ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。







────────────英霊を拒絶した男がいた。


『お前たち英霊の存在が人類を堕落させた!! 人類を懦弱にした!!
 "自分が努めなくとも"などという生き方を創り出した!!!』


────────────終わりなき世界を終わらせようとした"死"がいた。


「この世の全てはいずれ失われる。故に無価値だ。
 だからこそ、今この刹那に全てが喪われたとて、何ら変わりはない」


────────────未知の結末を求めた英霊がいた。


「認める。認めるよカール。君は最悪の脚本家だ。
 終わりから話を考えるんだから。……嗚呼。でも僕は君に、惚れこんでいたんだ」


全ての想いが虚空に堕ちる。全ての願いは閉ざされる。全ての渇望が────終わりを告げる。


新世界への邁進はとうに潰えた。13の魔人たちはとうに離散した。
それでも尚も抗った3つの渇望。それが今霧散する。無惨に、無様に、無価値に消える。


これは、当たり前に存在する世界の摂理。始まりがあるが故に終わりが訪れるという、輪廻の一端でしかない。



新世界の幕開けに散る、秩序掲げし者たちに捧げる鎮魂歌は、終曲へと移行する。







魔術師達がセプテントリオンの内部を疾駆する。
自分たちの召喚したサーヴァントたちに背を預けて。命を賭して戦おうとした魔術師らに背を押されて。
────────この戦争を終わらせる、最後の手段を実現させる為に。

「あいつら……元メイソンとか言ってたよな。
 死ぬほどかって思うけど……あいつらなりに責任とか感じていたのか…………?」
「さぁ? ひょっとしたらこの戦争が終わったら次は自分たちだって思っただけかもだ」
「理由なんざどうでもいい! あっしら守るために死んだとか胸糞悪いぜ!
 くそ…あいつら……ホント死ぬなよ……!!」

走る魔術師らの1人、東山西海が苦々しい表情をしながら歯噛みした。
彼らは皆揃ってある1つの目標を目指して走り続けていた。その目標とは、この戦争を終わらせる事の出来る最後の切り札に他ならなかった。
全霊を解放した"死の恐怖"に対抗するために、死を支配した権能を持つ神霊を召喚する術式を起動させるため、彼らはその用意された術式の中心部へと向かっていたのだ。

彼らが今走り続けている場所────地上戦艦セプテントリオンとは、日本の企業連合であるHCUにより作られた兵器の試作品だ。
試作品ではあれどそのスペックは実在する戦艦を大きく上回り、大きさ・機動力・そして内包リソース。それら全てが優れており、対メイソン部隊の前線基地として採用されていた。
特に目を見張るべきはその巨躯にあり、内部に魔力を張り巡らせれば一種の霊脈の疑似再現すらも可能になるほどであった。最悪に備え、儀式を行うための場所として整えることもできる。
だからこそ、セプテントリオンの内部には妥当メイソンを掲げる魔術使いらが吐き出した大量の魔術触媒が所狭しと配備され、一種の移動工房と言ってもいい様相を見せていた。

そんな移動工房にして巨大なる地上戦艦が、今は動きを止めて沈黙している。
理由は2つある。1つは周囲を満ちる"死の恐怖"が召喚した亡者たち。地を埋め尽くすほどの亡者たちは、彼ら生者達の命を奪うために襲い掛かり続けていた。
そしてもう1つの理由────、それこそ彼らが駆ける理由でもある、神霊召喚と言う大規模儀式の為に、少しでもリソースを節約するためである。
動力を賄う電力や燃料までをも魔力へと変換するコンバーターをフル稼働し、神霊召喚の為にこのセプテントリオンは準備を進めている。
沈黙する戦艦を駆ける魔術師たち。そんな中、神霊召喚術式を用意したエメリアが突如として声を張り上げた。

「ここよ! ここに術式の中心を用意しておいたの!」
「こんな部屋があったのか……。すげぇや時計塔の資料で見るような触媒まであるぜ」
「グランツェール家の歴史全部放出して作ったの!! 急いで! 魔力同調の準備をするからさっき話したように配置について!」
「走ってる途中に何度も言われた奴な! 分かってるよ!」
「ふむ……。触媒の配置的にこれは…工房? 
 いや…違うな。これは……」

魔術師達が辿り着いたのは、数人の人間がやっと入れるかのような小さな部屋であった。
部屋の中にはいくつもの貴重な魔術触媒や召喚術を補助する礼装が所狭しと並んでおり、召喚術式の起点となるに相応しい、魔術師の工房と呼ぶべき場所だった。
────いや。正確にその場所を評すならば、工房という言葉は相応しくない。何故ならば魔力の流れは閉じているのではなく、外に開いている様相があったからだ。
加えて大量に配置されている魔術的なシンボルの数々。それらは魔術に精通した者たちが見れば、神々の肉体を現す疑似的な祈祷の為の領域を展開する物だと分かる。
故にその場を言葉にするのならば、工房と言うよりも適切な言葉があった。

「………………神殿、か……?」
「エレオノールちゃん、詳しいの?」
「ちゃんはやめろ。まぁ、一応こういうのは一通り勉強したからな。
 ナチスで片っ端から叩き込まれた。奴らはオカルトすら取り込もうとしたからな」
「神殿……。ああ、こいつはあれか。黄金の夜明け系列の陣地作成術だな? 昔壊したから分かる」
「サーヴァントの手も借りて作り出したの。基礎にはセプテントリオンに配置された疑似的な霊脈を置いているの」
「なるほど。巨大な地上戦艦だからこそ、シンボルを設置して巨大な神殿を再現できるわけか」
 
