最終更新:ID:eYA0whBsyA 2020年10月12日(月) 01:40:21履歴
前回のあらすじ
亜種聖杯戦争が安定してしまった世界。
聖杯戦争を開催し、彼にとっての永遠のヒーロー、セイバーを召喚した主催者。
そこから逃げ出した、一人のホムンクルス。
場面は変わって、夜の学校。化け物の群れから逃げる少年、姫咲薫。
彼は身を護るため、手の痣という参加資格を持っていたため、意を決して召喚の陣を描く。
呼び出されたのは、二人一組。アーチャーのサーヴァント、キスキル&リラ。
ここより運命がはじまる。
そして、脱走したホムンクルス。
彼女もまた、決死の呼びかけからサーヴァントを召喚する。
呼び出されたのは、天空を統べる王。ランサーのサーヴァント、■■■■(一応混乱しないようSS中で出ていない真名は伏字でお送りします)。
追っ手を一掃したランサーに、名もなきホムンクルスは言う。自分にはご主人様となる人間が必要なのだと。
神であるランサーには無理な命題。なら、と。ランサーはホムンクルスを連れ、何とかしてふさわしい主人を見つけられないか模索し始めた。
これもまた、運命の始まり。
Fate/Split Sisters
**
「さて、自己紹介も一応済んだね。」
「うん!あたしはキスキル!」「そう。私はリラ。」
「「そしてわれらがマスターは〜〜〜〜〜〜姫咲薫くん!
くん、で間違いないよね?」」
「それはなんですか。僕の性別に疑問があるんですか。」
心当たりは、なくはない。名前だの、顔立ちだのが悪いと。よく理不尽な文句を言われる。
「いやいや、もっと誇っていいんだよ!サキュバスだってやれるくらい、悪くない見た目だと思うよね?リラ。」
「うん、あまりにも素敵すぎて、マスターの処女性は失われるべきではないとおもったところ。プロジェクト:夜這いは破棄決定。」
なんだか失礼なことを見た目年下の少女たちに好き放題言われているが、忘れちゃいけない、相手はサーヴァント、英霊だ。
僕なんかよりよっぽど偉くて、強い。敬意は忘れてはいけない。
「えっと、アーチャー。でいいんですよね。その、まず聖杯にかける願いから聞いてもいいでしょうか。」
「堅苦しいよ薫〜!です、ます、禁止!」「それは同感。でもとりあえず、質問に答えよう。」
「あたしキスキルの願いは、今の人の世の実地調査!まあ、アダムの元カノとして?確認する責務があると思うんだよね〜」
「私リラの願いは、今の人の世の実地調査。まあ、そこは同じだけど。古の悪魔として。どれだけ神どもが消え失せたかは見ておきたいな。」
「「多分の話で、ほんとのところは覚えてないんだけど。」」
「覚えてないというのはともかくとして。とりあえず、街を案内したりすればいい…のかな。その願いって。」
覚えてない、というのは気になるが、隠してるにしろ記憶喪失にしろそこを追及する意味はない。
「まあ、ざっくり言えばそーゆーこと!そりゃ知識はもらったけど、この目で見たいにきまってる!」
「それに。悪魔なのに聖杯に願うなんて、ムカつくからね。聖杯を呪うほど憎くもないけど。」
「わかった。じゃあ最低限の挨拶と、情報共有もしたし。
これから、よろしく。キスキル。リラ。」
「おうよ!」「もちろん。」「「せっかくなら、勝ちに行こう。」」
…そろそろ教室の扉が限界みたいだ。
「早速だけど、今の状況。敵に囲まれてるんだよね。実はそれもあって、こんなところで召喚したんだけど。」
「まあサーヴァントとしてははっきり言って弱小なあたしたちですが!」「あの程度の使い魔なら、いくらでも蹴散らして見せよう。」
そう言って扉をけ破った二人は。
言葉通り、有象無象を蹴散らしていった――――
**
「さて、こんなもんさね!」「薫、出てきても大丈夫だよ。」
「ありがとう、アーチャー。…さすがサーヴァントだね。」
三階からは邪悪な気配が失せていた。…だいぶボロボロだが、仕方ない。
