ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。





男の話をしよう。

男は、その生まれからして人ではなかった。
その生まれた理由は、至極単純。『人類の新たなる可能性のために』
耳に甘く、されどその手には苦い、人類の理想、理念、栄光を形とするために、男はこの世に生を受けた。
否、男は"造り上げられた"。

だが、男は生来より己の生きる意味が分からなかった。
失敗作だと唾棄された。されど死だけは嫌だと足掻き、喘ぎ、もがき、
そして決死の感情の中で生き残り、最後の最後で生き残る道を男は得た。

しかし、それからというもの男は、とんと生きる意味が分からなくなっていた。
分からないから、周囲に答えを求めた。だが誰一人として男を理解するものなどいなかった。
当然だ。だって男は、"人でなし"なのだから。人でないものの気持ちなど、人には理解できるはずもない。

故に男は、自然と流れるように、導かれるように、
同じ"人でなし"を狩り、そして殺す役割に立った。

『面白いやつだのう? 何故、人でないお前が人に与する? 理由もなく? そりゃあ傾奇者じゃの
 儂を見ろ。確かに元人ではあるが相対関係にある。自由でいいぞ? 悪は』

『確かに、私は死霊魔術師をしている。だが、正直なところ生に執着はないよ。むしろ逆だ。
 逆に問うが、何故君は生に執着を見せる? 何故、死にたくない?』

悪霊王女と呼ばれた女と問答を交わしても答えは得れなかった。
死霊魔術師の天才と言葉を交わしてもまた、答えを得るには至らなかった。
答えを知れば知ろうとするほどに、答えは遠ざかっていくような錯覚すら覚えた。

答えを得れない。憎たらしい。この俺が悩みぬいているというのに、何故お前たちはのうのうと生きている。
死ね 死ね 死ね 死が欲しい 血が欲しい 痛みが、叫びが、傷が、嘆きが、争いが、苦しみが欲しい。
この世のありとあらゆる俺以外の命に、この生き地獄が如き俺と同じ地獄を味あわせて殺してやりたい。
そう思考を続け、彼はその魂を永劫と言える時の中で、緩やかに腐らせていった。

そのような、正真正銘"人でなし"たる彼の生き様にも、やはり業による罰というものはあるもので、
長い生を生きた彼の前にも、その命脈を絶つ"運命"が現れるに至った時があった。


「貴方が………姉さんたちを………!許さない………許さない………っ!」
「─────仇討ちか、健気なものだ。魔女にもそのような仲間を思いやる心があるなどとはな」

どこか、荒野のような場所で二人の人間が対峙する。
いや、その二人は人間と言っていい物なのかすら分からない存在達であった。
片や神代の幻想種にすら匹敵する魔力を持ち、片や夥しい人間の魂が凝り固まったような悍ましさを持つ。
通常の人間が、例え霊感や魔術の才能といった物を持たずとも、その場にいれば失神は避けられないであろう。
それほどの圧が、この二人の周囲を渦巻いていた。

「首………っ! 首! 首!! 首ィ!!! その首を……その首を置いていけぇ!!」
「ははっ、まるで蛮族だな。異教徒たる魔女には相応しいといえるか」

褐色の少女が血走った目で男をにらみ、全速力で駆ける。
少女はかつて、眼前に立つ男に自らの家族である姉を殺された、魔女であった。
魔女であっても、彼女たちは人を呪い殺したなどと言ったことは一度もない。
ただ"魔女である"。それだけの理由で、少女たちはこの男の手で、無惨なる死に様を与えられたのだ。

その必死の魔女に比べ、片や男はほぼ無防備ともいえる立ち姿で、嘲笑っていた。
男は既に、その力に酔いしれている段階にまで、魂は腐り堕ちていた。もとより人ならざる魂。
その魂が、過ぎた力を持ったが故に、その過ぎた力に溺れ果てる。考えてみればそれは、当然の理だったのだろう。
確かに男は、腕はそれなりに立ち、非常に実力も、実績も、経歴もあった。

─────────────故に、慢心していた。

ザン─────ッ

勝負はまさに、文字通り"一瞬"で終わった。
男の首は胴体から離れ落ち、地面へと力なく堕ちていった。

「………………………何……………?」

男はその状況を、脳で理解するのに数秒かかった。
分からない、何が起きている? 今虚空を舞うこの感覚はなんだ? 何故?
疑問符だけが、男の脳内を支配する。

「…………可哀そうな人、」

その首を落とした少女は、勝利の余韻に浸るようなことはない。
まるでそれがさも当然であるかのように、例えるなら、蛙が蛇に勝てないのと同じように、
この結果が当然の物である、というように、目的を果たした少女は、蔑むような眼でその男を一瞥すると、
何処へとも分からずとぼとぼと去っていった。

「(馬鹿な………っ!? 何があった!? 何故!? 何故この俺が攻撃を受けた!?
五大要素全てを司り、攻撃も防御も自在のこの俺が! 何故!?)」

男は頭部だけとなった身で思考を続ける。だが、どれだけ思考しても答えはない。
当然である。先ほど彼の首を落とした少女は、彼の理解の外の技術を使ったのだから。
だが、そんなことまでは瀕死の彼の頭脳では届かない。

「(死ぬのか……っ!? 俺が! ふざけるな!! 俺はまだ生きたい!!
何も残してはいない!! "誰にも認められていない"!!)」

男の思考はやがて、何故やられたのかという"疑問"ではなく、
目の前に明確な死がある故の"恐怖"へと置換されていった。

だが───────男はその根源的な死への恐怖を前にしても、冷静であった。

「(待て………………何故俺は……………"死にたくない"のだ?)」

この男は、常に思考を続ける脳を持っていた。何時いかなる時でも、思考を続けていた。
それはこのような、死を目前とした状況でも変わらなかった。彼は、最後に己の死すらも思考の命題としたのだ。