合点を得るユキをはじめとして、集まった魔術師達が神殿に配置された様々な礼装にその手を置く。
獅子や鷹、様々な動物や惑星を象ったオブジェが神殿に配置されている。それらはセプテントリオンの随所にも同様のものがある。
全てエメリアが戦争の前日までに、地道に用意したものであった。全てはこの"死の恐怖"に対抗するべき瞬間を見越したうえでの準備である。
それらの象徴を配置することによりセプテントリオンの内部を巨大なる1つの宇宙に見立てる事で、神が下りる神殿を小さい領域で再現するのだ。
通常ならばセプテントリオン中に配置した疑似霊脈に莫大なエネルギーを流す必要があるのだが、攻撃や移動を放棄することでそのエネルギーを賄ったのだ。

「準備は良い?」
「ちょ……と、まって……息整えて……から……」
「締まらんな。肉体労働は苦手なクチか? 生きて帰ったら矢衾にでも入社するか?」
「ふざけろ。俺は人殺しよりもドローン駆逐のほうが肌に合ってるんだ。楽しいぞ血も涙もないドローンを残骸のゴミクズに変えるのは」
「そういえば戦争前にここら一帯の兵器全部を数百人がかりで片していましたね……」
「無駄口叩かんでくださいよ。エメリアの姐さんの意識統一が始めたんだから」

東山西海がそう言うと同時に、神殿に魔力が満ちた。
同時に魔力は隅々へと行き渡り、それらは淡い光の筋となって神殿中へと走って、一種の魔術回路のような様相を見せる。
そして光が神殿を満たすと同時に、エメリアの口から妙なる調べが木霊する。

『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公────。』

『四方の領域は閉ざされる。至高天より出で、人世界に至る虹橋、顕現せよ』

その調べの基となりしは英霊を召喚する詠唱。しかし呼び出すのは人が座へと召し上げられた英霊に非ず。
かつてこの地上にありてその権能を以てして地上の法則としてあった、絶対なりし存在────"神霊"に他ならない。
だからこそ詠唱を、召喚術式を、エメリアは全霊を以てして改装し、セプテントリオン内部に可能な限りの改造を施し、複数人の魔術師を以てして神霊を呼び出す決戦術式へと塗り替えたのだ。

神殿に満ちていた光がいくつかに分散される。
同時にそれらの光が神殿を囲むように円状に配置されたオブジェに収束するように灯る。
それらのオブジェには、1つ1つにルーン文字が記されている状態であった。

「……流れ的に、これに魔力を流すのか?」
「ええ……話が早くて、助かるわ……。魔力を流して……目を閉じて集中して……。
 自分が……この神殿の……一部として……同一するイメージを……してくれる……かしら」
「おっけーお安い御用だ。これで終わってくれるんなら何でも差し出してやるよ」

魔術師達が神殿のオブジェに手を指し伸ばし、そして魔力を流し、同時に神殿と一体化する。
そうしてその意識を集中させ、術式を構築する一部として己の意識を統一させ、神霊を降臨させるための術式を構築する。
必要なリソースは全てセプテントリオンが補い、必要な経緯は全てエメリアとそのサーヴァントであるビーシュマが整えた。
故に、あとは術者たちが集中し彼らの魔術回路を同調させ術式を行使するのみ。
だからこそ彼らは集中する。目を閉じ、詠唱を紡ぎ、そして降臨する"神"に対して祈りを捧げる。
これで終わる。これで幕が下りるのだと────。

そう信じながら彼らは神経を統一して祈るが、それでも1つの疑問がわずかに過ぎる。

────本当にこれで終わるのか? という疑念が。

絶対なる死。絶望的な相手に恐れがわずかに上回る。
本当に勝てるのかと言う疑念が、腐食するように広がっていき集中を乱す。
外では今も尚サーヴァントたちが、魔術師達が亡者たちと戦っている。その現実が彼らの心に恐怖と言う影を落とす。

だが、それでも

それでも彼らは己の胸の内に叫ぶ。勝てる。いや、勝つと。まるで自己暗示のように。
後に継ぐことこそが人理の美しさだと説いた。我らを超えて行けと叫ぶ魔術師達に背を押されて道を切り開いた。
だからこそ彼らは己を奮い立たせ、既に滅び去った死への恐怖を振り払い、自らに対して暗示を込めて意識を統一する。

その自己暗示こそが祈りなのだ。その祈りこそが神を形とする言葉なのだ。

魔力が結ばれていく。回路が同調し無数の術者が1つの術式として形を成してゆく。
神を呼ぶ声、神を形とする術式。それが人の祈りによって流出する。


何故ならば、神という存在は人の願いに答える存在なのだから。


「────神なる座より来たれ、叡智の守り手……最高位に座す神霊よ!」

「………………っ」
「来る!」


閃光が、魔術師達の全身を貫いた。


「どわぁ!!?」
「ぐぁ!!」

魔術回路を同調させ召喚術式を行使していた魔術師達全員を、鋭い痛みが貫いた。
まるで一瞬にして全身の神経を焼かれたかのような痛み。だがその末端から中心に至るまで、通常通りに動くことを彼らは悟る。
────それは言うならば、1つの残滓だった。"神と言う強大な存在が術式を通り顕現した"、"それだけの行為が残した残滓"。
複数人の魔術師に分散してもなお魔術回路が焼け爛れたと錯覚するほどの強力な魔力が、確かに彼らを通って顕現したのだ。

