ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

彼に、抱えられて。彼に、身を預けて。彼の、匂いをかいで。
とても心地よかった。嗅覚を鋭敏にする。もっと、匂いを嗅ぎたいと思った。
気持ちいい。快楽というものを知った。あらゆる手段で心地よくなれると分かった。人にまた、近づけた。
でも。まだ、気持ちよくなれないだろうか。そんな欲求が、マギのすべてを支配する。
甘い底なし沼。すでに膝まで浸かっていた。もう、引き返せない。

あまりにおいしそうだから。その知識の実を得ることが、あまりにも魅力的に映るから。
手を伸ばせば、完全になれるはず。知識を得て、悪いわけがない。
そうして、そう言い聞かせて。彼の心音を聞きながら。
更なる知識の、"検索"を。それは、ただ。
きもちよくなりたいから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さあ。着きましたよ。」
言って、彼が優しく床に下ろしてくれた。なんて、やさしいんだろう。
誰もいない、二人きりのいつもの場所。なんて、すてきなんだろう。
どうじまさま。どうじまさま。あれ?こえにならない。

「本人が大丈夫と言っても、理由もわからないですからね。
マギさんが起き上がれるまで、見守ってます。」
ほんとうに、やさしいな。それにしても。なんだかぼんやりーーーーーーーーーーーーーー

瞬間。知識が逆流する。そうだった。私は、そのために検索した。その結果。頭の処理が追い付かなくなっていたのか。
それほどまでに。私は期待していた。夢想していた。興奮、していた。
ああ。一刻も早く。深く。甘い蜜を。きっと頼めるのは、彼しかいない。
それは信頼故か。それとも。

「それにしても。その、よかったですね。食事、とれるようになったらしく。」
彼はあのことに言及してこない。気まずいのだろうか。でも。
私はそれ以上を今から求めようとしている。これは、いけないことなのだろうか。でも。
早く身体が動かないだろうか。そうすれば、求められる。もうそれしか、考えられない。
「…すみません。まだ、口もうまく動かないですかね。まあ、独り言と思って聞き流してください。」
ああ、彼に失礼な態度を取ってしまった。どうしよう。どうしよう。でも。
気持ちだけが渦巻いて、言葉が圧迫される。出てこれない。絞り出せない。でも。
まてない。はやく。うごけ。うごけ。からだ。くち。こころ。うごけ。

そうしてついに、その時は来る。マギはゆっくりと立ち上がった。
ああ、よかった。彼のその言葉が聞こえていたのかは定かではない。
堰を切ったように。純粋で爛れた欲望が、流れ出る。

「堂島様。その、本当に、よくないお願いだとは思うのですが。接吻というものが、さきほどの事故が、あまりにも忘れられなくて。強烈で。鮮烈で。
そして…検索してしまったのです。接吻にも種類があると。そしてそれは、とても気持ちが良いのだと。でもそれは、普通の関係では許されないものでもあると。
でも、でも、もう、駄目なんです。堂島様は、私を人だと言ってくれたけれど。きっと、私はそれでも、そういう分野には…いけないから。
身体と精神の構造の問題です。私は人を愛せないし、人は私を愛せない。性の概念が、ない。
それはわかっているんです。だから、これは。
ただ快感を貪るための、行為です。どうしても、それを知りたい。知的好奇心などではないでしょう。もっと浅ましいものでしょう。でも。でも。
…こんなことは、堂島様にしか頼めないのです。
あの日のこと、おぼえていますよね?
そして、いまから私がお願いするのは。あれ以上に深い、接触だから。
長々と言い訳を。すみません。端的に言うなら。
理由ははっきりしないけれど。堂島様と。
深く。繋がりたい。」

マギは知らない。暴走とは、自分の意志でも起こりうることを。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「マギさん……っ! ちょっと、待ってください……!」
「待ちません。待てません。私に、気持ちいいをください。もっと、もっと感じたいのです。」