「(そもそも何故俺は咄嗟に"生きたい"と、"認められていない"などと思考した?
俺は何かを残す為に生まれてきたのか?……………認められるために、生まれてきたのか?)」

人の思考という物は、思うよりもずっと早い。人は……いや、全ての生物は命の危機に瀕した際、
脳内麻薬を過剰に分泌させ思考を高速化させ、最後までの時を"延ばす"。危機を抜けるべく、太古より刻まれたの生命の智慧だ。
その一瞬(えいえん)の中で、彼は己の生まれた意義について思考を巡らせていたのだ。

しかし、例え永遠に感じられる感覚の中であろうと、所詮は終わりが来る一瞬。
男はやがて多量の出血により、目がかすんでそして死ぬか否かという瀬戸際に立たされていた。

「(………………………ふん、考えども答えは出ずか……………。随分と呆気なき幕引きだったな………)」

男はそのように、己の永くも僅かであった人生を嘲笑った。
──────────その時であった。

「その問いに………………………答えを」

声が聞こえた。
聞こえた方向に男は力を振り絞って眼球を動かし視線を向ける。
するとそこには、全身を拘束具で覆った人型の存在が立っていた。





………それから二百年近い年月が経ったある日にて、男が目を覚ます。

「────────なんだ…………、随分と長い夢だったじゃあないか………」

自嘲するように男は小さく呟き、そして立ち上がる。
男の名は、トリストラム・ユビキティストーン。彼を知るものは、須らく彼の事をDr.ノンボーンと呼ぶ。
生まれざる者。生まれていないもの。骨子亡き者。何故そう呼ばれているのか、そしてそう名乗るのか、真意を知る者はいない。

「………………………ノンボーン」
「ああ、サー・ミュートか。………すまない、少し寝てしまっていたようだ」
「良い………………。このところ……、仕事が多いだろうからな……卿の部隊は」
「────────────ああ、例の冬木の一件は、まだ留まりそうにないからな」

目覚めた男の横には、漆黒の鎧纏う騎士が立っていた。
そして彼らの周囲では、複数人の魔術師たちがあわただしく動いていた。
あるものは被害状況の報告を、あるものは契約先の魔術結社と交渉を、ある者は調査の結果の報告を行っていた。

どこか奔放そうな少女が、日本へと向かった自分の部下──言動を聞くに、後輩のようだ──
に対して、電話越しに叱責しながら通りすがったところで、騎士が口を開き始めた。

「…………霊長総研も…………憐れだ……、虚数魔術…………その暴走とは…………
人が……どれほど死んだ……ことか……。聖杯戦争……とは……これほどの……ものなのか……」
「だが、非常に良いケースだ。虚数魔術はサンプルが少ないし、あるのはあの研究に特化した霊長総研だ。
聖杯戦争による虚数属性の暴走など、200年生きてみたことがない。これはフリーメイソンの大きな躍進となるだろうよ。
しかもそれを間近で観察できるとはな。冬木の地を売り払ってくれた、遠坂家に感謝だな」

ククク……、とノンボーンは何処か嬉しそうに喉を鳴らす。
対して隣に立つ漆黒の騎士は、相反してどこか悲しそうな雰囲気であった。
表情は見えずとも、その立ち振る舞い、その気配は、その話題の中にある冬木という地で死んだ、
多くの人々に対して哀悼の意を表しているかのように見えた。

「今回の……冬木の件に関し……モレー殿が……直々に話をするそうだ……
皆、講堂へと向かっている……。我々もまた、向かおう…………」
「ああ、そうだな」

漆黒の鎧を身に纏った男の呼びかけに答え、ノンボーンは大講堂へと出向いた。
彼らが所属する組織、………魔術の世界では最大手に属する結社"フリーメイソン"の集会が始まろうというのだ。
その集会の中心に立つは、かつてのテンプル騎士団(ナイツ)の最後のトップと同名を名乗る男、ジャック=ド・モレー
騎士道を重んじる騎士がごとく、人類史に新たなる栄光を取り戻そうと、メイソンに所属するものたちに奮起を促す、人の上に立つべき実力を持つ男であった。

彼らが所属するフリーメイソンという組織は、魔術結社の中でも特異な存在である。
神秘を秘匿しつつ、表社会にも多大な影響を及ぼす組織であり、その活動は非常に多岐にわたる。
魔術結社でありながら科学技術などの研究も行っており、権威を重要視する貴族主義の魔術師からは嫌悪されているが、
それでも、時計塔に居場所のなくなったニューエイジの魔術師たちを多く引き入れ、研究の場を用意するその多様性から、多くの魔術師に人気の就職先となっている。

そんな彼らが掲げている命題は、"人類の新生"。すなわち、新たなる栄光を掲げる……という題目だ。
だが、組織の中でも上の方に立つノンボーンは、その掲げられたお題目が口先三寸であるということは、薄々勘づいていた。
第一に、人類に新しい道を開くというのならばあまりにもフリーメイソンのやっていることは遠回りが過ぎる、と彼は考えていた。
可能性を広げるというのならば、紋章院のように行き場のない才能を片っ端から集めればそれでいい物を、とも思考していた。

されど彼は、この組織に身を置き続けている。
それはなぜか? 第一の理由として、その手でメイソンが異端としたものを殺すことができるから。
だがそんなことなど代行者になってもできる。彼を"フリーメイソン"という組織に縛り付ける理由……
それはほかでもない。この組織の頂点、ジャック・ド=モレーが口先とは言え語った"人類の栄光"という言葉に、
男は強く惹かれたからだ。

無意識下に、男はその言葉に惹かれていた。
だが、男はその拘泥が如き己の持つ歪みによりその理由には気づいていなかった。
"それ"が、男の作り出された歪んだ出生に由来するのかは、男自身も分かってはいない。

