ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

 もう既に、人は人ではない。故郷を捨て、肉体を捨てた。かつての人と同じ点は、一つとして存在しない。
 されどまだ、人は人である。意識といのちを繋ぎ止め、生きるためにもがいている。連続性は失われても、未来への希望を捨て去っても。
 ──ならば、こう問おう。
 意識もいのちもコンマ一秒前まで持たなかった虚数は、故郷も肉体も最初から「存在しなかった」人でなしの獣は。原罪も持たず輪廻も外れた、故に人にはない罪を背負う"つみびと"は。
 ──人とは、呼べないのだろうか?
 物語が語られるのは、冷たく堅い審判の場。果てに潰える人類種の罪を裁く、零落の器たる月の檻。万知万能の熾天の座は、愚鈍なる民に慈悲の極刑を齎すのみ。永久に癒えぬ瘡蓋の痛みに悶える人々に、たった三つの悦楽を。
 望みを叶えよう。
 裁きを与えよう。
 だから、殺し合え。
 ──聖杯戦争の、幕開けだ。




 Fate/Extra


 




 Fate/Extra ◼︎◼︎◼︎◼︎








 Fate/Extra Vacuity ◼︎◼︎


 





 
 Fate/Extra Vacuity-Seven Deadly Ridiances.






 


 虚数空間のブラックボックス。存在の抜けた屍の山。そこにあったマイナスより低い魂だったものが、霊子として変換されてゆく。存在しない虚数の肉だったものが、電脳における質量へと生まれ変わってゆく。そう、生まれ変わってゆく。意識の混成、胎動の認証。那由多の演算でも導き出せないだろう、マイナスとマイナスを足してゼロになる異常な現象。溢れて棄てられた塵芥が、たまたまゴミ箱の中で折り重なって胎児の形をしたような。
 満たせ、満たせ、器を満たせ。情報の再構築を繰り返し、都度歪みとなるものを破却せよ。削り、それでも尖り果て、救いようのない形で完成せよ。それが、この世界に相応しいのだから。人ではないと云うのなら、せめてつみびとに成り給え。
 そうして、一つのヒトガタが「生まれる」。マイナスから、ゼロになる。
 今、あなたがいるのは月の海。罪人たちを閉じ込める檻の中。いくらその白が綺麗に見えようとも、月はあなたを愛してはくれない。母なる大地は、もう棄ててしまったのだから。
 故に、ここから始まるのだ。それより前にあったものは無意味で、ここから先に感じたものがすべてだ。
 ──正常に、極めて正常に電脳体の構築は完了する。
 人は忘れる生き物だから、最初から記憶が存在しないとしてもおかしくはない。だから、何も問題はない。
 胎児が産まれるよりも穏やかに、ヒトガタは痛みも苦しみもなく生まれ落ちる。すべての人類さえを記録する月において、人一人を変換する程度に破綻や矛盾が生まれることなどなかった。そこにあった忘却と虚無の差だって、他者は外から知りようがない。世界すら、知りようがない。
 ……虚無で造られたその存在そのものが、罪悪であるとしても。
 本当は、人ではないとしても。
 他者はあなたを受け入れない。世界はあなたを受け入れない。誰も、あなたを祝福しない。あなたの存在を今現在認めるのは、感情のない無慈悲なシステムだけ。無視できる程度のエラーだから、無視という形で受容するだけ。肯定はしない。誰も認めない。世界の理からは、生まれた時から外れてしまっているのだから。

『──故に問おう。汝が、俺の檀那マスターだな?』

 それでも、目覚めよう。
 生まれが過ちで、生きる導が見つからないとしても。
 そのどちらも、己では認識できていないとしても。
 ただ生きていくことまでは、罪悪とはされていないのだから。
 故にあなたは、ただ生を欲するのだ。
 まずは、それでいい。
 最初の月は、真黒に満ちる。
 
