ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

 空白があった。
 否、それは空白ですらなく。
 見渡す限りの、無色。
 あらゆる色を剥奪された、無味の世界。
 あらゆる彩を失った、虚無の世界。
 その意味を知ったのは。知ってしまったのは、いったいいつのことだったのか。
 最早記憶を汲み上げる事すら叶わぬほどに、自我は混濁の中にある。
 刻まれ、継がれ、弄くられて、弄ばれる。そんな日々すらも、もうずっと遠くにある気がした。
 肉体と精神、元のカタチを忘れたのはどちらが先だったのか。
 わからない。ワカラナイ。
 一刻前の思考が溶けていく。
 怒りはない。悲しみはない。憎しみはない。
 けれど、ああ。
 ひとつだけ、残っているものがあった。
 そうだ。これは。これは、きっと―――




「―――ぅ、あ……」
 呻きが漏れる。やたらに重い瞼を、無理矢理にこじ開ける。
 薄明かりに照らされた、天井。
「…………」
 私は脱力したまま、動けないでいる。
 思考はあちらこちらに巡るけれど、どこにも辿り着かない右往左往。
 けれど。記憶・・だけはハッキリしている。
「ますたー、大丈夫?」
 横合いから声をかけられ、首だけでそちらを向く。
「……サモナー」
 サモナー。その呼び名を持つ少女は、私の横たわるベッドの縁に手をかけて、しゃがみ込むような姿勢で、こちらを心配そうに眺めている。
 ……心配そうに?
 思考に引っ掛かりを覚えながら、身を起こす。
 胸の辺りに手を当てて、自分の身体を確かめる。骨と皮ばかりの色気も面白みも無い身体は、確かにここに存在している。
「私は……生きている、んですか」
「いきてる……?いきてる。……うん。よしのは、生きてるよ」
 それが問いかけなのか独り言なのか、己でも分からぬまま発せられた言葉に、サモナーが律儀に返事をする。
 確かに私は生きている。肉体も意識もここに存在している。これが死に際に見ている夢幻で無いのならば。或いは、あの死の光景こそが夢だった?それは余りにも突拍子が無いか。
「……あなたが、何かしたんですか。サモナー」
 この質問には、先のような明瞭な返事はなかった。サモナーはしゃがみ込んだまま、首を傾げてこちらを見上げている。
 サモナーが何かを起こした訳ではない?否、そうは言い切れない。彼女のこれまでの振る舞いを考えれば、無自覚に己の能力を行使した、なんてことも有り得ない話ではない。……と、思う。
「生き返り。黄泉返り。そういった類の宝具が、あなたにはあるのですか」
 ―――宝具ノウブル・ファンタズム
サーヴァントが有する超常の神秘の中でも、切り札に位置するもの。或いはそれならば、このような異常すらも成し得るのではないか。
「んーと、ね」
 返答を期待した問い掛けでは無かったのだが、サモナーは何か言葉を探すように口を動かした。
「よしのは、もどってきたんだよ。さもなーといっしょに、さいしょにもどったの」
「……?それは……どういう意味ですか」
「んー?」
 また、首を傾げる。その先に言葉を継ぐことも無い。これ以上、説明を求める事は出来そうに無かった。
「…………」
 戻った。戻ってきた。……この部屋に?
