最終更新: nevadakagemiya 2017年08月29日(火) 23:24:30履歴
「────────ここまで辿り着くとは…………。褒めて進ぜよう。
だが、しかし、辿り着いた存在がたったの4人だけとは……悲劇この上なし」
ニィ……、と堕天使は口端を釣り上げて邪悪にほほ笑む。
対するは、4人の英霊たち。人類最古の英雄王、人理を守護する抑止の男。
────────────────そして、その2人を影から守ってきた、2つの影。
「所詮人類共は、我が手中にて支配される為の存在に過ぎなかったのだ!!」
周囲は何もない荒野。ただただ漆黒に染まった曇天だけが空を覆う。
業ッ!!と堕天使は翼を拡げ、全身に広がる漆黒の炎を滾らせながら嗤う。
「我が霊基より、七つの力を奪還しようと画策したことは褒めてやろう……!
だが!我が霊基には一体化している聖杯の起源がある!!究極の願望機が!!」
グワバァ、と堕天使の胸が切り開かれ、その中に悍ましく漆黒に染まった盃が光る。
「この聖杯がある限り、貴様らはどのような愚行を画策したとて、我はその上を行く。
お前たちに遺されているのは唯一つ。服従の道だけだ…………ッ!!」
「……………………………………。」
「恐怖で声も出ないか……。絶望を噛みしめそして平伏せ。
究極の願望機………その全てを相手にする恐怖をその人類史に刻め。
そして……………圧倒的なる力に支配される悦びを感じるがいい!!」
「────────────────フッ。」
沈黙を続けていた4人だったが、その沈黙を破ったのは黄金の英雄王であった。
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!フーッハッハッハッハッハッハ!!!
なんという無様だ!呆れ果ててもはや笑いしか出てこぬわ!!」
「………………………………………何がおかしい………………?」
「いやなに………。貴様のような存在が、圧倒的な力などと戯言を抜かすものなのでなぁ……。」
クックック……と喉を鳴らしながら英雄王は続ける。
「我がともに戦い抜いた人類は、貴様の思うほど脆弱ではないぞ?」
瞬間、ドォォォォォォ!!と轟音が響き渡る。
「────────────────なっ!?」
空を覆っていた曇天を破り、数多の英霊たちが、そして魔術師たちが駆けつける。
『我ら英霊総勢1198ただいま到着!!堕天使の野望完遂を阻止いたします!!』
『待て待てぇ!!俺ら現代を生きる魔術師のサポートをなかったことにそんな!』
「………………………………何故だ!?やつらは…………ッ!!
我が聖杯の力を以てして……滅びたはず…………ッ!!」
「残念だったね」
英霊群の中の一人、かつてのトロイアの軍師がほほ笑む。
「最後の一撃が大振りだと空振りするものさ、詰めを誤ったね……ルシファー。」
「────────────っ!だが良い………………。貴様らを相手取るなど容易い事!」
ゴウっ!!と堕天使の身を包む黒炎が周囲一帯を包む。そしてそれらが形となり、
そして無数のルシファーが周囲一帯を埋め尽くした!
「この全てが我であり、そして全てが同等の力を持つ!!
英霊共……ッ!!いくら駆けつけたとて貴様らの存在は有限!!
無限に遍在する我が分身をどのように凌ぎ切────────」
ズギャギャギャギャギャギャァァァァアアアアアア!!!と轟音が響いた。
堕天使の高笑いを遮るように轟いた稲妻が、一帯を覆い尽くす堕天使を跡形残らず焼き払った音だ。
『抑止力の守護者ァ!!ただいまをもってして駆けつけた!!』
「ぺったんこな防人よぉ!!こいつら神性無いからちょっと頼むぜ!」
「TURUGIだ!!こんな時にまでふざけているんじゃない魔導探偵!!」
空を駆ける超巨大な白鯨に乗り、多数の英霊が駆けつける。
「農奴よ人民よ!そして英霊よ!!その手に武器を取り立ち上がれ!
自由を叫び国土を讃え緋天の果てまで此の名を謳え!!謳え歌え唄え謡え唱え我らが高らかなる勝鬨を!!!!
ХА-ХАХАХАААХАХАХАХАХАХАХАААААААААА!!!!!」
「まぁったくやかましい!守護者という物はみなキチガイか!?」
「妖怪絶対殺すマンのお前が言うな偽頼光。」
大鯨が堕天使の前に降り立ち英霊たちが叫ぶ。
『跪けっ!!我らこそ抑止!!人類の歴史をより長く繁栄させるべく動く!!抑止の使者也!!』
その在り方に、堕天使は形相を変え怒りに身を任せ叫ぶ。
「何がより長く繁栄だッ!?その長きに渡る繁栄で何を貴様らは掴んだ!?富か!知識か!!栄光か!?
そのどれも無意味だ!!所詮人は生まれては死ぬ存在!!貴様らの掴んだ物など!!何の意味もない!!」
全身を包む漆黒の炎を更に滾らせながら、彼は叫ぶ。
そんな中、一人の覆面の男が大鯨から飛び降り堕天使の目の前に立つ。
「堕天使さんよ、アンタは言ったな。人類すべてを支配すると」
「────────チッ!!」
ゴウッ、と黒炎を拡げ壁のように自身の分身を作成する堕天使。
「俺たち人類は、全て己の手で世界を切り開いてきた。それなのにその全てを否定しようって言うのかい」
だがその堕天使の生み出した分身は、ボロボロと崩れ落ちていく。
「そんなバカげたことを本気で俺たち人類にやろうって言うんなら、俺は、俺たちは、こう答えてやる。」
スタッ、と覆面の男の横に同じく一人の英霊が着地する。
そしてすさまじい速さで助走を付け、堕天使に対して硬く拳を握った。
「”いやだね”。お前のような屑に先導される人理なぞ、まっぴらだ」
ドグワシャァッ!!!とすさまじい轟音が響き、堕天使の顔面に英霊の拳が入った。
◆
「お……ッのれぇ…………………!!」
だが、少しよろめくも堕天使は立ち上がり、すぐさま攻撃態勢に移る。
「無限に遍在する我が権能を破壊するとは………!!だが!例え数が一人であろうと!
圧倒的なる力を前にしたならば戦意もそがれるであろう!!」
バキッ!!ガキャメキガギメギメギィ!!とすさまじい音と共に堕天使の霊基が変化する。
「…………………変容拡大………………。」
「そうだ………ッ!我が力は必ず貴様たちの上を往く!!
