ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

「クソー……寒いですね夜の砂漠……」
「ハハッ、夜闇をナメるからさ。次からは厚着してくるんだね。雪山でも登るみたいに」

「出雲」最東部、風と死の大地と呼ばれる鳥取大砂原───真夜中のこの地に足を踏み入れる人影が2つ。
丈も袖も殆どない服装の上に、上着を一枚羽織っただけの───夜間の砂漠を侮っていたとしか思えない───黒い長髪を後ろで纏めた女性と。
小柄な事は身長から窺えるものの、厚底のブーツによってソレも若干誤魔化された上、体型に至ってはその服装によって膨らんだ事で分からなくなっている男性。

「寒さに関しては羽衣で誤魔化せるから別に良いっちゃ良いんですけど、この服と食い合わせ悪くないです?」
「そうかな。ストールみたいで悪くないかなと思うよ。砂漠には合ってないけどね」

一言多いなコイツと思いながら、夜闇の中で目を凝らす。
どうしてこんな同行者と共に此処に来る羽目になってしまったのか。元はと言えば……

──────

「夜間の大砂原の調査、ですか?」

時間は遡って前日の昼、11時前後。
この日は珍しく松江の方から依頼客がやって来ていたのだが、その依頼内容は『普段目の届かない砂原地区の調査』というもの。治安維持部隊でもなければ傭兵団でも探検隊でもない4人には、やや厳しい内容の依頼だった。

「はい。旧来……といっても、モザイク市としてこの辺りが成立してからの話になりますが、あの辺りには何らかの敵生体の発生は見られていたんです」
「それはこちらも存じております。しかしそれも米子の東……花回廊の神霊達とのせめぎ合いで拮抗しているとか、なんとか」
「確かに現状、以前に比べて何かが起こっているというような報告は受けていません。けれど一方、私どもの方ではあの砂原が果たして本当に『以前と同じように』拮抗が保たれているのか、確かめることが出来ていないのも事実なんです」
「と、言いますと」
「単純に人手不足なのもありますが、花園大地の神はあくまでもあの辺りをテリトリーとした神霊。隣接した砂原との縄張り争いとなれば確かに動きましょうが、奥を覗いてくれるか、などと私たちではお頼みできないのです」
「それで砂原側を刺激するような事になれば余計に手間というわけだ。一理はあるが……」
「しかし、私たちもあくまで探偵。対人の調査や捜査であれば可能でしたが、こちらもあまり人手はありません。何よりそれで『何かあった場合』の対処ができる人員が……」

サーヴァントである私や彼……ウィリアム・ジレットならば兎も角、私たちのマスターには戦闘能力が無い。一応アーチャーを名乗っている私ならば単独行動風のスキルで少しくらいは行動できるが、彼の方はそうもいかない。調査を行うというのなら、必ずマスターである紺音を連れて行く必要がある。そうなるとやはり危険が伴う可能性は考慮に入れるべきだろう。となると、現在応対している紺音───ここでは紺音副所長と呼ぶべきか───の判断は的確だと言えるだろう。
しかし、そういう時に賢明でない判断を下したいのが私というサーヴァントだ。

「……そうですよね。無理を言って申し訳ありませんでした」
「こちらこそ、折角お越し頂いたところをご期待に添えず……」
「ちょーっとお待ちを。今、無理を承知でと仰いました?」
「え?ええ……」

無理をさせるつもりで来た、というのであれば。
相手はこのような閑散とした事務所すら頼りたい程度には困っているのだろう。それならばこれはチャンスに違いない。

「確かにウチは人手不足。探偵として腕利きの3人に何かあれば余計に困った事になる……そうですね副所長?」
「うん?確かにその通りだけど」
「そんな危険な仕事を依頼する、というのであれば……当然、お高くつきますね?」
「ちょちょちょ、織姫ちゃん流石にソレは」
「……受けていただけるなら、言い値を出します」
「よし来た。ならばその依頼、私がお受けしましょう」
「いいんですか?」
「言い値を出す、と仰りましたからね。普段はお茶汲みしかやっていませんが、なに……単なる調査程度、一人でやって見せますとも」

───なーんて大口叩いたはいいものの、果たして本当に完遂できるのかどうか、やはり不安にはなるものだ。
偶にはと列車に揺られて東へ向かい、終点の駅から少し歩いたところ、戦争以前から『花回廊』と呼ばれていた施設が、花畑の大規模化に比例してより巨大な複合施設となって鎮座していた。
温室的なスケルトン性とさながら空中庭園とも呼べるようなデザインを合わせた建築で、人の手による建造物であるのは明らかだが花畑の中にあっても不快感を覚えさせない。神々も通る場所となるのだから当然そういう面にも気は遣っているのだろうが、見事なものだと感心する。
そんな施設の内部、フードコートで1人食事を取ることにし、ハンバーガーとシェイクを購入して窓際の席に位置取る。フードコートは2階に位置するが、ここから外の花畑を歩く人々……そして神々の姿が見える。
豊穣神や太陽神の類が居るとは聞いていたが、神にしてもやはり千差万別だ。
遠巻きに眺めてもそれだと分かるような格好をしている者、今の私のように今時分のスタイルに合わせてすっかり溶け込んでいる者、そうしようとしたのだろうが妙にセンスがズレている者。
何にせよ太陽だか豊穣だかの神に恨みを買った覚えもないので、堂々と東へ向かってしまえばいいだろう。
席を立ってプレートを返却し、施設のエントランスから外へ出る。さて、いざ出発だ。羽衣を使えば飛んでいけるが、あまり目立ってはわざわざ私たちに報酬を支払うと言った依頼人の意図が丸無視される事になるだろう。大人しく歩いて行く事にする。
と、その時だった。

「そこな人、いや神の方。東へ向かうのならご一緒しても?」

声のした方を見てみると、そこには男性……少年と言っても良さそうな……が立っていた。
背丈は自身のマスターとあまり変わらない程度だが、まだ日も高く暖かい季節だと言うのに足先から上まで厚手の装備で固め、ライト付きのヘルメットを被り大きく膨らんだリュックを背負った黒髪の人物。
というか。

