ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。




しとしとと、儚く雨が降る路地裏に、血生臭い匂いがはっきりと漂った。



転がるは1人の女性。首があらぬ方向を向き、地面に力なく倒れている。
首を一撃で折られ、そして胸には大きな穴が開いて、そこから鮮やかな紅が地面に広がっている。
そこに悲鳴はなく、ただただ、虚ろな瞳が雨を降らす天を見つめていた。

その倒れる女性の遺骸の上に、一人の少女が馬乗りになるようにまたがる。
まるで何かを探るかのように少女は、倒れている女性の心臓のある部分に両の手を突き込む。
そして生々しい音が短い感覚で響くと、その心の臓腑に収まっていたものは、少女の両の手へ、そして口の中へと移る。

「…………」

少女に言葉はなく、また表情に色もない。
ただ黙々と、ただ作業的に、感情無く、目の前に倒れている女性の心の臓腑を貪り喰らうだけである。
まるでそれが、自分のできる唯一であるとでも言うかのように。

「おや、おやおや」

声が響く。知らない男の声が、少女の背後のすぐそこから聞こえた。
生物の中で最も隙が多くなる瞬間、それは食事の瞬間と言われている。
今まさに、少女は張り巡らせていた神経の緊張を一瞬、ほんの一瞬だけ解いていた。
その瞬間を突き、その背後からの声の主は、少女の背後を取ったのだ。

「随分と飢えた狼がいるものだと血の匂いに誘われて見に参ってみれば、
 これはこれは……狼と思えば、痩せ細ろえた野兎であったか!」
「──────ッ」

グンッ! と少女は姿勢を180度転換。
同時に、即座に地面に置いてあった少女の得物────ゴルフクラブを両の手に握る。
回転の勢いに載せ、そのゴルフクラブのヘッドの質量を加える。狙うは側頭部。人間の生命の集中するその一点。

──────だが

「ン────とっ、これは物騒! 最近の童女とは格闘術を嗜むか!!」

男はそのゴルフクラブのヘッドの殴打を、最小限の動き──────首から上だけの動きで交わした。
一瞬、ほんの刹那だけ動揺した少女の隙を突き、男は逆に宙に飛び上がっていた少女の片足を掴む。

「ひっ──────!」
「その見事な跳躍! まるで発条仕掛だな! 細い手足で見事!! 良く強い肢体だ!
 俺としてはもう少し尻に肉がついている方が好みだが、まぁ些細なことであろうよ!」

己の顎を撫でながら男は高らかに笑う。だが相反して少女は困惑と恐怖に溺れそうになっていた。
殺される? 通報される? それとも犯される? せめて3番目であってくれ。この身は既に初花は散らした身だから。
そのような思考が濁流のように続いていたその時、少女は不意に地面へと放られた。

「──────?」

疑問符を浮かべながらも、少女は身を回転させて着地する。

見事はれるや!! その齢にしてよくぞそこまで! どこでそれ程の力を得た!?
権天使の集いか? いや連中はあの日以来動きを顰めているか! なれば矢衾か? ならば勘弁願いたい!
俺としてはあの会社に近づきたくないのでな! いや違うか社員証が無いからな! では何だ貴様は!? 答えろ!!」
「──────。」

跳躍と同時に距離を取った少女は思考する。


なんだ、この人は?


自分の一撃必殺を躱すわ、その後に自分を捉えるわ、かと思えばすぐに手放すわ、そして今は口早にまくし立てている。
思考が読めない。いや、思考回路が自分と違う、と言えるだろうか。人間とは思考が告げているが、"同じ人間と思いたくない"、生理的に。
どう殺そうか、と思っていたその時、男の放った一言が妙に意識の底を突いた。