「………………まさか」
「今の……痛みは…………!?」
「────来た……! 来てくれたんだ……!!」

セプテントリオンの窓から、エメリアが外を覗く。
そのセプテントリオンの外には、ほんの少し前まで広がっていたような地獄の光景は存在していなかった。


彼女が覗いた外には、ただ1つの領域(ヴァルハラ)だけがあった。





────セプテントリオンの甲板にて

其処は凄惨たる戦場と化していた。
腕が千切れ飛ぶ。脇腹が千切れ内臓がまろび出る。頭部が割れて脳漿が飛び散るものすらもいた。
聖杯と言う治癒を手助けする力があろうとも、それでも継戦が精いっぱい。生き残る道は見えない魔術師らが戦っていた。
だがそれでも、例え助からぬ命と分かっていても、彼らは止まらない。

「お────オォォォォォォオオオ!!」
「まだまだ続きますわよ? デモレー団にて鍛えた魔術の腕、その喪われた命に刻みなさいませ!」
「たかが片腕が千切れた程度で────止まると思うなァ!!」

叫ぶ。殺す。戦い続ける。例えその身が朽ち果てようと。
何故か? 後へと託した命がいるから。希望へと繋いだという確かな証があるから。
彼らは思考する。自分たちはもう生きて帰る力は残されていない。生きて帰る資格もまた無い。
ならば希望に繋ぐ、正義と言う名の下に散るという────。言ってしまえばそれは、一種の自己陶酔でしかない。
だが彼らにとって、かつてメイソンと言う巨悪に加担した命にとって、その自己陶酔こそが全身に走る痛みを、死の恐怖を消失させる唯一の救いであった。

「は────ハハハハハァ!! 初めて魔術刻印に感謝したぜェ!!!
 痛みを感じねぇ!! 聖杯で強化されりゃあこんなにも俺は戦えるのか!!」
「雲仙────、先に逝く。あとは頼んだぞ」

そういってスーツ姿の男が、左腕に装着していた礼装に魔力を流した。
同時に男の全身に魔力が迸り、そして彼の心臓に宿った聖杯へと収束し、そして静かに男の肉体を粒子へと変えていく。
メイソンが全人類に宿った聖杯を解析し兵器へと転じようとした名残。肉体を、触れる者全ての魔力を無へと還す死の灰へと転ぜさせる魔の兵器。
その開発責任を負っていた彼は、完成する寸前に研究員の全てを殺し、そして最後に試作品を己の肉体に用いて、全てを闇に葬ろうとする。
何故か? そんな理由は問うまでもない。────、男は最後の最後に、己の歩んだ道が過ちだったと気付いたからだ。

「『降り積もる死のその先へ(ビヨンド・ザ・フォールアウト)』。
 どうだ"死の恐怖"。お前が、お前たちが、築いたものが全てお前に牙を剥く気分は」
「何故平然としている……。その兵器を用いれば命はない。お前は死ぬのだぞ……?」
「だが大勢の亡者共を道連れにできるだろ? それで十分だよ」
「お前だけではない! もはや貴様ら全て生き残る先はない!
 本当に道開くかもわからぬ希望にそこまで命を賭ける価値があるというのか!?」
「その通りだ!!」

ペルセポネが吠える。この場に立つ全ての、かつてメイソンであった魔術師達を代表して"死の恐怖"に叫ぶ。
彼らの心は全て同じだった。かつてメイソンであった罪を濯ぐために、己を利用していた存在に報いるために、己の自己満足の為に。
理由は様々ではあれど彼らの目標はただ1つの方向を向いていた。即ち彼らメイソンの頂点に立つ、"死の恐怖"に対して最高の妨害をすると。
そのためならば命など惜しくないと叫ぶ者がいた。このまま生き続けるならば死んだ方がマシだと叫ぶ者もいた。
だからこそ彼らは戦う。だからこそ叫ぶ。この先を託す命が彼らの背にある限り!!

「貴様は結末だ! 終わりの具現だ!! ああそうだ。貴様と言う存在を滅ぼしてこそ、ようやく新世界が開けるのだ!!」
「ええ。私たちの尊い犠牲のもとに新世界が花開きました────。嗚呼、なんと素晴らしいうたい文句でしょうか。私もようやく顔向けできますわ」
「神だのなんだのはどうでもいい……! 俺はただ……! 俺を利用したテメェのにやけ面が苦痛に歪むのを見てぇだけだァ!!」

巌の如き大男、雲仙が叫ぶと同時に、セプテントリオンに魔力が満ちた。
光り輝く回路の如き文様がセプテントリオンに、戦場に、周囲一面に広がっていく。
その光を以てして、彼らは自らの最後の戦いの意味がようやく結実したのだと直感した。

「────ッ!!? これ……は!!」
「…終わったか」
「は……! 待たせやがって……!」
「ですが……これで、終わりですか……」

"死の恐怖"の表情が歪み、そして闘争を続けていた魔術師達の顔が安堵に染まった。
彼は本能的に悟る。この術式を以てして降臨するのは自身の"天敵"に他ならないと。
冥界の主として立つことなく、されど死を支配した大いなる神が降臨するのだと。そしてその直感は現実となる。
止めようとしてももう遅い。その術式は完成された。此れより降臨するは死をその手で支配した神。
────即ち、死した兵士の頂点に立ちて統率せし、軍勢の父に他ならない。

「馬鹿な……! あり得ない…! こんな……はず────は…………!!」

"死の恐怖"が呻きを漏らすが、全てはもはや止める事の出来ない領域にあった。
セプテントリオンを中心として戦場中へと広がった魔力は、1つの術式を成立させて1柱の神霊を降臨させるに至る。