「……あの魔道具店の。また随分けったいな重装備ですね?」
「ああ。花畑のさらに向こう……砂原に用があってね。キミもそうなんじゃないか?」

先日マスターと寄った、出雲のマジックアイテムを販売していた道具店。そこの一角に宝石類を並べていた、店主の女性と契約していたサーヴァント。
寒そうな雰囲気を纏っていた気がしたが、太陽の下でこの格好をされると見ているこっちが暑くなってくる。が、1人でアレコレとモノローグを語りながら歩き続けるよりは良いだろう。彼の誘いに乗り、揃って東へと歩みを向ける。

「……確かにその通りなんで構いませんが。同行者が要るんですか?」
「砂原に入ったら別れてくれて構わない。ただ、ボク一人で花畑を歩くのは少し危険が危なくてね」
「氷の神様か何かで、日光が苦手……とか、そんなところで?」
「はは、それは結果論さ。問題はその前でね。昔太陽に喧嘩売ったことがある」
「うーわ。じゃあ私はさしずめ盾ですか」
「そう言わないでくれるとありがたいんだけど。単に縁もゆかりも無い神性が一緒にいれば、無闇に襲ってくる神も減るだろうって算段だよ」

花畑の中を歩く。だがこれが存外に広大で、右を見ても左を見ても花、花、花。しかしそれも段々と密度が減ってくる。その事に気づいた頃には、既に日も落ちかけていた。
やがて周りの風景が普通の道になり、風化した建物が並び始める。吹き抜ける風が冷たい。

「そこな2人。ちょいと止まりなさい」

誰もいないと思っていたところから声がして、そちらへ振り向く。
すっかり朽ち果てた建物……道に直接カウンターが面している、あまり見ないタイプの……の中に、フードで顔を隠した人物が座っていた。

「驚いた……全然気づかなかったよ。ここで何を?」
「検問じゃよ、検問。そこから先は砂原になるでの……知らず入って行く者や分かってて進む命知らずも居れば、向こうから入ってくるのもおる」
「ふーん……あれ、じゃあ通行証とか要るやつですか?弱ったな……」
「いやいや、そこまで制度的なものじゃあないよ。ただこうして声をかけて、ちゃんと言葉が通じるか確かめておるだけじゃ。お主らは……特に問題は無かろうが、夜の砂漠は飢えとる連中が彷徨っとる。気は付けるんじゃぞ」

軽くお辞儀をしつつ、門番(仮称)に手を振って先へ進む。
やがて地面も砂っぽく、周囲の建物も倒壊して砂海に埋まっているような……有り体に言えば古代遺跡のような光景へ変わっていく。

「うーん、ワクワクしてきたぞ。これぞ古代のロマン、発掘したい欲が高まってくる」
「棄てられてから半世紀経ったかも怪しい建造物ですけどね。まだ持ち主が生きてるかもしれないけど……そこら辺の建物掘ります?」
「人が盛り上がってるって時に随分とサゲる事を言う……逆張りの権能でも持ってる?ああ、天邪鬼って言うんだったか?」
「ま、4割くらいは正解です。なので……ちょっと止まって」
「え、当たったの。……何?」
「居ます」

2人揃えて足を止める。視線の先には人影が一つ。
しかしどうにも様子がおかしい。上半身は大きくゆらゆらと揺れて、今にも倒れ込みかねないと言った雰囲気だ。

「あれは……なんだ。リビングデッド?」
「餓鬼……の類でしょうか。どうします?」
「実体の無い霊なら軽く撃ち抜いて終わりだけど……身体あったらちょっと取り返し付かないのが嫌だな」
「いや、それは無いと思いますよ」

1番近いソレから視線を外すと、広がる砂の地平には、同じようなふらふらとした影が一つ、二つ、三つ……まるで海の底の海藻のように、砂漠中に居るのが分かる。

「ぼんやりとしか見えないが……全部大体同じ姿か」
「数居るってのは厄介ですが、見た目に差がある割に見える魔力の反応はほぼ画一……生きてる人間の成れの果て、ってわけじゃ無さそうですね」
「なら話は早い。ちょっと下がってた方が良いと思うけど……『光なき間に地を這いて(トラウィスカリ・イツティア)』

宝具の真名解放。
彼がその名を唱えると共に、周囲の空気が変わる。否───
明らかに冷えた。それは比喩でもなんでもなく、肌を突き刺すような冷気が突如発生したと言っても良い。
そして次の瞬間、最も近くにいたソレ──仮に餓鬼と呼ぶが───その身体が、凍りついた。

「行くか。ちょっと寒いけど、気づかれる前に凍らせていけば問題ない」

厚着をした少年───否、たった今氷を操る『神』としての力を見せた彼が数歩前を進んでいく。
数刻前と比べて遥かに冷えた夜の砂漠は、薄着で来た自分には厳しかった。

──────

さて、ここまでがここに至る顛末。
というわけで暗闇に揺れる餓鬼(仮称)を凍らせながら、砂漠の真ん中を我が物顔で歩いて居るのだが。

「アレ以外には何も居ませんね。風の神や死の神の類が……なんて聞いていましたが」
「……いや、止まれ。何か居る……ちょっと出力を上げる」

彼にそう言われるがままに止まる。彼はただ真っ直ぐに前を見据えたまま、放出する魔力を増加させ……それによって、地面を氷が這っていく。
それは彼の視線の先へ、脇目も振らずに伸びていく。

「ギャア───────ッ!」
「なんじゃアこれはァ─────ッ!」

遮蔽物のない砂漠に声が響く。それは氷の向かった先から聞こえたようだった。

「……何したんですあなた。あの先には何が?」
「何も。まあ何が居るのかは───これから会いに行くんだけど」

淡々と言い放ちながら、彼は氷の上を踏みしめていく。
私はというともはや行動を共にするのすら憚られたが、1人で歩いていていきなり凍らされてもたまらないのでついて行くしか無い。
さて、この先には鬼が出るか悪魔が出るか……あるいは神の氷像が出るか。
あるいはそのどれでもない気がしつつ、氷の上を歩くのだった。

…………

突如砂の大地に作られた氷の道。
突貫工事の酷道の上を歩いていくと、その先には人影が2つ。

「コレをやったのはお前らかァ!オイ!超寒いんだが!何のつもりだ!」
「ほんとよ!顔も見えないところから足元氷で囲むとか流石にマナーがなさすぎるんじゃないかしら!」

