最終更新:ID:wEaZlhpr5A 2023年11月15日(水) 20:39:29履歴
「フランケンシュタインが、撮りてぇ……」
ここは、カルデアが資材集めの為にレイシフトした、とある場所。
戦闘も終わったある時、同行していたサーヴァントの1人、ウィリス・オブライエンが突然そんな言葉を呟いた。
『なんだい藪から棒に、君らしいと言えば君らしいけど』
「だってよぉ、こう何度もワイバーンと戦わされたら、特撮欲が刺激されるのが筋ってもんだろぉ!?
お前なら分かるよなぁダ・ヴィンチぃ! 同じ芸術家気質だ、隠しても無駄だぞ!」
『はっはっは。特撮欲というものが何かは把握しかねるけどね。
でもインスピレーションを刺激されたから、創作したくなるって気持ちはわかるかな』
「だよなぁ!! さっすがは万能の天才! いい酒が飲めそうだ!」
「でも、なんでフランケンシュタイン?」
テンションが上がりながら通信先のダヴィンチと会話するオブライエンに、彼のマスターが問いかけた。
オブライエンは待ってましたと言わんばかりに仰々しく振り向いて、自身のマスターにその理由を語り始めた。
「そりゃあ、キングコングに対抗できる怪獣だからだよ!」
「え? そうなの?」
「そうさ! キングコングvsフランケンシュタイン! 実現しなかった世紀のマッチだ!
野生味あふれるコングの拳が、科学の生み出した醜悪なる怪物の牙と絡み合う!! 実に絵になるだろう!?
コングと渡り合える怪獣はフランケンシュタインしかいねぇ! だから俺は、生前からフランケンシュタインを撮りたかったんだ!」
「なるほどー。でも、コングのライバルと言えばやっぱりあれじゃない?」
「あれ? なんだそいつぁ」
「ほら、怪獣王のゴジ──────」
そうマスターが言おうとした、すぐの出来事だった。
凄まじい力が彼女の胸元のベルトにかかる。まるでクレーンに吊り上げられたかのように、マスターの足元は数センチ宙に浮かんだ。
先ほどまで高揚しながら語っていたオブライエンが、突如として激高してマスターの胸倉に掴みかかったのだ。
「っ!? オブ……ライエン?」
「二度と、俺の前でその糞野郎の名前を出すな」
凄まじい気迫だった。まるで怒りと憎悪が混ざり合ったかのような目つきだった。
吐き捨てるようにそれだけ告げると、オブライエンはマスターを放り投げるように胸倉から手を離した。
「萎えた。帰る」
それだけ言い残し、そのまま彼は霊体化した。以降、彼は一切顔を出すことはなかった。
マスターとダヴィンチはというと、彼の突然の豹変に対し、ただ茫然とするしかできなかった。
さすがにこの空気のまま素材集めを続けるわけにもいかず、そのままカルデアへと帰還することとなった。
◆
「生前のオブライエンについて調べました。
それと一応、現在までのキングコングなどの映画資料も」
「ありがとうマシュ。ごめんね。急に調べものさせちゃって」
「いえ。私もこういった怪獣映画などのジャンルは興味がありましたので」
そう言いながら、マシュとダヴィンチ、そしてマスターは机の上に広げられた資料を眺めた。
資料の内容は、オブライエンの過去。それもキングコングで成功してから、ある程度が経った晩年のものが主だった。
それに加えて、現代まで綿々と続くキングコングに関するインタビューやパンフレットも点在している。
マシュはそれらに目を通しながら、調べた内容を報告し始めた。
「調べによりますと、オブライエンさんはロストワールドやキングコングで多大な成功を収めました。
ただ栄華が続いたわけではなく、晩年はほとんどの映画企画が日の目すら見ずに終わったと記録がありました」
「そういえば、探偵特異点の時もそんなこと言ってたね。今度こそヒット作を撮るって」
「はい。そして1961年、彼が最後にもう一度、という心を込めて作った映画の企画があったそうです。
それこそ、キングコングvsフランケンシュタイン。彼がフランケンシュタインを撮ろうと言った理由と思われます」
「結局のところ、最後に彼が撮りたいと思ったのは、過去の栄光なキングコングだったわけだ」
ダヴィンチは複雑な顔をしながら言った。
芸術家として、オブライエンの気持ちの断片が理解できたのかもしれない。