「ふぅむ……応えぬか、では質問を変えるとしよう・か」

「何故そいつを殺した? 見たところ随分と憎んでいるようだが、肉親でも殺されたか?
 はたまた罵倒されたか? 存在を否定されたか? 大切な物を盗まれたか?」

──────憎んでいる? 何故、そう見えるのか?
殺した理由の言語化。そういえばそんなことしたことがなかった。
初めての経験だ、と少女は考えた。故に、その初めてをしてから殺すのも良い……。
そう考え、少女は口を開いた。

「…………れてた」
「ンン? 聞こえんなぁ! もっと大きな声で!!」
「慰め……られてた……。サーヴァント……を……詐欺師に……取られた……って……泣いてて……、
 それを、廻りの、皆、が、慰めてた……。大丈夫……だって……たくさんの、人に…………」
「ほう? 巷で噂の英霊狩りの賭け師か! しかしそれと殺戮に何の因果がある?」
「────私じゃない人が、ちやほやされてた」

少女は、吃音気味だった言葉から、急にはっきりと意思が籠った声となる。
眼は虚ろに、されど意識ははっきりと、少女は己の意思を口にする。

「私は誰よりも頑張ってるのに、私は誰よりも努力してるのに。
 やることもやってる。するべきこともすぐにする。それなのに、なのに、私じゃない人が、皆に、ちやほやされてた。
 サーヴァント、を、なくしたくらいで、皆に、ち、ちやほやされてた。許せない。私も、皆に慰められない。
 怖かったねって、いたかったねって、言ってほしい。頑張っているのは私なんだから、皆に見てほしい」
「自分以外が注目を浴びている。自分以上に。───────故に、殺した、と」
「うん」

少女は頷いた。なんの悪びれもなく、なんの臆面もなく。
そして同時に、少女の両の手、ゴルフクラブを握る掌に力が籠る。
対して男は、ふぅーむ…と唸りながら顎を撫でている。

どうせ、目の前の男は、先の自分の行動を自分を否定するだろう。少女はそう思考する。
捕縛か、あるいは逃走か。どちらを取られても良いように迎撃態勢を取る。次に男がこちらに向かってきたその時、カウンターを放つ。
逃げようとしたならば、その方向をふさいでもう一方の得物で急所を穿つ。先は後れを取ったが、次ならば──────そう少女は考えていた。
だが、しかし、男は少女の想定とは真逆様の行動をとった。

「"御見事ぐろぉりあす"!!」

男は、笑ったのだ

「よくぞまぁ、その齢にしてそこまで熟成させたものだ!
 これは天性の才だ! 天賦の勅子あまでうすだ!! 雄々、愛い愛い!
 素晴らしい限りだ! どうだ? 少し俺と共に来てみる気はないか!?」

男は意味不明な言葉を叫びながら、喝采を響かせ少女に一歩、また一歩と近づく。
じり、じり、と少女は男が近寄るにつれて背後に下がるが、だが、直感する。

「飯時だろう! 飯はまだか? おごってやる!
 ああそれとも、心臓を喰らうたが故にもう夕飯は済んでいるか?」

この男からは、逃げられない、と。

「この近くに良い店がある! 俺が時代がどれだけ移り変わろうとも遜色なき良き食事屋だ!
 チキンステーキが美味い! ああミートソースパスタも美味かったなぁ! 奢ってやろう!」

訳も分からないままに

逃げる気力も失せ

殺す気もまた失せ

気がつけば少女は

目の前の"狂人"と共に、近場のレストランへの連れられていた。






Erfahre das Geschick, vor dem ich dich bewahr諸共よ聞け、運命について話しをしよう



Verdammt bin ich zum grasslichsten der Lose;この身、この魂は、穢れし定めに呪われし不浄なる者



zehnfacher Tod war' mir erwunschte Lustなればこの身、十度死して朽ちた方が幸福だろう



──────ミヒャエル・ワーグナー 『さまよえるオランダ人』より    







「また来たの? 懲りないね、君も」

何処か、平凡な街並みの角にて、
少年が呆れた。対して女性は笑って言った。

「いえいえ! 物語を語って皆を愉しませるのが私ですから!
 今度という今度は笑わせますよ! 覚悟していてくださいね!!」
「なんでそんなやる気満々なんだよ……」

女性は未来を見る。そのために過去を語る。
少年は過去を見る。そのために瞳を曇らせる。

「というかどうしてそんなに物語…どころか全てに無関心なんですか?
 あ! もしかして昔にスゴイ楽しい事があったのが忘れられないとかです?」
「──────まぁ、うん。そうだね、似たようなもんかも」