氷は最終的に2人を囲むようにかなり広く大地を覆っていた。その2人……どうやら双方女性のようだ……の足元だけがまだ砂が見えたままで、2人の女性はどちらも裸足。少しばかり気の毒だ。
一方男はと言うと、彼女らから割と距離のある位置で止まる。

「お……オイ!何でそんなところで止まる!もっとこっちへ来やがれ!」
「そうよー!」
「そこから動くな!動かなければボクはキミたちに危害を加えない!」

既に加えかけてると思うのだが。

「既に危害がおよびかけてるのよー!」
「いいか!ボクはキミたちが会話の通じる相手である事を期待している!ので……変な事をしたら凍りついて貰うことを先に理解して欲しい!」
「何言ってやがんだアイツ!」

交渉の初手に恫喝を使用する奴は史上初めて見たものだ。余りにも過激すぎる。

「何が目的なの!わたしたちの排除が目的ならこんな事せずにアウトレンジから凍らせておしまいじゃないの!」
「だから凍らせてないんだ!ボクは…………ちょっと大声出すの疲れてきた……キミたちに案内を頼みたい!」
「コレで!?お前コレがァ……人にモノ頼む態度だと思ってんのか!益々おかしいぞ!」
「頼めないなら話は終わりにする!」
「はァ!?……ああ分かった分かった分かったよ!抵抗しない!私らがオマエを案内すりゃあ良いんだな!?」
「お願いできるか!」
「分かったって言ってるのよー!早くこの氷溶かして〜!」
「……そう言いつつ少し氷が溶かされてる気がするけど……はぁ、ごめん喋るの疲れてきたからもう解くね……」

語気を弱める……或いは元に戻すと共に指を鳴らす。すると地面の氷が粉々になって、溶解したそれらが砂へ染み込んでいく。
お前がやったんだろ、の言葉は胸にしまっておく事にした。

「うぇ〜、べちょべちょするわー……」
「過去最悪の客だぞお前……」
「危険な神が居るとは聞いていたからな……少し手荒な真似に出た。謝罪するよ。ま、案内を必要としてるのはボクより彼女なんだが……」

しれっと罪の何割かをなすり付けられた気配がした。だが話に割って入るには丁度いいタイミングだったのだろう。

「……ご紹介に預かりました。私、この辺りの調査に来たんですが」
「女……お前がコイツのマスター……って訳でも無さそうだな。両方どこぞの神か」
「2人揃ってマスターも連れずに動ける神霊なのねぇ。うふふ、マスターが居たら今頃大変なことになっていたでしょうけど……今日はお楽しみはナシね。残念だわ」

先の女性2人組は、近づいてよくよく見てみれば2人とも服は薄手、先述の通り足も靴の類は無し……やや惚けたような話し方をする方は体温が高いようにも感じるが、こんな格好ではいきなり氷に晒されるのは辛いだろう。
だが先程までそんな状態であったというのに、もう夜の砂漠を歩き始める。どうやらこの格好でも多少の寒さは意に介さないらしい。或いは何か、寒さを無視できる力があるのか。

「言っとくけど。キミたちは常にボクの射程圏内にあるって事を覚えといた方がいい。何度だって凍らせてしまえるんだから、妙な発言はしないで貰えるかな」
「ハ。言うな。私の相棒は熱を司るんだ。この距離まで近づきゃお前なんて怖くないんだよ氷野郎」
「照れるわ〜」
「そういうキミは何ができるんだ。相方自慢ばかりではまるで自信が無いみたいだが」
「言ってくれる。それになお前、相手の間合いで使いもしない自分の能力をベラベラ喋るサーヴァントはいねぇだろ?さっきから黙ってるそっちの女だって、自分の手の内を一個も明かしちゃない。違うか?」
「そうかもしれませんし、本当に何もできないかも知れませんよ?いや……アレを何とかするくらいなら、できなくも無いですけど」
「アレねぇ……ま、サーヴァントならそれくらいできなきゃアな。そうだ、面白いモンがあるんだ。案内ついでに見せてやるよ」

進路の方向がややズレる。恐らくは彼女らが見せたいと言ったもの、それがある方向なのだろう。
行く途中でもやはりあの餓鬼もどきに遭遇するが、サーヴァント4人では手を焼く事もない。

「確かこの辺りで見たわよねぇ。いつもの通りなら、フラリと徘徊してるとは思うけど」
「連中でも餌場を覚える能はあるっぽいんでな。まー間違いなく……ああ、アレだ。お前ら見えるか?」

言われるがまま彼女が指す方を見る。そこには先程までと同じような、足元の覚束ぬ餓鬼が……いや。

「なんか……ちょっとマッシブっていうか」
「大きくないか、アイツ」
「そうなのよ。いやぁね、わたし達そこの廃屋で植物育ててるんだけどぉ……彼らいっつもひもじいって言ってるものだからね?ちょっと食べさせてみたのよ」
「なるほど、施しの神気取りってワケか」
「うるせぇよ。いやそれがさ、私たちの育ててるのって基本有害なんだよな。どこでも強く育ってくれるけど、まぁその分栄養なんかは無い。生物を拒絶する環境で無理矢理育つモンだから、必ずどっかに外界から吸い上げた毒なんかを溜め込んでんのよ」
「なんつーもん渡してるんですか。まぁそれで退治できるならそれに越したことは……アレ?それって大っきい個体見てする話です?」
「まぁ聞いてくれよ!な、だからそんなモンをあんなガリガリの奴に食わせたらそりゃ死ぬだろうな〜って私だって思ったんだけどよ!」
「まさか……」
「確かに食べた時にはすっごく苦しそうにするのよ。一層苦しそうにうめくわぁ……けれど、フラフラと立ち上がって、そのままいつものように彷徨うの。そしてまた次の日、餌を渡したところに来るのよ〜」
「だから私らもつい面白くなっちゃってさ、まぁこの辺りの個体だけだが餌付けして回ってたら、なぁ!」
「大っきくなっちゃったのよ〜。凄いわよねぇ。毒しかない餌でも、それしか食べ物がなければ生きられるのよぉ。わたしもうドキドキしちゃって」
「最初は見ず知らずの異邦の亡霊だなんて思ってたけどよ、ああなってくると愛着も湧いてくるモンだ。アイツらは立派に生きてる。そうは思わねぇか」
「そうよ〜。折角なら頭の一つでも撫でていってあげて欲しいわ。わたしたちの作物で育った子達、見ていって?」