一方、マスターはというと、どこか申し訳なさそうな複雑な表情をしていた。
「ジョン・ベックというプロデューサーの協力を得たオブライエンさんは、この企画を様々な映画会社に持ち込みます。
しかし十分に資金が集まりませんでした。ただ、ベックさんが藁をも掴む思いで、ある映画会社に持ち込んだそうです」
「もしかして、それが…………」
「はい。かのゴジラを生み出した、日本の東宝株式会社です」
マシュは続ける。そうしてキングコングの新作は日の目を見ることになるのだが、それはオブライエンにとっては最悪の出来事だったと。
曰く、東宝はその企画を好意的に受け止めたが、「コングに対抗できる怪獣はゴジラしかいない」と勝手に対戦カードを書き換えたというのだ。
持ち込んだベックは、コングが再び日の目を見れるなら……とこれを勝手に承諾。オブライエンには話が行かないまま映画の製作は進んだそうだ。
「すべてを知ったオブライエンさんは、とてもショックを受けたそうです。
自分のアイディアが無断で歪められたため、一時は東宝を訴えようとしましたが資金不足のため断念した、とも記録があります。
そのまま公開前に心筋梗塞で死んでしまいましたが、一説では、この時のストレスが遠因ではないかと言われるほど心残りだったそうです」
「ふーむ……。そんな過去があったんだねぇ。ゴジラを恨むわけだ」
「悪いこと、言っちゃったな」
マスターが暗い顔で、己の発言を後悔した。
ダヴィンチはそんな彼女に、君の国ではゴジラが怪獣の顔なんだからしょうがないと励ました。
しかしマスターのモヤモヤは消えない。自分の何気ない発言が、オブライエンの晩年の傷を抉ったことは事実だからだ。
どうしたらいいものか? 考えた末に、彼女は1つのアイディアを思いつく。
「私、謝ってきます!
それで、一緒に映画撮ろうって誘ってきます!」
「おっ、良いねぇ。謝罪ついでに夢を叶えてあげようって訳か。行ってらっしゃい」
「応援してます! 先輩!」
そうしてマスターは、オブライエンの夢をかなえるために走り出した。
彼が要望した通りに、道中出会ったフランケンシュタインを連れて。
カルデアに彼女がいたのが、幸いであった。
◆
「オブライエン、さっきはその、ごめん」
「あ? あー、良いよ。俺だって頭に血が昇りすぎた。悪かったな」
「えーっと、それで、その、なんだけど……」
「あ? どしたよ」
「その、謝罪ついでに、一緒に映画撮る?
フランケンシュタイン、連れてきたよ」
「それを早く言えよぉ!」
カルデアの喫煙室。不機嫌そうにたばこを吸っていたオブライエンは、マスターの一言で即笑顔になった。
パァと花が咲いたよう、とは到底言えないほど濁った笑顔ではあったが、それでも一瞬の表情の変化はそう表現するほかになかった。
「カルデアにいたのかよフランケンシュタインの怪物!!
まぁホームズがいるくらいだ! いてもおかしくねぇよなぁ!
よしスタジオを確保しろ! コングは俺が用意する! マスターは俳優を集めろ!
しっかしフランケンシュタインの怪物かァ! 実物は初めて見るなァ! 当たり前だけど。
どんなバケモンが出てくるかなぁ! いやぁワクワクするなぁオイ!」
「うー……」
「へいへい嬢ちゃんサインは後だ。俺はこれから忙しくなるんでねぇ!
そうだ、せっかくだしコングに武器でも持たせるか? 何がいいかな……斧か、剣か。
雷撃とか出せるようにするのもいいか? フランケンシュタインと言えば雷だもんなぁ!」
「うー!!」
「ああ皆まで言うな。楽しみで仕方ねぇんだろ麗しきお嬢さん。俺も楽しみだ!
ところで怪物はどこだ? 言葉が通じるか分かんねぇが、挨拶はしておきてぇからな。
さぞや不気味で醜悪で悲しきモンスターなんだろうなぁオイ!」
「え、いやー、あの、そこに……」
「あ?」
「うー!!!」
マスターが気まずそうに指をさした先には、少々怒り気味のメカクレ少女がいた。
そう。彼女こそフランケンシュタインの怪物。クラス・バーサーカーとして召喚されたサーヴァントその人である。
つまるところ、オブライエンが求めた怪物とは、そのものずばり彼女のことを指すのであった。
「違うよクソ! 馬鹿野郎! フランケンシュタインの怪物がこんな可憐な乙女であってたまるか!