もはや!我が力を貴様らが超える事は出来ん!!」
「それはどうかな?」
声が聞こえた。すると周囲に、多数の英霊が取り囲んでいるのが見えた。
「──────────────これは…………っ!?」
『幻霊だからと………我らを舐めない方が良い』
そう、彼らは英霊ではなく、"幻霊"。英霊になれなかった存在達。
「クヒッ、クヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!残念でしたねぇ!!
私達は幻霊!!例えその願望機を以てしても消え入る事はありません!
何せ!!すでに存在が希薄一歩手前なんですからねぇ!!」
洗脳の理を宿す少女が攻撃を仕掛ける。すると、その一撃一撃が
拡大した堕天使の在り方を次第に縮小させ元の霊基へと戻していった。
「何故………っ!?何故英霊の出来損ないのお前たちが!」
「分からないというのなら、お前には永劫にわからないだろうね」
焼けすすけた袴を纏う少女が、龍を放ちながら攻撃を続ける。
「確かに私たちは過去は災害であったり何だったりでしたが!!
それでも滅びゆく人類をただ見ているだけって程人でなしじゃないんですよ!!」
少女が手からワーム上の化け物を放出しつつ応戦する。
「所詮は出来損ない……!!貴様らのような存在などに!!何故我が計画を邪魔されねばならない!!」
「出来損ない、大いに結構!!」
カーン!!と木づちの音が響く。
「例え我らが人でなしであろうと出来損ないであろうと!!
お前が行った数多くの人の命を捨てた行為!誰が見逃そうか!!」
ォォォォォ………と何やら大きな音が近づいてくる。
「その哀れなる計画の末の妄執、この私が裁こう、否……私が裁かなくてはならない」
その近づいてくる音は、やがて轟音となりそして堕天使に回避不能の一撃を与える。
「───────────判決は死刑だ。その身にて執行を受けよ」
ゴォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!と、無限の理を宿す蛇龍が堕天使を貫いた。
◆
「…………………ッ!!ガハァッ!!」
『やったか!?』
だが、その期待もむなしく堕天使は立ちはだかる。
「───────惨たらしき死を与えてほしいか………。
ならば、望み通りくれてやろう…………ッ!!」
そう堕天使が言うと、周囲が漆黒の闇に覆われ始める。
「…………………これは…………!」
「テクスチャー……変化適応…!物理法則書き換え………。
我が周囲に存在するものは……………みな"死に絶える"……。」
「なにぃ………………!?」
ギキィ………ッ!と堕天使は己の黒炎を剣状に変化させ臨戦態勢をとる。
「これで、お前たちの攻撃は全て無意味となった……ッ!
さぁ死に絶えろ英霊共………………我に逆らった愚行を悔いて死ね!!」
だが、その言葉が真実となることはなかった。
パリーン!!とその彼を覆うとしていた漆黒の闇が割れる。
それと同時に、巨大な最果ての槍の一撃が堕天使を襲う。
「───────────何奴!?」
『ネガ・テクスチャを完成させるな!!我ら円卓!死してでもこの世界を守れ!!』
そこには、かつて神代と人の世の狭間を守り抜いた騎士たちが立っていた。
「堕天使よ、今こそ清算の時!!」
「我ら円卓が、命を賭してその霊基、その野望を砕いて見せる!」
「クククククク………ッ!!やってみろォォォォォォォ!!!」
ズォォォォォォ!!!と斬撃状の黒炎が円卓の騎士を襲う。
だが、それで砕かれる騎士たちではない。
「無駄だ!!」
「王!」
「道を切り拓け騎士たちよ!
この堕天使だけは………我が手で傷をつける!!」
そう言うと、抑止力の具現だった機構の騎士王が堕天使に向かい進む。
『皆の者!!王を守護しろ!!』
「何故だ……!何故死に絶えた貴様らはそこまで後世の"人"に縋りつく………!?」
「当然だろう」
頭上から声がした。
上を見ると、平安の世を守護した剣士たちがいた。
「新たなる時代に全てを託す!!それこそが我ら人の受け継がれる意思だ!!」
「こっちも行かせてもらうぜぇ頼光!!こちとら日本最後の神代を生き抜いた神秘殺しだからなぁ!」
2人の神秘殺しの一撃が、同時に堕天使の霊基に突き刺さる。
「──────効かぬ………ッ!!効かぬわぁ!!」
彼は全身の黒炎を強く燃やし、剣士たちを退ける。
「いって〜!!糞が!やるじゃねえか堕天使とやら!」
「どいていろ源氏の!」
そう言って飛び出してきたのは、日本の神代の象徴であった。
「タイランッ!!」
平教経が構えた!タイラノ家に伝わる伝家の宝刀、ティラノサウルス拳の構えだ!
「うるるるるるるーーーーっ!!!」
素早く突撃し、鋭いアギトのような両腕が、堕天使の身体をガッシリと挟み込む!
「らぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
飛び上がり猛烈に回転を始める!
「タイラノ!」
一拍の呼吸すら許さぬ猛烈なスクリュー!
「ダンノウラ!」
その様はまさに壇ノ浦の渦巻が如し!
「バスター!」
見よ!あれが彼の『壇ノ浦三段落とし』(タイラノ・ダンノウラ・バスター)!!!
堕天使の霊基は真っ逆さまに地面に突き刺さった!!
