残骸/エルドラド（プロット）
最終更新：ID:M1LUvNODCQ 2021年12月04日(土) 00:58:38履歴
身辺整理してたら出てきた。
もう書き上げる熱量がないので残骸で供養。
・登場人物(異聞）とメトロポリスの見立て
・プロット
◎起
1,マーリの独白
祭りの日に出会ったフレンダのことをポエミーに語る
モロックの村から見上げるエルドラドの全景（神秘要素をここで）
2,異聞帯攻略班エントリー
ロータス及びFFFの面々が登場
バイアクヘーの中で親しくなるユキとダリオ＆葛城
3,エルドラド到着
神秘と幸運と貧富に満ちた街を描写
◎承
1,協力者探し
協力者となるサーヴァントを探すためセオリーに従い二手に分かれる
後ろで何かしているユキ（打ち捨てられたフェリクスの像を不憫に思って少し掃除してやった）がベアズリーに呼ばれて後を追う
が、血気盛んなロータス組が手早く本拠地を落とそうとカレッジを襲撃（殺して終わればそれが早いし、どうせ消えるこの世界がどうなろうとかまわない）
証券取引所の人員を皆殺しにしてマニハルトを釣り出すことに成功する
しかしそれはマニハルトの罠
租界自体が工房の機能を持つためマニハルトの信託魔術は強化されており、人員という彼の財産に損害を与えたことによって、賠償として魔術回路から生産される魔力を街に吸い取られ、魔術を封じられてしまうが、それでもまだ満たないとして生命力まで奪われようとする。
絶体絶命のピンチ。だが、マニハルトは一行を殺さずゲームをしようと持ちかける。勝てばそのまま解放する、負ければすべての財産を奪われ、街に魔力を取り立てられ続ける奴隷にされる。もしもゲームを拒否するので有ればここで朽ち果ててもらう云々。選択肢はなかった。
2,一方そのころ
ロータス組がマニハルトの罠にはまった頃、FFF組は協力者らしきサーヴァントに出会う。彼女の名前はスッラ。ローマの大英雄である。
FFF組が協力を要請するとマイペースなことに「その前にお昼御飯を食べましょう」と提案される。ユキはこの急事に和やかに昼食を取ろうなどと言い出したスッラにピクリと眦を動かすが、「わーいご飯だー」とほわほわ楽しそうなベアズリーに遮られ、渋々後を追う。内心では自分は女性に逆らえないのかと愚痴っている。
たどり着いたのはフランス料理店「センペル・アウグストゥス」。スッラ曰く租界で近頃話題になっている新規気鋭の店だそうだ。しかし前評判に反して店の前に人はいない。いるのは店の扉の隙間をこっそり覗いている少年くらいのモノ。ベアズリーが少年に声をかけると、驚愕のまま飛び上がるようにして逃げていった。
何だったんだ今の……と呟くユキの前でドアがばんと蹴り開けられた。扉の向こうから現れたのはO-13幹部ゲンゾー・イケス。ユキたちには目もくれず、「この看板、いただいていく」と「センペル・アウグストゥス」の看板を魔術の水流で両断した。
その後ろから「卑怯者！」と叫ぶ声と共に少女が現れる。「聞いたこともない料理を作らせて、それのどこが勝負よ！ 正々堂々勝負しなさい！」ゲンゾーを睨む彼女。
だが、ゲンゾーは鼻で笑う。「聞いたこともない？ お前が不勉強なだけだ。知識の欠如は修練の欠如。料理人として至らなかったのなら、俺の勝ちだ」「待ちなさい！」勝ち気な少女は去ろうとするゲンゾーの着流しを掴む、が、それがゲンゾーの癇に障ったらしく、彼は少女の手を捻りあげると首を掴んで彼女を宙に浮かせる。
見かねたユキが「夜叉」を用いてゲンゾーに迫る。「その子から手を放しやがれ！」機甲礼装によって加速された蹴りはゲンゾーにクリーンヒット。しかし彼は微動だとせず、興味を失ったように少女を放り捨てFFF組の方に向き直る。ユキは改めてO-13の魔術師たちの強さを理解し、サーヴァントのいない自分たちでは対抗打がないと歯噛みしつつ、ゲンゾーを睨み返す。
膠着は長くは続かなかった。スッラが彼らの間をよぎって店に入ろうとしたのだ。スッラは振り返り「フェリクスはお腹が空いています。早くテーブルにつきましょう」とFFF組を誘う。呆気にとられるユキたち。だが、彼女に反応したのはFFF組だけではなかった。
「待て」とゲンゾーが低く呟く。
「その店は俺に負けた。看板を奪われた店の料理など豚の餌だ。腹が空いているなら俺の店を紹介してやろう。本来は会員制で一見は断っているが特別に入れてやる。感謝しろ」
「フェリクスは今、この店で食事したいのです。お昼御飯の邪魔なので帰ってください」
「……なに？」
ゲンゾーの声が更に低くなる。
スッラは取り合わず、ユキたちを呼ぶ。
「この"自称"料理人のことは無視して御飯にしましょう。フェリクスはお腹と背中がくっつきそうです」
「"自称"料理人……？」
怒りを浮かべるゲンゾーを意に介さずに入店するスッラ。
「待て！！」
その背中をゲンゾーの叫びが制止させる。
「言うにも事欠いて、この俺が"自称"料理人だと？ 酢橘飯店のゲンゾー・イケスが！ 自称料理人だと！」
「フェリクスはそんな名前聞いたことがありません。フェリクスはセンペル・アウグストゥスの料理の方があなたの料理よりずっと優れていると思います」
加勢するかのように少女が怒鳴る。
「お姉さんの言うとおりだわ！ 本当は料理に自身がないから卑怯なことするんでしょ！ 知ってるわよ、酢橘飯店はスー・シェフが全部切り盛りしてるって。お父様が言ってたもの。『ゲンゾー・イケスには会ったこともない』ってね」
ぶちりと。何かが切れる音がした。
「お前たちがどこの料理人かは知らないが俺に逆らってエルイで働けると思うなよ！」
「上場もしてない店のオーナー風情が偉そうに！ 負け犬の遠吠えね！ 異論があるなら料理で示しなさい！ 再戦を要求するわ！」
「再戦があるものか！ 敗北した料理人に用はない！」
「じゃあ、あの人たち（カルデア一行）を料理人としてなら？ それとも素人が怖いのかしら」
「いいだろう！ 三日後だ！ 三日後にセンペル・アウグストゥスで料理対決を行う！ テーマは今回の料理対決で用いたものと同じ！」
「了承しました。それではお引き取りを。フェリクスはお昼御飯を食べますから」
あれよあれよと言ううちになぜかO-13と料理対決をすることになったこの状況に、FFF組は口も挟めず突っ立っているしかなかった。
3,モロック村落ち
「あー……負けたわ」