「……………………………どうした?」
「いや………、なんでもないさ。ただ少し、現状に不満を感じてな」

ノンボーンは黒き甲冑の男の呼びかけに、歩みながら答える。
フン、と自嘲するように短く息を吐くノンボーンに対して、甲冑の男は少し、愉快気に言う。

「ほう…………? 珍しいな、与えられた課題を全てそつなく…………。
それ以上に完璧にこなす君が、そのような事を言うなどとは…………」
「そんなもの………この世界にある知識、技術、それら全てに目を向け、
そして己の手の届くこと、解決策を考慮すれば……、誰にでも出来る事だ」

男はそれが、さも当然であること、誰にでもできることであるかのように、吐き出すように口に出す。
だが騎士は、その言葉に対して惜し気なき称賛の言葉を送った。

「それこそが…………誰にでも出来ぬ事だよ…………ノンボーン………。
卿は………きっと、この世界の………人類の生み出した物全てに………敬意を払っているのだろう………」
「───────ふん、戯言を………」

敬意だと? そんな言葉は最も俺から遠い言葉だ。と吐き出しかけ……ノンボーンは口を紡ぐ。
悩み、悩み、悩み続け、なおも答えは出ず、その鬱憤を晴らすかの如くに殺戮を続ける自分に、敬意だと?
ノンボーンは横に立つ騎士を心の奥底で嘲笑い…………それと同時に、興味を持った。
なぜならば、そのような発想自体が、彼の中には一切ない物であったからだ。

「しかしこの世界……不満あれど……、それを消す事には……能わない…………。
我々が……あるいは世界が…………、変わるしかない──────────────」

ノンボーンの持つ悩みに対し、その騎士もまた、どこか寂しげに呟いた。
この騎士もまた、永い付き合いになるが悩みを、あるいは苦悩を持っているのだろうか?
古典に語られる円卓の騎士たちのように、騎士とは華々しい英雄譚とは程遠い、人並みの悩みも持つ。
横に立つ男もまた、そういった歪みを抱えているのだろうか? とノンボーンは考えていた。

「…そうだな」
「……私としたことが……長く話してしまったな……
急ごう。此度のモレー殿の話は、かの冬木の事件の総括のようなもの……だそうだ」
「ほう、それはまた面白い話が聞けそうじゃないか」

ノンボーンはひとまず、探りを入れるように騎士の言葉に同調をした。
その言葉により男らは会話を終え、大講堂に入り、組織の中心たるジャック・ド=モレーの演説を聞いた。





『────────先の冠位議会の議題もまた……諸君らの耳に新しいだろう。
霊墓アルビオンの再開発……其処に或る、神秘の開拓。其れはまさしく、人類の栄光を切り拓くものである
そのような、新しい道が開いた矢先に、このような事件が起きたこと……想定できなかった件に関しては、慙愧の念に堪えない────────』

ジャック=ド・モレーの演説が続く。その中でノンボーンは、講堂に見知らぬ魔術師も多いと気づいた。
豪奢なドレス……蝶か、あるいは蛾を思わせるような意匠を彩ったもので身を包んだ女性が優雅に後方に座り、
そしてそこから少し離れた場所には、大仰な闘気を纏った老体が座っていた。その漏れ出る気配は、重ね続けた研鑽の年月を表しており、
そしてスーツの上からでも分かる膨れ上がった筋肉は、その老人がただの老人ではないと、ノンボーンも思い知らされた。

「(なるほど、此度の演説は……外部へのプロモーションの意味も兼ねているわけか)」

フリーメイソンとは、どのような組織で、どのような結果を生むのか。
それを外部へと知らせることが、此度のモレーの"外"への出現の意味であるとノンボーンは気づいた。
後から知った話だが、背後にいた老人はフリーメイソンを通じ日本で部隊を作り上げた実力者であり、
女は日本の魔術の家系の1つ、弦糸五十四家の分家の一人であるという。日本でも多くの魔術師がいる家系であり、
先に話題に上がったメイソンの支部の1つ、霊長総研の若きリーダーとも密約が交わされているとノンボーンは聞いていた。
どちらも、今話題の冬木のある日本にて、力を持つ魔術組織に他ならなかった。

否が応でも、これが外部へと向けた"プロモーション"だと思い知らされる。
目を凝らせば、他にも非常に肉体を鍛え上げたアスリートのような男や、非常に豪奢な杖を持った身なりの良いスーツ姿の男など、
金銭や人脈、そして力、多くの物を持つ存在が集まっていることが見て取れた。

そんな多くの種類の"極めたもの"たちが集まる様を見て、ノンボーンは思考する。

「(栄光、栄光と……耳に良き言葉ばかり……。
光による蛾のごとく、愚かしい人間どもは集められ、そして奴に利用されていく……
信仰という名前の下に人間を使いつぶす、聖堂教会の事を嗤えんな)」

男は冷めた思考で、紡がれてゆくモレーの演説を聞いていた。
だが彼自身もまた、その耳に甘き言葉に誘惑され蠱惑された存在に過ぎない。それに彼は気づいていない。
なぜならば、彼は生きる意味を失った……否、最初から生きる意味がない存在。故に男は、自分の居場所であり、
そして己の鬱憤を晴らせる、このフリーメイソンを居場所として選んだのだ。

だがそれも、答えがわからなければ意味はない。
彼は思う。俺はこのまま何もわからないままに死ぬのだろう。
それは良い。だが俺は、此処にいたという証をせめて、残したい、と────────
口に出さず、思考に形にもせず、ただ無意識に、男はそのようなことを考えていた。





「貴方が…………………噂に名高きDr.ノンボーンですかな………?」

演説後、騎士と別れたノンボーンに対し、一人の男が声をかけてきた。
その姿は老若の判別がつかず、影絵のように造形をはっきりと記憶できず、
ボロボロのローブを纏ったゆらめく影のような………捉え処のない男であった。

「────────────何者だ」
「これは失敬………同じフリーメイソンに生きる長寿の魔術師に会えた事に歓喜し、
うっかり我が名を伝える事を忘れてしまっていた………恐悦至極の限り…………」