私の口を割って、血が通っていないとは思えない肉が入り込む。
最初は舌を、次は歯を、その根を、唇を、そしてまた舌を。小さな侵入者は、手の届く限りの全てを舐り、擽り、吸い、犯し尽くす。
最早彼女の舌が触れていないところなどないというほどの蹂躙が止んだかと思えば、次は私の唾液を求めて吸い付いてくる。
呼吸を必要としない彼女は、文字通り息をつく暇すらなく、貪欲に己の快楽を求める。その眼には、最早理性など残っていなかった。

心を鬼にして断るべきだったと、後悔する。そも、自分達はそれをすることが自然な関係性ではない。彼女は否定していたが、いつかそのような相手が現れるかもしれないのだ。
それが男性か女性か、それともどちらでもない性なのか。何れにせよ、情を交わしたいと思う相手が出来るまで、それはしてはならないものなのだと、きっぱり言い切るべきだった。
だというのに、事故とはいえ彼女にその快楽を教えてしまったことの責任を取るべきだ、などと軽々に考えた結果が、これだ。
口付けが欲しい、と。あの事故のような触れるだけのものではない、深い口付けが欲しいのだと。自身の信じる倫理に反することだと分かっていたはずなのに、了承してしまった。
軽い口付けだけで終わらせるつもりだったし、そのように宣言もした。そして、一度は彼女も受け入れてくれた。だからこそ、私は彼女の唇に触れた。できるだけ労わるように、傷の一つすらつけないように、淡い体温だけを感じ取るように。
もっととねだられれば、それに応じた。彼女がその疼きを鎮めるまでならば、付き合うつもりだった。だが、鎮まるどころか、軽い刺激の繰り返しは彼女を逆に昂らせたようで。
気がつけば、私はいつかのように、強引に押し倒されていた。今度はカーボンファイバーで押さえつけられている訳ではない。10cmは小さな彼女の手足で、私の身体は微塵も動かないように固定されていた。

「ああ」

吐息のようなその嘆息は、酷く濡れていた。
間も無く蹂躙が始まり、私は、彼女にただ貪られるがままだった。


「……っ、はっ、ひゅっ」
「んっ……」

やがて、僅かな呼気さえ全て吸い尽くす勢いだった蹂躙が終わる。
私が酸欠で気絶する寸前まで貪り続けたマギさんは、吸い上げ損ねた唾液を口の端から垂らしながら、名残惜しそうに離れていった。
ぬらりと艶かしく光る唇が、今の今まで私を死に追いやりかけていたことすらも信じ難いほどに、その姿は美しかった。

「……申し訳ありません。この心地良さを楽しむのに、集中してしまっていました。」
「いや、問題は其処では……ごほっ」

掠れるような過呼吸の音を耳にしながら、しかし、何処か心此処にあらずで。
彼女がその状態から導き出した解答は、此方の想定したものからは大きくズレていた。

「そうですね。私だけが楽しんではいけませんよね。

身体を拘束していた手足を離す。ゆっくりと彼女の手に引っ張り上げられ、そのまま私は立たされた。
どのような意図があるのか、今ひとつ汲み取れず混乱している私を他所に、熱っぽい彼女の瞳は変わらないままだった。

「済みません、堂島様。ですが、お許しください…」
「何を」
「どうか、一緒に気持ちよくなりましょう…?」

慈しむように私の顔を撫ぜ、彼女は再び、私と口づけた。
また暴力的なまでのまぐわいが始まるのか、と恐怖する心は、すぐに、少しの驚きとともに塗り替えられる。
潤いがあった。先程までは、うねるような熱さだけしかなかったはずの舌が、柔らかく濡れている。それこそ、普通の人間のような。
反射的に、乾いた口はその潤いを求めた。我を忘れたようにそれを啜る。味など感じないはずなのに、どうしようもない甘露だった。

「っっっっ……!」

しかし、マギさんが総身を震わせたことに気づいて、甘い酩酊は覚めた。咄嗟に受け入れていた彼女の舌を押し出し、顔を引き剥がす。

「大丈夫ですかっ、マギさ」

……言い切ることはできなかった。
闇のような眼だった。飲み込まれそうな、昏い情欲が燃えていた。
嘗ての、色彩を感じられないとすら思えた程の無機質さはない。近頃よく見せるようになっていた、繊細な希望もない。
悦びだけを求める妖しい輝きは、ある種、何処までも人間的な感情であって、彼女が求めたものの一端を示していた。