あっさりと財産が溶かされ礼装も魔力もなにもかも差し押さえられたロータス組はモロック村で肉体労働に従事していた。曰く、日頃のブラック勤務よりはマシとのことでどこか生き生きしているまである。そんな勤務態度が功を奏したか、一行はすっかりモロックたちに馴染んでいた。
そこに現れるのはオペレーターとして引っ込んでいたおかげで難を逃れたアンジェリカ。呆れる彼女の後ろからエプロンをつけたヴァシリーサが登場する。彼女は村に一つしかない炊事場で働いていた。劣悪な材料を調理法で補う手法をモロックの女たちに伝授し、人当たりの良さと驕らない謙虚さで自然と彼らの輪の中に馴染んでいた彼女は、昼休憩に入ったロータスの面々に食事を配り、今後の方針についてダリオから尋ねられる。
ヴァシリーサの答えは現状維持。バイアクヘーを奪われてしまった以上マニハルトを倒せど帰還は不可能。しかし信託魔術は魔術師が死んだ後でも解除されないため力業では奪い返せない。今の彼らはどうにかしてFFF組と連絡を取り、合流して、対策を練るしか手段は残されていなかった。どうしたものかとダリオが見上げる異聞帯の空は底が抜けたような青空だった。
◎転
1,ごめんなさい
ゲンゾーに啖呵を切った少女は開口一番FFF組に謝罪した。
「私頭に血が上るといつもこうで……。巻き込んじゃって本当に悪かったわ」
応対するベアズリーはほわほわと笑う。
「いいよー。お料理は好きだし」
「ギィ」
「いや、いいよじゃねえよ！」
ユキのツッコミが軽快にテーブルを叩く。
「俺たちの目的はO-13を倒すことであって料理対決じゃねえだろ！」
「えー……？ 料理対決で倒せばいいんじゃないかな」
「倒すってそういうことじゃないから！」
苛立ったようなユキはランチをパクつくスッラの方に目をやる。
「アンタもアンタで何安請け合いしてんだ！ 俺たちはこんなことしてる場合じゃ……」
「アーンです。ユキ」
「むぐぉっ！？」
ユキの口に白身魚のポワレを一切れ丸ごとつっこまれる。
「美味しいですか？ ふふ、次はお肉もどうぞ」
せき込みそうになりながら何とかポワレを飲み込んだユキに追撃がかかる。目に涙を浮かべる彼の口にせっせと料理を詰め込むスッラの姿を見て「仲良しさんだねー」とベアズリーがロアに話しかける。
と、そのとき。「フレンダ！」息せききったボーイソプラノがドアベルを高らかに鳴らした。
フレンダ、そう名前を呼ばれた少女が声の主を目にして思わず立ち上がる
「マーリ……？ どうしてここに」
「へへ、ちょっと抜け出してきたんだ。……それより、大丈夫かフレンダ？ さっき変な奴が来てただろ？」
FFF組はマーリとフレンダからこの世界の事情を聞く。
料理対決を挑み看板を奪っていくゲンゾー・イケスのこと。彼の設立した暗黒料理協会が看板を奪われた店の経営権を認めないこと。気に入らない店があればイチャモンをつけて看板を奪うこと。そのためあってゲンゾーの店が頂点に君臨していること。
この店はフレンダがオーナーであったこと。エルドラドに作られた貧富の差が地上のエルイと地下のモロックという身分の違いを作り出したこと。彼ら二人がエルイとモロックという異なる身分でありながら恋人であること。
それから今回の料理対決がシェフのオーギュスト・スコフィエは専門ではない中華料理であり、さらにはテーマである魚料理に使う材料は、ここ数日暗黒料理協会の命令でオーギュストの店には卸して貰えず、マーリの協力を得て手に入れたメクラシロという魚を使って見たが、下魚ゆえに評価するに値しないとして豚の餌の烙印を押されたことなど。
おそらく三日後の勝負でもセンペル・アウグストゥスはまともな魚を仕入れられないだろう。
「仕入れられないって……あれ？ スッラの奴に出してた皿に魚料理があったよな」
「ああ、あれがメクラシロです。少し身が余っていましたのでお出しさせていただきました」
「……結構旨かったけどダメなのかあれ」
「残念ながら、エルドラドでは高価であることが第一に求められるのです。味は二の次、どれだけ良い素材をどれだけ優れた技術で提供できるか。それがこの世界での料理人への評価なのですよ」
「ふーん……。やっぱ、変な世界だな。ここ」
嘯き空っぽになった皿を見つめるユキに隣の席のスッラが寂しげに言う。
「昔はそうではありませんでした。美味しいものは美味しい、楽しいことは楽しい、美しいものは美しい。この世界でも正しい価値観が根付いていました。それを租界の主が権威と値段だけに変えてしまったのです」
なんにせよ、とりあえず使える魚はメクラシロだけなので仕入れにいく
2,合流
マーリに連れられメクラシロの仕入れの手伝いにきた一行は肉体労働に励んでいるロータス組を発見。彼らがマネーゲームで勝たなければならないと知る
（ここでオーギュストの知人だと名乗る男、ルクルスとの出会い）
作戦会議開始。スッラの提案を元にし、料理勝負に勝つために、マネーゲームに勝つために、彼らは一世一代の詐欺を計画するのだった。
3,モロックの魚
フェリクスの一計でモロックたちは賭けに出た。
出荷ミスを装って契約店に渡すミティをすべてメクラシロに入れ替えたのだ。今まで築いてきた信用を汚す行い。だが、底辺を脱却するにはこの程度のギャンブルは優しい方であると説き伏せられて。
案の定、第一報は怒りの連絡。第二報は契約の打ち切りを宣告した。しかし第三報からは喜びの連絡。オーギュストの知人、権威ある美食家ルクルスがとある番組でメクラシロを絶賛したのである。エルドラドの美味は権威と値段。流行に敏感な投資家はこぞってメクラシロに目を向けた。
バイアクヘーの面々はメクラシロの先物取引に投資し続け、着実に資産を増やしていく。
一方、料理勝負が開始され、メクラシロを携えたヴァシリーサが料理人として対決に挑む。
ゲンゾーもまたメクラシロを用意していると予想されたが、彼が使う魚はメクラシロではなかった。
やむおえずの判断であった。一店舗のオーナーでしかない彼には急なバブルで暴騰したメクラシロを入手する伝手がマニハルトの他になかったが、格好の投資対象をマニハルトが譲るはずもなく、結局ただの高級魚を用いる羽目になったのだ。
もっともゲンゾーの技術はヴァシリーサの遙か上を行く。普通にやれば彼の勝ちは揺るがない。
そのはずなのに。この異聞帯に来てからと言うもの味ではなく価値で勝負を決し続けた彼には、焦りをはねのけることはできない。
勝負を分けたのはまさにその驕りである。対するヴァシリーサの皿は飾り気のない素朴な家庭料理である。ゲンゾーは折角のメクラシロも料理人が悪ければ豚の餌だと嘲笑。ところが次の瞬間、勝利を確信した彼の表情が凍りつく。
