ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

(途中趣味で無駄にリョナ描写を増やしてしまったので、苦手な方は薄くなっている部分を飛ばしてください)




これはアトランティスに挑む抑止力達が集う、少し前の物語。








「けほ……ッ」


しばし続いた剣戟の音が止み、鈍く崩れ落ちる音が鳴る。
とさり。重量感は感じさせないが、草を降り倒し土が擦れる様子は確かに感じる、控えめな音。
その中に混じって聞こえる、粘り気のある液体の音。

青々とした草原に広がる赤い染み。
その中心に倒れ伏すのは、切り裂かれ汚れたトーガを纏う純白の少女。
膝下まではあるだろうか。美しく透き通る白金の長髪が、鮮烈な赤の色との奇妙なコントラストを生んでいる。
乱れ、散らばった髪は溺れ、掻き分けられた前髪からは苦痛に目を見開く表情が伺える。

は、は、と不安定な呼吸を繰り返し、その度に首元に溜まった血が溢れだす。
蹲り、胎児のように丸まって夥しい流血が続く胸元を、冬の枝先のように白くか細い手のひらで押さえる。
だが傷は思っている以上に深いのか、指の間からは壊れた蛇口のように、滾々と血が滴り続け


「肺を潰した。如何にサーヴァントと言えど、呼吸器を潰されれば行動もままなるまい」


鉄仮面の男は低く呟く。
手にする剣に血を……根本まで張り付くように染める、赤々とした血を払いながら。

英雄オデュッセウス。この異聞帯における、オリュンポス軍の要たる男。
彼が召喚されてから……というより、この『アトランティス』が形を得てから、然程時間は経っていない。
それでも、汎人類史はこの異聞帯を驚異と定めた。最もリソースを割くべき異常として、深く深く注視した。
故に、カウンターとして幾人かのサーヴァントが呼び出され……地に伏す少女もまた、そうして呼び出されたサーヴァントの一人だった。

だが、数はそう多くない。呼び出された場所も、タイミングも疎らだ。
纏まることも出来ぬまま、各々が自体を把握するよりも先に、屈指の指揮系統を備えた軍に捕捉されてしまえば
……この少女が「弱い」部類のサーヴァントであることを差し置いても、このような運命を辿る事になるのは道理であった。


「……その服装、ギリシャを出自に持つ英霊か」

「だがあまりにも脆い。汎人類史を辿った英霊と言えど……これでは、ただの人間と相違無いな」


抑止力というものに誘われ、呼び出された「最初」のサーヴァント達。
対する彼らもまた、汎人類史の存在と相まみえるのも初めてだったのだろう。男は訝しむように、足元に崩れ落ちた少女を見下ろしている。

彼の言葉には少しの驕りもありはしない。
少女は、サーヴァントとして呼ばれるにはあまりにも脆く、そして「弱い」。
言い伝えられた“神話”に名を連ねる者であれば、神の血を引かない人間であろうと、もう少しは健闘してみせただろう。
事実、彼が少女よりも先に排除しに向かったサーヴァントは、単独なれど長く奮闘してみせた。
神話に謳われし大英雄……アキレウスを友に持ち、彼の名を借りて戦場を駆けた男。彼は確かに、人の身でありながら足掻いてみせた。
だからこそ、汎人類史のサーヴァントであっても驕る事無く、適切に排除すると、そう方針付けたのだが。

……二人目に出会ったものが、まさか肺を貫いただけで戦闘不能に陥るとは。
それも鍔迫り合いの結果ではない。傍目から見れば、その行為は……戦闘ではなく、単純な「殺人」であった。


「ッ……げほ、ごぼっ……」


込み上げてくる血に気道を塞がれ、満足に息をする事すらままならない。
適切な処理であったと男は納得している。だが、その「弱さ」に対して煮え切らぬものを抱いているのも確かだ。
ならば……罠か?この脆弱さには何か理由がある。でなければ、このような状況で彼女が「喚び出される訳がない」。