そう言いながら謎の餓鬼……否、マッシブ餓鬼に近づいていく。向こうも此方に気づいたようで、呻きながら歩み寄ってくる。流石に構えざるを得ない。

「おーよしよし。大丈夫だぞ。こいつらは客だ。今日の分のエサもあるから心配すんな」
「ァ……ァ゛ア……」
「いや……ダメだろこれは」
「それがね〜。食べてる間はそっちに集中しちゃうから噛んだりしないのよ〜。でも食べ終わるとガブリ!ってしちゃうから気をつけてね」
「檻に入ってないだけの猛獣じゃないですか」
「あと、その他の部位以上に顎が発達してるからな。特にコイツらのは……あれ、コイツどっちだったっけ」
「この感じだから……『渇望』じゃないかしら?熱望の方はもうちょっとホットなのよね」
「何を言ってるんだ、その渇望だなんだと言うのは……」
「さっきも言ったけれどね、顎が発達してるのよ、この子達。でね、過酷な環境で育ったせいか植物が毒を溜め込んでるって話もしたでしょ〜。どうにもね、この子達もそうみたいなの」
「まさか……植物から取り込んだ毒を、排出できないから顎に溜め込んで……?」
「ご名答だ。まあこっちも学者サマじゃあないんで原理は違うのかもしれねぇが、私たちが育てた植物の特質が……即ち、私たちの能力の一部がコイツらにも引き継がれちまったってワケよ」
「どっちになるかはなってみるまで分かんないんだけどね〜。わたしたちの能力に似てるから、熱望の顎、渇望の顎って呼んでるの」
「そして私たちがこの砂漠で最強のコンビ、渇望と」
「熱望のアサシン!というわけなのよ〜」
「おお……」
「成程な……」
「ゥ゛ヴァ……」

『渇望と熱望のアサシン』。それが彼女らの名乗りだった。
単なる結びつきの強さを示した可能性もあるが、恐らく渇望のアサシン、熱望のアサシンと名乗らなかったのには意味がある。
双方クラスはアサシン。加えて最強のコンビとまで豪語したのを踏まえると……推測としては、彼女らは2人で1騎のサーヴァントだ。

「おおじゃねーよ。お前らもなんかあんだろ、そういうイカした名乗りが」
「イカしたって……いや、あんまり使わないからな。以前一度誤魔化した時はなんと名乗ったか……」
「出雲の方だと真名出さなきゃ信仰集まりませんからねぇ。サーヴァントとしては隠した方がいいのは分かりますが、特に私なんて名乗ってもなお半分は隠してるようなもんですし……」
「なんだそりゃ。真名が2つあるとかか?」
「そんなところだと思ってもらって結構ですよ。2個目の真名は明かしても良いこと無いのもマイナスポイントだし、そうですね……私のことは天織……天を織ると書いて天織、どーしても呼びたいならそれでお願いします」
「なんだか綺麗な名乗りねぇ。クラスも聞いておいて良いかしら?」
「……んー、アーチャー、ってところですかね。単独行動もできますし」
「はは、そりゃあ私らも出来るけどな。けどアイツらに近づかずに処理してここまできたなら、特に疑う意味もねぇか。そっちは?」
「ボクか。ボクもクラスはアーチャーだ。射程が長いのはキミたちも知ってるだろう。名乗りは……そうだな、双光、と」
「装甲?なんだ、鎧の神か?」
「いや、二つの光だ。あんまり意味はないが、今はそれでいいだろ」

『双光のアーチャー』。
2つの光……彼はそう自称した。だが実際に彼が見せた能力は氷。直接的に光を放つ能力でなければ、そもそも光に繋がるような場面は見せられていない。ならば、少なくとも最低1つ……最悪2つ以上、彼はまだ何かしらの能力を見せていない事になる。
もう一つ手がかりがあるとすれば、先程宝具を放った際に唱えられた言葉。アレが宝具の真名であるのなら、それは彼の正体を探るのに間違いなく役立つだろう。
『トラウィスカリ・イツティア』……これ何語だ?しかし彼の権能と関係があるのなら、この中とどれかが「氷」に繋がる単語であってもおかしくは無い。何らかの儀式や逸話の名前という可能性も捨て切れないので、結論を出すには知識が足りなさ過ぎるのだが。
今すぐポケットから端末を取り出して検索ボックスにぶち込もうかと思ったが、そもそもこんな砂漠の真ん中、電波が通っているのか怪しいのでやめておこう。

「ところで、ボクらは今どこを目指してるんだ?」
「そうねぇ、砂漠の案内だもの。わたしたちが知ってるだけでも、『何かある』場所に連れていくのがいいわよね」
「つってもな、私らだけでお前たちを案内するのも面白くない。調査ってのは目が沢山あった方が気付ける事も多いもんだ。探し物をしてるのは私らもだし、まあ良い機会だってことでな」
「ってわけで、わたしたちはここを目指してたのよね〜。今家に居てくれてるかは、アポ取ってないからわからないんだけどぉ」
「……なんか、明らかに見た目が浮いてますよねこの建物」

案内された場所は砂原の真ん中。右を見ても左を見てももはや砂色に塗れてしまった只中にただ一つだけ。
綺麗に磨かれたログハウスが建っていた。


…………

「……こんなところに小屋が」
「住人が居るんですか?」
「居なきゃ連れてこないさ。まぁ悪い奴じゃあ全然無い。何なら私らより話も通じるぜ?」
「けどちょっと不思議な言語野してるわよねぇ。どこの言葉遣いなのかしら」
「なんだ、見た目の割にジジくさいとかそういう奴なのか。何が出てくるんだか……」
「ま、見りゃ分かるだろ。おーい、ディエティ居るかー?アサシンだ。出てこれるか?」

ドンドンと戸を叩く。普通に考えればこんな時間に大声を上げながら音を立てるなど、常識外れだしなんなら近所にも迷惑になるだろうが……ここの住民はともかくとして、ご近所に住んでる人など居なさそうな風景、あまり気にする事でもないのだろうか。

「おーい?……いねぇのか?仕方ねぇ、ここは引き上げぶべっ」
「もー、来る時は先に連絡ヨロってずっと言ってんじゃん?それにチョー真夜中だし、こんな時間にドアバンするとかマジなくない?」
「悪かったって……でもよ、客が来てんだ。ちょっと付き合えよ」
「えー?お客さん?それこそこんな時間にぃ?……っと、マジじゃん。ばんわー」