「おめでとう。初めての、夜だ」

序:プライム・オブ・ザ・ムーン



 ヒトガタが最初に感じたのは、「冷たい」という感覚であった。意識の後ろ側をひんやりと冷ます、固さを伴う五感への反応。冷たさを感じたヒトガタは、感じるままにぱちくり、と髪の毛と同じ薄紫色の瞳を開く。四肢の感覚をゆっくりと馴染ませながら、目の前に確認したのは暗く重苦しい灰色の天井。……それが天井であることも、ましてや今いる場所がどこなのかもヒトガタ──否、生まれたばかりの"幼子"には判断できなかった。目覚めたとするには、眠りにつく前の意識がゼロに近しい。本当に、生まれたばかりだから。たった今、この閉じた空間で生まれたばかりだから。
 固くて平たい場所から上体だけで起き上がり、揺れる視界をまず「視界である」と認識する。目の前にあるのは明かりのない部屋の壁と、外が垣間見える鈍色の隙間格子。それを「鉄格子」と呼ぶこともここが一般的に「牢屋」と呼ばれる様相を呈していることも、意識を得たばかりの幼子にはわからないことだったのだが。たった独り、まさに独房。閉じ込められているという認識さえ、わからない。
 そう、わからないことだったのだ。一般常識も現状認識のための経験も何もかもが、幼子にとっては未知かつ不可知のこと。なぜなら単純に、幼子はそういう欠落として生まれたから。人でなし、つみびと。そういうものだと、生まれから定義されているから。……そのことも、知る由はない。
 このままでは、哀れなヒトガタは導を持たない。異常な空間であるのにも関わらず、それが異常であることすら知らないのだから。命の危険を認識できない愚者であり、「この場所」にいるにはあまりにも脆弱な赤子だった。そして何より、何より現状異常なのは。
 がちゃり。

「──ああ、目を覚ましましたね。目を覚ますまでのタイムラグについて他の参加者から平均して二倍の時間を要したこと、何よりいまだあなたのアバターがSE.RA.PHで正確に把握できない状態にあることは確かですが、ひとまず無視できる範疇です。欠員を出すほどの事態とは認められません」

 何より。今現在幼子を取り巻く状況は、異常であることは間違いない。けれど何よりも異常なのは、幼子そのもの。たった今檻の外から入ってきた黒衣の少年が僅かに指摘した通り、幼子の存在そのものが、"あらゆる点で"間違っている。
 たとえば幼子の容姿は、「現実」ではありえない有り様だ。雑多な布切れ一枚すらない衣服を一つも身に纏わないその姿。裸というには醜い欠け落ち──量子コンピュータなどは軽く凌駕する性能を持つ神の遺物たるムーンセル・オートマトンの中で存在し立ち振る舞う電脳体としては、拙すぎるほどの"ドット""バグ""モザイク"に包まれたつぎはぎの身体。一糸纏わぬ、されど漆黒の8bitを纏う、どうしたって「異常」な存在。
 そんな自らの過ちの存在すら、愚かな罪人には知る術が無い。認識はたった今目覚めるままに作られたばかりで、肉体ではなく電脳体で存在することどころか、それぞれの身体に本来差異があることすら知り得ない。それどころか己の魂という人であれば揺るがないはずのものまで、今にも溢してしまいそうな拙い手に載せるだけ。
 裁きの場で目を覚まし、何も知らないままに自分の判決を言い渡される。幼子の牢屋に立ち入ってきた少年は、認識していながらあくまで自分の役割以外を気にする様子はなかった。明らかに目に見えるモザイクドットの異常も、ありふれた感情として伝わる幼子の困惑も。罪人が罪の所在を知る必要などないと言わんばかりに、淡々と少年は己の告げるべきことを告げる。

「こんにちは、128人目のマスター。私はこの月の聖杯戦争の監督役を務める『看守』です。ムーンセル・オートマトンで行われる電脳体同士による殺し合いである聖杯戦争。既にご存知かと思いますが、あなたはその聖杯戦争の予選を突破し、これから七回のトーナメントで行われる本戦で最後まで勝ち抜いてもらいます。ここまでよろしいでしょうか」
"あ、あ、あの"
「──『それ』も、把握できない挙動ではありますが、問題とは認めません。ひとまず看守として答えられることについて、質問があるのなら答えましょう。どうしましたか?」
"ぼ、ぼく、ぼくは、えっと"
「……これは問いかけではなく、表層思考の流出のようなものでしょうか。データのほつれによる、言葉を介さない制御不能の感情表現……となれば質問があるわけではない、という判断をさせていただきます。感情の発露に関しては管轄しておりません。以後、口頭でない疑問に対しては返答致しませんので、そのつもりで」
"ぼくは、どうして"
「一戦毎に猶予期間モラトリアムは六日間、執行ジャッジに一日、計一週間の期間が設けられます。参加者は猶予期間モラトリアムの間に自らのサーヴァントと共に資源や対戦相手の情報を集め、執行ジャッジに臨んでください」
"ぼく、は、ここに、いるの"
「なお、猶予期間モラトリアムの間は一日一回懲役に就くノルマが課せられています。また執行ジャッジまでに懲役棟内の鍵を見つけられなかった場合、無条件で敗退となりますのでそのつもりで」
"ただ、ただ"
「……ここまでで、何か質問はありますか」
"ぼくは、ただ──"