────────戦場が凪いだ。


────────地が震えた。


────────天が哭いた。


「………………馬鹿、な────」


"死の恐怖"が声を震わせながら、天を仰ぎ見た。
黄金なる光が天に満ちる。戦場に満ちていた死が、刹那の瞬間の下に"支配"される。
光が天を包むと同時に、戦場に満ちていた数え切れぬほどの亡者が、一瞬にして動きを止めた。

「────これで、終わるのですね。戦争も、私たちも」
「ああ。────我々も、これでメイソンであった罪は、濯がれた」

全身が血に塗れながらも戦い続けたかつてのメイソンたちが安堵の言葉を吐く。
そのまま戦っていた魔術師達は1人、また1人と、まるで糸が途切れたかのように地に倒れ伏していく。
彼らはとうに限界だった。そもそも頭蓋が砕けた時点でまともに動き続けている時点でおかしかったのだ。
それでも彼らは戦い続けた。この時、この一瞬、この刹那の為に────────。

唯一意識がはっきりと残っているペルセポネだけが、その辿り着いた光景を目にしていた。
彼女らを傷つけ続けていた戦場に満ちし亡者たちが、まるで統一されたかのように揃って天に対して跪く。
生を渇望するだけであった亡者たちが、まるで大いなる存在に対する敬意を示すかのようにその首を垂れる。

その先に1つの影が降臨する。
天を覆っていた暗雲が割れ、そして一筋の光が差す。
その光の遥か彼方────荘厳なる神々の社を幻視するほどに美しき光から、黄金の槍を携えた一柱の神霊が顕現する。

「馬鹿な……! 馬鹿な…あり得ない……!!
 お前が……お前が降臨する……はずが……!!!」


「お前は既に……! この地上から去ったはずだ────!! 大神!!」


その光来せし神霊の影をその眼で捉え、"死の恐怖"は全身を強張らせる。
"死"が、"恐怖"する。ガチガチと歯を鳴らし、絶望が脳髄を覆い包み、抵抗すら許さずにその存在の根底を恐怖へと染め上げる。
理由など1つしかない。その眼前に降臨した大いなる一柱が、"死を支配した神"であるが故に他ならない。


「祝えよ。全ての支配者であった汝が、今こそ征服される時なのだ」


降臨した大いなる神が、穏やかなる口調で言葉を紡いだ。美しき旋律と錯覚するほどの、快美なる調べであった。
その言葉の一字一句だけで、魂の根源までもがその神霊への敬意で染め上げられるのではないかと思わせられるほどの、人を惹きつける力があった。
頭髪は腰まで伸びるほどに長く、開かれた左目の瞳は太陽を閉じ込めたかの如く黄金に輝いている。片目こそ閉ざされているが、髪の一房、瞳の一視線の1つ1つが大いなる黄金比を現していた。
戦場に立つ全ての"死"が、亡者が、その黄金なりし神に対して平伏し、大いなる死の支配者の降臨に対して最上級の敬意を払っていた。

降臨した神霊は、まるで戦場中の亡者たちへと己が威光を知らせるかのように、その片手に持つ黄金の槍を掲げた。
そしてその掲げた槍を勢いよく振り下ろす。その切っ先が指し示すのは"死の恐怖"。その行動はまるで、罪人へと処刑を宣告するかの如くペルセポネには映った。
神霊のその合図と同時に、首を垂れ跪いていた亡者たちが立ち上がる。そしてその槍の示す先────"死の恐怖"へとその視線を向け、そしてただ静かに見据えていた。
そのままただ一言、戦場を埋め尽くさんばかりの亡者たちに対して一言だけ、その大いなる死の支配者は命令を放った。

「"お前たちが殺すのは、あれだ"。"あれだけだ"」

「"死した亡霊よ"。"ただ死して生を渇望するだけならば"、"お前たちは命喪っただけの亡者だ"」

「"だが"」

「"死して尚も己の使命を捨てず戦い続けたならば"、"お前たちは不死身の『エインヘリヤル』だ"」


「"ヴァルハラは目の前だ"。"その生への渇望は枯渇した"。"盟約だ"。"今この戦いに幕を引くとしよう"────!」


その言葉と同時に、ただ生を渇望するのみであった亡者たちが揃って雄叫びをあげた。
同時に彼らが武器を取る。天より降り注ぐ黄金の光が亡者たちを包み、その光は武具に、鎧に、具足に変化する。
そして彼らは一斉に宙へと導かれ、そして黄金なりし死の支配者の指揮の下に、一斉に"死の恐怖"へと襲い掛かった。

「エインヘリヤル……隻眼、ヴァルハラ。そして……、黄金の槍か……」

息も絶え絶えになりながら、霞む視界の中に天に降臨せし黄金なる神を前にペルセポネが呟いた。
彼女は神話体系に特別詳しいというわけではないが、これほどに真名に繋がる要素が出されればその真名も即座に理解できる。
最も、真名が理解できたところで英霊のように対抗手段が浮かぶ相手ではないという事は、ペルセポネも理解できた。

「…………オーディンか。北欧神話の主神を呼び出すとは、あいつらもまぁ、やらかしたものだな」
「正確にはその一側面を抽出した英霊。一種のアルターエゴともいえるかもね。名を軍勢の父、ヘルファズルと言うらしいわ」