「源氏に協力するのは不本意だが、奴に利用されたのが悔しくてな」
「…………………貴様は…………」
「言うな神秘殺し。…………一発は、一発だ」
ニィ、と平氏の棟梁が口端を上げた。
「………………ハァァァァ…………ッ!!」
ガララ……ッと瓦礫を崩しながら堕天使は立ち上がる。
「殺す……ッ!!すべての人間を………殺し────」
彼の目の前に、最果ての槍が迫る。当然、堕天使はそれを止めようとするが、
太陽宿す騎士が、三色の馬上槍持つ騎士が、かつて円卓を崩壊させた反逆の騎士が、
そしてその崩壊の引き金を引いた騎士が、今は一丸となって堕天使の動きを宝具により止める。
「残念だが、我ら人類はお前の好きにはならない」
十三の拘束が解放された、真なる最果ての威力が、全て堕天使に注がれる。
「消えゆくは星の終息(いぶき)、闇へと帰する絶命の潮流(さだめ)………。
穿て!!『最果てに立つ終焉の槍(ロンゴミニアド・ジアザーワン)』!!」
ギャラララララララララァ!!!とすさまじい轟音と共に、宝具の乱流が堕天使を包んだ。
「………………………………貴様は、あの少女を泣かせた」
踵を返し、騎士王は言う。
「それだけだ。貴様を殺すことに、それ以外の理由はない」
◆
────────だが、その怒涛の攻撃を以てしても、堕天使は立ち上がった。
やはり、全能の願望機を宿す存在。一筋や二筋ではその中心に刃は届かない。
「────────────クッ!フフフフフフフフフ………ッ。」
「…………………あいつ……………、わらってやがるぜ…………!?」
「礼を言うとしよう………、貴殿達の攻撃のおかげで、頭が冴えてきた」
そう言うと堕天使は、地面に手を置き非常に広い魔法陣を展開してきた。
「ッ!!何をする気だァ!?」
「待てモードレッド!!」
円卓の騎士の制止を聞かず、一人の騎士が飛び出し攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃が堕天使に届く事はなかった。
「────────────────ッ!!!」
「ほら、ね?君たち英霊にはこういった作戦が一番効くではないか」
彼が魔法陣から召喚したのは、彼ら英霊たちが守護するべき存在たる、無辜の人々であった。
現在は気を失っているような、まるで夢遊病患者のように虚ろにたたずんでいる。
「これから、彼らには自我の無い理想英霊兵になって、君たちと戦ってもらおう」
「──────────────────何だとォ…………!?」
「本来君たちは人々を守る存在なんだろ?攻撃をしたけりゃするがいい。
出来ないよなぁ………!!守るべき存在が攻撃してくるんだからぁ」
ニヤァ………と堕天使は汚らわしくも下衆な笑みを浮かべて英霊たちを挑発する。
「そもそも、我が直接対峙する意味なんてなかったじゃあないか。
君たち英霊が、ただ滅んでくれればそれでいいんだから…………!」
「ふざけ─────────!!」
「おっと、手を出すな………。少しでも近づけば、
この無記名霊基を多数取り込ませて自我の無い英霊兵を完成させよう………」
堕天使は、何か宝石のようなものをいくつか掌の上で転がせながら挑発をする。
「何処までも下衆な野郎だ……………………。」
「聡明と言ってほしいね……。君たちがいけないんだよ?
悪あがきを続けてこの我の計画の邪魔をしたのだから………。
さぁ我が手駒たちよ、英霊をその手で蹂躙せよ」
そう言って男は手に握っていた宝石のような物体を人間たちに投げる。
「オイオイオイ、自分の力で闘ってこそラスボスだろうが」
ダダダダァン!!と発砲音が響く。
堕天使がその音に反応するより早く、彼が握っていた宝石のようなものは砕かれた。
「何者だ………………?」
「名前なんざ正直意味はねぇ」
「ですが私達を顕す言葉はありますわ」
「僕ら一にして複数!そして複数にして一の英霊!」
「えっと…………、その、人造?英……霊────です。」
『アルターエゴ!!』
4人の少女?がそれぞれポーズを決めて己のクラス名を高々と叫ぶ。
「(ねぇアン、やっぱこのポーズダサいよ)」
「(えぇー?ライラさんは可愛い言ってくれましたわよ?)」
「(あいつは完成がおかしィんだよ!)」
「アルターエゴ……………ッ!?そうか………!!
そうか貴様らがァ!!2030年の可能性の原典かぁ!!」
「まぁ、俺たちじゃねぇけどな?あちらのお仲間がお前の言う"それ"だ」
背の低い少女が自分の真上上空を差す。そこには複数人の男女が固まって飛び降りてきた。
「どーーーーーーーもーーーーーーーーーーー!!!ルシファーーーーさーーーーーーん!!!
アン!!!!!!!!!!ビバ!!!!!!!!!!レン!!!!!!!!スでーーーーーーーーす!!!!」
「やかましい!!うっとおしいぞこのアマぁ!!シリアスな場面なんだから少しは〆ろ!!」
「そんなこと言っちゃだめだよぉナハトちゃん〜!!でも可愛い………」
「大丈夫かなこれ…………このままだと僕たち正面衝突しない?」
「その点はご心配なく!私達の目的はあくまで彼の持つアルターエゴ作成スキルを無効にす───」
ゴォォォォォォォォ、と先導して落下していた男女が黒炎に包まれる。
「あぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!ノワルナさぁん!!ライラさぁぁぁぁん!?」
しかし、その黒炎を退けて中から何事もなかったかのように男女が飛び出す。
「……………弱ェ、ま…腹の足しにはなるか」
「んもぉ〜!!あっぶないなぁ!!」
「ありがとうライラ…………。助かったよ……。」
「………………なるほど、どうやら虚実ではないようだな………。」
堕天使は苦虫を噛み潰したような表情をする。
『……………………せいじ?』
『………………私!?』
円卓の騎士の一人が、そして駆けつけた魔術師の数人が
自身と、又は自身の見知った顔と同じ顔の少年少女たちに驚く。
「あー、そこらへんは気にしないようにお願いします」
前髪を後ろに束ねた白モップみたいな少女が分身して各自に弁明する。
「さてそれはそうとして、一斉攻撃です!!」
少女が合図をするとともに、アルターエゴたちは堕天使の周囲にいた人間たちを助け出し、
堕天使に一斉攻撃を開始した。
「さて、これで人質は意味をなさない。勝負あったな堕天使よ」
「ひゃーっはっはっはっはっはっはぁ!!テメェの利用したもんに殺される気分はどうだぁ!?」
「実にいい気味です!!まさにこれぞ自業自得ってやつです!めっちゃアンビバってます!!」
「おのれ……ッ!!おのれェェェェェェェエエエ!!!人と英霊の半端物がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
堕天使は怨念の籠った眼差しで人と英霊の狭間に或る少年少女たちを睨みつけながら、その霊基を崩した。
◆
「……………………死んだか!?」
多勢の中の1人がそう叫び、周囲がざわつく
「──────────────いや。」
「まだ、終わっていない。」
ゴォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!と、紅蓮にして漆黒の炎の柱が燃え上がる。
その中心から、今まで以上の強力な黒き炎を纏った堕天使が出現する。
「まだ…………………立ち上がるだとぉ…………!?」
「我は不滅…………お前たち人類を否定する………
貴殿達がこの世界にある限り………我は滅び往く事はない…!!」
バキィッ!!と堕天使は腹部に巨大な黒水晶を出現させる。
「これぞ我が不滅の証…………ッ!人理の大敵を御した証……ッ!
