最終更新:ID:qFBK3jEr4g 2021年07月09日(金) 20:25:45履歴
運命の相手というのはそうたくさんいるものではないだろう。つまりそこには希少性を担保する定義付けが必要なはずである。そこには劇的な初対面や別れが必要だろうか。
そうであるならば私はここにいる間、何度も運命の相手を見つけていることになる。何度も何度も殺し合いをし、その手で生を奪い取っているのだから。そうでなければ人生を変えるような何かをもたらすものだろうか。
これもありふれている。そうであるならば私はここに来るまでに、何度も運命の相手に見つけられていることになる。セレネの揺りかごの教主として、人々に終わりと救いをもたらす責務があったからだ。
…こんな問いにはきっと意味はないのだろう。たとえば今私が暇潰しに収容棟を練り歩いているのと同じで、暇潰しに頭を動かしているのにすぎない。
あーつかれた。あとでアサシンをからかって遊ぼうか。何度となく殺し合いをする相手よりも、アサシンの方がよっぽど興味深いと思ってしまう。これは私が幼いからかもしれないし、私が強いからかもしれない。はたまた私が弱いからかもしれない。
…これも意味のない問いだ。そろそろ戻ろうかな。何にせよ、次も勝たねばならないのだから───。
アスリ・カンマはデザインベイビーとして"造られた"存在であり、その身は人に望まれていれど、神に与えられたものではない。彼女は人に造られたが故に人であり、神に似せられたが故に人なのではない。その意味でその特異性は、幼子からすれば似通った存在だったのだろう。けれど、罪人は人ではない。
だからその邂逅は、互いにとって自身の奥深くを見つめるきっかけとなる。違い。わかること。わかり合えないこと。それぞれを。
"あなたは、そらをみていますか?"
思考の流出。人ならざる証。
"ぼくは、そらをみて。こうおもいました"
けれど、流れ出す思考の拙さは。
"ああ、月がきれいだと。足をつけてみたいと"
紛れもなく、人のそれ。
"…っと"
「すみません、ひとりごと?です…」
「こんにちは。私も一人で考え事をしていました」
目の前にいる人型は、モザイクの欠け落ちを伴っていた。
もっとも精巧なアバターを持たない存在ぐらいいるだろうとは想定していたし、むしろそんな人物がここまで勝ち残れたことの方が驚きだ。人は見かけによらないとは本当のことなのかもしれない。
「私はアスリ。アスリ・カンマ。セレネの揺りかごの教主をしております。お見知りおきを」
「ぼくは、つみびと。"つみびと"のオズワルド。そういうものと、してあります。こんにちは」
罪人。まともに名乗るにしては随分自虐的だ。
「罪人、ですか。何があなたの罪なのですか?オズワルド」
"それは、わからないけれど"
目の前からテレパシーのようなものが伝わる。なんらかのコードキャストが使われた形跡はない。異能、というものか。しかしこれは。
「えっと。この身体。このあたま。そこにニセモノがあるから、ぼくはつみびとなのです」
自発的に何かをした様子はない。或いは体質のようなものか、と思った。流出思考。文字通り脳みそに穴が開いているようなものだ。こんなデメリットを背負って、勝ち進むとは。むしろ侮れないのかもしれない。
「…ふーん」
退屈しのぎというには失礼なくらい、興味深いと思った。その時抱いた関心が親近感故だということには、まだ気づいていなかった。
「ねえ、オズ」
「おず?」
「オズワルドだからオズよ。私はアスリ。改めてよろしく」
「よろしくおねがいします」
「固いわね。まあ仕方ないか」
くるり。何となく一回転して、柔らかく微笑みかける。きっと私たちが出会うのはこれきりで、運命の相手というには満たないだろう。ならばその一度でいいから、出会いを楽しむのもアリじゃないか。
「うーん、調子をどっちに合わせるか…こほん。オズ、あなたは人間じゃないかもしれないけど。多分人ではあると思う…ます」
「ひと…なのでしょうか」
「そう。うちの信者にだって、色んな人がいるけど。みんな人だもの。ええ、病気や怪我でちょっと身体が欠けたり動かなくなったからといって人ではないなんて言うなら、その方が人でなしよ」
「…ひと」
「でもね。人であるなら、この問いには答えられないとね。ここにいる人が、みんな持ってる答え。あなたも答えられるかしら?