声が聞こえた。振り返るとそこにはエメリアを含めたセプテントリオンの生き残りたちがいた。
その顔は全員がうっすらと蒼褪めており、神霊を召喚したその影響が大きかったという事を現していた。
対するペルセポネらもまた、左腕が千切れ飛び体中から血が噴き出続けているという状況にあった。

「随分とまた、無茶をしたようだな」
「貴方もでしょ……!? 回復のスクロール持ってきたから、止血だけでも!」
「ああ……ありがとう……。はは、これは……、みっともなく生き残ってしまいそうでは、あるな……」
「生きているだけ儲けもんだろ? 安心しろ。もうこっちの勝ちは、決まったんだから……」

ユキが空を見上げながらため息をつき呟いた。そのため息は全てが終わった事への安堵に他ならない。
安堵するユキのその視線の先では幾百、幾万もの命を失った亡者が自分たちを滅ぼした"死の恐怖"へと刃を向ける。
いや、それらはもはや亡者に非ず。死の支配者として君臨した軍勢の父(ヘルファズル)の名の下に統率された、不死身のエインヘリヤルに他ならない。
黄金なりし光に包まれ、武具を以てして己の戦いという使命を全うする獣の爪牙。彼らを"亡者"たらしめていた、ただ生者を羨むだけの渇望はもはや枯渇した。
そこにあるのは、絶対的なる支配者たるヘルファズルに傅き戦場に立つ兵士だった。

「"死の恐怖"には"死の支配者"を…ってこういう事ですかい。
 相手の持っていた力をそのまま使う。ああ最高に効率がいい」
「ただ普通にオーディンを呼ぶわけにはいかなかったのか?」
「神霊と言っても側面は多い。逆に言えばその側面を抽出すれば本物の神を呼ぶよりは効率がいい。
 今回は大量の死者が出た戦場、そして死者が実体を持って大量に顕現しているという状況が逆に功を奏したといえるわ。
 彼────オーディンの一側面であるヘルファズルは、エインヘリヤルを率いる軍勢の父という側面だから、この場ではまさにうってつけだった」
「戦場の神だからこそ、戦場に降臨する……っつーわけか。まったく、紙一重にもほどがある作戦だったぜ」
「だけど、これで戦争は終わる。……死の恐怖は、これで……幕を閉じる」

全てのリソースを神霊召喚につぎこみ、もはや駆動することのないセプテントリオンの甲板にて、魔術師達が天を見上げる。
彼らの召喚したサーヴァントたちも同じく、黄金に輝く天をただ見上げる。その視線の先では、"死の恐怖"が幾万を超えるエインヘリヤルの攻撃に蹂躙され続けていた。
彼ら全ては悟る。これで終わったのだと。ある者はようやく終わったと安堵した。ある者はこれで終わりかと落胆した。
元からして目的の異なる烏合の衆。戦いの終わりに対する結論もまた多種多様であろう。


だが、目の前の全天で繰り広げられる圧倒的なまでの死への蹂躙は、彼らに共通する1つの想いを抱かせた。
この戦いにもはや自分たちの割り入る場所はないと。自分たちに手を出す隙間など無い程に、"死の恐怖"は完膚なきまでに軍勢の父により滅ぼされるのだと。
彼らは口に出さずとも、皆一様にそう結論付けるしかなかった。





剣が胴を袈裟切りにする。

槍が容赦なく心の臓腑を穿つ。

弓矢が雨霰の如く全身を貫く。


"死"が、滅び去ってゆく。


「嗚呼……もはや、これまでか…………」

「幾億、幾兆を超える程の歩み……霊長と共に歩み続けたこの命、とうとう……尽きる時、か────」


カフッ、と口から血だまりが吐き出される。
もはや痛みを感じないほどのエインヘリヤルたちの攻撃の雨霰。
視界が霞む────いや、もはや五感など意味を成さないほどの攻撃の中、"死の恐怖"は思いを馳せる。


「(嗚呼、あの日出会った命よ…、あの日我が手から零れた雫よ。
 今の私を見れば君は笑うだろうか、憐れむであろうか────)」

「(どこで間違えたのか。あの日出会った刹那であろうか? ガイアの眷属となったあの瞬間か?
 それとも────我が父たる堕天使の策略に乗じ、地上に解き放たれたこと自体が────」

「(存在したことそのものが……、間違いだったのか)」


「────考えても仕方がないか」


己を自嘲するように"死の恐怖"は口端を上げた。
彼は思考する。もうこの自分と言う存在に意味はないのだと。もはや"死"という、古き時代の遺物がこのように立ち上がった事自体が異常だったのだと。
故に目を閉ざす。己の破滅を、消滅を、死を受け入れようと────彼は全てを放り投げようとした。


しかし


『────ル……』

『────ール……!』

『カール……!!』


『カール応答してくれ!! 答えてくれよ!! ……僕の……マスターなんだろ!!』


声が響いた。

薄れゆく中、消え往く中に、確かに魂に響いた声。

虹光の如き美しき灯火が、"死の恐怖"の消えゆく視界に色を灯す。


「(ああ、そうだ)」

「(貴方がいたか)」


「終わるだけだった私の物語に、たった1つの色彩を与えてくれた貴方が」


消え往くだけであった"死の恐怖"の口元が、ほんの少しだけ緩み口角が上がる。
同時にその声が、脳裏に響く声の主────全ての物語の王へと届いた故か、言葉と言葉が交わされる。

『カール……。 もう……、終わるのかい……?」
「ええ。もう終幕だ。文字通り、芝居は終わったのだ。
 全ての物語の王よ、我らの約定はここで終わりを告げる』
『そう……か……」