人類共………!貴様らは絶対に滅びぬ存在を相手取っている………。
その無意味さを、知らぬわけではあるまい………………。」
地平の彼方まで届くほどに巨大な翼を拡げ、堕天使は言う。
「降伏せよ人類よ、英霊よ!!人理滅ぼす大敵と獣の力を前にすれば
お前たちも納得せざるを得まい!!絶望せざるを得まい!!」
『ふざけるなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
怒号が響いた。それは、英霊でも幻霊でもアルターエゴからでもない。
ここに駆けつけた、すさまじい数の魔術師たちからであった。
「……………………何………だとォ………………ッ!?」
『無意味だから何だって言うんだ!!俺たち人類にはぁ!不可能なんざねぇ!!』
『我ら魔術師!!無理があればそれを承知で道理を通す莫迦たちだぁ!!』
『ちょっと!?変なくくりしないでくださいよ!!』
『ここにきている時点でみんな大馬鹿魔術師だぁ!!』
「──────────────それに…………ッ!!」
轟ッ!!と、13の光が天より飛来する。
「………………………………馬鹿なッ!?」
「お前が大敵を御する力は!とうに失われている!!」
オリジンストーンの放蕩息子が力一杯に叫ぶ。
それと同時に飛来するは、かつて人類が確認し、そして御した13の災厄たち。
『さぁ滅ぼそう。我ら滅亡の概念!絶望の化身!!
お前如きに支配されるような小さき存在じゃあないんだよ!堕天使ィ!!』
『私達の進む滅亡と、お前の見るビジョンは違う。悪いねぇルシファー君。』
『そう言うわけだ、残念だが君のその計画には乗っかれない。僕らも危ないからねぇ?』
「大敵……大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵ィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイ!!!」
堕天使は狂ったように攻撃を連打する。しかし、そのすべてがアークエネミーたちによりいなされる。
「はーっはっはっはっはっはっは!!マジ最強ーっ!!
ありがとうー!!人類の希望な最強連合たちよぉー!!」
「めっちゃ調子に乗ってるわあのご子息サマ」
「ま、今回は譲ってやろう。私達空蝉派も頑張ったけど
あいつに騙されていたのは彼だったんだから」
「不本意ですね。獣の力を取り戻して上げたのは私達紋章院ですのに」
「それは私達弦糸だったろう?横取りするなよ紋章院」
「あー?」
「はー?」
『お前らこんなところで喧嘩すんな!!』
大量のアークエネミーたちの一斉掃射によって、ルシファーの肉体は見る影もなくボロボロに崩れ去る。
「大敵ィ……………………!!!!我はお前たちの在り方から抜け出したかった…………!!!
神から蔑まれ、そして忌み嫌われる敵ではなく…………!!神からの寵愛を受ける天使でありたかったァァァァァァァァァ!!!」
「だが、貴方は天使ではなく堕天使へと堕ちた。それは言い逃れの出来ない事実。」
「可愛そうなやつだ。神に気に入られようとした結果神に嫌われたんだからな!」
「おのれェェェェェェェエエエ!!!」
堕天使がなりふり構わず魔術師たちの方向へ攻撃を放つ。
しかし、何者形がその攻撃を止める。
『………………メアリーさん…………っ!』
「大丈夫です……………杞憂さん、もう大丈夫です……私たちの平和を遮る者は、もういません」
「ふん、まぁ随分と小さい奴だったな。何よりもでかくはあったけどよ」
そこに立っているのは、獣……………人類愛の反転せし存在、人類悪の象徴たる者たち
ビーストと呼ばれ、恐れられている獣たちであった。
「いくぞ我が娘たちよ」
一人の少女(?)が手に持つ槍を振るう。
すると天から白馬に乗った複数の天使たち………ワルキューレが舞い降りる。
「にしても、なぜおやじどのがびーすとのわくに?」
「さぁねー………多分私の一面が獣なんだろうなって予測する」
「大方グリムニール辺りじゃないでしょうか?」
「……………………」
ワルキューレたちがその天の使命が形になりしそれぞれの力を使い、堕天使を捕縛する。
「皆さん!!!今こそ!!魔力をガグ様の槍に!!」
『良いだろう!!』
『オッケイ!!』
その昔、人々の妄執が集い形を成した獣……………メアリー・スーが、
そのかつての在り方を倣い夥しい数の魔力を集め、そして束ね併せる。
そしてその束ね、重ね合わせ、編み出した魔力を少しずつ、少しずつ少女の持つ槍に重ね合わせる。
「させるか…………………ッ!!貴様ら………のような……不純なる…………獣共にまで……!!
我が……!我が見下されてたまるかァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!」
「──────────ッ!?こいつ…………すさまじい力!!」
堕天使は、天使たちの拘束を力づくで解こうとする。
ブチ、ビキビキと鎖や布がほどける音がする。
そして────────────────
「「リベル・レギス・アルテマ!!」」
二つの声が響いた。
光弾が放たれ、その一撃が堕天使の脳天を直撃した。
「貴──────────様……………………はっ……………!!」
「キッ!!クキキカァ!!…………娘が、子孫が…………」
「世話になったなぁ!腐れ堕天使!!」
二人の魔術師が、獣を生み出した魔術師と獣に憧れた魔術師が、吐き捨てるように言う。
「準備、完了いたしました!!」
「とどめは任せたぞ、神なる魔術師」
「ありがとう、新しき魔術師」
そういうと、少女はこの場にいる全ての魔力が詰まった槍を……………
いや、もはや弩というにふさわしいほどの一撃を、むき出しになった堕天使の黒水晶にぶつける。
「さらばだ妄執に憑かれし堕天使よ。安らかに眠れ。『大神宣言・揺り動かすもの(フィムブルテュールカッラ・グングニル)』」
パキッ………ピシピシ…………というきしむ音が響き、
そしてその音は次第に大きくなり、最後には黒水晶が砕けるとともに空間中に響き渡った。
◆
「最後の時だ堕天使よ。この一撃を以てして訣別の儀としてくれよう!」
「………………………哀れな天使よ、せめて、安らかに眠れ……………」
『何故だ!!何故だ何故だ何故だ何故だ!?何故貴様らのような影にまで我は見下されなければならない!!
嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!もう地を這いつくばるのは嫌だ!!
あの方の!あの方の寵愛を!!力を!!恩恵を!!受けるのは貴様らのような存在ではない!!
