最終更新:ID:aqftE1/n3g 2019年09月08日(日) 22:20:38履歴
海が荒れている。
大質量の衝突がモザイク市の基礎構造を揺るがし、その振動が既に海となった場所を震わせ続けている。
波は洋上の巨船に打ち付け、霧散する。その船の上では、
海だけでなく、船上の全ての人間が揺れていた。
彼らはレジスタンス。
統合国家「日本」の体制に反発する、旧モザイク市体制の一派。
彼らは数時間前に日本の本拠地「国会」を襲撃。
今頃の時刻には総裁の首級を取り、かつての都市の在り方を取り戻す。
はずだった。
「最大速力!優先して「天王寺」から離れてください!」
「損害状況知らせ!」
「回収できた戦力はまだ把握できておりません!救助を優先したため装備を捨てたものも……」
「船体はまだ保ちます!」
「着弾影響により付近に電波障害発生!レーダー感度が低下しています!!」
「アンノウン捕捉!!機動より敵艦隊と推定!クソッ、追撃まで来やがった!!」
「対艦戦闘用意!照準は構いませんので主砲を開いてください!!」
今や、彼らは敗走した軍として混乱の極みにある。
誰もが信じたくない、最悪の結果を突きつけられ、レジスタンス達が揺れている。
その様を一人の人物は―――唯一の部外者である、カルデアのマスターは、呆然と見つめていた。
第七章 届かないソラ
レジスタンス 海中移動拠点 司令室
レジスタンスのリーダー、アルス=XXXlと、今回の作戦で救出された参謀の月島イブキは拠点の司令室に戻り、現状の打開を迫られていた。
残存する戦力を投入した最後の賭けは、レジスタンスの敗北で終わった。
「国会」襲撃作戦の要となったのは、懐に飛び込む強襲によって「星」の大規模攻撃を封じることにあった。
その中で介入した「星」が見せたのは、一つの星を複数に空中分解させ、散弾として放つ。これまでに見られなかった攻撃パターン。
それは散弾と言うにはあまりに正確無比であり、襲撃部隊の主戦力であった貴重な兵士、サーヴァント達は壊滅。
瞬く間に致命的な損失を被り、敗走するレジスタンスを「日本」の部隊が追撃する。
上空の「星」と迫りくる部隊。いずれに対しても最早有効な手立てがない。
望みがあるとすれば。
「残響時間、そちらの準備は?」
アルスの呼びかけに対して、通信ウインドウが開く。
『残念だけど、十分には程遠いわ。以前言ったとおりにね』
「構わぬ、今可能な段階で時間遡行を試みてくれ」
『気軽に言ってくれるわね……』
突貫の作業を続けていたのだろう。少なからぬ疲れの色を見せる残響時間が顔をしかめる。
【時間遡行は中止になったんじゃ……】
『確実なモノが確保できなかったから、今回の作戦と二段構えにしたのよ。失敗した時のサブプランとして』
『安全性その他諸々かなり端折ってるから賭けとしては更に分が悪いけど、まだベットできるだけマシでしょう?』
「準備にはどれほどの魔力を?」
横から顔を覗かせたイブキが質問する。
『今動かしてる機関部、その出力を全部こちらに回して頂戴。理論上はそれで拠点ごと動かせるはず』
「無茶言わんでください!こんなとこで突っ立ってたら一発で「星」に狙い撃ちにされやすぜ!」
レジスタンス兵の一人が残響時間の要求に反発する。
今も「星」が拠点を狙っている以上、足を止めてしまうことは自殺行為に等しい。
そればかりか、機関出力を全て提供しては兵装の稼働もできない。今近づく艦艇群に対しても文字通り手も足も出なくなってしまう。
「わかりました、機関最大出力。しかし駆動部と主兵装への供給は遮断してください」
「イブキさん!?」
「艦隊を退けたとて、既に戦力は壊滅状態です。勝機の色があるとすれば、それは過去に遡って拾い集めていくものに他ありません」