「あの日以来、何もかもが灰色に見える。
僕はあの日から、極彩色の未知を置き去りにしてきたんだから」





「私、通報されるんですか?」

寂しいレストランにて、一人の少女が机をはさんで対面する男に対して一言問うた。
戦前は日本中にあったレストランであったそうだが、時間帯もあってか時流の故か、今は人は彼女ら以外誰もいない。
怯えるように問うた少女に対し、問われた男は逆に問いを投げかけた。

「何故そう思う?」
「え?」
「何故、自分が通報される、と聞いたのだ。
 そう思うのは、貴様は己の成した所業を悪と断じているからか?」

──────意外な言葉であった。
自分が今まで、褒められる為にやってきた『聖杯喰らい』。
それを見た人間の反応は大体、恐怖、怯え、稀に怒り、必ずそういった"負"の感情であった。

負の感情を抱いた人間じゃくしゃは、権力きょうしゃに頼ろうとする。
彼女が今まで出会って来た、そして殺してきた人たちの反応は、必ずと言っていいほど、"それ"であった。
だが目の前の男は、そのような反応は微塵も見せず、先の自分の行動を肯定するかのようにも見える。
──────殺されかけた、というのに。

「怖くないんですか?」
「……………………あ?」
「殺そうと、したのに、心臓を、食べていたのに、怖くないのかな……って」

彼女は、自分の行っている行為が間違っていると、本能ではなく理性で朧気に把握していた。
だが、本能にある『褒められたい』『自分より認められている人間が、許せない』そういった感情が、
彼女を凶行に駆り立てる。それはいうなれば食事や睡眠と同じ。彼女が内に宿す"ナニカ"に由来するものかは知らないが、
とにかく彼女は、人として最低限の間違いは理解しつつも、それを是正できない立場にあった。

故に、目の前の人間に問うた。自分は怖くないのかと、間違っていないのかと。
自分は他社より外れた殺人鬼だ。自分は心臓を食べ続ける化け物だ。自分は劣等感と承認欲求の化け物だ。
嗚呼、そう目の前の男が止めてくれればどれだけ幸福であっただろうか。彼女は心のどこかでそれを望んでいたのかもしれない。

「恐れるはずが無かろう」

だが、目の前の男は、常人ならざる狂人であった。

「同じだよ」

男は、少女の問いに対してきっぱりと告げた。





「同じだね。残念だけど、その物語も知っている」
「えー! 自信満々に覚えてきたのにー!!」

どさー、と少年に物語を語り終えた女性が地面に倒れこむ。
その女性の横に立っていた、もう1人の少年が「はしたない」と女性をたしなめ、
そしてその話を聞いていた虹のような少年に近づき、言葉を交わした。

「しかし驚いたね。新参者とはいえ作家キャスターである僕も、知らない話を君は知っているだなんて。
 アフリカ、ガーナの民族の民話を、逆に君はどうやって知ったのか聞きたいな?」
「別に。僕は"そういうの"が得意なだけですよ。それ以上でも、以下でもない」
「──────ふぅん」