急に開け放たれた外開きの扉に押しのけられる渇望のアサシン。
その奥から出てきた『ディエティ』と呼ばれた女性は、若者らしい言葉を操りながらも……その姿は、骸骨そのものだった。

「こ……んばんわ」
「あっはは、ビビっちゃった?だよねー、見た目こんなんだもんね。ごめんごめん。あたしもこれでサーヴァントなんだ。彩衣のディエティって通り名……だったかな?真名はまた別にあんだけど、とりまよろしくー」
「ああ、ええと……私はアーチャー。天織のアーチャーと。よろしくお願いします」
「そんなに固くなんないでよ。この辺りはすっげードライだけど、ドライな関係は疲れちゃうしさ。で?そちらさんは?」
「ボクもアーチャー。双光のアーチャーとさっき名乗った。よろしく───」
「ん?どしたん?あたしの顔になんか付いてる?」
「いや……なんでもない。忘れてくれ」
「気をつけろよ。コイツは油断も隙もない奴だ……気を抜くと凍らせてくるからな」
「なんじゃそりゃ。双くんマジブッソーじゃーん?そいで?4人してこんな時間になんで押しかけてきたのん?」

──────
「なるほどね、大方分かったわ。けどなー、基本はマスターくんの近くにいなきゃだしなー。みんなみたいに単独行動がポンポン付いてるもんでも無いんだぜ?」
「ディエティって言ったか。なんのクラスだったっけ?」
「エクストラクラス……神格とか神とかそういう意味ですか。随分直球ですね?」
「でしょー?まあそんなキラキラしたクラスなもんだからさ、なんか色々ないとマスター抜きで動くってちょっと無理めっぽいんだよね」
「え、そうなのか?」
「知らなかったんですか?」
「いやー、私ら呼ばれてこの方マスター抜きで動いてるもんだからな」
「居なくても余裕だと思ってたわぁ。2人もマスター無しでここまで来たわよね?」
「ボクのマスターは仕事があるから来てないだけだが」
「私のマスターはこんなとこに連れてきたらヘロヘロでぶっ倒れますし……」
「む。そういうのは良くないぜ天ちゃん。身体は鍛えナイトな!」
「そうよぉ、ギリギリまで頑張ってギリギリまで踏ん張って、それでも前に進もうってところに人の素晴らしさがあるのよ」
「急になんか真っ当な事言い始めたぞ」
「いやいや、私らは常にそれを大事にして行動しているんだぜ?まあその姿を見るためにならなんでもするんだが」
「かなり有害じゃないですか」
「殺したいわけじゃあないんだぞ?そこはしっかり理解してくれ。な?」
「殺すわけじゃないなら問題ナッシングだな!そいでさ、実は裏技あんだよね、あたしの行動範囲に関して」
「裏技?」
「そうそう!あたしさぁ、着る服の色でパワーアップできんだよね!他にも服になんか付いてたらその分もバイバインでアガるオマケ付き!オシャレにも精が出るってもんだよね〜!」
「服だぁ?こんな砂漠の真ん中で言うことじゃねぇだろ。それになんだその服に付ける『何か』って」
「そりゃもうアレしかないっしょ!呪いとか祝福とか!」
「思ったより魔術寄りね……でもそうねぇ、わたしたちあんまり衣服には拘りないし……」
「ボクのこれはあんまり意味は無いだろう。色の効果はあるのかもしれないが、あっても精々防護系じゃないか?」
「多分いけますよ」
「だよね〜。そしたら悪いんだけど、案内係はこのまま熱ちゃんと渇ちゃんに……ん?」
「この羽衣でよければお貸ししますけど」

羽衣。私の持つ秘密兵器。
空気を捉えて浮遊する皮膜、外界からの害意を弾く防護壁。
織女として神々に献上するために織られると共に、天女である織姫も着用する……文字通り神衣。これにプリテンダーとしての今の私の性質が合わさる事で、世界から受ける暴力、圧力、重力、強制力……そう言ったものをすり抜けるちょっとしたズルアイテムとして機能させられる。
服によって何らかのブーストを得られるというのなら、これ以上のものはそうそうないだろう。

「マジでー?ちょい貸して……うお、なんだこれ。なんか……浮いてる感じがする?」
「まあ浮けますよ。後は存在するための魔力をオートで吸い上げる効果があったり、それと……」
「オイオイオイ、天織さんとやら……なんだそら。超神の恵みだろ。許されないぞそれは」
「はー?設備さえあれば何枚でも作れますけど?私の自作品みたいなもんですけど?」
「良いわねぇ、空を飛べるなら楽しそうだわ」
「マスターくんに伝えてくるわ!マスリダ〜」
「なんだマスリダって」
「大方『マスターくんに伝えてくるから一時離脱』の略じゃないかしらぁ」
「浮遊能力を質量減衰と解釈してマスリダクションとかけて来たのかも……?」
「マジか。いや英語の事はよく分からんが、そういう侮れないところがあるからな、アイツは……」
「おまたせ〜。結界の用意も出来たんで、これであたしが帰るまでマスターくんもバッチシ。そっちは何かある?」
「いや、特にない。今の時間で大分足腰も休まった。ボクはいつでも行けるぞ」
「私も大丈夫です。大体、貴方はそんな大荷物をゴテゴテと持ち込むから疲れるんじゃないですか?」
「素手で古代の遺物が掘れるわけが無いだろ。こういうのはしっかりと道具を揃えてくるもんなんだ。その場で作れない訳でもないが、それじゃあ古代に失礼だろ。ロマンがない。ロマンが」
「双くんはお宝探しってわけか。それならチョー良いスポットあっし、後で案内しよっか」

砂漠を歩く人影が、今や5つになっている。
以前会った時には文字通り氷のようだと思ったあの男も、今は随分楽しそうだ。あまり口には出していないようだが、その顔には明らかに楽しみの色が浮かんでいた。
マスターの氷も、いつかは溶けるのだろうか。