紛れもない事実である。
仮に「星」からも艦隊からも逃げ切れたとして、それだけの奇跡をもってしても活動継続は不可能。そう断定できるほどに彼らの内情は窮していた。
せめて、あと少しの物資を、仲間を、時間を。
それを確保しない限り、「日本」からの都市の開放は叶わない。
今、最優先で行うべきことは、一か八かの時間遡行に全てを託し、それを守り切ることに他ならなかった。
「これより、レジスタンスは「星」の攻撃に対する迎撃を展開する。可能な限り拠点への被害を防ぐゆえ、そなたは拠点を過去に送る準備ができた時点で即座に実行に移してくれ」
『迎撃って……一つや二つを撃ち落としても、向こうがさっきみたいに拡散弾を使ってきたらお終いじゃないの?』
「大丈夫だ、余に考えがある」
『……そう、だったら任せるわ』
一瞬、不可解な表情を浮かべる。
その後すぐに、普段通りの調子で残響時間が立香に顔を向けた。
『カルデアのマスター、あなたはこっちに来てちょうだい。手伝ってほしいことがあるの』
思いがけない要求に、はっとアルスの方へ顔を向ける。
「うむ。急いでくれ、立香。我々も準備を進めておく」
そう、全員が頑張っているこの時に、自分だけ突っ立っているわけにはいかない。
アルスの返答に頷き、残響時間がいるという機関部へ向けてエレベーターを走らせた。
「……では」
アルスが振り向く、そこに立つのは、彼のサーヴァントであるランサー、パーシヴァル。
口を一文字に閉じ、眼を陰らせたその表情は敗走の苦渋からか。
あるいは。
「パーシヴァル、頼んだぞ」
「―――――――――」
「……はい、我が主」
【残響時間さん、準備は!?】
「今やってるところよ」
残響時間の声。
そこには彼女と、何か巨大な機械のようなものが見えた。
それは純白の立方体を取り囲むようにして並び、伸びた配線は艦の動力と思しき装置と接続されているようだった。
「さっき回された艦の電力を変換して、魔力はなんとか確保できそうね、基礎理論もようやく完成したわ」
「これが試作型のアンカー、時間錨よ。これを使って、私達の情報を保持して時間遡行を行う」
「……でも、実践段階に移すにはまだ致命的にデータが足りない。もう少しだけ時間があれば……!」
隠すこともなく、後わずかに完成度が足りない時間錨に歯噛みした。
「とにかく、この拠点をいつかの過去に飛ばす。それさえも失敗するかもしれない。現状はここまでが限界ね」
「それでも、艦を止めたってことは、やるんでしょうけど」
【自分にできることは?】
「そこの装置の前に立っててくれる?あなたがこちらの世界に迷い込んだ瞬間、それをマーカーにして暫定的に座標を仮定する」
「賭けに勝てば、勢い余って2000年前まで吹き飛ぶことは無いはずよ。あなたの勝負運に期待してるわ」
「……迎撃がいつまで保つかはわからない。急ぎましょう」
―――時は来た。
アルスとパーシヴァルが甲板に立つ。
互いに言葉はない。
頭上の一点に狙いをつけて、しばらくの後、同時に唱えた。
「拘束、開放―――」
パーシヴァルの槍、騎士王より賜った白亜の槍が、紅の拘束を解いていく。
本来の姿を取り戻した、最果ての輝きが一層と強く溢れ出した。
そして―――
これまで、「星」を狙撃する試みは幾度となく行われ―――その全てが失敗した。
「星」の高度まで届く射程をもってしても、到達する威力は霧散してしまう。
それこそが「星」の特異性、地上に在る存在の干渉を否定するもの。
アルスの左腕から、何かが突き出た。
黒の牙。
彼自身の血に濡れた、禍々しいその形状は―――しかし、パーシヴァルの槍に施された拘束と酷似している。
その牙の一本を。自らの胸に突き立てる。
「―――ぐっ……!!」
迸る血。
そして、迸る―――闇。
それでも、可能性はあった。
