新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

25歳の11月、花苗は全日本サーフィン選手権で前人未到の6連覇を果たし、翌月、ハワイで行われるパイプラインコンテストに出場することになった。
もう4度も出場しているが、パイプラインの大波に毎回翻弄される形で終わってしまっていた。

しかし、今年は名誉挽回を狙っている。

とはいっても、教師の仕事を続けながら、新島で練習するしかない。
パイプラインの波とは本質的に違う。

サーフィンの大会は「ウェイティング期間」というものがあり、その期間の中のどこかに開催される。これはよい波を待つためだ。開催が決まったらその日一日でコンテストは決勝まで続く。


ウェイティング期間の初日に合わせるようにハワイ入りした花苗は、公私ともにパートナーになっている近田とともにノース・ショアへ向かった。

波のコンディションはまずまずだったが、初日は開催されなかった。
天気予報によると翌日さらにサイズが上がるとみられたからだ。

渡航の疲れが残る花苗にはラッキーだった。半日休んでから、久しぶりのパイプラインの波に体をなじませる。

新島でも台風によるスウェルにあわせて、パイプライン対策の練習はしてきてはいたが、やはり波の質が違う。本質的に水のパワーが違うのだ。

2時間ほどの練習を経て、ゆっくり体を休めることにした。

翌日5時。大会の開始が宣言された。

花苗は1stヒート、2ndヒートを勝ち抜き、クォーターファイナル、セミファイナルを勝ち上がっていった。相手が脚をつらせたり、波のマジックで運よく進んだヒートもあったが、波乗り競技では自然との運も勝負のうちだ。


ファイナル。

サーフィンの決勝は三人、または四人が同時に沖に出て、30分の間に技を競う。

最初、ライバルたちにリードされた花苗だったが、まずは無事にチューブライドをメイクした。

膠着状態。

ハワイとはいえ、12月の水温は低い。しかし、日本の冬よりははるかに高い水温だ。
ライバルたちはマイアミやカリフォルニア、南米でトレーニングしていて、比較的水温の高いところから来ていたのが花苗と違うところだった。

水温が低いと脚がつることが多くなる。
まして、それまで水にさらされていたなら。

花苗はあと5分というところで、きれいな波をとらえた。やや厚いのでチューブでなく、そのまま割れる波だと察知し、そのままボトムまで滑降し、加速をつけてから、リップまで駆け上る。

ボトムターンだ。

そのまま、ロケットのように打ち出された花苗は、そのままボードのはじをグラブして方向を変え、着水した。
まるで、スケートボードのような技だが、そんなことをした人はこれまで誰もいなかった。

双眼鏡でその技を見ていた観客はしきりに、「アメージング!」「ブラボー!」「フジヤマバンザイ」と口ぐちに称える。

決勝ヒートが終わるサイレンが鳴る。

採点結果が発表された。

「ウィナーは……カナエ・スミダ!!」

澄田花苗は歴史あるパイプラインコンテストで、初めて日本人女性として優勝した。
ボディボード部門では小池葵が優勝したことがあるが、ショートボードでは初の快挙だ。

世界の頂点に立ったのだ。

案の定、花苗のもとには欧米メーカーからのスポンサー契約交渉が殺到した。
日本人は歳を若くみられることが多い。もともと、童顔の花苗はほとんど10代のような印象を欧米人に与えていた。

職業が一介の中学教師だということも好感された。

花苗のパイプライン優勝の報はネット上を駆け巡り、一部の一般誌にも掲載されるほどのニュースとなった。サーフィン雑誌はもとより、一般週刊誌やテレビのワイドショーにまで取材を受け、一躍、花苗は時の人となる。

マネージャー代わりの近田でさえ、対応しきれなくなり、日本でのマネジメント契約を結んでいた事務所に仕事を振ったのだが、欧米クライアントとのつながりが薄くて、対応できる人材がおらず、そもそも地方公務員の花苗はスポンサードをうけることもできない。

中学教師を辞める、という選択肢がない花苗は、「またの機会に」とすべての話を断ってしまった。


中学に限らず、教師はだいたい3年で異動する。
11月の異動希望アンケートは当然「留任希望」と書いたけれど、3年を過ぎた花苗の立場は微妙だった。



年末近い北関東。栃木県岩舟町。

明里は岩舟駅で両親の見送りをうけていた。

「式で来月会えるんだから。寒いから、もう帰りなよ」

結婚式を前に最後の荷物整理をするため実家に戻っていた。

このホームにもたくさんの思い出が詰まっている。

「貴樹くんに、うまいもの作ってやれよ」

父が言う。

「うん、わかってる」

電車を乗り継いでいく。途中、貴樹からメールが入ったので、新宿駅で待ち合わせることにした。

そうだ、クリスマス・イブだった。南口で合流する。
今年も一緒に過ごせる、その喜び。

腕を組んで街を歩く。


(つづく)

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