キャスターと名乗った少年は、興味深そうに顎を撫でながら数度頷いた。
すると突然、地面に倒れこんでいた女性がガバリと勢いよく起き上がる。

「そ、それじゃあ貴方の自信作の物語を聞かせてください!」
「マスター、どうしたんだい突然」

驚いたように目を見開いたキャスターに、
そのマスターと呼ばれた女性は駄々をこねるように熱論し始めた。

「だって不公平ですもん! いつも私ばかり語って!
 それなのにいっつも不機嫌そうで! だったらたまにはナンシーさんもお話を語ってください!」
「またそう子供みたいに……すいません、いつもはこうじゃないんですが…………」
「いいよ。別に。君たちになら」
「えっ」

マスターと呼ばれた女性をたしなめようとするキャスターの予測とは別に、
そのナンシーと呼ばれた少年は、女性の頼みを二つ返事で快諾した。

「良いんですか?」
「ここまで話聞いて、何も語らないなんてのはね。
 だからまぁ、話すよ。1つの僕の物語を。とっておきを」

まるで、本当は語りたくないかのような、そんな前置きをした後に、少年は一つの物語を語り始めた。

「昔々、あるところに、13人の魔術師がおりました──────。
 彼らはこう名乗っていました。新世界秩序同盟、O-13と……」





「え?」
「同じだ、と言っているのだ」

自分が恐ろしくないのか、
そう問うた少女に対し、男は一人少女をたしなめるように言葉を紡ぐ。
それはまるで、叱られ続けて怯える子を宥める親のようであった。

「恐怖心というものはだな、いうなれば未知より生まれるのだ。
 "なんだこいつは?" "なぜこのような事をする?" "何処へ向かうのだ?" そういった未知が、恐怖へと変わり、諍い事となる。
 だが、貴様は俺と同じだろう。いや俺だけじゃない。全ての人間遍くと同じだ。欲望が為に生き、その行動を以て欲を満たしている。
 その結果、他人が血みどろに沈んだだけの事。──────それを何故恐れる必要がある? それの何が、間違っているというのだ?」
「で、でも……殺し、なんて……、する、の、は……異常だって……お母さん、と、お父さん……も……」
「戯けがァ!!!」

ダン! と男が力強く机をたたく。
それに対し少女は小さく身を震わせ、短い悲鳴を吐露する。

「ヒッ」
「異常だと? そんなものこの世界に生きる森羅万象有象無象天地万象諸事万端が遍く全てが等しく持っている!!!
 それを己のみの物と思うな自意識過剰の俗物めが!! 肝要なのはそれに対する認識だ! 受容だ! そして何よりも結果だ!
 他ならぬお前自身が、お前そのものを"間違っている"などと疑うな。それは今まで生きてきた貴様自身への侮辱に他ならない!!
 "己は他者とは違う" "己は異常である" それを受け入れてこそ人は他者とは違う、他者を超えた人、即ち超人となれるのだ!!
 親より否定された? それがなんだ! 例え親であろうと他者にすぎぬ! 他者ヒト他者ヒトジブンジブン、故に対等であろう。
 ならば貴様が他者より否定されれば、それを否定する権利も貴様にはある! 気に入らぬならば殺せ! 思考の末に飲み込み従順するのならばそれも良し!
 だが思考を止め従属するならばそれは人ならざる隷獣の路だ! 人ならば歩む道を決めるのは貴様だ! なぜならば!! 貴様は貴様に他ならぬであろうがよ!」
「気に入らなければ──────、殺せ──────、ですか……」

ぎゅっ、と少女がグラスを持つ手に力が入る。
その手にかつて握った、両親の温かい内臓の感触が、思いだされる。

何で、あの日のお母さんは泣いていたんだろう?
なんで、あの日のお父さんは私を警察に連れて行こうとしたんだろう?
なんで、あの日のお姉ちゃんは、何も言わなかったんだろう?

私が間違っていたから?
私が知らない人についていこうとしたから?

私が、悪い子だから?