二人が何か言葉を投げかけるたびに、敵が燃えて、裂けて、押しつぶされて。
…もしかして、言葉を『投げかける』からアーチャーなのだろうか。出鱈目だ。
「ああそうだ!さっきから思ってたんだけど」「私もおそらく同感なんだけど。」
「「アーチャーって呼び方、どっちかわからないし無味乾燥な仕事仲間みたい、もっと仲よくしよう?」」
はあ。
「えっと、どうすれば。それ以外の呼び名ってまさか―――」
「そうよ!そのまさかよ!」「ずばり真名で呼んでもらったほうがわかりやすい。呼んで。」
「さ、さすがにちょっと、真名をあけっぴろげにするのはまずいのでは」
「ところがそれが」「そうでもない」「いまから語って」「しんぜよう」
「まず、あたしたちが分かれて行動するとき!どっちを呼んでるかわからないと、単純に困るでしょう?」
「それに、私たちの真名なんて、"わかったところで、どうにもならない"。」
「あたしたちの、単独行動スキル。」「私たちの、"自らの霊基を発展させる"スキル。」
「「これらがある限り、デメリットはなく、メリットはある。」」
…意外と筋が通っている気が、する。後者のスキルは初耳だが。
「…じゃあ、キスキル。リラ。そう呼ぶよ。うん。そのほうが仲良くなれるってのは、同感だ。」
「やったー!さすが薫だね、話が分かる。」「うん。薫は、いいお婿さんかお嫁さんになるよ。どっちでもいけるね。」
…こっちの下の名前呼びがデフォルトなのは、もはや突っ込むまい…。
「さあ、下へ!この場所から脱出しなきゃ、ね!」「現代における男子高校生の部屋、楽しみだね。」
まあ一人暮らしだし、そこについてはいいけれど。いや、些細なことを気にしている場合ではないというのが正しい。
未だここは、何者かの狩場と化したままなのだから―――――――――――
**
「どうですか、マスター。あたしよりキャスターのそしつありそうですよね、マスターって。てきがどこにいるかなんて、はあくしちゃってるんじゃないですか?」
「…ああ。そろそろ降りてくる。…不本意だが、アタシの素の魔力じゃ目玉どもを呼ぶのが限界だ。
…服をよこせ。もっととびっきりのを用意する必要がある。魔力増強もできるんだろう?」
「あいあーい。ちょうかわいいのをよういしましたよ。たとえ28さいのマスターでもプリチーに…」
「…なんとかならないのかその言語センスと服のセンスは。」
「マスターのよぶばけものよりはセンスいいとおもうんだけどなあ…。」
初めての交戦がちかい。それは、聖杯戦争の開幕を意味する――――――――――――――――――――――――
**
「ここか。争いを起こさんとする不届き者は。内部はあまり視えないな。とりあえず、ここで待機しておこう。速やかに仕留めるために。」
**
「市長直々に街の隅々に監視カメラを設置してあるとは、誰も思わんだろうな。セイバー、見るか?
いずれ打ち倒すべき英雄どもの戦いが始まるぞ。」
「いえ、私は。」
争いを望んでなどいない、とは言えなかった。
**
「うん。うん。そうだね、バーサーカー。ありがとう、あなたの見ているものが私にも見えるよ。」
「乱入の必要性は…さすがにまだなさそうかな。でも、全てを見極めなきゃね。」
「聖杯にふさわしい者が、果たしているのか。」
**
森の奥深くに潜んで。
「あの、ランサー。意気揚々としていたのはどうしたのですか。」
「ああすまん、どうも誰かに視られている気がしてな。
無論俺を監視することなど不可能だが、気持ち悪い。背筋が凍る。
それに、よく考えたら、どこでどうやって貴様ほどの女にふさわしい主人を見つけるというのだ!」
「例えば。直接見て決めるというのは。私が。」
「いいや、それだけでは許さん。俺が。
そうだ!聖杯とやら、あれで理想の主人を創るというのはどうだ!?」
「せいはい、とは。」
「…まさか、聖杯戦争と知らず、何も用意せず俺ほどの者を呼んだのか?