男は大仰な、芝居がかった口調と身振り手振りを取りながらククと喉を鳴らす。
ノンボーンがそのわざとらしい仕草に眉を顰めているのを見て、男は己の名をノンボーンに告げた。

「私の名は、カール・エルンスト・クラフト。ナチス・ドイツを抜け出しここフリーメイソンの首魁、
ジャック・ド=モレー様に直々に拾われた魔術の異端児…………そして現代に転生せしノストラダムスにございます」
「ああ、貴様があの……。ふん、何の用だ? 貴様の胡散臭い予言話、この俺も噂程度ならば知っている」
「おおこれはこれは喜ばしい! 同じ不老長寿の魔術師にしてフリーメイソン特別課、
殺戮技巧部隊長たるノンボーン殿に知られているとは! 恐悦至極の限りにございます」
「御託は良い。何故、このタイミングでお前は俺に話しかける?」

ギロリ、とノンボーンはしびれを切らしたかのように怒りを眼光に込めて男を睨む。
通常、ノンボーンは幾つもの人格を相手によって切り替えて使う。それが世の中をうまくわたっていくコツであるからだ。
本性…………冷酷で残忍なその正体の性格を使う相手は、フリーメイソン内部でも何度か顔を合わせた相手か、あるいは─────
それを使う必要のない相手、即ち"時間の無駄"と判断した相手、であった。

「おっと、気を立たせたというのならば申し訳ありません……。
ただ私は、以前からこのフリーメイソンにてエリートコースを歩んでいたと噂される貴方様が、
何故中間管理職などに収まっておられるのかと気になっただけでございます。この冬木での一件、
あなたのような実力者ならば、いくらでも出世のチャンスは転がっていますでしょうに」
「別に。今の生活で満足しているのならば、それ以上を求める意味はない。それは無駄な行為だ。
現状を維持し続け、そして現状が崩れそうならば手を回す。それが、殺戮技巧部隊(オレたち)の仕事だ」
「ほう、貴方……今の現状に満足していると? その目で。その闘気で。その生き方で」
「──────全くもって、よく回る口だな」

そう吐き捨てるようにノンボーンは言うと、踵を返してその場から立ち去ろうとする。

「貴方………………ここから先に答えが転がっていたとしても、そうやって逃げるのですかな?」
「──────────────────ッ!!」

男がそう言うと、ノンボーンは男の首を万力の如き力を込めて絞め問う。

「貴様に何が分かる…………っ! 生まれからして人でないこの俺を……!
それとも何か……貴様ならば、貴様ならばこの俺の生に答えを見出せるとでもいうのか!」
「さぁどうでしょう?」

男は首を絞められていながら平然とし、白々しく言葉を返す。
うすら笑いを浮かべ、口端を不気味に吊り上げ、目を細めながら、
男は嘲るように、惑わすように、そして謡うように答える。

「貴方が答えを求める目をしていた故聞いたまで……、しかし私はあくまで道を指し示すノストラダムス、
始原と終着を照らすだけの水銀の神、メルクリウスではございませぬので…………」
「ふん、ユングの錬金術の比喩を用いるとはそこそこ教養があるようだな」
「ええ………、これでもかつては神童と呼ばれたもので」
「ちっ」

ノンボーンは投げ捨てるように男の首から手を放す。
男は乱暴に放られても、そのニタニタと不気味な笑みを崩すことなく言葉を続ける。

「ですが一つだけ答えを示しましょう………あなたの求める答えは"此処"にある。
だがそれが現れるのは遥か先だ………。それまでどうか折れないよう………」

そういうと男は、まるで煙か霧の如く霧散して消えていった。

『ではまた、近いうちに……………………』
「ふん、二度と会う事はないだろう」





『おい、聞いたか。とうとう人類英霊化計画の目途が立ったそうだ』

フリーメイソン本部(グランド・ロッジ)。また別所の廊下にて、白衣の研究員たちが話す。

『どういうことだ?』
『デムデム団、あるだろ? 今回の一件で協力を申しだされたらしい』
『何?という事は…………………』
『ああ。一〇〇年はかかるんじゃねぇかって心配していたけど、
これは俺たちが生きている間に、おそらくあと3,40年でフリーメイソンの本当の…………』
「その話を……………ぜひとも聞かせてもらいたい」
『なっ!?』

廊下で話をしている研究員たちの隣に、突然全身を機械のような礼装で覆ったような長身の男が現れる。
その姿は、一見するとゴーレムか人造人間のようにも見えるが、ただ近づいてみれば、その男は誰よりも"人間"であるとわかる、
そのような雰囲気をまとっている男であった。

「あぁ……驚かせてしまいましたか。……初めまして。
私は、モーチセン・デュヒータと言います。以後お見知り置きを」
『ああ…………あんたがこの前入ってすぐに実績を残し始めたと評判の』
『丁度いい、ここの魔術理論なんだが…どうにも手詰まりでな』
「ああ………そういった用途でしたらいい礼装があります。こちらも─────」

ガチャリ、とその身の一部を構成している礼装を、男が取り外し手渡す。
するとその時、その話をしている集団の背後を、黒き陽炎の如き人影が通りすがった。
先ほどノンボーンと接触をしたものと同じ、ゆらゆらと蠢く、判断のつかない影絵の如き男が、顕れる。

「おや………………これはこれはモーチセンさん。どうも」
「誰かと思いましたら副首領閣下のカール・クラフトさん。お久しぶりです」
「お覚え頂き、恐悦至極の限り…………」

男は二人、恭しく頭を深々と下げる。礼装の男も、影の男もまた、礼儀正しいようである。
そして先ほど礼装の男………モーチセンに教えを乞うていた二人は、受け取った礼装を見て興奮を隠しきれていなかった。

『おお…………これならいけるんじゃねぇの!?』
『ありがとうございますモーチセンさん!!』
「いえ、役立ってくれたのならば幸いです。また後日、その"計画"について教えていただければ」
『はい! 本当に……ありがとうございました!!』