息を詰まらせるように、"死の恐怖"の脳裏に響く言葉は続いた。
そして何かを決意したかのように、言葉は凛と張り詰めて続く。

『……君が終わるというのならば、僕も共に死のう。
 一蓮托生だろう? 僕らはさ……。────全ての物語と全ての結末。表裏一体の関係なのだから。
 だから……君が死ぬときは、僕が死ぬときだ』
「………………。」

絞り出すようなアナンシのその言葉に、再び"死の恐怖"は目を閉ざし、そしてその過去に思いを馳せた。

泡沫のように浮かぶ彼の過去。
ただ結末の引き金を引くだけの機構でしかなかった彼が、初めて出会った喪失感の記憶。
『いかないでくれ』と縋ったあの日。失いたくないと嘆いたあの日。全ては無価値だと断じたあの日。
手を差し伸べても尚届かなかった後悔が、彼の精神の根幹にしこりの如く残されていた。


────またあの日のように喪うのか。

────また私は、目の前の命を掬う事が出来ずに終わるのかと。


そんな自問自答が木霊する。ガイアの抑止に似合わぬ過去の後悔が、彼に1つの決意を抱かせた。
────ああ、嫌だ。こんな結末は認めない。結末の具現たるこの精神は、その終わりに"否"と告げている、と────。
故に否定する。共に終わろうと縋る全ての物語の王に対して、彼は明確に否定を告げる。


「それは出来ない」
『………………え?』
「私は、貴方に生きて欲しい。生きて、その物語にもう一度色彩を取り戻してほしい」


「それが、私と言う人類の天敵に手を貸した、貴方への罰なのだから」


そう言って、男はその手に刻まれた文様を輝かせる。


「令呪を以て、我が共犯者へと告ぐ────」

「この戦場から可能な限り遠くまで飛べ。そして、決して滅びる事なかれ────」


『な────ん……だよ……それぇ!!!』


怒号が"死の恐怖"の脳裏に響いた。


「ふざけるな!! ふざけるなよカール!!」

「言ったじゃないか! 最後まで一緒だって!!
 宣言しただろう!! 僕に────僕たちに!! 未知を見せるんだって!! 結末を共に見るんだって!!」

「こんなに面白かった物語を無かったことにしろって言うのか!?
 こんなにも楽しかったお前たちの物語を抱いたまま、僕に生きろというのか!?」


「僕はまた────色彩の無い物語の中で……独りになるのか…………ッ!!」


悲痛なまでの叫びが途切れ、そして魔力反応が1つ消滅した。
それを以てして"死の恐怖"は悟る。ああ、逃げてくれたのだ。令呪は正しく働いたのだと。
ならばもう思う事はない。もう自分に、あの日のように失うものは何もないと。まるで吹っ切れたかのように高らかに彼は笑った。

「ハ────ハハ! ハハハハハハハハハハハハ!!!
 ああ素晴らしい……素晴らしいぞヘルファズル! だが数万年間恐れられ続けたこの"死の恐怖"……!!
 まだ滅びぬ! まだ足掻く!! 貴様と言う神の死を以てして我が凱旋を高らかに響かせようか!!」
「いいや勝つのは私だ! そして彼ら人類だ! もはや死への恐怖は枯渇している! 新世界の開闢に散る花となれ!!」
「抜かせよ、ガイア以外に我が霊基滅ぼせるものか! 死者満ちる大地を拓く礎となるがいい!!」

"死の恐怖"が自らの霊基の臨界点すら超えた宝具を行使する。
同時にヘルファズルはその支配下に置いたエインヘリヤルたちを率いて全力でぶつける。
もはや人類史は愚かこの地球上の歴史を見渡しても類を見ないほどの大質量の魔力が衝突し合う。
生き残った人々は、命からがら自らのサーヴァントの手を借り、その魔力の奔流から逃げ出すことで生き延びることが出来た、と後に語られるほどの戦争があった。


その後イギリス首都ロンドンは、最低限の復旧が完了するまでの5年間、
人の居住が不可能と言われるほどの崩壊を見せ、戦争は幕を閉じた。





────

────────────

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────────12年後。


2025年。モザイク市・新潟にて


「なるほど。────話を整理すると、貴方はその12年前のロンドンで巻き起こった戦争……。
 その最終局面、神霊と"死の恐怖"がぶつかり合った場面に立ち会った、本物の"魔術師"という認識でよろしいですね?」
「……そうだ。そういった認識でいてくれて間違いはない」

モザイク市『新潟』バンダイ・フルマチ。
その路地裏……人通りの少ない奥にある、何処にでもあるような一般的な内装のカフェ。
店内には歓談する女子高生。仕事帰りと思われるコーヒーを嗜む会社員。年老いた老齢の男性などがいる。
そんな中、スーツ姿の男性の問いに対して、対面する紅の長髪をたなびかせる隻腕の女性が、そう頷いた。
女性は鋭い視線で男性を見ながら、今だ尚傷跡の多く残る手でカップを持ち、紅茶を口に運んでから言葉をつづける。

「……まぁ。私にできたのは、精々亡者共の足止めばかりだ。
 華々しいあの戦争の活躍者たちの名に連なるのは、過ぎた扱いだよ」
「しかし生き残ったのは事実でしょう? それは強さ、そして実力の証。誇っていい」
「実力? そんな物はない。私はただ、運が良かっただけだよ」

