最終更新: centaurus20041122 2014年04月16日(水) 23:44:53履歴
ダイニングの隣にある部屋に移動して、明里がパソコンを立ち上げる。
「ちょっと見せて……、明里、なにこのムキムキのスペック……」
「私、よくわからないから、貴樹くんに作ってもらった」
「これ、遠野君が組んだの?」
「うん」
「いくらくらい、予算」
「え、8万くらいかな……」
「安い!! 私にも組んで」
「いいけど……」
「それにしても、文学部の明里にこんなスペックで組まなくても」
あちこちプロパティを開きながら理子がチェックしている。
「デジカメで写真編集するからっていうから、グラボ積んで、ハードディスクとメモリをちょっと余計にしただけだよ?」
「遠野君自身のPCのスペックは?」
その質問の答えを聞いて理子は悶絶した。
「私の回りに、そんなギンギンにチューンしたPC持ってる人なんていないよ?」
そのあとの貴樹と理子の会話は専門用語が多すぎて、明里には半分くらいしかわからなかったけれど、自分の親友が、自分の恋人と仲良く話をしている姿というのは、見ていてうれしいものだ。
貴樹は理子が来週半ばまでに組まないといけないと言われているプログラムの仕様を聞き、要点を伝えたが、「とりあえず見本を組んでみるから」と自宅のメルアドを交換して、夜中の2時ころに帰っていった。
「同じマンションの、別々の部屋とは考えたものね」
理子が天井を見ながら問いかける。
セミダブルのベッドに二人で横たわって、明里と理子は話をしていた。
「一緒に暮らそう、とは言われなかったの?」
「それはなかった。ずっと会ってもいないのに、いきなり一緒に暮らすなんてことをしたら……」
「したら?」
「すぐにダメになると思ったから」
「どうして?」
「……手紙だけのつながりだったから、どうしてもお互い美化してしまっていると思うの。だから、私たちは徐々に慣れていかないとって思った」
その言葉を聞いて理子もなるほどと思う。自分には「遠距離恋愛」の経験はないけれど、そばにいつもいたって、相手を美化してしまうときはあるから。人は自分の判断に自信を持ちたいから、自分の選んだ相手を少しでもよく思おう、評価しようと考えてしまう。
「なるほど……遠野君が言ったの?」
「うん。なるほどなって思ったし、これまで親元で暮していて、まずは、自分一人で暮らすっていう経験を積まないといけないかなあって。せっかく、やっと会えたのに、不用意なことをしてこの気持ちを壊したくなかった」
「……結婚、考えてる?」
理子も明里も貴樹もまだ19歳。成人もしていない。
だけれど、この二人は長い間引き裂かれた分、ずいぶん老成している印象があった。
初々しさと老成と、その二律背反的な印象が、特異な関係を浮き立たせる。
「うん。貴樹くん、お父さんにそう言ってくれた」
「そ、そこまで進んでたの?」
やはりとは思ったけれど。
「私も聞いてなかった。いきなり言われて泣いちゃった」
「私もあんたに負けないくらいススんできたと思うけど、思いっきりぶっちぎられてるなあ……。このブランケットだって、男の子の匂い、するし」
「えっ」
そう言っていきなり焦る明里。そんなはずはない。だって、シーツは洗ったし、ブランケットだって客用の新しいのをおろしたから。
でも、そんなことを言われたら、やはり明里は焦る。
「あはは、ひっかかった。そうか、遠野くんここに……と思うと、ちょっと複雑だけど」
「もう……」
可愛くふくれる明里だった。
(つづく)
「ちょっと見せて……、明里、なにこのムキムキのスペック……」
「私、よくわからないから、貴樹くんに作ってもらった」
「これ、遠野君が組んだの?」
「うん」
「いくらくらい、予算」
「え、8万くらいかな……」
「安い!! 私にも組んで」
「いいけど……」
「それにしても、文学部の明里にこんなスペックで組まなくても」
あちこちプロパティを開きながら理子がチェックしている。
「デジカメで写真編集するからっていうから、グラボ積んで、ハードディスクとメモリをちょっと余計にしただけだよ?」
「遠野君自身のPCのスペックは?」
その質問の答えを聞いて理子は悶絶した。
「私の回りに、そんなギンギンにチューンしたPC持ってる人なんていないよ?」
そのあとの貴樹と理子の会話は専門用語が多すぎて、明里には半分くらいしかわからなかったけれど、自分の親友が、自分の恋人と仲良く話をしている姿というのは、見ていてうれしいものだ。
貴樹は理子が来週半ばまでに組まないといけないと言われているプログラムの仕様を聞き、要点を伝えたが、「とりあえず見本を組んでみるから」と自宅のメルアドを交換して、夜中の2時ころに帰っていった。
「同じマンションの、別々の部屋とは考えたものね」
理子が天井を見ながら問いかける。
セミダブルのベッドに二人で横たわって、明里と理子は話をしていた。
「一緒に暮らそう、とは言われなかったの?」
「それはなかった。ずっと会ってもいないのに、いきなり一緒に暮らすなんてことをしたら……」
「したら?」
「すぐにダメになると思ったから」
「どうして?」
「……手紙だけのつながりだったから、どうしてもお互い美化してしまっていると思うの。だから、私たちは徐々に慣れていかないとって思った」
その言葉を聞いて理子もなるほどと思う。自分には「遠距離恋愛」の経験はないけれど、そばにいつもいたって、相手を美化してしまうときはあるから。人は自分の判断に自信を持ちたいから、自分の選んだ相手を少しでもよく思おう、評価しようと考えてしまう。
「なるほど……遠野君が言ったの?」
「うん。なるほどなって思ったし、これまで親元で暮していて、まずは、自分一人で暮らすっていう経験を積まないといけないかなあって。せっかく、やっと会えたのに、不用意なことをしてこの気持ちを壊したくなかった」
「……結婚、考えてる?」
理子も明里も貴樹もまだ19歳。成人もしていない。
だけれど、この二人は長い間引き裂かれた分、ずいぶん老成している印象があった。
初々しさと老成と、その二律背反的な印象が、特異な関係を浮き立たせる。
「うん。貴樹くん、お父さんにそう言ってくれた」
「そ、そこまで進んでたの?」
やはりとは思ったけれど。
「私も聞いてなかった。いきなり言われて泣いちゃった」
「私もあんたに負けないくらいススんできたと思うけど、思いっきりぶっちぎられてるなあ……。このブランケットだって、男の子の匂い、するし」
「えっ」
そう言っていきなり焦る明里。そんなはずはない。だって、シーツは洗ったし、ブランケットだって客用の新しいのをおろしたから。
でも、そんなことを言われたら、やはり明里は焦る。
「あはは、ひっかかった。そうか、遠野くんここに……と思うと、ちょっと複雑だけど」
「もう……」
可愛くふくれる明里だった。
(つづく)
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