そういって、二人の研究員は礼を言って走り去っていった。

「随分と…………慕われていらっしゃいますねぇ」
「いえ、それほどでもありません。私は皆さんに、微力ながらお力添えをしているまでです」
「それはそれは………立派な心掛け、その厚い人徳も頷けるわけだ………。おおその広き愛は、
全てを夜闇の前に包み込む、黄昏が如き所業だ。さすがはフリーメイソン、このような人徳者もまた呼び寄せるとは……」

男は大袈裟に身振り手振りをしながら、わざとらしい口調で褒め称える。
そんな男に対しても、モーチセンは感情を動かすことなく応対する。

「しかし、何故そこまで他人に力を貸すのです?」
「………………………そうですね、強いて言うのならば、"生きてほしい"のです」
「───────ほう、生きて…………………」

そう聞くと、男はニヤリと口端を釣り上げる。

「人は、選択をする生き物です。しかし死んでしまった場合は、その選択すらもできなくなってしまう」
「ええその通り…………人という物は実に脆い生き物…………心中はお察しいたしましょう」
「…ですがそれは即ち、いかなる場合でも「生」を選び続ければ、いつか人間は全ての難題を克服できるということです。
────────────少なくとも、私はそう信じています」
「それはそれは………………なるほど確かに、死を克服した人間は全てを可能とするでしょう………。
現に、人間を超え死を超越した死徒は非常に多彩な能力を持っている………」

そこまで言うと男はニヤリと笑い、モーチセンと呼ばれていた男に一つの提案をする。

「どうでしょう、ここはいっそのこと全人類を死徒にし、死を克服するという道は────」
「それが可能であるというのならば、ぜひとも道を示してもらいたい」
「───────────────(ほう、そう来ますか)」

男は小声でつぶやき、うんうんと何かを納得したかのようにうなずく。

「? なんでしょう」
「いえいえ、こちらも軽率な発言でした。
貴方の目指す世界に辿り着ける道のりが見つけられるよう、願っております」
「そうですね。確かに世界を変えるかの如き長い道のりですが、努力をしてみます」
「どうでしょう。これからモレー殿と上層部、外部の魔術師たちの社交界があります。
ゲンゾー……という外部の凄腕の料理人も来ていると聞きます。いかがですか? あなたも参加なされては」
「いえ、申し訳ありませんが遠慮させていただきます。この後に片付けるべきタスクが多く、
……それに、私のような者が社交界に現れては、外部の魔術師たちを驚かせてしまうでしょう」
「おお、これは不躾な招待でした。ではまたいずれ、機会があれば互いに親交を深めあいましょう」
「そうですね。貴方と話していると既知が深まる。またいずれ、お話ししたいものです。
──────────では、私はこれで」

そういってモーチセンは会釈を行うと、その場を去っていった。
一人残された影の如き男、カール・クラフトは、クックックと低く喉を鳴らし口端を吊り上げる。

「……なるほど、これは随分と動かすには手間がかかりそうだ。このフリーメイソン、"素質"あるものは多かれど、
されどやはり、上に立つは"あの"堕天使…………。やはり剪定の使徒として見出すは難しいか?」

顎を撫でながら、ふむ……と男は一息つき、思考を続ける。
そしてやがて、にたりと不気味に微笑んで一言呟く。

「ですが、動かすのが困難ならば"てこ"を使えばいいだけのこと。
"最も動かしやすい物"それがこの場での"梃子"だ。なれば私は、先人の偉大なりし智慧をここに示すとしましょう」

そういって、男は影のように地面へと溶け入った。
あとに残された物は、ただただ静寂であった。





「Dr.ノンボーン、以前の真造物質の剣に関しましてですが」
「おや………これはアークライト博士、お久しぶりです」

それから数日後の、フリーメイソン本部(グランドロッジ)にて、
ノンボーンは己の中にあるわだかまりと共に、今日もまた生きていた。
そんなある日、自分と同じ地位に位置し、そして全く別の分野を研究する男、
アークライト博士が彼のもとを訪れた。

「使い心地の方はどうだったでしょうか? また改良の目途が立ちましたので……」
「ええ、おかげさまで快調ですよ。そちらの真造物質研究には随分と助けられています。
これほどの技術、これほどの物の恩恵を、何も代償なく得れるなど、申し訳なくなるほどですね」
「魔術と科学の合成こそ私の主。このような研究の場を得れたことに感謝しています。ですから、その恩返しのようなものですよ」

二人はとりとめもない会話を続ける。
ノンボーンは対人交渉用の作った人格を表に出し、受け答えを続ける。
対してアークライト博士のほうはというと、非常にうれしそうであった。

「それは良かった。フリーメイソンという魔術の最大手に、
科学者が入ってどうなるかと思いましたが、どうやら杞憂のようで」
「そうですね………魔術では手詰まりだと考え科学の道に走る際、多くの人々から反論を受けました。
しかしジャック・ド=モレーは、そんな私を受け入れてくれた。非常に感謝しています」

フリーメイソンは、多くの魔術師だけでなく魔術研究家もまた幅広く"蒐集"している。
理由は不明だが、ノンボーンはジャック=ド・モレーと名乗る男が何かを企んでいる……と考えた。
そのため、このアークライトのように、本来ならば魔術の世界にも科学の世界にも居場所がないような天才を幅広く集めている。

「──────なるほど。フリーメイソンという居場所に、いる意味を持っているのですね」
「そういえば………あなたは何故、この組織に入ったのでしょう?」
「……………私は……………」

ノンボーンは言葉に詰まる。通常ならばとりとめもない世間話。
だが、人でなしたるノンボーンに、その答えを出す物がない。何故自分は生きているのか?
何故自分はこの場にいるのか? その答えを、彼は持たない。知るためにこの場に来たとしか言いようがない。

