kagemiya@ふたば

　　　　「あの騎士は言ったんだ……例え繋がりがなかろうと、困っている人を助けるのが英雄だってな
　　　　　　　　　　　　　　　　　　なら、俺も……“英霊”として呼び出されたなら、助けてやらなきゃならねえだろ？」


その真名は『ロングウィットンの竜』。イギリスに伝わる竜伝承の一つ、ロングウィットンの竜にて語られた魔法の井戸に住まう悪竜である。
傷を癒やす魔法の水を蓄えた井戸に住み着いた竜。彼は人が現れるたびに姿を隠してしまい害は無かったのだが、竜を恐れた人々は井戸水を汲めず困り果てていた。
そこへ通りがかったガイ・オブ・ウォーリックなる騎士。彼は悩める人々の依頼を快く承諾し、不可視の魔法を見抜く目薬を刺して井戸へと飛び込む。
が、現れた竜は何度打ち倒そとうとも斃れる様子を見せない。悩んだ騎士は3日にも及ぶ戦闘の末にようやく秘密を看破――そう、竜は水に浸かりっぱなしであったのだ。
この策を見抜いた騎士は竜を水から追いやり戦闘を続行。癒やしの魔法が切れた竜は打ち倒され、無事人々は井戸の水を汲むことが出来るようになったという。

そんな伝承に登場する“幻霊”が、極東の地……日本に於いて噂されるある都市伝説と同一視されてしまった存在がこのモンスター。
その都市伝説とは『下水道の白いワニ』。奇しくも竜と同じく、下水道を住処とし、人々に姿を見られたことはなくとも、多くの人々から恐れられている“幻霊”である。
何の因果を以て召喚されたのかは定かでないが、日本では「下水道の怪物は基本白いワニ」という共通認識が影響し、このような英霊が生まれてしまったのだ。

故に、この竜は本質とは異なる理念を抱いており―――――――彼は力ない一般人を「守る」為に戦っている。
魔境と化した新宿で、傷つきながらも難を逃れた人々を下水道へと匿い、その癒しの水を持って憩いの場とする……史実とは真逆の性質。
何故彼がこのような事を行うのか、言葉を持たぬ彼の口から語られることはないだろうが……その行いには何の「欲」も存在していない。
こうした彼の行いはあまり知られておらず、地上では専ら「下水道には人食いワニが存在する」という噂だけが広がるのみ。
それでも下水道にはコミュニティを形成できる程度に一般人が逃れてきていて、モンスターは数少ない彼らを守るためにも、その鋭き牙で侵入者を噛み砕くのである。

地上で起きている“事件”には詳しくなく、また本人の性質上下水道から離れることも出来ない。
しかし事情を説明して敵意がないことを伝えてあげれば、多少ではあるが事件解決のために力を貸してくれることだろう。