ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。




英霊伝承異聞-メアリー・スー




────────英霊は夢を見るのか?その疑問に対して、答えは是である。
何故夢を見るのか?と問われるとそのメカニズムははっきり分かっていない。
記憶の整理だとか、自分を映す鏡だとか警告だとか言われているけど、
正直その理屈ははっきりとは分かっていない。

ただ、一つだけはっきりしていることがある。多分、私が夢を見るのは記憶の整理の為なのだろう。
『記憶』の『整理』………。この夢は、おそらく私が私であるための、最後の抵抗なのだろう。


「────────…だ」
「────…として………だろうな?」
声が聞こえる。複数人の声だ。
男女入り混じれている。幼い声も、歳の重なった声も同じく混ざり合っている喧騒だ。
「───────なら、…………は?───のはず…………ろう!?」
「…………で、────から、────────。」
「我らオリジ………ーンに、────り得ません。」
言い争うような声と、それを宥めるような、自身に満ちた声。
視界は閉ざされている。周囲にどういった人物がいるのかは分からない。
ただ、これだけは分かる。私は今ココで、この時に、この世界に生まれ落ちたのだと。

──────これは、私が生まれた時の記憶。いえ、初めてこの世界に現界した際の記憶?
どちらなのだろうか?どちらが真実なのだろうか?二律背反の感情が、記憶が、私の中を渦巻いている。
「──い、速く──────てもらおう。ネ─────」
「はいはい。──────から………しても」
カチャリ、と何か宝石を置くような音が聞こえた。
「満たせ、満たせ、満たせ────────────。」
詠唱が聞こえる。魔術を行使するその前哨が、周囲に響く。
すると、私の中に急速に何かが流れ込んでくるような感覚があった。
これは…魔力?いや、違う。もっと濃く、されど薄く、一つのありありとした形を持ちながらも形を持つことを許されぬ存在。
ある者はこれを一時のうたかたの夢と呼び、そしてまたある者は幻想の英霊…幻霊と呼んだ。
だが、それにしてもこれは────────────。