でも、そんな私を、あの人たちは受け入れてくれた。
もういなくなっちゃったけど、もうなくなっちゃったけど、あそこは私の楽園だった。

そして今、目の前の人もまた、私を受け入れてくれている。
言葉は激しいけれど、その激しい言葉が、私を強く支えてくれようとしているのが分かる。
ゴキリ、グギリ、と骨子を捻じ曲げられながら矯正されるような、そんな快感──────

それを少女は、心の奥底から感じていた。
そんな恍惚とした少女に投げかけられた言葉は、少女が望んだものであった。

「貴様、この俺たちと共に来ないか? 貴様には素質がある」
「──────へ?」
「貴様ほどの我執なれば、おそらくは我らが造物主の望む境地、狂気のその先にたどり着けるやもしれん。
 嗚呼、嗚呼、実に良い。賛美はれぇるやの刻は近いぞ。貴様が加入すれば、きっと造物主殿も急ぎ足で駆け付けることであろうよ」
「……………」

願ってもいない言葉であった。
歓喜が脳裏を染め上げていくような錯覚を少女は覚えていた。
狂人でも、奇人でも、変人でも、なんでもいい。自分を認めてくれる相手が目の前にいる。
そして、その男が、自分を認めてくれる集団の下へ、自分を連れて行ってくれようとしている。それが少女は、嬉しくてたまらなかった。
少女の口が、無意識のままに月天に輝く三日月の如く吊り上がっているのを見て、男はヨシと頷いた。

「返事は……聞く必要はなさそうだな。ならば名前を与えよう。
 これほど喜ばしい事だ。水月砦へ招かれるのを待つのも億劫に過ぎる! 俺が直々に名付けようか!
 ふむ…………美しき月下に舞う、華の如き刃…………月華美刃ムーン・ダンサー……それが貴様の名だ。
 これからは、そう名乗るがいい」

ニカッ、と男は軽快に笑った。
恍惚としている表情の少女を一瞥し、そしてその背後に視線を移す。

「貴様もよろしく頼むぞ? 得体のしれぬバーサーカーよ。
 見たところ神霊か? それにしてもよくわからん霊基をしているな。最近の神霊とは全てそうなのか?」
「──────驚いた。見えるのですか」
「生来、勘が鋭くてな」

少女の背後から、ボウと燈火が儚く灯るように一人の女性が出現する。
その女性は捻じれた角を持つ頭部を、ゆったりと下げて挨拶をする。

「初めまして。ソピアーと申します。以後お見知りおきを」
「ほう!ソピアー!! これは奇遇!! おっと紹介が遅れていたな!!
 我が名は霧六岡六霧! 二つ名は魔皇破邪神シン・デミウルゴス!! そう呼んでくれたまえ!!」
「…………」

霧六岡と名乗った男のハイテンションな自己紹介を聞いて、うんざりとした顔をするソピアー。
対照的に少女は、目を輝かせながら己の名を名乗った。

「い、池澤哉子と申します。以後、お、お見知りおきを」
「良き。では向かうとしようか」

「我らがルナティクスの始まりの地、水月砦へ!」





「…………」

女性と少年に物語を語っていた少年、アン・ナンシーが突然、空を仰いだ。

「……あれ? どうしました」
「ああ、ごめん。…少し。用事が出来ちゃって。
 ちょっと早くに、知り合いに合わなくちゃいけないみたいだ」
「ふむ、そうなのかい? じゃあ今宵はここまで…というわけか」
「千夜一夜物語みたいですね。……もしまた出会えたら、続きを語ってくださいね? 約束ですよ?」

ニコリ、とマスターと呼ばれた女性……久本詩音が微笑んだ。
それに対してナンシーは、無表情で一瞥して、一言いい残す。

「"別に良いよ"」

少年は何処か、微笑んだような錯覚を2人は覚えた。
そういってすぐに少年は、踵を返してスタスタと去っていってしまった。
二人っきりとなった詩遠と、その隣に立つキャスターはのんびりと話す。