赤髪の女性────かつてペルセポネという名を以て数多くの魔術結社を渡り歩いた女傭兵魔術師は、自嘲気味に笑った。
彼女はメイソンが滅んだあの日、死に瀕しながらもエメリアの献身的な治療を受け、そして生き延びたという過去を持つ。
そしてそのまま、過去にメイソンに助力したという自分の罪を少しでも濯ぐために、世界中を回っては様々な「戦争」からの復興事業に協力をしている身である。

そんな中、日本という国に先進的な難民キャンプがあると噂を聞きつけた。
未だなおも残る「戦争」の傷跡。そのほとんどはモザイク市に受け入れられない難民たちだ。
そんな難民たちを救う手段を知るため、および彼女がその難民キャンプを調べる中で浮上した"ある事情"を確かめるために、彼女は日本へ足を運んだ。
その道中、どこから噂を聞き付けたのか「ロンドンであった戦争について知りたい」という依頼を通りすがりの男に受けたため、彼女はそれに応じた次第であった。
────最もそれは建前の理由であり、本質は彼女が過去にロンドンで参加した戦争を知る、目の前の男の素性を知るための捜査にあった。

「かつてメイソンであった……とのことですが、他のメイソンメンバーは…」
「私が知っている者は皆死んだ。あの戦争で、あの戦争の後遺症で……まぁ他にも理由は様々だ。
 生きている連中が戦争後にメイソンの残骸を調べたという風の噂はあったが……。地下への通路は塞がっていたそうだ。
 地上の残骸を調べた腐れ縁とは連絡がつかん。日本に渡ったという噂はあったから、もしやと思ったんだがな……」
「なるほど」

ペルセポネはカマをかけたつもりで情報を出したが、特に男はその話に乗るような真似をしなかった。
彼女の知り合いにしてに、日本のとある魔術組織に技術を横流しにしている元メイソンがいると聞き、目の前の男はその仲間では無いかと推測を立てていた。
ならば、と思考し彼女は次の情報を開示し、新たなる情報の開示へと移行する。

「しかしメイソンと言えば秘密結社の代名詞。
 メイソンがいなくなった今、戦争が終わった新世界に危機は無いと言えるでしょう」
「………………実は、そうではないんだ」
「…? ほう」

スーツ姿の男性が疑問符を浮かべて質問した。
ペルセポネはどこか憂鬱そうに外を眺めながら、ゆっくりと口を開く。
彼女の口から語られたのは、恐ろしい真実であった。

「フリーメイソン討伐の為に用意されたリソースは多々あった……。
 化学燃料だけではなく、魔術的な触媒も含めてな……。主に、英霊の力を開放する目的のものが多かった」
「サーヴァントの宝具発動などといった機能は通常、魔力消費が大きく通常のマスターでは不可能ですからね。それを補助する……と言ったところでしょうか?」
「そうだ。その中でも特級の代物……。"マスターに十分な魔力が無くても宝具開帳を可能にする"触媒……。言ってしまえば魔力の塊ともいえる黒水晶と呼ばれるものが特に多く用意されていた。
 だがカール・クラフト……"死の恐怖"の力によってサーヴァントを持つ魔術師はその大半が、この触媒を使う事なく死んでいった」
「────とすると、それらの触媒はほとんどが使われることなく戦争は終わった、と?」
「連続使用が出来るようなものでもないからな…。その通りだ。だが────」


「戦争が終わると同時に、大量に用意されていた黒水晶のほとんどが、忽然と姿を消した」


「────…………」
「…何者かが、持ち去ったとみている。当然即座に回収措置を発令したが、
 ………………それでも、5割が未だ行方知れずとなっている現状にある」

沈黙が両者の間に走った。英霊の切り札、あるいは英霊の存在そのものとも言える強力な力、宝具。
術者に負担がかかるとはいえ、それを簡単に行使できるようにする黒水晶は、言うまでもなく世間に流通すれば混乱を齎すのは必至だ。
通常英霊の宝具の行使には莫大な魔力が必要になり、一般的なマスターでは行使などできない。独力で魔力を賄える強力な魔術師だとしても、サーヴァントにリソースを割くのは不安を残す。
故にこそ、サーヴァントの宝具行使を気軽に可能とする黒水晶の存在は、この新世界の安全を根底から揺るがす最大級の兵器であるともいえる。

何故ならば英霊とは本来人の領分を遥かに超えた存在。故にこそ、その全霊の力ともいえる宝具を用いることを可能にすれば社会は混沌とする。
魔術師であったペルセポネならばそんな可能性には即座に辿り着ける。だからこそ、彼女はこの事実を包み隠さず話すべきであると結論付けたのだ。
この事実を話してどう出るか。それによって目の前の人間がただの情報通か、あるいは何らかの裏側に属する人間かを見抜こうとしたのだ。

「それだけではない。戦争後、メイソンの本部跡地に立ち入り、技術を盗み出す外部の者たちの姿も確認された。
 フリーメイソンに属した経歴の無い者たちだったと聞く。追いはしたが戦争が終わった直後、皆疲弊しており、取り逃がす結果となった。
 メイソンの技術の大部分、並びに戦争で用いられた数多の"黒水晶"をはじめとする魔術触媒が、世間に漏洩したと見て間違いないだろう」
「なるほど。そういった持ち去られた技術に対する、対策などは?」
「既に有志により対策本部は作られてはいる、が────世界がこうなった有様だ。連携がまず取れていない現状にある。
 世界のどこに流出したのかさえもわからないこの現状……正直な話、先行きが暗いよ」
「そうですか────……」