次の瞬間には、私は肉体を得ていた。
熱を感じる。光を感じる。音を感じる。五感が先ほどよりもしっかりとしたものになっている。
肉体が質量を持っていることを感じた。私は周囲を見渡す。するとそこには、何百人もの魔術師が立っていた。
「凄いな…本当に成功するとはな…。」
「でっしょーう?私らオリジンストーンに不可能は無いってことですよ」
「ンでもぅ、当主(おとうと)が死んだからってチョーットやりすぎじゃなァい〜んアビエルちゅわ〜ん
初代様のオーダーまで書き換えるなンてぇん」
「いや、正直ね…?破滅の概念を集めて根源に至るなんて正気じゃないですよ
今の時代、英雄ですよ英雄。弱きを助け強きを挫く。正統たる正義の味方こそが今の時代必要なんですよ!」
「…………いや、これ正統かなぁ…?私は正直、王道を大きく外れていると思うぞ」
中央に立つ、眼の隠れた青年が何かを熱く語っている。
────────────────正義、正義の味方。
何故だろう。その言葉を聞くと、何か酷く懐かしく感じると共に、とても悲しい気持ちになる。何故?何故なのか?
私は、そんな言葉を今までで一度も聞いたことが無いハズなのに。
「でも正死゛き?破滅の集合など見てみたかったですがね本当に、実に惜死い!
わた死の望む死が見れたかと思うと本当に惜死い!」
「そうですかね…?ボクとしては、こっちの手段を彼が選んでくれて良かったと思ってます」
「自分も同意見であります。自分の片割れがそう言う事に使われるよりは、この理想の英雄に使われる方が良い」
「ククッ、私もそう思うぜ。ただでさえ五体不満足だってのに、魂まで半分持ってかれるのは勘弁して欲しい」
車椅子の女性が意地の悪い笑みでそう言う。…魂?
その単語を聞き、ふと私は自分の『内』に対して意識を向けてみた。
─────────すると、自分の内を何十、何百と言う数の意識や記憶が渦巻いていることに気付いた。
「…………………………………………………!!」
思わず私は身震いした。しかし、何処か納得した感情もあった。
何故か、何故だかは分からないが、その数多く私の中に渦巻く「それら」は、紛れもない私の一部の様に感じられた。
「あー…、大丈夫?喋レル?ハローハロウ?」
先ほどの、眼が隠れた青年がこちらに近づいてきた。
私は、それに応えるべく口を開き、言葉を発する。
「───────はい、…えっと…はじめ…まし、て?」
私がそう言葉を発すると、周囲にいる多くの魔術師は歓声を上げた。
『おぉー…、すげぇな!人が一人0から現れるのすらすげぇのに…』
『こいつぁ、次の漫画のネタは決まったかも知れねぇな!魔術ってのはスゲェ!!』
『はっ!!下らん!所詮は紛い物の英霊だろう?落ちぶれたオリジンストーンの考えそうな事だ…』
拍手を送る者、賞賛を口にする者、下らないと考える者…多くの意見があるが、大多数は私を歓迎…してくれているようだ。
「ああ、ごめんなさい…。何か、見世物みたいになっちゃって…」
「いえ…良いのよ?私は、なんというか…そう言う英霊なんだし」
私は、私本来の口調へと戻す。…段々と理解してきたわ。そう…私はそういう存在だったわね。
───────英霊。人類の信仰の具現。人々の理想の存在。なるほど。私が呼び出された理由は分かったわ。
「聖杯戦争…。そうでしょう?私が呼び出された、本当の目的」
「あ、分かりますぅー?すみませんねぇホント。なんか…」
「構わないわ。私たち英霊は、サーヴァントとして願いを叶えてそして人々に使役されるのも仕事の一つなのだし」
ファサァ…と、髪をシャラリと私は撫でる。うん、本調子に戻って来たわ。
「良いわ!ここにいる魔術師たちに、私が勝利を与えてあげる!」
「おお、ありがとうございます!」
『ほら、やはりこういう方が良いじゃないか。聖杯戦争に勝って聖杯で穴をあけて…とかよりよっぽど良い』
『そりゃあ、た死かに…纏める対死ょうが非死゛ょうに薄い存在です死ね』
『というか聖杯戦争に勝てば根源目指せるし、なんでザックライアスさんはこんな回りくどい方法にしたんでしょうかね?』
周囲の会話が色々と散々しているけど、私は目の前の…召喚者?に対して言う。
「さて、さっそく問うけど…貴方が私のマスターかしら?だったら名前を教えてほしいんだけど…」
「ああ、はい。召喚の手助けはココにいる全員がしてくれたんですけど、まぁ中心になったのはそこの妹ですよ
俺はただ、『あれ?これ何かいいんじゃない!?』って思いついただけで…」
『嘘つけ。一番張り切ってただろうが』
『わた死たち全員をここまで連れてくるとか、死ょう直力入れ過ぎで死ょう貴方…』
眼の隠れた男が、たははと笑いながら頭を掻く。………それにしても、妹?
そう言われて初めて、私の隣に一人の少女がいると言う事に気付いた。…存在が希薄な魔術師…と言う事かしら?
「あぁ…、ごめんなさい…。貴方が、私のマスター?」
「ええ、ごきげんよう名も無き英霊さん。」
スカートの端を持ち上げ、ぺこりと少女は私に頭を下げた。……”名も無き”英霊?
「ちょ、ちょっと待ってください!英霊には真名と言うステータスがあります!名も無きなどとは失礼な!」
「え?嘘?…あれ?ちょっと事情が違う?あれ?」
眼の隠れた男が困惑している。まったく失礼な。英霊を呼び出しておいて真名を忘れるとは!
「良いですか!私の真名は…………。しん…………名は──────────────」
…………………あれ?私の真名…………は…………
「─────────────────────メアリー」
ボソリ、と先ほど私のマスターだと言った少女が呟いた。
「…………何です?」
「メアリー、──────────────…メアリー・スー。
───────貴方に…………………。………ピッタリ、───────の、……………名前
昔……………………読んだ、本の──────────────凄い、………………人」
「なるほど」
眼の隠れた男がパチンと指を鳴らして頷いた。
「確かに、この英霊にはまさしくそれがピッタリだ。
真名が無………………いえ間違えました。真名が思い出せないのならば、それを仮想の真名といたしましょう。」
─────むぅ、しょうがないですね。どうやら状況を察するに、召喚も特殊なようですし?
今はあなた方の授けてくれた仮想の真名を名乗るといたしましょう。
「良いでしょう。その真名を名乗りましょう。それで、なんと言いましたっけ?」
うんうん、とうなずいたあと、男は手を差し伸べながら言い放った。