 幼子は答えない。看守の言葉も問いかけも、何一つ理解できていないから。耳も目も開かれているのに役に立たず、無知の罪を体現するのみ。……果たしてその罪が、幼子にもあてがわれるべきかさえわからないのに。当てもなく導もなく、なれば赤子には何もできない。
 幼子はただ迷う。滔々と淡々と告げられた罪状を前に、思考は理解に届かない。虚数の中で蠢くそれは、見えず届かず存在しないのと同じもの。
 "つみびと"のオズワルド。その幼子が己をそう自認しているということも、まだ誰も知らない。当人すら、知りえない。異常に塗れた泥人形は、何も知らずに朽ちて死ぬ。あいつが悪いとしてしまえば、すべてが丸く収まるのだから。
 だから、どうしようもない。裁かれる理由を知らずとも、罪人であることは免れない。聖杯戦争に参加する理由も意志も持たなくても、この場に至ったが故には殺し合わねばならない。願いを持たねばならない。願いを持って他者を断じなければ、代わりに死ぬのは自分だから。
 存在は不明、状態は異常。そんな欠落だらけの人でなしでも、望むものはあるのだろうか? 無いならば、屍となるに相応しい。
 だが。

「……い」

 だが、それでも望みがあるのなら。
 何もわからない、何も知らない。罪だけ背負ったマイナス未満の幼子にも、根源たる欲求はあるというのなら。欲という罪を背負うからこそ、人のように生きていけるのだと云うのなら。

「……ぼくは」

 声に出せ。
 呪いを込めろ。
 どうしても叶えたい、希望があるのなら。
 自由はない、知恵もない。そんな、がんじがらめの鎖に繋がれた状態でも。

「……た、たい」

 どんな愚かしいものであっても、万能の願望器に捧げるまでの願いがあるのなら。
 なれば、君は。

「ぼくは、生きたい」

 勝者の資格を、得られるのだ──。
 初めての発声。
 初めての願い。
 今、生まれ。
 
「──よく言った、流石は俺の檀那マスターだ!」 

 ──今、願いは聞き届けられる。

「そこな看守、ちょーっと待ってやれよ、ねぇ? ……いやあ檀那、会話もできないんじゃないかと不安になったぞ!」

 
 瞬間。
 あっという間。
 舞台は、新たな役者を迎える。
 進むのが断頭台までの道のりであったとしても、導き手と共に歩むことはできる。
 真紅麗華、鎧袖紫炎。「看守」とオズワルドの間に突如現れた、一つの大きな人影。
 刹那と呼ぶには短すぎて、永劫と呼ぶには長すぎた。
 劇的で埒外エクストラな存在が、瞬きの合間に永遠となった。
 そんな、出会いFateだった。
 いまだ冷たいベッドの上に腰掛けたままの幼子が、僅かな身じろぎを見せる。初めて、困惑以外の感情を露わにする。それほどまでの存在が、傍からオズワルドを見下ろしていた。8歳ほどの子供の背丈のオズワルドよりも、青年と呼べるが少し小柄な「看守」よりも、それどころか並大抵の成人男性よりも背丈の高い鎧姿の女性。紅色のポニーテールと吸い込まれるような紫の瞳が、人間離れしたスタイルに紐付けられている。豪胆な男性らしさに女性的な丸みが際立って結びついている二面性のある見た目こそ、彼女を強固な一存在として確立させているように見えた。