「天ちゃんは調査で来たって言ってたけどさ〜、何調べてんの?基本何も無くなっちった後だしさ、この砂漠」
「その質問に返せる答えは持ってません。私は依頼されて調べてるだけ……この砂漠の現状が気になるけれど、直接足を踏み入れる勇気がない。そんなヒトの代役ですよ」
「なんだか駒みたいでムカつくわねぇ。けどそんな言い方じゃ、頼んだのはあなたのマスターではないのね?」
「報酬の出る依頼ですから。あくまでビジネス、信仰を受ける代わりに恩恵を授けるシステムを、そのまま物質的な取り引きにすげ替えたに過ぎませんし」
「商売ねぇ……神様がヒトの小間使いで肉体労働ってのも随分変な話だな。やっぱ気に入らねーわ、労働は自分でやってこそだろ!」
「ま、パワーは人間より十分!戦闘能力もその他色んな経験もある!ってなっちゃあたしらサーヴァントの方が向いてるよなー。何の神にせよ、出力の規格がダンチなのは事実っしょ」
「何か作らせるに於いても、プロの英霊や神格が出てきて仕舞えばヒトの出番じゃなくなるのも間違いない。そういう意味では……ボクらは邪魔者かもしれないな」
「だからこのままじゃ、人間は先へは進めないと思うのよねぇ。でも、みんなそれを受け入れてしまっている」
「聖杯……それがある限り、人間は闘争によって生命を繋ぐ必要はない。だけどよ……闘争が無くなった時、苦難が無くなった時……神様(わたしたち)は、もはや信じられるものじゃ無くなっちまうんじゃないか」

一行を沈黙が包む。それはきっと多かれ少なかれ、各員が感じていた停滞だ。私自身、その点に於いては……存在意義の半分を失っていたに等しい。
それでも必要とされたのは何故だろう。
私は誰の願いを聞いて、何に反旗を翻せばいいのだろう。

「死から遠ざかって、争いを遠ざけて、安全なところに引き篭もって、安寧の中だけで生きて……それで良いのか、人間は」
「空を自分たちで閉ざして、海すら狭めて、広がる大地にはもう……誰もいない。かつてはその全てを目指した筈なのにね。わたしたちは熱、渇き。人が目指す荒野に巣食うモノ……けど、みんな来なくなっちゃった。どうしたら、みんな外を目指すのかしらね」
「……まぁまぁ、辛気臭いのはやめとこうよ。それにこの丘を越えたらいよいよだしさ、アゲてこーぜ?な?」
「割と歩きましたからね……何にせよ休みたいところですが」
「見たらそんな事言わなくなるって!な、もうそろそろだから……!」

夜中から砂漠をあちこち歩き回ったが、いよいよ空が白んできている。闇が晴れてくるのと同時に、いよいよ丘の頂点に差し掛かり───

「ほら、海だぜ海!砂漠から見る海……どうよ!」
「海……ですね」
「海だな」
「海か」
「海ねぇ」

海だった。

「ちょいちょいちょい、なんかみんなハンノー薄くない!?海でノッてきたりしない系!?」
「うーん……水着も持ってきてないのに海来てもやる事ありませんし……」
「湿気はダメだ」
「水はダメね」
「氷の神とか海水浴場全否定だからな……あまり縁は無い……」
「なんかみんな暗いじゃん……?どしたの?水分足りてない?海水は飲んだらマジ死ねるからやめといた方がいいけど」
「日が登ってくるとボクこんな感じなんで……なんかゴメン」
「なんだろうなぁ。色々とモヤモヤしてんなぁと改めて思ってさ。けど……こうして話したのも初めてなのかもしんないな」
「そうねぇ。西の方に比べてもこの辺りは誰もいないし、いつの間にかわたしたちも鬱屈して来たのかも……待って。アレ何?」
「何か海から出てきて……人?いやでもあの手の形……」
「馬……の上に男が引っ付いてんのか?」
「イプピアーラの類か……?でも馬の伝承なんか無かったはずだが」
「いやー、折角来てくれたし調査って事なら紹介しとこうかなと思ってさ!あちらが治ーちゃん……通称、不治のバーサーカーの治ーちゃんだ!」

視線の先の海の中から、馬と魚人の合体したような存在が姿を現す。ソレはゆっくりと水から上がり、一向を3つの目で見据えながら……空気に曝された馬体の全身から、悍ましい色の気体を吹き上げた。

「ふ ぶ ぅ ぅ う う う゛ う う う」

咆哮/絶叫。轟音と共に一層多量の、煤けた色の魔力が放たれる。

「お、治ーちゃん今日は機嫌悪いんかな。なんかあったのかな……ちょっと心配じゃね?」
「言ってる場合ですか!とっとと逃げた方が良い雰囲気じゃないですか!」
「海は近づかなかったけど……あんなのが居るとは思わなかったぞ。アレなんの神なんだ!?」
「何かしらねぇ……でも間違いなくこのまま進撃してくるビジュアルしてるわ。わたしたちここでおしまいなのかしら」
「奴の身体は水分で覆われてる筈だ……今凍らせればまだ間に合うはず」
「みんな焦り過ぎだって。ここまだ割と海から距離あるし、治ーちゃんのホームグラウンドもアレで海っぽいからさ。時たま上がってくる事もあるけど、陸の方に居りゃだいじょぶだいじょぶ。それに……」

「ふ………う……う うぅ ぉ……お ぅ」

2度目の咆哮は、1度目より弱く、あるいは呻き声のようにも聞こえた。
それを上げてのち、不治のバーサーカーと呼ばれた存在は踵を返して海へと戻っていく。
バーサーカーが潜っていった水面が、昇ったばかりの陽の光をキラキラと反射させていた。

「気まぐれなのか……?ともあれ助かったんだな、私たちは……」
「それがさ。治ーちゃん日光がダメみたいなんだよね。だから晴れの日の昼間は海の中入んなきゃあんま暴れないんだよ」
「日光に弱い、か。太陽が嫌だって言うのは……窮屈だよな」
「双くんも太陽ダメなん?じゃあ早く帰んないとヤバいかな。ウチ寄ってく?」
「いや、ボクは嫌いなだけだ。日光を浴びたらいけないって訳じゃ、全然ない……アイツの苦しみは分からないさ」
「そっか。それに、治ーちゃんも出雲で召喚されたサーヴァントじゃないんだ。他所から流れてきて、出雲も追われて、それでこの砂漠に来た……って流れみたいなんだよね。だからここが、あの独りの海が、あの子の居場所なんだ」
「……そういうの辛気臭いですよ」
「あっマジ!?ごめんね!ま、それにこれも人から教えてもらった話で、実際治ーちゃんがどう思ってるのかなんてあたしも知らないからね!ただこの砂漠にはああいう子もいるんだぜ、ってだけ!それじゃあそろそろ……行こっか!」
「お決まりの流れになってきた気もしますが……一応聞きましょうか。次はどこへ?」
「ふふん、いよいよみんなの本命だ。お宝探し、砂漠の調査、その両方で1番重要そうな……砂漠の東端へご案内しちゃうぞ!」