そう言い淀んでいたその時、そんな彼らの背後に影絵の如き男が忍び寄った。

「簡単なことでしょう………貴方は世界を変えるべくこの場所に来たのだから」

漆黒の影が人型を成し、老若男女の判断がつかないような混沌が、輪郭を持ち人格を持ち、一人の人間として再形成される。
その男は、かつてノンボーンに対して答えがあるなどと唆そうとして男、カール・クラフトその人であった。

「何者だ………!?」
「ふん……、懲りずに来たか三流詐欺師めが」

戸惑うアークライト博士をよそに、ノンボーンは纏っていた人格の仮面も忘れ、
吐き捨てるように、侮蔑するようにカールに対して侮辱を言い放った。

「これはこれは、驚かせたようで申し訳ない。
物質研究科のドクター・アークライトは、初めましてでしたね。
私の名は、カール・エルンスト・クラフト。フリーメイソンの副首領をやっております」
「ああ……貴方がかのナイト・モレーの右腕。お初にお目にかかります」

アークライトは丁寧に頭を下げ、そして手を差し出しカールと硬い握手を交わす。
その光景に対して、ノンボーンは心底嫌そうに眉をひそめていた。

「しかし……さてさて、これはこれは……魔術と科学の交差する第一人者、ウィリアム・N・アークライト氏に、
そしてフリーメイソンの邪魔となるものは須らく始末してきたあのDr.ノンボーンまでもが揃っている。
まったく……このフリーメイソンには愉快な人材に事欠かない。そうは思いませんか?」

カール・クラフトは、ころころとたまのように笑い、
そして流れるように、ノンボーンの方へと視線を移す。

「まるで、この俺がその筆頭のようだとでも言いたげだな?
勘違いするなよ詐欺師。俺はそう大した男じゃない。俺はただ、目の前に用意された事柄しか解決できない、小さい男だよ。
結果として、今の地位に立っているだけだ。俺はやりたいことなどないし、成したいこともない小さな存在だよ」
「そうして何も得ないまま、凡百のままに流れ去るのが望みだと? 嘘はよくない。貴方は誰よりも大きな"もの"を抱いている。
『かつてあったことは、これからもあり、かつて起こったことは、これからも起こる。 太陽の下、新しいものは何ひとつない』
凡俗を望むような人間など、この世にはどこにもいないのですよ。貴方も、私も────────────」
「長ったらしい能書きは聞き飽きたッ!! この俺の永き悩みに……怒りに答えを出すなどと戯言を長々と!」

ドンッ、とノンボーンが一喝する。
隣に立つノンボーンの見たことの無い口調、そして見たことの無い感情の高ぶりに、
アークライトは息をのみ言葉を忘れる。

「おやおや、これは歓迎されていないご様子。いかがなさいましたかなノンボーン殿」
「この俺が……世界を変えるためにフリーメイソンに入っただと? 巫山戯るのも大概にしろ!!」
「巫山戯ている気など毛頭もございませぬ。私はただ、この極視の千里眼にて見た未来を話すだけの事」
「ほう………………ならばその目で見た未来を今この場で詳細に語ってみるがいい!!」
「お、落ち着いて下さいノンボーン、どうなされたのです!?」

アークライトがノンボーンを抑えようとするが、ノンボーンはギロリとアークライトを睨む。
そのノンボーンの圧に、アークライトは言葉を失った。しかし構わず、カールは言葉を連ねる。

「ふっくっくっく………その様子だと探す答えはまだ見つかってはいないご様子。
さてはて一体捜し物とは何処に在るのやら……忘れることなかれ、灯台の下は常に漆黒であると」
「何が言いたい!! はぐらかして話を逸らそうとするんじゃない!! 答えとはなんだ? 俺が生きる意味とはなんだ!!」
「なんだ、などと何も…………この答えは、貴方が先ほど言ったではありませんか。"永き""怒り"と」
「何を────────────ッ?」

ノンボーンは疑問を叫ぼうとするも、男の笑みを見て一瞬口を閉ざす。

「貴方は素晴らしい。掛け値なしに素晴らしい。だが私から言わせてもらえば、力の入れ方を間違えている。
一体あなたは、その心の奥底からいつ本気を出したのか……。答えは簡単だ。貴方は自身に既に用意されている回答から逃げ続けてきたからだ。
故に私は言った。答えは此処に或る……と。そうだ。貴方の生きる意味とは、きっとその心の奥底から湧き上がる"怒り"に他ならなかったのだ。
悩むことはありませんDr.ノンボーン。道は既に示されたのです………」
「………戯言を……」

否定しようとノンボーンは言葉を探る。
だが、なんということか。"眼前の男を否定することができない"
自分が迷い続けていたが故に抱いていたと思っていた感情、怒り。
彼は確かに、"自分が疑問を抱く以前から、その感情を持っていた"と、思い出したのだ。

「俺が……怒り故に生き……怒り故に……迷い……怒り続けてきた……だと……!?」
「然り。然りですともDr.ノンボーン。貴方は怒りに支配されている。故に誰よりも怒りを御しきれる。
その手段を既にあなたは知っている。その手段にあなたは惹かれている。故にあなたは、ここまでたどり着いたのだから」
「…………フリーメイソン……人類の栄光の……再建……っ!!」

ギリィ……ッ、とノンボーンは自身の顔を片掌で覆い、力を籠める。
その指が顔面にめり込み、血が滴る。だがそれでも、男は思考を続ける。
"そうだ" "俺は確かに、人類の栄光をこの手で求めていた"と

「故にあなたは、何をその手でなしても達成感を得れなかった。そういう目をしていた。そういう生を送ってきた。
其れ故に、貴方はメイソンの名のもとに殺戮という忘却にその身を投じていた。違いますかな?」
「減らない口だな……三流詐欺師……っ!」