俺が求めているのは醜悪で悍ましく、しかし悲哀に溢れた人造モンスターなんだよ! 造物主に望まれながらも拒絶された憎悪と怒りが外見に出ているべきだ!
それがなんだよ、こんな綺麗な肌しやがって! スタイルもルックスも抜群じゃねぇか! こりゃ花嫁ドレスか? いい仕事してるな仕立て屋!
おいおい綺麗な目しているな! 隠すなんて勿体ねぇ! こりゃサファイアか? アクアマリンか? こんなの怪獣じゃねぇよ、ヒロインだよ!
コングとドンパチやるよりも、大事に抱えられてエンパイアスティトビルに再び登らせる役がお似合いだね!! マジふざけんなっつー話だよ!
というわけで嬢ちゃん、次の映画のヒロインやる気はねぇか? アカデミー賞総なめは、約束してやるぜ?」
「うー! がーっ!!! ……う? うー???」
褒めているんだか貶しているんだか分からない言葉を矢継ぎ早に浴びせられ、リアクションの困るフラン。
実際オブライエンとしても、サーロインステーキを注文したら極上のレアチーズケーキを出されたような気分なので複雑な気分であった。
だが、一度ステーキを食べると決めたら他の食事で満足できなくなるように、もはやオブライエンは怪獣を撮るまでは満足できない状態になっている。
ゆえに、もはや今の彼を止めるものは誰一人としていない状態となっていた!
「フランケンシュタインが可憐な乙女となりゃあ、仕方ねぇ。
こうなったらもう、決めるしかねぇようだなオイ!」
「き、決める?な、なにを……」
「簡単な話だよ。怪獣がいないなら決めればいい!」
「コングにぴったりの、カルデアナンバーワン大怪獣をな!!」
「うー!!!!!!!!」
かくして、カルデアで最もキングコングの相手にふさわしい大怪獣はだれか? を決める世紀の決戦が幕を開けた。
なまじ怒らせてしまったという後ろめたさがあるだけに、マスターは彼の暴挙を止めることができずにいた。
ただ、興奮するオブライエンとつられて興奮するフランを、見届けるしかできなかった。
◆
「えー? シミュレーターを使いたいぃ?
いま頼光たちが使っているところなんだけどー」
『我々は構わない。それぞれ領域を分けて、戦闘訓練に勤しもうじゃないか』
「訓練じゃないんだけど……。すごい申し訳ない……!」
かくして、カルデア最大怪獣トーナメントが幕を開けた。
ルールは簡単。オブライエンが宝具で展開したキングコングと、エントリーしたサーヴァントたちがぶつかり合う。
キングコングの大きさはサーヴァントと合わせる(特撮で大きさは自在のため)。重要なのはデザインと武器だ、とは審査員(オブライエン)の談だ。
「さぁ!始めようか!」という審査員の意気揚々とした言葉とともに、大怪獣を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
「エントリーナンバー1! ポールバニヤンです! おっきくなれます!」
「帰れェ!! でかくなれてもデザインが幼女そのままじゃクレームが来るわァ!」
「エントリーナンバー2。ドラコーである。七つ首の獣がご所望か?」
「幼女はもう良……黙示録の獣じゃねぇか! 良いねぇこいつはそそるぜ!
向こうが3本首ならこっちは七つ首ってなぁ!!」
「ガウ! ガウガウガウ!!(エントリーナンバー3! ケルベロスではないです!)」
「どっちだよ!? だが地獄の番犬(っぽいやつ)とは面白い! 継ぎ接ぎなのもフランケンシュタインっぽいな!
でも3本首だと向こうのアレと被るか?」
「zzz……、zzz……いばら姫、ですぅ……すぴー」
「誰だよガキ呼んだの!! つかガキ3人目じゃねぇか!? いやでも100本の荊の首ってのは使えるぞ!