「……随分、彼の物語に入れ込んでいたじゃない?」
「ふふ、ジェラシーですか?」
「む、いたいところ突くなぁ」
「んー……そうですね、なんか彼の話、知っているんです」
「? ほう?」
「なんか、いつも私が見る夢と、同じ──────」

そう詩遠が言いかけた、その時だった。
何かが壊れるような音が響いた。

「!?」
「なんだ!」

背後を振り返ると、髪で眼の隠れた青年が手当たり次第に周囲を素手で破壊していた。
それを、その青年のサーヴァントらしき男が取り押さえようとしている。

『糞……が! この世界でも!
 ここでもダメだったか畜生が!!』
「どうしました?」

人を放っておけない性分の詩遠が、我慢できずにその取り押さえている男に駆け寄る。
するとその男は、なりふり構っていられないとでも言いたげに詩遠に懇願するように叫ぶ。

「ちょうどいい……! あんた、あのガキと仲がよかったろう!? 虹の擬人化見てぇなガキ!」
「へ……? ……ああ! アン・ナンシーさんの事ですか? ええ、何かと出会う縁のある人です」
「奴を追え! そして奴を伝って13人の魔術師どもを集めろ!!
 むかつくことに……あの水銀野郎のやろうとしたことは"半分正しかった"!!
 奴が危惧したことが起ころうとしていやがる!!」
「…………? それは、どういう……?」
「わかりやすいように話してくれ。君は?」
「あ……ああ」

混乱しているような取り押さえている男に対し、キャスターと呼ばれた少年が割り込む。
男は取り押さえているマスターに当て身をして気絶させた後、呼吸を落ち着かせた。

「ああ……すまん。俺の名はタイタス・クロウ。
 諸事情でな、"この男のサーヴァントとして、こいつを監視していた"。
 だが、そいつもどうやらここまでのようだ。異変が始まったようだ……」
「異変?」

男が懐から取り出したライターでたばこに火をつけながら話す。
すると、その周囲からまるで波紋が広がるように悲鳴が響き始めた。

「…………これは……」
「俺は少し特殊な英霊でね、他に召喚された記憶をある程度持ち越せるんだが……。
 その記憶が1つ、朧気だが伝えていたものがある。"ルナティクスには近寄るな"と」
「ルナティクス?」
「ああ」

横でぐったりと伸びている、マスターの髪を掴み起き上がらせながらタイタスは続ける。

「このクソヤローは別世界でなんだかんだする傍迷惑の化身みたいなもんなんだが、
 こいつが何か大人数の手が必要な迷惑を引き起こす際、必ず1つの組織に入っていた。それがそのルナティクスだ。
 タチが悪い事に連中は、"一定の条件を満たさなくちゃあ"歴史の表側に出現しない」
「──────つまり、その出現条件を、この歴史は満たしている、と?」
「察しが良いな。その通りだ。何故分かった?」
「これでも、一作家なものだからね」

ふっ、と嘆息気味に少年のキャスターが言う。

「大方、悪の組織と言ったところなんだろう? そのルナティクスは。そしてその異変の原因はおそらく……」
「まぁとにかくだ。その出現のトリガーが、あの虹色のガキが絡んでいた13人の魔術師たちかもしれねぇ……。
 アイツを通じ、その13人に話をできる限り通してくれ! 狂気に対抗するのは秩序しかない。
 たとえそれが純粋非道な悪意だとしても……、だ。唐突な頼みですまねぇが……」
「わ、わかりました! なんとかできる限り……頑張ってみます!」
「だが周囲に暴徒が広がっている! これは一体どうすれば?」
「俺が何の準備もしていなかったとお思いで? 作家さんよ」

ニッ、とタイタスが笑うとともに、一人の剣士が迅雷の如く空から着地する。
その男は、キャスターや詩遠も深く知っている、日本に古くから語られる御伽草子の英霊であった。