アミがほんの僅かに頬を緩めていた。かつて、新世界に到達する以前、ゲンゾーの料理を口にした彼女が浮かべていた、ささやかな、あの笑み。
メクラシロに勝ろうと焦りを覚えたゲンゾーが作り上げた料理は、感情操作の焦点を価値のみに置いており、味わいが度外視されていた。アミは欺瞞に満ちた新世界に影響され辿るべき理想を踏み外した師を諌めるため、はっきりと告げる。
「ししょー。これは、おいしくないです」
自身の腕、そして審判のアミを信じきれなかったゲンゾーはプロですらないヴァシリーサに敗北を喫する。
しかしゲンゾーは負けを認めようとせず、狂乱のまま、自分を裏切った/理想に忠実であったアミに襲いかかり、呆気なくヴァシリーサに斬り伏せられてしまった。
4,豊かさと不満
豊かになっていく一方マーリは不満を募らせる。物質的に豊かになっても何かが足りない。彼は無意識に目に見える脱却の形を求めていた。
幸運（フェリクス）の後押しを受けた魔眼の女は少年の青臭い愚かしさを温める。
これで、ヘルツ=マシーネを壊しなさい。そうすれば……
◎結
1,マニハルト敗北
マネーゲームサイド。
白熱する先物取引。豊かになっていくモロックたち。
突如ヘルツ=マシーネが爆発。流通が止まってはメクラシロを動かせない。信用は地に落ち、急速に下落する相場。泡沫が弾ける。
「津田テメーまたやりやがったな！ インサイダーだぞインサイダー！」
「違っ！あたしじゃねーよ今回ばかりは！」
じゃあ誰が？ あぶねー焦げ付く前にぎりぎり売れてたわ…とか言ってる後ろでスッラ呟く「フェリクスは今回も幸運でした」
暴落していく相場。資産が凍結され、自動競売に掛けられた異聞帯が買い取られて敗北を悟るマニハルト
「我々の負けです。投降しましょうミーシャさん……ミーシャさん？」
2,エルドラドの終演
ミーシャに唆されるままヘルツ=マシーネを時限爆弾で破壊したマーリは林檎のような頬を染めてエルドラドを走る。
経済は破綻し、信託は崩壊し、今やすべての金に価値はなかったが、そんなことも露知らぬマーリはエルイになれるほどの資産を得たことに喜びフレンダに会いに行こうとしたのだ。これで二つの世界の枠組みは壊れ、マーリとフレンダは結ばれると、無邪気にもそう信じて。
一方、フレンダは呆然とたたずむ。いずれ経済を背負うエルイとして十分な教育を受けている彼女には今起きていることを克明に理解できていた。未曾有の恐慌の到来。彼女の父も母も未来を憂いて首を釣った。もはや彼女は一人だった。
駆けつけたマーリの温もりに心細さを慰められるフレンダ。だが、マーリは彼女に彼が都市の心臓を破壊したことを誇らしげに語った。フレンダの顔から血の気が引く。心配そうにマーリが彼女に声をかけるが伸ばした手もろともに優しさは振り払われた。
「おまえの──おまえのせいで！」
悪鬼のごとき憎悪の相貌。殺意と悲嘆を綯い交ぜに込めた眼差しでフレンダは喉が裂けんばかりに慟哭する。マーリはなぜ彼女が笑ってくれないのだろうとそんなことを考えて、そして、崩落したパイプが二人を巻き込み、重々しい音と二つの血たまりを残して消えた。
3,ミーシャの裏切り
ヘルツ=マシーネの破綻により、エルイたちは破産。彼らのすべての資産は速やかに自動競売に掛けられる。ミーシャはマニハルトが売り払った異聞帯と住人らの存在権の過半数を買い集めて名実ともにこの世界の王者となる。
少しでも冷静になれば事態を予測できていたはず。自問するマニハルトの前でミーシャの加熱の魔眼が輝く。ロータスと取引を行った時点で彼女の加熱は完了していたのである。
マニハルトから所有権を奪った大令呪を「幸運にも」何の代償もなく発動してアピキウスをエルドラードへ羽化させたミーシャは狂ったような笑みで勝ち誇り、かつての導き手を、理想を追い求めるあまり人の醜さと儘ならぬ現実を見失った船頭らを嘲ける。
それがミーシャとマニハルト、いやさ、導き手と世界を隔てる温度差なのだと。夢を見て人を見ぬ末路は現実逃避。苦きを避け甘きに逃げた者に救えぬものはありはしない。
しかし、膝を折りかけるマニハルトを誰かの手が支えた。これまで沈黙を守り続けた異聞帯の王、クロイソスの手である。
「ふぅん。くだらん詭弁だな」横柄に鼻を鳴らすクロイソス。ピクリとミーシャが反応。
「くだらない？ やめてくださいよ負け惜しみなら。みっともないですよ」
ところがクロイソスはミーシャをせせら笑う。
「負け惜しみは貴様の方だろう。その手に何が残っている？ 信用を培う民草（どうぐ）は壊れ、貨幣制度（せかい）は死に果てた。もはや貴様の金は空虚を鋳溶かした贋金。勝利など大言壮語にも程があるぞ。貴様は、俺たちを犬死に付き合わせているに過ぎん」
ミーシャの苛立ちを躱しマニハルトへ
「マニハルト。俺が召喚に応えたのは貴様が金の使い途を知っていたからだ。それとも…貴様が買い取ろうとした値千金の理想（ゆめ）は、こんな場所で潰える程度の価値しかなかったのか？」
「ええ、そうでした。この程度の挫折は、もう何度も味わっています。ミーシャさん。他ならぬ貴方の言うことであれば、きっと、正しいのだと思います。私の新世界は常人が触れるには熱（とお）すぎる。それでも、それでも理想を諦められないから私は金を稼ぎ続けるんです！」
再起したマニハルトはクロイソスと肩を並べる。ミーシャに挑発をいくつか飛ばし、そして徐ろに尋ねる。
「今回の件。私は君らしくない乱暴なやり方だと感じました。“誰に唆されたんですか”？」
「唆された？ 選ばれたと言ってください。この世界の誰もが私の望む勝利へと運ばれたんですよ。────私には幸運の女神（フェリクス）が味方している」云々。
◎闇
1,女神フェリクス
競売で買い戻したバイアクヘーの整備をするFFF組（特にオルフィリア）はフレンダたちが混乱に巻き込まれていないか心配している。
対照的にロータスはドライ。異聞帯の事情よりもヴァシリーサとの合流やO-13の捕縛など、当初の目的のために忙しない。
ダリオと会話する葛城が不意に気づく。ユキがいない。
ところ変わって。ユキはスッラと酢橘飯店にいた。外の喧騒は「幸運にも」店内には届いていない。
こんな時に自分だけ、と料理を口にするユキは内心穏やかではない。女性に逆らえない自分の性分を痛感し、表情の裏で自己嫌悪を繰り返す。そんな彼をスッラは愛おしげに、あたかも恋人と睦み合うような、無上の熱が籠もる眼差しで見ていた。