ははは!それもまた好。ではとりあえず俺が貴様にいろいろ教えてやらねばな!
…ふふふ。俺が父親の真似事のようなことを、まっとうにやれるとはな。」
**
…一階まで降りてきた。瘴気が濃い。
「というか、さっきからずっと思ってたんだけど」「腐った肉のにおいがするよね。」「あの肉の柱とか、気持ち悪い!」「あの変な卵塊とか、最悪。」
…うん。僕もそろそろ限界だ。この学校は異界化している。
でもとりあえず、この階まで来たなら。"首謀者"がいるはずだ。ほら、出口で待ち構えている。
「―――――――――あーよかったよかった。ちゃんと"当たり"じゃん。」
「そうですね。とりあえずまじゅつしのけはいがするからぶちまけよう、なんてマスターがいったときはしょうきをうたがいましたけど。」
「おいおい魔術師に、しかも聖杯戦争に参加するような奴に正気を求めるのかい?さすがにキャスターは堕ちても甘ちゃん、ってわけか。」
会話しているマスターとサーヴァントに近づく。珍妙な二人組だった。
1人は女の人。美人の部類に入るけど、そのフリフリドレスは似合ってない。もう1人…?はおそらくサーヴァント。ちいさな妖精みたいだ。
「…こんばんは。あなたですね。この学校をこんなにしたのは。」
「ああそうだよマスターさん。こんなにしても結果的に、お前以外巻き込んでないんだからいいだろう?」
「その言い方、一般人を巻き込んでもかまわないように聞こえるんだけど。」「その言い方、薫なら巻き込んでもいいように聞こえるけど。」
「サーヴァントは二人…。珍しいパターンだね。」
目の前の女はこちらを無視して話を続ける。
「でも。負ける要素はなさそうだし。
ここで仕留めるとするか―――――――頼むよ。キャスター!」
女から湧き上がる魔力の奔流。横で何やら口を動かしているキャスター。マスターを支援するタイプのサーヴァントか。
「なんだか知らないけど!」「こちらには数の利がある。」「仕留めるよ!リラ!」「速やかにね。キスキル。」
「「崩れろ!!!!」」
原初の言葉が天井に響き。キャスターたちの上に崩れ落ちていく。
(殺すほどではない…はず。でも、容赦している場合でもない!)
そうして、大量の瓦礫は。
地表から現れた無数の触手に、受け止められた――――――――――――――――――――――――
**
「はははははは!!!!キャスター、あんた大したもんだよ!ここまで理想に近いモノを呼べるとは!」
「よんだのはマスターですよ。あたしはてをかしただけです。」
全長7mくらいか?いや、わからない。そのあまりに大きい化け物は、天井につっかえて窮屈そうにしていた。
無数の触手。びっしりと並んだ目玉。そう、冒涜的としか表現できない見た目だった。
はっきりしているのは。
「ねえ薫、大変申し上げにくいんだけど」「多分あれは、私たちじゃ勝てない。」
――――――――詰んでいる、ということだけ。
目玉のすべてがこちらを見据える。もうすぐあの触手で、絞殺されるのだろう。粉砕されるのかもしれない。
10、20。いくらかの触手が、飛んできた。自然と恐怖で目をつぶってしまう。
ああ、父さん。母さん。ごめんなさい。
僕も、駄目だったみたいだ――――――――――――――――――――――――
「もう大丈夫だ。目を開けてよいぞ。」
聞いたことのない声だ。誰だろう。
…そもそも、僕は生きているのか。
「薫!薫!大丈夫だよ。アサシンちゃんが助けてくれたの!」「まあ、未だあの化け物と戦闘中だから、油断はだめだけど。」
すでに聞きなじんだ声に誘われ、ようやく目を開ける。
目に入ったのは、切り捨てられた大量の触手と、化け物相手に大立ち回りをしているキスキル&リラ。
そして、高速で動き回り次から次へと化け物の身体を削いでいく、黒い和服の人影。
あれが、アサシンちゃん、というやつなのだろうか。
とにかく、外から差し込む月明かりに映えるその動きは、とても美しくて。
