎ、空は群青に染まり始めていた。

このページへのコメント

ずっと待ってました。
父親の前でドギマギする貴樹が健気で…。
これから種子島での束の間の物語を、楽しみに待ってます。

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Posted by りーる 2014年11月20日(木) 19:07:19 返信

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