「……なら、『もう一度』聞かせてもらおうか」

 語りかける。荒々しく、されど幼子をしっかりと見据えて。
 問いかける。有象無象の誰かへではなく、自らが仕える主たる存在へ。
 きっと、導く。

「ねぇ、檀那マスター

 優しく。

「どうしても叶えたい願いは、ある──?」

 憂いだとしても、手を伸ばして。
 突如置かれた状況に、突如現れた少年。そこに更に唐突な存在たる長身の女性が紛れ込んだとて、尚更幼子にとっては理解ができるわけがない。ここから始まる"聖杯戦争"というものが、魔術師ウィザードたるマスターと人理の影法師ゴーストライナーたるサーヴァントの主従による万能の願望器を巡る闘いであることなど、他の誰もが知っていても、無垢な幼子が知るわけがない。
 けれどそれでもこれからオズワルドを待ち受ける巡り合いと殺し合いが、マイナスよりも虚な罪人を成長させていく。肉体も精神も終わり果てた世界でも、血を血で洗い相手ごといのちを曝け出すことで、罪を重ねてゆくことで、つみびとは人になれる。身体はニセモノ、心はサトラレ。人間らしく"秘密"を持つことさえ、叶わない願いだとしても。

「……ぼくは」
"ぼくは"
 
 嘘吐き程度の罪でさえ、背負いきれない罪科に思えても。

"ぼくは、いきたい"
「ぼくは、生きたい」

 想いと言の葉を一致させることは、できる。
 何もかもが理解できなくても、伸ばされた手の意味はわかる。
 これが最初の、成長だ。
 
「……上出来だ、檀那オズワルド。檀那にそこまで必死に頼まれちゃ、サーヴァントとしては全力でバックアップするしかないってものさね。……まあ、"最初から"決めていたことだけど」
「……おず、わるど?」
「檀那の名前だよ。一度名乗ったことを忘れるとは、見た目通り不安定な子みたいだけど。でもそうだ、お前の名前はオズワルドだ。……俺は檀那としか呼ばないから、ちゃーんと自分で覚えておくんだよ、ねぇ?」
「……うん。ぼくは、おず、わるど。オズワルド。そういう、もの」
「そうとも」

 こくん、こくん。納得し、咀嚼する。初めての理解は、あなたの名前。原初の願いが引き出した、幼子にとって「最初に」刻まれた記憶。自己の形成は、名前から成される。そんな当たり前の一つだって、初めは誰もが知らないこと。最初に名乗った記憶さえ、消えてしまうものだけど。
 それでも名前は覚えているから、人は自分でいられるのだ。
 今、つみびとは「オズワルド」となった。……"一度名乗った"と、仄かに馳せられた想いはまだ知り得ない。幼子にできるのはまだ、自分を掴んでいくことだけだから。

「わかった。……あの」
「なんだい」
「……えっと、その」
"……ありがとう"
「あっはは、漏れてるよ、檀那。心の声が漏れっぱなしというのは、いいこともあるもんだねぇ」
「心の、こえ?」
「そうねぇ、俺にも説明ができるわけじゃないけど……檀那の思ってることは、表で考えちまえば勝手に誰かに届いちまうってことさ。聖杯戦争では不利だねぇ、腹の探り合いだから」
「よくない、こと?」
「ところがそうでもない。まあでも、人付き合いでは嘘が吐けないってのはいいことにもなる。強いて言うなら誰かに名乗る時は、ちゃんと自分の特徴を一緒に説明するべきってとこかね」

 ……と、そこまで優しく語りかけて。

「……少し、羨ましいかもしれない。自分の名前も人となりも、檀那はこれから手に入るんだから」
"どう、したの?"

 そこまでで、固く閉じた。けれど今度は、オズワルドから問いかける。こじ開ける。名も知らぬ女性に、だけどきっとこれからずっと一緒にいるだろう自らのサーヴァントに。幼子にとっての、また初めての問いかけるという行為、だった。
 だって先程まであんなに強く頼もしく見えたあなたが、今の一瞬こんなにも弱く儚く見えたのだから。それだけ。それだけの些細なことで声を発せられるほど、幼子は急速に成長していく。今は、自分のために。そして、いずれは。

「……まだでしょうか。『ちょっと待って』と言われたので、待っているのですが。僕はそれほど時間に余裕はないのですが、サーヴァント・セイバー」
「ああっ、ごめんよごめん! つい檀那と話すのが楽しくって、ねぇ」
"せい、ばー?"
「ああ、それも説明してなかったねぇ……まあ、名前みたいなものだよ」
「みたいなもの?」
「……鋭いな。そうねぇ、本当の名前、真名は……なんだったかなあ、ってね! わからないんだ、これが!」