化け物が完全に動きを止めるまで、僕は、見惚れることしかできなかった。
第一話:終
亜種聖杯戦争が安定してしまった世界。
聖杯戦争を開催し、彼にとっての永遠のヒーロー、セイバーを召喚した主催者。
そこから逃げ出した、一人のホムンクルス。
場面は変わって、夜の学校。化け物の群れから逃げる少年、姫咲薫。
彼は身を護るため、手の痣という参加資格を持っていたため、意を決して召喚の陣を描く。
呼び出されたのは、二人一組。アーチャーのサーヴァント、キスキル&リラ。
ここより運命がはじまる。
そして、脱走したホムンクルス。
彼女もまた、決死の呼びかけからサーヴァントを召喚する。
呼び出されたのは、天空を統べる王。ランサーのサーヴァント、■■■■(一応混乱しないようSS中で出ていない真名は伏字でお送りします)。
追っ手を一掃したランサーに、名もなきホムンクルスは言う。自分にはご主人様となる人間が必要なのだと。
神であるランサーには無理な命題。なら、と。ランサーはホムンクルスを連れ、何とかしてふさわしい主人を見つけられないか模索し始めた。
これもまた、運命の始まり。
Fate/Split Sisters
**
「さて、自己紹介も一応済んだね。」
「うん!あたしはキスキル!」「そう。私はリラ。」
「「そしてわれらがマスターは〜〜〜〜〜〜姫咲薫くん!
くん、で間違いないよね?」」
「それはなんですか。僕の性別に疑問があるんですか。」
心当たりは、なくはない。名前だの、顔立ちだのが悪いと。よく理不尽な文句を言われる。
「いやいや、もっと誇っていいんだよ!サキュバスだってやれるくらい、悪くない見た目だと思うよね?リラ。」
「うん、あまりにも素敵すぎて、マスターの処女性は失われるべきではないとおもったところ。プロジェクト:夜這いは破棄決定。」
なんだか失礼なことを見た目年下の少女たちに好き放題言われているが、忘れちゃいけない、相手はサーヴァント、英霊だ。
僕なんかよりよっぽど偉くて、強い。敬意は忘れてはいけない。
「えっと、アーチャー。でいいんですよね。その、まず聖杯にかける願いから聞いてもいいでしょうか。」
「堅苦しいよ薫〜!です、ます、禁止!」「それは同感。でもとりあえず、質問に答えよう。」
「あたしキスキルの願いは、今の人の世の実地調査!まあ、アダムの元カノとして?確認する責務があると思うんだよね〜」
「私リラの願いは、今の人の世の実地調査。まあ、そこは同じだけど。古の悪魔として。どれだけ神どもが消え失せたかは見ておきたいな。」
「「多分の話で、ほんとのところは覚えてないんだけど。」」
「覚えてないというのはともかくとして。とりあえず、街を案内したりすればいい…のかな。その願いって。」
覚えてない、というのは気になるが、隠してるにしろ記憶喪失にしろそこを追及する意味はない。
「まあ、ざっくり言えばそーゆーこと!そりゃ知識はもらったけど、この目で見たいにきまってる!」
「それに。悪魔なのに聖杯に願うなんて、ムカつくからね。聖杯を呪うほど憎くもないけど。」
「わかった。じゃあ最低限の挨拶と、情報共有もしたし。
これから、よろしく。キスキル。リラ。」
「おうよ!」「もちろん。」「「せっかくなら、勝ちに行こう。」」
…そろそろ教室の扉が限界みたいだ。
「早速だけど、今の状況。敵に囲まれてるんだよね。実はそれもあって、こんなところで召喚したんだけど。」
「まあサーヴァントとしてははっきり言って弱小なあたしたちですが!」「あの程度の使い魔なら、いくらでも蹴散らして見せよう。」
そう言って扉をけ破った二人は。
言葉通り、有象無象を蹴散らしていった――――
**
「さて、こんなもんさね!」「薫、出てきても大丈夫だよ。」
「ありがとう、アーチャー。…さすがサーヴァントだね。」
三階からは邪悪な気配が失せていた。…だいぶボロボロだが、仕方ない。
二人が何か言葉を投げかけるたびに、敵が燃えて、裂けて、押しつぶされて。
