新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

年が明けて、いつのまにか春になっていた。
僕は高校3年生となった。

一日一日にだと、時間が遅く感じているのに、過ぎてしまえばいつのまにか通過しているように感じる。
受験生にとっては、そのくらいのスピードでカレンダーはめくれていくものだ。

明里からの手紙は届かず、澄田との距離はそのまま。佐々木は受験する大学を決めたようだ。

「そういえば」

いつもの情報交換のとき、佐々木がなんだかラフな感じて話題を変えてきた。

「遠野くんのこと、好きだっていう子の代理の人たちから呼び出されてさ」

「え」

誰だろう……。澄田以外にもいるのか。いや、この場合、澄田の代理人なのか。

「私とつきあってるのかって聞かれた」

「うん」

「もちろん、違うよって答えたら、つきあってる子はいないか、好きなコはいないか、そんなことを聞かれた」

「そうか……」

「知らないから、『知らない』って答えておいたよ。それと……私がいうことでもないと思うけどさ、あまり女の子のこと、泣かしちゃ、ダメよ?」

「……」

「あと1年でこの島を出てくつもりなんでしょ? だったら」

「ん……わかってる。ごめん、いろいろ迷惑かけて」

「ま、私が晴れて東京の女子大生になったら、お詫びに案内してよ」

「え?」

「住んでたことあるんでしょ?」

「あ、ああ……でも、小学生のころだから、新宿とか代々木近辺だけだよ」

「十分よ!! とにかく、勉強がんばろう」

「そうだね」

模試の結果はまずまずだった。
明里に近づくために。
勉強をしていた。

そういえば、高校3年になって変わったことの一つに、携帯電話の入手がある。
とはいっても、自宅と学校と塾と、そのくらいしか電話番号の登録はないけれど。

携帯電話の番号を知らせるために明里に手紙を書こうか。
はがきだけでも。

いや、年賀状さえ今年は書けなかった。

その携帯にはメール機能があった。
僕は最近見るようになった、夢のことを書いては消していた。


気持ちのいい風のふく小高い丘の上で、夜明けを待っている。

そんな夢。

傍らには女の子がいる。

いつも、顔が見える直前で起きてしまうのだけど。

本当はそんな話を書きたい相手に、僕の手は届かなくなっていた。

(つづく)

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