最終更新: centaurus20041122 2014年11月28日(金) 21:31:27履歴
花苗は愛犬カブの散歩で県道沿いの野原にいた。
リードを外して自由に走り回らせてやる。
十分走り回らせて、再びリードをつなぎ、家へ向かい始めた。
夕陽がそろそろ遅い時間を告げ始めている。
このあたりを走る車はほとんど地元の自家用車か農作業用のトラクターなどだ。
だが、二日後のロケット打ち上げのせいか、この日は見慣れない車をよく見ていた。
もっと南に行けば南種子の打ち上げ場がある。それに仕事として関わる人たちはもうとっくに来島していたんだけど、そろそろ一般の観覧客が訪れ始めているのだろうか。
草原から県道のほうに出る。
すると北から乗用車が2台やってきた。
見覚えがある車だ。
実は以前に花苗は貴樹の家を「偵察」に行ったことがあった。
そのときに止まっていた車を見ていた。
覚えようと思って見たわけじゃなかったけれど、あふれる思いのせいか、車のイメージがそのまま頭の中に残っていた。ナンバープレートの、その番号までくっきりと残っている。
だから、瞬時に番号の照合が行われ、その車が貴樹の家のものである、ということがわかった。思わず視線が鋭くなる。
近づいてくる車の運転席には女性。年齢からして貴樹の母親だろうか。
花苗は会ったことがない。
車はゆっくりとしたスピードで走っていた。
ちらりと後ろの車を見るとナンバープレートに「わ」の文字。
レンタカーだというのは花苗も知っていた。
なんとなく、後ろの車を先導するように走っているように見える。
視線を貴樹の家の車に戻すと後部座席の風景を見て衝撃が走った。
貴樹が、見知らぬ少女と並んで座っていた。
そして、今まで見たことのない満面の笑みで隣の少女を見つめていた。
学校でもにこやかなことが多いけれど、それとはまるでまったく違う瑞々しい笑顔だった。
私の好きな人をこんな笑顔にする人は誰?
愕然とした気持ちとなった瞬間、車が通過していく。
もう、花苗には何も考えられなくなっていた。
車列は滞りなく、貴樹の家に到着した。
エンジン音を聞いたのか、玄関先に貴樹の父が顔を出していた。
「遠路ようこそ、いらしゃいました」
貴樹はそういう父の顔を見て、思わず笑いそうになった。
いつも表情一つ変えない父が、なんと笑顔を作っている。
その顔が、まるで大理石を強引に動かして笑っているようで、ミシミシと音が聞こえてくるような笑顔なのだ。
「遠野さん、篠原と申します。このたびはぶしつけなお願いをいたしまして、申し訳ありません。また、快く宿を提供していただき、お礼申し上げます」」
明里の父が深々と頭を下げる。
電機メーカーの営業としてずっと生きてきたのだ。
このくらいは当たり前のようにやっている。
「いやいや、さあさ、お疲れになったでしょう。まずは荷をほどいて。それから風呂を使うなり、食事にするなりしましょう」
貴樹も驚くほど、父が案内をしている。
その父が、明里に視線をやった。
「明里さんだね?」
「はい」
「貴樹のこと、好きになってくれてありがとう」
不意に父親にそんなことを言われて、貴樹は思わず「おとうさん!!」と叫んでいた。
「なんだ……貴樹、別に恥ずかしがることはないじゃないか。人を好きになる事は恥じることじゃないぞ」
いつもの厳格そうな父にそう言われて、不思議な気持ちになる。
「立ち話もなんだから、ささ、中へ」
日暮れの闇が近寄る中、篠原家の三人は遠野家の客となった。
リードを外して自由に走り回らせてやる。
十分走り回らせて、再びリードをつなぎ、家へ向かい始めた。
夕陽がそろそろ遅い時間を告げ始めている。
このあたりを走る車はほとんど地元の自家用車か農作業用のトラクターなどだ。
だが、二日後のロケット打ち上げのせいか、この日は見慣れない車をよく見ていた。
もっと南に行けば南種子の打ち上げ場がある。それに仕事として関わる人たちはもうとっくに来島していたんだけど、そろそろ一般の観覧客が訪れ始めているのだろうか。