肺は潰したが、それでもまだ戦闘能力を奪ったとは言い難い。
ならば、と。振り上げた刃を下ろす先は、トーガの裾より伸びる細い右脚。


「ぁ――――ぐ、ぅ……ッ」


重なっていた太腿を狙い降ろされた切っ先は、安々と突き刺さりその先の地面へと到達する。
その事実を脳が理解すると、下半身から広がるのは言葉にし難い……熱した鉄を流し込まれているような、そんな痛み。
乱暴に引き抜かれ、さらなる苦痛が襲うも、悲鳴を上げることは許されない。
小さな口からはごぼり、と、空気の混じった粘り気のある水音が漏れ、掠れた呻き声だけが吐き出された。

痛みを堪えるよう、さらに腰を丸めて蹲る。
膝を抱えるように腿を前へと持ってきて、痙攣にも近い震えを抑え込む。


「……その体勢では斬りにくいな」


と、男は少女に半歩歩み寄ると、その足を上側の肩にかけ、強引に少女を「返した」。
転がされるように踏みつけられた少女は、横向きの姿勢から仰向けの状態へと変わる。
胸元に空いた刺し傷からは尚血が溢れ、空気を求めて息をするたび、その控えめな膨らみが小刻みに揺れる。
複数人に囲まれる中、仰向けに倒れ伏す少女の姿は、例えるならばまな板の上に置かれた鯉のよう。

それでも、少女は震える右手を天に向け、反撃の為の詠唱を綴る。
白い肌との対比によってか、より鮮烈に差す赤の血を滴らせ、伸ばされた手を――――


「あ……っ、Αρκτου――――――――」


一閃が横切っていく。
逡巡、瞬きの前には繋がっていたはずのその掌が、自分の顔の少し先にぼたりと落ちた。
少しだけ軽くなった腕が力無く落ちる。もはや見慣れた赤色で、白を埋め尽くすようにして。

言葉にならない悲鳴が、意図せず口から溢れていた。
可愛げの欠片もない、生物が死の危機に瀕した間際に漏らす、断末魔にも似た苦悶の声。
彼女の状況を評する言葉としては、惨め、または無残。酷たらしく追い詰められた少女は、最早反撃の手段を失った。
次に詠唱を綴れば、即座にもう一方の腕が斬り飛ばされる。或いはこの首自体が離れるか。

どちらにせよ、少女の辿る運命は一つしか無い。
それを悟ったか、寝返りすらも打てない身体からは力が抜け、その瞳は呆然と虚空を眺めるのみとなった。


―――――しかし、男はその剣を静かに下ろす。



「……ころさ、ないの……?」


手を止めた男に対し、訝しむように言葉を零す。
深い青の瞳は門前に立つ男へ……その冷たい仮面の向こうの瞳へ向けられた。
しばしの沈黙の後、投げかけられた問いかけを受け取れば、その印象に違わぬ声で


「幾つか質問だ、サーヴァント。然る後に殺す」

「……ん、ふふ……そんなの……答えるだけ、損……じゃない……」


微塵の躊躇いもなく、譲歩もない。
彼はただ目の前の少女を「利用する」と、他でもない本人に告げた。
思いもよらぬ率直な回答に、血の滴る唇を僅かに上げて、おぼつかない笑いを漏らす。

その表情を汲み取ると、男は――仮面の向こうで――瞳を閉じ、付け加える。


「……こう言い換えるか」

「貴様達、汎人類史側の情報が欲しい。貴様が喋らないのなら……他のサーヴァントで試すが」

「………………っ」


もし自分が沈黙を続ければ、その分の苦痛が他のサーヴァントへ向かう、と。
血生臭く容赦の無い宣告だ。鉄仮面は依然変わらず、冷酷な顔で少女を見下ろす。


言葉を飲み、思案する。
自分の役割は「済んでいる」。どのような命運を辿ろうと、そこに後悔はない。
だが……ここで選択を誤ったせいで、他の誰かに迷惑をかけてしまうのは……だめだ。
男の言葉通り、私の「弱さ」には理由がある。厳密には、この「クラス」で現れたことに理由がある。