「痺れ、ました。これが、快楽。これが、人間の性。ああ、甘い、暖かい、気持ちいい…!」

その赤い眼に、蠱惑される。溺れたくなる。だが、理性はそれに待ったを掛けている。
一瞬の間脳裏で繰り広げられた拮抗は、辛うじて理性の勝利に終わった。これだけの事をしておきながら、今更のように私は彼女を慮る言葉を投げかける。
とんだ欺瞞だ。一度は彼女を受け入れておきながら。しかし、それでも、一旦醒めた視座を取り戻せば、それを無視しきることはできなかった。

「…唾液を、出せるようにもなったのですね。それで、一緒に気持ちよくなろう、と」
「ええ、そうです。私だけが快を得るのは良くないと思いました。だから、さぁ、もっと…!」

潤むこともないはずの眼を濡らし、彼女は迫る。或いは、一度受け入れた以上は、彼女のするように任せてしまうのが、本当にやるべきことなのかもしれない。
だが、今更にも思い出した倫理を前に、どうしても言葉が出てしまうのは、私が頭でっかちだからだろうか。

「私で、良いのですか。」

彼女は、私と繋がりたいと言ってくれた。それは恐らく、彼女自身の本心だろう。其処で意味もなく嘘をつくような人ではない。
ただ、その理由が、「秘密を知っているのが私だけだから」というものであるならば、私は今からでも彼女を止めるべきだと思った。
これは私のエゴだ。
彼女は愛を否定したが、それでも、私は彼女にそれが芽生えることを否定したくはない。
だからこそ、「情を交わす」ことの意味を、それがどれだけ重いものに成り得るかを、そしてその理由が「私しかいないから」というものであることの危うさを伝えたかった。

「…分かりません。もしかしたら、私の秘密を知っているなら、他の人でも良かったのかもしれません。」

少し伏し目がちに、彼女は答えてくれる。だとするならば、私はやはり、彼女を止めなければならない。
言い出そうとしたことは、しかし、彼女が続けた「でも」という言葉によって遮られた。

「でも。例えそうだったとしても、私は、今この瞬間、堂島様と繋がりたいと思ったのです。」

……殺し文句だと思った。それは、ダメだ。私が小賢しくも防壁として立てようとした理論を踏み潰す、衝動的な感情だ。
如何に道理を積み重ねても、こうしたいと思ってしまったら止まらない。初めて感じたものであれば、なおのこと。
彼女の望むものは犯罪ではなく、私の道理は私の主義でしかなく。であるならば、彼女がそうしたいと思った感情を妨げるものは、何もない。
唯一つ、私が拒みさえしなければ。

「…呼吸はさせてくださいね。流石に死にたくはありませんから。」
「!」
「んぐっ」

最早返事すらもない。私の声を聞いた途端、再び私は、マギさんの舌を受け入れていた。

先程とは違い、滑らかで湿った触れ合いだった。私が彼女の舌を吸えば、彼女は私に蜜を注ぐ。彼女が私を求めれば、私は彼女を内側へ誘う。
侵入してきた舌を迎えるように、優しく絡まり合う。時に歯で甘く噛みつくと、彼女は激しく身を震わせた。
呆然と、遠い何処かを見るようにして、それでも舌の動きは止まらない。お返しとばかりに私の舌を食み、その先とじゃれ合う。
掠るように、態と行き違わせることで、そのもどかしさが相手を求める気持ちを増す。私を抱きしめるように手を伸ばすマギさんの切ない様子が、どうしようもなく愛おしかった。
何となく、蛇のようだと思った。絡まり合うことでまぐわうこの獣は、人の祖先を唆し、智慧の実を食べさせて神の園から追放させしめたという。
こうして快楽を貪ることも、きっと蛇に与えられた原罪の一つであっただろう。
そう思えば、純真とすら呼べた彼女を変えたことが果たして正しかったのか、再び私の心は揺らぐ。
その揺らぎも、しかし、マギさんの蕩けた顔を見てしまえば、何処かへと霧散してしまったのだから、やはり私も俗物だ。