我だ!!被造世界にて頂点にして究極にして絶対なる!!この我でなくてはならないのだァァァァァァァァァ!!!』
もはや原型すらとどめていない堕天使が、4人の英霊に対して突撃する。
いま、最後の戦いが開始される。堕天使の真実が明かされる。
これは、語られることを許されなかった、
堕天使と英霊と、人間の物語
───────────── Fate/Last chaser
だが、しかし、辿り着いた存在がたったの4人だけとは……悲劇この上なし」
ニィ……、と堕天使は口端を釣り上げて邪悪にほほ笑む。
対するは、4人の英霊たち。人類最古の英雄王、人理を守護する抑止の男。
────────────────そして、その2人を影から守ってきた、2つの影。
「所詮人類共は、我が手中にて支配される為の存在に過ぎなかったのだ!!」
周囲は何もない荒野。ただただ漆黒に染まった曇天だけが空を覆う。
業ッ!!と堕天使は翼を拡げ、全身に広がる漆黒の炎を滾らせながら嗤う。
「我が霊基より、七つの力を奪還しようと画策したことは褒めてやろう……!
だが!我が霊基には一体化している聖杯の起源がある!!究極の願望機が!!」
グワバァ、と堕天使の胸が切り開かれ、その中に悍ましく漆黒に染まった盃が光る。
「この聖杯がある限り、貴様らはどのような愚行を画策したとて、我はその上を行く。
お前たちに遺されているのは唯一つ。服従の道だけだ…………ッ!!」
「……………………………………。」
「恐怖で声も出ないか……。絶望を噛みしめそして平伏せ。
究極の願望機………その全てを相手にする恐怖をその人類史に刻め。
そして……………圧倒的なる力に支配される悦びを感じるがいい!!」
「────────────────フッ。」
沈黙を続けていた4人だったが、その沈黙を破ったのは黄金の英雄王であった。
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!フーッハッハッハッハッハッハ!!!
なんという無様だ!呆れ果ててもはや笑いしか出てこぬわ!!」
「………………………………………何がおかしい………………?」
「いやなに………。貴様のような存在が、圧倒的な力などと戯言を抜かすものなのでなぁ……。」
クックック……と喉を鳴らしながら英雄王は続ける。
「我がともに戦い抜いた人類は、貴様の思うほど脆弱ではないぞ?」
瞬間、ドォォォォォォ!!と轟音が響き渡る。
「────────────────なっ!?」
空を覆っていた曇天を破り、数多の英霊たちが、そして魔術師たちが駆けつける。
『我ら英霊総勢1198ただいま到着!!堕天使の野望完遂を阻止いたします!!』
『待て待てぇ!!俺ら現代を生きる魔術師のサポートをなかったことにそんな!』
「………………………………何故だ!?やつらは…………ッ!!
我が聖杯の力を以てして……滅びたはず…………ッ!!」
「残念だったね」
英霊群の中の一人、かつてのトロイアの軍師がほほ笑む。
「最後の一撃が大振りだと空振りするものさ、詰めを誤ったね……ルシファー。」
「────────────っ!だが良い………………。貴様らを相手取るなど容易い事!」
ゴウっ!!と堕天使の身を包む黒炎が周囲一帯を包む。そしてそれらが形となり、
そして無数のルシファーが周囲一帯を埋め尽くした!
「この全てが我であり、そして全てが同等の力を持つ!!
英霊共……ッ!!いくら駆けつけたとて貴様らの存在は有限!!
無限に遍在する我が分身をどのように凌ぎ切────────」
ズギャギャギャギャギャギャァァァァアアアアアア!!!と轟音が響いた。
堕天使の高笑いを遮るように轟いた稲妻が、一帯を覆い尽くす堕天使を跡形残らず焼き払った音だ。
『抑止力の守護者ァ!!ただいまをもってして駆けつけた!!』
「ぺったんこな防人よぉ!!こいつら神性無いからちょっと頼むぜ!」
「TURUGIだ!!こんな時にまでふざけているんじゃない魔導探偵!!」
空を駆ける超巨大な白鯨に乗り、多数の英霊が駆けつける。
「農奴よ人民よ!そして英霊よ!!その手に武器を取り立ち上がれ!
自由を叫び国土を讃え緋天の果てまで此の名を謳え!!謳え歌え唄え謡え唱え我らが高らかなる勝鬨を!!!!
ХА-ХАХАХАААХАХАХАХАХАХАХАААААААААА!!!!!」
「まぁったくやかましい!守護者という物はみなキチガイか!?」
「妖怪絶対殺すマンのお前が言うな偽頼光。」
大鯨が堕天使の前に降り立ち英霊たちが叫ぶ。
『跪けっ!!我らこそ抑止!!人類の歴史をより長く繁栄させるべく動く!!抑止の使者也!!』
その在り方に、堕天使は形相を変え怒りに身を任せ叫ぶ。
「何がより長く繁栄だッ!?その長きに渡る繁栄で何を貴様らは掴んだ!?富か!知識か!!栄光か!?
そのどれも無意味だ!!所詮人は生まれては死ぬ存在!!貴様らの掴んだ物など!!何の意味もない!!」
全身を包む漆黒の炎を更に滾らせながら、彼は叫ぶ。
そんな中、一人の覆面の男が大鯨から飛び降り堕天使の目の前に立つ。
「堕天使さんよ、アンタは言ったな。人類すべてを支配すると」
「────────チッ!!」
ゴウッ、と黒炎を拡げ壁のように自身の分身を作成する堕天使。
「俺たち人類は、全て己の手で世界を切り開いてきた。それなのにその全てを否定しようって言うのかい」
だがその堕天使の生み出した分身は、ボロボロと崩れ落ちていく。
「そんなバカげたことを本気で俺たち人類にやろうって言うんなら、俺は、俺たちは、こう答えてやる。」
スタッ、と覆面の男の横に同じく一人の英霊が着地する。
そしてすさまじい速さで助走を付け、堕天使に対して硬く拳を握った。
「”いやだね”。お前のような屑に先導される人理なぞ、まっぴらだ」
ドグワシャァッ!!!とすさまじい轟音が響き、堕天使の顔面に英霊の拳が入った。
◆
「お……ッのれぇ…………………!!」
だが、少しよろめくも堕天使は立ち上がり、すぐさま攻撃態勢に移る。
「無限に遍在する我が権能を破壊するとは………!!だが!例え数が一人であろうと!
圧倒的なる力を前にしたならば戦意もそがれるであろう!!」
バキッ!!ガキャメキガギメギメギィ!!とすさまじい音と共に堕天使の霊基が変化する。
「…………………変容拡大………………。」
「そうだ………ッ!我が力は必ず貴様たちの上を往く!!