視線に気づき、ユキは慌てて目を逸らすが、畳み掛けるようにスッラはユキの隣に座り、彼の左腕にきゅっと抱きつく。
（女神フェリクスの告白）
強引にマイペースを貫くスッラに対し、ユキが当惑しながらも何処か魅せられていたのは事実であった。云々。ユキの心の奥底から言葉が生まれようとしたその時。奇妙な弦楽器の音がユキから熱を取り払った。
「魅了の魔眼ならぬ魅了の舌ってとこやな。気をつけたほうがええでユキ。その女、どうやらスッラやない」
ダリオと付き添いのルクルスが登場。初めて彼女と対面したルクルスは眉根を顰めている。
「姿こそ似ているが……おまえは誰だ。スッラは既に死んだはず」
くす。
くすくすくす。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。
不気味に笑う。
「フェリクスはフェリクスです。彼（マニハルト）はフェリクスから世界を奪い、信仰を奪い、王座を奪いました。ですが彼も、貴方たちも、もうこの世界（フェリクス）の民です。フェリクスは民を逃がしません」
死んだふりをしていたゲンゾーが登場。
万全ではなしに敗北し不満に苛立つゲンゾーを魅了の舌が唆す。
「フェリクスは貴方も逃がしません。ですがフェリクスは提案します。この世界を料理してみる気はありませんか？」
──貴方に最高の幸運(フェリクス)を
拡大し、変容し、都市に流れる水すべてを操作するゲンゾーにダリオとユキは挑む
2,ラストバトル1
クロイソスとエルドラードの戦い。
ミーシャが踏み台にしたエルイ、そして、唯一勝ち残ったモロックを『信仰はかくも容易く崩れ去る』で洗脳し、新たに打ち立てた制度を承認させて相対的にミーシャの手札の価値を落とす離れ業で勝利。（金だけ奪って金を生むガチョウを放してやるなんて君はツメが甘すぎる云々）
クロイソスの一撃がエルドラードを討つ。
崩落に巻き込まれるミーシャ。その手をしっかりと掴むマニハルト。そして語りかける。自分の夢を叶えるには導き手と子羊を隔てし温度差を解するミーシャが必要である云々。（セリフ例から引用「今の君は私の〇〇を信じている。それもまた『信頼』の一つの形。さあ、再契約の時ですよ！」）
3,ラストバトル2
ゲンゾーとダリオ&ユキの戦い
何度攻撃を当てても「幸運にも」無傷のゲンゾー。フェリクスを倒さねば勝ち目がないことを彼らは悟る。
しばらくの間ゲンゾーを任せられないかと切り出したユキは、自分がフェリクスを止めるとダリオに告げる。（ここから両者の戦いを2つに分ける）
フェリクスとの戦いは一方的。攻撃しても攻撃しても「幸運にも」フェリクスには当たらない。無駄な抵抗を繰り返すユキを不思議そうにフェリクスが見つめる。
「フェリクスはユキを傷つけようとは思いません。フェリクスをユキが傷つけられる可能性はありません。これは全くの無駄。ユキが疲れてしまうだけです。どうしてユキは無駄なことを続けたいのですか？」
「決まってるだろ！ 仲間が戦ってるからだ！ 無駄でも、届かなくても、俺は諦めねぇ！」
「フェリクスにはユキが理解できません。──ですから、ユキにフェリクスを理解してもらおうと思います」
機甲礼装が急激に出力を落としていく。「幸運にも」フェリクスの意思に従うように一斉に故障。
怪物と化したゲンゾーを抑えていたダリオも限界に近づいている。万事休すか。
その時。バイアクヘーがダリオを庇うように現れる。カルデア一行総勢でゲンゾーと戦闘。ユキにすべてを託す。
マニハルト登場。元の世界までの交通料金代わりと嘯きつつユキを信託魔術でサポート。
ユキは唯一残った切り札、機甲礼装に依存しない奥の手である超電磁雷光砲の使用を決断する。
（実のところ一切有利不利は変わっていないが盛り上がりで押し通す）
4,幸運の
不滅の女神（フェリクス）はやはり「幸運にも」幸の全力の一撃を阻む。しかし、その時、ゲンゾーの操作した水流のに乗り「幸運にも数億分の一に満たぬ可能性を越えて」女神の足元に書が流れ着き、音もなく開く。
フェリクス。フェリクス。フェリクス。フェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクス。
処刑名簿のいたる箇所に記された女神の名前。終わりは既に決している。
幻聴。
「今回もスッラの目標は無事達成されました。スッラは今回も幸運(フェリクス)です」
逆転する因果。掻き消えたはずの雷光は「幸運にも」再起し女神を襲う。幸運の女神は、今や、彼女の統べる幸運にすら見放されていた。
刹那の狭間でフェリクスがユキに懇願する。
「ユキ、一緒にいてください。フェリクスはキミだけがいれば満足です。フェリクスはユキの望むことはなんだって叶えてあげます。だから、だから……。……いかないで、もう一人にしないで……！」
──そうか。寂しかったんだなお前。ずっとみんなに忘れられて。
フェリクスが忘れられた女神だとしたら、きっと今まで手を貸してくれたのはユキが彼女を見つけたからだろう。ここまでユキのみならずカルデアの皆が彼女に助けられてきた。たぶん、ユキは彼女に居場所を与えてやるべきだ。本当は一緒にいるよと告げて、支えてやるべきなのかもしれない。
「だけど、ごめん。俺が支えたい人はお前じゃないんだ。フェリクス」
フェリクスの嗚咽混じりの絶望が雷光の中に消えていった。
「よくやったユキ！ 今や！ 頼むでアルデバラン！」
潜んでいたヴァシリーサが儀式レベルまで詠唱を重ねた霧王結界を発動。避けずとも攻撃を受けない無敵の幸運に麻痺していたゲンゾーは渾身の魔術で神代回帰を貫かれ、水分に対する操作主導権を喪失。
すべての守りを失ったゲンゾーを、ダリオがカルデアから最終手段として渡されていた呪術式、レメゲトンを用いて捕縛する。
任務達成。大団円。
4,エピローグ
檻にぶち込まれるO-13御一行
マニハルトと月光が対面
その危険性から抹消される予定だったゲンゾーはアミ・スダチの必死の嘆願によって延命を受理される。ゲンゾーは彼女への借りを返すために、もう一度師弟関係を結び直した。
帰還したユキは苦いモノを抱えていたが、ダリオの慰めで少しだけ緩和し、彼に礼を言ってFFF社の仮設研究室に足を早める。会いたい人がいた。
ユキを迎えるのはニコニコ顔をいつでも絶やさぬ女社長フェリシア。ユキは宣誓するように呟く。
「あの、社長」
「なぁにユキくん」
「俺、もうちょっと頑張ってみます」
「うん？ うん！ 頑張ってね、お姉ちゃんも応援してるよ」