……ただ、そうして望まれるがままに応えていれば、此方としても鎌首を擡げてくるものがあるもので。
彼女の背に伸ばした腕で抱きしめていた華奢な身体に、それが触れてしまったことに気づくと、彼女は絡めていた腕を離し、下の方を見遣った。

「……気にしないでください。マギさんが気持ちいいのなら、私はそれで構いませんから。」

多少の気恥ずかしさもあり、誤魔化すように笑いかけるが、彼女は目線を外そうともせずじっとしている。
あの、ともう一度言いかけて、今度は、彼女がいつのまにか裸体を晒していることに気がついた。

「脱ぎました。堂島様も脱いでください。」
「えっ」

あれよあれよという間に、私の衣服は彼女によって引っ剥がされ、彼女の服もろとも、綺麗に畳まれた状態で机の上に置かれた。
生まれたままの姿。当然、先程までズボンの下に隠れていたモノも露わになる。

「ああ、やっぱり。ええ、私も学習はしたのです。」

其処を見つめ、私の身体を見つめ、やがて彼女の目線は顔に戻ってくる。
微かに、表情の薄い彼女が、笑みを浮かべた気がした。

「私と堂島様は、本当の意味で一つになることはできませんが…一緒に快楽に溺れるだけなら。」
「ちょっ…」

赤く小さな蛇が身体を這う。手指の先を舐り、腕を遡り、首筋を蠢く。身を屈めながら胸板を擽り、臍を濡らし、そして其処へ。
私自身の快楽になると同時に、恐らく彼女にとっても、それは性感を刺激したのだろう。僅かに肉体に掠るだけで、彼女の身体は何度も跳ねた。

「ん…」
「マ、ギさんっ」

ちろちろと、裏筋を這うように舐めあげる。遠慮がちにその先を咥え込み、奥までも頬張る。
口全体で心地よく圧迫され、その表面を舌が這い回る感覚。自慰で感じるそれとは、全く別種の快感。
口腔の感覚自体が鋭敏であるが故に、そして、そんな奉仕行為ですらも、彼女にとっての快感ともなっていて。

慣れない動きだが、私の反応を伺いながら、求められる場所を的確に刺激する。
他に経験がある訳ではない。だが、間違いなくそれは、私にとって気持ち良いものだった。
昂奮を与えられ続けていたところに、急に快楽が与えられて、耐えることは難しい。
思わず、精を吐き出そうとしたその瞬間、蛇は肉の幹から離れていった。
幹と彼女の口を結ぶ唾液が滴り落ちる。その光景にどうしようもない背徳感を覚えながら、私は彼女を、つい恨みがましく見てしまった。
此処までしておいて、何故止める、と。行為を受ける側でありながら勝手な話だったが、彼女は、その意図を読み取っていたようだった。

「このままでも、良いのですが。堂島様にも、もっと気持ちよくなって頂きたくて。」

私は眼を疑った。己の顎のあたりに手を据えた彼女が、力を入れた瞬間。彼女の首は、胴体から綺麗に抜けてしまっていた。
慌てる私を他所に、首のない身体に支えられたマギさんの首は滔々と言葉を紡ぐ。
いや、或いはそう見えていただけかもしれない。彼女の眼は、未だ以て熱を帯びたままだったから。

「ええ、少しの間なら、外していても問題ないのです。
 私はこの身体ですから、全部を使って堂島様を気持ちよくすることはできませんが。
 でも、この身の限り、精一杯ご奉仕いたします。」

言って、首のない身体が、頭部を私の局部に押し付けてくる。彼女の吐息が、自分のモノを刺激する。
それは、異形だけれど。彼女なりの、精一杯だった。精一杯の、奉仕あいの形だった。