もはや!我が力を貴様らが超える事は出来ん!!」
「それはどうかな?」
声が聞こえた。すると周囲に、多数の英霊が取り囲んでいるのが見えた。
「──────────────これは…………っ!?」
『幻霊だからと………我らを舐めない方が良い』
そう、彼らは英霊ではなく、"幻霊"。英霊になれなかった存在達。
「クヒッ、クヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!残念でしたねぇ!!
私達は幻霊!!例えその願望機を以てしても消え入る事はありません!
何せ!!すでに存在が希薄一歩手前なんですからねぇ!!」
洗脳の理を宿す少女が攻撃を仕掛ける。すると、その一撃一撃が
拡大した堕天使の在り方を次第に縮小させ元の霊基へと戻していった。
「何故………っ!?何故英霊の出来損ないのお前たちが!」
「分からないというのなら、お前には永劫にわからないだろうね」
焼けすすけた袴を纏う少女が、龍を放ちながら攻撃を続ける。
「確かに私たちは過去は災害であったり何だったりでしたが!!
それでも滅びゆく人類をただ見ているだけって程人でなしじゃないんですよ!!」
少女が手からワーム上の化け物を放出しつつ応戦する。
「所詮は出来損ない……!!貴様らのような存在などに!!何故我が計画を邪魔されねばならない!!」
「出来損ない、大いに結構!!」
カーン!!と木づちの音が響く。
「例え我らが人でなしであろうと出来損ないであろうと!!
お前が行った数多くの人の命を捨てた行為!誰が見逃そうか!!」
ォォォォォ………と何やら大きな音が近づいてくる。
「その哀れなる計画の末の妄執、この私が裁こう、否……私が裁かなくてはならない」
その近づいてくる音は、やがて轟音となりそして堕天使に回避不能の一撃を与える。
「───────────判決は死刑だ。その身にて執行を受けよ」
ゴォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!と、無限の理を宿す蛇龍が堕天使を貫いた。
◆
「…………………ッ!!ガハァッ!!」
『やったか!?』
だが、その期待もむなしく堕天使は立ちはだかる。
「───────惨たらしき死を与えてほしいか………。
ならば、望み通りくれてやろう…………ッ!!」
そう堕天使が言うと、周囲が漆黒の闇に覆われ始める。
「…………………これは…………!」
「テクスチャー……変化適応…!物理法則書き換え………。
我が周囲に存在するものは……………みな"死に絶える"……。」
「なにぃ………………!?」
ギキィ………ッ!と堕天使は己の黒炎を剣状に変化させ臨戦態勢をとる。
「これで、お前たちの攻撃は全て無意味となった……ッ!
さぁ死に絶えろ英霊共………………我に逆らった愚行を悔いて死ね!!」
だが、その言葉が真実となることはなかった。
パリーン!!とその彼を覆うとしていた漆黒の闇が割れる。
それと同時に、巨大な最果ての槍の一撃が堕天使を襲う。
「───────────何奴!?」
『ネガ・テクスチャを完成させるな!!我ら円卓!死してでもこの世界を守れ!!』
そこには、かつて神代と人の世の狭間を守り抜いた騎士たちが立っていた。
「堕天使よ、今こそ清算の時!!」
「我ら円卓が、命を賭してその霊基、その野望を砕いて見せる!」
「クククククク………ッ!!やってみろォォォォォォォ!!!」
ズォォォォォォ!!!と斬撃状の黒炎が円卓の騎士を襲う。
だが、それで砕かれる騎士たちではない。
「無駄だ!!」
「王!」
「道を切り拓け騎士たちよ!
この堕天使だけは………我が手で傷をつける!!」
そう言うと、抑止力の具現だった機構の騎士王が堕天使に向かい進む。
『皆の者!!王を守護しろ!!』
「何故だ……!何故死に絶えた貴様らはそこまで後世の"人"に縋りつく………!?」
「当然だろう」
頭上から声がした。
上を見ると、平安の世を守護した剣士たちがいた。
「新たなる時代に全てを託す!!それこそが我ら人の受け継がれる意思だ!!」
「こっちも行かせてもらうぜぇ頼光!!こちとら日本最後の神代を生き抜いた神秘殺しだからなぁ!」
2人の神秘殺しの一撃が、同時に堕天使の霊基に突き刺さる。
「──────効かぬ………ッ!!効かぬわぁ!!」
彼は全身の黒炎を強く燃やし、剣士たちを退ける。
「いって〜!!糞が!やるじゃねえか堕天使とやら!」
「どいていろ源氏の!」
そう言って飛び出してきたのは、日本の神代の象徴であった。
「タイランッ!!」
平教経が構えた!タイラノ家に伝わる伝家の宝刀、ティラノサウルス拳の構えだ!
「うるるるるるるーーーーっ!!!」
素早く突撃し、鋭いアギトのような両腕が、堕天使の身体をガッシリと挟み込む!
「らぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
飛び上がり猛烈に回転を始める!
「タイラノ!」
一拍の呼吸すら許さぬ猛烈なスクリュー!
「ダンノウラ!」
その様はまさに壇ノ浦の渦巻が如し!
「バスター!」
見よ!あれが彼の『壇ノ浦三段落とし』(タイラノ・ダンノウラ・バスター)!!!
堕天使の霊基は真っ逆さまに地面に突き刺さった!!