 否、そうでは無いはずだ。
「……それは、」
 最初に戻った。それはつまり。
「時間を、巻き戻した?」
 そういうことに、なるのか。
 最初、と言う言葉は判然としないが、恐らくは先に目覚め、部屋を経った時と同じ時間?その時間に、戻ってきた・・・・・と。
 何れにせよ、全てが夢だと言うよりも突拍子が無い。信じがたい話だ。けれど、それを言うならば死者の蘇生こそがそもそも突拍子も無い話だ。それに無理矢理に理屈をつけようとしたのは、先の自分だったではないか。
 ならば、受け入れざるを得ない。理屈と道理を無視してでも、今は話を前に進めるしかない。
「一つだけ聞かせてください。この……あなたの言うところの、戻ってくる事に、何らかの制限はあるのですか。例えばこの一回きりであるとか、そうでなくとも限界があると言うような」
「んーん。だいじょうぶ!なんかいだってもどってこれるよ!だからよしのは、大丈夫!」
 その言葉をどこまで信用していいものか。今の私には分からない。
 けれど、これまでのサモナーの様子を見る限り、彼女は自分なりに確信を持ったことだけを口にしているように思える。
 ならば、今はその言葉を信じる以外に無いのかも知れない。
「……わかりました。納得は、まだ出来ないけれど」
 サモナーはまた黙って、ぼやけた表情のままこちらの言葉を聞いている。
「これ以上の説明は求めません。きっと、無駄でしょうし。けれど、このチカラ能力は……破格、と言ってもいい。この力があれば、戦いを相当優位に進める事が出来る筈です」
 無論、頼りきりになる事は出来ない。
 まだ得体のしれない力だ。サモナー自身も知らないような、何かのリスクや制約があるのかも知れない。
 しかしそれを差し引いて、先にサモナーが見せた頼りない戦闘力を考慮したとしても、余りある程に強力な能力だろう。反則、と言ってもいい。
「あなたの特性は分かりました。その能力と引き換えならば、戦闘力に欠けるのも、拙い振る舞いにも納得がいきます。つまり……相手のサーヴァントとは、私が戦えばいい」
 自分でも馬鹿げた事を言っていると思う。先の不甲斐ない敗戦を経験しておきながら口にする事か、とも。
 けれど、その経験を経てなお、私は生きている。やり直しが効く。
 そして、やり直しが効くのならば、私にはサーヴァントが相手であろうと一矢を報いる為の武器がある。
「さもなーが戦うよ!」
「いえ、結構です。あなたの戦いぶりは、もう見せてもらいましたから」
「……むー」
 サモナーが唇を尖らせる。なんというか、妙に可愛げのある仕草だった。
「ともかく。また、街に出ます。くれぐれも勝手な行動は謹んで下さい」
「うん!」
 頷き、立ち上がる姿を眺めてから自分もベッドから出て立ち上がる。
 出発の準備の為に部屋を出ようとして、はたと足を止める。
「……ありがとうございました」
「……?」
 私の言葉の意味が分からないと言う風に、サモナーは首を傾げる。
「どんな状況にせよ、どんな方法にせよ……私は、あなたに命を救われた。だったら、せめて相応の礼を口にすべきだと……そうすることが正しいと、そう思っただけです」
 その先は、サモナーの反応を待たずに部屋を出た。
 さあ。聖杯戦争を続けよう。



 矢を放つ。駆ける。矢を放つ。
 狙いをつける間も惜しい。けれど、敵の数が多いことが逆に幸いした。今は、細かな狙いは不要だ。
 放たれた矢が、複数の像を伴って怪物・・の群れへと向かう。
 それは、数多の可能性の姿。並行する世界に存在する、放たれた矢の持つ可能性。分枝掌握パラダイム・グラヴ。己の認識を以て、分かたれた枝を掴み取る大魔術。その、部分的再現。
 果たして数多の像は一つに集約し、そして、重なり合う事なく、消滅した・・・・・・・・・・・・・・
「―――対消滅アナイアレイション
 それは、本来存在しない数多の可能性を両立させた代償。可能性は諸共に消滅し、そして失われた空間を埋めるように生じた歪みが、破壊を齎す。