ギロリ、とノンボーンは鋭い眼光でカールをにらみつける。
そしてガシリとその首元をつかみ、その鋭い眼光で突き刺したままに、問いを1つ投げかけた。

「そのよく回る口で答えてみろ……ならば俺が抱く怒りの対象とはなんだ?
俺が目指す栄光とはなんだ!? 答えろ!! 答えてみろ詐欺師ィ!!」
「────────簡単なことですよ、生まれざる者、Dr.ノンボーン」

首が締まりながらも余裕を崩さないその男は、
一つの映像記録媒体を懐から取り出した。

「あなたの怒りは、殺せど殺せど満足ができない。尽きることもまた無い。
ならば答えは簡単だ。貴方の怒りの矛先、それは過去に或る遺物に他ならないだろう」

そう言ってカールは指を鳴らす。
するとどういった理屈か、あるいは魔術か。その記録媒体に記録されていた映像が、
宙に浮かぶホログラム映像のように再生され始めた。

「……これは…………!」

アークライトが息をのむ。それは日本のある土地、冬木にて撮影された映像であった。
遠目からの空撮、映像の解像度は低く、加えて高密度の魔力故に映像の乱れも強い。
されど、その映像が何を撮影したものなのかは、メイソンにて地位を持つ彼らには一目瞭然であった

「──────境界(ゴースト)……」
「…………記録帯(ライナー)…………!!」
「そう……境界記録帯、ゴーストライナー。この場合では"サーヴァント"などとも呼ばれている、人理の英雄を使い魔にしたものです。
素晴らしい動きでしょう。素晴らしい成果でしょう! ゾォルゲンの翁もよくやってくれた! これほどの存在、人が使い果たすには惜しいものだ!」
「だが、これと、今の話と、何の関係がある?」
「簡単なことですよ」

男は笑いながら、謡うように、その真実を声高く告げる。

「貴方の怒りとは、即ち英霊に向けるものだ。"過去に築かれた栄光"に向けられたものだ!
そしてあなたが求めるもの、それはまさしく"過去の栄光の破壊"、そして"その先に新たに作られる栄光を作り出すこと"に他ならない!!」
「──────────────────ほう…………っ!」

今まで激昂していた、怒りに支配されていたノンボーンが、カールの襟から手を放す。
そして、男は、常に眉間に皺を寄せていた男が、初めて、"笑った"のだ。

「貴方は人類の持つ栄光を、地位を、技術を、積み重ねてきたもの全てを愛している。
しかしそれと同時に、貴方は過去に築かれたものを、憎んでいる。ゆえにあなたは、怒り続けているのですよ」
「……でたらめだ。そのような誇大妄想を、一体いつまで続ける気ですか?カール・クラフト」
「貴方もですよウィリアム・N・アークライト。貴方もまた、新世界を望む一人の使徒なのだから」
「…………? いったい、何を」

くるり、とカールは今度はアークライトの方を向き、そして言葉を続ける。

「貴方は科学により根源を目指しているそうですね。聞き及んでいますよ。
だが、その反面であなたはこうも考えているのではありませんか? "魔術で根源などくだらない"
"神秘など、もはやこの世界にあってないようなもの" "魔術など、この世から消えてしまえばいいのに"と!」
「…………そのような……」
「話は終わっていないぞ詐欺師」

ギンッ! と、剥き身の刃が如き視線がカールを突き刺す。
もはや質量すら持っているのではと錯覚させるほどの"それ"を受け、カールはその視線の主、
ノンボーンの方向を向きなおす。

「俺が栄光を愛するといったな? されど過去に積み上げられた栄光は、英霊は全て憎むといったな?
何故、そのようなことをする? 何故愛するものを、俺は壊そうとしているんだ? 憎んでいるんだ?
応えて見せろよ三流詐欺師ィ!!」

男は笑っていた。男は楽しんでいた。男は愉悦におぼれていた。
それは例えるのならば、いやまさしく、長年迷い続けた疑問の答えが明かされそうとなっている、
その瞬間が今訪れようとしているその時を、楽しんでいるかのようであった。
その愉悦に、応えるようにカールは答える。

「親愛と憎悪、憎むことと愛することが別物であると誰が決めたのでしょう?
王たる父を愛した不義の息子がブリテンを滅ぼし、最古の王を愛した女神が天の牡牛を放ったように、
憎しみと愛とは古来より表裏一体な存在なのですよ。貴方はそれが、誰よりも深く、故に気づきにくかっただけだ……」

ノンボーンは思う。なるほど"その発想はなかった"と。
男はその生で初めて、"楽しさ"というものを今この瞬間感じていた。
ならば、それに応えてやらねばなるまい、と男はにやりと笑った。

「……行きましょうDr.ノンボーン。彼は危険だ……。
このままでは我々は、この男の口車に載せられ何か良からぬことを……」
「───────────────ククッ………!」

ノンボーンは濁流の如く突き付けられた事実を脳内で反芻する。
そしてそのうちに、まるで何か糸が切れたかの如く、ナニカに気づく。
その途端、ノンボーンは今まで抱えていたわだかまりのような何かがスゥーと己の内から引いていくのを感じた。

「ククククッ! ハハ!! ハーッハッハッハッハッハッハっ!!!!」
「ど……ドクター? 気を確かに!!」
「そうか……! そうだったわけか……! ようやく……すべてを理解したよ………!
なるほど……ククッ。なるほどなぁ。"そういう捉え方もあるわけか"。思い知ったよ」

その様をみて、カールはにやりと口端を釣り上げた
全てが思い通り、全てが既知のままに進んでいるとでも言いたげに
────────────────しかし

「ようやく理解なされましたか……。嗚呼、ようやく答えにたどり着きましたか。
では早速昇級手続きを行いましょう。モレー様も貴方が上層部へとたどり着くことを心待ちにして────────」
「いや───────違う。その必要は存在しない」
「────────何?」

ノンボーンはニィ、と目を細めて笑う。

「俺は理解したとは言った。だがな、"貴様が言った事が正しいと言った覚えはない"」
「一体───────、何を………………?」
「貴様は言っただろう、憎悪と親愛は矛盾しないと。ああ、そうだ……。
俺は確かに人類の発展を望んでいたし、そして同時に壊したいと思っていた………!」