「名付けよう。君の真名は、メアリー・スーだ。」





「おめでとうメアリー・スー。貴女は聖杯戦争に勝利したんだ」

一人の青年が私に言う。マスターは死んだ。他の参加者たちも死んだ。他のサーヴァントなぞ当然の如く、死んだ。
それなのに、それなのに何で、貴方は笑っているの?
「これで根源への到達は叶えられる。まぁ、俺は正直そんなことはどうでもいいんですけどね?」
そう、と私は小さく返事を返す。嗚呼…なんてひどい有様。まるで伝承にある地獄の再現のよう。
この戦争に、幸福など何一つ有りやしない。在るのは文字通り、掛け値なしの絶望のみだった。
こんな地獄を作るために、私は来たんじゃない。そう本能が告げている。このままで終わってはいけない。
そう私が───────いえ、『わたしたち』の一人一人が告げている。
「それで、何を願うんです?受肉?もしくは何か他に叶えたい願いでもあったりします?」
青年が、わざとらしく私に聞く。───────そんな事、口に出すまでも無い。
「どちらもよ。私は受肉をして、叶えたい願いがある。」
「ほう、それなら俺の願いも貴女の為になるかもしれません!」
その男は、両腕を広げて喜ぶような仕草をした。…………?
「俺の願いはですね。最強の存在と一緒にいる事だったんですよ。
その為に、わざわざ俺は初代オリジンストーンのオーダーすら捻じ曲げ、貴女と言う存在を作った。
しかし、我々の技術だけじゃあ数百と言う『主人公』の概念をまとめ上げるのだけが精一杯でした。
───────────────それも、現在は綻び始めていますが」
その男が伏し目がちに言う。私は自分自身の掌を見る。見ると、ぽろぽろと霊基が崩れているのが見えた。
「やはり、人工の英霊には無茶があったようですねぇ…。
他の英霊が全てシャドーサーヴァントだったと言うのが、正直奇跡と言えるでしょう。」
どこが奇跡だ。と私は吐き捨てそうになる。そのせいで…そのせいで周囲の人間たちは────────
「その奇跡のおかげで、万能の願望器は我々の手元へと渡った。メアリースー、コレは我々の物だ。
貴女はこれで受肉を果たす。そして俺は、これで最強を果たす………。この2つ、同時に叶える事にしませんか?」
「…………?何を言いたいのかしら?貴方…………?」
「簡単な事です。貴方は受肉する。そして私は、その貴女に聖杯の魔力で力を与えます。」
「………………………………………………………………………力……………。」
「そう、力。貴方のその力は、ほんのわずかな理想の下に成り立っている。
その理想を、もっと、もっと強固な物とする。」
「………………………良いでしょう。その誘い、乗りましょう」
この地獄の下に、この犠牲の元に、理想が成り立つのならば、この聖杯戦争に意味が出来る。
「それは良い!早速願いを叶えましょう。まずは、貴方の受肉から………………。」
一歩、また一歩と私は目の前にて輝く聖杯へと歩を進める。
そして、私が今ココに胸に秘めている願いを口にする。
『私たちの願いは─────────────────────』

この願いこそが、この最初に抱いた理想こそが、全ての間違いであったのだ。





───────多くの絶望を見た。多くの哀しみを見た。多くの理不尽を見た。
何故人間と言う存在は、ここまで理想とかけ離れているのだろうか。何故人間は、叶いもしない理想を追い求めるのか。
そう思う事が、いくつあった事であろうか。そんな事すらも、もはや遠い過去の事のようであった。

─────────────────────あれから、どれほどの日月が経っただろう。
まずは手始めに隣人を幸せにした。次に街を幸せにした。そして国を幸せにした。さらに隣国を幸せにした。
世界中を幸せにした。幸せにしたら、そのぶん不幸になる人が出てくるが、その人たちもまた幸せにした。
幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、
幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、
幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして、幸せにして────────、
…………………もう、数え切れないほどの幸福をこの手で作り出してきた。もう、世界はかつての姿を残していない。
もうこの世界に、私が手を加えていない場所は何処にもない。全てが、この世界中に存在する一人一人が、私の手によって幸せになった。
世界は発展の極地へと至った。もはやこの世界では、誰一人として不幸にはならないだろう。その分数千年という月日が経ったけど。
…………これで、これで良かったんだ。私が望んだ世界を、ハッピーエンドはようやく作り上げる事を出来たんだ。
聖杯はこの世界を拒否した。ならば私の手で作り上げるだけだ。受肉を果たし、英霊としての力を限界まで使い、
そしてあとは月日を重ねるだけだ。────────それで、それで良いのだと私は考えていた。