…もしかして、言葉を『投げかける』からアーチャーなのだろうか。出鱈目だ。
「ああそうだ!さっきから思ってたんだけど」「私もおそらく同感なんだけど。」
「「アーチャーって呼び方、どっちかわからないし無味乾燥な仕事仲間みたい、もっと仲よくしよう?」」
はあ。
「えっと、どうすれば。それ以外の呼び名ってまさか―――」
「そうよ!そのまさかよ!」「ずばり真名で呼んでもらったほうがわかりやすい。呼んで。」
「さ、さすがにちょっと、真名をあけっぴろげにするのはまずいのでは」
「ところがそれが」「そうでもない」「いまから語って」「しんぜよう」
「まず、あたしたちが分かれて行動するとき!どっちを呼んでるかわからないと、単純に困るでしょう?」
「それに、私たちの真名なんて、"わかったところで、どうにもならない"。」
「あたしたちの、単独行動スキル。」「私たちの、"自らの霊基を発展させる"スキル。」
「「これらがある限り、デメリットはなく、メリットはある。」」
…意外と筋が通っている気が、する。後者のスキルは初耳だが。
「…じゃあ、キスキル。リラ。そう呼ぶよ。うん。そのほうが仲良くなれるってのは、同感だ。」
「やったー!さすが薫だね、話が分かる。」「うん。薫は、いいお婿さんかお嫁さんになるよ。どっちでもいけるね。」
…こっちの下の名前呼びがデフォルトなのは、もはや突っ込むまい…。
「さあ、下へ!この場所から脱出しなきゃ、ね!」「現代における男子高校生の部屋、楽しみだね。」
まあ一人暮らしだし、そこについてはいいけれど。いや、些細なことを気にしている場合ではないというのが正しい。
未だここは、何者かの狩場と化したままなのだから―――――――――――
**
「どうですか、マスター。あたしよりキャスターのそしつありそうですよね、マスターって。てきがどこにいるかなんて、はあくしちゃってるんじゃないですか?」
「…ああ。そろそろ降りてくる。…不本意だが、アタシの素の魔力じゃ目玉どもを呼ぶのが限界だ。
…服をよこせ。もっととびっきりのを用意する必要がある。魔力増強もできるんだろう?」
「あいあーい。ちょうかわいいのをよういしましたよ。たとえ28さいのマスターでもプリチーに…」
「…なんとかならないのかその言語センスと服のセンスは。」
「マスターのよぶばけものよりはセンスいいとおもうんだけどなあ…。」
初めての交戦がちかい。それは、聖杯戦争の開幕を意味する――――――――――――――――――――――――
**
「ここか。争いを起こさんとする不届き者は。内部はあまり視えないな。とりあえず、ここで待機しておこう。速やかに仕留めるために。」
**
「市長直々に街の隅々に監視カメラを設置してあるとは、誰も思わんだろうな。セイバー、見るか?
いずれ打ち倒すべき英雄どもの戦いが始まるぞ。」
「いえ、私は。」
争いを望んでなどいない、とは言えなかった。
**
「うん。うん。そうだね、バーサーカー。ありがとう、あなたの見ているものが私にも見えるよ。」
「乱入の必要性は…さすがにまだなさそうかな。でも、全てを見極めなきゃね。」
「聖杯にふさわしい者が、果たしているのか。」
**
森の奥深くに潜んで。
「あの、ランサー。意気揚々としていたのはどうしたのですか。」
「ああすまん、どうも誰かに視られている気がしてな。
無論俺を監視することなど不可能だが、気持ち悪い。背筋が凍る。
それに、よく考えたら、どこでどうやって貴様ほどの女にふさわしい主人を見つけるというのだ!」
「例えば。直接見て決めるというのは。私が。」
「いいや、それだけでは許さん。俺が。
そうだ!聖杯とやら、あれで理想の主人を創るというのはどうだ!?」
「せいはい、とは。」
「…まさか、聖杯戦争と知らず、何も用意せず俺ほどの者を呼んだのか?
ははは!それもまた好。ではとりあえず俺が貴様にいろいろ教えてやらねばな!