草原から県道のほうに出る。
すると北から乗用車が2台やってきた。
見覚えがある車だ。
実は以前に花苗は貴樹の家を「偵察」に行ったことがあった。
そのときに止まっていた車を見ていた。
覚えようと思って見たわけじゃなかったけれど、あふれる思いのせいか、車のイメージがそのまま頭の中に残っていた。ナンバープレートの、その番号までくっきりと残っている。
だから、瞬時に番号の照合が行われ、その車が貴樹の家のものである、ということがわかった。思わず視線が鋭くなる。
近づいてくる車の運転席には女性。年齢からして貴樹の母親だろうか。
花苗は会ったことがない。
車はゆっくりとしたスピードで走っていた。
ちらりと後ろの車を見るとナンバープレートに「わ」の文字。
レンタカーだというのは花苗も知っていた。
なんとなく、後ろの車を先導するように走っているように見える。
視線を貴樹の家の車に戻すと後部座席の風景を見て衝撃が走った。
貴樹が、見知らぬ少女と並んで座っていた。
そして、今まで見たことのない満面の笑みで隣の少女を見つめていた。
学校でもにこやかなことが多いけれど、それとはまるでまったく違う瑞々しい笑顔だった。
私の好きな人をこんな笑顔にする人は誰?
愕然とした気持ちとなった瞬間、車が通過していく。
もう、花苗には何も考えられなくなっていた。
車列は滞りなく、貴樹の家に到着した。
エンジン音を聞いたのか、玄関先に貴樹の父が顔を出していた。
「遠路ようこそ、いらしゃいました」
貴樹はそういう父の顔を見て、思わず笑いそうになった。
いつも表情一つ変えない父が、なんと笑顔を作っている。
その顔が、まるで大理石を強引に動かして笑っているようで、ミシミシと音が聞こえてくるような笑顔なのだ。
「遠野さん、篠原と申します。このたびはぶしつけなお願いをいたしまして、申し訳ありません。また、快く宿を提供していただき、お礼申し上げます」」
明里の父が深々と頭を下げる。
電機メーカーの営業としてずっと生きてきたのだ。
このくらいは当たり前のようにやっている。
「いやいや、さあさ、お疲れになったでしょう。まずは荷をほどいて。それから風呂を使うなり、食事にするなりしましょう」
貴樹も驚くほど、父が案内をしている。
その父が、明里に視線をやった。
「明里さんだね?」
「はい」
「貴樹のこと、好きになってくれてありがとう」
不意に父親にそんなことを言われて、貴樹は思わず「おとうさん!!」と叫んでいた。
「なんだ……貴樹、別に恥ずかしがることはないじゃないか。人を好きになる事は恥じることじゃないぞ」
いつもの厳格そうな父にそう言われて、不思議な気持ちになる。
「立ち話もなんだから、ささ、中へ」
日暮れの闇が近寄る中、篠原家の三人は遠野家の客となった。
このページへのコメント
初めまして、こんにちは。今日見つけて読み始めてみたらいつの間にか全部読んでいました、とても整った文章で読みやすく、面白かったです。すごく設定が丁寧なので「あの世界の2人ももしかしたこうなっていたかも…」と考えてしまいます…笑 続き、楽しみに待っています。
何故かこのサイトにたどり着け、とても楽しく拝読させていただきました。
ほぼ毎日繰り返し拝読させて頂いております。
12がとても楽しみです、どの様な展開になるのかワクワクお待ちしております。
コメントありがとうございます。
私も久しぶりにここを開いたのですが、
まだ見てくださる方がいてうれしいです。
あれから多忙でなかなか時間が取れないのですが、
構想はあるのでがんばってみます。
こめんとありがとうございます。
なかなか都合がつかずなんですが、がんばってみます。
この続きを是非読みたいです。
何年も何年も誰かを待ち続けてる主人公の気分…。
もしできたら、お願いします。
いやあ、とても良かったです。
秒速5センチメートルを視聴してモヤモヤっとしていた気持ちが晴れるような素晴らしい作品でした。
作者さまにお時間があるときにでも続きを書いてもらえたら、と期待してしまいます。