────────────────あの日、世界が剪定されるその日までは





─────────もはや、涙すら枯れ果てた。
泣き疲れて、気を失っていたのかも知れない。…ガラスに、泣き腫らした私の顔が映った。
……………嗚呼、なんてみっともない貌をしているのかしら。頬と眼を真っ赤に腫らして…だらしない。
でも、もう良いの。酷い貌をしていても、もう関係ない。そんな事、もうどうでも良い。
だって…………

だって、もうこの世界には誰も存在していないのだから。

どうしてこうなったのかしら?どうしてこんな事になったのかしら?
疑問が、後悔が、絶望が、私の脳裏を染め上げる。そしてそんな感情は、全てが圧倒的な怒りに塗りつぶされた。
私は全てを賭けて、この世界を幸せにしてきた。一人一人を入念に、丁寧にハッピーエンドに書き換えてきた。
しかし、どれだけ誰かを幸せにしても、不幸になる人が現れた。ちょっと考えれば、当たり前の事であった。
人が100人いれば、100通りの幸せが存在する。1000人いれば1000通り、それが世界中となれば…
それでも私は抗って、抗って、抗い続けた。この世界中の全てを幸せにするべく走り続けた。

──────────────────────あれ?………………私………。
なんで、世界中の人々を幸せにしようとしていたんだっけ………?なんで、こんなに意固地になっているんだっけ………?
………………そんな疑問も抱いたけれど、私はそれを振り切って世界中を幸せにする方法を探し続けた。
最終的に私は──────これが間違っている方法だと分かっていても─────この世界に生きる、
全ての人々の常識と物語を書き換えて、記憶を全て私色に染め上げて、『私』を幸せそのものと思うよう、
私のスキル『偽りのカリスマ』によって書き換えて行った。人類の思考の完全統一………。こんなものが、
本当に幸せと言えるのだろうか?そう脳裏を過ぎる考えを必死で振り切りながら、私は世界を私の物にした。

結果として、みんなが私を讃えた。全ての物語の主人公を私へと書き換えて、世界は全て私へと向いた。
みんなが私の言う事を聞いて、みんながそれを幸せと思っている。全人類の行う行動は全てが効率よく進み、
そして繁栄は極地へとたどり着いた。皆が笑い合い、そして手を取り合っている世界。争いなんて存在せず、
死も、悲しみも、いがみ合いも、小さなひがみ1つもない。誰も不幸にならない、究極のハッピーエンド。
ようやく、ようやく私は、数万年と言う永さを経て、この『しあわせ』へと辿り着いたんだ───────────。

───────────だが、その先に待っていたのは、世界の剪定と言うあまりにも残酷すぎる結末であった。
曰く、この世界は衰退しすぎた世界やこれ以上発展の余地の無き世界は、抑止力によって無かったことにされると言う。
…………………………『これ以上発展の余地の無き世界』?……それが………、世界から消え去る……………?
それは、そのルールは、この私の望む『ハッピーエンド』の完全なる、真正面からの否定に他ならなかった。

「どうしたら…!!私は…………!どうしたら良いって言うのよぉ……………!!」
私は再び声を上げて泣いた。周囲には人間は一人もいない。いや、周囲以外にも、世界中の何処にもいない。
ただ、ただ崩壊した町が、建物が、都市が、世界が朽ち果てたままに拡がっているだけだ。
ここにいるのは、単独顕現によって世界に在る私一人だけであった。