「源氏に協力するのは不本意だが、奴に利用されたのが悔しくてな」
「…………………貴様は…………」
「言うな神秘殺し。…………一発は、一発だ」
ニィ、と平氏の棟梁が口端を上げた。
「………………ハァァァァ…………ッ!!」
ガララ……ッと瓦礫を崩しながら堕天使は立ち上がる。
「殺す……ッ!!すべての人間を………殺し────」
彼の目の前に、最果ての槍が迫る。当然、堕天使はそれを止めようとするが、
太陽宿す騎士が、三色の馬上槍持つ騎士が、かつて円卓を崩壊させた反逆の騎士が、
そしてその崩壊の引き金を引いた騎士が、今は一丸となって堕天使の動きを宝具により止める。
「残念だが、我ら人類はお前の好きにはならない」
十三の拘束が解放された、真なる最果ての威力が、全て堕天使に注がれる。
「消えゆくは星の終息(いぶき)、闇へと帰する絶命の潮流(さだめ)………。
穿て!!『最果てに立つ終焉の槍(ロンゴミニアド・ジアザーワン)』!!」
ギャラララララララララァ!!!とすさまじい轟音と共に、宝具の乱流が堕天使を包んだ。
「………………………………貴様は、あの少女を泣かせた」
踵を返し、騎士王は言う。
「それだけだ。貴様を殺すことに、それ以外の理由はない」
◆
────────だが、その怒涛の攻撃を以てしても、堕天使は立ち上がった。
やはり、全能の願望機を宿す存在。一筋や二筋ではその中心に刃は届かない。
「────────────クッ!フフフフフフフフフ………ッ。」
「…………………あいつ……………、わらってやがるぜ…………!?」
「礼を言うとしよう………、貴殿達の攻撃のおかげで、頭が冴えてきた」
そう言うと堕天使は、地面に手を置き非常に広い魔法陣を展開してきた。
「ッ!!何をする気だァ!?」
「待てモードレッド!!」
円卓の騎士の制止を聞かず、一人の騎士が飛び出し攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃が堕天使に届く事はなかった。
「────────────────ッ!!!」
「ほら、ね?君たち英霊にはこういった作戦が一番効くではないか」
彼が魔法陣から召喚したのは、彼ら英霊たちが守護するべき存在たる、無辜の人々であった。
現在は気を失っているような、まるで夢遊病患者のように虚ろにたたずんでいる。
「これから、彼らには自我の無い理想英霊兵になって、君たちと戦ってもらおう」
「──────────────────何だとォ…………!?」
「本来君たちは人々を守る存在なんだろ?攻撃をしたけりゃするがいい。
出来ないよなぁ………!!守るべき存在が攻撃してくるんだからぁ」
ニヤァ………と堕天使は汚らわしくも下衆な笑みを浮かべて英霊たちを挑発する。
「そもそも、我が直接対峙する意味なんてなかったじゃあないか。
君たち英霊が、ただ滅んでくれればそれでいいんだから…………!」
「ふざけ─────────!!」
「おっと、手を出すな………。少しでも近づけば、
この無記名霊基を多数取り込ませて自我の無い英霊兵を完成させよう………」
堕天使は、何か宝石のようなものをいくつか掌の上で転がせながら挑発をする。
「何処までも下衆な野郎だ……………………。」
「聡明と言ってほしいね……。君たちがいけないんだよ?
悪あがきを続けてこの我の計画の邪魔をしたのだから………。
さぁ我が手駒たちよ、英霊をその手で蹂躙せよ」
そう言って男は手に握っていた宝石のような物体を人間たちに投げる。
「オイオイオイ、自分の力で闘ってこそラスボスだろうが」
ダダダダァン!!と発砲音が響く。
堕天使がその音に反応するより早く、彼が握っていた宝石のようなものは砕かれた。
「何者だ………………?」
「名前なんざ正直意味はねぇ」
「ですが私達を顕す言葉はありますわ」
「僕ら一にして複数!そして複数にして一の英霊!」
「えっと…………、その、人造?英……霊────です。」
『アルターエゴ!!』
4人の少女?がそれぞれポーズを決めて己のクラス名を高々と叫ぶ。
「(ねぇアン、やっぱこのポーズダサいよ)」
「(えぇー?ライラさんは可愛い言ってくれましたわよ?)」
「(あいつは完成がおかしィんだよ!)」
「アルターエゴ……………ッ!?そうか………!!
そうか貴様らがァ!!2030年の可能性の原典かぁ!!」
「まぁ、俺たちじゃねぇけどな?あちらのお仲間がお前の言う"それ"だ」
背の低い少女が自分の真上上空を差す。そこには複数人の男女が固まって飛び降りてきた。
「どーーーーーーーもーーーーーーーーーーー!!!ルシファーーーーさーーーーーーん!!!
アン!!!!!!!!!!ビバ!!!!!!!!!!レン!!!!!!!!スでーーーーーーーーす!!!!」
「やかましい!!うっとおしいぞこのアマぁ!!シリアスな場面なんだから少しは〆ろ!!」
「そんなこと言っちゃだめだよぉナハトちゃん〜!!でも可愛い………」
「大丈夫かなこれ…………このままだと僕たち正面衝突しない?」
「その点はご心配なく!私達の目的はあくまで彼の持つアルターエゴ作成スキルを無効にす───」
ゴォォォォォォォォ、と先導して落下していた男女が黒炎に包まれる。
「あぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!ノワルナさぁん!!ライラさぁぁぁぁん!?」
しかし、その黒炎を退けて中から何事もなかったかのように男女が飛び出す。
「……………弱ェ、ま…腹の足しにはなるか」
「んもぉ〜!!あっぶないなぁ!!」
「ありがとうライラ…………。助かったよ……。」
「………………なるほど、どうやら虚実ではないようだな………。」
堕天使は苦虫を噛み潰したような表情をする。
『……………………せいじ?』
『………………私!?』
円卓の騎士の一人が、そして駆けつけた魔術師の数人が
自身と、又は自身の見知った顔と同じ顔の少年少女たちに驚く。
「あー、そこらへんは気にしないようにお願いします」
前髪を後ろに束ねた白モップみたいな少女が分身して各自に弁明する。
「さてそれはそうとして、一斉攻撃です!!」
少女が合図をするとともに、アルターエゴたちは堕天使の周囲にいた人間たちを助け出し、
堕天使に一斉攻撃を開始した。
「さて、これで人質は意味をなさない。勝負あったな堕天使よ」
「ひゃーっはっはっはっはっはっはぁ!!テメェの利用したもんに殺される気分はどうだぁ!?」
「実にいい気味です!!まさにこれぞ自業自得ってやつです!めっちゃアンビバってます!!」
「おのれ……ッ!!おのれェェェェェェェエエエ!!!人と英霊の半端物がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
堕天使は怨念の籠った眼差しで人と英霊の狭間に或る少年少女たちを睨みつけながら、その霊基を崩した。
◆
「……………………死んだか!?」
多勢の中の1人がそう叫び、周囲がざわつく
「──────────────いや。」
「まだ、終わっていない。」
ゴォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!と、紅蓮にして漆黒の炎の柱が燃え上がる。
その中心から、今まで以上の強力な黒き炎を纏った堕天使が出現する。
「まだ…………………立ち上がるだとぉ…………!?」
「我は不滅…………お前たち人類を否定する………
貴殿達がこの世界にある限り………我は滅び往く事はない…!!」
バキィッ!!と堕天使は腹部に巨大な黒水晶を出現させる。
「これぞ我が不滅の証…………ッ!人理の大敵を御した証……ッ!