もう書き上げる熱量がないので残骸で供養。
・登場人物(異聞）とメトロポリスの見立て
・プロット
◎起
1,マーリの独白
祭りの日に出会ったフレンダのことをポエミーに語る
モロックの村から見上げるエルドラドの全景（神秘要素をここで）
2,異聞帯攻略班エントリー
ロータス及びFFFの面々が登場
バイアクヘーの中で親しくなるユキとダリオ＆葛城
3,エルドラド到着
神秘と幸運と貧富に満ちた街を描写
◎承
1,協力者探し
協力者となるサーヴァントを探すためセオリーに従い二手に分かれる
後ろで何かしているユキ（打ち捨てられたフェリクスの像を不憫に思って少し掃除してやった）がベアズリーに呼ばれて後を追う
が、血気盛んなロータス組が手早く本拠地を落とそうとカレッジを襲撃（殺して終わればそれが早いし、どうせ消えるこの世界がどうなろうとかまわない）
証券取引所の人員を皆殺しにしてマニハルトを釣り出すことに成功する
しかしそれはマニハルトの罠
租界自体が工房の機能を持つためマニハルトの信託魔術は強化されており、人員という彼の財産に損害を与えたことによって、賠償として魔術回路から生産される魔力を街に吸い取られ、魔術を封じられてしまうが、それでもまだ満たないとして生命力まで奪われようとする。
絶体絶命のピンチ。だが、マニハルトは一行を殺さずゲームをしようと持ちかける。勝てばそのまま解放する、負ければすべての財産を奪われ、街に魔力を取り立てられ続ける奴隷にされる。もしもゲームを拒否するので有ればここで朽ち果ててもらう云々。選択肢はなかった。
2,一方そのころ
ロータス組がマニハルトの罠にはまった頃、FFF組は協力者らしきサーヴァントに出会う。彼女の名前はスッラ。ローマの大英雄である。
FFF組が協力を要請するとマイペースなことに「その前にお昼御飯を食べましょう」と提案される。ユキはこの急事に和やかに昼食を取ろうなどと言い出したスッラにピクリと眦を動かすが、「わーいご飯だー」とほわほわ楽しそうなベアズリーに遮られ、渋々後を追う。内心では自分は女性に逆らえないのかと愚痴っている。
たどり着いたのはフランス料理店「センペル・アウグストゥス」。スッラ曰く租界で近頃話題になっている新規気鋭の店だそうだ。しかし前評判に反して店の前に人はいない。いるのは店の扉の隙間をこっそり覗いている少年くらいのモノ。ベアズリーが少年に声をかけると、驚愕のまま飛び上がるようにして逃げていった。
何だったんだ今の……と呟くユキの前でドアがばんと蹴り開けられた。扉の向こうから現れたのはO-13幹部ゲンゾー・イケス。ユキたちには目もくれず、「この看板、いただいていく」と「センペル・アウグストゥス」の看板を魔術の水流で両断した。
その後ろから「卑怯者！」と叫ぶ声と共に少女が現れる。「聞いたこともない料理を作らせて、それのどこが勝負よ！ 正々堂々勝負しなさい！」ゲンゾーを睨む彼女。
だが、ゲンゾーは鼻で笑う。「聞いたこともない？ お前が不勉強なだけだ。知識の欠如は修練の欠如。料理人として至らなかったのなら、俺の勝ちだ」「待ちなさい！」勝ち気な少女は去ろうとするゲンゾーの着流しを掴む、が、それがゲンゾーの癇に障ったらしく、彼は少女の手を捻りあげると首を掴んで彼女を宙に浮かせる。
見かねたユキが「夜叉」を用いてゲンゾーに迫る。「その子から手を放しやがれ！」機甲礼装によって加速された蹴りはゲンゾーにクリーンヒット。しかし彼は微動だとせず、興味を失ったように少女を放り捨てFFF組の方に向き直る。ユキは改めてO-13の魔術師たちの強さを理解し、サーヴァントのいない自分たちでは対抗打がないと歯噛みしつつ、ゲンゾーを睨み返す。
膠着は長くは続かなかった。スッラが彼らの間をよぎって店に入ろうとしたのだ。スッラは振り返り「フェリクスはお腹が空いています。早くテーブルにつきましょう」とFFF組を誘う。呆気にとられるユキたち。だが、彼女に反応したのはFFF組だけではなかった。
「待て」とゲンゾーが低く呟く。
「その店は俺に負けた。看板を奪われた店の料理など豚の餌だ。腹が空いているなら俺の店を紹介してやろう。本来は会員制で一見は断っているが特別に入れてやる。感謝しろ」
「フェリクスは今、この店で食事したいのです。お昼御飯の邪魔なので帰ってください」
「……なに？」
ゲンゾーの声が更に低くなる。
スッラは取り合わず、ユキたちを呼ぶ。
「この"自称"料理人のことは無視して御飯にしましょう。フェリクスはお腹と背中がくっつきそうです」
「"自称"料理人……？」
怒りを浮かべるゲンゾーを意に介さずに入店するスッラ。
「待て！！」
その背中をゲンゾーの叫びが制止させる。
「言うにも事欠いて、この俺が"自称"料理人だと？ 酢橘飯店のゲンゾー・イケスが！ 自称料理人だと！」
「フェリクスはそんな名前聞いたことがありません。フェリクスはセンペル・アウグストゥスの料理の方があなたの料理よりずっと優れていると思います」
加勢するかのように少女が怒鳴る。
「お姉さんの言うとおりだわ！ 本当は料理に自身がないから卑怯なことするんでしょ！ 知ってるわよ、酢橘飯店はスー・シェフが全部切り盛りしてるって。お父様が言ってたもの。『ゲンゾー・イケスには会ったこともない』ってね」
ぶちりと。何かが切れる音がした。
「お前たちがどこの料理人かは知らないが俺に逆らってエルイで働けると思うなよ！」
「上場もしてない店のオーナー風情が偉そうに！ 負け犬の遠吠えね！ 異論があるなら料理で示しなさい！ 再戦を要求するわ！」
「再戦があるものか！ 敗北した料理人に用はない！」
「じゃあ、あの人たち（カルデア一行）を料理人としてなら？ それとも素人が怖いのかしら」
「いいだろう！ 三日後だ！ 三日後にセンペル・アウグストゥスで料理対決を行う！ テーマは今回の料理対決で用いたものと同じ！」
「了承しました。それではお引き取りを。フェリクスはお昼御飯を食べますから」
あれよあれよと言ううちになぜかO-13と料理対決をすることになったこの状況に、FFF組は口も挟めず突っ立っているしかなかった。
3,モロック村落ち
「あー……負けたわ」
あっさりと財産が溶かされ礼装も魔力もなにもかも差し押さえられたロータス組はモロック村で肉体労働に従事していた。曰く、日頃のブラック勤務よりはマシとのことでどこか生き生きしているまである。そんな勤務態度が功を奏したか、一行はすっかりモロックたちに馴染んでいた。