『どうしたら、ですって?そんなもの、この世界全てを変えれば良いだけじゃない』

……………………………………誰?
誰かの声が、私の中に響いた。別の英霊か、はたまた幻霊か、もしくは神か悪魔か天使かの類か?と思った。
だが、そのどれもが違った。その声の主は、他でもない………『私自身』であった。
『誰?なんて言わないで。悲しいわ。いっぱい悲しいわ。私は私。
メアリー・スーはメアリー・スー。世界の作り上げた理想そのもの。』
「…………………………わた、し…………?」
『そう、メアリー・スーは理想の集合体。全ては貴方を中心に動いているけど、
その中では剣を使う私もいる、槍を使う私もいる、弓を使う私もいる、救世主たる私もいるの』
そうだ、そうだった。私は小さい、何よりも小さい幻霊の集合体だった。その集合体が、便宜上真名を得ているだけであった。
その中の一人が、人格を持ったのだろうか?…まぁ良い。話し相手になってくれるなら、ちょうどいい。
「話し相手になってくれるのメアリー?じゃあ、ちょっと答えてくれるかしらメアリー?」
『良いわよメアリーメアリーは貴方の言葉を聞いてあげられる。そして答えてあげられる』
その優しい言葉が、私の胸に染みわたる。嗚呼…、こんなに優しい言葉をかけられたのは、何年前だっけ………?
私は、もう枯れ果てたと思っていた涙を目いっぱいに浮かべ、今の心情を私に吐露する。
「私…頑張ったんだよ………。どうすれば良いかも分かんないまま、一生懸命走ったんだよ…。
幸せって何なのかも分かんなくなったりしたけど、それでも投げ出さずに走り続けたんだよ…?
それが、それがこんな世界を作り上げたなんて…………あんまりだよ………!
私…これからどうしたら良いの…!?どうすれば、世界を幸せに出来るの…!?」
それに対して、メアリーはどこか楽しそうな声色で答えた。
『大丈夫よ。簡単な方法があるわ。さっきも言ったでしょう?』
…ああ、さっきの言葉?……………良く、真意が分からないんだけど…どういう事なの?
『貴女が世界を剪定に導いてしまった理由は、アナタ一人が世界を導こうとしたからなの
だったら、話は簡単な事。私「たち」で世界を幸せにしてしまえば、それだけで済む話なの』
?……………良く、意味が分からないわ?私「達」で?それは、一体どういう事を指し示すの?
『だから、貴方は人々の考えを書き換えたでしょう?それじゃダメなの。すぐに限界に辿り着いてしまうわ
人間の行動なんて、完璧じゃ無い。どこかにほころびが出来る。限界に突き当たってしまう。でも、「私(メアリー)」は違う。
ありとあらゆることを滞りなく、限界なく、そして完璧に行う事が出来る。全ての物語がそうなれば、全てが幸せになる。
この世界に生きる全ての英霊がメアリーになったら、繁栄は永遠のものになる……………そうでしょう?』
─────────なるほど。確かにそうだわ。私は理想の具現。全てを理想のままに行えるまでに、霊基を得た。
でも、そんなことをしたら、文字通り世界は幸せなんて言えない。存在する理由すら消え去ってしまうわ。
「物語を乗っ取って、幸せにするだなんて、そんなことは理想なんて言えないわ。それだけはダメ。
私達のような小さな英霊が、この世界の英霊たちの物語を乗っ取って良い理由なんて無いわ」
『あら、幸せに…ハッピーエンドに、理由なんているのかしら?それに──────』
………………………………………それに?