ノンボーンは狂気とも思えるような笑みを浮かべながら言う。

「過去を憎み、そして同時に今を尊ぶ……。その矛盾に!
今俺は気づいた!! 貴様が気づかせたのだ!!」

そう……ノンボーンは確かに、己の内に矛盾を抱えている自覚があった。
しかしそれに目を背け続け、そして怒りに支配され、永劫を生き続けてきた。
故に男は"怒りのために生きてきた"ともいえよう。だがしかしその本質は違う。
カールが突いた"憎悪"という真実を聞き、それが今までの彼の辿ってきた生に、
否、正確には"あの首を落とされたあの日からの"生に当てはめると、すべてがつながると今彼は気付いたのだ。

「何………………!?そ……それは…………!」
「貴様の事だ、口車にこの俺を載せて神輿にでもしようと企んだのだろう
だが残念だったな、貴様のおかげで俺は一つの真実に辿り着いた………!!
だが答えではない。俺の求めていたものでは、無いかもしれない。ゆえに俺は、俺のやり方で答えを探し続けよう。」
「─────だ、だが……フリーメイソンの一員たる貴方が……トップたるモレー様の意志に反するなど──」
「それの何が悪いというのだ?」
「何を──────ッ!?」

ノンボーンはうっすらと笑みを浮かべたまま、肩を震わせ言葉を続ける。
カールは対照的に目を見開き、そして初めて、"想定外である"とでも言いたげな表情をして壁に背を付けた。
まるで、地を掘り返したら竜が出現した騎士のように、あるいは持つ者に不幸をもたらす黄金を得たと知った王のように

「俺は俺の望みを、願いを叶えるべく新組織を作り上げる……。
フリーメイソンの掲げる理想は、俺の望む世界とは水が合わない。
既存体系の書き換わった、常識を超えた新世界こそが………。それこそが、俺の真に求める物だ」

ゆらり………とノンボーンは歩み始める。

「フリーメイソンに代わりし新組織………メイソン内外問わず、力ある物の集いし漆黒の円卓。
そのメンバーを、この俺が集めるとしよう……。新世界を求める"逸材"を」
「────────お…………おやおや円卓と来ましたか…………、
となると……さしずめ私はマーリンとでもいいましょうか」
「うぬぼれるな三流詐欺師」

予想以上の存在を引き出した……とでもいうように慄いていたカールであったが、
いつもの調子を取り戻したかのように口端を吊り上げながら笑う。
そんなカールに、ギロリとノンボーンは視線を突き刺した。

「貴様の言葉は確かに役に立った。だがしかし信用したわけではない。
それが真実だという確証は何処にもない。俺は貴様の力など……何も借りない。そこを承知するんだな………!」
「…………承知しました。では私は………いずれもう一度、貴方の前に顕れると誓いましょう」

そういうと男は、まるで周囲の空間に溶けてゆくかのように消えていった。

「………………ようやく、生まれ出ずるときが来た……ということか」
「……本気、だということですか。Dr.ノンボーン」

誰に言うまでもなく、男は呟き、そして不敵な笑みのままに、どこかへと去っていった。
それに追従する形で、アークライトもまた、何処かへと姿を消していった。





───────告げる 


我らが身は 新世界の下に
汝らが道は 十三の導きの下に


『貴方が本気だというのならば、私も付き合いましょう。本音を言うのならば……
ええ、私もまた、科学で世界を幸せにしたい。そう……願っていましたからね』

『ほう、この俺に目をつけるとは。面白い。俺は俺のやり方が通じる世界を見たかったところだ。
この黒包丁が、存分に唸りをあげる新世界を…………』

『面白い! 新世界か! ならば我らも浮かばれるというもの!!
鍛え上げ続ける世界、誰もがマッスルな世界を、その目に見せつけてやろうじゃないか!』


生まれざる者の寄る辺に従い
この意、この理を敷こうと言うのならば応えよ


『ほう、そのような計画を立てているとは、話さないミスター・モレーも人が悪い……。
そちらの方が、私にとっても好みです。よろしい。一つあなた方に、投資させていただいても構いませんかな?』

『この僕に……フリーメイソンの刺客が……誘致を?
…………何を企んでいるかは知らないが、乗ってやる……。
その手で悪が為されないか、その手で危険が為されないか、この目で見届けるために…』

『この私に声をかけた事、それは非常に正しい判断ですわ。ええ。
この私が望む、全てが私に跪く世界……必ずや、実現して見せましょう』


誓いを此処に
我ら常世全ての善を嗤うもの
我ら常世全ての悪と成るもの


『…………なるほど、そのようなことが。
ならば、私も賛同しましょう。死の無い世界、あきらめざるを得ない世界を、なくすために』

『良いだろう。この世界には既に飽いていたところだ。研鑽し続ける世界。
それをこの手で築けるというのならば、拙者(ワシ)は喜んで手を貸すと誓おう』

『卿が自ら…………動き出すとは……珍しい…………。手を…………貸そう…………』


今誓いは成された 永劫の新世界とは如何(なに)か?
新世界とは、永遠の秩序である 永劫の楽園である その剪定(はじまり)の使徒がいま此処に集う


『絶対の平等、永遠の安寧。それを成せるのならば、私はこの身、この魂。その全てを捧げましょう』

『随分と、面白い事しているじゃないっすか。僕も混ぜてくださいよせんぱーい!
ん? 末席で構わないっすよ! だって自分が、この中だと一番メイソンで後輩ですし!』


謡え声高く、"役者は要なくなった(Acta est fabula)"。
英霊も、人も、全て、総て、凡て、既存体系はもはや意味をなさない。

其はだれも届かぬ至高の領域

言祝げ、我らこそ新世界 我らこそ新秩序

我らこそ、新世界秩序同盟、O-13なり。

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