けど、その「弱さ」のせいで迷惑を掛けてしまうのは許されない。
私が弱かったから、その分の苦痛が別の人に及ぶなんて……そんなことだけは、絶対に……。


男が宣言を守るとは限らない。
少女から情報を引き出しその上で殺したとして、それをまた別のサーヴァントにも行うかも知れない。
とは言え……この男が、そのような実りのない策を取るとは思えない。
情報を仕入れた上で、既に手にしている情報のために余計な手間をかける程の“執着心”は無い、と踏んだ。
少なくとも、今はまだ。あるとすれば手に入れた情報が正しいかどうか……誰か一人に「答え合わせ」をする程度、か。

選択肢はない。仰向けにされ、無防備な状況で複数人に取り囲まれているこの状況で
逆転の可能性もなければ助けも望めない。ならば……彼の質問に従うほかはない。


「まずは……貴様のクラスと、真名だ」

「……ヒッパルコス。この世界に……私がいるのかは、わからない、けど……いえ、多分……いない、でしょうね」


そう言葉を漏らすと、目を向けたのは鉄仮面――――の、遥か上空。
満天の星空。彼女が見た「そら」と変わらない星空に、唯一存在していた“異物”。
彼女の天を見通す魔眼は、肉眼では目視できぬそれを捕えていた。

悠々と衛星軌道上を漂い、こちらを見下ろすその「月」を。


「クラスは……ハービンジャー……」

「……先駆者、先発者。エクストラクラスというやつか……成る程、合点が行った」


戦闘を主とする3騎士、それぞれの特色に特化した4騎士。
互いに得手不得手はあれど、どれもが「戦争」の為に定められたものだと、男は“クリプター”より聞いていた。
同時に、そのどれもに当てはまらないクラスが存在する……特殊な事例もある、と。

多くは戦闘を重視するのではではなく、その英霊が持ちうる特性に沿ったクラスとなる。
彼女はハービンジャー。聞いていた事例には無かったクラスだが、その名前よりおおよその特性は理解した。
何かを「始めた」もの。であれば、戦闘以外にリソースが割り振られている。この単独での脆弱さも納得だ。
そして……まだサーヴァント同士が出会っていないこの状況では、その特性も満足には活かせない。
先に潰せたのは僥倖だったと、納得と共に理解した。


「次に、現在召喚されているサーヴァントの数、位置、真名を教えろ」

「……さ、あ……そこまでの知識は、与えられてない、わ……出会う前に、ふふ……こんなことに、なっちゃった、もの……」

「………………ふむ」


サーヴァントは、共に喚び出されたサーヴァントを把握していない。
思えば彼女の前に排除したサーヴァントも、他の誰かを気にかける様子はなかった。
それぞれの島々に召喚されている以上、互いの存在は知覚していないのだろう。

となれば、彼女から引き出せる情報も限られてくる。
彼女個人―――ヒッパルコスという名に覚えはない。クラスも、その性能も、驚異として数えるべきものではない。
ならばその出自を掘り下げるのは無駄。そう結論づけたか、男はしばし思案に耽る。
これからの戦いのために、このサーヴァントから引き出しておくべき情報は―――――――


「最後の質問だ」

「……『カルデア』。カルデアという名に聞き覚えは?」


“クリプター”より知らされた、カルデアなる者達の名。
曰く、この異聞帯を滅ぼしうる“可能性のある”者達であり、最も注意すべき存在であるらしい。
今はまだ時期尚早、ということで深くは聞かされては居ないが……少しでも情報を集めておくに越した事はない。

尤も、彼女が情報を握っているとは思いにくいが。
“クリプター”によれば、カルデアは現在別の世界……中国なる地点に留まっているようだ。
彼らはまだ此方に手出しできるような状況ではない。もしそのような状況なら、“クリプター”はもう少し慌てた様子を見せるはず。
その兆候もなく、我々に必要以上の情報を与えないということは……論理的帰結として、彼らはまだ「此処へ来ない」。