「連絡、感謝する。タイタス!」
「来てくれたか頼光さん! ひとまず彼らを、安全な場所に」
「了解した。君はどうする?」
「俺はひとまず、ここいらの暴徒たちを黙らせます。
 その後はまぁ……虱潰しに13人のあほどもを探してみます」
「わかった」

そう言うと同時に、その頼光と呼ばれた男は詩遠とキャスターを担いで空高くへ跳躍した。
跳躍した頼光、そして担がれた2人の空から見た光景は、恐ろしい光景であった。

「…………町が……」
「壊されていく…………!?」
「タイタスの危惧した通りか……。奴らは曰く、狂気を伝染させるという」
「狂気?」
「ああ」

コクリ、と頼光は頷く。

「狂気を以て正気を覆う。新たなる神話を以てしてこの世界の常識を覆す。
奴らの目的は既存世界──────即ち、この世界の全ての人類の秩序崩壊だ」



次回予告


世界各地で増加する狂人たち

「気をつけろよ。ルナティクスは何処にでも潜んでいる。
 そう、本当にどこにでも。それこそ隣の親父さんがルナティクスの可能性もある」
「本気を出した奴らは狂気を集合的無意識を通じて伝播させる。どう足掻いても抗うことは出来ない。
 だが、強靭な精神さえ持てば話は別だ。頼光さん、頼みますぜ……あんたなら、やれる!」

世界に散らばりし、13の魔術師(ちつじょ)を探せ

「では、あのカール・クラフトの真の目的は?」
「間違ってはいたさ。ああ、だが……その中心にある思いだけは間違っていなかった」
「だが潰えた。そのために、連中は脈動を開始した」

狂気と秩序、それらを見届ける者の名は『語り部』

「お前たちは誰だ?」
「物語を、見届けるものです」
「引き返すなら今の内だ。今ならまだ逃げられるから」
「まだそんな序幕だったのかい? ならクライマックスは遠そうだ」

そして動き始める、虚無と悪意

「なに、君? 俺に惚れたの?」
「いえ、そういう事ではなく、ただ少し、お話ししたくなっただけですよ」
「あの男の消息が消えた? なら草の根を分けてでも探すだけや」

陰謀と狂気が渦巻く最深部にて、物語は加速する。

「謡ってほしい。僕の為に。紡いでほしい。みんなの為に」
「約束ですよ…………、帰れたら、あの日の続きを絶対に語ると」
「嗚呼。なんて良い日だ。僕は今日、この日の為に受肉し(うまれ)たんだ」

だが、絶望が大地を包む。

「……すいません、俺は此処までです。
 死にたくない。こんなところで死ぬんなら、永劫に狂った夢を見ていた方がましだ」
「死んでも生きても、逃げても逃げなくても連中にとっては同じ……。
 選択の幻想ってやつか。こういうのを衆愚政治っていうのかねぇ?」
「お前たち、生きていて楽しいのか? それで」
「私もルナティクスだ」

降臨するは、かつて全てを滅ぼさんとした、怒り

「ッ!! これは──────」

そして全ては、終焉へと堕つ。

「ルシファー、ソピアー、そして……造物主……!」
「なんということだ……。奴の目的は……!!」
「──────デミウルゴス……ッ!!」


造物主、降臨




Fate/Orders Requiem〜再動の悪夢〜

月夜に唄え十三の悪夢






Denn wiss', Unsel'ge, welches das Geschick, das jene trifft, die mir die Treue brechen:この呪われし身の、宿命を破りし者の末路を見るがいい


ew'ge Verdammnis ist ihr Los!無限なる苦痛、永劫たる絶望こそが、その結末だ


du aber sollst gerettet sein!故に私は乞い願う。貴方の身に、私のような悪夢無く、永劫の安寧と祝福のあらんことを


Leb' wohl! Fahr' hin, mein Heil, in Ewigkeit!さようなら私の愛。さようなら私の救済、永劫に、永久に。





「ありがとう、全ての物語。ありがとう、全ての平行世界」

「これでお別れだ」

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