最終更新: centaurus20041122 2014年03月24日(月) 15:54:59履歴
ゴールデンウィークの前に、生徒手帳の交換があった。高校1年のときに使っていたものを返し、高校2年用のものをもらう。毎年のしきたり。
学生鞄の中から手帳を取り出した、そのとき。はらりと写真が落ちた。
後ろに座っていた理子が拾い上げる。
「あれあれあれ〜 明里さあ、誰、このイケメン?」
指でつまんで、ひらひらさせている。
それは生徒手帳に挟んであった貴樹くんの写真だった。
頭がカッとなる。自分に「怒る」という感情はないのではないか、と思っていたのに、それはまるで、心の根源から湧きあがってきて、感情を突き動かした。
私の大切な人を、そんなにぞんざいに扱わないで!
私は授業中だというのに、そして、一番仲のいい相手だというのに、これまでにない大きな声で、鋭い怒声を放ってしまった。
「返してっ!!!」
教室に、静寂が走る。
普段、おとなしくて、温厚な私が、そんなにも激しい感情のほとばしりを見せたことに、担任教師もクラスメートも驚いていた。
「あ……ごめん」
二つの目と口をぽっかりあけたまま、理子は写真を渡した。
ひったくるように写真を奪うと、胸にかき抱くようにして、私は教室から走り出てしまった。
理子はとても大切な親友だけど、貴樹くんとのことは言っていなかった。
慣れたとはいえ、栃木で知り合った人たちに貴樹くんのことを言うのに抵抗を覚えていた。この土地の人のせいじゃないことはわかっているけれど、私がここに来たために私たちは……。
私は校舎をさまよい、結局、バスケ部の部室にたどりついていた。
ほどなく、ドアがノックされ、かちゃりと開く。
理子が追いかけてきてるのはなんとなくわかっていた。
「明里……いい?」
無言のまま、うなづく。
理子がおずおずと言った感じで入ってきた。こんなにおどおどしている理子を見るのは初めてでなんだか逆におかしかった。
「まずは……その、ごめんね。きっと、その写真の人、大切な人、なんだよね」
私は目を閉じた。涙が、一筋、流れる。
イエスともノーとも言わなかった。
「そして……、明里が言い寄る男どもを断り続ける原因も、その人なんだよね」
思わず閉じていた目を見開いて、理子を凝視してしまった。「そうだ」と言ってしまったようなものなんだけど。
「私……明里のこと親友と思ってる。だけど、その人のこと、ぜんぜん知らなかった。だから、なんだか、哀しい……」
気づくと、理子の瞳には涙が浮かんでいた。
理子の泣いている姿なんて初めて見る。
「明里に、あんなに激しいところがあるなんて知らなかった。きっと、クラス中のみんながそう思ってるよ」
「授業、さぼっていいの?」
私はそう言うことで矛先を変えようとした。
「学年トップの、秀才の理子さまは、一日ぐらいさぼっても平気なの」
まったくこの子は。
「勉強なんてあとでなんとでもなる。でも、明里とのことは今じゃないとダメだって思った。だから、来た。私のしたことで明里が、気分を害したなら、謝る。ごめん」
そうやって、腰を90度にまげて理子は謝罪していた。
私は思わず、手の中にあった貴樹くんの写真を見つめた。
「いい子じゃないか、許してあげなよ」
写真の中で柔らかく微笑む貴樹君がそう言った気がした。
(つづく)
学生鞄の中から手帳を取り出した、そのとき。はらりと写真が落ちた。
後ろに座っていた理子が拾い上げる。
「あれあれあれ〜 明里さあ、誰、このイケメン?」
指でつまんで、ひらひらさせている。
それは生徒手帳に挟んであった貴樹くんの写真だった。
頭がカッとなる。自分に「怒る」という感情はないのではないか、と思っていたのに、それはまるで、心の根源から湧きあがってきて、感情を突き動かした。
私の大切な人を、そんなにぞんざいに扱わないで!
私は授業中だというのに、そして、一番仲のいい相手だというのに、これまでにない大きな声で、鋭い怒声を放ってしまった。
「返してっ!!!」
教室に、静寂が走る。
普段、おとなしくて、温厚な私が、そんなにも激しい感情のほとばしりを見せたことに、担任教師もクラスメートも驚いていた。
「あ……ごめん」
二つの目と口をぽっかりあけたまま、理子は写真を渡した。
ひったくるように写真を奪うと、胸にかき抱くようにして、私は教室から走り出てしまった。
理子はとても大切な親友だけど、貴樹くんとのことは言っていなかった。
慣れたとはいえ、栃木で知り合った人たちに貴樹くんのことを言うのに抵抗を覚えていた。この土地の人のせいじゃないことはわかっているけれど、私がここに来たために私たちは……。
私は校舎をさまよい、結局、バスケ部の部室にたどりついていた。
ほどなく、ドアがノックされ、かちゃりと開く。
理子が追いかけてきてるのはなんとなくわかっていた。
「明里……いい?」
無言のまま、うなづく。
理子がおずおずと言った感じで入ってきた。こんなにおどおどしている理子を見るのは初めてでなんだか逆におかしかった。
「まずは……その、ごめんね。きっと、その写真の人、大切な人、なんだよね」
私は目を閉じた。涙が、一筋、流れる。
イエスともノーとも言わなかった。
「そして……、明里が言い寄る男どもを断り続ける原因も、その人なんだよね」
思わず閉じていた目を見開いて、理子を凝視してしまった。「そうだ」と言ってしまったようなものなんだけど。
「私……明里のこと親友と思ってる。だけど、その人のこと、ぜんぜん知らなかった。だから、なんだか、哀しい……」
気づくと、理子の瞳には涙が浮かんでいた。
理子の泣いている姿なんて初めて見る。
「明里に、あんなに激しいところがあるなんて知らなかった。きっと、クラス中のみんながそう思ってるよ」
「授業、さぼっていいの?」
私はそう言うことで矛先を変えようとした。
「学年トップの、秀才の理子さまは、一日ぐらいさぼっても平気なの」
まったくこの子は。
「勉強なんてあとでなんとでもなる。でも、明里とのことは今じゃないとダメだって思った。だから、来た。私のしたことで明里が、気分を害したなら、謝る。ごめん」
そうやって、腰を90度にまげて理子は謝罪していた。
私は思わず、手の中にあった貴樹くんの写真を見つめた。
「いい子じゃないか、許してあげなよ」
写真の中で柔らかく微笑む貴樹君がそう言った気がした。
(つづく)
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