「さあ、私の頭を手に取って。思う存分、使ってください。」



……正直に白状すれば、この時に起こったことは、私にとっては余りにも馬鹿げた愚行だったと後悔している。
非現実的な様相を見て、快楽に呑まれて、理性をなくした。彼女の言葉通りに、彼女を使ってしまった。
ただ。それでもそれは、彼女にとって、快楽であり続けた。



ぐぼっ、ぐぼっ、と。濡れたものを無理やりに動かすような音。同時に漏れ出るのは、嗚咽のような人の声。
私のモノを咥えこんだマギさんの首は、私自身の手によって抽送運動を繰り返させられていた。
獣も同然だと承知はしていた。だが、止まらない。自らも快楽を得る為に蠕動する彼女の口内は、余りにも快い。
使ったことこそないが、このような自慰器具もある。人格を持つ者をその類の道具同然に扱うその行為に対して、倫理観はブレーキを掛けてはいた。
それよりも強いアクセルが働いていたのでは、無意味だったが。理論を防壁として立てても、獣欲はそれを容易く踏み壊してしまう。
ソドミーとは、この事か。退廃の都ソドムに溢れた、神の望まない愛欲の形。この行為がそれでなくて、一体何だというのだろう。
蛇からの連想で、そんなことを思う理性の存在が、何処までも滑稽だった。

「マギさん…!」
「んぅ、んんっ、んんんぅ」

明確な言葉にはならない。目線が合うこともない。彼女の眼は閉じられ、口内の感覚に集中しているようで。
それでも、このような扱いをしてもなお快感を得ていることは、残されている彼女の身体が小刻みに震えているのを見れば一目瞭然だった。
それが、堪らなく唆った。私の動きだけで、普段の様子からは想像もつかないほどに乱れている。その光景を、独占できている。
誰にも渡さない。彼女のこの様子は、誰にも渡したくない。だからこその、快楽だっただろうか。
そうふと思った瞬間に、得も言われぬ射精感が込み上げてきた。

「ダメだ、もう…!」

吐精の予兆を感じて、咄嗟に彼女を離そうとする。しかし、その瞬間、彼女の身体が勝手に動いて、首の抽送を再開した。

「んんっ」
「待ってください、もう出るんです…! マギさ、マギさんっ…!」

私の声は、届いていないようだった。彼女の身体も、彼女の首も止まらない。
舌は益々その動きを激しくし、肉の幹を嬲る。その刺激を更に増す為に、身体は首を抽送する。
私自身に、彼女の衝動を止めるだけの力はない。なされるがままに快楽を享受し、そして、その時が来た。

「ぐっぁっ」
「――――――!!」

白濁を吐き出す。腰が砕けるかと思うほどの、これまで以上の感覚。自立すら危ういものを、辛うじて耐える。
そして、それを口内で受け止めたマギさんもまた。絶え間なく激しい痙攣を起こし、私自身にもたれかかるように、首を押し付けてくる。



歪だった。性交というには余りにも歪で、かといって自慰というには、余りにも熱が混じり合っていて。
暫く、何を言うこともなく、快楽の余韻に浸っていた。彼女もまた、首と胴とを再び繋げながら、口に手を添えて、感覚を味わっているようだった。
どちらからともなく、お互いの顔を見つめ合う。乱れた呼吸の私と、いつもどおりの彼女。口の端から精を零す彼女と、いつもどおりの私。
こんな歪な状況で、快楽だけを貪る為に交わって。だけど、いざそれが終わってみれば、何故だかそれだけではないような気がして。

それが自然なことのように、抱き合っていた。
互いに裸。誰もいない世界。二人ぼっちの密室。今の今まで滾っていた獣欲も、快を求める昏い炎も、不思議と消えていた。
アダムとイブは、智慧の実を食べた後、お互いを知ったという。それはきっと、こういうことだったのではないだろうか。
神に禁ぜられた欲を得て、それを愉しんだ。然る後、その交わりを経たからこそ、それまでは見えなかったものが見えるようになったのではないか。


此処には、「堂島淳」も「マギ」もいない。ただ、二人のヒトがいるだけだった。何となく、そう思えた。

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