「とは言えなぁ。おいディエティ。ホントにそこで宝探しすんのか?」
「まあそれもそうかも。言っといてゴメンだけど双くん、トレジャーハントはやめといたがいいカモ!ごめんね!」
「危険な罠があるとかそういう文脈に聞こえるが。そう言われるとボクは俄然古代のロマンを感じるけど?」
「そうねぇ、罠といえば罠だけど、そもそも結界の端でもあるし、そこから先は二重に危険なのよねぇ」
「結界外といえばドローンがうようよって話でしたけど、二重?」
「例によってそろそろ着くからさ、見てから判断してちょ。さてさて、この辺りまでかなー……っと。アレ見える?」

『アレ』と呼ばれたもの。干上がってひび割れた砂色の大地の上に、鉛色の物体が転がっている。
大きさは両手で抱えられる程度だが、色のせいもあってか重そうな印象を受ける。

「金属か。これがお宝なんて言うわけじゃないよな」
「流石に言わねーよ……オイ触んじゃねぇ!」

彼……双光のアーチャーがそれに手を伸ばそうとした瞬間、渇望のアサシンと名乗った彼女が声を荒げる。
その様子は今までにないほど鬼気迫るもので、アーチャーも思わず動きを止めた。

「……悪い、つい大声を上げたな」
「そこまでヤバいものなのか、コレ」
「件のドローンじゃないですか?」
「形状は外を飛んでるドローンと変わんない。けど、その銀ピカのヤツはその材質が違う、らしいんだよね。あたしはここら辺あんま詳しくないんだけどさ。2人がよく調べてるんだよね」
「流石に内情までは覗けてないわ。けどそこのドローン……あるいはそうだったもの。それの材質……凄鋼、って言うらしいのよ」
「すさがね、ですか。触ってはいけないのは、そのすさがねだと?」
「飲み込みが早くて助かるよ。それはお隣のモザイク市……『神戸』って連中は呼んでたな。そっから流れてきたモンだ。いや、厳密には『勝手にやって来やがった』ってところだろうがな」
「治ーちゃんが元いたとこも『神戸』らしいんだよねー。向こうでも当然海に棲もうとしたけど、あっちの海はもうすんごい事になってるらしくてさ!それで辛辛、普通の海を求めて逃げて来た……って事みたい」
「海に流れ出してるらしいのよ、あの凄鋼。アレが海を覆って、地上のものも侵食して、色んなものが……あの形を変える金属になってしまっているのよ」
「形を変える……金属……?」
「冗談だろ?それじゃあここから見える、結界の外に転がってる、あのドローン……」
「そ。ぜーんぶ、あの『凄鋼』に侵食されちゃったドローン。元は『神戸』の外を飛んでいたドローンが取り込まれて、それで流れてきたのがこの砂漠東端……結界ギリギリまでにいっぱい落っこちてくるんだ」
「なんで落ちて来るのか、だよな?ああなったドローンは、大体の挙動は元のドローンと同じなんだが、一個だけ弱点が増えてんだ」
「それが砂。厳密には小さな粉ならなんでも良いみたいなんだけど、とにかくそう言う異物を巻き込んじゃうのに弱いそう。だからこの辺りで自然発生する砂嵐の余波や、あるいは直接砂の上に叩き落としてやるだけで簡単に止まっちゃう」
「悍ましい性能をしてやがるが、この砂しかない死の大地が……ここより西の生き物を守ってんだ。神戸の本土にはあんな感じのシロモノが他にも一杯あるって聞くが……どうだ男、お前行ってみるか?」
「いや、遠慮しておくよ。流体金属って発想が気に食わない。常温で勝手に動く?そんなものが鋼を名乗るのか……?」
「あれー?どうした双くん……今度はおこか?おにおこか?」
「おにおこだ。冷えた金属が流れるなんて認められない。何が宝物だ……愚物が!」
「とりあえずメチャクチャキレてる奴は放っといて……この砂漠で説明しとかなきゃいけない事はこんなもんだ。どうだ、まだ何かあるか?」
「私ですか。うーんと……お2人が、アサシンの2人が探してるものってのが気になりますけど」
「え?ああ、良いのよ別に。本当はもう、この砂漠の中にあるのかなぁ、って段階まで来ちゃってるし、ねぇ」
「そうだな。まあ南の山間部は迷いやすいから探せてないが、人の居ないとこには何もありゃしないのさ。それならまぁ……帰ろうぜ?なんだかんだ歩き詰めだったしな」
「おけまる重工〜。じゃじゃ、後ちょいだ……家に着くまでが遠足だもんな!」

ぐるりと砂漠のあちこちを周り、いよいよ東端から西へ向かう。道なき道を行く5人を、太陽が燦々と照らしていた。
何度も砂の丘を登り、下り、少し脇道に逸れ、5人は髑髏姿の彼女の……彩衣のディエティと名乗ったサーヴァントの家に戻ってきていた。

「ごめんね!あたしはここまでしか案内出来ないけど……ああそれと天ちゃん!これこれ」
「ん……羽衣。良いですよ別に、何枚でも作れますし。それにほら、バッチリキマッてましたよ?」
「マジ?チョー嬉しいんだけど。けどま、それならやっぱり天ちゃんが持って帰って。これは天ちゃん用の羽衣なんだし、そうだなぁ……そんなに合ってたなら、あたし用のを次遊びに来る時持って来てくれちゃったり?してくれても嬉しいぜ?」
「なんだ、そんな事なら。いいですよ。次、イカした色のを持って来ましょう」
「やりぃ!じゃー楽しみにしてるね!それとも一つ、双くんも……あんまツンツンしてるとダメだぜ?な?もっと楽しんでこう?」
「これでも満喫させて貰ったよ。キミこそホントはもっと色んな服を買いに行けるような、街の方に住みたいんじゃないのか」
「んん?ま、そう思う事もないでもないでもない……でもない!けど、静かな砂漠の中でマスターくんと2人で暮らして、時たま誰かがお客さんとしてやって来てくれるってのも……それはそれで悪くないんだ。だから、今はこれで良い。天ちゃんもまた来るって言ってくれたし!双くんはどう?」
「てっきりもう来んなって言われると思ったが。そう誘われれば仕方がない。いつかの夜でよければまた来るよ、白い聖女さん」
「あは、口説くには早いぜ明けの明星ちゃん?それじゃーみんな、またなー!」