そこに現れるのはオペレーターとして引っ込んでいたおかげで難を逃れたアンジェリカ。呆れる彼女の後ろからエプロンをつけたヴァシリーサが登場する。彼女は村に一つしかない炊事場で働いていた。劣悪な材料を調理法で補う手法をモロックの女たちに伝授し、人当たりの良さと驕らない謙虚さで自然と彼らの輪の中に馴染んでいた彼女は、昼休憩に入ったロータスの面々に食事を配り、今後の方針についてダリオから尋ねられる。
ヴァシリーサの答えは現状維持。バイアクヘーを奪われてしまった以上マニハルトを倒せど帰還は不可能。しかし信託魔術は魔術師が死んだ後でも解除されないため力業では奪い返せない。今の彼らはどうにかしてFFF組と連絡を取り、合流して、対策を練るしか手段は残されていなかった。どうしたものかとダリオが見上げる異聞帯の空は底が抜けたような青空だった。
◎転
1,ごめんなさい
ゲンゾーに啖呵を切った少女は開口一番FFF組に謝罪した。
「私頭に血が上るといつもこうで……。巻き込んじゃって本当に悪かったわ」
応対するベアズリーはほわほわと笑う。
「いいよー。お料理は好きだし」
「ギィ」
「いや、いいよじゃねえよ！」
ユキのツッコミが軽快にテーブルを叩く。
「俺たちの目的はO-13を倒すことであって料理対決じゃねえだろ！」
「えー……？ 料理対決で倒せばいいんじゃないかな」
「倒すってそういうことじゃないから！」
苛立ったようなユキはランチをパクつくスッラの方に目をやる。
「アンタもアンタで何安請け合いしてんだ！ 俺たちはこんなことしてる場合じゃ……」
「アーンです。ユキ」
「むぐぉっ！？」
ユキの口に白身魚のポワレを一切れ丸ごとつっこまれる。
「美味しいですか？ ふふ、次はお肉もどうぞ」
せき込みそうになりながら何とかポワレを飲み込んだユキに追撃がかかる。目に涙を浮かべる彼の口にせっせと料理を詰め込むスッラの姿を見て「仲良しさんだねー」とベアズリーがロアに話しかける。
と、そのとき。「フレンダ！」息せききったボーイソプラノがドアベルを高らかに鳴らした。
フレンダ、そう名前を呼ばれた少女が声の主を目にして思わず立ち上がる
「マーリ……？ どうしてここに」
「へへ、ちょっと抜け出してきたんだ。……それより、大丈夫かフレンダ？ さっき変な奴が来てただろ？」
FFF組はマーリとフレンダからこの世界の事情を聞く。
料理対決を挑み看板を奪っていくゲンゾー・イケスのこと。彼の設立した暗黒料理協会が看板を奪われた店の経営権を認めないこと。気に入らない店があればイチャモンをつけて看板を奪うこと。そのためあってゲンゾーの店が頂点に君臨していること。
この店はフレンダがオーナーであったこと。エルドラドに作られた貧富の差が地上のエルイと地下のモロックという身分の違いを作り出したこと。彼ら二人がエルイとモロックという異なる身分でありながら恋人であること。
それから今回の料理対決がシェフのオーギュスト・スコフィエは専門ではない中華料理であり、さらにはテーマである魚料理に使う材料は、ここ数日暗黒料理協会の命令でオーギュストの店には卸して貰えず、マーリの協力を得て手に入れたメクラシロという魚を使って見たが、下魚ゆえに評価するに値しないとして豚の餌の烙印を押されたことなど。
おそらく三日後の勝負でもセンペル・アウグストゥスはまともな魚を仕入れられないだろう。
「仕入れられないって……あれ？ スッラの奴に出してた皿に魚料理があったよな」
「ああ、あれがメクラシロです。少し身が余っていましたのでお出しさせていただきました」
「……結構旨かったけどダメなのかあれ」
「残念ながら、エルドラドでは高価であることが第一に求められるのです。味は二の次、どれだけ良い素材をどれだけ優れた技術で提供できるか。それがこの世界での料理人への評価なのですよ」
「ふーん……。やっぱ、変な世界だな。ここ」
嘯き空っぽになった皿を見つめるユキに隣の席のスッラが寂しげに言う。
「昔はそうではありませんでした。美味しいものは美味しい、楽しいことは楽しい、美しいものは美しい。この世界でも正しい価値観が根付いていました。それを租界の主が権威と値段だけに変えてしまったのです」
なんにせよ、とりあえず使える魚はメクラシロだけなので仕入れにいく
2,合流
マーリに連れられメクラシロの仕入れの手伝いにきた一行は肉体労働に励んでいるロータス組を発見。彼らがマネーゲームで勝たなければならないと知る
（ここでオーギュストの知人だと名乗る男、ルクルスとの出会い）
作戦会議開始。スッラの提案を元にし、料理勝負に勝つために、マネーゲームに勝つために、彼らは一世一代の詐欺を計画するのだった。
3,モロックの魚
フェリクスの一計でモロックたちは賭けに出た。
出荷ミスを装って契約店に渡すミティをすべてメクラシロに入れ替えたのだ。今まで築いてきた信用を汚す行い。だが、底辺を脱却するにはこの程度のギャンブルは優しい方であると説き伏せられて。
案の定、第一報は怒りの連絡。第二報は契約の打ち切りを宣告した。しかし第三報からは喜びの連絡。オーギュストの知人、権威ある美食家ルクルスがとある番組でメクラシロを絶賛したのである。エルドラドの美味は権威と値段。流行に敏感な投資家はこぞってメクラシロに目を向けた。
バイアクヘーの面々はメクラシロの先物取引に投資し続け、着実に資産を増やしていく。
一方、料理勝負が開始され、メクラシロを携えたヴァシリーサが料理人として対決に挑む。
ゲンゾーもまたメクラシロを用意していると予想されたが、彼が使う魚はメクラシロではなかった。
やむおえずの判断であった。一店舗のオーナーでしかない彼には急なバブルで暴騰したメクラシロを入手する伝手がマニハルトの他になかったが、格好の投資対象をマニハルトが譲るはずもなく、結局ただの高級魚を用いる羽目になったのだ。
もっともゲンゾーの技術はヴァシリーサの遙か上を行く。普通にやれば彼の勝ちは揺るがない。
そのはずなのに。この異聞帯に来てからと言うもの味ではなく価値で勝負を決し続けた彼には、焦りをはねのけることはできない。
勝負を分けたのはまさにその驕りである。対するヴァシリーサの皿は飾り気のない素朴な家庭料理である。ゲンゾーは折角のメクラシロも料理人が悪ければ豚の餌だと嘲笑。ところが次の瞬間、勝利を確信した彼の表情が凍りつく。
アミがほんの僅かに頬を緩めていた。かつて、新世界に到達する以前、ゲンゾーの料理を口にした彼女が浮かべていた、ささやかな、あの笑み。