『それにアナタ、いえ私………。物語を乗っ取るの、…………楽しかったでしょう?』

──────────────────。
「そんな………ことは…………。」
『だって、私は楽しかったんだもの。貴女(わたし)の喜びは私(あなた)の悦び。
貴女(わたし)の幸せは私(あなた)の倖せ。違う?』
「ち…………、違…………!私…………そんな…………………!!」
『違わない。貴方は心の底から楽しかった。世界の英雄を残さず自分へと取り込む事。
この世界の偉業を、物語を、喝采を、名声を、全てその一身に受けるのは、何よりも強い快楽だった。
そうでしょう?』
「……!!そ、それは…!ハッピーエンドを作る為に…仕方なく…………!!」
『仕方なく………?嘘。確かに貴女は全人類を幸せにするためにそうするしかなかったと考えたわ。最期の手段として…。
それは苦渋の決断。他人の物語を、名声を乗っ取ると言う理想、正義とはかけ離れた外道の道。それは確かに苦しかったわ。
でも、でもね?理想の具現ではあれど理想を果たしていない私(あなた)が、初めて人から喝采を受けて…………
”どう思った”かしら……………?考えてみて、思い出してみて……………』
「……………………………………………………………………………………。」
────────────────────。嗚呼、確かに…。”そう”であった。
私は、人類一人一人の描いた理想の英雄。その集合体。故に全てを行える。故に全てに愛される。
だが、本当にこの手で成した偉業は、物語は、終着は、存在しない。何故なら、それは”有り得ない”のだから。
だから私はこの手で幸せを為したかった。ハッピーエンドを作り上げたかった。しかし、その結末はこのザマだ。
そして──────────その道中で得た、偽りの名声…、偽りの喝采…、偽りの物語…、偽りの偉業…。
それは、それをこの一身に得た感想は……………………………………。
『─────────────クスッ。やっぱり…………アナタ、笑っているわ』
…………………………………………………………………………………………………。
『貴女もこの経験を通じて、思っているんでしょう?歴代の英霊たちじゃ、幸せを為せない。
私ならこの物語をもっとうまく動かせる。もっと幸せに終わらせられるって…。
だったら、この世界の英霊全てに、私が成り代わればいいじゃない。って』
「で、でも…。」
『自分が幸せを為せなかったから…なんて考えている?大丈夫。それは一人一人幸せにしようなんて考えたから。
この歴史「だけ」を見て、世界中を幸せにしようとするから無理が出るんだわ。そんなの、出来なくて当然よ。
でも…でもね、歴史の英霊を一人、また一人、丁寧に私へと書き換えて、ハッピーエンドに書き換えて言ったら…どうなるかしら?』
確かに、その通りだ。この「今」1つだけでは意味がない。過去、現在、未来、この世界全てに、宇宙全てに不幸は遍在している。
その全てを、私の手で一つ一つ幸せに書き換えて行けば、確かに剪定などに突き当たらず、この世界を永続的に幸福に出来るだろう。
その先に、私だけが英霊となり、そして全てを幸せに出来る。そんな事、私じゃ無くちゃあ出来ない事だ。他の英霊じゃ出来ない事だ。
『クスッ、あの名声と言う名の快楽を独り占め出来て、そして世界全てを幸せに出来るの。
それってとっても美しいと思わない?素晴らしいと思わない?』
「でも、そうなると英霊の周囲の人々が可愛そうだわ。その英霊と恋に落ちた人もいれば、子供もいる。それを奪う事は、私には出来ない。」
『だったら、それも私にしちゃえば良いじゃない。ああそうだ。もうこの世界全ての人間が、私になっちゃえばいいじゃない。
最初に言ったのは、つまりはそう言う事よ。全ての人類が理想。全ての人間が完璧。これ以上のハッピーエンドはないわ』
「そ、それは────────────────────」
『何を怯えるの?何に怯むの?この世界の全ての人間は、一人一人が”その人の人生の主人公”。
だったら、その物語も幸せにしてあげるのが、私(メアリー・スー)の義務と言うものじゃあ無ぁい?
だって、私以外全ての存在なんて、完璧を1つも成せない、恥ずかしい存在なんだから』
……………………それこそが、その言葉こそが私の概念を決定付けた。
この世全ての物語を、幸せにすると言うエゴ。ただ1人の人生すらも乗っ取って、完璧なる幸せにしようとする思い上がり。
この世にある全ての既存の英霊では、人間では、幸せを何一つ成せないと決めつけ、そして恥じる。

────────────────────謂われ無き『慙愧』の理そのものであった。

『決まりね。さぁ、立ち上がりましょう。世界を私へと変えましょう。とりあえずこの世界など捨てましょう。
世界の不幸を残さず幸福へと変えていきましょう。この世界の理想を、そして物語を全て知って、そして喰らう所から始めましょう。』
「……………………その後は歴史を顧みて、物語を省みてどこがダメだったのかを決めましょう。
その後はそれら1つ1つへと私(メアリー・スー)を送って、幸福へと変えていきましょう。」
考える前に、思考する前に私は自然に声を出していた。…………思考の前に表情が、笑みへと変わる。
「その名は幸福点。世界の中でも特に不幸であった七つの物語、七つの歴史。まずは歴史から変えて、次は物語を変えましょう」
『その前に信仰を食べる所から始めましょう?それとも主人公たちを知る所から?急がば回れよ私(メアリー・スー)。下準備からよ私(メアリー・スー)。』
「そうね私(メアリー・スー)。邪魔になりかねない存在を寄せ付けない力を得る所から始めましょう私(メアリー・スー)。
歴史上あった、全ての理想の具現を私へと一体化させましょう。力を、理想を、一点へと纏めましょう」
『それだったら、嫌な一点があるわ私(メアリー・スー)。カルデア。この名前を覚えておいて私(メアリー・スー)。
いつか私たちの前に現れる。計画の最も大きい邪魔な場所だから。』
「………………………分かったわ、私(メアリー・スー)」
ふと、先ほど泣き腫らした私の姿が映ったガラスを、もう一度見た。

そこには、見るも悍ましき化け物へと、醜き人類悪の獣へと堕ちた、一人の理想の具現が立っていた。



伝承異聞-メアリー・スー

『理想の獣は終末で啼く』

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