…あなたは、何のために闘うのですか」
存在を肯定する。庇護すべき存在だから。存在を問う。立ち向かうべき存在だから。
"ぼくは"
"生きたい"
単純かつ強烈な思考が流れてきて、一瞬怯む。それが目の前の幼子の行動原理。そういうことなのだろう。だが。
「…それは、理由としては。脆く、弱い。だめ、それだけじゃだめだよオズ」
生きたいなんて理由は、どこにでもありふれている。誰もが生きるために生き、煌びやかな生を全うするために自ら終わりを選択する。
たとえそれが望まれずに生まれてきたがために、生へと執着するのだとしても。私はあなたの生をハナから肯定してみせる。その時に立ち向かう理由が、足りない。…まあ、私たちが対戦することなどなくどちらかが先に脱落するのだろうが。
"…足りない"
「…次会う時までに考えておいて。…次があれば、だけど」
次は何回戦あとか、はたまた来世か。…輪廻転生は揺りかごの教義にあったかな。…マニキチの教義にあるかも。早く帰って聞いてみよう。
早く帰らないと、母親が私たちを殺してしまう。だから、今日はここまで。私たちに、母親なんて居ないとしても。
そうであるならば私はここにいる間、何度も運命の相手を見つけていることになる。何度も何度も殺し合いをし、その手で生を奪い取っているのだから。そうでなければ人生を変えるような何かをもたらすものだろうか。
これもありふれている。そうであるならば私はここに来るまでに、何度も運命の相手に見つけられていることになる。セレネの揺りかごの教主として、人々に終わりと救いをもたらす責務があったからだ。
…こんな問いにはきっと意味はないのだろう。たとえば今私が暇潰しに収容棟を練り歩いているのと同じで、暇潰しに頭を動かしているのにすぎない。
あーつかれた。あとでアサシンをからかって遊ぼうか。何度となく殺し合いをする相手よりも、アサシンの方がよっぽど興味深いと思ってしまう。これは私が幼いからかもしれないし、私が強いからかもしれない。はたまた私が弱いからかもしれない。
…これも意味のない問いだ。そろそろ戻ろうかな。何にせよ、次も勝たねばならないのだから───。
アスリ・カンマはデザインベイビーとして"造られた"存在であり、その身は人に望まれていれど、神に与えられたものではない。彼女は人に造られたが故に人であり、神に似せられたが故に人なのではない。その意味でその特異性は、幼子からすれば似通った存在だったのだろう。けれど、罪人は人ではない。
だからその邂逅は、互いにとって自身の奥深くを見つめるきっかけとなる。違い。わかること。わかり合えないこと。それぞれを。
"あなたは、そらをみていますか?"
思考の流出。人ならざる証。
"ぼくは、そらをみて。こうおもいました"
けれど、流れ出す思考の拙さは。
"ああ、月がきれいだと。足をつけてみたいと"
紛れもなく、人のそれ。
"…っと"
「すみません、ひとりごと?です…」
「こんにちは。私も一人で考え事をしていました」
目の前にいる人型は、モザイクの欠け落ちを伴っていた。
もっとも精巧なアバターを持たない存在ぐらいいるだろうとは想定していたし、むしろそんな人物がここまで勝ち残れたことの方が驚きだ。人は見かけによらないとは本当のことなのかもしれない。
「私はアスリ。アスリ・カンマ。セレネの揺りかごの教主をしております。お見知りおきを」
「ぼくは、つみびと。"つみびと"のオズワルド。そういうものと、してあります。こんにちは」
罪人。まともに名乗るにしては随分自虐的だ。
「罪人、ですか。何があなたの罪なのですか?オズワルド」
"それは、わからないけれど"
目の前からテレパシーのようなものが伝わる。なんらかのコードキャストが使われた形跡はない。異能、というものか。しかしこれは。
「えっと。この身体。このあたま。そこにニセモノがあるから、ぼくはつみびとなのです」
自発的に何かをした様子はない。或いは体質のようなものか、と思った。流出思考。文字通り脳みそに穴が開いているようなものだ。こんなデメリットを背負って、勝ち進むとは。むしろ侮れないのかもしれない。
「…ふーん」
退屈しのぎというには失礼なくらい、興味深いと思った。その時抱いた関心が親近感故だということには、まだ気づいていなかった。
「ねえ、オズ」
「おず?」
「オズワルドだからオズよ。私はアスリ。改めてよろしく」
「よろしくおねがいします」
「固いわね。まあ仕方ないか」
くるり。何となく一回転して、柔らかく微笑みかける。きっと私たちが出会うのはこれきりで、運命の相手というには満たないだろう。ならばその一度でいいから、出会いを楽しむのもアリじゃないか。
「うーん、調子をどっちに合わせるか…こほん。オズ、あなたは人間じゃないかもしれないけど。多分人ではあると思う…ます」
「ひと…なのでしょうか」
「そう。うちの信者にだって、色んな人がいるけど。みんな人だもの。ええ、病気や怪我でちょっと身体が欠けたり動かなくなったからといって人ではないなんて言うなら、その方が人でなしよ」
「…ひと」
「でもね。人であるなら、この問いには答えられないとね。ここにいる人が、みんな持ってる答え。あなたも答えられるかしら?
…あなたは、何のために闘うのですか」
存在を肯定する。庇護すべき存在だから。存在を問う。立ち向かうべき存在だから。
"ぼくは"
"生きたい"
単純かつ強烈な思考が流れてきて、一瞬怯む。それが目の前の幼子の行動原理。そういうことなのだろう。だが。
「…それは、理由としては。脆く、弱い。だめ、それだけじゃだめだよオズ」
生きたいなんて理由は、どこにでもありふれている。誰もが生きるために生き、煌びやかな生を全うするために自ら終わりを選択する。
たとえそれが望まれずに生まれてきたがために、生へと執着するのだとしても。私はあなたの生をハナから肯定してみせる。その時に立ち向かう理由が、足りない。…まあ、私たちが対戦することなどなくどちらかが先に脱落するのだろうが。
"…足りない"
「…次会う時までに考えておいて。…次があれば、だけど」
次は何回戦あとか、はたまた来世か。…輪廻転生は揺りかごの教義にあったかな。…マニキチの教義にあるかも。早く帰って聞いてみよう。
早く帰らないと、母親が私たちを殺してしまう。だから、今日はここまで。私たちに、母親なんて居ないとしても。
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