「――――――!!」
 不快な鳴き声と共に、怪物の身体は破壊に呑み込まれる。
 どうやら私の持つ武器は、この正体不明の敵に対しても有効であるらしい。
 それはとにかく「怪物」としか形容し難い存在だった。
 人のようであるし、獣のようでもある。
 パレットに幾つも絵の具を垂らしたような、極彩色の斑模様。
「―――、―――――!!」
 破壊を免れた一体が、こちらに掛かって来る。
 魔力を全身に奔らせる。肉体が限界を越えて駆動する。
 向かってくる怪物から遠ざかるように、地を蹴り思い切り真後ろへと跳ぶ。
 そしてまた、矢を放つ。
 頭、らしき部位を貫いたせいだろうか。今度は、鳴き声は無かった。
「フッ……」
 小さく呼吸して、息を整える。
「……なんとかなった、みたいですね」
 少なくとも目に見える範囲には、もう敵は居ない。僅かに気を緩める。
「よしのすごい!」
「いえ、別に」
 どうにか数体の怪物を倒し終えたらしく嬉しそうに駆け寄ってくるサモナーに、目を向けないまま声を返す。
 この怪物が一体何だったのか。彼女に聞いたところで答えは期待できないだろう。
 他のサーヴァント持つ何らかの力か、或いはマスターである魔術師の使い魔か。何れにせよ、これが敵の仕業であるならば、そいつはまともな相手とは思えない。
 神秘の秘匿などまるで気にしていないような、周囲の目を無視したやり口。街にまるで人気が無かったから良いものを。
「他の人なんて居ない」
 サモナーの言葉を思い出す。
 そう、依然として、街に人の姿は見えない。
 消えた人。正体不明の怪物の群れ。或いは、これらは繋がっているのか。
「……これ以上は、考えても無駄ですね」
 答えの出ない状況に居心地の悪さを感じるが、現状では余りにも答えを出すための材料が不足している。
 けれど、悪いことばかりではない。
 本格的に会敵する前にこの怪物達との戦闘を経験できた事は、無駄ではなかった。
 今の私には、実力だけでなく経験もまるで足りていない。ここで自分の手札がどれだけ通用するのか確かめられた事には、大きな意義がある筈だ。
 とは言えこの程度で増長する事は勿論出来ない。
 先に一目見たサーヴァントの動きは、この怪物達とは比にならないものだった。それを相手にしようとするならば、もっと―――
「よしのー?どうしたのー?」
「……いえ」
 気の抜ける声で我に返る。
 思考に気を取られすぎていたらしい。これは悪い傾向だ。修整しなければ。
「……それにしても。あなた、少し変わりましたね」
 そんな戯言が漏れたのは、虚を突かれたせいだろうか。
 けれど、ずっと思っていたことだった。
「んー?」
 まだそれほどの時間を過ごした訳ではないけれど。なんというか、初めて会った時よりも感情の振れ幅が大きくなった、そんな風に感じる。
「さもなーには、わかんない」
 元よりまともな答えを期待したわけでは無かった。けれど、その返答をする姿すらどこか申し訳なさそうで、そんな部分にも彼女の変化を感じてしまう。
「気にしないで下さい。私がおかしなことを言いました」
 そう言って話を打ち切ろうとしてから、気付く。
「こんな無駄話よりも、聞くべきことがあるのを思い出しました」
「きくべき?なにを?」
「あなたの名前……真名です」
 前回の接敵の際に会話が打ち切られ有耶無耶になっていた、サモナーと言うこのサーヴァントが如何なる存在であるか、と言う話。
「さもなーは、さもなーだよ?」
「それはサーヴァントとしてのクラスの名前でしょう。そうでは無く、あなたが生前に呼ばれていた、本当の名前です」
「ほんとの、なまえ……」
 複雑な事を聞くのは難しいだろう、と判断してまずは端的な質問をしたのだが、それでもサモナーは言葉に詰まって黙り込んでしまった。そうして間をおいて、
「……わかんない」
 ようやく出てきた言葉が、それだった。
「分からない?自分の名前が、ですか?それは……」
 つまり、サモナーには生前の記憶が欠けている?