「そこまで分かれば十分だ」


瞬間、殺意を察知したペルセポネは即座に臨戦態勢に入る。
しかし全てが遅かった。一瞬のうちに数えきれないほどの銃弾がペルセポネの前身を貫いた。
魔術師であり、尚且つ警戒を怠らなかった彼女の敗因を述べるならば、警戒をする相手の数にあっただろう。
彼女は目の前の男だけを怪しいと踏み、目の前の男だけに対して警戒を続けていた。目の前の男とのタイマンだったならば、例え手負いであったとしても彼女に勝機はあっただろう。

ペルセポネは、"喫茶店にいた全ての客から一斉に銃を向けられ"、一斉掃射を全身に受けて死亡したのだ。
先程まで談話していた少女も、男性も、老人も、全てが揃って無表情のままに銃を構えているという異様な光景がそこにはあった。

「出るぞ。銃声で人が駆け付ける可能性もある。
 店から出た後に解散。郡山にて現地集合だ。暗示魔術もそう長い間続かんだろうしな」

ペルセポネの死体を前にしても顔色1つ変えぬスーツ姿の男が、店中の銃を構えていた人々に命令を下す。
そうしてその命令に従うように、無表情のまま銃を構えていた人々がその銃を懐に仕舞い、そのまま店を揃って後にする。
最後に残ったスーツ姿の男は、煙草を1本取り出して火をつけながら、ぼやくように独り言をつぶやいた。

「ったく、ちゃんどらも面倒な仕事を押し付ける……。
 郡山に大量に残した黒水晶を追ってるやつを始末しろとか……。自分でやれよ…」

「まぁ金払いは良いし。魔術師を殺せるのは気分いいしやってやったが。
 それでも他人に敬語使うのはめんどくせーな……。次頼まれたら断ろう」

「さて」

「俺も郡山に戻るとしようか」


そう呟きながら煙草を灰皿にこすりつけ、男もまた喫茶店を後にした。
人通りのない路地裏の喫茶店内には、大量の空薬莢と無惨に殺された女性魔術師の死体だけが、残されていた。





────
────────
────────────


『シェルターにドローンが侵入したぞぉ!!』


誰かが叫んだ。その叫び声を引き金として阿鼻叫喚が木霊する。


『朱雀第一斑、中心街より居住区0162へ移動します。兵器使用許可を』
『ダメだまだ避難が完了していない。通常兵装のみで破壊でなく撃退を試みよ』
『何故です? 逃げ遅れた住民が巻き込まれようと自己責任でしょう』


重装備に身を包んだ男たちが、狭い地下シェルターの通路を走りながら通信を行う。


『避難してください! 騒げばその分ドローンを引き寄せます!』
「テメェがあのドローンを呼びよせたんだろう!! あの日俺が金盗んだからってヤキ回りやがって!」
「証拠でもあるって言うのかボケ!! ヤク打ち過ぎて幻覚でも見えてるんじゃねぇのか!?」
「ドローンはモザイク市が難民たちを殺そうと送り込んでいるんだ!」
『お願いですから避難をしてください!』


責任の擦り付けと、悲痛な叫びが残響する。


「サーヴァントがいればこんな事にはなぁ…」
「お前サーヴァントを何だと思ってるんだ!? サーヴァントは殺人兵器なんだぞ!」
「サーヴァントの名前出すな馬鹿! 思考盗聴されるぞお前!」
「こうなったのも全部モザイク市が俺たちを受け入れないせいだ!!」
「モザイク市さえ…サーヴァントさえいなければ俺たちはこんな生活しなくて済むのに!」


流言飛語が錯誤し、負の感情が渦を巻く。


「嗚呼ちゃんどら様…ちゃんどら様…お救いください」
「死にたくねぇ……畜生…吸いでもしねけりゃやっていけねぇよ……」
「四戸物産の配給はまだかよぉ……。もう昨日のぶん全部食っちまったよぉ…」
「おい朱雀! テメェらまた死人だしてんぇじゃねぇか真面目にやれカス!!」


現実から逃避し、無責任な罵詈雑言が宙を舞う。


此処に救いはなく、ここに新時代の輝きはない。
あるのはただ人間の醜さと、悍ましき人間の業だけだ。


これが戦争の切り開いた結末だ。新世界秩序掲げし魔人たちを超えてまで作り上げられた結果が、これだ。


輝かしき世界もあるだろう。英霊と共にある人々という側面も新世界にはあるだろう。
だが光あるところに影はある。正規のモザイク市が戦争を超えて築かれた安寧と言う名の光だというのならば、此処はその真逆。
戦争が生み出した恐慌と言う名の闇。正規のモザイク市と戦争以降に発生したサーヴァントを恐怖し、厭悪し、そして根も葉もない醜聞をまき散らす、負の感情の蠱毒。
表向きは難民たちを救う複合地下難民キャンプを謡いながらも、その実情は悍ましくも劣悪な人間の本性の坩堝に他ならない。
その実情を知る者たちは、その地の名をこう呼んだ。


瞑眩窮民廃都「郡山」。
生にしがみつき目が眩み、目の前の現実に目を瞑り、ただ逃避するだけの窮民集いし、廃れし都。
旧世界の残骸を滅ぼし、待ち受けた答え。確かなる現実がそこにある。



ただ現実から目を逸らすだけの窮民たちに、待つのは希望か、絶望か、あるいは────────────。



────────────────

────────────

────────

────



「…………?」

「いかがなさいました? マスター・ヴァイス」

「……ううん。なんでもない。ただ────」


「────誰かが、助けを求めたような。そんな気がしたんだ」







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