メクラシロに勝ろうと焦りを覚えたゲンゾーが作り上げた料理は、感情操作の焦点を価値のみに置いており、味わいが度外視されていた。アミは欺瞞に満ちた新世界に影響され辿るべき理想を踏み外した師を諌めるため、はっきりと告げる。
「ししょー。これは、おいしくないです」
自身の腕、そして審判のアミを信じきれなかったゲンゾーはプロですらないヴァシリーサに敗北を喫する。
しかしゲンゾーは負けを認めようとせず、狂乱のまま、自分を裏切った/理想に忠実であったアミに襲いかかり、呆気なくヴァシリーサに斬り伏せられてしまった。
4,豊かさと不満
豊かになっていく一方マーリは不満を募らせる。物質的に豊かになっても何かが足りない。彼は無意識に目に見える脱却の形を求めていた。
幸運（フェリクス）の後押しを受けた魔眼の女は少年の青臭い愚かしさを温める。
これで、ヘルツ=マシーネを壊しなさい。そうすれば……
◎結
1,マニハルト敗北
マネーゲームサイド。
白熱する先物取引。豊かになっていくモロックたち。
突如ヘルツ=マシーネが爆発。流通が止まってはメクラシロを動かせない。信用は地に落ち、急速に下落する相場。泡沫が弾ける。
「津田テメーまたやりやがったな！ インサイダーだぞインサイダー！」
「違っ！あたしじゃねーよ今回ばかりは！」
じゃあ誰が？ あぶねー焦げ付く前にぎりぎり売れてたわ…とか言ってる後ろでスッラ呟く「フェリクスは今回も幸運でした」
暴落していく相場。資産が凍結され、自動競売に掛けられた異聞帯が買い取られて敗北を悟るマニハルト
「我々の負けです。投降しましょうミーシャさん……ミーシャさん？」
2,エルドラドの終演
ミーシャに唆されるままヘルツ=マシーネを時限爆弾で破壊したマーリは林檎のような頬を染めてエルドラドを走る。
経済は破綻し、信託は崩壊し、今やすべての金に価値はなかったが、そんなことも露知らぬマーリはエルイになれるほどの資産を得たことに喜びフレンダに会いに行こうとしたのだ。これで二つの世界の枠組みは壊れ、マーリとフレンダは結ばれると、無邪気にもそう信じて。
一方、フレンダは呆然とたたずむ。いずれ経済を背負うエルイとして十分な教育を受けている彼女には今起きていることを克明に理解できていた。未曾有の恐慌の到来。彼女の父も母も未来を憂いて首を釣った。もはや彼女は一人だった。
駆けつけたマーリの温もりに心細さを慰められるフレンダ。だが、マーリは彼女に彼が都市の心臓を破壊したことを誇らしげに語った。フレンダの顔から血の気が引く。心配そうにマーリが彼女に声をかけるが伸ばした手もろともに優しさは振り払われた。
「おまえの──おまえのせいで！」
悪鬼のごとき憎悪の相貌。殺意と悲嘆を綯い交ぜに込めた眼差しでフレンダは喉が裂けんばかりに慟哭する。マーリはなぜ彼女が笑ってくれないのだろうとそんなことを考えて、そして、崩落したパイプが二人を巻き込み、重々しい音と二つの血たまりを残して消えた。
3,ミーシャの裏切り
ヘルツ=マシーネの破綻により、エルイたちは破産。彼らのすべての資産は速やかに自動競売に掛けられる。ミーシャはマニハルトが売り払った異聞帯と住人らの存在権の過半数を買い集めて名実ともにこの世界の王者となる。
少しでも冷静になれば事態を予測できていたはず。自問するマニハルトの前でミーシャの加熱の魔眼が輝く。ロータスと取引を行った時点で彼女の加熱は完了していたのである。
マニハルトから所有権を奪った大令呪を「幸運にも」何の代償もなく発動してアピキウスをエルドラードへ羽化させたミーシャは狂ったような笑みで勝ち誇り、かつての導き手を、理想を追い求めるあまり人の醜さと儘ならぬ現実を見失った船頭らを嘲ける。
それがミーシャとマニハルト、いやさ、導き手と世界を隔てる温度差なのだと。夢を見て人を見ぬ末路は現実逃避。苦きを避け甘きに逃げた者に救えぬものはありはしない。
しかし、膝を折りかけるマニハルトを誰かの手が支えた。これまで沈黙を守り続けた異聞帯の王、クロイソスの手である。
「ふぅん。くだらん詭弁だな」横柄に鼻を鳴らすクロイソス。ピクリとミーシャが反応。
「くだらない？ やめてくださいよ負け惜しみなら。みっともないですよ」
ところがクロイソスはミーシャをせせら笑う。
「負け惜しみは貴様の方だろう。その手に何が残っている？ 信用を培う民草（どうぐ）は壊れ、貨幣制度（せかい）は死に果てた。もはや貴様の金は空虚を鋳溶かした贋金。勝利など大言壮語にも程があるぞ。貴様は、俺たちを犬死に付き合わせているに過ぎん」
ミーシャの苛立ちを躱しマニハルトへ
「マニハルト。俺が召喚に応えたのは貴様が金の使い途を知っていたからだ。それとも…貴様が買い取ろうとした値千金の理想（ゆめ）は、こんな場所で潰える程度の価値しかなかったのか？」
「ええ、そうでした。この程度の挫折は、もう何度も味わっています。ミーシャさん。他ならぬ貴方の言うことであれば、きっと、正しいのだと思います。私の新世界は常人が触れるには熱（とお）すぎる。それでも、それでも理想を諦められないから私は金を稼ぎ続けるんです！」
再起したマニハルトはクロイソスと肩を並べる。ミーシャに挑発をいくつか飛ばし、そして徐ろに尋ねる。
「今回の件。私は君らしくない乱暴なやり方だと感じました。“誰に唆されたんですか”？」
「唆された？ 選ばれたと言ってください。この世界の誰もが私の望む勝利へと運ばれたんですよ。────私には幸運の女神（フェリクス）が味方している」云々。
◎闇
1,女神フェリクス
競売で買い戻したバイアクヘーの整備をするFFF組（特にオルフィリア）はフレンダたちが混乱に巻き込まれていないか心配している。
対照的にロータスはドライ。異聞帯の事情よりもヴァシリーサとの合流やO-13の捕縛など、当初の目的のために忙しない。
ダリオと会話する葛城が不意に気づく。ユキがいない。
ところ変わって。ユキはスッラと酢橘飯店にいた。外の喧騒は「幸運にも」店内には届いていない。
こんな時に自分だけ、と料理を口にするユキは内心穏やかではない。女性に逆らえない自分の性分を痛感し、表情の裏で自己嫌悪を繰り返す。そんな彼をスッラは愛おしげに、あたかも恋人と睦み合うような、無上の熱が籠もる眼差しで見ていた。
視線に気づき、ユキは慌てて目を逸らすが、畳み掛けるようにスッラはユキの隣に座り、彼の左腕にきゅっと抱きつく。
（女神フェリクスの告白）