…ふふふ。俺が父親の真似事のようなことを、まっとうにやれるとはな。」
**
…一階まで降りてきた。瘴気が濃い。
「というか、さっきからずっと思ってたんだけど」「腐った肉のにおいがするよね。」「あの肉の柱とか、気持ち悪い!」「あの変な卵塊とか、最悪。」
…うん。僕もそろそろ限界だ。この学校は異界化している。
でもとりあえず、この階まで来たなら。"首謀者"がいるはずだ。ほら、出口で待ち構えている。
「―――――――――あーよかったよかった。ちゃんと"当たり"じゃん。」
「そうですね。とりあえずまじゅつしのけはいがするからぶちまけよう、なんてマスターがいったときはしょうきをうたがいましたけど。」
「おいおい魔術師に、しかも聖杯戦争に参加するような奴に正気を求めるのかい?さすがにキャスターは堕ちても甘ちゃん、ってわけか。」
会話しているマスターとサーヴァントに近づく。珍妙な二人組だった。
1人は女の人。美人の部類に入るけど、そのフリフリドレスは似合ってない。もう1人…?はおそらくサーヴァント。ちいさな妖精みたいだ。
「…こんばんは。あなたですね。この学校をこんなにしたのは。」
「ああそうだよマスターさん。こんなにしても結果的に、お前以外巻き込んでないんだからいいだろう?」
「その言い方、一般人を巻き込んでもかまわないように聞こえるんだけど。」「その言い方、薫なら巻き込んでもいいように聞こえるけど。」
「サーヴァントは二人…。珍しいパターンだね。」
目の前の女はこちらを無視して話を続ける。
「でも。負ける要素はなさそうだし。
ここで仕留めるとするか―――――――頼むよ。キャスター!」
女から湧き上がる魔力の奔流。横で何やら口を動かしているキャスター。マスターを支援するタイプのサーヴァントか。
「なんだか知らないけど!」「こちらには数の利がある。」「仕留めるよ!リラ!」「速やかにね。キスキル。」
「「崩れろ!!!!」」
原初の言葉が天井に響き。キャスターたちの上に崩れ落ちていく。
(殺すほどではない…はず。でも、容赦している場合でもない!)
そうして、大量の瓦礫は。
地表から現れた無数の触手に、受け止められた――――――――――――――――――――――――
**
「はははははは!!!!キャスター、あんた大したもんだよ!ここまで理想に近いモノを呼べるとは!」
「よんだのはマスターですよ。あたしはてをかしただけです。」
全長7mくらいか?いや、わからない。そのあまりに大きい化け物は、天井につっかえて窮屈そうにしていた。
無数の触手。びっしりと並んだ目玉。そう、冒涜的としか表現できない見た目だった。
はっきりしているのは。
「ねえ薫、大変申し上げにくいんだけど」「多分あれは、私たちじゃ勝てない。」
――――――――詰んでいる、ということだけ。
目玉のすべてがこちらを見据える。もうすぐあの触手で、絞殺されるのだろう。粉砕されるのかもしれない。
10、20。いくらかの触手が、飛んできた。自然と恐怖で目をつぶってしまう。
ああ、父さん。母さん。ごめんなさい。
僕も、駄目だったみたいだ――――――――――――――――――――――――
「もう大丈夫だ。目を開けてよいぞ。」
聞いたことのない声だ。誰だろう。
…そもそも、僕は生きているのか。
「薫!薫!大丈夫だよ。アサシンちゃんが助けてくれたの!」「まあ、未だあの化け物と戦闘中だから、油断はだめだけど。」
すでに聞きなじんだ声に誘われ、ようやく目を開ける。
目に入ったのは、切り捨てられた大量の触手と、化け物相手に大立ち回りをしているキスキル&リラ。
そして、高速で動き回り次から次へと化け物の身体を削いでいく、黒い和服の人影。
あれが、アサシンちゃん、というやつなのだろうか。
とにかく、外から差し込む月明かりに映えるその動きは、とても美しくて。
化け物が完全に動きを止めるまで、僕は、見惚れることしかできなかった。
第一話:終
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