おい待て! ラドンってモロ向こうにいるじゃん! 没!」
「■■■■■■■!!!!(印旛沼の怪獣です)」
「半魚生物か! なかなかいいな! いやでも水物は色々と面倒なんだよなぁ……。
撮影用の人形は腐るし撮影で俳優に何かあれば面倒だし……。だがデザインは良い!! 保留ッ!」
「ライダー、ウォーネーシュチーディーです。
特技は変身。見ててくれ! 私の、変身!」
「東映じゃねぇか!!!」
──────────────────
────────────
──────
「はぁ……はぁ……、まだまだぁ!」
「いやそろそろ休憩しようよ。スタミナやばいでしょオブライエン」
「けどよぉ! 俺はまだ満足してねぇぜ!? 次の怪獣を連れてこいやぁ!」
かれこれ10戦は優に超えたあたりで、そろそろオブライエンに疲労の色が見え始めていた。
だが彼の眼は未だに爛々と輝いており、続ける気満々である。しかし、大体のカルデア大怪獣は出尽くしたので、マンネリ気味になり始めていた。
というか、怪獣じゃなく怪人やただでかくなれるだけのサーヴァントまで混ざり始める始末である。
いつの間にか集まっていた数名のギャラリーも、怪獣バトルに飽きている感じが見え隠れしていた。
「うー……」
「そろそろ宇宙人出さない?」
「まだ満足行ってないとすると……。
そうだ! 余が生前に見た水晶蜘蛛などどうだ?」
「やめろ! それはマジでヤバイ!」
「まずい観客が飽き始めている。ここはテコ入れで……よしマスター! 脱げ!」
「なんで!?」
「映画で観客が飽き始めたらお色気と決まってんだよ!
さぁさぁ! 早く脱いだ脱い──────!」
そうオブライエンが調子づいていた、その時だった。
『緊急事態発生。緊急事態発生。
シミュレーターに正体不明のエネミー出現。シミュレーターに正体不明のエネミー出現』
「!!?」
突如としてシミュレーターにアラートが鳴り響く。
その場にいた全員が何事かと思うよりも早く、管制室と通信が繋がった。
通信の向こう側ではダヴィンチにホームズ、そしてマシュが血相を変えた顔色でいた。
『先輩! ご無事ですか!?』
「マシュ! いったい何があったの!?」
『頼光たち側のシミュレーターで、何か得体のしれないものが召喚された!
見たこともないエネミーだ。そっちに向かっている! 気を付けて対処してくれ!』
『そちらにオブライエンがいるはずだ! いいか、決して今から来るものを彼と接触させるな!』
「え? それってどういう……」
『急いで!』
「ッ! わかりました!」
見たことの無いホームズの剣幕に戸惑いながらも、マスターは周りにいるサーヴァントらと協力し迎え撃つ準備をする。
カルデアのマスターとして、彼女は十全に訓練を積んでいる。たとえ未知の敵であろうと、物怖じしない精神もまた持ち合わせていた。
ただ、シミュレーターに未知の敵が現れるという、今までにない事態に戸惑いを隠せないのもまた、事実ではあった。
「おいおい、俺に会わせらんねぇ怪物とはどういう代物だ?」
「すまないオブライエン。ホームズからの頼みだ、恨んでくれるなよ!」
「もが!? もががが!!」
観客の1人だったパチャクティクが、偶然あった麻袋でオブライエンの目と耳と口を塞ぐ。
それとほぼ、同時だった。
「────────────。」
「……ッ!!」
彼らの目の前に、白いもやが獣の形をとったかのような、不気味な怪物が姿を現した。
音はなかった。気配もなかった。まるでそれは、彼らの目の前に、突如"それが存在する"という情報を上書きされたかのような、突然の事態であった。
「うー!」
「……なんだ、こいつは?」
「オブライエンが怪獣を望んだから、マジで出てきちゃった?」
「いいや違う。こいつは……鵺だ!」
白い獣の出現した方向から複数人のサーヴァントが駆け、そのうちの1人がそう叫んだ。
名前は源頼政。かつて、実際に鵺を討伐した英霊だ。どうやら頼光と一緒にシミュレーターで戦闘訓練をしていたらしい。
「一目見ただけで理解できた。
こいつはまさしく、あの時討伐した鵺であると!」
「じゃあ、あれはサーヴァントなんですか?」
「サーヴァントにしちゃあ、随分と悍ましい様子だな」
頼光がじり…、と間合いを取りながら敵を計る。歴戦の神秘殺しである彼を以てしても、目の前の正体不明を計ることは難しかった。
そんな彼の様子を見知ってか、あるいは挑発のつもりなのか、白き影は人間の声のようなものを発して問いかけてきた。
「問おう」
「俺は」
「なんだ?」
呻くように、白いもやはそう告げた。
深淵から響くかのような、不気味でおぞましい声であった。
「なんだ? 謎かけか?」
「何と言われても……鵺、ですね、としか……」
「戯言に付き合う義理はねぇよ。攻めてくるんなら倒す。それだけだ!」
そう告げて頼政が弓矢を放った。続いて頼光が切りかかる。
他のサーヴァントたちも続く形で、突如出現した正体不明とのエネミーの戦闘が幕を開けた。
→続
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