大きく手を振る彼女に向けて、こちらも手を振り返す。お互いが蜃気楼になって消えるまで、ずっとその手は上に伸ばされていた。
誰よりも身がない身体に見えて、その実暖かく笑っていたような彼女。
彩衣のディエティ。その名に負けぬような、色とりどりの言葉を聞かせてくれる神だった。

それからはもう、まっすぐ西へ。日も落ちてゆく砂漠を、元来た方へと脇目も振らず。
彼女が居なくなってから少しだけ静かになった4人の見る地平に、少しずつ砂以外の色が見え始めた頃。

「私らはここまでだな。まぁここまで来りゃ後ちょっとだろ。あんまガラじゃないが……折角案内してやったんだ、ちゃんと家まで帰れよ?」
「ありがとうございます。私1人ではどうにもならなかった。お2人が居たおかげですよ、砂漠をぐるっと見て回れたのは」
「良いのよぉそれくらい。まさかわたしたちにツアーガイドさせる人が居るなんて思わなかった。それに、その件に関してはそっちのあなた……双光のあなたが強引にアプローチしてきたからだもの」
「何、まだ覚えてたのかその事……とっとと忘れてくれないか。まるで罪人扱いだ」
「あの出会いは一生根に持つレベルだぞ。私ら以外には……というか私らにもやるな。もう2度とやるな」
「後はそうねぇ、わたしからもう一個だけ。今度来る時わたしたちのところにも寄ってくれると嬉しいわ。貴女のマスターさんも連れてきてねぇ?」
「ひ弱な奴は鍛えてやらなくちゃならないしな?クックック、今から楽しみだなぁ!」
「あー……ま、それは覚えてたらですね。精々健康を害さない程度にお願いしますよ」
「うぐっ」
「なによぉ。ケチケチせずに連れてきなさい?楽しみにしてるわ〜」
「そういうわけだ。とっとと帰れよ!じゃあな」

そう言い放つと、2人は背を向けて砂漠の方へ戻っていく。日も落ちて暗闇に包まれる地平の奥へ消えていく背中を、少しだけ見つめてから振り返って歩き出す。
危ないところもあるように感じられるが、その心のどこかで未来を見ている2人。
渇望と熱望のアサシン。その名乗りに違わない、現状に満足しない神々だった。

夜の花畑を抜け、最終便の列車に飛び込む。サーヴァントといえどほぼノンストップで歩き続けたせいか、席に座ると共に猛烈に瞼が重くなる。それに車両の揺れが合わさって、あっさりと意識を手放した。

「………………ら、………こら、起きないか。起きろ天邪鬼。チッ……こうなったらこのツルハシで」
「起きてますよ……物騒な目覚ましはやめてもらいたいんですけど」
「外見ろ外。降りる駅ここじゃないの」
「……やべ。ああええと、ありがとうございます!それじゃ!」
「あーはいはい、転ぶなよ」

起こしてくれた彼への礼もそこそこに、出発を告げるアナウンスより速く、車内を駆けてホームへ飛び出す。真夜中の冷たい風が、肌に当たって少し震えた。
だけど本当にあと少し。いつものあの家に向けて、一人で夜道を駆けていく。
少しだけ早足なのは、きっと風が寒いからだ。
空の星が視界の端を流れていく。いつになく綺麗に輝いてるように感じて、少し眺めてみたいけれど、そんな余裕は今はない。
今度、みんなで見れば良いだけだ。
ただ、今は走れ。はやく帰りたい場所があるから。話したい事が沢山あって、それを話したい人が居るから。
けれど、いざ扉の前に立って思う。もはやどの建物も暗く、見える灯りは空にしかない。もはや、みんな眠ってしまっているだろう。
何を早足になる事があったのか。ため息を吐きながら扉を開けた。

「……」
「起きてたんですか」

もう電気を落とした部屋で、私のマスターが立っていた。
暗闇の中から、真っ黒な瞳でこちらを見つめている。

「……ただいま」
「……おかえり」

その一言を言われたのが、何故だか妙にくすぐったく感じた。
私の少しだけ長いような、やっぱり短い一人旅はこうして幕を下ろした。

────────

「ただいまー」
「おかえりぃ。どーだった?お宝掘れた?」
「それだが。このツルハシもスコップも、全く役に立たなかった……ここ置いとくね」
「え、やめてよ店のスペースに」
「いいだろ、道具店っぽくて雰囲気が出る」
「売り物じゃないんだから紛らわしいでしょ。それで?一人であちこち見て回ってきたんでしょ?どーだったの?」
「色々報告しときたい事はあるけど、そうだな。やっぱりさっきの、お宝がなかったって話は撤回する」
「ふぅん、じゃ、良いものあったんだ」
「……まあ少なくとも、また行っても良いかなとは思うよ」
「いいなー、わたしも連れてってよ」
「……気が向いたらね」

────────

「……こんなところですね」
「ありがとうございます。ところでこの報告書、登場人物については正確ですか?」
「もしや疑ってます?素人なりに丁寧に纏めたつもりなんですけど?」
「いえ。随分……友好的だなと。むしろ1番の危険人物が出雲まで来ているようにも取れますが?」
「さてねぇ。そこは私には分かりません。結局私の行った調査では。現地で3名の協力者を得て、1人何らかの魔性と遭遇、ガラクタの残骸を眺めて帰ってきた。それだけですよ。まあ、東側については多少気を配っておくべきだと思いますが、そんなのは私の仕事ではありませんから。報酬は指定の銀行からお願いしますね。それじゃ、私はここで」
「お疲れ様です……さて。どうしましょうかね」

「標木探偵事務所。天織の……アーチャー。何者なんでしょうね、彼女は」

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