新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

結局、貴樹は「ご飯食べていきなさい」と言われて、明里たちが泊まっていた民宿で夕食をとった。そのとき自宅へ連絡をする際に携帯電話を使ったのを見られて。

「貴樹くん、そんなの持ってたの?」

「あ、2か月前に」

不穏な空気を察知したのか、理子が口を出す。

「これ、携帯だよね。ピッチじゃないの?」

「ああ、この島でPHSが通じるのは西之表だけなんだ。俺達は行動範囲がどうしても広くなるし、携帯じゃないとつながらないんだよね」

「どういうこと?」

明里が不思議に思う。

「PHSっていうのは都会しかサービスエリアがないの。しかも、移動しながらの通信がダメなんだって」

理子が答える。

「こんな田舎の島で、15キロも移動する俺達には携帯じゃないと意味がないんだ」

追加で貴樹も言うのだが。

「……電話番号、教えてくれてもよかったのに」

明里がすねるように言ったから。

「俺だって! 伝えようって思ったけど。手紙がこなくなって……もう、明里は俺のこと必要としてないのかと思って……」

「はいはいはいはい、犬も食わないようなのは、外でやって」

橋本先生が手をたたきながら間に入った。その言葉が「夫婦げんか」を意味することに気づいて二人とも赤面する。

「ごはんを食べたら、みんなも外へ行きましょう。星を見に」

一同、その言葉に同意した。



夜空は、信じられないくらいすごかった。
星の数が多すぎて、星座の形がわからないほどだ。

「二人で話したいこともあるでしょう。遠野君、ここらであなたがいちばん素敵だと思う場所に連れて行ってあげたら?」

橋本先生はそう言ってくれた。

「こっそりついていこうかな」

理子がふざける。

「飯田さん。こういう時に善行を積まないと幸せになれないわよ」

「あ、ひどい、先生がいじめる〜」

理子はすっかり橋本教諭になついてしまったようだ。

カメラマニアの浅倉は天文年鑑を片手に惑星の位置を割り出し、さっそく撮影体制に入ったようだ。1年の二人もそれぞれ個人で持ってきていた双眼鏡で夜空を見上げる。

「こっちに」

貴樹が明里の手を取る。
それだけでドキンとする明里。

「5分くらい歩いたところにいい場所があるんだ。暗いから気をつけて」


夏草の中に二人で腰を下ろす。
薄い街の灯り。満天の星空。
いつか夢で見た場所に似ている。

「明里、ずっと思ってたんだけど」

「なに?」

「俺達、……その……あの雪の日に……キスはしたけど、ちゃんとけじめをつけていないというか」

「……けじめ?」

なんだかピンと来ていない明里。
ここは説明するよりも実行あるのみと貴樹は悟る。

「明里、俺の恋人に、なってください」

そういうことだったのか、とわかって、照れる明里が「はい」と答えた。

「明里の瞳の中に、たくさんの星が見える……」
近づいてくる貴樹の意図を察して、明里が目を閉じて。


二人は5年3か月ぶりに口づけを交わした。


手紙のこと。
受験のこと。
携帯電話の番号のこと。
手紙が途絶えていた1年間にあったこと。

そして。

これからの、二人の未来のことを話し合う時間は、それだけで素敵だった。
吹きあげてくる海風がふたりをくるみ、やさしく包んでくれているように感じる。

「あの歌、みたいな感じ」
「歌?」
「うん、お母さんが好きでよく歌ってるんだけど、今の私の気持ちにぴったり」

明里がそういうと、貴樹は。

「きかせて」



月が波間に 浮かぶと
あたたかい夜が 忍んでくる
沈む夕闇に瞳 わざとそらしたまま打ち明けた

星と同じ数の 巡り合いの中で
気がつけば あなたがいたの

You're my only shinin' star
ずっと今まで困らせてごめんね
大切なもの それはあなたよ
いつまでもそばにいて I Love You

なぜだかわからないけど
わけもなく涙つたってくる
こんなときに泣くなんて
らしくないよと 肩を抱き寄せ

はにかんだ微笑み
あいかわらずなのね
月灯り二人照らして

You're my only shinin' star
あなたはきっとたえまなく流れる
星の輝き 私を包む
永遠に終わらない shootin' star

時が運んでくる
不思議なときめきを
追いかけてここまできたの

You're my only shinin' star
ずっと今まで困らせてごめんね
大切なもの それはあなたよ
いつまでもそばにいて I Love You

(「You're my only shinin' star」
words by Toshiki Kadomatsu)


今、二人の目の前に月はなかったけれど、その代わりに夏の銀河が横たわっていた。

虚空に明里の歌声が消えたとき、空に星が流れた。



(つづく)

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