人類共………!貴様らは絶対に滅びぬ存在を相手取っている………。
その無意味さを、知らぬわけではあるまい………………。」
地平の彼方まで届くほどに巨大な翼を拡げ、堕天使は言う。
「降伏せよ人類よ、英霊よ!!人理滅ぼす大敵と獣の力を前にすれば
お前たちも納得せざるを得まい!!絶望せざるを得まい!!」
『ふざけるなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
怒号が響いた。それは、英霊でも幻霊でもアルターエゴからでもない。
ここに駆けつけた、すさまじい数の魔術師たちからであった。
「……………………何………だとォ………………ッ!?」
『無意味だから何だって言うんだ!!俺たち人類にはぁ!不可能なんざねぇ!!』
『我ら魔術師!!無理があればそれを承知で道理を通す莫迦たちだぁ!!』
『ちょっと!?変なくくりしないでくださいよ!!』
『ここにきている時点でみんな大馬鹿魔術師だぁ!!』
「──────────────それに…………ッ!!」
轟ッ!!と、13の光が天より飛来する。
「………………………………馬鹿なッ!?」
「お前が大敵を御する力は!とうに失われている!!」
オリジンストーンの放蕩息子が力一杯に叫ぶ。
それと同時に飛来するは、かつて人類が確認し、そして御した13の災厄たち。
『さぁ滅ぼそう。我ら滅亡の概念!絶望の化身!!
お前如きに支配されるような小さき存在じゃあないんだよ!堕天使ィ!!』
『私達の進む滅亡と、お前の見るビジョンは違う。悪いねぇルシファー君。』
『そう言うわけだ、残念だが君のその計画には乗っかれない。僕らも危ないからねぇ?』
「大敵……大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵大敵ィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイ!!!」
堕天使は狂ったように攻撃を連打する。しかし、そのすべてがアークエネミーたちによりいなされる。
「はーっはっはっはっはっはっは!!マジ最強ーっ!!
ありがとうー!!人類の希望な最強連合たちよぉー!!」
「めっちゃ調子に乗ってるわあのご子息サマ」
「ま、今回は譲ってやろう。私達空蝉派も頑張ったけど
あいつに騙されていたのは彼だったんだから」
「不本意ですね。獣の力を取り戻して上げたのは私達紋章院ですのに」
「それは私達弦糸だったろう?横取りするなよ紋章院」
「あー?」
「はー?」
『お前らこんなところで喧嘩すんな!!』
大量のアークエネミーたちの一斉掃射によって、ルシファーの肉体は見る影もなくボロボロに崩れ去る。
「大敵ィ……………………!!!!我はお前たちの在り方から抜け出したかった…………!!!
神から蔑まれ、そして忌み嫌われる敵ではなく…………!!神からの寵愛を受ける天使でありたかったァァァァァァァァァ!!!」
「だが、貴方は天使ではなく堕天使へと堕ちた。それは言い逃れの出来ない事実。」
「可愛そうなやつだ。神に気に入られようとした結果神に嫌われたんだからな!」
「おのれェェェェェェェエエエ!!!」
堕天使がなりふり構わず魔術師たちの方向へ攻撃を放つ。
しかし、何者形がその攻撃を止める。
『………………メアリーさん…………っ!』
「大丈夫です……………杞憂さん、もう大丈夫です……私たちの平和を遮る者は、もういません」
「ふん、まぁ随分と小さい奴だったな。何よりもでかくはあったけどよ」
そこに立っているのは、獣……………人類愛の反転せし存在、人類悪の象徴たる者たち
ビーストと呼ばれ、恐れられている獣たちであった。
「いくぞ我が娘たちよ」
一人の少女(?)が手に持つ槍を振るう。
すると天から白馬に乗った複数の天使たち………ワルキューレが舞い降りる。
「にしても、なぜおやじどのがびーすとのわくに?」
「さぁねー………多分私の一面が獣なんだろうなって予測する」
「大方グリムニール辺りじゃないでしょうか?」
「……………………」
ワルキューレたちがその天の使命が形になりしそれぞれの力を使い、堕天使を捕縛する。
「皆さん!!!今こそ!!魔力をガグ様の槍に!!」
『良いだろう!!』
『オッケイ!!』
その昔、人々の妄執が集い形を成した獣……………メアリー・スーが、
そのかつての在り方を倣い夥しい数の魔力を集め、そして束ね併せる。
そしてその束ね、重ね合わせ、編み出した魔力を少しずつ、少しずつ少女の持つ槍に重ね合わせる。
「させるか…………………ッ!!貴様ら………のような……不純なる…………獣共にまで……!!
我が……!我が見下されてたまるかァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!」
「──────────ッ!?こいつ…………すさまじい力!!」
堕天使は、天使たちの拘束を力づくで解こうとする。
ブチ、ビキビキと鎖や布がほどける音がする。
そして────────────────
「「リベル・レギス・アルテマ!!」」
二つの声が響いた。
光弾が放たれ、その一撃が堕天使の脳天を直撃した。
「貴──────────様……………………はっ……………!!」
「キッ!!クキキカァ!!…………娘が、子孫が…………」
「世話になったなぁ!腐れ堕天使!!」
二人の魔術師が、獣を生み出した魔術師と獣に憧れた魔術師が、吐き捨てるように言う。
「準備、完了いたしました!!」
「とどめは任せたぞ、神なる魔術師」
「ありがとう、新しき魔術師」
そういうと、少女はこの場にいる全ての魔力が詰まった槍を……………
いや、もはや弩というにふさわしいほどの一撃を、むき出しになった堕天使の黒水晶にぶつける。
「さらばだ妄執に憑かれし堕天使よ。安らかに眠れ。『大神宣言・揺り動かすもの(フィムブルテュールカッラ・グングニル)』」
パキッ………ピシピシ…………というきしむ音が響き、
そしてその音は次第に大きくなり、最後には黒水晶が砕けるとともに空間中に響き渡った。
◆
「最後の時だ堕天使よ。この一撃を以てして訣別の儀としてくれよう!」
「………………………哀れな天使よ、せめて、安らかに眠れ……………」
『何故だ!!何故だ何故だ何故だ何故だ!?何故貴様らのような影にまで我は見下されなければならない!!
嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!もう地を這いつくばるのは嫌だ!!
あの方の!あの方の寵愛を!!力を!!恩恵を!!受けるのは貴様らのような存在ではない!!
我だ!!被造世界にて頂点にして究極にして絶対なる!!この我でなくてはならないのだァァァァァァァァァ!!!』
もはや原型すらとどめていない堕天使が、4人の英霊に対して突撃する。
いま、最後の戦いが開始される。堕天使の真実が明かされる。
これは、語られることを許されなかった、
堕天使と英霊と、人間の物語
───────────── Fate/Last chaser
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