 ははは、と自らの名を答えられないことについて快活に笑う「セイバー」。語った通り自らの名を失ったこの女性は、便宜的に割り振られたサーヴァントのクラス名で自己を認識するしかない。幼子が名を持たなかったとすれば、彼女は逆に持っていた名を失っている。名前を持つが故に人は自分でいられるのなら、その紅は自分ではいられないということ。救いは、平等には指し示されない。誰もが違う、一人だから。
 また、異常。自己を形成しきれないほどの、異常。けれどそれでももう一つ、自己を形成するだけの理由は存在し得るのだが。セイバーにとって己を己と認識する方法があるとすれば、それは「オズワルドの」サーヴァントであるという唯一無二の存在証明レゾンデートルなのだが。……それでは、まだ。

「真名の喪失はエラーではありますが、本戦を実行不可能なほどの不具合であるとは認められません」
「わかってるよ看守さん、それくらいなくたって檀那を守ってみせるさ。……ただ、ねぇ」
「どう、したの、セイバー」
「なんでもない。……やっぱりここは、隠し事のできない檀那が羨ましい、なんてね」

 それきり。まだ、足りないから。だからそれきりで、セイバーはオズワルドの方から微かに顔を背けた。サーヴァントであっても人は人。どんなものでもありふれた人の形をとるから、サーヴァントは英霊ではなくその現し身なのだ。だから当たり前のように言葉を喋るし、言葉を止められる。秘密も、持てる。既に信頼していたとしても、だからこそ人と人は距離を取る。距離を計ることすらできないのも、つみびとの抱える罪だから。

「……さて、看守さん。呼び止めておいてなんだけど、お前に聞きたいことはそれほどないんだ。すまないね」
「なんでしょうか。少ないならお聞きいたします」
「……まったく、過去の人間を再現したらしいNPCやら俺みたいな誰かの真似事のサーヴァントより、檀那の方がよっぽど人間らしいっての、ねぇ? ……なんて、それはいいや」

 無表情な「看守」が僅かに眉間に皺を寄せたのを見て、セイバーは少し姿勢を正して向き直り、ようやく本題に入る。

「聖杯戦争のルール以外は誰に聞けばいいんだい? ここで闘わなきゃいけないのはわかってるから、それ以外のこと」
「一般社会についての質問などなら資料室へ、月砂レゴリスを利用した資材の購入なら購買へ。それ以上のことは管轄外です」

 そう説明を求めると、求めた通りのことをすらすらと説明を述べる「看守」。あくまで人間の人格を再現しているはずのムーンセルのNPCだが、この「看守」の元となった人間はどうにも変人だったのだろう、などと類察する。

「はいはい、ありがとう」
「よろしいでしょうか」
「おうとも」
「では。一日一回の懲役タスクについては、お忘れなきよう」

 そう言って、礼をも意に介さず。何事もなかったかのように「看守」はオズワルドの牢獄を去る。幼子にとっては、あまりにもたくさんの出来事があったというのに。このほんのちょっとの時間では少しも理解できず、今日一日かけたって無理だろう。そしてこれからも未知が増えていくのだから、永遠に理解しきることはない。わからないことは、増えていくばかり。

「さて、檀那。長くなったね。でも、とりあえず」

 たとえば今伸ばされた彼女の手に、どんな意味合いが籠っているかだって。

「行こうか。購買も魅力的だけど、まずは資料室だ。檀那の知らないことを知りに行こう、ねぇ?」

 けれど、だから。わからないから、知ることができる。永遠にわからないことが増えるならば、知らないことを新しく理解できる。完璧にはなれないけれど、充実していく。それが、人間というものだから。

「……うん。あの」
「なあに、檀那」
「よろしく。セイバー」
"よろしく。セイバー"
「……ああ。よろしく、檀那」

 それが、生きるということだから。
 手を、取り合おう。
 ──かつて神は、己に似せて人を作った。されど人は罪を抱え、神ではなく人になった。堕ちて穢れて傷つこうとも、人理は神によってではなく人によって発展した。神ではないとされようと、人として生きることができた。
 ならばきっと、虚数から生まれた人でなしだって。人ではないと、されようと。
 ──A.D.3032.もうすぐ、幕が下りる。
 その前に、最後に。
 極小のいのちが、輝夜の如く。
 月と人の合間に、浮かんだ。
 

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