「カルデア―――――――カルデアス?」

「知っているのか」


すると、思いもよらぬ反応が少女から返ってきた。
何かを察したか、少し驚いた声色でその名を反芻すると、僅かに表情を緩めて
納得したように。悟ったように。僅かにこわばっていた雰囲気が解けたように言葉を続ける。


「……星見の民、天を解くもの……そう……そういう、こと……ね」

「具体的に答えろ。カルデアに繋がる情報を、全て吐き出せ」

「…………私も、知らないわ……けれど……星を観測する、その民の名を……冠しているなら……」


一歩、男は少女へ向けて踏み出した。
しかし彼女は気にする様子もなく、最早男を捕えてはいない、その青い瞳を“空”へ向けて

星が瞬いている。
狭く閉ざされた空。似ているけれど確かに違う。
輝く星の位置も、動きも、廻る様子も同じな筈なのに、明確に感じる「違和感」。
喚び出された時、真っ先に空を見上げて、そして震えた。
見知ったものが別のもので、自分はどこか知らない場所に放り込まれたのだと……そんな恐怖を覚えたものだが。
その理由を知ってしまえば、もう少女に恐怖は無い。自分が喚び出された理由を、この天の意味を知った今―――――


「……安心して、逝けるわ」


伸ばす手も無く、立ち上がる気力も無い。
けれどその瞳だけは動かせる。偽りのものであっても……確かなそらを見ていられる。
その点だけは、彼に感謝しなくては。起こしてくれてありがとう、と。

彼女の役割は終わった。
天文の賢人ヒッパルコス。ハービンジャーとして召喚された彼女……いや、彼には、喚び出されるに足る理由があった。
それは、直接「星見の民」に繋がるものでは無いかもしれない。彼らはこうして逝く賢人の名を、知ることもなく辿り着くかも知れない。
しかし――――彼女が繋げた因果が、巡り巡って彼らへと辿り着く。
天が廻るように。それは摂理として結び付き、星を繋げる助けとなるはずだ。

彼女はそう信じている。
暗く塞がれたあの天を――――「撃ち落とす日」が来る、と。



「そうか。では、此方からの質問は以上だ」


これ以上有益な情報を引き出せないと解したか、男は剣を握る手に力を込めた。
振り上げられた刃は断頭台のギロチンの如く研ぎ澄まされて、星の輝きを受けて鈍く輝く。
だがもう恐怖は無い。どのような痛みも……運命も受け入れよう。

……後は任せた。なんて言い切ってしまうのは、少し無責任かも知れないけれど。
さようなら、“カルデア”。さようなら、まだ見ぬサーヴァント達。

どうかこの「死」が、あなた達を結びつける標となりますよう―――――――――







刃が落ちて、血が弾け跳ぶ。
千切れた髪もまた飛び散って、白金は淡く輝きを帯びる。
一つの命が消えた平原。静まり返る空間には、ただ風の通り過ぎる音だけが響いている。

先駆者、先発者。鉄仮面の男は、ハービンジャーというクラスにそれらの役割を当て嵌めていた。
だが、このクラスの真価は其処にあらず。その名に与えられた意味は、この特異なるエクストラクラスに与えられた役割とは―――――――














これはアトランティスに挑む抑止力達が集う、少し前の物語。
やがて彼女達は神に挑み、天を撃つ。解き明かせぬ“宇宙”は無いのだと、人類の意地を証明するように。

ならば……これはその“前触れ”であり、“予兆”。
天を動かした賢人は、誰に知られることもなく逝った。だが――――彼が、彼に含まれる“物”が、それらを呼び寄せる為の楔となるのだろう。
空に挑むことを諦め、天から目を背けた世界に召喚されたその賢人は、何をするでもなく、その脆弱な霊基を捺して、ただ遥か天を見上げるのだ。
その行為こそが不可能を可能に変える役割。天文という学問を築き上げた者に贈られた、先駆者という称号、先発者という責任にして―――――――




「先駆け」という、唯一無二の対界権限である。

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