地上からの攻撃が届かないのならば、こちらの高度を上げていけば。
接近戦なら、勝機はあるのではないかと。
そうでなければ、何らかの方法で「星」を空高くに配置した理由がない。
故に、空の飛び方を喪ったこの世界であれば、奴は無敵であり続ける。
そう、飛べないのならば―――
闇、あるいは黒い炎と形容すべき何かがアルスの体を覆い尽くす。
彼の中に眠る「もう一つ」の槍。
それが誘うは輝ける王に非ず。
嘆きに果て、血に汚れ、闇に落ちた。
絶なる黒。抹消された王のカタチ。
銀の髪。
金の瞳。
黒の鎧。
そして、影の槍を手に、王は現れる。
―――自ら宝具の威力を受け止め、その反動で宇宙まで飛翔する。
翼がないのならば、砲弾となって空を往こう。
その末路に、何が待とうとも。
後悔はない。
多くを喪った。守るべきものを、救うべきものを。余りにも多くのものが零れ落ちた。
ならば、王だけが残る意味はない。最後に残されたもののために、煤けた王冠をここに返還する。
―――すまぬな、パーシヴァル。余は、そなたを悲しませぬ王にはなれなかった。
後ろに立つ騎士の表情に、もう振り返らない。
影の槍は時空を裂く。
それは宝具の輝きから推力を取り出し、宇宙空間であっても自らを守る空間の断層を形作る。
最も、全ては体内の聖杯が保つ僅かな間。
構うことはない。
ただ、あの「星」を撃ち落とすまで保てばいい。
その先は、彼らが希望を繋いでくれる。
【―――皆、無事でいて!!】
さらばだ、立香。
「―――今だ!撃て!パーシヴァル!!」
「―――――――――!!!」
「『有り得ざる白亜に輝く槍』!!!」
そして、白亜の光柱が放たれた。
甲板から垂直に放たれたそれは、
まっすぐと、「星」を目指す。
飛んでいく。
遥かな彼方、青空を突き抜けた星の海まで。
影に包まれたアルスの姿は、さながら黒い鳥のように。
その瞳が、何かを捉えた。
人。
半透明な装甲を纏った、無機質なヒトガタ。
いくつかの煌めく点に囲まれたそれは、黄金の剣と思しき武装を携えている。
貴様か。
ようやく辿り着いた。
貴様が、余の仲間たちを。
影が空間を裂き、距離を詰めていく。
高度270km。
この世界で、最も高い場所での決闘が始まった。
TERMINAL PHASE
最終決戦クエスト「Black Bird」
サポートサーヴァント
ランサー:アルス/XXXILv80
※霊衣「絶なる黒」装備
※サポートのみ出撃可能
※マスタースキル使用不可
◆戦闘開始
FINAL WAVE セイバー:「星」
HP40000ゲージ2段階
ゲージ1段階ブレイクまたはアルスのHP0で戦闘終了。
光の線が、空を引っ掻いて消えていく。
やがていくつかに霧散したそれを、海上のレジスタンス達は「星」と確信した。
喝采に湧き、しかし未だ迫る艦隊への対処に追われる兵士達。
彼らを余所に、同じく流星を見上げていたイブキが、ゆっくりと口を開いた。
「……あれは……」
「はい」
「アルスくんです」
返答をしたのは、パーシヴァル。
彼女の声に、感情は伴っていない。包む空気も、表情も、何も見えない。
いや。
イブキが眼を瞑る。
見たくはない、その色は。
それ故にか。
彼が眼を開いたのは、兵士の反応が聴こえた後だった。
「――――――星が来る!!」
最後に、もう一撃が残っていた。
消滅したはずの「星」が、自らを破壊した脅威に向けて報復を放つ。
咄嗟に見上げると、光柱がすぐ頭上にまで迫っていた。
「……起動するわ!何かしらのショックが来るから捕まってなさい!!」
直後、機関部から、艦内から。
彼らの拠点を、異質な光が包み込んだ。
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