 しかしそれは、考えてみればすぐに思い浮かべるべき可能性だった。正しく記憶を有したサーヴァントならば、このような幼い振る舞いは有り得ない。そこまで気付いておきながら、どうして考えが及ばなかったのか。
 自分の頭の硬さ、視野の狭さを再認識する。
「記憶が欠けている、その原因に心当たりは……と言っても、わかりませんか」
「んー……」
 サモナーはいよいよ困ったように俯いて黙ってしまう。これでは、追求にも無理があるだろう。
 なんというか、本当に厄介なサーヴァントを引き当ててしまったものだ、と思う。
「……よしのは?」
 不意に、サモナーが口を開いた。
「さもなーのことより、よしののことがききたい」
「私の、こと……」
 こちらをじっと見るサモナーの目を見つめ返す。そうしているとなんだか妙に居心地が悪くて、私はすぐに目を逸らしてしまう。
「身の上話でも聞きたいんですか。私のことなんて聞いても、そう面白くもありませんよ」
「でも、ききたい」
 返答は早かった。どうして急にこんなことを、と思う。跳ね除けても良かったが、先に自分の質問であんな顔をさせてしまったことになんとなく負い目を感じてしまって、そんな気にもなれなかった。
「……取り敢えず、ここを離れましょうか。あんな戦いの後で、同じ場所に居座るのも危険でしょうし。……話なら、道すがら」
 そう言って歩き出す私の背中に、サモナーがついて歩く。
 暫くはお互いに無言だった。どれほど間を置いたのかは分からないが、とにかく、先に口を開いたのは私の方だった。
「私は、本当にくだらない人間でした。子供の頃から……いえ、今も十分に未熟な子供だとは思いますが、もっと幼い頃から」
 ポツリポツリと、途切れ途切れの調子で話し始める。
 自分のことを話すなんてことは、否、そもそも他人との会話自体が、私にとっては酷く不慣れで、自分でも呆れるほどに拙い。
「器用には出来なかったんです。何事も、人より要領良く出来ると言うことは無く……だから、その分自分なりの努力を続けてきたつもりです」
 いつだって必死だった。立ち止まるだとか、休むだとか、そんな選択肢は、私には持てなかった。
 あるいはそんな部分が、母の気に障ったのかも知れなかった。
「母は、そんな私を疎んでいたんです」
 ―――あんたは本当に、なんの役にも立たない娘ね。
 日常的に浴びせられるそんな言葉を、全て額面通り真に受けていた訳ではないけれど。
 それでも、全てを受け流して平気でいられるほど、私は強くなかった。
「…………」
 サモナーは何も言わない。私も、後ろを振り返る事は無い。
 或いは無意味だとしても、私は構わず言葉を継ぐ。
「自分が人より不幸だとか、誰よりも頑張っているだとか、そんな風に思っていた訳ではありません。そうでは無くて、私は、もっと……」
 もっと……なんだろう。
 自分が何を言っているのか、何を言いたいのか分からなくなってくる。本当に、呆れてしまうくらい不器用だ。
 私は何の為に歩いているのだろう。何の為に、これまで歩いてきたのだろう。
 ―――お前は、正しいことをしなさい。
 誰かの言葉を思い出して、立ち止まる。
 ああ、そうか。
 そのまま、静かに振り返る。
 サモナーも立ち止まって、こちらを見つめている。その目を、見つめ返す。
「ひとつ、思い出したことがあります」
「…………」
 サモナーはやはり、何も言わない。
 目線を外すと、遠くに新土夏の街の明かりが見える。歩みはいつの間にか高地に辿り着いて、街を見渡す位置にあった。
「私が、何故戦うのか」
 こんな話をしていなければ、思い出せなかったかも知れない。
「私はずっと……正しい人間になりたかった」
 そして、誇れる自分でありたかった。
 それが、私がこの戦いに臨み、勝利する意味。
「ただしい……?」
 ようやくサモナーが口を開く。
 遠く新土夏の街には、幾つかの異形の影が蠢いている。それは、夜の闇に似つかわぬ極彩色。
「だから私は、あれ・・を放っておくことは出来ません。それが遠回りだとしても。……あなたの事を、付き合わせてしまう事になりますが」
 そう言ってから、目線をサモナーへと戻す。
「いいよ」
 彼女は、そう言った。
「よしのがそうしたいなら、さもなーは、いっしょにたたかうよ」
 そう言って、笑う。
 今度は礼は言わない。それを言うべきは、きっともっと先のことだろうと、そう思ったからだ。
 闇は未だ深く。月は遥かな高みにある。
 夜は、続く。

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