強引にマイペースを貫くスッラに対し、ユキが当惑しながらも何処か魅せられていたのは事実であった。云々。ユキの心の奥底から言葉が生まれようとしたその時。奇妙な弦楽器の音がユキから熱を取り払った。
「魅了の魔眼ならぬ魅了の舌ってとこやな。気をつけたほうがええでユキ。その女、どうやらスッラやない」
ダリオと付き添いのルクルスが登場。初めて彼女と対面したルクルスは眉根を顰めている。
「姿こそ似ているが……おまえは誰だ。スッラは既に死んだはず」
くす。
くすくすくす。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。
不気味に笑う。
「フェリクスはフェリクスです。彼（マニハルト）はフェリクスから世界を奪い、信仰を奪い、王座を奪いました。ですが彼も、貴方たちも、もうこの世界（フェリクス）の民です。フェリクスは民を逃がしません」
死んだふりをしていたゲンゾーが登場。
万全ではなしに敗北し不満に苛立つゲンゾーを魅了の舌が唆す。
「フェリクスは貴方も逃がしません。ですがフェリクスは提案します。この世界を料理してみる気はありませんか？」
──貴方に最高の幸運(フェリクス)を
拡大し、変容し、都市に流れる水すべてを操作するゲンゾーにダリオとユキは挑む
2,ラストバトル1
クロイソスとエルドラードの戦い。
ミーシャが踏み台にしたエルイ、そして、唯一勝ち残ったモロックを『信仰はかくも容易く崩れ去る』で洗脳し、新たに打ち立てた制度を承認させて相対的にミーシャの手札の価値を落とす離れ業で勝利。（金だけ奪って金を生むガチョウを放してやるなんて君はツメが甘すぎる云々）
クロイソスの一撃がエルドラードを討つ。
崩落に巻き込まれるミーシャ。その手をしっかりと掴むマニハルト。そして語りかける。自分の夢を叶えるには導き手と子羊を隔てし温度差を解するミーシャが必要である云々。（セリフ例から引用「今の君は私の〇〇を信じている。それもまた『信頼』の一つの形。さあ、再契約の時ですよ！」）
3,ラストバトル2
ゲンゾーとダリオ&ユキの戦い
何度攻撃を当てても「幸運にも」無傷のゲンゾー。フェリクスを倒さねば勝ち目がないことを彼らは悟る。
しばらくの間ゲンゾーを任せられないかと切り出したユキは、自分がフェリクスを止めるとダリオに告げる。（ここから両者の戦いを2つに分ける）
フェリクスとの戦いは一方的。攻撃しても攻撃しても「幸運にも」フェリクスには当たらない。無駄な抵抗を繰り返すユキを不思議そうにフェリクスが見つめる。
「フェリクスはユキを傷つけようとは思いません。フェリクスをユキが傷つけられる可能性はありません。これは全くの無駄。ユキが疲れてしまうだけです。どうしてユキは無駄なことを続けたいのですか？」
「決まってるだろ！ 仲間が戦ってるからだ！ 無駄でも、届かなくても、俺は諦めねぇ！」
「フェリクスにはユキが理解できません。──ですから、ユキにフェリクスを理解してもらおうと思います」
機甲礼装が急激に出力を落としていく。「幸運にも」フェリクスの意思に従うように一斉に故障。
怪物と化したゲンゾーを抑えていたダリオも限界に近づいている。万事休すか。
その時。バイアクヘーがダリオを庇うように現れる。カルデア一行総勢でゲンゾーと戦闘。ユキにすべてを託す。
マニハルト登場。元の世界までの交通料金代わりと嘯きつつユキを信託魔術でサポート。
ユキは唯一残った切り札、機甲礼装に依存しない奥の手である超電磁雷光砲の使用を決断する。
（実のところ一切有利不利は変わっていないが盛り上がりで押し通す）
4,幸運の
不滅の女神（フェリクス）はやはり「幸運にも」幸の全力の一撃を阻む。しかし、その時、ゲンゾーの操作した水流のに乗り「幸運にも数億分の一に満たぬ可能性を越えて」女神の足元に書が流れ着き、音もなく開く。
フェリクス。フェリクス。フェリクス。フェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクスフェリクス。
処刑名簿のいたる箇所に記された女神の名前。終わりは既に決している。
幻聴。
「今回もスッラの目標は無事達成されました。スッラは今回も幸運(フェリクス)です」
逆転する因果。掻き消えたはずの雷光は「幸運にも」再起し女神を襲う。幸運の女神は、今や、彼女の統べる幸運にすら見放されていた。
刹那の狭間でフェリクスがユキに懇願する。
「ユキ、一緒にいてください。フェリクスはキミだけがいれば満足です。フェリクスはユキの望むことはなんだって叶えてあげます。だから、だから……。……いかないで、もう一人にしないで……！」
──そうか。寂しかったんだなお前。ずっとみんなに忘れられて。
フェリクスが忘れられた女神だとしたら、きっと今まで手を貸してくれたのはユキが彼女を見つけたからだろう。ここまでユキのみならずカルデアの皆が彼女に助けられてきた。たぶん、ユキは彼女に居場所を与えてやるべきだ。本当は一緒にいるよと告げて、支えてやるべきなのかもしれない。
「だけど、ごめん。俺が支えたい人はお前じゃないんだ。フェリクス」
フェリクスの嗚咽混じりの絶望が雷光の中に消えていった。
「よくやったユキ！ 今や！ 頼むでアルデバラン！」
潜んでいたヴァシリーサが儀式レベルまで詠唱を重ねた霧王結界を発動。避けずとも攻撃を受けない無敵の幸運に麻痺していたゲンゾーは渾身の魔術で神代回帰を貫かれ、水分に対する操作主導権を喪失。
すべての守りを失ったゲンゾーを、ダリオがカルデアから最終手段として渡されていた呪術式、レメゲトンを用いて捕縛する。
任務達成。大団円。
4,エピローグ
檻にぶち込まれるO-13御一行
マニハルトと月光が対面
その危険性から抹消される予定だったゲンゾーはアミ・スダチの必死の嘆願によって延命を受理される。ゲンゾーは彼女への借りを返すために、もう一度師弟関係を結び直した。
帰還したユキは苦いモノを抱えていたが、ダリオの慰めで少しだけ緩和し、彼に礼を言ってFFF社の仮設研究室に足を早める。会いたい人がいた。
ユキを迎えるのはニコニコ顔をいつでも絶やさぬ女社長フェリシア。ユキは宣誓するように呟く。
「あの、社長」
「なぁにユキくん」
「俺、もうちょっと頑張ってみます」
「うん？ うん！ 頑張ってね、お姉ちゃんも応援してるよ」
nevadakagemiya
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